著者
吉松 竜貴 島田 裕之 牧迫 飛雄馬 土井 剛彦 堤本 広大 上村 一貴 鈴木 隆雄
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】虚弱高齢者における体重減少や低体重は低栄養の指標とされる。低栄養は多くの健康問題との関連が指摘されている。しかしながら,高齢者の体重と身体機能の関連を体組成と血液学的データから包括的に検討した報告は,我々の知る限りみあたらない。本研究の目的は,地域在住高齢者の歩行速度低下と体重,体格,血液学的データとの関連について検討し,老年期の歩行速度低下に関する栄養学的な知見を得ることである。【方法】本研究の対象は,愛知県大府市で行われたObu Study of Health Promotion for the Elderly(OSHPE)に参加した65歳以上の地域在住高齢者5,104名から,パーキンソン病または脳卒中の既往歴がある者,Mini-Mental State Examinationが18点未満の者,採血が困難だった者を除外した4,654名(平均年齢72.0±5.6歳,女性2,417名,男性2,237名)とした。測定項目は歩行速度,身長,体重,体組成,血液学的データとした。歩行速度は2.4mの歩行路で通常歩行を5回行わせ平均値を採用した。なお,本研究における「歩行速度低下」の判断基準は,先行研究での検討より,通常歩行速度1.0 m/sec未満と定めた。身長は立位身長とし,裸足で計測した。体重と体組成は生体電気インピーダンス方式の体組成計(TANITA社製MC-980A)を用いて衣類着用下で測定した。得られた体組成値のうち体脂肪率(Percentage of body fat:以下%BF)と四肢骨格筋指数(Appendicular skeletal muscle index:以下ASMI)を分析に用いた。血液学的データとして以下の血清濃度を得た:総蛋白(Total protein:以下TP),アルブミン(Albumin:以下Alb),中性脂肪(Triglyceride:以下TG),総コレステロール(Total cholesterol:以下T-Cho)。統計学的分析として,第1に,測定値の群間比較を行った(t-test,χ<sup>2</sup>-test)。その際,検定の効果量も検討した。第2に,多重ロジスティック回帰分析により,歩行速度低下に関わる因子を抽出した。単変量分析にて有意差と一定の効果量が認められた変数を独立変数として採用し,年齢,性別,精神心理機能,医学的情報などで調整した。第3に,Receiver Operating Characteristic分析を用いて,歩行速度低下に強い影響があるとされた変数のカットオフ値を算出した。【結果】歩行速度低下に分類された対象者は511名であり,全体の12%であった。歩行速度が低下した者は,そうでない者に比べ,%BFが有意に高く(31 vs 28%,p<0.001,<i>d</i>=0.38,<i>r</i>=0.29),Albが有意に低かった(4.19 vs 4.33 g/dL,p<0.001,<i>d</i>=-0.53,<i>r</i>=0.38)。T-Choにも有意差を認めたものの,効果量が低かった(200 vs 209 mg/dL,p<0.001,<i>d</i>=0.27,<i>r</i>=0.08)。Body mass index(以下BMI)とASMI,TP,TGには有意差を認めなかった。歩行速度低下を従属変数,%BFとAlbを独立変数とした多重ロジスティック回帰分析では,調整後も両変数の有意性が保たれた(%BF[1%あたり],Odds ratio=1.05,p<0.001;Alb[0.1 g/dLあたり],Odds ratio=0.90,p<0.001)。歩行速度低下に対するAlbのカットオフ値は4.25 g/dLであった(Area under the curve=0.64,感度0.64,特異度0.43)。【考察】歩行速度が低下している地域在住高齢者は,そうでない者と比べて,体格(BMI)や四肢筋量(ASMI)は同程度だったが,%BFが高く,Albが低かった。地域在住高齢者にはサルコペニック肥満が潜在していることが懸念される。Albは,基礎情報での調整後も歩行速度低下と強く関連しており,地域在住高齢者の身体機能を検討するために重要な指標であることが示唆された。しかしながら,以上は横断研究による結果であるため,血液学的データと身体機能低下の関連についての更に明確な根拠を得るためには,縦断的検討が必要である。【理学療法学研究としての意義】地域在住高齢者の身体機能を維持するためには,単に体重減少に着目するのではなく,体組成を考慮して体重管理を行う必要がある。本研究で示されたAlbのカットオフ値(4.2 g/dL以下)は,地域リハビリテーションにおいて,虚弱に陥り易い高齢者をスクリーニングするための新たな参考値として活用できる可能性がある。
著者
重松 康志 横山 茂樹 竹ノ内 洋 塩塚 順
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0976, 2004

【はじめに】<BR>(社)長崎県理学療法士会では平成11年より全国高等学校野球選手権長崎大会準々決勝からスポーツ外傷(以下、外傷)の予防やリコンディショニングを目的として、現場に会員を派遣してストレッチングやアイシング等のサポート活動を実施してきた。この活動を通して、外傷を有する選手が不安を抱えたまま試合に出場することもしばしば見受けられた。この現状を踏まえ、長崎県高校野球連盟(以下、高野連)と協力して、試合等で発生した外傷の状況とその経過を把握することを目的に調査を実施したので報告する。<BR>【対象および調査方法】<BR>県下高等学校硬式野球部所属の選手を対象に自己記述選択方式でアンケート調査を行った。内容は、「スポーツ外傷の有無・部位・状態」「復帰状況」「通院形態」等17項目について調査した。高野連所属の60校全てから回答があり、内訳は1年生461名、2年生535名、3年生11名、合計1007名であった。調査期間は新人戦終了後の平成15年9月中旬から10月上旬とした。<BR>【結果および考察】<BR>過去6ヶ月以内の外傷は475名(47.1%)で、外傷部位では肩、腰、肘の順に多く、競技特性が見受けられた。また371名(36.8%)の選手が痛み等の自覚症状を持ちながら試合等へ出場する現状が窺われ、外傷を有した選手の約8割に及んだ。一方、外傷予防を意識的に取り組んでいる選手は790名(78.5%)であり、関心が高い傾向にあった。その大半はストレッチングやアイシングの施行等、ウォーミングアップやクーリングダウン(以下、アップ等)を行っていた。このように多く選手が、外傷予防の意識は高く、アップ等を施行しているが、痛みや体調に不安を持つ選手が多い現状から、一般的なストレッチングではなく外傷予防に向けたストレッチング方法等について、我々理学療法士が専門的立場から指導していく事が求められていると考えられた。<BR>通院については、466名(46.3%)の選手が行っており、病院が56.3%、整骨院などが43.6%であった。頻度は、週1回程度の通院が321名中165名(51.4%)、週3回以上が146名(45.5%)、毎日通院が10名(3.1%)とごく少数であった。この様に自覚症状を有する殆どの選手は練習に参加しつつ治療に取り組んでいるが、約半数が病院以外で対応されている現状が窺われた。<BR>【まとめ】<BR>今回の調査結果から、過去6ヶ月(約1シーズン)において選手の約半数が痛み等を訴えて通院している現状を窺うことができた。また痛みを持ちながらも試合等へ参加する選手が全体の1/3程度を占めていた。このような状況から選手が痛みを訴えられる環境づくりが必要不可欠である。そのため今後は、選手自身の自己管理能力の向上や指導者の外傷に対する知識の啓蒙活動、さらに地域医療機関と連携できる支援体制を組織化していくことが課題であると思われた。
著者
新谷 和文 古川 裕子 大川 久美子 宮下 亜衣 本郷 富 瓦林 啓介 古島 悦子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.G0954, 2006

【はじめに】病院等の施設におけるインシデント・アクシデントレポートは、転倒・転落事故が最も多いことが報告されている。<BR>転倒・転落には身体機能・薬物・認知・環境など多様な要因があるといわれている。また、抑制廃止や活動向上などの対策は、リハビリテーションの効果を上げる要因ではあるが、転倒のリスクは向上するといえる。そこで転倒・転落事故減少を目的とした多職種によるチームを作り、会議とカンファレンスを開催したのでその内容を紹介する。<BR>【転倒・転落事故の実態】当院での平成15年10月から平成16年9月の1年間のインシデント・アクシデントレポートは385件で、うち転倒・転落に関するものは134件(34.8%)と最も多く、月別の発生件数件数では新入職員や部署異動の4月が21件と最も多かった。また、リハビリテーション科の転倒・転落事故は55件で、うち担当以外の患者様を受け持った時の事故は12件(21.8%)であった。当院のセラピストが担当以外の患者様を受け持つのは1~2週間に1度でありこの発生率は高率といえる。これらは転倒・転落事故は患者様を正確に把握していないことが大きな原因と考えられた。<BR>【会議・カンファレンスの開催】転倒・転落事故防止を目的とした会議、カンファレンスを平成17年6月より開始した。<BR>会議・カンファレンスとも月に一度行っている。転倒・転落防止会議は看護師およびリハスタッフで行っている。主な議題は、転倒・転落に関する事故報告・環境面の改善策・危険者のスタッフへの周知・予防のための知識についての教育などである。<BR>また、転倒防止カンファレンスは会議のスタッフに薬剤師・管理栄養士を追加した多職種で開催している。主な内容は転倒危険者の正確な把握とその対策である。まず、病棟看護師から転倒危険者をリストアップしてもらい、各部署が評価を行っている。具体的には看護師が転倒スコアのチェックおよび病棟での危険行為状況、理学療法で身体機能(ファンクショナルリーチテスト)および自己管理能力、作業療法・言語聴覚士による認知機能(HDS-R)、薬剤師による転倒関連の薬剤チェック、管理栄養士による栄養面のチェックなどを行い、カンファレンスを開催している。これにより多方面での転倒リスク把握に努めている。また、これらの評価をもとに対策を立てスタッフに周知している。<BR>【考察】転倒防止のための会議・カンファレンスを開催し、センサーマット購入、ベッドのキャスターの固定性向上、ポータブルトイレの正しい使い方の徹底など転倒防止のための成果が徐々に見られてきている。また、各部署による転倒の評価を行うことにより、転倒危険者の正確な把握が向上してきており、転倒発生状況は減少傾向のように思える。今後は、この会議・カンファレンスが転倒・転落事故防止に成果をあげているかどうかを検討する予定である。<BR><BR>
著者
春名 匡史 板野 哲也 立花 孝 田中 洋 信原 克哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】Wind-up期である,踏み出し脚の膝が最も高く挙がった時点(以下KHP:Knee Highest Position)における体幹アライメントや身体重心位置が,early cocking期である踏み出し脚接地時(以下FP:Foot Plant)に影響を及ぼすといった報告が散見される。しかし,この点を定量的に検討した報告はほとんど見当たらない。そこで今回,KHPにおける体幹アライメント・身体重心位置が,FPの体幹アライメントに実際に影響を与えるか否かを定量的に検討した為報告する。【方法】対象は,踏み出し脚の膝を軸脚側の上前腸骨棘より挙上して投球を行った様々な競技レベルの野球選手55名とした(年齢9-30歳)。左投手は右投手に変換して分析を行った(以下左右は右投手を想定して記載する)。KHPにおける上半身重心位置,骨盤左回旋・後傾角度,体幹伸展・右側屈角度の5つの変数群と,FPの骨盤左回旋角度,体幹伸展・右側屈角度の3つの変数群に対し,正準相関分析を行った。なお,重心位置と体幹・骨盤角度では単位が異なる為,変数は標準化を行った。上半身重心位置は合成重心法により算出した点の,水平面上における軸脚足部長軸方向の位置を,つま先方向を正として求め,軸脚足部長軸の長さで規格化した。骨盤運動はカメラ座標系に対する骨盤座標系の回転を,体幹運動は骨盤座標系に対する胸部座標系の回転をそれぞれオイラー角で表現した。有意水準は5%とした。【結果】正準相関分析の結果,第1正準変量では,正準相関係数がr=0.656(p=0.002)で,正準負荷量は,KHPの変数群では上半身重心=-0.017,骨盤左回旋=0.518,骨盤後傾=-0.915,体幹伸展=0.963,体幹右側屈=0.007であり,FPの変数群では骨盤左回旋=0.072,体幹伸展=0.914,体幹右側屈=-0.268であった。KHPの体幹屈曲伸展,骨盤前後傾,骨盤回旋,上半身重心,体幹側屈の順に,FPにおける体幹伸展への影響度が高かった。第2正準変量以下は正準相関係数が有意でなかった。【結論】本検討の結果より,KHPにおいて体幹がより伸展位,骨盤がより前傾位であると,FPの体幹伸展が大きくなると考えられた。しかし,有意な正準相関係数が認められ,正準負荷量が高値であったものは,FPの変数群では体幹伸展のみであった。FPでの不良動作として頻繁に述べられる,「体の開き」を表すと考えられるFP骨盤左回旋等は,KHPによる有意な影響はみられなかった。つまり,KHPによるFPへの影響は,定量的には限定的であった。この為,実際の臨床において,KHPの影響によりFPの不良な体幹アライメントが生じていると考える時は,慎重な検討が必要である。
著者
高橋 崇太 岡坂 政人 白井 唯
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.CbPI2286, 2011

【目的】<BR> 今回、神奈川県体育協会(以下県体協)から依頼を受け、第65回国民体育大会(千葉国体)に、山岳競技神奈川県代表トレーナーとして帯同する機会を得た。同大会の山岳競技に於るトレーナーの帯同は今回が初の試みであり、チームスタッフ間の連携や選手への関わり方に課題は残った。しかし、概ね良好な活動が出来たと考えている。<BR> そこで、活動内容を報告すると共に、帯同にて明らかになった今後の課題と対策についても述べてみたい。<BR>【方法】<BR> 活動期間は平成22年10月1日から4日である。大会前には、施行内容、携帯備品検討のため、選手に身体状況をアンケートにて情報収集した。大会中のトレーナーは選手隔離場所であるアイソレーションルーム(IR)に1人、会場に2人の理学療法士を配置した。また、宿舎での処置も行った。<BR> 携帯器具は、治療用ベッド1台、治療用マット2枚、クーラーボックス2個、アイシングバッグ6個、低周波1台、EMS1台、ホットパック、テーピング各種、アイスラブ、メンタームQ等消耗品を用意した。<BR> 主な施行内容は、競技前後のクーリング、ストレッチ、マッサージ等の徒手療法を施行した。また、希望に応じてテーピングも施行した。競技後のクーリングに関しては、クーラーボックス、またはアイスバッグの水温を10~15°に保ち施行した。<BR>【説明と同意】<BR> 事前アンケートに関しては、経験年数・現病歴、既往歴、処置希望部位の項目を作成した。アンケート回答に関しては、監督選手へ承諾を得た上で配布し記入して頂いた。<BR> トレーナーとしての活動に関しては、各選手へ現在の身体状況を説明し施行した。<BR>【結果】<BR> 事前アンケートの結果は、肩1件、前腕1件、手指1件、腰背部1件であった。また、既往歴として、手指の腱鞘炎1件、TFCC損傷1件が挙げられた。<BR> 今大会中の処置件数集計は、県体協指定の用紙により主訴部位、処置部位、処置方法の件数をまとめた。大会期間中に対応した選手数は、実人数10名、延人数28名、延件数138件であった。主訴部位は、前腕13件、手指10件、肩関節9件、腰背部17件、頸部3件、下腿1件であった。処置部位は、前腕18件、手指13件、肩関節10件、腰背部16件、股関節9件、頸部3件、下腿8件であった。処置方法はアイシング0件、マッサージ22件、低周波治療7件、テーピング2件、徒手療法5件、クーリング20件であった。<BR> 今大会中、チームの選手において障害や事故を呈することなく大会が終了した。<BR>【考察】<BR> 山岳競技は、リード、ボルダリングの2種目に分けられる。リード競技は壁に設置された金具に、自分で登りながらロープを通し、安全を確保して登っていく競技である。ボルダリング競技は一般に高さが5m位までの岩や壁を、ロープを使わずに登る競技である。今回の集計結果より、前腕、手指、腰背部の主訴、処置件数が多かった点に関して述べていきたい。2つの競技に関して共通の動作は、把持動作である。競技はホールドと呼ばれる把持物を掴み登っていく。把持動作はホールドの形が一定ではなく多種多様であり、様々な状況下で前腕屈筋群、手内在筋等に持続的な筋収縮が必要になる。そのため、筋緊張及び、筋収縮による代謝亢進による疲労物質蓄積が生じ前腕、手指の主訴件数、処置件数が多くなったと考える。また、腰背部に関しては、競技中のリーチ動作や身体重心を壁に近づけるため、腰背部の伸展が必要になってくる。今大会においても、競技が予選から決勝に進むにつれて壁の傾斜角度は増し、競技中の腰背部伸展は多く見られていた。そのため、主訴件数・処置件数が多くなっていたと考えられる。これらの部位に関しては、アンケート結果によってもその競技特性上負担がかかることが言えるのではないかと考える。<BR> 今大会における施行内容に関しては、上記内容に対するクーリンング、マッサージが多くなっていた。クーリングは一般的に筋温、皮膚温の低下による代謝抑制、疲労物質蓄積の防止を目的に行う。大会中競技後は選手終了通告と呼ばれる宣言が出るまで、選手は控え場所に待機していなければならなかった。そのため、競技直後にはクーリングを施行出来ない場面もあった。今後はその様な状況下においてどのように選手に処置を施していくかが検討課題である。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 国民体育大会での山岳競技における、代表選手トレーナーとしての帯同は今回が初であった。今後、山岳競技はその競技特性上、局所への負担が大きく特に手指、前腕等に関しては、競技を継続していく上で重要な部位である。そのため、継続的な経過観察、障害特性の探索を行っていくことで選手のパフォーマンス向上及び、選手の競技継続年数の延長、競技中の障害防止に繋がると考える。
著者
八谷 瑞紀 村田 伸 大田尾 浩 久保 温子 松尾 奈々 甲斐 義浩 溝田 勝彦 浅見 豊子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】歩行能力の評価は,5mや10mの短距離における歩行時間を計測することが多い。しかし,元気高齢者では天井効果のために適切に身体機能を把握できない可能性がある。そこで我々は,高齢者のための新たな歩行能力評価法として,多くの施設で確保されている10m歩行路を利用した50m歩行時間を考案した。本研究では,50m歩行時間の有用性について,男性元気高齢者を対象に50m歩行時間中のlap間の所要時間の変化を検討し,つぎに50m歩行時間および5m歩行時間を測定し,下肢筋力,持久力,バランス能力との関連について検討した。【方法】対象は,地域在住の高齢者用フィットネスジムを利用している男性13名(年齢71±3歳)とした。なお,対象者は,自宅生活が自立しており,自家用車などで自ら調査に参加できる者であった。歩行能力の評価は,50m歩行時間のほか5m歩行時間を実施した。身体機能の測定項目は,大腿四頭筋筋力,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),開眼片足立ちテスト,Timed Up & Go Test(TUG)を実施した。50m歩行時間は,10mの歩行路間に配置したコーンを3往復折り返して合計60mを歩き,開始からの50mにかかる所要時間を計測する。準備するものは,10mの歩行路,方向転換時の目印(コーン),ラップ機能付きのストップウォッチである。測定方法は,開始前の姿勢は静止立位とし,コーンの横に立つ。被験者への説明として,検査者の合図で歩き出すこと,目印の外側を3往復することを伝えた。その際の歩行条件は最速歩行とした。10mの歩行路を直進し,コーンの外周で方向転換を行い,再び直進歩行を行う。3往復する間は休憩を入れず連続して歩行を行う。ストップウォッチの操作は,歩行開始から40m(2往復目)までは10mごとにラップ計測を行い,50m終了時にストップを押す。記録する評価項目は,50m歩行の所要時間(秒),およびラップ機能で計測したlap1~lap 5の10mごとの所要時間(秒)である。実施する上での注意点として,下記の3点を説明した。第一に,最初に立つ位置は,コーンの左右どちらでもよいこと。第二に,歩行補助具の使用を認めた。しかし,方向転換時に杖をコーンの内側についたり,触れたりすることがないように配慮した。このほか,歩行補助具を使用しない場合であっても,コーンに触れないように事前に説明を行った。第三に,安全確保を最優先に考慮し転倒などの事故には十分に注意した。統計学的分析方法は,対象者の50m歩行時間の方向転換を含まないlap1を除く,lap2からlap 5までの各ラップから得られた所要時間を一元配置分散分析にて比較した。また,50m歩行時間および5m歩行時間の測定値と,身体機能の測定値との関連をピアソンの相関係数を用いて検討した。なお,統計解析にはSPSS19.0(IBM社製)を用い,有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,ヘルシンキ宣言に基づいて行われた。対象者に研究の趣旨と内容を十分に説明し,同意を得たうえで測定を開始した。また,研究の参加は自由意思であること,参加しない場合に不利益がないことを説明した。本研究は,事前に施設の施設長の承認を得て実施した。【結果】50m歩行時間のlap2からlap5までに得られた所要時間を比較した結果,すべてのラップ間に有意な差は認められなかった(F=0.16,r=0.92)。歩行能力と身体機能との関連をみたところ,50m歩行時間と有意な相関が認められたのは,大腿四頭筋筋力(r=-0.62,p<0.05),CS-30(r=-0.90,p<0.01),開眼片足立ちテスト(r=-0.70,p<0.05),TUG(r=0.89,p<0.01)であった。一方,5m歩行時間と有意な相関が認められたのは,大腿四頭筋筋力(r=-0.57,p<0.05),TUG(r=0.58,p<0.05)であり,CS-30,開眼片足立ちテストとは有意な相関が認められなかった。【考察】本研究の結果から,50m歩行時間のlap2からlap5の所要時間において有意な差が認められなかったことより,男性元気高齢者では最速歩行を50m行っても,lap間による所要時間の落ち込みはないことが確認された。一方,50m歩行時間は,今回測定を行ったすべての身体機能と有意な相関が認められ,5m歩行時間は,大腿四頭筋筋力,TUGと有意な相関が認められた。以上のことから,5m歩行時間は男性元気高齢者の歩行能力を適切に表すことが困難である可能性が示めされた。また,50m歩行時間は,下肢筋力,持久力,バランス能力と関連が認められたことから,男性元気高齢者の歩行能力を適切に表す歩行能力評価法である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】身体機能の評価は,対象者の現状を正確に表せる指標であることが求められる。50m歩行時間は,高齢者の歩行能力を適切に評価する指標として期待できる。
著者
野原 隆博 新村 核 小木曽 沙織
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P2340, 2010

【はじめに】<BR> 当院は月間平均350台の救急車を受け入れている急性期病院である.病状に応じて入院日に医師より処方され,訓練が開始となる早期リハビリテーション医療を提供できる体制を整えている.急性期病態で訓練を実施する際,リスク管理が重要となりハイリスクの状況の中,より安全で,充実した訓練を実施する必要がある.と同時に,医師・看護師だけでなく,コメディカルスタッフも急変時に際して対応できる知識・技術を習熟する必要がある.なぜなら,現代のリスクマネジメントのあり方としては当然の事と考えるからである.<BR> 今回,当院脳神経外科専門医の協賛のもと,理学療法士(以下PT)をはじめとするコメディカルスタッフ対象にBLS(一次救命処置)・ACLS(二次救命処置)勉強会の活動を行ったので考察を加え以下に報告する.<BR><BR>【目的】<BR> 急変時に際して対応できる知識・技術の向上を目的とした.<BR><BR>【方法】<BR> 当院PTをはじめとするコメディカルスタッフ対象に, AED(自動除細動器)を用いた心肺蘇生法であるBLS(一次救命処置),及び除細動器,薬剤を用いた心肺蘇生法であるACLS(二次救命処置)に関する基礎知識の講義及び実技を中心に勉強会を行った.<BR><BR>【説明と同意】<BR> 勉強会にあたり,当院脳神経外科専門医に同意を得て協賛のもと行った.<BR><BR>【結果】<BR> 勉強会にはリハビリテーション科スタッフ全員参加,また看護師・臨床工学技師・レントゲン技師など多職種の参加があった.勉強会実施後のアンケートでは,「急性期病院に従事する者として有意義な講義であった.」などの意見が多く,救命救急に対しての関心が高まった結果となった.<BR><BR>【考察】<BR> 今回,主にBLS(一次救命処置)に重点を置き勉強会を行ったが,医療従事者であるPTは,より高度な救命処置を提供できるようACLS(二次救命処置)まで理解しておく必要があると考える.臨床の場においては,急変時に対する救命処置を実施するのは医師・看護師が中心となるが,実際にPTがサポートできるよう知識・技術を習得しておくことは重要なことであり,そういった体制を整えていることで,リハビリテーション業務をより安全に行うことができると考える.<BR> 今後の展望として,当院ではPTが中心となり急変時に対する勉強会の活動を継続して行うべく,日本救急医学会認定の講習会に随時参加して質を高めるよう努めている.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 近年,PTが従事する環境は,病院・クリニック・施設に留まらず,在宅や予防教室,スポーツ大会など多岐にわたっている.そのため,医療従事者がPTのみという場面もありうる現状において,PTはリスク管理に努め,緊急時の対応方法を熟知しておく必要があり,BLS(一次救命処置)・ACLS(二次救命処置)の知識・技術を習得しておくことは重要であり,PTが積極的に活動しなければならない分野でもある.<BR><BR>
著者
大沼 剛 戸津 喜典 阿部 勉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P1223, 2010

【目的】<BR>地域在住高齢者の過去一年間の転倒発生率は本邦では約20%といわれている。一方、パーキンソン病患者の転倒発生率は高く、外来通院パーキンソン病患者の過去一ヶ月間の転倒率が67.7%との報告がある。また、Woodらは転倒率が68.3%であったと報告している。さらに、一週間に13%転ぶといった報告もある。一日に複数回転倒をしているパーキンソン病患者も多く、認知機能障害を併せ持つ患者も多いため、転倒に関する記憶が不明確となっている可能性がある.そのため今回、転倒を高頻度に繰り返すパーキンソン病患者一症例に対し、療養日誌を用いて転倒の詳細について記録した。本研究の目的は、重度パーキンソン病患者の転倒実態について調査することである。<BR>【方法】<BR>対象は訪問リハビリテーションを行っているHoehn & Yahr分類IVの重度パーキンソン病患者一症例(女性、年齢64歳、罹患年数9年)である。ADL状況は、屋内はほぼ自立しており、屋内歩行は四点歩行器を使用し、布団にて寝ている。脊柱変形があり立位は前傾姿勢著明である。服薬状況は、ドーパミンアドニストを5種類朝食後、昼食後、15時、夕食後の4度に分けて服用している。<BR>転倒調査方法はカレンダー式の日誌を用いて転倒の有無について調査した。転倒場所は「居間」「台所」「その他」の3つに分類し調査した。また、自覚的体調を把握するため、「5:非常によい」「4:良い」「3:普通」「2:悪い」「1:非常に悪い」の5段階で自己評価し「朝」「昼」「夕方」「夜」の4回記録した。調査期間は平成21年4月1日から9月30日の6ヶ月間行った。また観察期間として、療養日誌導入前に1ヶ月間、週一回の訪問時に転倒についての聞き取り調査をした。訪問時の介入内容としては、歩行練習として、四点歩行器の操作方法の指導、筋力維持・向上練習、筋ストレッチ、療養指導を行った。<BR>【説明と同意】<BR> 対象者には本研究の主旨を十分に説明し、書面にて同意を得た。<BR>【結果】<BR> 観察期間の1ヶ月では聞き取り調査した当日及び前日に、一日2~3回転倒があったと答えた。調査期間の6ヶ月間の総転倒回数は117回であった。また一日の転倒率は47%で少なくとも二日に1度は転倒していた。一日に最も多く転倒した回数は9回であった。外傷を伴う転倒はあったが、骨折など病院受診を必要とする転倒はなかった。月別の転倒率は7月が58%と最も高く、8月が39%と最も低かった。転倒場所は、居間が35%、台所が54%、その他は11%で、その他の場所としてはベランダが多かった。自覚的体調の平均は「朝:3.1」「昼:2.9」「夕方:2.6」「夜:2.5」であり、朝が最も良く、夜が最も体調が悪かった。<BR>【考察】<BR> 今回、重度パーキンソン病患者一症例に対して療養日誌を用いて転倒に関する調査を実施した。転倒回数は117回であり、1日の転倒率は47%であった。Moritaらは、姿勢調節障害、突進現象、すくみ足、重度のパーキンソン病患者に特徴的なジスキネシアが転倒と関係していると述べている。またパーキンソン病患者の姿勢調節障害やすくみ足は薬物治療などの治療に反応しにくく、転倒の大きなリスクとなる。重度のパーキンソン病患者でベッドからの転倒・転落や移乗動作時の転落事故が多い要因として体幹機能の低下及び姿勢調節障害により、立位のみならず座位でも不安定であることが考えられる。今回対象とした患者は2DKのマンションに居住し、主に居間で生活している。最も転倒が多かったのは台所であり、台所はトイレや浴室、冷蔵庫から物を取る場合などに動線がほとんど台所を通過するため最も多かったと考えられる。洗濯等を自分で行っているためベランダでの転倒もみられた。骨折など病院受診を必要とする転倒がなかったのもパーキンソン病患者における転倒の特徴の一つと考えられる。パーキンソン病患者の場合、体幹機能の低下及び姿勢調整障害により崩れるように転ぶことが多く、今回の対象者も尻餅をついたと後方に転倒することが多かったと述べている。<BR> 転倒を多く引き起こすパーキンソン病患者に対して療養日誌などを用いて、自覚を促すことは必要である。転倒を高頻度に繰り返すと転倒に慣れてしまい、危険性を感じなくなる可能性がある。そのため一回一回の転倒に対して場所や状況を調査し転倒予防に努める必要がある。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> パーキンソン病患者は高頻度に転倒を引き起こすため転倒予防をはかる方略は重要である。その方略の一つとして今回の療養日誌の導入は一定の効果を出したと考えている。今後は、対象者数を増やし、パーキンソン病患者の転倒を引き起こす要因を導きだす必要がある。<BR>
著者
坂上 侑里佳 西川 典男 山本 恭詩 宮本 栄一 中家 亜由美 土谷 宏美 芝 敏貴 大古 拓史
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B4P2118, 2010

【目的】運動失調は感覚―運動系のフィードバックの障害であり、中枢である小脳系・深部感覚の伝導路である脊髄・末梢神経の病変によって生じるといわれている。小脳性運動失調に対する運動療法としては、PNF、弾性包帯緊縛法、重錐負荷法などが大きな柱となっている。<BR> 今回、髄膜腫摘出術後、小脳半球に髄膜腫が残存したことにより運動失調(測定異常、体幹失調、企図振戦)を呈した一症例に対し、弾性包帯緊縛法・重錐負荷法を用いた運動療法を実施することで、トイレ動作などに改善を得たので若干の知見を交えて報告する。<BR><BR>【対象】70歳代女性。平成元年に後頭蓋窩髄膜腫摘出術を施行。左顔面神経麻痺・失調を残存するも自宅にてADL自立。平成19年脳梗塞発症後、徐々に筋力低下進行、歩行困難となり移動には車いすが必要となる。平成21年7月、自宅療養困難にて当施設入所となる。入所時MRI所見として左小脳半球・左側頭葉に術後性孔脳症、右頭頂葉・左前頭葉白質に陳旧性脳梗塞を認めた。入所時理学療法所見として、Berg Balance Scale(以下、BBS)8点、FIM60点、PGCモラールスケール(以下、PGC)5点であった。尚、座位保持は安定せず、立位保持は困難であった。<BR><BR>【方法】入所時評価を第1期とし、治療開始から弾性包帯緊縛法を用いるまでを第2期、弾性包帯緊縛法のみを用いた時期を第3期、弾性包帯緊縛法・重錘負荷法の両方を用いた時期を第4期とし、各期においてBBS、FIM、PGC、座位保持時間、開脚立位保持時間を測定した。また主訴であるトイレ動作についても各期において再考した。弾性包帯は下部体幹から下肢にかけて被験者の不快でない強さで巻いた。重錘は500g重錘バンドを左下腿のみに巻いた。<BR><BR>【説明と同意】被験者には本研究の目的を説明し発表する事に同意を得た。<BR><BR>【結果】第1期から第2期の間は全ての項目で改善がみられなかった。開脚立位保持時間が第3期では20秒可能となった。また第4期では60秒可能となった。BBSは第3期以降11点、FIMは第4期において63点、PGCも11点とそれぞれ改善がみられた。BBSの加点は座位保持項目、FIMの加点はトイレ動作項目であった。<BR><BR>【考察】重錐負荷法は四肢・体幹の各部位の相互関係、運動の方向性や速度、必要な筋出力などに関する固有感覚受容器を刺激し運動コントロールを促通するために用いられ、運動の動揺性に効果があるといわれている。弾性包帯緊縛法は、四肢・体幹の動揺を抑えることと、偏移した重心の位置をより正常に近づけて潜在的な立ち直り反応を誘発することを目的に行われている。一般的に双方を合わせて用いる方が効果的であるとの報告が多い。<BR> 本症例では、重錐・弾性緊縛帯を装着することで座位・立位の安定性が得られ、トイレ動作に改善が見られた。トイレ動作が安定して実施できることで、パンツ内の失禁が減少しPGCの向上もみられた。重錐・弾性緊縛帯を用いることにより、立位時骨盤からの崩れの軽減・左下肢の接地時コントロールが行いやすくなった為と考えられる。また重錐・弾性緊縛帯を装着しない状態であっても、初期時と比較すると左下肢の接地位置、立位保持が改善されている。今後はフロア活動や外出時などに固有感覚受容器に刺激する重錐の代わりとなる簡易的な靴下やベスト等を作成するなどを検討していきたい。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】失調症の治療では動揺部分を押さえ込むだけの治療や、動作の反復ばかりの治療になりがちであるが、固有感覚への刺激を意識していくなどの重錘バンドや弾性緊縛帯の利用は有意義であると考えられる。
著者
信迫 悟志 坂井 理美 辻本 多恵子 首藤 隆志 西 勇樹 浅野 大喜 古川 恵美 大住 倫弘 嶋田 総太郎 森岡 周 中井 昭夫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】発達性協調運動障害(Developmental Coordination Disorder:DCD)は,注意欠如多動性障害(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder:ADHD)の約50%に併存し(McLeod, 2016),自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)にも合併することが報告されている(Sumner, 2016)。一方,DCDの病態として,内部モデル障害(Adams, 2014)やmirror neuron systemの機能不全(Reynolds, 2015)が示唆されているが,それらを示す直接的な証拠は乏しい。そこで本研究では,視覚フィードバック遅延検出課題(Shimada, 2010)を用いた内部モデルの定量的評価と運動観察干渉課題(Kilner, 2003)を用いた自動模倣機能の定量的評価を横断的に実施し,DCDに関わる因子を分析した。</p><p></p><p></p><p>【方法】対象は公立保育所・小・中学校で募集された神経筋障害のない4歳から15歳までの64名(男児52名,平均年齢±標準偏差:9.7歳±2.7)であった。測定項目として,Movement-ABC2(M-ABC2)のManual dexterity,視覚フィードバック遅延検出課題,運動観察干渉課題,バールソン児童用抑うつ性尺度(DSRS-C)を実施し,保護者に対するアンケート調査として,Social Communication Questionnaire(SCQ),ADHD-Rating Scale-IV(ADHD-RS-IV),DCD Questionaire(DCDQ)を実施した。MATLAB R2014b(MathWorks)を用いて,内部モデルにおける多感覚統合機能の定量的指標として,視覚フィードバック遅延検出課題の結果から遅延検出閾値(delay detection threshold:DDT)と遅延検出確率曲線の勾配を算出し,自動模倣機能の定量的指標として,運動観察干渉課題の結果から干渉効果(Interference Effect:IE)を算出した。M-ABC2の結果より,16 percentile未満をDCD群(26名),以上を定型発達(Typical Development:TD)群(38名)に分類し,統計学的に各測定項目での群間比較,相関分析,重回帰分析を実施した。全ての統計学的検討は,SPSS Statistics 24(IBM)を用いて実施し,有意水準は5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】DCD群とTD群の比較において,年齢(p=0.418),性別(p=0.061),利き手(p=0.511),IE(p=0.637)に有意差は認めなかった。一方で,DCD群ではTD群と比較して,有意にSCQ(p=0.004),ADHD-RS-IV(p=0.001),DSRS-C(p=0.018)が高く,DCDQが低く(p=0.006),DDTの延長(p=0.000)と勾配の低下(p=0.003)を認めた。またM-ABC2のpercentileとSCQ(r=-0.361,p=0.007),ADHD-RS-IV(r=-0.364,p=0.006),DCDQ(r=0.415,p=0.002),DDT(r=-0.614,p=0.000),勾配(r=0.403,p=0.001)との間には,それぞれ有意な相関関係を認めた。そこで,percentileを従属変数,これらの変数を独立変数とした重回帰分析(強制投入法)を実施した結果,DDTが最も重要な独立変数であった(β=-0.491,p=0.002)。</p><p></p><p></p><p>【結論】本研究では,内部モデルにおける運動の予測情報(運動の意図,遠心性コピー)も含めた多感覚統合機能不全(DDTの延長)が,DCDに最も重要な因子の一つであることが示された。</p>
著者
本間 佑介 平石 武士
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】成長期のスポーツ選手では,その身体特性より外傷・障害発生が問題となっている。本研究の目的は,成長期の中学生軟式野球選手に,疼痛についてアンケート調査を実施しその特徴を明らかとすることである。【方法】2015年1月に,T市中体連軟式野球部所属の19チーム(55名)に自己記入形式でアンケート調査を行った。アンケート内容は学年,ポジション,野球歴,既往歴・現病歴,過去,現在の肘・肩・膝関節疼痛の有無,1週間の練習日数(以下練習日数),1週間の練習時間(以下練習時間)の合計とした。過去,現在に肘・肩・膝関節の疼痛(以下,肘痛,肩痛,膝痛)を有する者を疼痛経験あり群,疼痛を有さない者を疼痛経験なし群とし,野球歴,練習日数・練習時間の合計の群間比較を対応のないT検定を用い分析した。解析はDr.SPSSIIfor windowsを用い,有意水準は5%とした。【結果】全回答者数55名(回収率100%)中,有効回答者数は54名(回収率98%)であった。内訳は2年生49名,1年生5名であった。ポジションは,投手13名(24%),投手と複数ポジション兼務20名(38%)であった。肘痛経験者は34名(63%)で現在「疼痛あり」と回答した選手は7名(13%)であった。肩痛経験者は28名(52%)で現在「疼痛あり」と回答した選手は7名(13%)であった。膝痛経験者は28名(52%)で現在「疼痛あり」と回答した選手は8名(15%)であった。肘・肩・膝痛経験あり・なし群の野球歴の平均値は(肘痛経験あり/なし:肩痛経験あり/なし:膝痛経験あり/なし)5.2±1.8年/5.3±1.9年:4.8±2.1年/5.7±1.4年:4.9±1.8年/5.7±1.8年で,肩痛経験に有意な差を認めた。練習日数の合計の平均値は6.4±0.6日/6.2±0.8日:6.3±0.6日/6.3±0.7日:6.3±0.8日/6.3±0.5日で,各群間で有意な差を認めなかった。練習時間の合計の平均値は18.2±5.9時間/16.3±6.3時間:18.7±6.5時間/16.3±5.4時間:17.8±7.2時間/17.2±4.5時間で,膝痛経験に有意な差を認めた。【結論】今回,肘・肩・膝関節の疼痛経験を有する者が半数以上であった。成長期の骨端は力学的にも脆弱で,疼痛が成長期特有の障害発生に起因することから,集団講習会等で障害予防の啓発が必要と考える。野球歴は肩痛経験あり群で有意に短く,その他の疼痛経験あり群において有意ではないが短かった。このような野球経験の不足により,疼痛経験あり群の投球動作が未熟な可能性が考えられる。また,対象者の過半数が投手や投手と複数ポジション兼務の選手であり投球過多が予想される。ゆえに,投球動作の未熟さと年間投球数等の量的因子が疼痛発生に関係すると考える。練習時間は膝痛経験あり群で有意に長く,その他の疼痛経験あり群において有意ではないが長かった。古賀(2007)らは成長期のスポーツ障害は膝関節を中心に下肢に多いと報告している。成長期では膝関節障害が発生し易いことから,練習量の過多が膝痛に起因している可能性が考えられる。
著者
石井 裕之 藤原 俊輔 段 秀和 永田 勝章 永田 雄三 三木 貞徳 櫛橋 輝征
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P1453, 2009

【はじめに】投球障害肘の発生は,投球動作中のlate cocking phaseからacceleration phaseにかけての肘外反による内側でのtension force,外側でのcompression forceにより生じる.特に成長期においてはこの動的アライメントに加え,身体能力の未発達・解剖上の脆弱さ,投球過多などの個人因子と練習時間量などの環境因子が相互に絡み合い投球障害肘を発生させる要因となる.一般に生理的肘外反角度は成人に比べ,成長期の方が角度が大きく,この静的アライメントである生理的肘外反角度が投球障害肘の発生要因の1つとして関連があるのかを検討した.<BR><BR>【対象と方法】2007年9月から2008年9月までの1年間,当院を受診し内側上顆剥離骨折や離断性骨軟骨炎などを診断され野球肘と認められた100名(平均年齢12.3±1.7歳)を対象群とし,2008年1月から4月までにメディカルチェックを行なった中学・高校の野球部員のうち,肘関節に投球障害の既往が無かった者109名(平均年齢14.1±1.0歳)を比較群とした.なお,両群においてはあらかじめ本調査の趣旨を説明し同意を得た.方法は,2群共に肘関節完全伸展位・回外位にて上腕骨長軸と尺骨長軸に体表からゴニオメーターを使用し角度を計測した.統計にはF検定にて2群間のばらつきが無いと判断されたため,StudentのT検定を行い,有意水準を1%以下とした.<BR><BR>【結果】生理的肘外反角度において,野球肘である対象群は14.2±3.9°,野球肘既往無しの比較群は10.0±4.4°で対象群は比較群に比べて有意に高値を示した(p<0.01).<BR><BR>【まとめ】成長期野球肘を有する対象群が野球肘既往無しの比較群に比べ,生理的肘外反角度が高値を示したことから,成長期野球肘において生理的肘外反角度が発生因子の1つとして関連があると推測された.今後,他の因子(練習時間・投球数)との関係も検討し,発生因子についてのアプローチを考えていきたい.
著者
加藤 浩 満倉 靖恵 尾崎 千万生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0074, 2008

【目的】<BR>表面筋電図(以下EMG)を用いた定量的評価は,理学療法士にとってEBMに基づいた治療を実践していく上で極めて有効な手段となる.しかし,欧米と比べ,日本においてEMGは研究ベースで使用されることが多く,臨床ベースで使用しているユーザーは少ない.その理由として1.機器本体が高額であり購入が困難であること,2.オペレーションシステムの使途が研究ベースで構築されているものが多いため操作が複雑であり専門的知識を必要とすることなどが挙げられる.そこで我々は5年前から岡山県及び文部科学省からの助成金を得て,臨床ベースで使用することを前提とした安価,小型,軽量,易操作性を特徴とする臨床普及型のEMG評価システムの開発を行ってきた.その結果,有線タイプのシステムを完成させ,昨年,世界福祉機器展(H.C.R.2007)に出展した.そこで本研究では,さらに(1)無線システムの開発と小型化,(2)リアルタイムwavelet周波数解析の組み込み(世界初)を目標にさらなる開発を進めているので報告する.<BR>註:wavelet周波数解析:筋電図周波数解析手法の一つで,従来の高速フーリエ変換(FFT)より動作時の筋の質的筋活動評価に優れている.<BR>【開発内容】<BR>1.小型EMGアンプの開発<BR>オリジナルの小型4chEMGアンプを開発した.大きさは約10cm×6cm×2cmで,標準的な白衣の胸ポケットに収まるサイズである.また,重さは約110gで,単4アルカリ電池で使用可能である.連続使用時間は約12時間で屋外での長時間計測にも耐えうる.さらに,モーションアーチファクト除去性能が極めて高い特徴を持ち動作時のEMG評価に適している.<BR>2.ワイヤレス送受信ユニットの開発<BR>EMGアンプからコンピュータ(以下PC)への転送は,EMGアンプに内蔵可能なオリジナルの小型送信機を開発した.同送信機は無線周波数2.4GHz帯域で,4ch分のEMGアナログ信号をサンプリング1kHzでA/D変換しリアルタイムに送信する.受信機はPCとUSB変換ケーブルにより接続する.重さは送受信機合わせて約100gであり極めて軽量である.<BR><wavelet周波数解析のリアルタイム処理及び評価指標の検討><BR>現在,約10秒間のEMGデータをPCで解析した場合,市販ソフトで約20秒間かかる処理時間が,本プログラムでは1秒以下であり,リアルタイム処理・表示に限りなく近づいている.さらに新たな臨床的評価指標の表示について検討している.<BR>【本研究成果の特徴】<BR>1.低価格・軽量・無線・プログラム自動化の実現により,多くの理学療法士を中心に臨床ベースで広く使われることが期待される.<BR><BR>本研究の一部は平成19年度日本学術振興会科学研究費補助金「(基盤研究C)(課題番号19500467)」及び,平成18年中小企業活路開拓調査・実現化事業の採択を受けた産学連携プロジェクトである.<BR>
著者
甲斐 光洋 田中 紘道 荒木 懸喜 箕田 和弘 川口 栄子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.GbPI1474, 2011

【目的】当院リハビリテーション科(以下、リハ科)では、ヒヤリ・ハット報告書提出件数は2008年度20件、2009年度43件であったが、2010年4月から10月の件数は39件と増加傾向にある。早期リハ開始、患者の高齢化および重症化、職員数の増加により臨床経験年数3年未満の職員が全体の約30%(5年未満では50%)を占めるなど、職員教育の質的・人的問題の対応が必要になっている。これまでは、病院全体での学習(年2回)と職場内学習(年2回)を行ってきたが、今年度は医療安全室の協力を受け、危険予知トレーニング(以下、KYT)および急変時対応についての学習会を開催し、職員の意識向上と業務改善の取り組みを試みた。<BR>【方法】(1)KYT(事例を通してのKYT):実際のヒヤリ・ハット報告から事例を7例選び、それらに対してグループで討論を行い、発表を行った。学習会後アンケート調査を実施した。(2)急変時対応学習:1.急変時対応についての院内マニュアルの学習、2.症状別対応の学習(6種類の症状別フローチャートを使用)、3.1次救命処置(BLS:basic life support)の学習<BR>【説明と同意】本研究は当院倫理委員会および医療安全推進委員会において承認同意を得ている。<BR>【結果】KYT後のアンケート調査では、KYTに対しての「理解が深まった」が24名(96%)、「少しわかった」が1名(4%)、「理解しにくかった」が0名(0%)であった。また、日常業務において役立つかどうかの質問に対して、「必要と思う」が24名(96%)、「必要と思うが難しい」が1名(4%)、「あまり役立たない」が0名(0%)という結果となった。<BR> 急変時対応については、既存のマニュアルについての学習と新たに症状別のフローチャートを作成し対応の流れや注意事項の確認を行った。その後、BLSの実演を行い手順の確認を行った。以上の学習から業務改善の取り組みは次の3項目とした。(1)緊急時の連絡システム:発生時の連絡方法をいつでも誰でもがわかるようにするために、職場内に「ドクターハート」の運用手順の設置と全ての電話機に依頼時内線番号をシールで貼り表示した。(2)医療安全対応のポケットカード作成:カード形式にて「119番通報」(外出リハ・家屋訪問時用)、「心肺蘇生法」、「意識障害レベル」、「運動療法中止基準」の4種類のマニュアルおよび基準を作成し、白衣の胸ポケットに携帯しいつでも活用できるようにした。(3)定期的な学習会の開催:職場内学習会の時間や職場会議の時間を利用して継続的な学習を行っていく。<BR>【考察】当院リハビリテーション科では、「ヒヤリ・ハット報告書」の提出および報告は定着してきていたが、その報告書を事故防止に十分に活用できていないのが現状であった。今回、医療安全推進室の協力を得て、実際の「ヒヤリ・ハット報告書」から事例を選びKYTを行えたことは、報告書を有効に活用すると共に職員の医療安全に対する意識向上にも役立つものであった。KYTでは、日常の診療場面においていくつものリスクが潜んでいることを再確認できる機会となった。各個人の危険予知能力を高めることが、組織として集団としての対応能力の向上にもつながると考えられるため、今後も継続した取り組みとしていきたい。急変時対応については、不安を抱えている職員が多くみられたため、学習会を通して不安の解消を図ったが、経験と実践が乏しい職員が多いため改善項目の取り組みを実践していくことが重要である。改善項目の実践を通して、今後のヒヤリ・ハットの状況や職員の意識がどう変化していくかを検証していく必要性がある。リハビリテーションを実施していく中でのリスクには、急変の他にも転倒や外傷、感染の問題など様々な課題があるため、それらに対応した職員教育および業務改善の取り組みも同時に行っていくことが今後の課題である。また、当施設および職員個人が、医療安全の必要性を施設および自分自身の課題と認識し、医療安全体制の確立を図り、安全な医療の遂行を徹底することが最も重要である。<BR>【理学療法研究としての意義】日本人は一般的に危機意識が欠如しリスク管理が定着しないといわれているが、安全な医療を構築するためには、常に「事故はいつでも起こりうる」「人は過ちをおかす」という危機意識をもち、業務にあたることが重要である。そのためには、今回のような学習および業務改善の取り組みを積み重ねていくことが、「危機意識」をもつための意識改革につながると思われる。そして個人の意識改革とともに医療機関として組織的・系統的な安全管理の構築を追求していきたい。<BR>
著者
新田 收 俵 紀行 妹尾 淳史 来間 弘展 古川 順光 中俣 修
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.A1269, 2007
被引用文献数
2

【目的】腰痛を予防する方法として姿勢の改善が重要とされ,近年体幹深部の筋が姿勢保持に重要な役割を果たしているとする研究成果が多く報告されている.これらの報告で姿勢の保持に重要な役割を果たす筋として大腰筋が取り上げられている.現在様々な大腰筋強化トレーニング方法が提案されている.しかし体幹深部筋活動評価を体表面から行なうことは困難であるために,どのようなトレーニングが有効であるかの実証がなされてない.本研究では不安定板を用いたトレーニング方法を採用し,トレーニング前後のMR(MAGNETIC RESONANCE信号の変化を指標として,大腰筋に対するトレーニングの影響を検討することを目的とした.<BR><BR>【方法】対象者は腰痛等既往のない男性14名,女性3名,平均年齢20.9歳(20-22)とした.本研究は首都大学東京倫理審査委員会の承認を得て行った.分析対象とした筋は大腰筋とし,対照として表在筋である腹直筋と脊柱起立筋を取り上げた.トレーニングは背臥位にて骨盤下に直径320mmの不安定板(専用器具)を置き,骨盤の肢位を保持したまま下肢を左右交互に各20秒,約20mm挙上する動作を20分行うこととした.なお股関節・膝関節は30度程度屈曲位とした.使用装置は1.5T Magnetom Symphony(SIEMENS社製)で,撮像法はTrue FISP(TR=4.30ms,TE=2.15ms,NEX=1,FA=50°,Scan Time=10sec,FOV=400mm)を用いた.なお分析部位は第4腰椎位としSlice厚=10mm,gap=2mmとした.専用器具は全て非磁性体であり,信号変化のみで筋の活動様相を評価するため,被検者と専用器具とをMR装置内に配置させた状態で実験の全てを施行した.信号強度の計測は画像分析ソフトウエアー(OSIRIS)を用いた.分析は左右の大腰筋,腹直筋,脊柱起立筋内に関心領域(ROI)を設定し,ROI内の信号強度平均値をMR信号とした.統計処理はトレーニング前後の平均MR信号を,対応のあるt検定にて比較した.有意水準は5%とした.<BR><BR>【結果】トレーニング前後のMR信号は,前平均111.1(SD13.6),後平均119.0(SD16.4)であり有意差が認められた.これに対して腹直筋では前平均291.7(SD64.9),後平均281.5(SD58.2),脊柱起立筋では前平均98.7(SD11.6),後平均94.5(SD11.2)であり差はなかった.<BR><BR>【考察】今回の撮影条件では比較的撮影時間が短いため腹部など動きの抑制が困難な部位の撮影に適している.また画像はT2*強調となり水分が白く強信号となる.このことから信号が強く変化することは筋活動直後の変化を示すとされている.今回の結果から本トレーニングにより大腰筋が選択的に活動することが示唆された.<BR>
著者
伊藤 一也 増田 圭太 蒲田 和芳
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.C3P3419, 2009

【目的】ATM2(BackProject社)は機械的腰痛において、疼痛軽減の即時効果が得られる運動療法機器としてアメリカで普及している.ATM2の有効性については、腰痛患者の疼痛軽減効果(Lewis 2006)、腰痛患者の腰部筋活動の低下(backproject.com)、脊椎屈曲可動域の改善(増田 2008)などが報告されてきた.しかし、その効果発現機序については未知の点が多い.本研究では、ATM2のベルトによる固定下での等尺性筋力発揮が、骨盤アライメント対称化および下位胸郭横径拡張可動性に及ぼす効果を解明することを目的とした.研究仮説は、(1)ATM2は即時的に骨盤のアライメントを改善させる、(2)ATM2は即時的に下位胸郭横径拡張可動域を増加させる、であった.<BR><BR>【方法】対象者の取込基準は健常者、18-34 歳の男女で、下肢自動伸展挙上(ASLR)にて主観的に左右差を有する者であり、除外基準は医学的問題として下肢に外傷の既往歴を有する者、運動制限、内科的リスク、精神障害、コミュニケーション障害のある者、とした.ヘルシンキ宣言の精神に基づき作成された同意書に署名した9名の被検者が研究に参加した.<BR>介入としてATM2を用いた体幹後屈運動(10秒間の最大等尺性筋力発揮を10回反復)を実施した.観察因子は下位胸郭横径拡張可動性(ノギスにより測定)と骨盤アライメントの対称性(他動骨盤ローリングによる骨盤傾斜角の左右差)であり、その測定は介入直前と介入直後に実施した.統計学的検定には対応のあるt 検定を用い、有意水準をp<0.05とした.<BR><BR>【結果】介入前後の下位胸郭横径拡張可動域の変化量は、安静立位にて0.9±2.1cm(p=0.259)と有意差を認めなかったが、最大吸気時で2.1±1.4cm(p=0.004)、最大後屈位で2.7±3.4cm(p=0.02)と有意な増加が見られた.骨盤アライメントに関しては、介入前に2度以上の傾斜角の左右差を認めた7名に関して、介入前3.9±1.8°、介入後1.6±0.8°と有意な対称化を認めた(p=0.015)<BR><BR>【考察】ATM2による体幹後屈運動は、即自的に下位胸郭横径拡張可動域改善および骨盤アライメント対称化を導くことが示唆された.これはATM2のベルトによる骨盤・胸郭の圧迫および等尺性筋力発揮が、骨盤の対称化と下位胸郭の横径拡張を促す力学環境を作り出したためと推測される.本研究の問題点として、統計学的パワーの不足、コントロール群がないことが挙げられる.しかしながら、胸郭可動性および骨盤リアライメントの変化量が本研究によって得られ、今後の同様の研究におけるパワー分析に用いることができる.今後は腰痛の臨床効果および胸郭・骨盤のリアライメント効果について、十分な統計学的パワーを得た盲検化無作為化対照研究を行なう必要がある.
著者
大塚 匠 新田 收 信太 奈美 古川 順光
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p><b>【はじめに】</b></p><p></p><p>脊髄損傷者では損傷レベル以下の交感神経障害により血管運動や発汗による熱放散がうまくできず,熱が体内に蓄積し,hyperthermiaの危険性が高いことが知られている。しかし実際のスポーツ現場や,損傷レベルによる体温の変化についての報告は少ない。そこで本研究では,実際の車いすスポーツ現場での体表温度の変化を損傷レベルの異なる被験者間で比較検討することを目的とした。</p><p></p><p><b>【方法】</b></p><p></p><p>対象はそれぞれ車いすバスケットボール,車いすラグビーを行っている男性の頸髄損傷者8名(上位群),胸髄損傷者9名(下位群)を対象とした。上位群・下位群にそれぞれの競技の1時間程度の試合形式の練習を行わせ,運動前,運動後の体表温度[℃]を日本アビオニクス社のInfReC R300を用いて撮影した。その後同社製のInfReC Analyzerにて画像解析を行った。体表温度は顔面の最大値を採用した。運動は空調設備のない体育館内にて行い,運動中の飲水や冷風機を使用してのクーリングは自由に行わせた。運動を行わせた時の体育館内の温度,湿度[%]は乾湿計にて記録した。統計解析は,体表温度を従属変数,上位群・下位群の2群を対応の無い要因,運動前後を対応のある要因とした,二元配置分散分析を行った。また単純主効果の検定を行った。データ処理はIBM SPSSver22を用いて行い,有意水準は5%とした。</p><p></p><p><b>【結果】</b></p><p></p><p>運動中の体育館内の温度・湿度の平均値(SD)は,上位群運動時,温度27.7℃(0.4)・湿度65.3%(1.7),下位群運動時,温度30.7℃(0.3)・湿度64.2%(1.6)であった。体表温の平均値(SD)は上位群で運動前35.6℃(0.90),運動後37.0℃(0.99)であった。一方下位群は運動前35.5(0.90),運動後35.9℃(0.96)であった。二元配置分散分析の結果,運動前-後で交互作用は有意であった。単純主効果検定の結果,上位群の運動前-後と,運動後の上位-下位群間で有意な差が示された。運動前の2群間や下位群の運動前後では有意な差は認められなかった。</p><p></p><p><b>【結論</b><b>】</b></p><p></p><p>先行研究において,高温下で頸髄損傷者の体温が,胸髄・腰髄損傷者や,健常者に比してより大きく上昇するとの報告がある。今回の研究でも同様に上位群で優位に上昇していた。この要因は,先行研究と同様に自律神経の障害によって皮膚血流の調節障害,発汗調節障害により体温調節能力が低下していたためと考えた。一方下位群では,体育館内温度が30.7℃と,上位群測定時よりも過酷な環境下での測定となったが,優位な上昇は認められなかった。この要因として,損傷部位がより下位であり,交感神経の残存領域が大きい事があげられるのではないかと考えた。また,今回障害歴の長い者が対象となっていたため,損傷部より上位の血管運動や発汗作用等の利用による,温度変化に対する適応能力が向上していたためではないかと考えた。今回の研究の結果,スポーツ現場において頸髄損傷者では体温が上昇しやすく,hyperthermiaの危険性が高い事が示された。</p>
著者
高木 庸平
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C1422, 2008

【目的】<BR>社会の急速な高齢化に伴い大腿骨近位部骨折の発生件数は年間10万人を超えると推測される。急増する大腿骨近位部骨折の患者様に対し、急性期治療から在宅支援に至るまでの包括的かつ効率的なアプローチ行うことは、重要な課題の一つである。そこで今回、当院が運用する大腿骨近位部骨折の連携パスを紹介すると共に、約10ヵ月間の臨床実績をもとに、後方支援施設における役割と課題を報告する。<BR>【方法】<BR>2006年3月急性期K病院より連携パスの運用についての提示を受け、双方の運営会議を経て、2006年12月より連携パスの運用を開始した。その後、急性期K病院、大腿骨頚部骨折術後(3週目以降)の患者様を受け入れている。また、連携パス評価には双方の意見を組み込み、人工骨頭・骨接合術・DSSの3パターン、A3判の紙によるスタッフ用と症例・家族用の連携パスの2つに分けて統一・運用し、連携パス導入前後の経過を調査した。<BR>【結果】<BR>症例数:18例(内約、男性:6 女性:12)、平均年齢:82.6歳(61~94歳)、術式:骨接合術=10例、人工骨頭=6例、DSS=2例、転帰:自宅退院8例、リハ中止3例、施設転院4例、平均在院日数:導入後91.1日(17~123日)、導入前129日<BR>在宅復帰率:導入後47%、導入前26%、Brathel Index推移:(入院時)45.6点、(入院中)63.2点、(退院時)69.4点<BR>【考察】<BR>今回、連携パスを通じて平均在院日数、在宅復帰率、Barthel Index推移における臨床実績の改善を認めた。このことから、導入前後の経過を比較してみると、当院は後方支援施設として、訪問リハビリテーション、介護老人保健施設、デイサービスセンター、短期集中型通所リハビリテーション等の多くの関連施設を併設し、回復期~在宅復帰までの重要な役割を担っている。そこで、連携パスを導入したことに伴い、これまで以上に他職種との情報交換が密接に行え、フォローアップの体制が充実したことが伺えた。よって、情報の共有化が円滑に行え、症例・家族へのインフォームドコンセントを通じて、退院への心理的不安を可能な限り解消でき、結果として導入前に比べ導入後は、医療保険~介護保険への受け渡しが十分に行えていたことが考えられる。<BR>【まとめ】<BR>当院で使用している大腿骨近位部骨折の連携パスについて紹介した。連携パスを開始して約10ヵ月が経過し、大きなトラブルもなく運用されている。現在のところ、パス導入に伴い『地域連携体制の強化』が進行してきており、その経過について検証していくことで、より良いものへと改訂していくべきではないかと考える。最後に、当院では退院者に対して連携パスに対する満足度調査を実施している。現在、情報収集中であるが、今後フィードバックされた情報を集積・分析し、在宅ケアを含めたパスの延長、内容の更なる検証に繋げていきたい。
著者
田中 直樹 我妻 浩二 村上 純一 石渕 重充 榊原 加奈 村本 勇貴
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに,目的】</p><p></p><p>野球選手のボールの握り方は,障害予防やパフォーマンスの観点からボールの下面を母指の尺側でおさえる「尺側握り」が推奨されている。しかし,尺側握りが出来ない手長の小さな選手やボールの大きなソフトボール選手においては,母指の指腹でボールをおさえる「指腹握り」が強いられる。しかし,ボールの握りについて,手長や手指の関節角度について検討した報告は我々が渉猟しえた限りない。本研究では,我々が行った大規模野球検診で行われた検診項目のなかで,学童期野球選手におけるボールの握り方について手長とボールを握った際の中手指節間関節(MP関節)角度に着目し,肘障害との関係について明らかにすることを目的とした。</p><p></p><p></p><p>【方法】</p><p></p><p>対象は,学童期野球選手に対して行った野球検診参加者172名のうち,有効データの取れた169名(平均年齢10.6±0.7歳,平均身長142.9±7.7cm,平均体重37.0±7.7kg)とした。調査項目は①手長測定,②ボールの握り(尺側握り,指腹握り)チェック,③握った際の示指MP関節角度,④超音波画像による上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(OCD)検査の4項目とした。手長測定は橈骨茎状突起と尺骨茎状突起の中点から中指先端までをメジャーで測定した。ボールの握りは,母指先端が示指より尺側に位置し,母指の尺側でボールを把持しているものを尺側握り,母指先端が示指より撓側に位置し,母指の指腹でボールを把持しているものを指腹握りとした。MP関節角度はボールを握った状態で手指用ゴニオメータで測定し,屈曲をプラス,伸展をマイナスとした。超音波画像検査は操作や診断について習熟した整形外科医が行った。得られたデータを尺側握り群と指腹握り群に分け,手長およびMP関節角度について対応のないt検定を用い比較し,握りの違いによるOCD発生件数の比率をχ<sup>2</sup>検定を用いて算出した。また,OCDの有無によって非OCD群とOCD群に分け手長およびMP関節角度についてWelch検定を用いて比較した。いずれの検定も有意水準5%とした。</p><p></p><p></p><p>【結果】</p><p></p><p>平均手長は,尺側握り群(64名)で16.2±1.4cm,指腹握り群(105名)で15.7±1.1cmであり尺側握り群で有意に高値を示した。平均MP関節角度は,尺側握り群2.1±5.7°,指腹握り群3.9±5.5°であり指腹握り群で有意に高値を示した。169名中9名にOCDが見つかったが,握りの違いによるOCDの発生件数は尺側握り群4名,指腹握り群5名で差を認めなかった。OCDの有無による比較では,手長で非OCD群15.9±1.2cm,OCD群15.8±0.9cmと両群に差を認めなかった。MP関節角度は,非OCD群3.5±5.6°,OCD群-0.9±4.5°で,OCD群で有意に低値を示した。</p><p></p><p></p><p>【結論】</p><p></p><p>野球では尺側握りが推奨されているが,手長の大きい選手は尺側握りを選択し,手長の小さい選手は指腹握りを選択していた。握りの違いによるOCD発生に差は認められなかったが,ボールを握った際の示指MP関節角度がOCDの発生に関与する可能性が示唆された。</p>
著者
大石 勝規 小泉 徹児 重松 康志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】平成26年11月1日から3日に第14回全国障害者大会(長崎がんばらんば大会)が開催された。各競技会場に先催県でも継続して実施されているコンディショニングルーム(以下,CR)を設置することが決定し,当会への協力依頼を受けた。CRは,選手が万全な状態で競技に臨めるよう有資格者によるサービスを提供する場所であり,治療目的ではないことが前提とされていた。当県では,先催県までの各競技会場にひとつの職能団体が関わるという枠組みを取り払い他職種が協働するCRの運営に成功した。【活動報告】開催約2年前に協力が決定し,活動内容に対する議論を会長,担当理事を含め数名の委員で開始した。平成25年4月に長崎県理学療法士協会会長付けで長崎国体支援委員会を発足し,正式に委員として10名任命(のちに1名追加)した。平成25年7月に大会運営事務局主催で第1回CR検討会議が他の職能団体の代表者も集い開催された。その後も県主催のCR検討会議に並行して,当協会内の委員会でも実務上のミーティングやマンパワーの確保などにわたる細かな部分まで協議を繰り返した。大会期間中のCR運営は大会前日の公式練習日から開設され,15競技会場中9会場に理学療法士が協力した。協力した理学療法士は90名(のべ144名)であった。【考察】今回のCR運営の理念は「ホスピタリティ」であり,どの会場でもサービスが行き届くように各職能団体で担当を分担した。各競技会場にひとつの職能団体が対応する形式と異なり,役割分担や使用物品の調整,調達など含め,多くのコミュニケーションが必要となった。協力した理学療法士は委員をはじめとして,責任とリーダーシップを持って対応し,運営に協力できたと考える。【さいごに】多くの理学療法士が協力し,長崎県開催の大きなイベントに貢献できたと考えています。発表では,実際の利用者の人数や終了後の反省点や効果的だった点も踏まえ報告したい。