著者
林 伸和 木村 淳子 渡邉 智幸
出版者
日本臨床皮膚科医会
雑誌
日本臨床皮膚科医会雑誌 (ISSN:13497758)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.601-609, 2018 (Released:2018-11-11)
参考文献数
11

目的:日本の医師における化膿性汗腺炎の疾患認知度と,治療実態を把握する.方法:化膿性汗腺炎の治療に関係すると予想される診療科の医師にオンラインアンケートを実施し,回答について集計・分析した.結果及び考察:517名の医師より回答が得られた.皮膚科医では,化膿性汗腺炎という疾患名は広く認知されていた.腋窩の病変には化膿性汗腺炎という病名がつけられることが多く,臀部の症例では慢性膿皮症とされることが多かった.腋窩の病変でも,より重症の場合には,慢性膿皮症という診断名がつく傾向が認められた.一方,一般内科開業医などでは化膿性汗腺炎を知らない医師が多く,患者が最初に皮膚科以外の診療科に受診した場合には,正しく診断されない可能性が高いと考えられた.近年, 化膿性汗腺炎の主因は細菌の感染ではなく,毛包における自然免疫の異常に基づく自己免疫異常と考えられるようになっているが,皮膚科医であっても,免疫系の異常が化膿性汗腺炎の病因であると回答したのは半数以下であり,一般的な感染症としての抗菌薬投与が広く行われていることが示唆された.今後,皮膚科医のみならず化膿性汗腺炎を治療する可能性のある医師に対して化膿性汗腺炎の疾患概念や適切な治療に関する啓発が望まれる.
著者
木村 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.737-740, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
7

The Japanese Society of Neurology, founded in 1960, suffered an initial set back internationally primarily because of the language barrier. It gained a quick, and justifiable recognition after the 12th World Congress of Neurology held in Kyoto (1981), and now enjoys an indisputable reputation in the field of neuroscience. Clinical neurophysiology lead the world from the inception with the early formation of study group in 1951 as the predecessor of the current Japanese Society of Clinical Neurophysiology. In both fields, however, clinical training has fallen behind research achievements with limited resources and a shortage of teaching staff. On the occasion of 50th anniversary of our society, we must seek the sovereignty of neurology as an independent discipline as advocated by the World Federation of Neurology. We must also participate in global affairs with confidence despite a perceived language barrier to promote neurology world wide.
著者
木村 淳
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.792-797, 2008 (Released:2009-01-15)
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

日本神経学会は1960年に設立されましたが,当時神経学を学べる施設は,東大,新潟大,九大などに限られていました.僕は,のちに京大総長を務められた平沢興先生の錐体外路系に関する解剖講義に憧れてこの道を志し,インターン修了後すぐ渡米しましたが,1)神経系が人体のもっとも重要な,人間が人間たるゆえんである脳の機能を主要な対象としていること,2)複雑難解にもかかわらず理路整然とした学問で,解剖学の知識に基づいて病巣の局在が可能であること,3)新しい領域で,将来への展望が明るいことなどにも強く魅かれました.半世紀近くを経た今も思いは同じですが,これに加えて分子生物学をはじめとする神経科学分野の目覚しい発展により,病態の確立のみならず以前は対症療法に甘んじていた多くの疾患にも新しい治療法が続々と開発され,4)患者の治る神経内科,が神経学の新たな魅力となり,これは僕達のスローガンでもあります.神経学の国内外の進歩にともない,この分野を目指す若い先生方への期待は日増しに大きくなってきました.わが国の神経学は僕がアイオワ滞在中に飛躍的な発展を遂げ,これに貢献された多くの先達が新しい世代に求めるところは,先生方の個人的な経験を踏まえ,千差万別かと思います.この機会に日米で神経学を学んだ者の一人として,僕の次世代への期待を纏めますと,1)国際的な視野で仕事をする,2)診断に役立つ新しい技術を開発する,3)臨床に直結する基礎研究を展開する,そしてそのすべてを集結して4)患者の治る神経内科をめざすことです.いずれも実現可能な目標ですが,いうはやすく,おこなうは難しの部類です.とくに,実力に見合った国際的な評価を確立するのはわれわれがもっとも不得手とするところで,僕自身の体験でも,海外の学会活動で欧米の学者と互角にわたり合うのはかなり難しく,常に意識的な努力が必要と実感しています.国際学会での論争で,実力は伯仲しているのにいつもこちらに分が悪いのは,主に発表態度の差によるものと考えられます.我が国は儒教の影響もあり,古くから「知るを知らざるとなすは尚なり」の考えが根強く,10を知って1を語るのが良いとされます.その逆にアメリカ人は,幼稚園での「Show And Tell」を手始めに,中学校で習う「Five Paragraph Essay」で鍛え上げられ,1を知って10を語る輩が多いようです.また,日本人は完璧主義ですから,とちっても平気な欧米人とはちがいアドリブの発表が苦手です.英語でも上手く話せなければ,我は黙して語らずと達観している人もありますが,外国語ですからBrokenでも当たり前です.僕の国際性の定義は,1)実力をつけて,あとは対等と自信をもつ,2)知ってることはどんどんいう,3)失敗しても愛嬌と思って気にしない,4)英語は意味がわかればよいので,あえて流暢に喋ろうとしない,ことです.若い先生方がこれからの国際舞台でますます活躍されることを願って止みません.
著者
木村 淳
出版者
Societas Neurologica Japonica
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.11, pp.792-797, 2008-11-01
参考文献数
6
被引用文献数
1 1

日本神経学会は1960年に設立されましたが,当時神経学を学べる施設は,東大,新潟大,九大などに限られていました.僕は,のちに京大総長を務められた平沢興先生の錐体外路系に関する解剖講義に憧れてこの道を志し,インターン修了後すぐ渡米しましたが,1)神経系が人体のもっとも重要な,人間が人間たるゆえんである脳の機能を主要な対象としていること,2)複雑難解にもかかわらず理路整然とした学問で,解剖学の知識に基づいて病巣の局在が可能であること,3)新しい領域で,将来への展望が明るいことなどにも強く魅かれました.半世紀近くを経た今も思いは同じですが,これに加えて分子生物学をはじめとする神経科学分野の目覚しい発展により,病態の確立のみならず以前は対症療法に甘んじていた多くの疾患にも新しい治療法が続々と開発され,4)患者の治る神経内科,が神経学の新たな魅力となり,これは僕達のスローガンでもあります.神経学の国内外の進歩にともない,この分野を目指す若い先生方への期待は日増しに大きくなってきました.わが国の神経学は僕がアイオワ滞在中に飛躍的な発展を遂げ,これに貢献された多くの先達が新しい世代に求めるところは,先生方の個人的な経験を踏まえ,千差万別かと思います.この機会に日米で神経学を学んだ者の一人として,僕の次世代への期待を纏めますと,1)国際的な視野で仕事をする,2)診断に役立つ新しい技術を開発する,3)臨床に直結する基礎研究を展開する,そしてそのすべてを集結して4)患者の治る神経内科をめざすことです.いずれも実現可能な目標ですが,いうはやすく,おこなうは難しの部類です.とくに,実力に見合った国際的な評価を確立するのはわれわれがもっとも不得手とするところで,僕自身の体験でも,海外の学会活動で欧米の学者と互角にわたり合うのはかなり難しく,常に意識的な努力が必要と実感しています.国際学会での論争で,実力は伯仲しているのにいつもこちらに分が悪いのは,主に発表態度の差によるものと考えられます.我が国は儒教の影響もあり,古くから「知るを知らざるとなすは尚なり」の考えが根強く,10を知って1を語るのが良いとされます.その逆にアメリカ人は,幼稚園での「Show And Tell」を手始めに,中学校で習う「Five Paragraph Essay」で鍛え上げられ,1を知って10を語る輩が多いようです.また,日本人は完璧主義ですから,とちっても平気な欧米人とはちがいアドリブの発表が苦手です.英語でも上手く話せなければ,我は黙して語らずと達観している人もありますが,外国語ですからBrokenでも当たり前です.僕の国際性の定義は,1)実力をつけて,あとは対等と自信をもつ,2)知ってることはどんどんいう,3)失敗しても愛嬌と思って気にしない,4)英語は意味がわかればよいので,あえて流暢に喋ろうとしない,ことです.若い先生方がこれからの国際舞台でますます活躍されることを願って止みません.<br>
著者
木村 淳夫 WONGCHAWALIT Jintanart
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

単量体アロステリック酵素、すなわちモノマー酵素が示す協同性(基質活性化)の現象例は極めて稀である。我々は、3種類の同酵素(α-グルコシダーゼ・β-グルコシダーゼ・キチン分解酵素)の取得に成功している。従って3酵素が示す協同性の分子機構を究明することは学問上において興味深い。本研究の目的は、単量体アロステリック酵素の分子機構を解明し、応用研究に結び付けることにある。本年度は次の研究成果を得た。アロステリック部位の決定1)X線結晶構造解析:3酵素について結晶作製を継続してきた。キチン分解酵素に関し、X線構造解析が可能な結晶の作製に成功した。2)活性化部位の確認:キチン分解酵素とβ-グルコシダーゼの触媒部位周辺に可動性ループがあり、基質の取り込みにより大きな構造変化の発生が予想された。キチン分解酵素に関し、本ループにある1アミノ酸をTrpに置換し基質分子を与えると、Trp由来の大きな構造変化が観察された。従って基質分子に起因する本ループの構造変化が解明された。またβ-グルコシダーゼに関しては、可動性ループにあるアミノ酸で特に触媒ポケットの入口付近に位置する残基に注目し点置換体を構築した。本変異酵素の解析から可動性ループがアロステリック作用に関わることが判明した。アロステリック酵素の作製ショ糖分解酵素とβ-グルコシダーゼに関し、高い相同性を持つがアロステリック現象を示さない酵素を対象に、アロステリック現象に関与すると予想される構造因子の移植を試みた。ショ糖分解酵素の場合、構造因子の移植によりアロステリックな性質を与えることができた。β-グルコシダーゼは可動性ループ移植を行ったが、酵素活性は大きく減少した。移植位置が触媒部位近傍であるためと考えられ、ループサイズを小さくする工夫が必要と考えられた。なおβ-グルコシダーゼを用いた構造解析で新規なβ-グルカンの取得が明らかになった。
著者
木村 淳 佐々木 晶 藤本 正樹
出版者
日本惑星科学会
雑誌
遊・星・人 : 日本惑星科学会誌 (ISSN:0918273X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.146-151, 2013-09-25

日本が木星系探査に参加する. 2012年5月に欧州宇宙機関(ESA)の大型惑星探査プログラムとして選定され2022年の打ち上げを目指す木星氷衛星探査機JUICE(ジュース: JUpiter ICy moons Explorer)は,日本チームもその開発に参加する国際協同計画として始動した.太陽系最大の衛星ガニメデの周回探査とエウロパ,カリストのフライバイ探査を行って氷の表面に広がるテクトニクスの全容や内部海の存否を明らかにし,さらに木星大気や磁気圏プラズマ環境などの調査を通して,木星と衛星,それらの相互作用の様相をつまびらかにする.日本のコミュニティにとって数年前まではただの夢だった木星探査へついに手が届くようになった経緯を記し,これからのあゆみを連載していく.
著者
長濱 克徳 大久保 成 一條 俊浩 木村 淳 岡田 啓司 佐藤 繁
出版者
日本家畜臨床学会 ・ 大動物臨床研究会・九州沖縄産業動物臨床研究会
雑誌
産業動物臨床医学雑誌 (ISSN:1884684X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.20-23, 2014-06-30 (Released:2014-07-25)
参考文献数
13
被引用文献数
3 1

牛第一胃液の温度と体温との関係を明らかにする目的で,第一胃液のpHと温度および体温(直腸温度)の日内変動を検討した.ホルスタイン種去勢牛(5カ月齢,4頭)に乾草あるいは濃厚飼料主体飼料(濃厚飼料)を1日2回給与した.第一胃液のpHと温度は無線伝送式pHセンサーを用い,乾草給与時には給与後7日,濃厚飼料給与時には給与後14日に8時から24時まで10分間隔で連続測定した.直腸温度は直腸式デジタルサーモメーターを用いて1時間間隔で測定した.その結果,朝の給餌後に第一胃液のpHは低下,温度は上昇した.体温は,朝の給餌後に上昇したが,乾草給与時には第一胃液温度に比べて約1.0℃高値で推移し,濃厚飼料給与時には第一胃液温度と近似した値で推移した.第一胃液のpHと体温との間では濃厚飼料給与時に有意(p<0.05)な負の相関,また,第一胃液温度と体温との間では,いずれの飼料給与時でも有意(p<0.01)な正の相関が認められた.体温と第一胃液温度は,乾草および濃厚飼料給与時のいずれも朝の給餌時から夕方の給餌後にかけて上昇する傾向がみられたことから,体温の日内変動は第一胃液温度と密接な関連のあることが示唆された.
著者
木村 淳子 藤吉 昭江 井手 朱里 西村 美紀 光吉 佳奈 福島 邦博
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.222-227, 2020-11-20 (Released:2021-11-20)
参考文献数
9
被引用文献数
1

難聴者が社会で適切な支援を受け、よりよく生きるためには難聴当事者自身が自身の聴こえや補聴方法など必要な配慮について周囲に説明できるセルフアドボカシーの能力が欠かせない。セルフアドボカシーの育成のためには幼少期からの系統だった教育プログラムが必要だが、学齢期を通じてどのようにセルフアドボカシーが発達するかは明らかになっておらず、またそれを適切に育成していくカリキュラムも確立されていない。本研究では、小学校在籍中の聴覚障害児を対象にしたセルフアドボカシー能力の評価を目的に、米国版のチェックリストを元に日本語版を作成、本邦におけるセルフアドボカシーの現状について検討すると同時にチェックリストの有用性を検討した。その結果、 1 )学年が上がるにつれて得点も上昇するが、高学年でも「習熟している」レベルに達するのは 20%にとどまること、 2 )学年別の習得率は項目によって差があること等が認められた。聴覚障害児の福祉のためには、セルフアドボカシー習得のための方略を準備することが必要であるが、そのためにもまず本邦における現状把握が必要である。
著者
木村 淳
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 (ISSN:18807593)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.149-157, 2008-03-31

太陽系の外惑星領域にある衛星は,そのほとんどがH2O主体の氷で覆われた"氷衛星"である.これらは数の多さや多様なサイズを持つが,最も注目すべき点は大規模な地質活動の跡が見られることである.地球の月とは異なるその外見は,氷衛星を覆う氷の存在とその特徴的な物性が作り出している と思われる.本稿では代表例として木星の衛星エウロパに見られる地溝帯と土星の衛星エンセラダスで発見された氷噴出現象に着目し,これらの現象の原因を探る.そこには,液体水が固化する際に体積が増加するという氷特有の物性が大きく関わっている可能性がある.
著者
谷川 亘 山本 裕二 廣瀬 丈洋 山崎 新太郎 井尻 暁 佐々木 蘭貞 木村 淳
出版者
国立研究開発法人海洋研究開発機構
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2022-04-01

1888年磐梯山噴火により磐梯山の北側に湖(桧原湖)が形成し、それに伴い桧原集落(桧原宿跡)が被災し水没した。桧原宿跡は旧宿場町のため近世・近代の文化を記録する『水中文化遺産』であり、また火山災害の痕跡を記録する『災害遺跡』としての価値を持つ。そこで、桧原宿跡の水中遺跡調査を通じて、江戸・明治の産業・文化・物流の理解、山体崩壊に伴い約500名もの住民が亡くなった災害のメカニズム、せき止め湖の形成過程、および水没により高台移転を余儀なくされた避難の過程という自然災害の総合的な理解につなげる。
著者
木村 淳 浅田 昭 伏見 岳志 松本 義徳 杉本 裕介 清水 秀人 阪本 真吾 鉄 多加志 Schottenhammer Angela Jago-on Sheldon Clyde B. Lacsina Ligaya Sheppard Bob McCann Ian
出版者
東海大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

2016-2018年の3ヶ年で、千葉県御宿町沖で1609年に沈没したスペイン船籍ガレオン船サン・フランシスコ号の船体遺存可能性の調査及び初期マニラ・アカプルコ交易船の船体・造船技術及び関連遺物把握の考古学研究を実施した。御宿町の岩和田沖合とされる同船の推定沈没範囲において、船体や関連遺物の遺存状況の検証を明らかにする水中考古学探査・潜水調査を行った。マルチナロービーム音響測深機による海底地形計測及び磁気探査、潜水調査によって、沈没可能性地点を浅海と沖合岩礁(真潮根)の二つに絞り込んだ。サン・フランシスコ号関連の文献精査、国外のマニラ・アカプルコ交易沈没船遺跡の比較研究を実施した。
著者
木村 淳
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.389-392, 1996-03-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
10
被引用文献数
2
著者
木村 淳志 永吉 由香 緑川 孝二
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101494, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】投球は、下肢と体幹で作ったエネルギーを上肢、そして、ボールへと伝える全身運動である。下肢・体幹の機能低下や運動連鎖の破綻は上肢のオーバーユースにつながり、投球障害に陥る。そのため、肩や肘の投球障害において、下肢の柔軟性の評価・治療は重要である。当院では投球障害肩に対し、肩の11項目に肩以外の全身6項目を加えた17項目を重要項目として点数化し、投球禁止や再開、競技復帰の指標としている。我々は、この17項目をもとに、投球障害肩の治療経過を調査し、股関節内旋と足関節背屈の柔軟性の改善が難渋する傾向にあることを、第24回九州・山口スポーツ医科学研究会で報告した。今回、足関節背屈の柔軟性を効率良く改善する方法として、縄跳びをスタティックストレッチの前運動として導入することを考え、影響を調査したので報告する。【方法】対象は、膝伸展位での足関節背屈の他動運動が0°以下と柔軟性が低下し、愁訴のない成人25名(男性15名、女性10名)とした。平均年齢は26.6±4.9歳であった。方法は、足関節背屈のスタティックストレッチのみを実施した群(以下、ストレッチのみ群)と、スキップ、ジョグ、縄跳びの運動課題後にスタティックストレッチを行った群(以下、スキップ群、ジョグ群、縄跳び群)を比較検討した。スキップとジョグは、5mの距離を8の字で2周、縄跳びは左右交互の駆け足飛びで40回とした。スタティックストレッチは、疼痛を感じず伸張できる強度で、両側を交互に20秒間ずつのセルフストレッチとした。それぞれ、運動前後に膝伸展位での足関節背屈を他動的に測定した。統計処理は、F多重比較検定を行い、危険率5%未満を有意差ありとした。【倫理的配慮、説明と同意】対象者には、ヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容、個人情報の保護を十分に説明し、同意を得た。【結果】足関節背屈角度の増加量は、ストレッチのみ群:1.3±0.3°、スキップ群:1.7±0.9°、ジョグ群:2.8±0.9°、縄跳び群:8.8±0.5°であり、ストレッチのみ群と比較すると、ジョグ群と縄跳び群が、有意に増加した(p<0.01)。ジョグ群と縄跳び群の増加量の比較では、縄跳び群が有意に増加した(p<0.01)。【考察】臨床の現場では、いわゆる「体が硬い」症例を多く目にする。このような場合、ストレッチを施行しても痛みのみを発生させたり、伸張感が無かったりと、ストレッチに対する効果や変化を得られない事が多い。今回の研究では、スタティックストレッチで可動域の増加が認められなかった対象者が、縄跳びを行った後にスタティックストレッチを行うことで、可動域の増加が認められた。筋腱複合体の影響による柔軟性の低下は、筋緊張の亢進(過緊張状態)と筋の伸張性の低下によるものがある。縄跳びは、伸張刺激により筋緊張の抑制効果が働き、スタティックストレッチによる伸張性の改善を効果的なものとしたと考える。同様のジャンプ系運動のスキップやジョグと比較したが、縄跳び群は有意差を持って改善している。これは、スキップやジョグは、前方移動を含むジャンプであり、前方へ移動しない上方移動の縄跳びの影響が足関節背屈の可動域改善に効果的に働いたと考える。これにより、縄跳びが治療や自主練習の導入の1つとして効果的であると思われた。【理学療法学研究としての意義】今回の研究では、駆け足での縄跳び40回という軽運動に、痛みのない範囲で20秒間のストレッチを行う低負荷、短時間の伸張刺激で、即時的ではあるが足関節背屈の可動域の改善がみられた。ストレッチの効果に関する報告は様々あるが、明確な方法は示されていない。縄跳びという簡易的にできる運動とセルフストレッチを行うことで、可動域が改善したことは、より有効なストレッチを施行する一助になると考える。
著者
森田 正輝 永吉 由香 木村 淳志
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ce0121, 2012

【はじめに、目的】 ランニングやボールキック等により、脛骨前方移動量(以下、移動量)が増加するという諸報告がある。しかし、それらは単的な運動にすぎず、実際のスポーツ活動中に測定した報告は無い。また、前十字靱帯(以下、ACL)損傷が試合・練習の後半で発生しやすいという報告もあり、その原因の解明は意義があることだと考える。今回、女子バスケットボールにおいて、ACL損傷についての教育を受け予防トレーニングを行っているチームと教育・トレーニングを行っていないチームに対して練習中の移動量を経時的に測定し練習量と移動量の関係を中心に調査することでACL損傷予防を検討した。【方法】 高校女子バスケットボール部のチームC(19名・平均年齢15.9±0.7歳)とチームN(14名・平均年齢16.5±0.5歳)の2チームに所属する部員で、当日の練習に全て参加し、且つ膝に愁訴の無い者を対象とした。測定は、利き足・非利き足の移動量をロリメーター(日本シグマックス社製)にて3回ずつ測定した。以上の測定を、練習前・練習中間・練習後(以下、前・中・後)にそれぞれ実施した。チームCは当院スタッフが帯同し、ACLについての講義を受け予防トレーニングを行い3年間ACL損傷が発生していない。チームNはACLについての知識が無く予防トレーニングも行っておらず3年間で2例2膝のACL損傷が発生している。当日はこの2チームが4時間半の合同練習を行った。得られた測定値はWilcoxon符号付順位和検定を用い有意水準を5%未満として統計学的処理を行った。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者にはヘルシンキ宣言に基づき、あらかじめ本研究の内容・個人情報の保護を十分に説明し、参加に同意を得て行った。【結果】 チームCの利き足は、前4.39mm・中5.31mm・後5.42mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.60)、非利き足は、前4.16mm・中5.41mm・後5.66mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.27)であった。チームNの利き足は、前4.14mm・中5.31mm・後5.55mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.37)、非利き足は、前4.33mm・中5.29mm・後5.61mm、前-中(p<0.01)・中-後(p=0.08)であった。いずれのチームにも同様の結果が得られた。【考察】 移動量はACLの緊張だけでなく関節包・筋などの軟部組織の柔軟性も関与している。バスケットボールに多いダッシュ・ターン・ジャンプ動作は、膝関節に前後方向・回旋ストレスを与え、それらに対し直接的なストレッチとなることで、軟部組織の柔軟性が向上し、移動量の増加が認められたと考える。しかし、どちらのチームも同様の結果であったにも関わらずチームCにはACL損傷が発生していないことから、選手に対しACLについての教育や予防トレーニングを行うことが重要であることを示唆している。また、今回の研究では練習中間までの移動量の増加が著しく、中間からは時間経過とともに起こる上昇はゆるやかになるが、頭打ちにはならなかった。試合・練習の後半に受傷が多いという報告もあり、移動量の増加がこの一因となっている可能性が示唆されるため、これを念頭に置いて予防トレーニングをする必要がある。【理学療法学研究としての意義】 我々理学療法士としてはACL再建術後等の患者に対し動作指導を行う際に、疲労を起こさないように配慮することが多い。しかし、今回の研究結果により練習・試合の後半を見越しての確実な動作を獲得するためのアスレチックリハビリを実施し、競技復帰を許可することの重要性を示した。