- 著者
-
菅原 民枝
杉浦 正和
大日 康史
谷口 清州
岡部 信彦
- 出版者
- 一般社団法人 日本感染症学会
- 雑誌
- 感染症学雑誌 (ISSN:03875911)
- 巻号頁・発行日
- vol.82, no.5, pp.427-433, 2008-09-20 (Released:2011-02-07)
- 参考文献数
- 8
- 被引用文献数
-
3
[目的]新型インフルエンザの対策計画が各国で策定されているが, 未知の感染症であるため, 感染の拡大については数理モデルを用いて検討されている. しかしながら, 数理モデルで検証するためのパラメーターがわからない. そこで本研究は第一に新型インフルエンザを想定して, 個人がどの程度の割合で外出を控える行動をするのかを明らかにし, 第二に外出を控えない行動をする要因を明らかにして, 新型インフルエンザ対策に役立てることを目的とした.[方法]調査はアンケート調査とし, 2007年4月に, 調査会社の保有する全国25万世帯が無作為抽出されているパネルから地域年齢群で層別抽出した2,615世帯とした.調査内容は, 新型インフルエンザ国内発生の場合の外出自粛の選択, 在宅勤務体制, 食料備蓄等とした. 解析は, 外出選択を目的変数とし, 多変量解析を行った.[結果]回答は1727世帯, 有効回答者数は5,381人であった. 新型インフルエンザ国内発生の場合の外出自粛の選択は, 勧告に従わず外出すると思う人が6.7%, 様子を見て外出すると思う人が47.1%, 勧告が解除されるまで自宅にとどまると思う人が46.1%であった.現在災害用に食料備蓄をしている世帯は, 3日分程度が29.9%, 1週間程度が58%, 2週間程度が1.5%, していないが628%であった. また, 今後2週間程度の食料備蓄をする予定の世帯は, 29.6%であった.多変量解析では, 30歳代, 40歳代, 男性, 高齢者の就業者, インフルエンザワクチン接種歴の無い者は, 有意に外出する選択をしていることが明らかになった.[考察]本研究により, 新型インフルエンザを想定した一般市民の外出の選択によって, 数理モデルによる外出自粛の効果が検討できるようになった. 30歳代, 40歳代の「外出する」選択確率が高く, この年齢層に大きな影響を与える要因のひとつとして, 職場の対応があると考えられた. 就業者が外出自粛を選択するような対策として, 企業の経営戦略人事管理面での対策が必要であると示唆された.