著者
髙橋 珠州彦
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
no.39, pp.41-51, 2017-03-30

昭和初期の吉祥寺地区で実施された府道拡幅事業を事例に、沿道住民の行動と商店街の形成過程について検討した。府道180号線は、吉祥寺駅に通じる唯一の府道であると同時に、井之頭恩賜公園への接続道路としての役割を担っていた。同道では、拡幅事業の前後で沿道商店街の姿が大きく変わった。事業前後で多くの商業経営者が入れ替わった理由は、家屋所有者か借家人かという属性の違いに関わっていた。また、移転や立退きに伴う補償料の支払い額は家屋所有者と借家人で大きく異なっており、彼らの判断材料になっていた。沿道で最多の家屋を所有していた春山庄右衛門は旧家出身であり、拡幅事業以前は多くの貸家経営を行なっていた。事業完了後も沿道に戻り商業を継続する一方、他所出身の商店主らによって結成された商店街組織の代表者として署名している。地域住民の紐帯としての役割を果たした春山氏の行動は、地域形成において重要なものであった。
著者
泉敬子 石崎弘子
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.46-53, 1986-04-01
著者
齊藤 功高
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
no.40, pp.125-133, 2018-03-30

中国の憲法、刑法、刑事訴訟法に人権規定が導入されたにも関わらず、中国の人権侵害はどうして無くならないのか、人権侵害は、中国の法律上どのような根拠で正当化されているのかについて考察した。その結果、中国の法律には人権規定はあるが、人権の価値より、社会主義体制の存続、すなわち共産党の存続の価値の方が高位にあり、そのために、法律の曖昧さあるいは抜け穴を利用して、共産党批判を封じ込めようとしている。中国政府は、そのような法律の解釈を通して、公然と体制批判をする人々の人権を侵害し続けているのである。
著者
小林 孝雄
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.43-53, 2018-03-30

ロジャーズによる「治療的人格変化の必要十分条件」論文は、ロジャーズ理論における最重要論文とみなされている。しかしながら、この論文は、自然科学的心理学の枠組みで記述することを要請されたもので、必ずしもロジャーズの意図に沿ったものではない。とはいえ、自然科学的心理学で認められることもロジャーズが望んだことでもあった。この論文は、記述されることになった経緯があるのであり、この論文単独では、ロジャーズ理論を正しく理解することはできない。本論考では、この論文の成立経緯と、前後のロジャーズ理論の展開について、主に「共感的理解」に注目し、ロジャーズ理論の正しい理解のために必要な論点を整理する。
著者
浅野 正
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
no.37, pp.89-95, 2015-03-01

臨床心理アセスメントの実践の中で、複数の心理検査を組み合わせて実施するテストバッテリーが重視される。包括システムによるロールシャッハテストの警戒心過剰指標と、統合型HTPの描画特徴との関連を調べることが、本研究の目的であった。精神病院での43名の患者を調査対象とし、統合型HTPの統合性や遠近感などの評定項目について、警戒心過剰指標が陽性か陰性かによる人数差を、χ2検定により検討した。その結果、ロールシャッハテストの警戒心過剰指標が陽性である対象者ほど、統合型HTPで羅列的な描写は少なく、遠近感や奥行きを表現しながら、全体を統合して絵を描く傾向が表れた。不安定な愛着関係から、周囲に対する警戒心や疑い深さが増し、自分と他者との関係を意識しすぎることが、統合型HTPの描画特徴に反映されていると考えられた。
著者
横川 潤
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.11-21, 2013-03-01

飲食店企画のマーケティング・アプローチに関して、その概念的フレームとありうべきプロセスの流れをコトラー(Kotler,P.) の考えに依拠し、かつ教育実践での手順を念頭に置いて論じた。コトラーによればマーケティングは企業のミッション、ビジョン、戦略策定を主導し、次のような意思決定が含まれる。すなわち訴えるべき顧客、満足させるべきニーズ。提供すべき製品やサービスの内容。設定すべき価格、送受信すべきコミュニケーション、選択すべき流通チャネル、形成すべきパートナーシップである。この視座を受けて飲食店企画マーケティングでは、以下の必須7項目を順次検討すべきとして、その内容を詳述した。①コーポレートミッション②マーケット・セグメンテーションとプライムターゲットの設定③ニーズ分析④ポジショニングとブランディング⑤マーケティングミックス⑥SWOT分析⑦アベセデスマトリクス。
著者
谷口 清
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
no.34, pp.91-105, 2012-03-01

学校不適応の背景要因を探ることを目的として、学校、保育所、福祉担当部署、警察等子育て支援担当者に対する聞き取り調査を行った。不登校の背景には集団適応や規律の維持等社会性の問題が認められ、また介入を嫌う家庭など家庭支援のジレンマも語られた。その背景には変化の激しすぎる社会のもと、ふるさと、絆の喪失に示されるような育児環境、育児文化の変化、保育所の役割拡大・育児の肩代わりなどがあり、他方で親の精神不安定と育児困難、自己中心的な親の増加などにより親子の共感関係が失われる傾向も明らかとなった。今後、社会人としての生きる力、対人関係能力、非公式の社会統制機能の発達過程を解明し、その発達に必要な生育環境保障をめざすことが課題となっているものと思われる。
著者
櫻井 慶一
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.38, pp.31-41, 2016-03-30

近年、保育所等で発達や生育環境に課題を抱えた児童(家庭)に対して、きめ細かな個別的および集団的配慮や、地域の専門機関等との連携による「保育ソーシャルワーク」の必要性が関係者から叫ばれている。そうした背景には障害者権利条約の批准に合わせた「インクールーシブ」な社会づくりがわが国でもようやく課題になってきていることもある。2013 年11 月にはそうした一環として「日本保育ソーシャルワーク学会」も発足し、2016 年度からは同学会による現職保育士等を対象とした「保育ソーシャルワーカー」の養成研修も開始されようとしている。しかし、「保育ソーシャルワーク」はまだその定義はもとより概念も明確ではない。本稿では、その定義や必要性、「保育ソーシャルワーカー」に求められる専門性や養成体系等について、いわゆる「気になる子」対応を中心に検討した。その結論として、「保育ソーシャルワーカー」には保育士等の現場職員が適任であり、各園単位で置かれることが最も望ましいと考えた。そのための現職の保育士等への研修・養成が急がれている。
著者
斉藤 修平
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.135-145, 2018-03-30

埼玉、東京、神奈川で里神楽を演じている一家相伝の神楽社中はその家数こそ減っているが、依然として神楽芸を今日まで家族と弟子筋が力を合わせて継承している。彼らは求めに応じて神社祭礼の場で神事の一環として巫女舞や神前舞を拝殿で奉納すると同時に神楽殿では神賑わいの法楽芸能として、神能形式の里神楽を奉納している。本稿では、社中神楽の「舞の系譜」について相模流里神楽を伝承する垣澤社中(神奈川県厚木市酒井)を対象に調査を行ない、舞と舞地を中心とする記述を試みた。里神楽の誕生以前に形成されたと推測する神前舞の①舞地、②採り物、③神楽囃子の曲目選択のありようが神能的な里神楽形成に一定程度の影響を与えた、という作業仮説を用意して、神前舞と里神楽の各演目(座)に配置されている舞とその舞地について検討し、相互の関係ぶりを明らかにした。
著者
星野 晴彦
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
no.35, pp.23-35, 2013-03-01

現在人間性が強調されながらも、他方で非人間化、人間の束縛が増大している。人間性を生かすはずのものが、制度や組織や集団化によって非人間化、非情化が行われつつある。その中でホスピタリティが現在多く取り上げられるようになった。本稿では、福祉サービスにおいてどのようにホスピタリティの理念が活用されうるかを探るため、新約聖書の中に現れる「ホスピタリティ」を検討した。結果、「見知らぬ人のため」「無償で自分を投げ出す」「行動化」「自発性」「徹底的に一人の人間と向き合う」の5つのキーワードが抽出された。現在の福祉サービスはともすると、効率性を追求して、マニュアル化して人間をかけがえのないものとして認識するという本質を見失う危険性がある。上記のホスピタリティの原点に目を向けることが、それを戒める契機となれば幸いである。
著者
神田 信彦
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.15-26, 2015-03-01

本稿は,1970年前後にみられた「生きがい論ブーム」について論じられてきたその歴史的経緯や要因について検討を行うと共に、「生きがい論ブーム」が始まったとされる時期に先行して生じた出来事を追うことによって、なぜ、生きがいが注目されるようになったかを推測することを行った。その結果、前者については、幾つかの事実誤認が逢ったと思われることを示し、後者については、生きがいが注目されることに影響のあった可能性のある出来事を4点指摘し、その関係性についても推測した。
著者
白石 京子
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
no.39, pp.93-100, 2017-03-30

本研究は障害児の保護者に対し、ストレスと養育態度、子どもの行動に対する認知、ソーシャルサポートの関連を、定型発達児の保護者と比較調査し、その結果を踏まえた効果的な支援方法を検討することを目的とする。保護者(母親)103名に対する質問紙調査に対する相関分析の結果、ストレスと有意な負の相関が認められた要因は、障害児の保護者については応答的・統制的な養育態度とソーシャルサポートであり、定型発達児の保護者については統制的な養育態度であった。また回帰分析の結果、ストレスに有意な負の影響力を持っていたのは、障害児の保護者についてはソーシャルサポートであり、定型発達児の保護者については統制的な養育態度であった。これらの結果により、応答的な養育態度や適切なソーシャルサポートが獲得できるよう支援することが、障害児の保護者のストレス緩和に有効であることが示唆された。
著者
中村 博一
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.47-59, 2013-03-01

消防団は郷土愛護をかかげる義勇の組織とされ、地域防災の要となるボランティアリーダーと認識されている。本稿はある消防団の民族誌的報告であり、10年あまりにわたる参与観察をもとに断片的な語りや記憶をつなぐ試みである。消防団をめぐる4つの「間」から、現代の消防団の位相を浮かび上がらせようとする。地域の期待に応えられない制度的な矛盾や日本社会の変貌が団員の負担を増やす現状を描き出す。
著者
井上 清子
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.97-105, 2015-03-01

親および教師からの褒められ経験 ・ 叱られ経験と自尊感情の関連について明らかにする目的で、大学生252名を対象に、質問紙調査を行った。自尊感情高群と低群において、褒められた経験・叱られた経験の頻度に差があるかを調べるためにt検定を行った。褒められた経験では、父親 ・ 母親 ・ 教師いずれに対しても有意差がみられ (p<.01)、自尊感情高群の方が低群よりも、児童期によくほめられたと感じていた。叱られた経験では、母親 ・ 父親 ・ 教師いずれに対しても有意差はみられなかった。また、母親では、「礼儀 ・ 思いやり」(p<.01) 「性格・態度」 (p<.05)、父親では、「学業」、(p<.05) 「礼儀 ・ 思いやり」 (p<.05) 「習い事 ・ スポーツ」 (p<.01) 「課題達成」 (p<.05)、教師では「礼儀・思いやり」 (p<.01) 「習い事・スポーツ」 (p<.01) で有意差がみられ、すべて自尊感情得点高群の方が褒められた経験が多いことが分かった。
著者
井上 清子
出版者
文教大学
雑誌
生活科学研究 = Bulletin of Living Science (ISSN:02852454)
巻号頁・発行日
vol.41, pp.9-16, 2019-03-30

「成人期ADHD 日常生活チェックリストQuestionnaire Adult ADHD with Difficulties(QAD)」の信頼性と妥当性を検討することを目的として、大学生350 名を対象に、質問紙調査を行った。QEDの各項目得点および合計得点に男女差があるかを調べるために、t検定を行ったところ、すべての項目および合計得点において有意差はみられなかった。QADの内的整合性による信頼性を検討するために、クロンバックのα係数を求めたところ、α=.84と十分な信頼性がみられた。QADの合計得点とCAARSの各下位尺度得点の間にはいずれも有意な負の相関がみられ、特に、QAD の得点は、不注意の問題や症状との相関が高いことが確認された。今回の結果から、男女を問わず、大学生の不注意症状を中心としたAD/HD傾向による日常生活の支障の程度を数量的に把握するために、QADは有効である可能性が示された。