著者
芹澤 志保 中澤 理恵 白倉 賢二 大沢 敏久 高岸 憲二 山路 雄彦 坂本 雅昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.483, 2003

【目的】我々は、群馬県高校野球連盟(県高野連)からの依頼により第84回全国高校野球選手権群馬県大会においてメディカルサポートを行った。以前より高校野球全国大会ではメディカルサポートによる傷害予防がなされているが、本県では今回が初の取り組みとなった。本研究の目的は、メディカルサポートの内容を紹介すると共に今後の課題を検討することである。【対象及び方法】対象は、第84回高校野球選手権群馬県大会4回戦(ベスト16)以降に出場した延べ32チームとした。メディカルサポートを行うため、群馬県スポーツリハビリテーション研究会を通じ、本県内の理学療法士にボランティア参加を募った。県高野連から依頼のあったメディカルサポートの内容は、投手及び野手別のクーリングダウン(ストレッチング)指導であり、これら指導内容を統一するため事前に3回の講習会を行った。また、高校野球における投手では連投となることが多いため、投球イニング、肩および肘関節の痛みの有無、疲労感等に関するチェック表を作成した。準決勝・決勝戦を除き試合会場は2球場であり、各球場に理学療法士は投手担当2名、野手担当4名以上、医師は1名以上が常駐するよう配置した。【結果及び考察】メディカルサポート参加者は、理学療法士延べ64名(実数40名)、医師9名(実数5名)であった。その内訳は、投手担当が延べ19名、野手担当が延べ46名であった。メディカルサポート内容は、クーリングダウン、試合前および試合中のアクシデントに対するテーピング、熱中症対策であった。準々決勝の1チームと決勝の1チームを除く30チームに対してクーリングダウンを行った。投手は延べ37名であった。投手の肩および肘の痛みについては、肩外転位での外旋で痛みを訴えたもの0名(0%)、水平内転で痛みを訴えたもの1名(2.7%)、肘に痛みを訴えたもの11名(29.7%)であり、肘痛が最も多かった。また、テーピングは延べ13名(実数6名)に実施し、その全員が野手であった。さらに、熱中症に対する応急処置として理学療法士・医師が相当数救護にあたり、過呼吸に対する応急処置の依頼もあった。これらクーリングダウン以外のサポートは、当初県高校野球連盟より依頼されていなかったものであるが、現場では外傷・熱中症などの応急処置は必要不可欠であったためすべてに対応した。今後の課題として、メディカルサポートの内容について県高野連と調整すると共にテーピングを含めた応急処置に関する技術の確認などの必要性が示唆された。
著者
玉地 雅浩 青山 宏樹 佐伯 武士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】姿勢制御は視覚,体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年,これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために,飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。飲水前後で安静椅座位での重心動揺や姿勢が変化するか否かを重心動揺計並びに三次元動作解析装置を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。【方法】対象は本学学生の健常男性10人,平均年齢21.6歳とした。被験者は前日21時より絶食状態で,測定開始3時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中の貯留物を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。被験者は,重心動揺計(ユニメック社製JK101+UM-ART:測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1分間の安静座位をとった後,90秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長,矩形面積,外周面積,単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は,その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。また同時に三次元動作解析装置(Motion Analysis社製MAC3D)を用いて計測部位,C7,両肩峰,Th7,L4,両上前腸骨棘,両上後腸骨棘の計9カ所の位置変化を計測した。計測は条件①飲水無し及び条件②飲水有りにて2回計測した。条件①飲水無しでは,1分間の安静座位後90秒間の計測を実施した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間の計測を計4回行った。条件②飲水有りでは,1分間の安静座位後90秒間の測定を行い,その直後の1分間のインターバル中に60秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した。その後1分間のインターバルを挟んで90秒間計測を計4回行った。計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃の位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。各重心動揺計測項目についての統計は,各条件における重心動揺と90秒間計測区間の二要因について2×5の分散分析を実施した。有意差の認められたものは,多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。三次元動作解析装置を用いての計測結果の統計には,ランドマーク間と90秒間計測区間(平均移動量)の二要因についての3×5の分散分析を実施した。ランドマーク間には有意な主効果が認められた。計測区間間には有意な主効果が認められなかった。ランドマーク間には主効果が認められたため,各ランドマーク間において一元配置分散分析を行った。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,へルシンキ宣言に基づき,事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で,被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】重心動揺計による計測条件②飲水有りにて,飲水直後の90秒間に総軌跡長,外周面積,単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)。条件①と②の比較では飲水直後の90秒間にて総軌跡長,外周面積,矩形面積,単位軌跡長に条件②に有意な増加が認められた(P<0.05)。三次元動作解析装置による計測条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にTh7が前方に移動した(P<0.05)。条件②飲水有りにて,飲水後2回目の90秒間と3回目の90秒間の間に有意にC7が前方に移動した(P<0.01)。また飲水後2回目の90秒間と4回目の90秒間の間にも有意にC7が前方に移動した(P<0.05)。【考察】本実験において飲水直後と飲水前,そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。また飲150秒後からは骨盤に対してC7,Th7が前方に移動する事が確認できた。飲水により胃の重量が増加した際に,各ランドマークが一度後方に移動したにも関わらずC7とTh7が有意に前方への移動に反転した現象は骨盤の位置が変化しない分,上部体幹や頭部が前方に移動して姿勢調節を行う過程で起こった可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から,臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前,そして後と継時的に計測することによって,飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。
著者
松井 知之 高島 誠 池田 巧 北條 達也 長谷 斉 森原 徹 東 善一 木田 圭重 瀬尾 和弥 平本 真知子 伊藤 盛春 吉田 昌平 岩根 浩二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P1122, 2010

【目的】われわれは整形外科医師の協力を得て,理学療法士(以下PT),トレーナーでメディカルサポートチームを有志で組織し,スポーツ選手の肩肘関節疾患の障害予防と治療を目的に2008年から活動を行っている.今回その活動内容と特徴について報告する.<BR>【方法】1. 京都府高校野球連盟(以下高野連)からの依頼によって,京都府高校野球地方大会のサポートを,PT,医師,トレーナーが協力して行っている.具体的には,試合前検診,処置,試合中の救急対応,試合後の検診およびアイシング,コンディショニングを行い,選手が安心,安全にプレーできるようにサポートしている.<BR>2.中学生,高校生の野球選手に対してシーズンオフである冬季に行われる技術・トレーニング講習会で検診を行っている.医師による肩肘超音波検査,PT3名,1グループによる理学所見評価を行い,トレーナーがコンディショニングを指導している.<BR>3.肩肘関節の障害を認め,保存療法が必要な選手を月2回医師,PT,およびトレーナーでリハビリテーション加療を当院で行っている.<BR>4.月一回,PTが中心となって円滑な情報交換を行うことを目的に勉強会を行い,多施設(病院およびスポーツ現場を含む)共通の問診表,評価項目,投球復帰プログラムの作成を行っている. <BR>【説明と同意】京都府高校野球地方大会のサポートに関しては,高野連から各チームに事前通達を行った.またわれわれも大会前の抽選会,試合前のコイントス時に部長,主将に説明し,試合前後の検診やコンディショニング指導を行っている.検診事業も,原則希望者のみとし,施行するにあたっては,監督,保護者,選手に十分な説明と同意を得た上で実施している.<BR>【結果】1.京都府高校野球大会のサポートは,春・夏・秋の準々決勝から行った.2009年秋季大会では,登板投手24名中,検診およびコンディショニングを実施したのが14名,アイシングのみ実施が3名であった.<BR>2.検診事業は,昨年投手68名に対し,肘関節の超音波検査および理学検査を行った.その際超音波検査で上腕骨小頭障害の投手は5名であった.同年12月には中学生野球教室の際に287名に対し肘関節の超音波検査,投手57名に理学検査を行った.上腕骨小頭障害の選手は8名であった.いずれの検診の際も,検診結果のフィードバックおよびコンディショニング内容のパンフレットを配布し指導を行った.<BR>3.2008年6月から2009年10月までに当院スポーツリハビリテーションに受診した選手は,小・中学生7名,高校生24名,大学・社会人が24名であった.うち投球障害肘が16名,投球障害肩が31名,その他8名であった.多施設間の情報交換資料として,問診表から評価表を作成した.<BR>【考察】京都府高校野球大会のサポートとしては,抽選会時などにメディカルサポートチームの案内に加え,傷害予防,熱中症対策など講演を行い,啓蒙活動を行った.大会中には,投球直後の身体所見を評価し,コンディショニング指導を行った.コンディショニングに関しては,どこまでわれわれが介入するか,難しい問題であるが,コンディショニングの大切さを啓蒙することが重要と考えている.大会サポートに関しても,選手のみならず,可能な限り指導者とコミュニケーションを図る必要があると考える.<BR>検診事業は,ポータブル超音波機器を使用することで,障害の早期発見,早<BR>期治療が可能であり,フィールドで簡便に行える有用な評価法とされ,われわれも導入した.PT3名1グループによる理学所見検査によって,正確なデータを蓄積し,それを分析することで,根拠ある評価,治療を確立し,障害予防に寄与すると考えた.しかし,検診の開催時期,二次検診などフォローアップに関する問題点も多く,今後の課題である.当院スポーツリハビリテーション受診数は増加傾向にあるが,現状は月2回程度の実施であり,多施設で協力して診療を行う必要であり,施設間における共通の評価,投球障害復帰プログラムの作成の必要性が生じる.これによって,選手の現状把握が容易となり,円滑な情報交換が行なえると考えた.また,診療場面に多くのスタッフが集まることで,実際の評価,診療内容を共有可能であり,選手の問題点についても討論することも可能であった.しかし医師,PTおよびトレーナーの連携は良好だが,指導者や家族とのコミュニケーションは十分とは言えず,今後の課題である.<BR>【理学療法学研究としての意義】われわれの取り組みは,多くの職種との連携を重視したものである.投球障害の治療は原則保存療法であり,PTが担う役割は大きいが,投球障害を有する選手の競技復帰は,医師や現場のトレーナーなど多職種との連携,協力が必要である.本活動は,他府県の活動を参考にしているが,今後このような活動を行う方への参考になれればと考える.
著者
玉地 雅浩 佐伯 武士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101941, 2013

【はじめに、目的】姿勢制御は視覚、体性感覚や前庭迷路系などさまざまな感覚系と運動系が協調的に連携しながら実行されている。しかし近年、これらの感覚系以外にも運動系との連関関係を結んでいる感覚系が存在する可能性が示唆されている。例えば腹部の臓器の大きさや位置など体幹の臓器に重力を感知する受容体としての働きがあるのではないかと言われ始めている。特にMittelstaedt H(Neurosci Biobehav rev 1998;22:473-478)は腎臓からの情報が体幹から姿勢を整えるために寄与しているのではないかと述べている。しかしその説を支持するために内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を具体的に調べた研究は未だ少ない。そこで本研究では内蔵臓器の位置関係と姿勢制御の関係を調べるために、飲水する事により胃の重量を変化させる事にした。その際に胃の位置や大きさも変化する事を超音波診断装置を用いて確認すると共に、飲水前後で安静椅座位での重心動揺が変化するか否かを重心動揺系を用いて計測し確認する事を本研究の目的とする。【方法】対象は本学学生の健常男性10 人、平均年齢21.4 歳とした.被験者は実験に先立ち、研究の目的、方法について十分に説明を受けた上で参加した。被験者は前日21 時より絶食状態で、測定開始3 時間前より飲水も行わない状態とした。胃の中に貯留物が残っていない事を確認するために超音波画像診断装置(FUJIFILM社製FAZONECB)を用いて確認した。被験者は、重心動揺計(ユニメック社製JK101 +UM-ART : 測定周波数20Hz)の上に設置された椅子に1 分間の安静座位をとった後、90 秒間の重心動揺を計測した。計測項目は総軌跡長、矩形面積、外周面積、単位軌跡長とした。この計測項目で得られた値は、その後の計測の妥当性を判断するための基準とした。計測は条件一飲水無しと条件二飲水有りにて2 回計測した。条件一飲水無しでは、1 分間の安静座位後90 秒間の重心動揺を計測した。その後1 分間のインターバルを挟んで90 秒間の重心動揺の計測を計4 回行った。条件二飲水有りでは、1 分間の安静座位後90 秒間の重心動揺の測定を行い、その直後の1 分間のインターバル中に60 秒かけて500mlの微炭酸飲料を摂取した、その後1 分間のインターバルを挟んで90 秒間で計4 回計測を行った。また計測開始時から終了時まで超音波を用いて胃が動く事によって位置や形が変化する様子を視覚的に確認した。統計には、各条件における重心動揺の変化を反復測定による分散分析を用いて、被験者内変数を重心動揺とし、各90 秒間計測区間を因子とし検討した。さらに有意差の認められたものは、多重比較検定としてBonferroni法を用いて検討した。条件一、二の各測定区間の比較はt検定を用いた。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、へルシンキ宣言に基づき、事前に研究目的や測定内容等を明記した書面を用いて十分な説明を行った。その上で、被験者より同意を得られた場合のみ測定を行った。【結果】条件二飲水有りにて、飲水直後の90 秒間に総軌跡長、外周面積、単位軌跡長に有意な増加が認められた(P<0.05)条件一と二の比較では飲水直後の90 秒間にて総軌跡長、外周面積、矩形面積、単位軌跡長に条件二に有意な増加が認められた(P<0.05)。【考察】本実験において飲水直後と飲水前、そして飲水後に一定時間経過した状態では安静椅座位における重心動揺の計測において有意差が認められる指標を確認できた。さらに、飲水直後90 秒間は超音波画像診断装置にて胃内部の微炭酸水の貯留を確認し、内蔵器官への物質の移動が重心動揺に影響を及ぼすことが示唆された。【理学療法学研究としての意義】飲水直後に重心動揺が大きくなった結果から、臨床で使用されているバランス評価のためのテスト課題を飲水前、そして後と継時的に計測することによって、飲水によるバランス評価テストへの影響を確認していくための基礎的な資料となる。
著者
木口 大輔 坂根 照文 田内 秀樹 首藤 貴 吉野 一弘 片木 祐志 渡辺 好隆 門田 詩織
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A1203, 2007

【目的】暗い色が明るい色に比べ重く感じるという重さ判断に及ぼす色の違いは様々な分野で述べられているが、報告されている先行研究は少ない。そこで、リハビリテーションで使用されている重錘バンドの色に着目し検討した。<BR><BR>【方法】参加者:2006年9月から2006年10月の間に当院に入院し、リハビリテーションを受けた患者22名とした。男性9名、女性13名、平均年齢63.8±16.0歳であった。手続き:OG技研社製1kgの重錘バンドで通常販売品のGF-115黄色と、同社製で特別注文品である濃紺色で1kgの重錘バンドを使用した。重錘バンドは長さ435mm×幅120mmであった。当院で行なわれている通常のリハビリテーションの一環として下記の実験を行なった。実験は午前10時頃から開始された。まず、参加者に現在の下肢の疲労感を尋ねた。疲労感は、「非常に疲れている」、「かなり疲れている」、「やや疲れている」、「あまり疲れていない」、「全然疲れていない」の内から1つ選択させた。次に参加者を端座位にさせ、両側下腿遠位部に重錘バンドを巻き、膝関節完全伸展位を左右の足で交互に5秒間ずつ保持させた。これを10分間行なわせた。このリハビリテーション終了直後に、下肢の疲労感をリハビリテーション開始前に行なわせたのと同じ評定用紙に回答させた。続いて、リハビリテーションで使用した重錘バンドの重さの印象を「かなり重い」、「やや重い」、「どちらともいえない」、「やや軽い」、「かなり軽い」の内から1つ選択させた。このリハビリテーションを4日間行なった。黄色と濃紺色の2種類の重錘バンドを、交互に使用した。参加者の半数については黄色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。残り半数の参加者は濃紺色の重錘バンドでリハビリテーションを始め、次の日には黄色の重錘バンドでリハビリテーションを行なった。<BR><BR>【結果】下肢の疲労感は、「かなり疲れている」から「全然疲れていない」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、リハビリテーション開始前と終了直後の差を求め、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp>.05で、有意ではなかった。リハビリテーション後での疲労感に色の違いは影響しなかった。重錘バンドの重さ判断は、「かなり重い」から「かなり軽い」の5段階尺度を、それぞれ5点から1点と得点化し、Wilcoxonの符号付順位検定を行った。その結果、重錘バンドの色の違いの効果はp<.05で有意であった。暗い色がより重く感じられた。<BR><BR>【考察】リハビリテーションにおける重錘バンドを利用した筋力トレーニング場面において、重錘バンドの色の違いは、下肢の疲労感には影響がないが、重さの印象に影響があった。一般的に重錘バンドは、重量別に色分けされ販売されていることが多いが、明度の高い色の使用が望ましいことが示唆された。<BR><BR>
著者
西野 竜也 高橋 悠 七五三木 好晴 内川 千恵
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】近年,人口の高齢化が進み大腿骨頚部骨折の受傷者が増加傾向にある。また,地域包括ケアシステムの導入により居宅を中心とした地域での生活が,早期から安全に長く行えることが必要になると考える。しかし,現在,大腿骨頚部骨折受傷者における退院時の身体機能やADLに関する報告は数多くされている一方で,退院後の活動量や生活状況に関しての報告は少ない。そこで,今回,自宅退院6ヶ月後での生活状況や生活習慣の調査を目的にアンケート調査を行った。【方法】対象者は,2012年1月~2013年3月の間に当院の回復期病棟を退院した大腿骨頚部骨折の患者60名の内,回答のあった自宅退院者30名(退院時の平均年齢:75.8±11.4歳,男性:11名,女性:19名)とした。方法は,退院6か月後の歩行様式,歩行自立度,外出頻度,家事や仕事の実施状況,日常の運動頻度などについてアンケートを実施した。歩行様式は「独歩・杖歩行・伝い歩き・歩行器・車いす」の5項目,歩行自立度は「自立・監視・介助」の3項目で調査を行った。外出頻度においては「ほぼ毎日・週2回以上・月に数回・めったに外出しない」の4項目,家事や仕事,運動頻度は「している・時々している・ほとんどしていない」の3項目で調査を行った。また,退院時の屋内外歩行自立度と移動手段をカルテ記録から情報収集を実施した。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,前橋協立病院倫理委員会の承認を得,患者様にはその旨を十分に説明し,書面上において同意を得ている。【結果】自宅退院者の退院時の屋内歩行自立度は,自立が30名中26名(87%),監視が3名(10%),介助が1名(3%)であった。屋外歩行自立度は,自立が30名中18名(60%),監視が9名(30%),介助が3名(10%)であった。屋外移動手段は自立群では,杖歩行自立が18名中14名(78%)と最も多く,続いて,独歩自立が2名(11%),歩行器自立が2名(11%)となった。退院6カ月後における屋外歩行自立度の変更は,向上が22名中4名(18.1%),維持が18(81.9%)名となった。屋外歩行自立群において退院6カ月後の外出頻度は「ほぼ毎日」が22名中6名(27%),「週2回以上」が6名(22%),「ときどき」が7名(32%),「めったに外出しない」が3名(14%)であった。家事・仕事の状況では「している」が22名中7名(32%),「時々している」が12名(54%),「ほとんどしていない」が3名(14%)となった。運動状況は,「している」が22名中10名(46%),「時々している」が4名(18%),「ほとんどしていない」が8名(36%)であった。運動内容においては,屋外歩行自立群は散歩と通所リハビリが6件と最も多く,続いて自主トレーニングが3件,スポーツが1件の順であった。地域活動を行っている回答は得られなかった。また,家事・仕事が「時々している」「ほとんどしていない」,外出が「月に数回」「ほとんどしていない」の両方に適応する割合が40.9%であった。運動が「時々している」「ほとんどしていない」で外出が「月に数回」「ほとんどしない」に適応する割合が31.8%であった。【考察】大腿骨頚部骨折受傷者で,自宅へ退院された方の退院6ヶ月後の屋外歩行は7割以上が自立していた。しかし,屋外歩行自立群において,退院6ヶ月後での運動習慣と外出頻度がともに乏しい方の割合が半数以上,家事・仕事と外出頻度が共に乏しい方の割合が3人に1人以上となった。このことから,退院時に獲得した能力を,退院後生活において十分に生かし切れておらず,歩行自立群の方々の活動性の低下及び閉じこもり傾向が示唆された。運動習慣においては,散歩やデイサービス,自主トレーニングといった自己完結型の運動や受動的サービスのみの利用が多かった。一方,「地域の活動」や「スポーツ」といった,受動的サービスの外での,地域での役割や関わりを行っている人はほとんど見られなかった。このことから,在宅生活が広がり,社会との関わりにつながる運動習慣及びシステムの欠如が考えられる。そのため,退院後に外出,運動,家事や仕事などの居宅での生活へ移行していくためには,入院中のADL自立度のみでなく,居宅生活の広がりを考えたフォローアップが必要であると考えられる。【理学療法学研究としての意義】今後,2025年に向けた地域包括ケアシステムにより居宅での生活が中心となっていくと考えられる。本研究では,自宅退院6カ月後の患者様にアンケート調査を行い,退院後の運動習慣や生活状況の傾向を明らかにすることで,入院中でのリハビリテーション今後の課題や地域でのリハビリテーションのあり方を考えることの一助になると考える。
著者
小山内 大地
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>高尾らは健常者を対象に長下肢装具(以下LLB)下での遊脚相について報告している。しかし,健常者を対象としてLLB装着下での立脚相について先行研究した報告はない。そこで本研究は,健常者を対象に立脚時の荷重割合を50%から漸増させた時の筋電図学的変化についてLLB装着の有無で比較することを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>・対象は,神経学的および整形外科的疾患を有さない健常男性8人とした(年齢27.4±3.8歳,身長168.6±2.4cm,体重65.0±7.2kg)。</p><p></p><p>・方法は,立位にて検査側下肢へ体重の50%,60%,70%,80%,90%,100%を荷重し,その際の筋電図をLLB装着時(膝継手はリングロック固定,足継手はダブルクレンザック)と非装着時で計測した。荷重量は,足圧計を用いて調整し,前荷重と後荷重を4対6とした。筋電図は,多裂筋(同側・対側),内腹斜筋(同側・対側),大殿筋,中殿筋,内側広筋,前脛骨筋,腓骨筋,ヒラメ筋内側頭に貼付した。解析は荷重中の筋電波形を整流・平滑化し,10秒間のうち安定した3秒間の積分値を算出し,それを個人の標準化筋活動とした。各筋単位で被験者毎におのおのの荷重量(50%~100%の6条件)にてLLB装着時から非装着時を減算し,筋活動の増減について全体の傾向を検討した。判定は各筋単位で6条件の荷重量を通算し,筋活動の増減が7割を越えた場合を筋活動の上昇あるいは低下とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>各筋においてLLB装着が非装着に比べて筋活動が上昇したものは,多裂筋同側(36/48,75%),多裂筋対側(32/45,71%),内側広筋(45/47,96%),前脛骨筋(42/47,89%)であった。逆に,LLB装着が非装着に比べて筋活動が低下したものは,内腹斜筋同側(33/47,70%),ヒラメ筋内側頭(41/47,87%)であった。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>LLB装着は非装着に比べて多裂筋の筋活動が両側性に上昇している人が多かった。この理由はLLB装着によって下腿後面の半月よって膝軽度屈曲位になり,重心位置が前方に変位することの代償として体幹伸筋の活動が上昇したと考えられた。内側広筋については,荷重時,下腿半月によって膝軽度屈曲位を矯正されているため,半月を支点に筋活動が上昇したと考えられた。</p><p></p><p>前脛骨筋の上昇とヒラメ筋内側頭の低下については,荷重時の下腿の前傾矯正と下腿半月による安定性が,前脛骨筋の短縮位での筋活動を増加させ,ヒラメ筋内側頭の筋活動を抑制したと考えられた。</p>
著者
堀 弘明 由利 真 千葉 健 佐橋 健人
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>我々は,変形性股関節症患者において健常人より腹横筋の筋活動は低下し,前額面の骨盤レントゲン画像から得られた骨盤傾斜角と大腿骨頭被覆率では腹横筋厚変化率と関連がある研究結果を得た。腹横筋の筋活動低下の原因として,姿勢や形態学的な変化のみならず筋自体の質的な変化も考えられた。近年,超音波画像を用いた筋輝度と筋力は負の相関を示すことが報告されている。そこで,本研究は筋輝度を用いて変形性股関節症患者と健常人の体幹筋の質的変化について明らかにすることを目的とした。</p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象者は,北海道大学病院に片側変形性股関節症の診断を受け手術目的に入院し,術前理学療法を実施した患者を変形性股関節症群(19名。男2名・女19名:60.6±6.5歳)とした。また,変形性股関節症群の年齢に合わせ身体に整形疾患等の既往歴のない者を健常者群(20名。女20名:62.9±3.2歳)とした。測定項目は腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋,骨盤傾斜角とし実施日は術前理学療法開始1日目とした。</p><p></p><p>腹部筋の測定肢位は膝を立てた背臥位とし,超音波診断装置はVenue 40 Musculoskeletal(GEヘルスケア・ジャパン)を使用し画像表示モードはBモード,8MHzのプローブで撮影した。Urquhartらの測定部位を参考にして腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋の境界を描出した。測定時の運動課題は,安静呼気終末として腹横筋,内腹斜筋,外腹斜筋を測定した。</p><p></p><p>筋輝度は,Adobe Photoshop CC 2014(Adobe Systems Inc. San Jose, CA, USA)を使用し,超音波診断装置で得られた画像から各筋の関連領域を設定し,8-bit gray-scale analuysisのhistogram functionにおいて値を求めた。</p><p></p><p>また,当院整形外科の処方により入院時に撮影した背臥位における前額面の骨盤レントゲン画像を用い,骨盤傾斜角を土井口らの方法で算出した。この方法で得られた値は,算出値が小さいほど前傾が増強していることを示す。</p><p></p><p>変形性股関節症群と健常者群の各筋の筋輝度測定についてはMann-Whitney U検定を用い,変形性股関節症群の骨盤傾斜角と各筋の筋輝度との相関ついてはSpearmanの順位相関係数を用い統計学的処理は5%未満を有意水準とした。</p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>筋輝度の比較では,腹横筋は変形性股関節症群111.8±12.0pixel,健常者群89.2±7.0 pixel,内腹斜筋は変形性股関節症群91.4±14.7 pixel,健常者群107.2±14.0 pixelとなりそれぞれ2群間で有意差(p<0.05)が認められた。</p><p></p><p>変形性股関節症群の骨盤傾斜角は17.6±3.6度であり,骨盤傾斜角と腹横筋の筋輝度は中等度の負の相関(r=-0.57。p<0.01)が認められ,骨盤傾斜角と内腹斜筋の筋輝度は中等度の正の相関(r=0.48。p<0.05)が認められた。</p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>本研究の結果から,変形性股関節症患者の腹横筋の筋輝度高値と内腹斜筋の筋輝度低値は変形性股関節症患者の骨盤傾斜角に関連し,特に腹横筋では骨盤前傾の増強により筋収縮力が低下する可能性が示唆された。</p>
著者
可児 利明 橋本 重倫 勝平 純司 丸山 仁司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P2032, 2010

【目的】<BR> メタボリックシンドロームという言葉が市民権を得たわが国では,食事や運動療法を含めた生活習慣の改善,高血糖・高血圧・肥満に対する取り組みを国家レベルで始めている。とりわけ運動習慣・運動変容に関して理学療法が果たすべき役割は極めて大きなものになると予測される。また,肥満による下肢関節荷重時痛,変形性関節症などの運動器疾患の治療においても,減量と関節障害改善のための理学療法が実施されることにより,運動機能が改善し活動量増加や生活の質向上に繋がると考えられる。<BR> 本研究では,歩行スピードを変化させて平地歩行や階段降段動作を行った際に,体重の増加が下肢関節にどのように影響するかを三次元動作解析装置と床反力計を用いて算出した関節角度・関節モーメントを指標として客観的に比較・検討した。<BR>【方法】<BR> 対象は下肢に重大な既往のない健常成人女性10名(年齢22.4±1.3歳,身長160.4±3.3cm,体重52.0±4.0kg)とした。体重の増加は重錘バンドをウエストポーチ,固定用ベルトを用いて検者の下腹部に負荷し,それぞれ0kg,7.5kg,15.0kgの3通りとした。歩行速度は歩幅を一定としメトロノームを用いケイデンスを116と138の2通りとした。平地歩行,階段降段の2条件で測定し,上記の組み合わせ12通りについてそれぞれ3回ずつ測定した。12通りの順番については乱数表を用い順不同とした。身体動作計測には,三次元動作解析装置VICON MX(VICON MOTION SYSTEMS社製),床反力計(AMTI社製)6枚,赤外線カメラ(周波数100Hz)8台を用いた。被験者には身体各部27箇所に赤外線マーカーを貼付した。計測用階段は中央で分離し,床反力計上に左右別々に設置した。下肢3関節における違いを分析するために,股関節・膝関節・足関節それぞれの関節角度・関節モーメントを計測項目とした。関節角度およびモーメントの算出にはVICON BODYBUILUDERを用い,木藤らの方法を参考にした。統計学的検討は一元配置分散分析を行ったのち,多重比較検定Bonferroni法を実施した。危険率は5%未満をもって有意とした。<BR>【説明と同意】<BR> ヘルシンキ宣言に基づき,実験の目的と方法を口頭と書面にて説明し同意を得たうえで実施した。その際,研究への参加は対象者の自由意志によるものとし研究への参加・協力が得られない場合であっても不利益は生じないこと。参加している場合であってもいつでも研究への参加を中止することが可能であること。得られたデータは本研究以外に使用せず,プライバシーを守ることなどを保障した。<BR>【結果】<BR> 一歩行周期における左下肢関節モーメントの値は,右足指離地時(以下,RTO時)と右足指接地時(以下RTC時)に増加していた。この傾向は全ての被験者に共通してみられるため,これら二つの時期の値と最大値・最小値を抽出して比較検討することとした。歩行において体重の増加によりRTO時, 膝関節屈曲角度,膝関節伸展モーメントが有意に増加した(p<0.05)。また, 膝内反角度には変化がみられず外反モーメントが有意に増加した(p<0.05)。階段降段動作においては膝内反角度に変化がみられず外反モーメントにおいて有意に増加した(p<0.05)。<BR>【考察】<BR> 体重の増加により歩行においてRTO時,すなわち左下肢のloading response時に膝屈曲角度,膝伸展モーメントが有意に増加していた。これは体重が増加したことにより下肢関節特に膝関節伸筋群の遠心性収縮により衝撃吸収を多く行うようになったためと考える。内外反については歩行・階段降段動作ともにアライメントに変化が見られず,関節モーメントのみが増加していた。これは膝関節の構造上,前額面でのアライメントに変化をきたしにくいが,増加した外反モーメントがストレスとしてかかり続けることにより関節の構造に破綻をきたすことが予想された。また歩行速度の変化については有意差がみられなかったことから体重の増加は下肢アライメントの変化に大きな影響を及ぼすものと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 体重の増加が下肢関節にどのように影響するかを関節角度・関節モーメントを指標として客観的に比較・検討した。体重を減らすことは下肢関節にかかる負担を軽減させることが示唆された。これらの結果が、膝関節症など障害を評価・分析する上で非常に役立つと考える。
著者
上倉 洋人 横地 さち 福田 友美 橋本 八洋 四家 卓也 澤原 卓 鈴木 邦彦 武藤 久司 田中 繁 野田 友和 川崎 仁史 岸田 知子 渡辺 聡美 石井 伸尚 久下沼 元晶
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1080, 2006

【はじめに】<BR> 理学療法士がアプローチすべき運動として、特に歩行が重要視されるのは言うまでも無いが、疾患・加齢・障害などによってそのアプローチ方法は様々である。近年では免荷式歩行練習の成果が報告されつつあるが、それらのほとんどはトレッドミル上での練習である。しかし、医学的リハビリテーションにおける歩行練習は単なる機能練習としてのみでなく、実際のADLの中でも行われる必要があると考える。立位という抗重力姿勢での移動とADLが組み合わさることで、種々の運動機構が使われ、動作の学習や習熟などによる神経学的・生理学的な効果が期待されると考えるからである。<BR> 我々はこれまで上記のような効果を期待し、移動手段としても利用可能な形態を持つ歩行器型免荷式歩行練習装置を開発し、それによる自主歩行練習の可能性について調べてきた。この発表においては、装置の開発経緯についてと、実際に利用し練習の効果や生活場面での実用性などについて検討してきたので報告する。<BR>【装置、対象、調査方法】<BR> 装置は、メーカー、演者の所属する施設、および大学研究室が協同で開発してきたもので、体重の30%~40%までの免荷が可能である。一号機を利用して頂いた対象は60歳男性の脊髄損傷不全対麻痺者(L3残存)で、使用した時の感想を聞くと共に、演者らが主観的に問題点を明らかにした。<BR>【結果】<BR> 一号機の問題点として抽出された事柄を以下にあげる。1.総重量77.8kgであり介助が無い状態での推進が困難であり実用的ではなかった。2.トゥーオフで踵部が後方のフレームに当ってしまい不快感を訴えた。3.練習用としては良いが、実生活で使用した際は形態に違和感があった。4.免荷を行うための機構操作時の音が大きく不快であった。5.スリング装着時の手順が複雑、かつフィット感が十分でなかった。6.装置に着くまでが困難であり、立位が可能でないと難しかった。<BR> 二号機はこれらの点に改良を加え以下のような装置となった。1.総重量61.8kgと軽量化を図った。2.通常の歩行器と同様に前方にフレームがあり後方には無い形態とし踵部が当たらないようにした。3.またこれによりベッドからあるいは車いすから直接装置に着くことが可能となった。4.免荷機構を改善し操作音は無音に近くなった。5.スリングの全面的な見直しを図りベッド上臥位の姿勢でもスリングが装着できようになった。6.前腕支持部分を取り除くことによりADLでの上肢参加が可能となった。<BR>【考察】<BR> 二号機での改良を施したことにより、装置を用いた歩行練習の適応者が増加したと判断している。ベッドからのアプローチが可能なので立位保持不可能な対象でも練習が実施可能であり、また軽量化により介助なしの自主練習も可能なレベルとなったと考えている。<BR> 今後は、再度モニタリングして問題点を抽出し、三号機で実用化を、そして四号機での商品化を目指していく。
著者
井内 陽三 能方 州二 藤本 和晃 木戸 直人 高倉 美樹 荒木 祐佳 加持 優一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.E0979, 2004

【はじめに】在宅生活者へのリハビリテーションを行う中で、環境整備などを目的に経験的に「滑り止めマット」(以下、マット)を使用する機会がある。しかし、その使用に関しては経験的なものが多い状態である。今回、安価に購入できる市販のマットを使用しての動作で、その変化をみる比較検討とアンケート調査を行ったので報告する。<BR>【対象】対象は、在宅生活を送る方で、起立動作が可能で、かつ3分間以上の連続した運動が可能な方。デイサービス、もしくは訪問リハビリを利用している45名(男13人、女32人、平均年齢75.26±9.95歳)。診断名は脳血管障害18名、骨関節疾患18名、その他9名(パーキンソン病、脊髄小脳変性症、廃用性症候群)である。<BR>【方法】素足で畳面の上での起立動作を3分間施行。初回は、「滑り止めマット」(塩化ビニル・アクリルの素材)非使用で起立動作施行。1週間後、マットを使用して起立動作を施行。開始肢位は膝関節90度屈曲位となる坐位姿勢。その際、運動施行前後での脈拍の測定(30秒×2)、時間内での施行回数の測定を行う。また、マット使用と非使用時の感想の聞き取り、足趾変形もしくは爪肥厚の有無の調査を行う。<BR>【結果】脈拍の平均増加率は、マット非使用21.1±13.17回、マット使用21.5±13.83回。起立回数は、マット非使用34.4±15.98回、マット使用35.4±16.94回となり、マット使用の前後では、脈拍の増加率、起立動作の回数には有意差は見られなかった。アンケート調査に関しては、滑り止めマット使用に関して全体の68%が「足元が滑らないので安心」「立ちやすい」など肯定的な意見。また、足趾変形もしくは爪の肥厚がある群では、67%で肯定的な意見が聞かれた。特に、足趾変形もしくは爪の肥厚を有し、脳血管障害による片麻痺、骨関節疾患があるものに対しては、肯定的な反応が得られた。また、足趾変形もしくは爪の肥厚がない群でも、69%の方が肯定的な意見となった。<BR>【考察】今回の条件設定では、運動前後での身体変化に有意差は認められなかった。これは、運動負荷の時間設定が長く、疲労の蓄積が大きく影響したためと考える。しかし、アンケート結果からマット使用に関しては、約7割に肯定的な意見が聞かれる事から、動作の質的な部分に影響があったと考えられる。また、足指変形もしくは爪の肥厚がある群では、マット使用に関し肯定的な反応の割合が高いため足底把持能力となんらかの関係があると推察される。今後、質的な面にも着目し、在宅生活での起居動作能力向上に結びつくように、マット使用効果の検証、効果的な使用方法、有用な使用者の調査を進めていく。
著者
中嶋 仁 一圓 未央 奥川 和幸 東 大輝 松本 浩希 真田 将幸 加納 一則 辻 文生 中川 法一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.D3O1160, 2010

【はじめに】包括的呼吸リハビリテーション教育入院(包括的呼吸リハ教育入院)の目的の一つは、運動習慣や健康増進に向けた自己管理能力を身につけることである。そして身体活動量の向上を図り、得られた効果を退院後もできるだけ長く維持させることである。しかし包括的呼吸リハ教育入院における効果報告は、呼吸困難感の軽減、運動耐容能の改善、健康関連QOLおよびADLの改善がほとんどで、身体活動量の変化を報告したものはほとんどない。身体活動量の変化を把握することは、呼吸や運動機能の効果を知るだけでなく情意や心理面に伴う変化を知るうえでも重要である。そこで今回の研究目的は、包括的呼吸リハ教育入院における運動習慣の実態を把握するために、教育入院前と退院後の身体活動量の変化を調査することである。また、運動耐容能、健康関連QOL、ADLの変化も合わせて調査する。<BR>【対象】対象は、当院における包括的呼吸リハ教育目的に入院した独歩可能な慢性呼吸器疾患患者16名(COPD15名 気管支拡張症1名)、男性15名、女性1名、平均年齢69.7 ±13.3歳であった。喫煙者、継続調査が出来なかった者、骨関節障害、脳血管障害を有す者は本研究より除外した。<BR>【方法】運動耐容能、ADL、健康関連QOLの評価を入院前1か月と退院後1か月に行った。運動耐容能の評価は6分間歩行テスト(6MWT)をおこなった。ADLの評価は、千住ADL評価表を用いた。健康関連QOLは疾患特異的尺度のThe St.George'S Hospital Respiratory Questionnaire(SGRQ)を用いた。<BR>身体活動量の評価は、スズケン社製の多メモリー加速度計測装置付き歩数計(ライフコーダー)を用いて計測した。計測値は、入院前1か月間と退院後1か月間の起床から就寝までの1か月間の最大歩数と1日の平均歩数とした。統計学分析は、入院前と退院後の各評価項目の平均値を求めt検定を用いて検討した。<BR>【説明と同意】今回の研究は、当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨、内容、中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。<BR>【結果】6MWTは入院前が258.6±107.3m、退院後が317.6±317.9mであった(P<0.05)。千住ADLテストは、入院前が66.87±16.12点、入院後が78.35±22.28点であった(P<0.05)。SGRQの総得点は入院前が40.18±21.48点、入院後が35.05±18.04点であった(P<0.05)。身体活動状況としての1日の平均歩数は入院前が3416±2639.8歩、入院後が5491±2853.6歩であった(P<0.005)。最大歩数は入院前が5405.5±3751.9歩、退院後が8553.8±4492.9歩であった(P<0.001)。<BR>【考察】当院における包括的呼吸リハ教育入院は2週間であるが、諸家の報告通り運動耐容能、健康関連QOL、ADLは入院前と比較して退院後は有意に改善した。身体活動量は、入院前と比較して退院後は有意に増大した。以上の結果より、多職種がチームを組みさまざまな側面から介入する包括的呼吸リハ教育入院は、自己管理能力を高め運動習慣をつけることが出来たと考えられる。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究の意義は、包括的呼吸リハ教育入院がADLやQOLだけでなく身体活動量も向上させることが明らかになったことである。退院後の身体活動量を把握することは、包括的呼吸リハビリテーション教育入院プログラムを再構築するうえで重要である。<BR>
著者
四海 公貴 横山 司 絹川 裕次 上岡 奈美 林 知希 中島 幹雄 久保 高行
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.E1212, 2008

【はじめに】<BR>(社)広島県理学療法士会(以下、当会)は平成16年から毎年,理学療法週間におけるイベントを開催してきた.今回は過去4回のイベントの企画・運営について報告するとともに,今後の課題について検討する.<BR>【平成16年~19年までの開催実績】<BR>第1回(平成16年7月)は他団体と「脳卒中市民シンポジウム」を共同開催した.第2回(同17年7月)は当会単独でイベントを開催した.社会的背景として介護予防事業が注目されており,理学療法士(以下,PT)はその先駆者となるべきであるという考えのもと,来場者の身体能力のチェックを県下1会場で実施した.また若年層も視野に入れ,アイシング講習会も実施した.来場者は240人で経費は約43万円であった.第3回(同18年7月)はより多くの地域で啓発活動を行うために,県下3会場で身体能力チェック,高齢者疑似体験,車椅子体験を開催した.内容は開催支部で決定した.来場者は275人で経費は約63万円であった.第4回(同19年7月)では,過去の開催は屋外を基本としたものの日中気温が高かったことから,来場者やスタッフの健康面を配慮し3会場とも屋内開催とした.内容は第3回と同様で来場者は247人,経費は約65万円であった.<BR>【開催に伴って浮上した課題とそれらへの対策】<BR>当会では(社)日本理学療法士協会(以下,協会)設立記念日の7月17日を挟む1週間を理学療法週間と位置づけイベントを開催している.その開催時期について7月は気温が高くスタッフや来場者の健康面を考えると妥当とは言いがたい.また当会では2年毎に役員が変わり4月から準備を開始するため,準備への負担があるとの意見が挙がった.当会では企画内容は開催する地区支部ごとに決定している.イベントは県民に対しPTの専門性やこれからPTが何を目指すかの方向性をアピールする場でもあるため,県下の方向性は統一したものでなければならない.また会の活動は会員会費にて行われているため,イベント開催による効果検証が必要と考える.そのためには費用対効果の検討が必要と思われるが,それには非常に複雑な分析が要求される.来場者へのアンケート結果では「理学療法を理解できた」との回答が大多数であったことから,当面は来場者数を指標とするのが現実的かもしれない.次年度の予定として,広島市中心部を主会場とし県下3会場にて開催予定である.当会としてのイベント方針を明確にしたうえで,当会公益事業推進部がまとめ役となって各支部と連携し,企画の立案および実行を計画している.<BR>【協会への要望】<BR>理学療法の啓発活動は都道府県単位ではなく日本全体で発信していく必要がある.そのためには協会も本部開催を実施し,その方向性に準じた内容での都道府県開催という形が望まれる.またイベントの費用対効果についても協会がまとめ役になり,全国のイベントについて集計を行うことでより効率のよい開催が可能になると考える.<BR>
著者
佐藤 友紀 飯田 有輝
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.DbPI1373, 2011

【目的】<BR> 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は息切れを主症状とし,運動耐容能の低下やADLの低下を引き起こすとされる。COPDの治療および管理には薬物療法と非薬物療法があり,薬物療法の中心は気管支拡張薬で吸入による投与が勧められている。非薬物療法には呼吸リハビリテーション(呼吸リハ)が行われ,運動耐容能やADLの改善などを目的として取り組んでいる。呼吸リハは10~12週間に集中的に行われ多数の改善報告があるが,その後の呼吸リハは維持的な目的で実施されることが多く改善報告は少ない。<BR> 一方,息切れの要因には動的肺過膨張があり,労作時における最大吸気量(IC)の減少が関連するとされる。ICの改善にはいかに呼気気流制限を軽減させるかが重要である。薬物療法と運動療法の併用により効果的であるとの報告もあることより,薬物療法は大切な役割をもつ。しかし維持期においての薬物療法は,吸入薬の投与期間も長期となり吸入手技は自己流になりやすく薬物効果が低下するとの報告や,70%の患者で正しく吸入できていないなどの報告もあり,維持期に対する適切な吸入指導はICの改善が期待できる。<BR> 以上より,本研究では呼吸リハの患者教育の一環として吸入指導を行い,維持期における包括的な呼吸リハビリテーションが息切れならびにICに及ぼす影響について検討することを目的とした。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は当院にて定期的に外来呼吸リハ通院をしている患者10名(平均年齢71.9±7.1歳,予測1秒量1.15±0.58,全例男性)とした。平成21年10月より薬物療法の重要性や吸入手技についての吸入指導を導入し,3ヶ月間の吸入指導管理を行った。対象者には3ヶ月間毎日吸入日誌を記載させ,呼吸リハ時に吸入日誌の確認を行うこととした。呼吸リハプログラムは週1回,呼吸筋ストレッチ,呼吸筋トレーニング,自転車エルゴメータ,下肢筋力トレーニングとした。評価は吸入管理前後に行い,測定項目として6分間歩行試験(6MWT),筋力,千住らのADL評価,肺機能検査を行った。6MWTでは歩行距離(6MD)と終了時の主観的息切れの指標としてBorg指数を測定した。筋力は膝伸展筋力(ピークトルク値),握力(平均値),最大吸気圧(MIP),最大呼気圧(MEP)を測定した。肺機能検査は肺活量(VC)とICを測定した。統計処理は6MD,筋力,肺機能についてはPaired t-test,Borg指数,ADLスコアについてはWilcoxonを用い有意水準は危険率5%未満とした。<BR>【説明と同意】<BR> 本研究は当院倫理委員会の了承を受け,十分な説明を行い書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 吸入指導により薬物療法に対する理解が深まり,適切な吸入手技が行われるようになった。吸入管理前後でrest ICは平均1.77±0.47Lから1.90±0.47L(p<0.01),MIPは73.7±11.1cmH2Oから82.1±12.3cmH2O(p<0.01),ADLスコア87.2±16.7点から88.6±15.6点(p<0.05)と有意な改善を認めた。6MDは415.4±108.2mから425.4±106.0m(p=0.071),Borg指数は5.8±2.3から5.2±2.4(p=0.058)と改善傾向がみられた。その他の指標については改善を認めなかった。<BR>【考察】<BR> 吸入指導は手技の改善や薬物効果、副作用などの理解が深まることで適切な薬物効果が期待できる。毎日日誌をつけることや確認することは,アドヒアランスの向上に寄与し維持期の疾病管理として重要と考えられている。本研究においても日誌を用いた吸入管理により薬物効果が適切に得られICの改善につながったと考える。ICの改善は運動耐容能の改善と相関関係があるとの報告もあり,ADLスコアでは有意な改善が認められた。6MWTについては6MD,Borg指数ともに改善傾向がみられた。またMIPにおいてはICの改善が機能的残気量を低下させ,十分な呼出が得られることによりMIPが改善したと考えられる。<BR>本研究より維持期におけるCOPD管理として,在宅での運動習慣化を中心に吸入の必要性が示唆され,栄養管理など含めた包括的な呼吸リハビリテーションが重要であると考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> COPDは慢性疾患であり,維持期に対する医療介入は包括的な介入が重要である。本研究より維持期のCOPD管理において適切な吸入は運動療法効果にも影響を与えるため、理学療法士も患者教育の一環として吸入指導について関わるべきであることが示唆された。
著者
中嶋 正明 秋山 純一 小幡 太志 Chikako Kawakami Poffenberger Frank R Fisher Pam Marchand 荒木 靖 石田 恵子 祢屋 俊昭
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.F0351, 2004

【目的】近年,我が国では食生活の欧米化とともに高齢化社会を迎へ,血管病変に基づく末梢循環障害が医学的のみならず社会的にも問題になっている。これら末梢循環障害の保存的療法として,我が国では,人工炭酸泉浴が臨床応用され多数の改善例が報告されている。この人工炭酸泉浴による治療効果は血管拡張による循環の改善によるものと考えられている。我々は,これら人工炭酸泉浴の優れた治療効果は単に血液循環の改善によるものでなく血管新生によって得られるのではないかと考えた。血管内皮細胞増殖因子(VEGF: vascular endothelial growth factor)は血管内皮細胞に対して特異的に作用し,血管新生を促進する。今回,人工炭酸泉浴の血管新生作用を検討する目的で,糖尿病性潰瘍の2症例に対して人工炭酸泉の下肢連浴を行い血清中のVEGF濃度を評価した。<BR>【方法】対象は下肢に糖尿病性潰瘍を有する63歳の男性および44歳の女性の2症例とした。患者は坐位にて35&deg;Cの不感温度の人工炭酸泉浴を15分間の下腿局所浴として毎日1回実施した。人工炭酸泉の作成には高濃度人工炭酸泉製造装置カーボセラ・ミニMRE-SPA-CTM(MITSUBISHI RAYON ENGINEERING CO. LTD)を用い,その濃度は1000ppmに調整された。6週間にわたる人工炭酸泉連浴が行われ,連浴実施直前,連浴実施1週間経過時点,連浴実施6週間経過時点において採血を行い血清中のVEGF濃度をQuantikine M (R&D systems)を用いELIZA法により定量した。評価は人工炭酸泉連浴実施前の値を基に連浴実施後の値を正規化したデータについて行われた。なお,患者には実験趣旨の十分な説明を行い同意を得た。<BR>【結果】症例1のVEGF濃度は連浴実施1週間経過時点152.2%,連浴実施6週間経過時点130.0%となった。症例2のVEGF濃度は連浴実施1週間経過時点112.5%,連浴実施6週間経過時点70.8%となった。<BR>【考察】糖尿病性潰瘍の症例に人工炭酸泉浴を実施したところ連浴実施1週間経過時点でVEGF濃度の上昇が認められた。連浴実施6週間経過時点で症例1ではVEGF濃度が上昇したが,症例2では連浴実施前よりもVEGF濃度が低下した。これは,この連浴実施6週間経過時点で下肢の潰瘍が治癒していたことから,潰瘍の治癒によりVEGF濃度が減少したものと考えられた。今回の症例から,糖尿病性潰瘍に対して人工炭酸泉浴はVEGFの発現を促進し血管新生作用を有する可能性が示唆された。今日では,末梢循環障害に対してVEGFやHGFなどの血管新生増殖因子のDNAプラスミドまたは骨髄細胞を筋注し新たに血管を再生させようとする血管新生療法が注目され,臨床応用が始まっている。人工炭酸泉浴はこういった血管新生療法を助ける保存的療法と成りうる可能性が示唆された。
著者
松尾 篤 吉川 歩実 森岡 周
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】医療者と患者間のコミュニケーションの成功は,最良の理学療法を提供する上で重要な要素であることは言うまでもない。また,チーム医療の実践においても患者やスタッフ間での有機的なコミュニケーションは欠かすことができない。コミュニケーションにおける非言語的要素の例としては表情が挙げられ,臨床場面においても患者の表情から感情を読み取り,他者の心的状態を理解しようとする行為とともに理学療法が実践されている(Roberts L, 2007)。しかしこれまでの研究では,他者の表情から感情理解を行う際の自身の表情について十分に議論されていない。対人コミュニケーションという双方向性の社会的行動という観点から考えると,表情を読み取る側の表情変化にも注目すべきであると考える。また,他者の感情理解の性差に関する報告は存在するが,一定の見解は得られていない。そこで本研究では,理学療法における情意領域の教育にとっても重要な他者の感情を理解する際の自己の表情変化の影響と性差を検討し,また他者意識の高さと感情理解の関係性を検証することを目的とする。【方法】研究参加者は健常大学生99名(男性45名,女性54名,平均年齢21.08±1.1歳)とし,全参加者がアジア版Reading the Mind in the Eyes Test(野村・吉川:2008,以下,RMET)を実施した。RMETでは,ノート型PC画面上に男女様々な目の写真を2秒間提示し,その後画面上に目の写真が表す感情を含んだ4種類のテキストが提示された。参加者は,可能な限り速く,写真が表す感情を示す正解テキストに対応したボタンを押すことで回答した。練習セッションを10画像実施し,その後に36画像の実験セッションを行った。RMETの実施条件として,参加者を以下の3群に割り付けた。模倣群では,提示された目の画像を自身で模倣するよう指示し,模倣しながらRMETを実施した。パック群では,参加者の顔にフェイスパックを設置し,表情を固定した状態でRMETを実施した。コントロール群では,特に事前処置,口答指示を与えずにRMETを実施した。表情筋の活動を捉えるため,筋電図にて皺眉筋の活動をモニターした。アウトカムは,RMET正答率,他者に対する内的・外的意識を質問紙で回答する他者意識尺度とした。統計分析は,RMET正答率の群間・男女比較にMann Whitney test,Kruskal-Wallis testを使用し,RMET正答率と他者意識尺度の関係性にはSpearmanの順位相関係数を使用して分析を実施した。【結果】RMET正答率の群間比較において,男性では模倣群がパック群と比較して有意に高い正答率(P<0.05)であったが,女性では3群間に有意な差を認めなかった。RMET正答率の男女比較では,男性に比べて女性の正答率が有意に高く(P<0.05),また女性は提示画像の性差に関わらず同様の正答率であるのに対して,男性では女性画像提示時よりも男性画像提示時のRMET正答率が有意に高かった(P<0.05)。RMET正答率と他者意識尺度の相関分析では,男性においてのみ有意な正の相関関係を認めた(r=0.3,P<0.05)。【考察】女性は男性よりも他者の感情理解に優れており,男性においてのみ他者の表情を模倣することによって感情理解が促進された。これには脳の機能的性差と性役割や環境要因が関係していると考えられる。女性では,共感に関与する言語関連領域が男性よりも広範囲に存在しており,また子育てなどの共同体中心的な性役割を有していることからも他者理解に優れていると考えられる。一方,男性では狩猟採集民としての男性社会での競争,権力,社会的地位などの性意識や環境要因が強く,他者との共存,あるいは他者,特に女性を理解することに困難を経験すると言われている(Schiffer B, 2013)。しかしながら,他者の表情を模倣することで,他者理解が促進されることから,模倣による脳内の言語関連領域や共感システムの活性化が関与していることが示唆される。理学療法教育の現状では情意面に対する具体的な教育実践が不十分である。今後は,言語・非言語情報を含めた医療コミュニケーションを主軸とした,医療者として患者を理解するという共感的行動を育むような実践的教育が必要であると考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は,他者の感情理解と自己の表情表出の関係性および性差を扱った研究である。理学療法学との関連性は,医療コミュニケーションは理学療法の根幹に位置する重要な要素であり,チーム医療の推進にとっても大切な要因である。本研究の結果が,理学療法の成果を支える対人行動時の共感メカニズム解明の一助を果たした意義は大きいと考える。
著者
河島 常裕 玉木 彰 木村 雅彦 石川 朗
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.D0851, 2007

【はじめに】<BR>アレルギー性気管支肺アスペルギルス症(以下ABPA)は、気管支内にアスペルギルスが腐生しアスペルギルス抗原に対するアレルギー反応で、多量の喀痰と喘息様発作、肺浸潤を繰り返す疾患であり、急性増悪を予防するためには喀痰喀出が重要である。今回、毎日の喀痰喀出が必要な症例において、修学旅行先で理学療法士の連携により無事に修学旅行を終了できた症例を経験したので報告する。<BR>【症例および経過】<BR>16歳女性。疾患名:ABPA。小学生の頃から「喘息」「副鼻腔炎」と言われ、治療を受けてきたが改善が見られず、平成16年12月近医にてABPAと診断され、平成17年5月当院初診。以降、当院にて内服治療、排痰を中心とした呼吸理学療法、家庭内での排痰手技、生活指導等を実施。その後ABPAの急性増悪と肺炎を発症し入退院を繰り返す。平成18年2月、右肺全摘術の外科的治療を考慮して入院。医師から本人、家族に対して厳しい病状説明があったが、結果的に外科的治療はせず、内服治療と呼吸理学療法を続けていく方針となる。8月、本人の高校入学時からの楽しみであった、北海道から京都、東京への修学旅行を迎えるにあたり、「人生最後の旅行になるかもしれない」「どうしても行かせてあげたい」という家族や当院スタッフの意向により準備を開始した。学校側とは担任教諭、学年主任、養護教諭と十分に話し合いをもち、緊急対応時などの確認などを行った。学校側は非常に協力的であり、旅行会社、航空会社に対して協力を依頼。病院側からは病状の急性増悪を防ぐための薬物調整、緊急時の紹介状の発行、連絡体制の確認、旅行先でのリハビリテーション支援体制の依頼などを行った。リハビリテーション支援体制においては、修学旅行のスケジュールや本人の体調を考慮して、一日おきに実施できるように調整した。また、旅行先では本人、担任教師、滞在地の担当理学療法士、当院理学療法士と常に24時間連絡が取れる体制をとった。その結果、京都、東京の滞在ホテルにて各1時間排痰を実施し、4泊5日の修学旅行をトラブルなく終了できた。<BR>【考察】<BR>毎日、昼は学校の保健室での自己喀痰、朝と夜は母親の排痰手技による痰の喀出を行っており、自分だけでは不十分である。加えて、修学旅行では活動量の増加、生活パターンの変化、環境の変化などにより、急性増悪が予想された。これに対し、一日おきにPTでの対応、緊急時の体制を確立することにより、無事に終了できたと考えられる。今回は、すべてボランティアでの対応であり、特別な症例と考える。しかし、QOL向上のためには適切な対応であったと思われる。<BR>
著者
小林 まり子 森 佐苗 徳森 啓訓 小林 隆司 原田 和宏
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.E3P1234, 2009

【背景と目的】<BR> 加齢や疾病に伴う歩行能力の変化では,歩容の側面からも重要な情報がもたらされることが少なくない.Wolfsonら(1990)は,転倒予防のための16項目の歩行観察評価を作成し,Gait Abnormality Rating Scale(GARS)として報告した.VanSwearingenら(1996)は,改訂版GARSの信頼性と妥当性を示すと共に,それが虚弱高齢者の転倒危険性を反映することを明らかにした.改訂版GARSは 7項目で構成され,それぞれ0~3までの4件法で評価し,点数が高いと歩行が不良とされる.今回我々は,改訂版GARSを遠隔環境下で実施し,この評価の使用可能性を検討したので以下に報告する.<BR><BR>【対象と方法】<BR> 対象は,当院入院中の女性患者5名(平均年齢80.0±6.4歳)とした.疾患の内訳は腰椎圧迫骨折1名、変形性股関節症1名、変形性膝関節症1名,大腿骨頚部骨折1名、膝蓋骨骨折1名であった.全員歩行可能で,認知面の問題はなかった.ヘルシンキ宣言に基づき,対象者には本研究の主旨と方法に関して説明を十分に行い承諾を得た.<BR>対象者に,片道3mの直線コースを2往復してもらった.床面は木製であった.危険防止のためセラピストが横についた.コースから垂直斜め横3mの地点にノートパソコン(pentiumM-1.2GHz, 1GB-RAM, WindowsXP)とウエッブカメラ(Qcam9000)を設置した.skype(ver.3.8)のビデオ通話機能を利用して,歩行の様子をイントラネット(100Mbps)で接続した別室のパソコン(pentium4M-2.2GHz, 1GB-RAM, WindowsXP)にて別のセラピストが観察した.SkypeのビデオをTapur ver1.3にて25fpsで録画するも,コマ落ちが目立つため遠隔ではライブ評価のみとした.遠隔評価と同時に、デジタルビデオ(69万画素)でミニDVカセットに歩行の様子を撮影しておき,1週後に,その映像を必要なだけ見直しながら,原法どおりに評価をおこなった.<BR> 遠隔評価とビデオ評価との一致率と相関係数を求め精度を検討した.<BR><BR>【結果】<BR> 遠隔とビデオ評価との各項目の一致率は60~100%で,全評価項目では77%であった.総合得点のspearmanの順位相関係数は0.9(p=0.037)と相関を示した.<BR><BR>【考察】<BR> 改訂版GARSは,skypeを用いた遠隔環境下のライブ観察でもある程度の一致度が得られることがわかった.しかし,評価を正確に行うには,高スペックのパソコンで映像を録画できることが必要である.また,今回は在宅の環境を想定して歩行距離を3mとしたが,原法に従って10m程度に伸ばすことや側面画像を送ることが精度向上につながると考えられた.今後はセキュリティーの問題を検討し,インターネット環境下でこれを実施する必要がある.
著者
増田 一太 篠田 光俊 松本 祐司 中宿 伸哉 宇於崎 孝 林 典雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Cb0496, 2012

【はじめに、目的】 座位姿勢における腰痛は、一般的に椎間板障害をはじめとする退行性変性疾患に多く合併する症状であるが、椎間板障害はほとんどない若年期に出現するこの種の腰痛は、若年者特有の病態が予想される。本研究の目的は、当院にて椎間関節障害と診断された若年期の症例に対し、座位時の腰痛の有無による理学所見、X線所見の違い、また、座位姿勢時の重心動揺に特徴があるのか否かについて検討したので報告する。【方法】 2009年4月から2011年4までに当院を受診し椎間関節障害と診断された症例の内、15歳以下の症例52例を対象とした。対象を一般に言う体育座り時に腰痛を訴える32例(以下S群:平均年齢11.4歳)と座位時以外の腰痛が主体の20例(以下F群:平均年齢13.3歳)に分類した。座位姿勢の重心動揺の計測には、無作為にS群より21例(以下S2群:平均年齢12.5歳)、F群より7例(以下F2群:平均年齢12.7歳)を抽出した。また、腰痛を有さない正常例14例(C群:平均年齢11.5歳)も併せて計測した。理学所見の検討として、体幹の伸展及び屈曲時痛、腰椎椎間関節の圧痛、多裂筋の圧痛それぞれの割合を求め比較した。X線所見は立位の腰椎側面像より、腰椎前角(L1とL5の椎体上縁のなす角)、腰仙角(L5椎体後縁と仙骨背面とのなす角)、仙骨傾斜角(仙骨上面と水平線とのなす角)について両群間で比較した。重心動揺の計測は、ユメニック社製平衡機能計UM-BARIIを使用した。重心動揺計のX軸を左右軸としその軸上に左右の坐骨結節を一致させた。次に、Y軸を前後軸としこの軸上に両坐骨結節の中点が一致するように体育座りを行わせた。Y軸とX軸との交点より前方重心は+、後方重心は-で表記した。計測時間は5分間としY方向動揺平均変位(mm)を求め、S群、F群、C群で比較した。理学所見の検討にはX2検定を、X線学的検討には対応のないt検定を、重心動揺の検討には一元配置の分散分析を用い有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究の趣旨,個人情報の保護の意を本人と保護者に説明し同意を得た.【結果】 体幹伸展時痛の陽性率はS群68.8%、F群85.0%であり有意差は無かった。体幹屈曲時痛の陽性率はS群71.9%、F群30.0%と有意差を認めた(p<0.01)。腰椎椎間関節の圧痛所見の陽性率はS群65.6%、F群75.0%と有意差はなかった。多裂筋の圧痛所見の陽性率はS群81.3%、F群40.0%と有意差を認めた(p<0.05)。腰椎前彎角はS群平均29.3±9.8°、F群平均32.1±6.1°と有意差は無かった。腰仙角はS群平均40.1±7.7°、F群平均46.7±5.6°でありS群で有意に仙骨が後傾化していた(p<0.05)。仙骨傾斜角はS群平均33.1±7.1°、F群平均43.6±6.0°でありS群で有意に仙骨は直立化していた(p<0.05)。座位時重心動揺は、S2群平均-73.3±30.3mm、F2群平均-49.4±46.2mm、C群平均-53.8±43.1mmであり3群間で有意差は無かった。【考察】 椎間関節障害に特有の症状は体幹伸展時痛、椎間関節の圧痛であるが、これらに加え、特に体育座り時の腰痛を訴える若年期の症例では、体幹屈曲時痛と多裂筋の圧痛の陽性率が有意に高い事がわかった。また、X線学的にも、腰仙角、仙骨傾斜角で有意に仙骨が後傾している事が明らかとなった。つまり体育座りにおいて腰痛を訴える症例は、普段の生活から仙骨が後傾した後方重心有意の姿勢である事が伺われ、これは同時に腰部多裂筋の活動が高まると共に、筋内圧が持続して高い状態にある事が推察される。一方、実際の重心動揺の計測結果では3群間に有意差は見られなかった。しかしながら立位姿勢における仙骨の後傾は座位としてもその傾向は認められると考えられ、必然的に胸腰椎を屈曲位とすることでバランス調整を行っていることが重心動揺変位量に差が出なかった理由と考えられた。逆に、胸腰椎の過屈曲で代償した座位姿勢は、腰部多裂筋の持続収縮に加え筋膜の伸張を惹起し、筋内圧はさらに高まる結果となる。つまり、座位時の腰痛を訴える症例に有意に認められた体幹屈曲時痛や多裂筋の圧痛は、一種の慢性コンパートメント症状と考えると臨床所見との整合性が得られるところである。【理学療法学研究としての意義】 本研究は若年者にみられる座位姿勢腰痛を臨床所見、X線所見、重心動揺の面からその関連性を検討したものである。若年者腰痛を症状からカテゴライズし、特徴的な臨床所見と姿勢との関連性に言及した点で、今後さらに詳細な臨床観察に繋がることが期待される。