著者
大橋 啓太 藤原 芽生 小野 くみ子 石川 朗
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】スタティックストレッチングがもたらす効果として,リラクセーション効果がある。リラクセーション効果を目的としたスタティックストレッチングに関する研究では,5分から10分程度のストレッチングプログラムを実施した場合のリラクセーション効果についての報告はあるが,一般的に推奨されている30秒程度のスタティックストレッチングがもたらすリラクセーション効果に関する報告は見当たらない。そこで,本研究ではスタティックストレッチングの伸張時間の違いが,自律神経活動に及ぼす影響について検討することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】9名の健常若年成人男性を対象とした。実験に先立ち,膝関節伸展位での股関節屈曲(SLR)可動域(ROM)を測定し,そこから3度減じた角度をストレッチング実施角度に決定した。実験は,5分間の安静背臥位(PRE)後,スタティックストレッチングとしてSLR(ST)を行い,その後5分間の安静背臥位(POST)を行い,終了とした。実験条件は,ストレッチングを10秒間(10秒条件),30秒間(30秒条件),60秒間(60秒条件)それぞれ行う3条件に加え,安静背臥位を保持する条件(CON条件)の計4条件を設定した。実験を通して,心拍数(HR)および心臓副交感神経系活動(lnHF)の測定を行い,効果判定として実験後にSLRのROM測定を行った。さらに,交感神経活動指標として唾液アミラーゼ活性(SAA)を,PREの最後の1分間,ST直後1分間,POST終了後1分間,それぞれ唾液を採取して測定した。ST実施角度決定時およびST時の自覚的伸張感はVisual Analog Scale(VAS)を用いて測定した。データ処理として,PREにおける測定値は,最初と最後の1分間を除いた3分間の平均値を,STにおける測定値は,それぞれの条件の後半の10秒間の平均値を,POSTにおける測定値は5分間の平均値をそれぞれ算出し,比較検討した。</p><p></p><p>【結果】ROMは,30秒条件(P<0.01)および60秒条件(P<0.05)において実験前と比較して実験後に有意に増大した。VASは,各条件においてストレッチ角度決定時およびST時に有意差を認めなかった。HRは,時間および条件の交互作用に有意差を認め(P<0.01),10秒条件においてPREおよびPOSTと比較してST時に有意な上昇を認めた(P<0.01)。lnHFは,PREと比較してST時に有意に上昇した(P<0.01)が,条件間および交互作用には有意差を認めなかった。SAAは,条件,時間,交互作用とも有意差を認めなかった。</p><p></p><p>【結論】リラクセーション効果を目的としたスタティックストレッチングの伸張時間について,60秒までの短時間のスタティックストレッチングでは,伸張時間の違いによる自律神経活動,特に副交感神経活動への有意な影響は認められず,リラクセーション効果を目的とした場合は,少なくとも60秒よりも長い時間のスタティックストレッチングを実施する必要があることが示唆された。</p>
著者
中西 智也 小倉 隆輔 河西 理恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】問題基盤型学習(Ploblem-based learnig:以下,PBL)の活用は,臨床推論能力の向上や自己主導型学習態度の育成に有効的であるとされている。本邦でも卒前教育での実践例は多く報告されているが,卒後教育における報告は少ない。そこで本調査は,臨床経験の浅い有資格者の卒後教育としてのPBLの有効性を検討し,効果的な卒後教育の在り方を明らかにすることを目的とした。【方法】対象は経験年数2年目の理学療法士8名とした。方法は河西(2006)が養成過程において実施した内容を参考とし,ファシリテーター役をおき,紙上患者1例に対し2回の討論を行った。計4ヶ月で3症例の検討を行った。PBL終了1ヶ月後にPBL好感度,臨床・学習への影響,運営方法,仲間好感度に関する4項目13設問とPBL実施前・中・後の自主学習時間からなるアンケートを,集合調査法にて実施した。13設問は,設問ごとに100点満点の採点法と自由記載法を併用し,項目ごとの平均点および標準偏差を算出した。【結果と考察】対象となる8名のうち7名から有効回答を得た。PBLへの好感度は81.9±16.8点,仲間好感度は84.3±16.9点,臨床・学習への影響は80.3±14.3点,運営方法は75.2±17.0点であった。また,PBL実施前の学習時間は0.83±0.28時間,実施中は1.50±0.54時間,実施後は0.90±0.36時間となった。自由記載では,他者との討論を通じて自己省察が深まった,仲間意識が向上した,時間配分や手際が悪く疲労感が残った,などの意見が得られた。PBLにより臨床推論力や知識の向上,学習意欲や組織力へ好影響を及ばす可能性が示唆され,卒後研修として有効であると考えられる。一方,導入のためには時間的・身体的負担への配慮や,研修終了後の継続した自己学習時間を確保する工夫が必要になると考えられる。
著者
藤堂 恵美子 樋口 由美 北川 智美 今岡 真和 上田 哲也 安藤 卓 高尾 耕平 村上 達典 脇田 英樹 池内 俊之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>訪問リハビリテーション(以下,訪問リハ)の効果はエビデンスが確立されているものの,ADLのみを指標にした研究が多く,活動・参加を含めた生活機能への効果は十分明らかではない。また,先行研究では訪問リハプログラムの違いによる効果は検証されていない。しかしながら,実際は評価に基づき優先順位をつけ複合的に介入している。そこで本研究は,訪問リハプログラムの優先性が生活機能に与える影響を検証することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,平成26年4月~平成28年3月にA訪問看護ステーションの介護保険による訪問リハを開始し,3ヶ月間追跡可能であった30名(平均年齢82.4±7.5歳,女性24名)とした。全介助の者,本研究の主旨を理解できない者は除外した。調査項目は基本属性に加え,生活機能として身体機能(立ち座り動作テスト),精神機能(GDS5,転倒自己効力感,主観的健康感),ADL(FIM),IADL(老研式活動能力指標),生活空間(LSA)を調査した。訪問リハプログラムは身体機能,活動,環境因子の3つに対して最も優先した介入を,担当理学・作業療法士に記入させて追跡後に集計した。</p><p></p><p>統計解析は,ベースラインの群間比較にはχ2検定またはMann-Whitney U検定を用い,p値が0.1未満の項目を説明変数,介入の優先性を目的変数としたロジスティック回帰分析を行った。ベースラインと3ヶ月後の比較にはχ2検定またはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>主疾患名は運動器疾患19名,脳血管疾患6名,その他5名であった。なお,入院歴がある者は15名であった。</p><p></p><p>訪問リハの優先プログラムは,全訪問回数のうち50%以上が活動であった者は19名,環境因子は11名で,身体機能への介入が50%を超えた者はいなかった。そこで,活動優先群と環境優先群の2群で分析した結果,ベースラインでは基本属性や身体機能,活動に差はなく,GDS5得点のみ環境優先群は有意に高かった。探索的に年齢とFIMの移動項目で調整しても,GDS5は環境因子への介入優先に対する独立関連因子であった(調整オッズ比3.34)。ベースラインと3ヶ月後の生活機能の比較では,LSAで両群共に有意な改善がみられ,活動優先群は15.3点から29.3点に,自宅圏外へ外出可能な者が6名から15名に増加,環境優先群は16.5点から28.3点に,自宅圏外へ外出可能な者が5名から9名に増加した。加えて,活動優先群では立ち座り動作で上肢支持が不要な者が有意に増加し,環境優先群では転倒自己効力感が有意に改善した。その他の項目では有意差を認めなかった。</p><p></p><p><b>【結論】</b></p><p></p><p>訪問リハ開始から3ヶ月間では,活動および環境因子への介入の優先性が高かった。介入の優先性によって身体機能や精神機能への効果が異なるが,生活空間は介入の優先性に関わらず拡大することが示唆された。</p>
著者
丸山 倫司 河本 直哉 樋田 竜男 松尾 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

<b>【はじめに】</b>理学療法士・作業療法士に必要な動作分析は,三次元動作解析装置の登場により,定量的な評価が可能になったが,導入コストや計測場所,稼働の手間など,臨床のセラピスト及び症例が容易に使用することが困難なのが現状である。臨床のセラピストが手軽に介入前後の動作分析が行えるシステムに焦点を置き,市販のスマートフォンに実装されている加速度センサーモジュールを使用した解析システムを開発し,既存の動作解析機器と比較し精度検証を行ったのでここに報告する。<b>【方法】</b>1)検証機器計測機器は我々が開発した簡易動作解析システム(市販スマートフォン端末を中心に計測・解析アプリケーション,同期信号ユニット,端末固定ベルトにて構成。現在,特許出願中)を用いた。端末は市販Android OS搭載 スマートフォン端末(SAMSUNG社製SC-06D)を使用し,加速度記録・解析アプリケーションである「トリガー版 シンプル加速度ロガー」を用いた。アプリケーションの機能は加速度の表示・計測,高速フーリエ変換による周波数パワースペクトル解析,同期信号の表示・記録,振動パワーの計測,それらを表計算ソフトにて解析できるよう,CSVファイルにて記録できる。サンプリング周波数は機種に依存するが,最新機種では最大200Hzで動作を確認している。比較検討機器はVICON社製 三次元動作解析装置VICON MX,解析ソフトはVICON NEXUS 1.8.1を用いた。2)対象・方法対象は既往の疾患を認めない成人男性6名(平均年齢27.0歳(±SD5.37)。動作課題は10mの歩行路を設け,直線自由歩行とした。簡易動作解析システムでは,左右(X)・前後(Y)・垂直(Z)の3軸加速度と周波数パワースペクトルを測定した。歩行周期を確実に同定するために,感圧センサーを使用した同期信号ユニットを用い,歩行のタイミングを計測した。センサーは踵接地(以下,IC)場所(踵外側)とつま先離地場所(母趾先端)へ設置した。端末の固定は端末固定ベルトを用い,先行文献より第3腰椎突起部とした。端末は通信出来ないよう,SIMカードは抜去した。三次元動作解析装置は,計測点である赤外線反射マーカーをスマートフォンの加速度センサーモジュールの推定位置の表面に設置し,左右(X)・前後(Y)・垂直(Z)の変位座標を測定し,その後加速度へ変換した。歩行のタイミングはAMTI社製フォースプレートを用いて測定し同定した。サンプリング周波数はそれぞれ100Hzに統一し,機器で得られた歩行同定信号をもとに,右下肢の踵接地より,次右下肢の踵接地までを1周期として加速度数値を切り出し,時間正規化を行った上で加算平均値を算出した。周波数パワースペクトル解析により,動作計測に関連のない振動周波数(12Hz)を判断し,加速度へバタワースフィルタにてフィルタリング処理を行った。3)統計解析統計解析にはFreeJSTATを用い,Spearmanの順位相関検定を行い,有意水準は1%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,筆者所属機関の倫理委員会の承認を得た上で,対象者には研究内容について十分な説明を行い,同意を得て行った。【結果】左右(X軸):r=0.833(P<0.01),前後(Y軸):r=0.969(P<0.01),垂直(Z軸):r=0.936(P<0.01)3軸すべてにおいて強い相関関係を認めた。【考察】結果から,本システムにおける計測データはヒトの歩行動作において,三次元動作解析装置と高い相関を認めた。よって,手のひらサイズのスマートフォンにて,既存の機器の機能の一部を担うことができる可能性が示唆された。このシステムのメリットは,使用場所を選ばない可搬性と設置しやすさ,何より普及したスマートフォンを用い手軽に使用し,動作分析が可能なことである。セラピストは知識とセンスを元に,目視で動作分析を行うのが主であり,具体的な評価が困難である。従って,身体部位の加速度を計測することによって,特に治療介入前後の動作の変化や効果判定をこれまで以上に簡便に正確に行うことが可能と考える。しかしながら,端末の振動などによる計測数値のドリフト対策や,操作性の向上など課題は残されており,今後も継続して開発を進める必要がある。【理学療法研究としての意義】スマートフォン内蔵の加速度センサーモジュールを用いた加速度計測についてはいくつかの先行研究を認めるが,本システムは特許出願中であり,アプリケーションと同期信号ユニット,端末固定ベルト等を開発し,歩行などの動作の基点から加速度数値と動作を同定できることは新規性があると考える。さらなる精度の保証がなされれば,臨床のセラピストが手軽に場所を選ばずに理学療法の効果判定が出来ると考える。また,理学療法士として他職種と協業し,モノづくりが出来たことも意義があると考える。
著者
山下 裕 古後 晴基
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】高齢者の咀嚼能力の低下は,一年間の転倒歴,排泄障害,外出頻度の減少,うつ状態などと共に,要介護リスク因子の一つとして取り上げられている。しかし,咀嚼能力と身体機能の関連については未だに不明な点が多い。一方,片脚立位時間の測定は,簡便な立位バランス能力の評価として広く臨床で使用されている評価法であり,高齢者の転倒を予測する指標としての有用性も報告されている。そこで本研究は,咀嚼能力の評価指標である咬合力に着目し,身体機能との関係を明らかにした上で,咬合力が片脚立位時間に影響を及ぼす因子と成り得るかを検討した。【方法】対象者は,デイケアを利用する高齢者55名(男性18名,女性37名,要支援1・2)とした。年齢82.9±5.6歳,体重54.7±13.5kgであった。対象者の選択は,痛みなく咬合可能な機能歯(残存歯,補綴物,義歯含む)を有することを条件とし,重度の視覚障害・脳血管障害・麻痺が認められないこと,及び重度の認知症が認められないこと(MMSEで20点以上)とした。咬合力の測定は,オクルーザルフォースメーターGM10(長野製作所製)を使用した。身体機能評価として,片脚立位時間,残存歯数,大腿四頭筋力,握力,Timed Up & Go test(TUG),Functional Reach Test(FRT)を実施した。統計処理は,Pearsonの相関係数を用いて測定項目の単相関分析を行い,さらに片脚立位時間に影響を及ぼす因子を検討するために,目的変数を片脚立位時間,説明変数を咬合力,大腿四頭筋力,TUG,FRTとした重回帰分析(ステップワイズ法)を用いて,片脚立位時間と独立して関連する項目を抽出した。なお,統計解析にはSPSS ver.21.0を用い,有意水準を5%とした。【結果】各項目の単相関分析の結果,咬合力と有意な関連が認められたのは残存指数(r=0.705),片脚立位時間(r=0.439),大腿四頭筋力(r=0.351)であった。また,片脚立位時間を目的変数とした重回帰分析の結果,独立して関連する因子として抽出された項目は,TUGと咬合力の2項目であり,標準偏回帰係数はそれぞれ-0.429,0.369(R<sup>2</sup>=0.348,ANOVA p=0.002)であった。【考察】本研究は,高齢者における咬合力と身体機能との関係を明らかにし,片脚立位時間における咬合力の影響を検討することを目的に行った。その結果,咬合力は,残存歯数,片脚立位時間,大腿四頭筋力との関連が認められ,片脚立位時間に影響を及ぼす因子であることが示された。咬合力の主動作筋である咬筋・側頭筋は,筋感覚のセンサーである筋紡錘を豊富に含み,頭部を空間上に保持する抗重力筋としての役割を持つことが報告されている。また,噛み締めにより下肢の抗重力筋であるヒラメ筋・前脛骨筋のH反射が促通されることから,中枢性の姿勢反射を通じて下肢の安定性に寄与していることも報告されている。本研究の結果,咬合力と片脚立位時間に関連が示されたことは,高齢者の立位バランスにおいて咬合力が影響を与える因子であることを示唆しており,これらのことはヒトの頭部動揺が加齢に伴い大きくなること,平衡機能を司る前庭系は発生学的・解剖学的に顎との関係が深いことからも推察される。咬合力を含めた顎口腔系の状態と身体機能との関連について,今後更なる検討が必要と思われる。【理学療法学研究としての意義】臨床において,義歯の不具合や歯列不正・摩耗・ムシ歯・欠損等により咬合力の低下した高齢者は多く見受けられる。本研究により咬合力が片脚立位時間に影響を及ぼすことが示されたことは,高齢者の立位バランスの評価において,咬合力を含めた顎口腔系の評価の重要性が示された。
著者
中西 純菜 木藤 伸宏 仲保 徹 松岡 さおり 冨永 渚 日野 敏明 原口 和史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0147, 2012

【はじめに、目的】 特徴的な不良姿勢と呼吸運動の異常は結びつくことが多い。理学療法の臨床において,呼吸困難を有する患者に対し,姿勢を改善することで呼吸困難が緩和することは報告されている。しかし,実際に不良姿勢が胸郭運動にどのような影響を与えているかは明らかにされてない。そこで本研究では座位姿勢に着目し,骨盤傾斜角度を変化させた時の胸郭運動に及ぼす影響について検討したので報告する。【方法】 被験者は,健常男性7名(平均年齢22.6±4歳)とし,取り込み基準は,脊柱や肋骨に外傷の既往のない者,著明な呼吸器疾患を有さない者,非喫煙者とした。座位条件は,足底非接地状態で骨盤を中間位にした座位,人為的に骨盤を後傾位にした座位の2条件とした。骨盤後傾は傾斜角度計にて同側のASISとPSISの角度を計測し,明らかに中間位と異なることを確認した。計測の各条件組み合わせを,(1)骨盤中間位での座位-骨盤後傾位での座位と,(2)骨盤後傾位での座位-骨盤中間位での座位の2つとし,ランダムに実施した。計測課題は,まず任意座位での最大吸気と最大呼気を計測した後、各条件で通常呼吸と深呼吸を,それぞれ吸気から5回行った。呼吸速度は任意の速度とした。計測はカメラ8台よりなる三次元動作解析システム(Vicon Motion Systems社,Oxford)を用いて,体表に26個のマーカーを貼付して行った。マーカーの位置から全胸郭容積と,さらに胸郭を左右上部胸郭、左右下部胸郭の4つに区分した。各々の6面体の容積は,Fortranで作成した容積計算プログラムにより求めた。算出した胸郭容積から,吸気時の最大容積を最大値,呼気時の最小容積を最小値,その差を変化量とし,各々の条件から求めた。各々の条件での胸郭容積の最大値,最小値,変化量は,最大吸気と最大呼気の各値で正規化した。統計学的解析には対応のあるt-検定を用い,深呼吸,通常呼吸時の容積の最大値,最小値,変化量を骨盤中間位と後傾位で比較した。優位水準は5%とした。【説明と同意】 本研究は、ヘルシンキ宣言に基づき計画し、広島国際大学の倫理委員会にて承認を得た。さらに,本研究はすべての被験者に研究の目的と内容を説明し,文章による研究参加への同意を得た後に実施した。【結果】 骨盤後傾座位時の骨盤後傾角度は,31.09±6.22°であり,骨盤中間位座位時の骨盤後傾角度15.59±5.90°より有意に後傾していた。深呼吸時において,骨盤後傾座位時の全胸郭容積の最大値(94.01±1.51%)と下部胸郭容積の最大値(91.75±4.03%)は,骨盤中間座位時の全胸郭容積の最大値(96.90±2.49%)と下部胸郭容積の最大値(96.77±3.81%)よりも有意に小さかった(p<0.05)。その他のパラメータは,骨盤後傾座位時と骨盤中間座位時において有意差は認められなかった。通常呼吸時において,全てのパラメータは,骨盤後傾座位時と骨盤中間座位時において有意差は認められなかった。【考察】 本研究結果より,通常呼吸では,骨盤後傾位と骨盤中間位での胸郭容積の最大値と最小値全てにおいて有意差は認められなかった。通常呼吸において,吸気は横隔膜が下降することによって行われているため,大きなエネルギーを必要としない。つまり,通常呼吸時の骨盤中間位と骨盤後傾位では,有意差を生じるほどの胸郭運動の変化を引き起こすまでには至らなかったものと推測される。さらに,本研究結果より非足底接地状態での座位姿勢において,骨盤後傾位での深呼吸では骨盤中間位と比較して,吸気時に下部胸郭の運動が拡張せず,呼気時により縮小することを示した。これは通常呼吸とは異なり,骨盤後傾位に伴う胸椎後彎の増加した姿勢では,横隔膜が弛緩し,下降している状態であり,吸気時に横隔膜が機能せず十分な吸気を行うことができない。そのため,腹部を膨張させることにより腹腔を陰圧化して横隔膜の下降を補助していると考えられ,この作用により吸気量を確保していることが推測できる。本研究結果から観察された骨盤後傾位での深呼吸時の胸郭運動様式は,横隔膜の機能低下を招き,呼吸機能障害に寄与する要因の一つとなりえることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】 本研究結果より,骨盤後傾座位の結果、脊柱後彎により呼吸様式が非効率的なものになり,呼吸機能に悪影響を与えていることが示唆された。骨盤後傾座位は呼吸に対して胸郭運動の機能低下を引き起こし,機械性受容器への関与や横隔膜の機能低下,mechanical linkageの破綻といった,筋骨格系や神経生理学系へも影響を与えていると推測される。よって,骨盤後傾座位の改善を図ることで,呼吸しやすい環境を作り,より効率的なアプローチが可能になるものと考える。
著者
喜多 一馬 池田 耕二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>理学療法士の声かけは患者の意欲を向上させるといわれているが,その具体的な方法は明らかではない。声かけにはフレーミング効果という概念があり,それは意思決定場面において論理的に同値であっても表現方法(言い回し)の違いにより選好結果が変わるという概念である。我々はこのフレーミング効果に着目し,肯定的言い回しが一部の理学療法想定場面で患者の意欲を向上させることを示唆したが,ランダム化した研究的枠組みではなかった。本研究の目的は,理学療法想定場面でのフレーミング効果を意識した声かけが,患者の意欲に与える影響をランダム化した研究的枠組みで検証することである。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象者は,理学療法実施中の入院患者102名(男性31名,女性71名,年齢75±12.3歳)とした。方法は,紙面による回答方式とした。手順は,理学療法を進める上で重要となる1)トイレ練習,2)歩行練習,3)痛みへのリハビリ,4)理学療法全般に対する取り組み,5)退院に向けた取り組みの5つの場面を想定し,各場面における声かけの肯定的,否定的言い回しを作成した。次に,紙面には5つの場面ごとに肯定的,否定的のどちらかの言い回しをランダム化したうえで記載した。患者には紙面を無作為に選択させ,5つの場面にあるどちらかの言い回しを読み,意欲を感じるかどうかを5件法(やる気を失うからやる気が出るまで)によって回答させた。分析は回答を1~5点で点数化し,場面ごとに言い回し別の平均値を算出し,比較検討した。統計処理にはウィルコクソンの符号順位検定を採用し有意水準はp<0.05とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各場面における肯定的,否定的な言い回しは結果的に51名ずつに分かれた。1)における肯定的言い回しの平均値は4.49±0.83,否定的言い回しの平均値は3.54±1.29であり,肯定的言い回しが有意に高かった。次に,3)では4.63±0.6,4.04±1.28,4)では4.51±0.88,3.75±1.26,5)では4.37±0.94,3.75±1.31の3項目についても肯定的言い回しは有意に高かった。一方,2)では4.55±0.64,4.26±1.15と有意な差は認められなかった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>結果から,歩行練習を除き,トイレ練習,痛み,理学療法に対する取り組み,退院に対する理学療法想定場面において,肯定的な言い回しが,患者の意欲の向上に有効であることが示唆された。肯定的な言い回しは患者に肯定的な結果を直接想起させるため,患者の意欲が向上したと考えられる。歩行練習で言い回しに違いがみられなかったのは,すでに歩けるようになる等の説明を受けていたことが要因となり,意欲が左右されなかったと考えられる。以上より,いくつかの理学療法想定場面ではフレーミング効果を意識した肯定的な言い回しが,患者の意欲の向上に効果的であることが示唆された。今後はさらに声かけの言い回しやタイミング,患者の心身状態等にも着目し,有効な声かけや関係性作りについて知見を検討していきたい。</p>
著者
武藤 智則 谷川 英徳 大熊 一成 金村 尚彦 高柳 清美
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【目的】変形性膝関節症により人工膝関節全置換術(TKA)を施行した患者の動的バランスの回復は重要でありその経過についての報告は散見されるが,術後早期における動的バランスの指標である姿勢安定度評価指標(IPS)に関連する因子について検討した報告はない。本研究はTKA後3ヶ月におけるIPSに関連する因子を明らかにすることを目的とする。【方法】対象は当院にて変形性膝関節症により人工膝関節全置換術を施行した患者(男7名,女26名,33膝,年齢72.0±7.3歳,体重63.4±11.0kg)とし,神経疾患及び脊椎疾患,関節リウマチ患者は除外した。すべてのTKAは使用機種をZimmer NexGen LPS-Flex Mobile(PS type)とし,皮切はMidvastus法とした。評価項目は,動的バランスの指標としてIPS,術側への立位重心移動時の前額面上での姿勢戦略(Postural Strategy on frontal plane=PSFP)(画像解析ソフトToMoCo-Liteにて両肩峰・両大転子・両外果の中央点を結ぶ線分のなす角度を算出),膝関節角度の再現誤差としての膝関節固有感覚(KP),膝関節痛(Visual Analog scale=VAS),TUG,10m歩行速度(10mWS),膝関節伸展角度,膝伸展筋力(KES)および膝屈曲筋力(KFS)(Biodex System3を使用しIsokinetics 60deg/secでの体重比トルク(%BW)の最大値)とした。測定時期は術後3ヶ月とした。IPSの評価はAMTI製FORCE PLATFORMを使用し取込周期は60Hzとした。膝関節固有感覚と膝伸展筋力の測定には等速性運動装置(BIODEX system3)を使用した。統計解析はIPSと各項目との関連をSpearmanの順位相関係数による単変量解析で求め,従属変数をIPS,独立変数を単変量解析で有意であった項目とし,ステップワイズ法による重回帰分析にて分析した。有意水準を5%未満とした。データの集計と解析は,Dr. SPSSIIfor Windowsを使用した。【倫理的配慮】本研究はさいたま市立病院の倫理委員会にて承認を受け,十分な説明のもと同意の得られた患者を対象とした。【結果】IPSと各項目の関係性は,PSFP(r=0.596),TUG(r=-0.643),10mWS(r=-0.497),KFS(r=0.577)の間に有意な相関を認めた(p<0.05)。ステップワイズ法による重回帰分析の結果,TUG(p=0.001),PSFP(p=0.007),重相関係数(R=0.71),自由度調整済み重相関係数の二乗(R<sup>2</sup>=0.47)であった。【考察】TUGは歩行という動作に加え,立ち上がる,方向を変える,腰掛けるといった一連の動作能力や動的バランス能力を評価できる指標であり,加えて下肢・体幹の筋力やその協調的な筋活動,スムーズな方向転換に必要な立ち直り反応や下肢支持力の状態を評価することも可能なテストであるとされている。また膝伸展筋力が高いだけでは相関せず,バランスや調整能力などの要素を含む(山本ら:2010)ことが報告されており,動的バランスの指標であるIPSにTUGが関連しているという本研究の結果を支持しているものと考えた。木藤(2008)は運動器疾患患者の立位前額面上での身体重心を側方に動かす動作戦略について,頭部・体幹・上肢(Head・Arm・Trunk:HAT)を安定させ骨盤(Pelvic)を動かす動作戦略(立位Pelvic戦略)から,腹部からHATを大きく揺さぶることで足圧中心(Center of Pressure:COP)と身体重心(Center of Gravity:COG)を安定させ,同時に,股関節外転位で膝の内反を生じさせ,COGを支持基底面内に収める動作戦略(立位HAT戦略)への動作対応の変化が多く観察されるとしている。本研究ではIPSとPSFPは正の相関を認め,PSFPの数値が高くなる,すなわち立位Pelvic戦略に近づく程IPSとの関連が認められることを示唆している。Horakら(1986)は矢状面上の動作戦略において,よいパフォーマンスは股関節戦略より足関節戦略に関連した予測的姿勢制御(anticipatory postural adjustment)を使用すると報告している。本研究で測定した前額面上での姿勢戦略は,先行研究で報告された矢状面上の姿勢・動作戦略とは相違するもので,本研究の結果である動的立位バランスと前額面上での姿勢戦略(立位Pelvic戦略)の関連について報告したものはなく,本研究結果は新たな知見といえる。【理学療法学研究としての意義】TKA後早期の動的バランスの指標であるIPSに関連する因子を明らかにした報告は見当たらない。本研究ではIPSとTUG,IPSとPSFPに関連を認めた。TKA後早期において,多関節運動連鎖としての前額面上での姿勢戦略に注目した理学療法プログラムの立案などを考慮していく必要性が示唆された。
著者
中村 孝佳 松井 亮太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】近年,サルコペニアが高齢者医療に携わる医療従事者で注目されている。サルコペニアは進行性および全身性の骨格筋量および筋力低下,身体機能低下を特徴とする症候群で,生命予後の悪化や術後合併症の増加に寄与するほか,転倒や転落の機会が増加し,QOLも損なうと言われている。手術後の入院期間で運動機能が低下した場合,退院後の活動量が減少し,筋肉量の低下,体重の減少が見られ,二次性サルコペニアを生じるのではないか,という仮説を立てた。今回の研究目的は胃癌患者の術前後筋量ならびに周術期前後の運動機能を評価し,その関係性について検討することとした。【方法】2014年9月1日から2015年3月31日までの期間に,当院で胃癌手術が施行され,術前後の筋量と周術期の運動機能評価が行われた18例を対象とした。調査項目は術前BMI,体重(術前および術後6ヶ月),筋肉量(skeletal mass index(以下,SMI):CTでL3レベルの骨格筋断面積を身長の二乗で除したもの)を調査した。周術期の筋力は握力で評価し,身体機能は10m歩行速度を測定した。指輪っか試験で筋量低下のスクリーニングも行った。周術期前後の運動機能が維持した群(以下:維持群)と低下した群(以下:低下群)に分け,体重や筋量の変化と周術期における運動機能評価の関連性を調査した。運動機能低下群に関して,歩行速度が術前と比べ10m歩行で1秒以上低下もしくは握力が5kg以上低下した症例と定義した。統計処理は2群間の比較はWelchのt検定を用い,同群間の比較はWilcoxonの順位和検定を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】18例のうち,男性11名,女性7名であった。年齢の中央値は66.0(53-80)であった。術前BMIは維持群で中央値22.5(20.4-27.8),低下群で24.8(17.7-30.2)であった。術前体重は維持群で中央値58.0(44.5-76.5)kg,低下群で59.5(42.5-76.6)kgであった。術後体重は維持群で中央値50.8(37.3-60.0)kg,低下群53.5(43.2-66.0)kg,体重減少率は維持群11.6(0.7-26.7)%,低下群11.7(0.0-14.4)%であった。術前後の体重変化では有意差を認めたが,それ以外では有意差を認めなかった。術前SMIは維持群で中央値35.7(27.4-50.9)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>,低下群39.0(26.6-56.8)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>であり,術後SMIは維持群で32.6(28.1-49.5)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>,低下群37.1(24.7-44.9)cm<sup>2</sup>/m<sup>2</sup>,SMI減少率は維持群5.1(0-13.9)%,低下群8.2(0-22.1)%で,低下群で減少幅が大きい傾向にあったが有意差を認めなかった。【結論】胃癌周術期において運動機能低下群は維持群と比べ,体重減少率には差は認めないが,SMI減少率では運動機能低下群で減少幅が大きい傾向が見られた。術後の身体機能低下が退院後の活動量に影響し,術後6ヶ月のSMI低下に繋がった可能性があると考えられた。周術期で運動機能低下を認めた場合,在宅での活動量を維持するため,筋力強化方法,運動指導など理学療法士が継続しての介入が有用である可能性があると思われる。
著者
寺尾 詩子 萩原 文子 大槻 かおる 大島 奈緒美 清川 恵子 西山 昌秀 杉山 さおり 石田 輝樹 熊切 博美 相川 浩一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】当部では,就業継続の問題について検討を重ねているが,当事者となりうる休職者や退会者へのアプローチが難しい現実に直面している。今後就業継続を推進する上で,職場環境の整備の面にも着目し,「産休・育休取得時の人員確保が難しい」という会員の声を今後の活動に活かす目的で,産休・育休に伴う人員確保の実態を調査した。【方法】本会会員の所属する732施設の理学療法士の代表者を対象に,郵送法でアンケート調査をした。調査期間は2015年7月の1か月間とした。【結果】339施設(回収率46.3%)から回答があり,回答者の性別は男性58.4%,女性42.6%,年齢は40歳代が38.6%,30歳代37.2%,50歳代16.5%,20歳代0.6%であった。産休・育休の過去3年の取得実績は43.3%の施設であり,施設分類では「病院」で63.9%,「介護老人保健施設」45.2%,「クリニック」「通所施設を含む福祉施設」「訪問看護ステーション」では20%台であった。施設の所属理学療法士数別に取得実績のある施設は,「6人以上」は67.3%,「5人」50.0%,「3,4人」25.3%,「1,2人」17.1%であった。短時間勤務などの復職後の制度利用実績のある施設は全体の34.8%で,「福祉施設」「訪問看護ステーション」以外は産休・育休取得より利用実績は少なかった。出産・育児と仕事を両立していくための問題として挙げた内容は,「人員確保」が232施設(68.4%)と最も多かった。現在の欠員状況については,「あり」との回答が全体の31.8%で,欠員理由は「もともと定員に満たない」が55.6%,「産休・育休取得中の欠員」が42.6%であった。人員確保の手段は「業務分担を増やす」217施設,「増員を働きかける」132施設,「求人活動」117施設,「業務調整を行う」94施設,「業務縮小」84施設であった。求人活動は「人材バンクの利用」45施設,「独自のシステムの利用」10施設であった。求人広報手段は「本会ホームページ利用」は62施設で,求人はしないとの回答もあった。【結論】育児と仕事の両立していくための問題として最も多く挙がったのは「人員確保」であった。また,欠員ありと回答した施設の欠員理由は,半数が産休・育休取得によるものであった。人員不足は十分な制度整備のない中,全ての立場で負担となり対応に苦慮している現状がある。求人を出して対応する場合も,求人欄への掲載費負担や求人への反応の乏しさ,上層部の理解のなさから求人活動はしていない施設があることも分かった。本会の求人欄の利用を確認すると利用施設は全体の18%に止まっており,本会として求人欄の見直しは課題と考える。更に,復職支援事業の利用拡大,本会地域組織体制(ブロック化)の見直しやその利用といった現在の活動を生かした活動から問題解決につながるように検討していきたい。
著者
倉坪 亮太 藤井 周 渡邊 裕之
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0940, 2012

【はじめに、目的】 成長期は骨の長径発育に対し筋の発育の遅延が生じるため,筋柔軟性が低下しやすいと考えられている.また成長期スポーツ選手の下肢筋柔軟性は,スポーツ障害発生と関連が深いことが鳥居と中沢らにより報告されており,スポーツ障害発症の要因の一つと考えられている. 成長期サッカー選手では,キック動作における動作特性から,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,下腿三頭筋等の筋柔軟性が低下することが牧野ら,中沢らにより報告されている.また袴田らはキック動作時の身体重心の後方化が,軸足に成長期スポーツ障害を有する選手の特徴の一つと報告している.しかし軸足筋柔軟性とキック動作の持つ動作特性との間の因果関係について客観的に明らかにした報告は少ない. そこで本研究は,軸足筋柔軟性とキック動作を解析し,成長期サッカー選手の筋柔軟性とキック動作の関連を明らかにすることを目的とした.【方法】 対象は,少年サッカーチームに所属する競技経験24ヶ月以上の小学5年生37名(年齢10.2±0.4歳,身長1.39±0.06m,体重33.1±5.5kg,経験歴50.3±18.9ヶ月)とした. 筋柔軟性は,鳥居の方法を一部改変し,軸足の大腿四頭筋,ハムストリングス,腓腹筋,ヒラメ筋を測定した.測定は熟練した理学療法士1名が行った. キック動作の撮影は,ハイスピードカメラEX-F1(CASIO社製)を4台使用して行った.身体重心位置を算出するためのマーカー貼付位置は,横井らに従い被験者の全身21ヶ所に反射マーカーを貼付した.キック動作はゴール内に設置した標的に命中させるように全力でインステップキックを実施した.キック動作の採用条件は,ボールが標的に命中し,かつキック動作後に被験者がキック動作を自己評価し,被験者本人が満足した試行を選択した.撮影は3回撮影が実施できた後に終了した. 解析は,撮影された3試行のうち,インパクトが良好であったものを1試行抽出し,3次元ビデオ動作解析システムFrame-DIAS IV(DKH社製)を用いて身体重心位置を算出した.重心位置の指標として,身体重心位置と軸足外果の距離を「身体重心距離」と定義し,算出された身体重心距離からキック動作中の軸足踵接地時,ボールインパクト時,および最大身体重心距離時の3時点を抽出した. 統計はSPSS11.0J for Windowsを使用し,筋柔軟性と軸足踵接地時,ボールインパクト時,最大身体重心距離時の3時点の身体重心距離の関係をSpearmanの順位相関係数を用い検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者ならびに保護者に書面にて実験協力を依頼し同意を得た.なお本研究は北里大学医療衛生学部研究倫理審査委員会の承認を得ている.【結果】 軸足ハムストリングスの筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=0.42*),ボールインパクト時(r<sub>s</sub>=0.55**),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=0.39*)の全てにおいて有意な正の相関が認められた(* p <0.05,** p <0.01).軸足ヒラメ筋の筋柔軟性と身体重心距離は,軸足踵接地時(r<sub>s</sub>=-0.39*),最大身体重心距離時(r<sub>s</sub>=-0.39*)において有意な負の相関が認められた(* p <0.05).その他の筋柔軟性と身体重心距離には有意な相関は認められなかった.【考察】 今回の結果から,キック動作時の身体重心距離が長くなるほど,軸足のハムストリングスの筋柔軟性が低下することが考えられた.キック動作時の身体重心距離の延長は身体重心の後方化を示す.身体重心の後方化は,意識的に強いボールを蹴る時に発生しやすく,骨盤の後傾・体幹の伸展が増加した"後傾"と呼ばれる姿勢となる.後傾でのキック動作は,体幹の伸展動作が強調されるため,主として体幹や下肢後面の筋群が過活動となり,このような活動の繰り返しは筋柔軟性の低下が惹起するものと推測される. また身体重心位置が後方化したキック動作は,膝関節伸展モーメントが増加し,大腿四頭筋が過活動となることが報告されている.成長期の大腿四頭筋による脛骨粗面への牽引ストレス増加は,脆弱な成長軟骨に侵害ストレスを与え,オスグッドシュラッダー病の発症を容易にすることが考えられている(鈴木ら).今回の結果から軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時身体重心位置の後方化に関連が認められたため,軸足ハムストリングスの筋柔軟性に着眼していくことが,成長期スポーツ障害の予防につながると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 成長期サッカー選手において,軸足ハムストリングスの筋柔軟性低下とキック動作時の身体重心位置の後方化に関連が認められた.本研究で得られた知見は,競技特性が筋柔軟性に与える影響の特徴を反映しており,成長期スポーツ障害発症予防における競技特性の観点による戦略構築を実施するための一助となると考えられる.
著者
鈴木 康裕 清水 如代 岩渕 慎也 遠藤 悠介 田邉 裕基 加藤 秀典 羽田 康司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】バランス能力の定義は,静的と動的に大別できるが,アスリートの競技パフォーマンスと関連するのは,動的バランスと考えられている。我々は,重心動揺計を用いた姿勢安定度評価指標(以下IPS),その修正版である修正IPS(以下MIPS),また片脚立ちを,動的バランスと定義しているが,MIPSの測定方法である閉眼および軟面上立位で行う2重課題に注目している。MIPSは視覚および感覚の負荷が同時にかかる難度の高いバランス検査であり,より高度なバランス能力を要求されるアスリートに適合する可能性がある。我々は,MIPSを含めた複数の動的バランス能力の評価指標を用いて,健常者を対照とし,様々な競技群との比較を行うことで,競技毎のバランス特性が明らかになるものと考えた。</p><p></p><p>【方法】動的バランス評価として,IPS,MIPSを測定し,また閉眼片脚立ち検査を行った。身体機能評価として,体性感覚は,振動覚,二点識別覚,足底触圧覚,下肢筋力は,膝伸展筋力,膝伸展筋持久力,足関節背屈筋力,足趾筋力を測定し,また体組成は,体脂肪量および除脂肪量を算出した。バランス特性を検討するため,IPS,MIPS,閉眼片脚立ちについて,10名以上の被検者が確保できた競技群と健常者による対照群との比較を,対応のないt検定を用いて行った。またMIPSとの関連要因を検討するため,欠損データのない対象競技者において,MIPSと各身体機能をPearsonの積率相関関係を用いて相関関係の検討を行った。使用統計ソフトはSPSS(ver21)を用い,全ての統計有意水準は5%未満とした。</p><p></p><p>【結果】対象は179名(男性119名,女性60名),平均年齢は20.7±2.2歳(19~29歳)であった。対象となった競技は,全11種目(154名)であったが,対照群(25名)と比較を行ったのは,5種目の競技群(水泳33名,野球27名,競艇26名,サッカー30名,体操15名)であった。対照群と各競技群の動的バランス評価を比較した結果,IPSは全ての競技群において有意に優れておらず,MIPSは競艇群(p<0.05)および体操群(p<0.01)が優れ,水泳群が劣っていた(p<0.01)。閉眼片脚立ちは,サッカー群および体操群が優れていた(p<0.05)。すなわちMIPSおよび閉眼片脚立ちの双方が優れていたのは体操群のみであった。全11種目の対象者に,MIPSとの関連要因の検討を行った結果,身長,体重,足底触圧覚,足関節背屈筋力に有意な関連性が認められた。</p><p></p><p>【結論】健常者を対照とし,各競技群との動的バランス評価の比較を行った結果,競艇・水泳・サッカー・体操・野球のバランス特性が明らかとなった。</p>
著者
佐々木 沙織 小保方 祐貴 菅谷 知明 河内 淳介 福原 隆志 中澤 理恵 坂本 雅昭 中島 信樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】我々は,2004年度より高校サッカーメディカルサポートを開始し,2013年度で10年目を迎えた。県大会の全試合を対象に,会場本部における試合前・中・後のサポートを行ってきたが,近年はマンパワー不足により全会場にスタッフを配置することが困難となってきている。今後,継続してメディカルサポートを行っていくうえで,本研究会のメディカルサポートに対して需要の高い試合にスタッフを配置し,効率かつ効果的な運営を行う必要があると考える。そこで,群馬県高等学校体育連盟サッカー競技大会における準々決勝~決勝戦及び1~3回戦に対するサポート対応件数を調査し,試合レベルの違いとメディカルサポート対応件数との関係について検討した。【方法】対象は,2010年~2013年度に開催された群馬県高等学校体育連盟サッカー競技15大会881試合のうち,2010年度・2011年度に準々決勝~決勝戦でサポートを実施した8大会53試合(以下,準々決勝~決勝戦群)と,2012年度・2013年度に1~3回戦でサポートを実施した7大会315試合(以下,1~3回戦群)とした。調査項目はメディカルサポート対応件数とし,各群における1試合当たりの対応件数を求めた。メディカルサポートスタッフの募集は,群馬スポーツリハビリテーション研究会を通じてボランティア参加を集い,各会場1名以上の理学療法士を配置した。メディカルサポートの内容は,傷害に対するテーピング,アイシング,ストレッチング,止血処置,傷害確認,今後の指導とした。【倫理的配慮,説明と同意】本報告の目的及びデータ処理に関する個人情報保護について群馬県高等学校体育連盟サッカー専門部に十分説明し,同意を得たうえで実施した。【結果】準々決勝~決勝戦群の対応件数は50件であり,1試合当たりの対応件数は0.94件であった。1~3回戦群の対応件数は521件であり,1試合当たりの対応件数は1.65件であった。【考察】準々決勝~決勝戦群と比較して,1~3回戦群での1試合当たりの対応件数が多かった。その理由として,1~3回戦群はトレーナー不在のチームが多いことが予想され,会場に配置されたメディカルサポートへの要請が多かったのではないかと考える。今回の結果より,メディカルサポートへの需要は,準々決勝~決勝戦と比較して1~3回戦で高いということが確認された。過去の報告から,メディカルサポートを行っていくうえでスタッフのマンパワー不足が問題とされており,本研究会においても同様の問題が生じている。今回の結果から,1~3回戦におけるメディカルサポートへの要請が多く,それらの試合にサポートを集中させることで,より選手や監督のニーズに応えることが可能となると考える。また,スポーツ現場で理学療法士が活躍する機会が増えることで,メディカルサポート活動の普及につながるものと考える。メディカルサポートスタッフに対する勉強会や技術指導などの教育体制を確立し,メディカルサポートに興味のある理学療法士が参加しやすい環境を整えることで,スタッフの増員を図り,マンパワー不足を改善することが今後の課題である。【理学療法学研究としての意義】群馬県高校サッカーメディカルサポートにおける,試合レベルの違いと対応件数との関係性を調査した結果,準々決勝~準決勝と比較して1~3回戦においてメディカルサポートに対する需要が高いことが明らかとなった。本調査結果は,理学療法士によるメディカルサポート活動の普及のための有益な資料となると考える。
著者
古西 勇 佐藤 成登志 玉越 敬悟
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】臨床実習を通して学生は成長する。それは,卒業後の生涯学習の基盤として重要であり,指導者の熱意や寛容さにより多大な支援を得て成し遂げられている。しかし,学生の視点から指導者と施設に対して感じたことを評価する信頼性のある尺度は少ない。本研究の目的は,臨床実習で指導者と施設に対して学生が感じたことを評価するための新たな尺度を開発し,信頼性を検討することである。【方法】対象は,理学療法士養成課程のある地方大学の総合臨床実習を終了した4年生の学生とした。10週間の実習後,翌週にGoogleドライブのフォームを用いて実習後アンケートへの回答を依頼した。「問1 実習中に指導者の先生に対して次のようなことを感じたことがどれくらいありましたか?」「問2 実習施設に対して次のようなことを感じたことがどれくらいありましたか?」の設問の下に,それぞれ9問の質問項目を設けた。回答は,順序尺度(『一度もなかった(1点)』~『常にあった(5点)』の5段階)であてはまるものを選択してもらった。得られたデータから因子分析を行い,抽出された因子ごとにアルファ係数を算出して信頼性を検討した。統計解析には,SPSS Statistics 17.0を用いた。【結果】回答者(n=81)のデータから初回の因子分析を行った。前後の因子間の固有値の差を検討し,因子数を4とした。第4因子までの累積寄与率は71.6%であった。続いての因子分析は主因子法でプロマックス回転により分析した。因子抽出後の共通性に著しく低い項目はなかった。第1因子(7項目)は「話しを聴いてくれる」「安心させてくれる」「楽しいと感じさせてくれる」など指導者の包容力を反映していると解釈できる。第2因子(6項目)は「リハビリテーション部門の体制が整っている」「職員の教育・研修の体制が整備されている」など組織や体制の魅力を反映していると解釈できる。第3因子(3項目)は「時間の使い方の指導を受けたことがあった」「日々の目標に関して助言を受けたことがあった」など指導者の教育的配慮を反映していると解釈できる。第4因子(2項目)は在宅ケアと退院後の療養環境の調整に関することが行なわれているという地域包括性を反映していると解釈できる。各因子の項目のCronbachのアルファは第1因子(包容力)で0.896,第2因子(組織や体制の魅力)で0.883,第3因子(教育的配慮)で0.764,第4因子(地域包括性)で0.889と,高い信頼性を示した。今回の対象者について,項目平均値で各因子の下位尺度得点を算出したところ,平均値の降順で第2因子(3.99±0.71),第1因子(3.98±0.78),第4因子(3.75±0.87),第3因子(3.25±0.88)であった。【結論】学生の視点から指導者と施設に対して感じたことを評価する尺度を開発し,高い信頼性が得られた。各因子の下位尺度得点の高い群と低い群で他の得点を比較して実用性を検討するなど,さらなる研究が必要と考える。
著者
地神 裕史 濱中 康治 三富 陽輔 中村 拓成 加藤 知生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,中高齢者の健康増進に対する意識の高まりにより水泳愛好者の数は増加している。一般社団法人日本マスターズ水泳協会の2012年度の統計では協会に登録している選手数は年々増加しており,登録者数が最も多い区分は60-64歳であったと報告している。また,水泳は日本整形外科学会が提唱するロコモティブシンドローム予防のための運動としても推奨されており,今後も愛好者の増加が予想される。一方で水泳,特に競泳は肩関節や腰部の障害が多いスポーツであることも過去の先行研究により明らかになっている。健康増進のために始めた水泳により運動器の障害を引き起こし,ADLやQOLを低下させぬよう,理学療法士として適切な知識をもってこれらの愛好者をサポートすることは非常に意義深いと考える。我々が所属している日本水泳トレーナー会議は創設22年を経過しており,約100名の理学療法士が所属している。22年の間に水泳選手に対する様々なサポート活動を展開してきた。今回,当会に所属する理学療法士を中心にマスターズの水泳大会をサポートし,マスターズスイマーの障害に関する調査を実施すると同時に,コンディショニングを行う機会を得た。よって本研究の目的は,マスターズスイマーの障害の実態を調査すると同時に,理学療法士に求められるコンディショニングの手技や対応部位を明らかにすることで,水泳愛好者に対して適切な医学サポートを実施するための情報を蓄積することである。【方法】対象は日本マスターズ長距離大会に参加した水泳愛好者839名(女性265名,男性374名)のうち,我々が開設したオープンブースを利用した83名(女性58名,男性25名)とした。対象者に対して水泳歴や主訴など一般的な情報を聴取し,症状に対する運動療法やマッサージ,ストレッチなどを行い,その実施内容や実施部位を解析した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は日本水泳トレーナー会議の倫理委員会の承認(承認番号13-002)を受けて実施した。対象者に対しては書面にてインフォームドコンセントを実施し,本研究の趣旨を理解し,賛同した対象者には署名にて同意をもらった。【結果】本研究の対象者の年齢は52.9±13.0歳(21-77歳),水泳歴は19.3±12.6年(1-55年)であった。主訴部位は重複ありで計161部位,そのうち「肩関節」が最も多く全体の28.6%であった。次いで「腰部・骨盤帯」が18.0%,「股関節」が14.3%であった。また,実施した手技の数は,重複ありで計208,内訳は「マッサージ」が全体の59.1%,「ストレッチ」が30.8%,「エクササイズ」が9.6%であった。【考察】上述したように,健康増進のために水泳を始める中高年者は今後も増加することが予想される。一方で水泳は肩関節や腰部の障害を引き起こす可能性もあるが,荷重関節に負荷が少なく,適切なサポートを行うことで長く継続できるアクティビティになると考える。今回の結果から,マスターズスイマーの抱えている痛みの部位は肩関節が最も多く,次いで腰部・骨盤帯という結果であった。これは半谷らが行った競技力の高いトップ選手に対して行った先行研究と同様の結果であり,障害部位は競技力に依存するものではなく,競技特性により生じている問題点であることが明らかとなった。また,コンディショニングに対するニーズや実際に対応した手技を集計した結果,マッサージやストレッチが多くなった。その要因として,水泳はノンコンタクトスポーツであり,障害の発生機序の多くはオーバーユースによるものであることが挙げられる。筋や腱の炎症に由来する痛みであれば,適切な疲労回復を促すような手技を講じることが結果的には障害予防に直結することが示唆された。しかし,セルフコンディショニングの意識が高いトップ選手に対して行った同様の調査では,マッサージを希望する割合は全体で50%以下であったことを考えると,マスターズスイマーはまだまだ自身で行えることを適切に行えておらず,トレーナーなどの第3者に依存的である姿勢が明らかとなった。今後,会としても教育啓発活動を継続的に実施し,セルフコンディショニングの意識を高めることで末永く水泳を続けられる中高年者が増えるようなサポート活動を展開していくことの必要性を感じた。【理学療法学研究としての意義】理学療法士はスポーツ領域において障害予防のサポートをリードするスペシャリストとなる必要がある。今回のような研究を通じて障害の実態や現場でのニーズを調査し,その結果から具体的な取り組みを実施することは大変意義があると考える。
著者
仙波 浩幸 清水 和彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】質の高い授業を展開するためには,学生の集中力を高め,教授内容の理解度を上げる必要がある。本研究は,学生に集中力をもたせ質の高い授業展開を図るための知見を得ることを目的に実施した。【方法】対象は本学理学療法学科に在籍する,男150名,女78名,合計228名である。基本情報,睡眠調査,授業中の眠気調査から構成される,オリジナルで46の設問からなる質問紙を作成した。平成25年11月に学年毎に一斉に実施した。基本調査は,学年,年齢,性別,アルバイト(1週間の日数,1週間の時間数)の6項目である。睡眠調査は,就寝時間,起床時間,睡眠時間,睡眠満足度(7段階),寝つきの悪さ,深夜覚醒の6項目である。授業中の眠気調査は34項目である。授業中に眠気をもたらす原因として,全く関係ない(1)から強く関係する(7)までの7件法で回答を求めた。その項目は,寝不足,身体的疲労,精神的疲労,体調,授業の理解度,落ち込んでいる,集中力,やる気,授業内容,苦手な先生,座席の位置,指定席,自由席,意中の人が近くにいる,隣席との距離感,教室の明るさ,室温・湿度,季節,朝食後の授業,昼食後の授業,教室の雰囲気,受講生数,よく話す人が近くにいる,レジメの有無,話を聞くだけの授業,授業のペース,パワーポイントの授業,ペンを動かさない授業,先生の話し方,先生の威圧感,授業態度に厳しい教師,授業への緊張感,小テストの有無,期末試験の難易度である。すべての項目に基本統計,2項目間の相関,眠気調査34項目の因子分析を実施した。因子の抽出方法は,最尤法プロマックス回転,固有値1.0,因子負荷量0.4以上とした。すべての統計学的有意水準を5%,統計ソフトはIBM SPSS 19を使用した。【結果】1)眠気調査の基本統計影響が強い項目順に示す(平均値5.0以上,平均値±1標準偏差)。寝不足6.1±1.3,身体的疲労5.9±1.3,昼食後の授業5.7±1.3,話しを聞くだけの授業5.7±1.3,室温・湿度5.5±1.5,精神的疲労5.4±1.6,やる気5.3±1.5,先生の話し方5.3±1.5,集中力5.3±1.5,授業の内容5.1±1.6,授業への緊張感5.1±1.5,授業態度に厳しい5.1±1.6,教室の雰囲気5.0±1.7,パワーポイントの授業5.0±1.6であった。2)寝不足,平均睡眠時間,身体的疲労,精神的疲労の間には有意な関係が見られた。(Pearsonの相関係数:r=0.20-0.58,p<0.01)。また,アルバイト時間と平均睡眠時間,身体的疲労,寝不足の項目間にも弱い相関が見られた(Pearsonの相関係数:r=0.14-0.20,p<0.05)。3)眠気調査の因子分析5因子が抽出され,抽出後の負荷量平方和の累積は46.4%であった。第1因子の負荷量平方和は28.2%であった。第1因子に含まれる項目は,授業態度に厳しい教師,授業への緊張感,先生の威圧感,ペンを動かさない授業,期末試験の難易度,小テストの有無,先生の話し方,よく話す人が近くにいる,授業のペース,話を聞くだけの授業,パワーポイントの授業,であった。第2因子以降の抽出後の負荷量平方和は5.6-3.5%と低い値であった。第4因子は,精神的疲労,身体的疲労,寝不足,体調の4因子が抽出された。【考察】基本統計量による結果と因子分析の結果のそれぞれの項目の位置づけに大きな相違が見られた。学生は,寝不足,身体的疲労,精神的疲労などの健康面と昼食後の授業や室温・湿度などが眠くなる大きな要因と考えている。基本統計量による結果は,学生が考える眠気をもたらす要因,つまり主観的要因を示している。これには睡眠時間の短さが影響している。因子分析の第1因子は能動的・緊張感が求められる授業,第2因子は教室の環境,第3因子は座席の位置,第4因子は学生の健康,第5因子は学生の積極的授業参加と解釈した。抽出後の負荷量平方和の値から第1因子に含まれる項目が主に影響を及ぼす要因であり,その項目から判断すると,因子分析による結果は眠気をもたらす客観的要因であると推察した。したがって,学生は鉛筆を動かし,教員は学術的内容を充実させ,緊張感をもって授業を実施し,双方向コミュニケーションを積極的に取り入れた授業展開が重要であることを再認識した。【理学療法学研究としての意義】質の高い授業展開の方策を授業中に生じる眠気の視点から考察した。