著者
糸数 健 柴 喜崇 大渕 修一 上出 直人 酒井 美園
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2002, pp.7, 2003

【はじめに】 固有受容器強調トレーニング(Enhanced Proprioception Training: EPT)は動作時のバランス機能向上を目的としているにもかかわらず静的バランスについてのみが報告されてきた。そこで我々は歩行時のバランス機能を測定する装置を用いて、EPTが動的バランス機能に及ぼす効果を明らかにすることを目的とした。【対象】 下肢に整形外科的疾患の既往がなく、日常的に運動習慣のない健常大学生20名(平均年齢19.1±0.55歳,男性10名,女性10名)として事前に実験協力に同意を得た。【トレーニング内容】 5段階の異なる難易度の不安定板を用意した。被験者が遂行可能なレベルに応じて不安定板を選択し難易度レベルを上げた。板上で1分間5セット、片脚立位制動を左側のみをトレーニングさせた。【方法】 対象者を無作為にEPT群と対照群に分け、EPT群(n=10)にのみEPTによる介入を週3回の頻度で1ヶ月間の計12回実施した。対照群には研究期間中運動習慣を変えないように指示した。EPT群、対照群ともに介入前,介入後,介入終了3ヵ月後の計3回評価を行った。評価項目は足関節背屈最大等尺性筋力、歩行時の外乱刺激から前脛骨筋(Tibial Anterior; TA)が反応するまでの時間をTA反応潜時とした。外乱刺激は、左右の歩行ベルトが分離したトレッドミルを用いて2km/hで歩行中に片側ベルトのみを急激に停止させ、500msec後に2km/hに戻すことで発生させた。左ベルト停止時の左TA反応潜時と右ベルト停止時の右TA反応潜時をそれぞれ測定した。統計処理は、EPT群、対照群の介入前における潜時、足関節背屈筋力の検定には対応のないt検定を用い、EPT群、対照群それぞれに対して被験者と評価時期の2要因による分散分析を用いた。【結果】 EPT群は非トレーニング側TA反応潜時、足関節背屈筋力における介入前、介入後、3ヶ月後の間に有意な差はみられなかったが(n.s.)、その一方でトレーニング側TA反応潜時においては介入前と比して介入後に反応時間短縮され(P<.01)、3ヶ月後でもその効果が有意に持続していた。対照群においては左右ともにTA反応潜時、足関節背屈筋力における介入前、介入後、3ヶ月後の間に有意な差はなかった(n.s.)。尚、EPT群、対照群の介入前のTA反応潜時、足関節背屈筋力には差がなかった(n.s.)。【考察】 トレーニング側の足関節背屈筋力に有意な差はなかったが、トレーニング側のTA反応潜時には即時効果が認められた。さらに即時効果だけでなく3ヵ月後も効果が持続することが明らかになった。 我々は外乱刺激側にみられるTA反応潜時は、動的バランス機能である立ち直り反応と相応することを報告している。EPTは立位、歩行における立ち直り反応に関与する神経回路に特異的に作用し、即時的かつ長期的な効果を及ぼすトレーニングであることが明らかになった。
著者
及川 龍彦 長野 由紀江 松村 一 佐藤 益文 内記 明信
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.G4P3221, 2010

【目的】<BR> 本学は創立後30年を経過する3年制養成校であるが、これまで、初年度における臨床教育は医療機関を中心とした理学療法業務の見学が主体であった。近年、本学では入学者の気質変化から臨床見学実習(以下、実習)が主体的内容から受身型へ変容し、実習後の学内教育へ反映する事が困難となってきた。このことから本学では従来型実習からの脱却を目的に学生の課題に重点をおく課題指向型実習を本年度より実施している。本報告の目的は課題指向型に移行した実習効果を明らかにし、本学の取り組みを紹介することにある。<BR>【方法】<BR> 対象は本年度実習を経験した1学年42名(男性17名、女性25名、平均年齢19.0±1.2歳)である。実習前後に介護保険その他に関する知識、実習の内容、理学療法士(以下、PT)の印象などに関するアンケートを実施、結果並びに実習成績について検討を行った。課題指向型実習は時期を8月中旬、介護保険施設並びに通所リハビリテーション開設医療機関(以下、介護保険施設等)に特化して実施した。従来の業務見学に併せ、対象者の生活把握を目的とした「ケース報告書」の作成を課した。「ケース報告書」は対象者生活の聞き取り調査から、その問題点を導き出すことを目的としている。その他、日々の不明点を学習する「自己学習ノート」や実習日誌である「デイリーノート」作成を併せて課題とした。また、入学後、実習までの期間が短い事からカリキュラム外での学生介入を行い、学習面、生活面のフォローを行った。事前介入では前社会人としての姿勢育成を目的に一般常識や一般教養の習得を行うモーニングセミナー、「ケース報告書」作成能力習得を目的としたpaper patient、simulation patientを行う「生活評価実習」を実施した。<BR>【説明と同意】<BR> 対象には本報告に関する十分な説明を行い、個人が特定できない範囲での情報使用について承諾を得た。<BR>【結果】<BR> 実習終了後の総合評価A判定は学生自己評価(以下、自己評価)1名に対し、臨床実習指導者(以下、SV)評価が13名、B判定自己評価34名に対し、SV評価25名、C判定自己評価7名に対しSV評価4名と学生自己評価に比較してSV評価が高い傾向が認められた。また、事前アンケートでは85.7%が医療機関外でのPT業務を見学していなかった。これに伴い、実習前の介護保険施設等への理解は乏しかったものの、終了後では概ね理解が深まった傾向が認められた。また、実習前では当初57.1%の学生がコミュニケーション能力習得を実習の主眼としたが、終了後ではこの他に対象者の生活が理解できたという回答が増加した。PTに対する印象では前後共通して多くの学生が知識・技術、対象者改善への努力と答えたが、開始前に5名が回答した「かっこいい」は1名へ減少した。<BR>【考察】<BR> 本学の実習制度変更は理学療法への効果的動機付け、社会性向上並びに実習後学内教育との効果的連携を目的としている。実習終了時評価が自己評価に比較して高かったことにより、理学療法を学ぶことへの動機付けにつながったものと考えられる。また、アンケート結果から、入学年度の課題指向型実習実施はコミュニケーションの重要性や対象者生活に関する理解が高まり、実習後学内教育への効果的連携に効果を示すものと考えられた。また、実際の理学療法業務に接することが業務の現実性を認識させ、学習の重要性を感じ取る事によって意欲向上の一旦を担うことが考えられた。しかしながら一方では、社会における未熟さや論理に行動が伴わない面の残存も認められ、実習体験による学習効果が完全に内面化されていない事が考えられ、見かけ上の行動変容に止まっている可能性が示唆された。このことは実習後の行動変容評価の必要性が考えられ、これを用いることにより、次学年以降の学内・臨床教育の効果をさらに高めるものと考えられた。<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 本報告は臨床教育と学内教育の効果的相互作用、連携を考察する上で一助となることが考えられる。
著者
柳澤 千香子 押見 雅義 鈴木 昭広 齋藤 康人 礒部 美与 高橋 光美 洲川 明久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.G0439, 2007

【目的】当センターは、高度専門医療を中心に対応しており318病床を有する。2004年に感染症対策委員会の下に実行的な組織として、Infection Control Teamが医師・看護師・各部門のコメディカル・事務職員により編成された。職業感染・針刺し事故・教育および研修・抗生剤の適正使用・院内感染の監視等に関する活動を行っている。重要な活動の一つに多職種を対象とした感染管理教育があげられる。教育活動として全職員を対象とした院内研修会の他、各部門においても研修を行い啓蒙に努めている。今回リハビリ部門において標準予防策に基づき衛生的手洗い方法の研修を行った。その後、手洗いの教育効果の実態把握と意識調査について評価を行った。【方法】対象はリハビリ部門の職員7名(リハ医・PT)。事前に衛生的手洗い方法について6ヶ月前にビデオ資料を用いて指導を行っていた。実技の評価として、手洗いミスは蛍光塗料とブラックライトを組み合わせた機械(Glitter Bug)を用いて3段階の評価を行った。行動・意識の評価として、手洗い方法の基本動作・手順については16項目(波多江ら2000)、日常業務において手洗いが必要と思われる場面の施行は15項目(掛谷ら2004から抜粋)について、それぞれ最近1ヶ月の実施率についてアンケートを行った。【結果】1.手洗いミスの評価は、A判定(爪の付け根等を残してほとんど落ちている)0名・B判定(手首、指の間等一部に残っている)4名・C判定(全体に残っている)3名であった。2.手洗い方法の基本動作・手順については、ほぼ実施していると答えた割合が80%以上の項目は、ゴミ箱にふれずにペーパータオルを捨てる・半袖の着用・爪のカット・水はねに注意する・洗面台に手を触れないの5項目のみであった。また0%だったのは、水道水は2~3秒流してから手を洗う項目であり、他にも実施していないと答えたものが8項目あった。3.日常業務において手洗いが必要と思われる場面での手洗いは、ほぼ実施していると答えた割合が80%以上の項目は排泄介助後・トイレをすませた後の2項目のみであった。また実施していないと答えたものが12項目あった。【考察】院内感染対策において、手洗いは最も基本的であり重要である。今回の結果より、衛生的手洗い方法について指導を行っているにも関わらず6ヶ月後には正しく行えていなかった。指導方法が知識の伝達だけで実技を取り入れていなかったため、習得できていなかった可能性もあるが、教育効果の継続は難しいことが明らかだった。医療従事者の手指からの交差感染のリスクを減少させるためには、他に速乾性擦式手指消毒薬併用を積極的にすすめる必要がある。手洗いに対する基本動作や意識についても認識が低く、必要性についての理解や意識の改善を促す必要があった。手洗い行動を習慣化させ、知識や技術を習得できるよう繰り返しの再教育の実施は必要と思われた。<BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR><BR>
著者
両角 淳平 青木 啓成 村上 成道
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】Jones骨折は難治性の骨折であり,TorgやKavanaughは保存療法において22-67%が遷延治癒もしくは偽関節になると報告していた。現在の治療方針は,競技への早期復帰のために髄内固定による手術が中心となっており,手術治療の実績に関する報告が多い。その一方で,術後の再発例における報告も散見され,三河らは遷延治癒や術後の再骨折を来した症例に対して,スクリューの適合性を高めるために再手術を優先すると報告している。当センターでは,遷延治癒の傾向にあるJones骨折に対し,セーフス(SAFHS4000J,TEIJIN)による超音波治療と継続的な理学療法の介入を行っている。本研究は,Jones骨折を発症した選手の身体特性を詳細に検討する事,また改善させる事を目的とした理学療法が,競技復帰と再発予防へ与える影響について検証した。【方法】当院を受診した高校サッカー選手4例を対象とした。3例は,保存療法を行っていたが4週経過し仮骨が出現しない症例であり,1例は,他院での内固定術後に2回の再骨折を繰り返し,約1年間の遷延治癒を来していた。セーフスによる治療と理学療法を,競技復帰1ヶ月後まで継続した。理学療法では,第5中足骨近位骨幹部へストレスを与える要因として,足部・足関節及び股関節機能における身体機能因子と,姿勢や動作パターンの運動因子を挙げ,特有の障害パターンを検討し,その改善に努めた。介入頻度は,仮骨が出現するまでは週に1回,骨癒合が得られた以降は2週に1回とした。介入時は医師と協議し,運動負荷量を確認した。セーフス開始にあたり,骨折部へ的確に照射するよう透視下のマーキングを行った。4例の治療経過として,再発の有無と免荷期間,ランニング開始,競技全復帰,仮骨形成,骨癒合までの日数を集計した。【結果】4例全てにおいて,再骨折や遷延治癒を認めず競技復帰が可能であった。免荷期間は発症から平均24.3日(3-4週),ランニング開始は82.5日(10-14週),競技全復帰は126日(13-23週)であった。また仮骨形成を認めたのは64日(7-11週),完全骨癒合は113.8日(11-21週)であった。特有の障害パターンにおいて,身体機能因子のうち足部・足関節では,内反足(内側縦アーチの増強と前足部内転,後足部回外位)と,第5趾の可動性低下(足根中足関節や第4,5趾の中足間関節の拘縮)を認め,股関節では屈曲及び内旋制限が生じていた。運動因子は,片脚立位とスクワット,ランジ動作で評価し,いずれも股関節の外旋位をとり,小趾側が支点となり,重心は外側かつ後方への崩れが生じていた。筋力は,腸腰筋と内転筋,腓骨筋で低下を認めた。足部への具体的なアプローチは,第5中足骨へ付着し,かつ距骨下関節の可動性低下にも影響する長・短腓骨筋の短縮や,内反接地の反応により過活動が生じる前脛骨筋腱鞘や長母趾屈筋の軟部組織の柔軟性低下を徒手的に改善させた。足関節,股関節の可動域の改善後,姿勢・動作で重心の補正を行った。低下していた筋力に対して,単独での筋力強化は行わず,姿勢・動作練習を通して意識的に筋力の発揮を促した。【考察】治療過程において,運動強度の拡大については,X線による骨の状態を確認しながら検討し,仮骨形成後にランニングを開始し,骨癒合後に競技全復帰を許可した。しかし,X線上の問題がなく,圧痛や荷重時痛が一時的に減少しても,骨折部周囲の違和感や痛みの訴えは変動するため,継続的に運動強度の調整を行った。運動負荷の段階的な拡大に伴い,特有の障害パターンが再燃するため,骨癒合が得られるまでの期間は,早期に発見し修正するための頻回な介入が必要であると考えられた。術後の復帰過程において,横江らは,術後1週で部分荷重,3週で全荷重,2ヵ月でジョギング,3ヵ月で専門種目復帰としている。今回の4例の平均値と比較すると,ジョギング開始と競技全復帰までの期間は,約1ヶ月程度の遅れに留まった。理学療法により骨折部へのストレスを軽減させ,症状の変動に応じて運動負荷の調整を継続的に行う事は,骨癒合を阻害せず,保存療法であっても競技復帰に繋げられると考えられる。【理学療法学研究としての意義】手術及び保存のどちらを選択しても,骨折部の治療だけでは再発予防としては不十分である。身体特性から発生要因を検討し,その改善に向けたアプローチを充実させる事は,スポーツ障害における理学療法の捉え方として重要であると考えられる。
著者
斉藤 洋志 田畑 剛 田極 薫
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db1228, 2012

【はじめに、目的】 当院では、2005年度より理学療法士・作業療法士が摂食・嚥下リハビリテーション(以下嚥下リハ)を実施してきた。嚥下リハに介入してから6年が経過するため、当院で嚥下リハを実施した患者の実状を調べるとともに、当院における嚥下リハの効果を検証し、今後の課題を明らかにすることを目的とした。【方法】 2007年1月~2011年3月に当院で嚥下リハを実施した症例252名(男性143名、女性109名)を対象とした。診療記録より後方視的に調査し、嚥下リハを実施した症例の摂食状況のレベル(藤島ら、Lv.1~Lv.10、以下摂食レベル)について、嚥下リハ開始時と終了時で比較した。また終了時の動作能力を、端坐位保持では「自立群(監視を含む)、介助群」に分けて両群の終了時の摂食レベルを比較した。移乗・歩行動作では、終了時の動作能力を「完全自立、修正自立、監視、最小介助、中等度介助、最大介助、全介助、非実施」の8段階に分け、各動作能力と終了時の摂食レベルとの相関を調べた。統計学的解析にはSPSS Ver.12.0を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 この研究はヘルシンキ宣言に基づいて行い、個人情報保護のため得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。【結果】 平均年齢は82.3±10.1歳で、全体の90%が70歳以上であった。疾患別では呼吸器疾患が50%と最も多く、次いで脳血管疾患、消化器疾患、骨関節疾患、神経疾患、心疾患の順であった。また、摂食レベルを嚥下リハ開始時と終了時で比較したところ、1レベルでも改善したのは全体の79%、変化なしは18%、悪化は3%で、Wilcoxonの符号付き順位検定にて有意差(p<0.001)を認めた。嚥下リハ開始時ではLv.4以上(経口摂取あり)は全体の17%と少なかったのに対し、終了時ではLv.4以上は59%と増加し、多くの症例が経口摂取できるようになっていた。また、嚥下リハ終了時の端坐位保持能力を自立群と介助群に分け両群の摂食レベルを比較した結果、自立群の摂食レベルが高く、Mann-WhitneyのU検定にて有意差(p<0.001)を認めた。介助群ではLv.6(3食の嚥下食経口摂取+代替栄養)以上は全体の26%であるのに対し、自立群では54%と増加していた。移乗・歩行動作能力を8段階に分け、各動作能力と終了時の摂食レベルとを比較した結果、各動作能力が高ければ摂食レベルも高く、Spearmanの順位相関係数にて弱い相関がみられた(移乗動作r=0.412、歩行動作r=0.378)。【考察】 当院で嚥下リハを実施した症例の90%が70歳以上であった。この結果は「70歳以上の高齢者では安静時の喉頭位置の下降が著しく、喉頭侵入や誤嚥の可能性が高くなる(古川1984)」という報告と一致する。よって、特に70歳以上の患者に対して、頭部拳上運動、喉頭周囲筋群のストレッチなどの間接練習をさらに充実させる必要がある。また、嚥下リハ開始時と終了時の摂食レベルを比較すると、全体の79%で改善がみられ、当院において理学療法士・作業療法士が積極的に嚥下リハに介入してきたことは有効であったと考えられる。嚥下リハ終了時の端坐位保持能力では自立群の摂食レベルが高く、移乗・歩行の動作能力においても動作能力が高ければ摂食レベルも高い結果であった。摂食・嚥下障害と運動機能、動作能力との関連については多数報告されており(樋浦2005、太田2006、高井2006ら)、今回もそれを再確認することとなった。嚥下リハとともに基本的動作能力主体のリハビリテーションを実施し、患者の基本的動作能力を改善させることは、摂食・嚥下機能の改善にも有効であると考えられる。また、終了時の摂食レベルが改善しなかった21%については、今後検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 今回の研究により、当院における嚥下リハの実状が明らかとなった。また、摂食・嚥下機能と動作能力との関連性が再確認され、運動機能や動作能力について専門性が高い理学療法士・作業療法士が嚥下リハに介入していくことは有効であると考えられる。
著者
村田 佳太 塙 大樹 西原 賢 星 文彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに】脳卒中後遺症者(脳卒中者)は1/2から1/3の割合で感覚障害を伴うことが報告されている。位置覚検査は深部感覚を捉えるとされており,日常よく用いられる検査の一つである。脳卒中者において,深部感覚障害を有する場合にはその運動機能が不良になると報告されている。また,臨床場面において,麻痺側上肢をある場所に定位するよう促した際,数十秒後に忘れるということを多々経験する。運動に関連した深部感覚の研究は多く報告されているが,静止時の位置感覚に着目した研究はほとんど見当たらない。そこで本研究では従来の位置覚検査に時間的な側面を付加し,位置覚検査の経時的変化を検討することで,深部感覚検査の一助とすることを目的とした。【方法】対象は,健常成人7名(男性4名:女性3名,平均年齢:27.7±3.1歳)回復期病院入院中の脳卒中片麻痺者7名(男性4名:女性3名,平均年齢67.6±8.6歳,左片麻痺5名:右片麻痺2名)とした。脳卒中者の取り込み基準は,発症後2ヶ月以上経過している者とした。除外基準は高次脳機能障害,認知機能低下によって課題遂行困難な者,視覚障害を有する者,整形外科的疾患の既往がある者,失調症状を有する者,スクリーニング検査で位置覚が脱失している者とした。測定肢位は閉眼での背臥位とした。測定は一側肘関節(麻痺側肢)を木台に乗せ,30°または90°に角度設定する。設定後,対側関節(非麻痺側肢)で模倣させる方法をとる。開始時,3分後,6分後,9分後に生じる音刺激に合わせ,各3回ずつ試行した。計測は,デジタルゴニオメータ(バイオメトリクス社製:FG110型)を両肘(上腕骨骨軸,橈骨骨軸)に装着し,非麻痺側で模倣後,2秒静止した時点の数値を両側記録した。非麻痺側(模倣側)と麻痺側(角度設定側)間の誤差を誤差角度とし,3回の平均値を個人の誤差角度として算出した。分析は,設定角度90°,30°において,それぞれ時間毎における誤差角度の変化を比較した。統計学的検定には反復測定分散分析を使用し,多重比較にはDunnet法を用い,開始時の値と比較した。なお有意水準は5%とした。[結果]設定角度90°における誤差角度の平均値と標準誤差において,健常成人は開始時4.4±0.6°,3分後3.7±0.7°,6分後3.3±0.6°,9分後3.7±0.6°であり,有意差みられなかった。脳卒中者は開始時6.0±1.3°,3分後9.0±2.2°,6分後14.9±1.2°,9分後15.2±1.5°であり,Dunnetを用いた多重比較より,開始時と6分後,開始時と9分後で有意差がみられた(p<0.05)。設定角度30°での誤差角度の平均値と標準誤差において,健常成人は開始時3.9±0.7°,3分後4.5±0.7°,6分後5.7±0.9°,9分後5.9±1.3°であり,有意差みられなかった。脳卒中者は,開始時7.9±1.4°,3分後11.4±2.2°,6分後8.7±1.5°,9分後13.8±2.2°であり,有意差みられなかった。[考察]今回対象とした脳卒中者では,設定角度90°において位置覚が時間とともに変化しうることが示唆された。課題中の感覚情報は両者同じ条件のなかで,健常成人は時間の経過によって生じる変化は非常にわずかであった。脳卒中が及ぼす位置覚への影響を考えるうえで,有用な結果であったと考える。【理学療法学研究としての意義】本研究は脳卒中者における位置覚検査の経時的変化を明らかにしたことで,深部感覚に関する評価・治療に貢献しうるものである。
著者
橋本 宏二郎 足立 淳二 菅沼 惇一 奥埜 博之 河島 則天
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】脳卒中患者では,片側性の運動麻痺による麻痺側の支持性低下などによって,左右非対称な立位姿勢をとるケースが臨床上多くみられる。また,感覚障害を伴う場合には,立位姿勢を維持する上での残存機能が十分であるにも関わらず,患側からの感覚フィードバックを有効に活用できないことが一因となり,健側への過度な依存を示すケースが散見される。本研究では,脳卒中片麻痺患者の立位姿勢時の左右非対称性を改善するための1手段として,重心動揺リアルタイムフィードバック装置を用いて左右方向の重心動揺量を操作的に減弱させ,患側への荷重配分を促す介入的アプローチを行い,その有効性を検証したので報告する。【方法】対象は当院でリハビリテーションを実施している脳卒中片麻痺患者9名(左麻痺3名,右麻痺6名)であった。全症例,手放しで立位保持が可能であり,軽度の感覚障害を呈していた。立位時における患側への荷重配分を促し,立位姿勢の安定性を高めることを目的として,重心動揺リアルタイムフィードバック装置(BASYS,テック技販社製)を用いた介入を実施した。対象者は装置上で足部位置を左右対称に規定した立位姿勢をとり,左右方向の重心移動を行うよう指示を与えた。この時,足圧中心(Center of Pressure:COP)の左右方向の変位に応じて,COPと同方向(in-phase)に床面を動作させることで動揺量を減弱させるフィードバック操作を与えた。設定を段階的にCOP動揺量の約5%,10%,15%と増加させることで左右方向の動揺量の拡大と,健患側への均等な荷重配分を企図した調整的介入を行った。介入効果の評価として,30秒間の静止立位および随意的な左右動揺時のCOP計測をサンプリング周波数1000Hzにて実施した。評価項目は,COPの95%楕円信頼面積,総軌跡長,COP動揺の前後左右の平均位値,及び最大範囲とした。介入前後の平均値の差の検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】in-phase条件(5%,10%,15%)での介入により,介入前後の静止立位時においてCOP左右方向の平均位置が有意に変化した(p<0.05)。全症例の内訳を見ると,9名中7名(うち3名は介入前より麻痺側への荷重優位)においてCOPの患側方向へのシフトを認めた。また,統計的有意差はないも95%楕円信頼面積で9名中5名,総軌跡長で6名が減少を示した。随意的な左右動揺時の左右最大値では介入前後で6名が麻痺側へのCOP増大を示した。【結論】脳卒中片麻痺患者では,片側性の運動感覚麻痺の影響から左右非対称の立位姿勢を呈し,本来的な左右対称的な姿勢調節を行うことに困難を伴うことが想定される。本研究で実施した重心動揺リアルタイムフィードバックは,本人の明確な意図を伴うことなく左右方向の重心移動量を拡大し,残存機能を活用した患側への荷重配分を実現しようとするもので,より適切な立位姿勢戦略を実現する上での調整的介入の手段となる可能性が示唆された。
著者
上田 将吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】理学療法診療ガイドライン第1版(2011)にて,脳卒中に対する種々の理学療法介入とそのエビデンスが示されている。しかし感覚障害に対する介入の記載はなく,感覚障害に対する理学療法介入は未だ確立されていない。今回,右下肢の感覚脱失を呈した慢性期脳卒中右片麻痺症例に対し,感覚が残存した部位から知覚が可能な領域の拡大を意図した介入を実施した。結果,感覚障害の改善と起立および歩行動作のパフォーマンスに改善を認めたため,報告する。【方法】対象は左被殻出血により右片麻痺を呈した60歳代男性。約6ヶ月間回復期病棟でのリハビリテーションを受け,発症後約7ヶ月時点で訪問リハビリテーションの介入を開始した。麻痺側Brunnstroms Recovery Stage(以下BRS)は上肢II,手指II,下肢IIであった。右足底および右下肢の表在感覚検査は10回法で0/10であり,脱失と判断した。体幹は,肩甲帯背面で5/10,臀部は0/10であった。起立動作は物的介助で可能も,物的介助なしでは困難であり,30秒椅子立ち上がりテスト(以下CS-30)は0回であった。自宅内移動はShoehorn Brace(以下SHB)およびSide Caneを使用し自立であった。Timed Up& Go Test(以下TUG)は77秒であった。症例の肢位は端座位とし,右側身体に対する接触の有無を回答するよう求める訓練課題を実施した。接触する部位は肩甲帯から下肢へ少しずつ移動し,接触の有無はランダムとして,20回実施した。介入頻度は2回/週,60分/回であり,介入期間は2ヶ月間であった。【結果】訓練課題にて,接触を開始する身体部位に関わらず,臀部・下肢から接触した場合も8/10で正答が可能となった。表在感覚検査では,右足底が5/10に変化した。右下肢のBRSがIIIに変化した。物的介助なしでの起立が可能となり,CS-30は7回であった。自宅内移動はSHB非着用での歩行が自立し,物的介助はSide CaneからQuad Caneに変更となった。TUGは53秒に変化した。【考察】足底感覚へのアプローチの例として,足部のコンディショニング,足底からの情報に変化をつけるなどの方法が提唱されている(諸橋,2006)。しかし,このような足底に対する直接的な介入は,右下肢の感覚が脱失した本症例では実施が困難であると判断し,感覚が残存した肩甲帯からの介入を実施した。神経生理学的には,刺激への注意により体性感覚野の反応が大きくなることが示されている(Hamalainen,2000)。また,円盤に触れさせる課題を行った後,触れた身体部位に対応した体性感覚野領域が広がることが報告されている(Jenkins,1990)。今回実施した訓練課題では,右側身体への刺激に対する注意を要求した。このため体性感覚野にて,刺激した部位に対応した領域の反応の増大や,対応した体性感覚野領域が広がることにより,感覚が改善したと考えられる。片麻痺患者の感覚障害の多くは体性感覚を障害されることが多く,体性感覚が障害されると円滑でスムーズな運動は困難となるとされている(成田,2003)。本症例でも下肢の感覚改善に伴い起立・歩行動作のパフォーマンスが改善したことから,理学療法介入において感覚障害に対する治療介入が有効となる可能性が考えられる。その方法として,感覚脱失を呈した脳卒中片麻痺症例では,感覚が残存した部位から知覚が可能な領域の拡大を意図した介入が有効である可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】麻痺側体性感覚脱失に対する治療介入の1モデルと,起立・歩行動作のパフォーマンス向上のための感覚障害に対する介入の有用性の提案。
著者
大和田 広樹 鷺池 一幸
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【目的】体性感覚障害は単独に存在しても深刻な運動障害を生じ歩行,ADLに影響を及ぼす。現在,脳卒中後の感覚障害に対する治療プログラムのエビデンスは乏しく,有効な治療法が確立されていない。近年の研究で末梢神経電気刺激(PSS)を用いることで運動野の機能的な変化が生じた報告があり,感覚野も可塑性変化を生じる可能性があると考えられている。今回,重度感覚障害を呈する脳卒中患者にPSS治療とトレッドミル歩行を併用し,感覚障害が改善した症例を経験したので報告する。【症例】初発の回復期脳卒中患者で50歳代の男性。診断名は中脳背側脳動脈奇形による脳室内出血。症状が緩和したことで脳動静脈奇形流入動脈閉塞術を施行したがその後に左中脳大脳脚の虚血を合併した。BRSは下肢VI。表在感覚は脱失,深部感覚は軽度鈍麻で異常感覚を認めていた。著明な高次脳機能障害がなく認知機能も正常,歩行,ADLは自立であった。【方法】研究デザインはシングルケーススタディのABAデザインを用い,基礎水準期(A期)にPSS治療のみを30分,操作導入期(B期)はトレッドミル歩行と同時にPSS治療を30分実施した。撤回期(A2期)はPSS治療30分のみを行い,各期間を2日間実施した。評価はそれぞれ視覚的アナログスケール(VAS)を用いて実施直後,5分後,10分後,30分後,1時間後に行った。評価結果が良好であった治療方法を選択し,継続して行い経時的な変化を検討した。PSSの設定は矩形波,周波数10Hz,Burstモード,刺激強度は2~5mAに調整し,刺激部位は腓骨神経領域とした。トレッドミルは歩行速度を3.5km/hに設定した。【結果】A期のVASは直後(2/10),5分(2/10),10分(0/10),30分(0/10),1時間(0/10)であった。B期では(3→2→1→1→1/10)と軽度改善と感覚の維持がみられたが翌日には消失していた。A2期では改善の程度はB期と同様であったが,時間の経過とともに消失した。内省報告と主観的な効果の期待値からPSS治療とトレッドミル歩行を併用したアプローチを選択した。最終評価では初回と比較して(0→4/10)と変化がみられた。【考察】PSS治療は反復刺激により対側感覚野の活動が長期増強様の過程によりシナプス可塑性変化を誘導し,触覚や知覚,感覚運動処理の変調が生じるとしている。トレッドミル歩行では内側一次感覚運動野と補足運動野の酸素化ヘモグロビン濃度が増加することを報告している(Miyai)。このことからPSS治療とトレッドミル歩行を併用することで入力される感覚量,筋活動量が多くなり一次感覚野のみならず,一次運動野や補足運動野,背側運動野が活性化し脳の可塑性変化を増長させ感覚障害が改善したと考えられた。本症例は回復期段階で経時的な脳の可塑性変化によるとも考えられた。しかし併用介入後に短期間で改善したことは興味のある結果となった。今後は症例を増やしPSS治療の刺激パラメーターを一定にするなど感覚障害への有効な治療法として検証していきたい。
著者
都留 貴志 辻 文生
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【目的】我々は2009年より世界COPDデーに合わせて,医療従事者による肺年齢測定(以下,肺機能測定)とその結果説明,禁煙指導,吸入指導,栄養指導,呼吸リハビリ体験などを組み込んだCOPDの啓発活動を行ってきた。そして,2013年の世界COPDデーにおいて,「肺機能測定に参加した人数世界一」という世界記録に挑戦するイベントを企画し,1日の測定人数でギネス世界記録<sup>TM</sup>を大幅に更新した。肺機能測定は測定時の実施環境を整えることが重要であり,同日に同一地域で測定された本結果は非常に精度が高く,信頼性の高いものと考えられる。そこで,COPD問診票であるIPAG質問票(以下,IPAG)と肺機能測定より得られた結果を分析し,大規模なCOPD実態調査を行ったのでここに報告する。【方法】対象はイベントに参加した者のうち,肺機能測定を希望した1020名とした。調査内容は肺機能測定とIPAG,喫煙の有無の計3項目とした。分析対象は,40歳以上で肺機能測定およびIPAGともに記録の不備が無かった714名とした。肺機能測定では1秒率70%未満を気流閉塞と定義し,IPAGでは特異度の高い20点以上をカットオフ値とした。更に,肺機能測定で気流閉塞を認め,IPAGで20点以上であった者を「COPD疑い」と定義し,喫煙率についても算出した。【結果と考察】今回,肺機能測定とIPAGの結果を分析したところ,「COPD疑い」とされた者は13.2%であった。そのうち,継続喫煙者が14.9%,既喫煙者が46.8%であり,合わせると61.7%にものぼり,喫煙とCOPDの発症が深く関与していることを裏付けていた。しかしながら,本調査では「COPD疑い」とされた者の中で非喫煙者が38.3%と非常に高く,これまで考えられていた以上に受動喫煙を含む環境因子が大きな影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
著者
中嶋 仁 東 大輝 都留 貴志 加納 一則
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100637, 2013

【はじめに、目的】呼吸リハビリテーションプログラム(呼吸リハプログラム)の中で下肢の運動による持久力トレーニングは、エビデンスとして最も推奨されている。その方法は歩行練習、階段昇降練習、自転車エルゴメータ、トレッドミルなどがあるが、その中で最も処方されているのは歩行練習である。近年、歩行運動の一つとしてノルディックウォーキング(NW)が注目され、普及している。NWは、2本のポールを持ち歩行することで下肢だけでなく上肢にも負荷がかかり、通常歩行より高い運動効果が得られるとされている。糖尿病、パーキンソン病、心臓疾患や骨関節疾患のリハビリテーションにおけるNWの有用性が報告されている。しかし、日本における呼吸疾患に対するNWの取り組みや効果を報告したものはない。今回の研究の目的は、呼吸リハプログラムにおけるNWの導入効果について明らかにすることである。【方法】対象は、2週間の包括的呼吸リハ目的で入院した独歩可能な慢性呼吸器疾患患者7名(男性4名、女性3名、平均年齢72±8.6歳、VC:2.3±0.5L、%VC:86.8±31.5%、FEV1.0:1.2±0.6 L、FEV1.0%:53.6±14.1% %FEV1.0:59.0±18.0% )である。認知症、脳血管障害を有するものは本研究より除外した。対象者は入院中に呼吸方法、上下肢の筋力トレーニング、ストレッチや自転車エルゴメータなどの一般的な呼吸リハプログラムに加えNWを行った。NWの指導は、(社)全日本ノルディックウォーク連盟の公認指導員の資格をもつ理学療法士が行った。退院後は、自宅で継続させ週1回の外来フォローを行った。NWを加えた呼吸リハの効果判定として、運動耐容能、下肢筋力、健康関連QOL、身体活動量の評価を入院前1か月と退院後1か月に行った。運動耐容能の評価は6分間歩行テスト(6MWT)、下肢筋力は、ハンドヘルドダイナモメ-ター(アニマ社製μTasMT-1)を用いて膝伸展筋力を測定し体重支持指数(WBI:Weight Bearing Index)を求めた。健康関連QOLは疾患特異的尺度のThe St.George'S Hospital Respiratory Questionnaire(SGRQ)を用いた。身体活動量の評価は、スズケン社製の多メモリー加速度計測装置付き歩数計(ライフコーダー)を用いて計測した。計測値は、入院前1か月間と退院後1か月間の起床から就寝までとし1日の平均歩数を求めた。統計学分析として、入院前と退院後1ヵ月の各評価項目を対応のあるt検定を用いて検討した。【倫理的配慮、説明と同意】今回の研究は、当院の倫理委員会の規定に基づいて実施した。本研究の趣旨、内容、中止基準および個人情報の取り扱いに関して説明を行った上で研究協力の承諾を得た。【結果】WBIは入院前1ヵ月35.7±15.4%から退院後1ヵ月52.4±14.7%と有意に増大した(P<0.01)。6MWTは入院前1ヵ月359.2±181.5mから退院後1ヵ月474.5±123.4mと有意に増大した(P<0.05)。SGRQの総得点は入院前1ヵ月48.1±23.6点から退院後1ヵ月35.0±18.0点と有意に変化した(P<0.05)。 身体活動量は、入院前1ヵ月5386±2485歩から退院後1ヵ月8923±2140歩と有意に増大した(P<0.01)。【考察】全ての対象者が、入院前より退院後に身体活動量が増大しNWを継続して行っていた。NWという新しいアイテムが、対象者の運動意欲や運動の動機づけの刺激となり身体活動量が向上したと考える。NWは通常歩行に比べて同じ歩行速度でも心拍数が有意に高い、酸素摂取量が多い、上肢の筋活動が多い、そして、エネルギー消費が多いが主観的強度に差がないなど高い運動効果が報告されている。また、ポールの使用方法を変えることで運動強度を低強度から高強度と患者状態に合わせて運動することが可能である。このようなことから、通常の呼吸リハプログラムにNWを行うことで、運動耐容能、下肢筋力、健康関連QOL、身体活動量が有意に増大したと考える。しかし、今回の研究では通常の呼吸リハも実施しており、NWそのものの効果を証明したとは言えない。これからの課題は、比較対象試験を行いNWの効果を証明することである。【理学療法学研究としての意義】呼吸リハプログラムにNWを導入した報告は日本には無い。今回の研究の結果、多数ある呼吸リハプログラムの中に、NWが新しい構成要因になりうると考えられることに本研究の意義がある。
著者
西川 秀一郎 東野 秀紀 岡 裕士 渡辺 文 齊藤 祐貴 山口 早紀 福井 直樹 村上 仁志(MD)
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100721, 2013

【目的】当院では,二分脊椎症児の筋の未発達,及び発達筋の不均等によって生じる筋出力低下に対し,日頃から筋力トレーニングを積極的に行っている.しかし,小学生以下に対して筋力増強効果が期待できる負荷量では,疲労感や嫌悪感などから継続した筋力トレーニングが困難である場合が多く,適切な負荷量をかけられないのが現状である.近年,脊髄損傷患者に対する電気刺激(Electrical stimulation:ES)は有効なリハビリテーションとして期待されている.現に,Glinskyらは筋力トレーニングに電気刺激を併用することで,筋力増強効果を高める可能性があると報告している.また,小児脊髄損傷患者にESを実施した研究では,大腿四頭筋トルクの有意な増加を認めている(Karmel,1992).しかし,二分脊椎症患児に対し,電気刺激と筋力トレーニングを併用させた筋力増強効果の報告は散見される程度であり,本研究は二分脊椎症児に対して筋力トレーニングと大腿四頭筋へのESを併用した運動による筋力増強効果とそれに伴う運動機能への影響を調査した.【方法】対象者はKAFOを装用し独歩可能な外来通院している二分脊椎症児.脊髄運動最下髄節L4.(7歳,女児,110.8cm,体重17.9kg)であった.研究デザインはABデザインを採用した.(A)基礎水準期は端坐位にて徒手筋力計(OE-210)を用いた結果の50%の重錘を大腿四頭筋求心性・等張性収縮にて反復回数13回,週2日,4週間施行した. (B)操作導入期(ES期)はAの方法にESを併用した.電気刺激には伊藤超短波社製低周波治療器Torio300を用い,刺激部位は大腿四頭筋とした.刺激電極は,大腿伸側の正中面上で鼠径部から膝蓋骨上縁を4等分した上1/4と下2/4に刺激電極を貼付した.電極設置の際,皮膚のインピーダンスを減少させる為、アルコール綿にて前処置を行った.刺激パラメーターは,パルス幅0.2ms,周波数50Hzの双極性矩形波とし,通電時間10秒,休止時間20秒にて10分,電流強度は疼痛や不快感が出現しない最大強度とした.測定項目は,膝関節伸展筋力(伊藤超短波社製徒手筋力計OE-210),片脚立位時間,10m最大歩行時間,10m走行時間,歩幅,Time Up and Go test(TUG)とし,評価の時期は,基礎水準期前後,ES期終了時に測定した.膝伸展筋力(膝関節屈曲90°)の測定方法は,徳久らが開発したH固定法を採用した.歩幅の測定は,矢状面からデジタルビデオカメラで撮影し,imageJにて計測した.【倫理的配慮、説明と同意】参加者にはヘルシンキ宣言に基づき本研究の概要、公表の有無と形式、個人情報の取り扱いについて患児と患児の保護者に対して紙面と口頭にて説明を行い、研究参加同意書をもって同意を得る.【結果】ES期前後で全ての項目で改善がみられた.膝関節伸展筋力は(膝関節屈曲0°)右6.5kgから7.4kg、左3.7kgから4.1kg、(膝関節屈曲90°)右7.8kgから8.5kg、左3.2kgから5.0kg、に増大し、片脚立位時間は右20.45秒から23.02秒、左3.18秒から6.58秒に増大した。10m最大歩行速度は8.44秒から7.54秒に、10m走行時間は7.22秒から6.86秒に短縮した。歩幅は95.1cmから105.7cmに増大し、TUGは7.14秒から6.65秒に短縮した。【考察】DelittoらによるとESは過負荷と選択性というメカニズムから筋力を増強させると述べており、選択性の原則では、ESはタイプI線維よりもタイプⅡ線維を収縮させるため、同程度の収縮力の設定では生理的筋収縮よりもESの方が強い筋力増強効果が得られると報告している.本研究の結果からもESと筋力トレーニングを併用させることによりタイプI線維とタイプⅡ線維が同時に収縮したことで、筋力トレーニングのみより筋力増強効果が得られたと推測される.また,Daubneyらは膝伸展筋力が片脚立位時間に影響を与えると報告しており、膝伸展筋力が増強したことにより下肢の支持性が向上したことが片脚立位時間の延長につながったと考えられる。TUGについてBsichoffらは,下肢伸展筋力との有意な相関が認められたと報告しており、立ち上がり時に必要な膝伸展筋力が増強したことにより,立ち上がり時間の短縮が考えられる。歩行また走行時間について,膝伸展筋力の増強によりイニシャルコンタクト後の衝撃吸収を大腿四頭筋が円滑に遂行し、立脚中期の間の下肢支持性が向上したことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】ESを併用した運動による筋力増強効果とそれに伴う運動機能への影響を調査し,理学療法介入において二分脊椎症児に対しESが筋力増強と運動機能への介入の有効性につながると考えられる。
著者
藤原 賢吾 中山 彰一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】本校では,クリニカルクラークシップ(以下CCS)導入に向けて取り組みを進めており,第50回の本学会において,実習生に対するアンケート調査よりCCSの有益性と学生にとって肯定的イメージであることを示した。今回,実習施設の現状の指導方法,今後の方針,CCS導入に対する考えを把握する目的で実習施設へのアンケート調査を実施し,若干の知見を得たので報告する。【方法】平成25,26年度の実習施設147施設に対し,質問紙法によるアンケート調査を実施した。アンケート記入は,施設,回答者は無記名とした。アンケート内容は,①現状の実習指導方法,②発表の有無,③担当症例数,④診療参加症例数,⑤実習実施形態,⑥今後の取り組み,⑦CCS受入れ可否,⑧CCS導入に向けての不安要素,⑨CCSを導入しない理由とした。回答形式は①~⑦は多肢選択法(①②は無制限複数選択法),⑧~⑨は自由回答法とした。【結果】147施設のうち116施設から有効回答を得た(回収率79%)。設問①で多かった回答は,症例担当(99%),レポート(90%),レジメ(80%),ケースノート(63%),学習課題(57%)であった。設問②は,最終評価発表(80%),初期評価発表(34%),発表なし(9%)であった。設問③は,1名(55%),2名(53%),3~5名(9%)であった。設問④は,1~5名(53%),6~10名(21%),11~20名(9%)であった。設問⑤は,従来型(69%),施設独自のCCS形態(20%),養成校の方針に合せたCCS形態(13%),検査測定までCCS併用(1%)であった。設問⑥で多かった回答は,将来的に養成校の方針に合せたCCS導入予定(30%),CCS導入予定なし(29%),CCS導入済(19%),将来的に施設独自のCCS導入予定(13%)であった。設問⑦は,可能(40%),要検討(34%),折衷型(CCSの要素を取り入れた従来型)での受入れ(24%),不可能(5%)であった。自由回答で多かったものは,設問⑧「受入れ側のCCSに対する理解不足(19件)」「全体像把握,統合と解釈,経過的理解などが困難(19件)」「学生の自主性,実習の質の低下(10件)」,設問⑨「患者について考慮し,考えを伝えるために症例担当,レポート作成が必要(13件)」「受入れ側のCCSに対する知識,理解不足(10件)」であった。【結論】今回の調査で,CCSを導入している施設が約30%であることがわかった。また,今後CCSを導入する予定の施設を合せると約70%となり,本校がCCSを導入した際に受入れ不可能な施設は5%にとどまり,CCS導入に向けて前向きな結果であった。しかし,受入れの際に折衷型での受入れ,要検討の施設が50%以上であり,導入の際は現場に即したシステムの構築が必要であると考える。CCSを導入している施設を含め,ほぼすべての施設で症例を担当しており,経過を追える症例の必要性が示唆された。また,今後CCS導入に向けては,統一したCCSの概念,方法論を施設側に提供する事,レポートに代わる学生の理解度を評価するツールが必要である。
著者
村山 淳 村山 悦子 竹中 弘行 佐々木 泰仁 寺見 彰洋
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.C0102, 2008

【はじめに】人工股関節全置換術(以下THA)を施行された患者では胡座坐位での靴下着脱動作練習後に、歩容の改善をしばしば経験する。今回は、足部の知覚と動作の関係に着目し,THA患者の靴下着脱動作練習前後の片脚立位能力および歩行能力を比較し若干の知見を得たので報告する。<BR><BR>【対象】片側THA患者17名。男性2名、女性15名、平均年齢66.9±9.8歳、平均体重56.6±9.8kg、平均身長153.2±7.5cm。全荷重可能となり杖歩行自立した者で胡座坐位での靴下着脱練習が可能な者とした。<BR><BR>【方法】靴下着脱練習前後における片脚立位保持時間とTimed up and go test(以下TUG)を測定し比較した。靴下着脱練習はセラピストと一緒に胡座坐位をとり、両側足部の可動性を確認した後、靴下の中に足部が入り込んでいく感覚を感じながらの着脱を両側共おこなった。片脚立位保持時間は2m前方の壁のマークを注視しながら片脚立位を保持し30秒可能で終了とした。TUGは5__m__前方に棒を立てセラピストの合図で立ち上がり、棒を回って戻り、イスに座るまでの時間を測定した。靴下着脱練習前後の差の検定はt検定にて行った。<BR><BR>【結果】術側片脚立位平均時間は靴下着脱前平均12.7±1.0秒、着脱後平均17.3±11.7秒と練習着脱後の方が長くなり有意差を認めた(P<0.01)。非術側片脚立位平均時間は靴下着脱前平均20.1±11.9秒、着脱後22.8±10.6秒と着脱後の方が長くなったが有意差を認めなかった。TUG平均時間は靴下着脱前平均19.8±4.9秒、着脱後平均18.2±4.1秒と着脱後の方が速くなり有意差を認めた(P<0.05)。被験者の主観は練習後靴下着脱がしやすくなり、歩きやすいと答えた者が多かった。<BR><BR>【考察】今回の結果ではTHA患者に対し靴下着脱練習をセラピストと一緒におこなった後の術側片脚立位時間が有意に延長し、TUGが短縮した。胡座坐位は脱臼肢位の股関節屈曲、内転、内旋を取らないということを理解しやすいことと,支持面上で安定しており、足部に手、頭部が向かっていける姿勢のため触運動覚及び視覚での足部の知覚と足関節自体の運動が引き出しやすい姿勢と考えられる。靴下着脱は靴下から受ける触、圧感覚に対し足部が無自覚に反応して行われる。THA患者は術後疼痛が軽減し筋力、可動域が改善しても術前同様の非術側主体の姿勢、動作となり易く術側足部の反応が乏しい。靴下着脱を練習する事により術側足部の活動性を促した結果、足部で支持面を探索し知覚することができバランス反応を引き出す事が出来たと考えられる。このことにより、術側の片脚立位時間が延長し、立ち上がり、歩行し、座るという一連動作であるTUGも短縮したと考えられる。THA後の後療法としてROM改善、筋力強化、歩行練習が主体であるが、術側下肢をADLの中で自分の脚として使えるようになるという視点が大切であることが再認識された。
著者
山中 愛梨 高木 裕美 小原 謙一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2014, 2015

【はじめに,目的】中腰姿勢は立位姿勢と比較して,重心線から体幹長軸および下肢関節軸位置が逸脱しているため不安定な姿勢と言え,転倒との関連性が推測される。転倒に関連する重心動揺についてWatanabeら(2010)は,指先での壁面軽接触が重心動揺を減少させ得ると報告している。そこで本研究は,中腰姿勢における重心動揺を減少させ得る指先以外の軽接触部位を検討することで,中腰姿勢での日常生活動作時における上肢活動(例:排泄後の清拭動作)を安定して行えるようにする方法を考案するための基礎的資料とすることを目的に実験を行った。【方法】対象は,若年健常成人40名(年齢:20.5±0.7歳,男性20名,女性20名)とした。実験条件である軽接触部位は,肩峰部,大転子部,大腿骨外側顆部とし,コントロール条件として軽接触なし条件を加えた4条件で実験を行った。これらの接触部位は,解剖学的構造上の突出部位であり,かつ側方からの軽接触が行いやすい部位であるという理由から選出した。高さの異なる各部位に軽接触を行うために,先端にスポンジを装着した棒を身長計のヒット部に固定した器具を使用した。重心動揺の測定には重心動揺計(アニマ社製GP-7)を使用した。中腰姿勢が不安定となる状況を想定し,その代表的な例として片麻痺者を挙げ,その片脚荷重量を参考(朝山,1991)とし,実験前に体重の83%の右下肢への荷重練習を中腰姿勢で行った。その後,対象者には,測定肢位である中腰姿勢(股関節屈曲90度,膝関節屈曲60度,体幹傾斜角度は対象者の任意)を重心動揺計上でとるように指示し,重心動揺が安定したことを確認した後に測定を開始した。測定時間は30秒間とし,各条件につき3回ずつ施行し,平均値を統計学的解析に採用した。測定結果の抽出項目は,総軌跡長と矩形面積とした。統計学的解析は,4条件間の比較のために,一元配置分散分析とBonfferoni法の多重比較を用い,危険率5%未満をもって有意とし,危険率10%未満をもって傾向があると判断した。【結果】()内に重心動揺測定値を軽接触なし,肩峰接触,大転子接触,大腿骨外側顆部接触の順に示す。総軌跡長(cm)は,(66.1±10.7,47.4±11.9,55.0±15.7,57.5±12.0)であり,肩峰接触と大転子接触は,接触なしと比較して有意に低値を示し(p<0.05),肩峰接触は大腿骨外側顆部接触と比較して低値を示す傾向であった(p<0.10)。矩形面積(cm2)は,(9.8±3.5,3.4±1.7,4.9±2.1,6.8±2.6)であり,接触なしは他の条件と比較して有意に高値を示した(p<0.05)。肩峰接触は大腿骨外側顆部接触よりも有意に低値を示し(p<0.05),大転子条件は大腿骨外側顆部接触よりも低値を示す傾向が認められた(p<0.10)。本研究結果より身体部位,特に肩峰での軽接触で重心動揺が軽減することが示唆された。【考察】軽接触なしと比較し,軽接触ありの他の条件で有意な減少が認められたことから,手指以外の部位での軽接触による感覚入力は,重心動揺を減少させ得ると考える。また軽接触3条件の各部位における触覚受容器の分布を調べるため,予備実験を行ったところ,2点識別閾値の平均値は肩峰部40mm,大転子部48mm,大腿骨外側顆部27mmであり,統計学的解析により,大転子部と比較し,大腿骨外側顆部では有意に低値を示していた。これらの結果より,感覚入力の情報量として,大腿骨外側顆部が他の2つの部位よりも多いことが考えられる。一方で,本研究結果では肩峰への軽接触が中腰姿勢の重心動揺をより減少させていた。さらに,総軌跡長において,触覚受容器が多く分布する大腿骨外側顆部は接触なしと比較して有意な減少が認められなかった。力学的有利性の観点から,支点の近くに作用させることにより力はその効果を失い,同じ力を支点から離れたところに作用させることによって,力学的有利性の効果を得る。足部を支点においた場合,支点からの距離が最も離れている肩峰での接触が力学的に有利であり,その他の部位よりも安定性が高いと考えられる。これらのことから,手指以外の部位での軽接触による中腰姿勢の安定には,感覚的要因に加えて力学的要因が関与していること示唆された。【理学療法学研究としての意義】中腰姿勢が不安定で,さらに片側上肢の使用が困難なうえで上肢による支持が必要な人の清拭動作の安定性の向上を図っていく一助として,一般家屋もしくは医療機関において,トイレ個室内の手すりの配置や形状を肩峰へ接触できるような環境設備が示されたことは,転倒予防の観点から意義がある。
著者
倉田 和範 林田 一成 峪川 優希 渋谷 諒 安部 大昭 松本 和久 小幡 賢吾
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】患者の全身状態の把握や予後予測を行う上で,身体機能評価は重要である。その評価方法としてTimed-Up-and-Go-Test(TUG)やFunctional Balance Scale(FBS)など,転倒のカットオフ値が設けられたテストは複数存在するが,それぞれ患者に努力歩行を要求したり,評価に時間を要したりと,入院中の活動性が低下したリハビリテーション(リハ)開始早期の患者には適応できないことが多い。Short Physical Performance Battery(SPPB)は,地域高齢者を対象とした身体機能のスクリーニングテストの一つであり,死亡率や施設入所の予測因子になると報告されている。SPPBは①立位テスト②4m通常歩行テスト③5回の椅子起立着座テストから構成されており,その特徴として短時間に安全かつ簡便に評価できる点が挙げられる。そこで,SPPBとその他の評価法の関係性を調査し,入院患者におけるSPPBの有用性を検証することを本研究の目的とした。【方法】対象は平成27年9月から2か月間のうちに当院を退院した,65歳以上の患者67名。このうち急遽の退院,認知症および精神疾患,患者の同意が得られない,寝たきりを含む立位保持不可等の除外基準に該当した37名を除く,30名を調査対象とした。評価項目はSPPB,TUG,FBS,Functional Reach Test(FRT),Body Mass Index(BMI),握力,等尺性膝伸展筋力および30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30)とした。それぞれの患者の退院前1週間を評価期間とし,原則1日で評価を行った。検者間測定誤差を防ぐため,検者は各評価方法を熟知した4名に限定した。TUG,FRT,握力および等尺性膝伸展筋力はそれぞれ2回ずつ行い,平均値を代表値とした。SPPBと各測定項目の関係性を,spearmanの順位相関係数を用い検討した。次に転倒のカットオフ値として報告されているFBS 45点によってROC曲線を求め,SPPBの転倒カットオフ値を算出した。【結果】男性9名女性21名,平均年齢82.9歳。下肢の骨折等による手術後11名,上肢や腹部など下肢以外の手術5名,その他保存療法14名。SPPBとの関係性はTUG(ρ=-0.82),FBS(ρ=0.89),CS-30(ρ=0.76),握力(ρ=0.60),FRT(ρ=0.65),等尺性膝伸展筋力(ρ=0.42)であり,すべて有意な相関を認めた。BMIは有意差を認めなかった。FBSの転倒カットオフ値から算出したSPPBの転倒カットオフ値は,7点であることが分かった。【結論】SPPBはFBS,TUG,FRTと強い相関関係にあることが示された。これにより,入院患者に対しSPPBを用いることで,より安全かつ簡便に客観的な評価を行える可能性が示された。SPPBは立位保持,歩行,起立から構成されているため,立位保持可能であればTUGやFBSでは困難な,リハ開始早期からの身体機能スクリーニングが可能である。また,このことから退院時評価と比較することで経時的な変化も捉えられる可能性がある。今後は症例を重ね,障害部位による違いや,これらの経時的な変化に関して検討したいと考える。
著者
安廣 重伸 佐藤 俊彦 田中 啓充 上野 亜紀 鶴岡 浩司 西江 謙一郎 柚上 千春 江戸 優裕
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab0709, 2012

【はじめに、目的】 臨床場面において、足底板やテーピング等を用いて腓骨の操作をすることで、下肢の前額面上の運動をコントロールする場面を経験する。これに関する先行研究では、上島ら(2007)は入谷式足底板での外果挙上が、歩行時の骨盤の外方加速度を減少させたと報告し、腓骨の挙上が近位脛腓関節を介して脛骨を内上方に向って押し上げる力になった事をその要因として挙げている。このことから、腓骨の挙上または下制は、脛骨を介して膝関節の内外反運動に影響を及ぼす事が考えられる。そこで本研究では、膝の内反ストレスによって進行する(Andriacchi ら2004)とされる変形性膝関節症(以下膝OA)の症例を対象に、レントゲン画像を用いて脛骨に対する腓骨の高位と膝関節のアライメントの関係性について検討を行ったので報告する。【方法】 対象は2009年8月から2011年10月に当院で内側型膝OAに対し、片側人工膝関全置換術(以下TKA)を施行した症例のうち、レントゲン画像の使用に同意を得る事の出来た20名(40肢、男性5名、女性15名、平均年齢75±7.1歳)とした。対象者のTKA施行に際して医師の処方の下、術前検査の目的で放射線技師により撮影されたレントゲン画像(膝関節正面像・側面像・下肢全長の正面像)を用いて、以下の項目を計測した。計測項目は、腓骨下制量・腓骨長・Femoro-Tibial Angle(以下FTA)・Femoral Condyle-Femoral Shaft angle(以下FC-FS)・Tibial Plateau-Tibial Shaft angle(以下TP-TS)・Femoral Condyle-Tibial Plateau angle(以下FC-TP)・Posterior Proximar Tibial Angle(以下PPTA)とし、1mm及び1度単位で計測した。尚、腓骨下制量は、腓骨長軸に対して腓骨頭の外側隆起部及び脛骨高原最外側部からの垂直線をひき、成された2つの交点の距離として定義し計測した。そして、体格の影響を排除する目的で、腓骨下制量を腓骨長で除し、更に百分率で表すことで、腓骨下制率を算出して分析に使用した。統計学的分析にはFTA・FC-FS・TP-TS・FC-TP・PPTAの各々における左右差と腓骨下制率に関係があるかを対応のあるt検定を用いて検討した。尚、各項目において左右差がなかった対象者は群間比較からは排除して分析した。また、各膝関節アライメントと腓骨下制率に関係があるかをPearsonの積率相関係数を用いて検討した。有意水準は危険率5%(p<0.05)で判定した。【説明と同意】 対象者には本研究の主旨を説明し、レントゲン画像の使用に書面にて同意を得た。【結果】 計測の結果、腓骨下制量は28.1±4.2mm・腓骨下制率は8.7±1.2%であった。膝関節アライメントの指標として挙げた、FTAは181.4±3.9度・FC-FSは83.6±3.2度・TP-TSは94.5±3.5度・FC-TPは3.9±2.1度・PPTAは81.3±4.8度であった。膝関節アライメントの左右差と腓骨下制率の関係については、FTAの左右差による分類において有意な群間差を認め、FTAの大きい側の腓骨下制率は大きいことが分かった(p<0.01・n=19:1名は左右差なし)。FC-FS・TP-TS・FC-TP・PPTAの左右差による分類ではと腓骨下制率に群間差は認められなかった。膝関節アライメントと腓骨下制率との関係については、FC-FS・TP-TS・FC-TP・PPTAの全項目において有意な相関を認めなかった。【考察】 本研究の結果、左右の比較においてはFTAと腓骨の高位に関係が認められた。上島ら(2007)の研究を踏まえると、FTAの増大により腓骨が下制させられるのではなく、腓骨を上位で維持できなくなる事で、歩行時の膝関節外方化の是正が困難となり、内反ストレスが増大することで、FTAが増大すると考える。即ち、腓骨の挙上によって膝関節の内方化、腓骨の下制によって膝関節の外方化を促せる可能性があると考える。このことから、FTAなどの骨形態の変化がない場合でも、膝関節の内外反ストレスをコントロールする目的で腓骨の高位を操作することは効果が期待できると考えている。【理学療法学研究としての意義】 本研究により腓骨の高位とFTAに関係が認められ、腓骨の挙上は歩行時の膝関節の外反運動を生じさせ、下制は内反運動を生じさせると推察された。膝関節のアライメントを評価・治療する際、腓骨の高位を把握する事は重要であり、特に今回対象とした膝OAにおいては臨床的に有用と考える。
著者
長崎 正義 今田 健 足立 晃一
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2013, 2014

【はじめに,目的】当院は理学療法士3名,作業療法士3名,言語聴覚士2名で構成されている車いす委員会がある。当委員会では新規に導入する車いすの機種選定,購入手続き,導入後の使用法に関する勉強会,整備点検(以下,点検)を担っている。その中の点検は,平成22年4月から月2回の頻度で実施し,病棟で使用している全ての調整,修理を行い,安全に使用できるよう努めている。車いすの点検を実施してきた中で,要整備項目に集約性を感じた。本調査の目的は,点検結果から整備を認めた箇所を記録,集計することでその傾向を把握し,本委員会としての今後の取り組みに活かすことである。【方法】点検は本委員会委員が行い,平成22年4月から毎月2回実施している。チェックシートを用いて,各車いすの点検を実施した。点検結果は院内の申し送りで報告し,担当セラピストに車いすの確認,調整を促している。車いすを集計期間は平成22年4月から平成25年9月までの全84回の点検記録から後方視的に調査した。調査項目は,点検した車いすの述べ台数,大車輪の車軸の緩み(以下,車軸),適正な空気圧(以下,空気圧),ハンドリムの緩み(以下,ハンドリム),ブレーキの効き具合(以下,ブレーキ),バックサポートの張り具合(以下,バックサポート),アームサポートの緩み,フットサポートの高さや向き(以下,フットサポート),キャスターの緩みやキャスター軸の水平(以下,キャスター),上記8項目以外の項目をまとめたその他の計9箇所における要整備件数の合計であった。また,機種特異性のある箇所の整備については集計後,除外項目として扱った。ネジの緩みやパーツの位置や向きに左右差がある場合に要整備箇所とみなした。点検台数から各点検箇所における除外項目の件数を引き,各項目における整備件数の割合を算出した。R ver.2.15を使用して全体の整備割合に対する各調査項目における整備箇所の易発現性に対してカイ二乗検定を行った。【倫理的配慮,説明と同意】ヘルシンキ宣言に従い,点検に関する調査は,使用者を含めたすべての関係者に説明を行い,同意を得たうえで実施した。点検において要整備を認めた箇所についての原因の説明を返却時に行い,同意を得た。点検および集計作業においては,使用者名を伏せて実施し,個人情報の保護に配慮した。当院倫理委員会の承認を得た。【結果】全84回の点検を実施した車いすの延べ台数は1705台,その内,整備を行った台数は1269台であった。延べ件数は15354件であり,整備を行った件数は1545件であった。全点検件数に対する全整備件数の割合は,10.1%であった。整備を点検項目別の整備件数と割合は車軸で145件(9.4%),空気圧348件(22.5%),ハンドリム95件(6.1%),ブレーキ128件(8.3%),バックサポート76件(4.9%),アームサポート82件(5.3%),フットサポート309件(20.0%),キャスター244件(15.8%),その他118件(7.6%)であった。カイ二乗検定は,全体の整備割合に対して,空気圧,ハンドリム,ブレーキ,バックサポート,アームサポート,フットサポート,キャスター,その他の8項目で有意な差を認め,車軸では有意な差を認めなかった。【考察】要整備の発生割合は空気圧,フットサポート,キャスターの順で多く認めた。先行研究において,タイヤ,アームサポート,ブレーキ,フットサポート,キャスターは異常の頻発箇所として報告されている。本調査の結果からも空気圧,フットサポート,キャスターは異常の頻発箇所であると推察する。車いすの点検を行う際,上記3項目は必須確認項目であると考える。また,安全な車いすを提供するうえで各項目の点検を行うことは責務である。要整備になりやすい箇所では,点検の頻度だけではなく,部品そのものの同規格,同サイズへの交換を委員会内で検討,検証し取り組んでいくことが急務である。本調査から点検頻度の検討と部品交換の検討を対策として委員会に提案し,発生しやすい要整備件数の削減に努めたい。当院で院内スタッフを対象に毎週実施している研修会において,リハビリスタッフのみならず,院内スタッフ全体で要整備件数を削減できるよう啓蒙活動を実施していく。【理学療法学研究としての意義】車いすにおいて要整備になりやすい箇所を認識し対策をたてて,安全な車いすの提供に努める活動は車いすの整備件数を削減させることに繋がり,車いすによるインシデントや駆動のしにくさを防止できる。臨床において車いす調整に携わる機会が多い理学療法士が率先して車いす点検を行うことで,安全な車いすを提供することは理学療法士だからこそ出来る生活支援の視点として重要である。
著者
濱川 みちる 高良 翔太 阿嘉 太志 濱崎 直人 宮里 好一 西野 仁雄 石田 和人 白木 基之 辺土名 まゆみ 安里 克己 仲程 真吾 山城 貴大 平山 陽介 秋月 亮二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに】中枢神経疾患由来の手指拘縮は,関節可動域拡大運動やストレッチなどを継続しても改善困難な症例が多く,進行すると手指の衛生不良や介護負担増などの負の連鎖を招く。今回,拘縮手改善のために開発された高反発クッショングリップ「ミラクルグリップ」(ホワイトサンズ社製)を回復期病棟入院患者・進行性疾患患者に試用し,良好な成績が得られたので報告する。【方法】脳血管疾患あるいは進行性神経疾患にて当院に入院または通院している者のうち,手指拘縮を認める4例を対象とした。グリップ着用前の状態として,症例Aは脳出血で入院(発症後6カ月),右上肢の拘縮と他動運動時痛,手指不衛生を認めた。症例Bは脳塞栓症で入院(発症後4カ月),左上肢の拘縮・他動運動時痛を認めた。症例Cは脳出血で入院(発症後4カ月),右上肢の痙性麻痺,手指炎症,他動運動時痛,白癬による悪臭・蒸れを認めた。症例Dは多系統萎縮症で通院(発症後16年),定期的なボトックス治療とPT・OTを継続していたが,両手指・手関節を中心に拘縮とかぶれを認めた。対象者には,通常の治療と併用して,ミラクルグリップのモニターとして拘縮手に1カ月間,24時間継続して着用していただいた。評価には,着用期間中の表情や手指衛生に加え,着用前・着用2週間後・1カ月後の拘縮側上肢の関節可動域(以下,ROM)を記録した。【結果】症例Aは着用前,痛みのため離床や理学療法も長期間拒否していたが,着用2日後より他動運動時の抵抗が軽減し理学療法も受け入れるようになった。6日後には爪切りや離床も可能となった。症例Bは着用2週間後に手・肘関節のROM拡大,1カ月後には肩関節のROM拡大が得られ,苦痛様表情も軽減した。症例Cは内服治療との併用にて,着用7日後には右上肢の筋緊張が全体的に軽減し,1カ月後には熱感や疼痛,悪臭の消失が得られた。症例Dは着用7日後より他動運動時の抵抗軽減,1カ月後にはかぶれ消失,ROM拡大が得られた。【結論】今回,手指拘縮患者に対しミラクルグリップを1カ月間使用し,拘縮の軽減,表情や手指衛生の改善が得られた。西野らはミラクルグリップの効果として,クッションの強い反発力と圧力のランダム性が,上肢全体・顔面の血流を増加させ,脳血流も増加することを示している。また筋電図では,上肢屈筋群だけでなく伸筋群の筋活動量も増加すると報告している。今回のROMや表情の改善も同様の作用によるものと考える。また手指衛生の改善は,グリップのもつ高い通気性・抗菌消臭作用が拘縮改善と相まってもたらした効果と考えられる。本研究により,回復期病棟入院患者や進行性疾患患者という,病期により症状が変化する患者においても良好な成績が得られることが分かった。しかしモニター試用という条件上,シングルケースデザインを導入できなかったため,効果の持続性についてはさらなる検証が必要である。今後,ミラクルグリップが治療手段の一つとして病期にかかわらず広く利用され,効果を発揮することが大きく期待される。