著者
ヴァン・アウドヒュースデン ミヒェル ケネンス ヨーク 吉澤 剛 水島 希 ヴァン・ホーイヴィーヒェン イネ
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.58-73, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
68

本稿では,福島原子力発電所事故後の市民科学に関する日本―ベルギー共同研究プロジェクト(2017-2019)の経験を振り返る.この社会科学研究プロジェクトでは,市民主導のデータ駆動型放射線モニタリングに対し,公的機関や科学研究コミュニティがどのように反応したかを探究した.質的な(自己)民族誌手法を用い,関係者,特に市民科学者と,放射線防護に関する職業科学者との実りある協力関係を探り,その中で浮かび上がってきた可能性と課題に光を当てる.我々自身を含めた関係者間の関係性は,放射能汚染や環境問題のガバナンスの進退を左右する.このことから,関係者間の相互作用をどのように展開し,交渉し,実行するかについて,あらゆる関係者間での,より再帰的な対話を支持する.
著者
綾屋 紗月
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.74-86, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
10

筆者は2011 年以降,自閉スペクトラム症をもつ仲間と共に当事者研究会を継続する中で,当事者研究の具体的な進め方だけでなく,歴史や理念を明示化する必要性に迫られた.筆者は文献資料やインタビューを通じて当事者研究誕生の歴史的経緯を調べた.その結果,周縁化された当事者のニーズから,難病患者・障害者運動と,依存症自助グループという2 つの当事者活動が合流して,当事者研究が誕生したことを示した.さらに現代社会において,当事者活動から周縁化されがちな自閉スペクトラム症に関する筆者の当事者研究を分析した.その結果,筆者の当事者研究も,社会モデルや,傷ついた記憶の語り直しというかたちで,二大当事者活動の影響を受けていたことが確認された.以上を踏まえ,当事者研究の方法論を開発した.本研究は,研究史,具体的研究事例,方法論という1つの研究領域を特徴づける3 つの側面から当事者研究の全体像をとらえた初めての研究と言える.
著者
田中 慎太郎
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.87-96, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
22

精神疾患の当事者が,専門家と協働して精神医学の研究に参画したり,医師や看護師らと協働して精神医学サービスの改善に参画する動きが英国を中心に広がりつつある.英国での精神医学への当事者参画の動向を確認すると,当事者が医学研究に参画することで,専門家のみで研究を行うよりも研究の質が向上する可能性が指摘されている.当事者と専門家の協働を成功させる上では,入念な準備や組織レベルでのサポート,そして二者間の平等で対等な関係を実現するための様々な仕掛けが必要であることが示されている.しかし,日本の精神医学は,英国に比べ様々な点で改革の途上であるため,当事者との協働を成功させるための改革が不十分である可能性がある.精神医学における当事者との協働を考える上では,当事者のみならず,精神科医療従事者も影響下にある,日本の精神医学の構造を検証することが重要だと考えられる.
著者
東島 仁 藤澤 空見子 武藤 香織
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.97-107, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
16

研究への患者・市民参画(Patient and Public Involvement;PPI)とは,研究開発を,患者・市民の意見や視点を吟味した上で進めることを目指す実践であり,研究者と患者や市民が協働して社会的,科学的,倫理的によりよい成果を生み出すための手段として国内外で期待を受けている.本稿では,国内の研究者と患者団体への調査結果を紹介するとともに,特に人の試料・情報を用いる観察研究におけるPPIの現状と今後のより良い展開に向けた課題について検討する.国内のPPIをめぐる状況は,関連する施策の登場や,PPIや類する活動を重視する国際動向を受けて大きく変わろうとしており,PPIの趣旨と現状の双方を踏まえた将来図の検討と具体的な支援が望まれるところである.
著者
二階堂 祐子
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.118-128, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
25

科学と医療の進展によって細胞内の染色体やDNAの形状が解明されると,科学者らはその状態に「欠損」「不全」「過剰」などの言葉を付与した.名を与えられたそれらはその後,あたかも構築をまぬがれた実体であるかのように,個体の社会的差異の源泉としてふるまうようになった.こうして,遺伝子の状態が障害の原因であると診断された人の身体は,能力主義的に,あるいは見た目によって価値づけられると同時に,ある遺伝情報を実体として構築するための舞台になっているといえる. 本稿では, 遺伝性疾患のある人が,文化的構築物である遺伝情報をどのように用い,受け止めているのかをインタビュー調査事例より明らかにした. 結果,数値や記号として示される診断告知としての遺伝情報と,インタビュー協力者が不可逆的な生の時間の流れを振り返って用いる遺伝情報は,象徴的媒体としての働きが異なっていることがわかった.協力者の生の時間の流れにある遺伝情報は,他者(家族や友人,介助者,医療者,教育者等)との関係,手術の経験,薬の摂取,補助具の利用等の記憶を刻印する媒体として機能していたのである.
著者
佐々木 香織
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.140-155, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本稿は次世代医療基盤法(2018 年5 月施行)に伴う医療情報の社会的役割の変容を考察する.20 世紀末までカルテに代表される診療記録は,主に医療目的の使用であった.しかし診療記録のIT化に伴い,ビッグデータ解析のような情報集積による医療研究が技術的に可能となる.そこで上記の法により,医療研究を発展させるべく個人情報保護法の例外として診療記録の二次利用を法的に許容させたのである. よって本稿は,①診療記録を集積し研究へ二次利用することに伴う,カルテの存在意味の変容,②診療記録とそれを利用する医師,患者,集積データ管理者や加工者,との関係性の変容,の二点を議論する.議論にあたり,社会学と経済学の交換理論を援用する.カルテの価値が交換過程―売買を含む―を通じ変化する点を考察可能とするからである.したがって本稿は,診療情報をめぐるある種の資源化と商品化に関する事例研究として位置づけられるだろう.
著者
井上 悠輔
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.156-163, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
14

医学・生命科学研究の活性化は,人体を対象とする研究が一層活発になることを意味する.人を観察して一般化されうる知識を引き出すための科学研究と,研究に参加する個々人の多様な意思とのバランスをどう取るべきだろうか.本稿では,人体に由来する生物学的な試料(人試料)と,こうした研究活動の基盤として国を挙げて整備されているバイオバンクに注目し,特に「同意」をめぐる多様な理解と論点を検討する.
著者
見上 公一
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.164-175, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
33

生命医科学の発展とともに様々な形で人体の資源化は実現されてきたが,資源化された人体を直接的に産業と結びつけることは必ずしも社会として受容されてこなかった.これに対し,再生医療の特徴の一つとして,実現された際にもたらされる経済効果への期待が明示的である点が挙げられる.本稿は,そのような再生医療における人体の資源化と経済活動の結びつきを正当化するための社会装置という観点から,幹細胞バンクについて,特にヒト人工多能性幹細胞(hiPS細胞)研究の一環として国内に設置された二つの幹細胞バンクに焦点を当てて検討を行う.hiPS細胞の医療応用への道筋としては,再生医療と病態モデルの作成による創薬の推進が提示されており,これらの幹細胞バンクはそれぞれの道筋に対応するものと理解できる.二つの幹細胞バンクとそこに見える人体の資源化の在り方の考察を手がかりに,人体の資源化に関わる社会装置に目を向けることの重要性について考える.
著者
田中 丹史
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.179-192, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
26

本稿は生命科学・ライフサイエンス論の3 人の著名な研究者の見解を科学者の社会的責任論の観点から考察した.まず分析対象とするのは江上不二夫の見解である.江上の特徴は生命科学・ライフサイエンスを人文・社会科学を含む学際領域と捉えた点にあり,その研究審議の結果を踏まえて市民との対話の必要性も説いている.続いて取り上げるのは、中村桂子の議論である.中村は基礎研究の段階から,生命科学・ライフサイエンスには科学コミュニケーションが重要になることを主張していた.さらに1990 年代以降,生命誌の研究に移行すると,科学者の内的責任と外的責任の双方が当然視されるような世界観を打ち出している.最後に取り上げるのは,渡辺格の主張である.渡辺の生命科学・ライフサイエンス論の特徴は淘汰されるマイノリティもコミュニケーションに参加すべきとした点にある.3 人の主張はそれぞれ科学者の社会的責任論を展開していた点に特徴があると言える。
著者
標葉 隆馬
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.37-54, 2019-04-20 (Released:2020-04-20)
参考文献数
53

生命科学の発展は多くのベネフィットを社会にもたらすと同時に,「生」が持つ様々な側面を資本化し,市場の中に投げ入れてきた.現代における「生」の資本化は,とりわけ1970 年代以降のバイオテクノロジーの急速な発展と,それに適応する形で1980 年代のアメリカにおけるプロパテント政策を背景として急速に進んでいったものであるが,このような「生」の「生-資本」化を巡る視座は近年における科学技術社会論の中心的な関心の一つになりつつある.その中で,「生-資本」を巡る「語り」やポリティクスがどのような実態を持つのかについてのアプローチが続けられている. このような状況を踏まえ,本稿では,特に2000 年代半ば以降における国内外の「生―資本」を巡る議論を概観すると共に,科学技術社会論が当該テーマに関して今後取り組むべき課題とその方向性について素描を試みる.
著者
城山 英明
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.65-80, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
37

テクノロジーアセスメントとは,科学技術の発展が社会に与える影響を広く洗い出して分析し,それを関係者に伝え,相互の議論や意思決定・政策決定を支援する活動である.本稿では,人工知能(AI)に関して想定されるテクノロジーアセスメント上の論点を整理した上で,テクノロジーアセスメントのあり方,すなわち,枠組み・体制の選択肢について,検討する.国際的なテクノロジーアセスメントの取組み,各研究機関によるテクノロジーアセスメントの取組み,国によるテクノロジーアセスメントのための資金枠の設定,各国政府(議会,行政府)によるテクノロジーアセスメント取組みについて,テクノロジーアセスメント一般に関する経験やAIに関する試みを概観した後,このようなAIに関する実験的なテクノロジーアセスメント的活動の1つとして,日本の総務省情報通信政策研究所が行っている活動を検討する.そして,実利用や研究開発の現場から若干の距離のある観点から評価が行われている点,対象が包括的である点に特徴があるとする.また,開発者と利用者(学習データ提供者)の関係課題,利用者と非利用者が混在する移行期の課題等について指摘する.最後に,AIの政治的決定への影響やその可能性についても,社会的影響の1つとして若干考察する.
著者
吉添 衛 服部 宏充 江間 有沙 大澤 博隆 神崎 宣次
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.120-133, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
8

社会は情報技術の発達とともに,グローバル化・複雑化が進んでおり,人の持つ価値観も多様化してきている.そして,それに伴い,多様で変化する価値に気づき,広い視野を持って物事を捉えることが社会的に必要とされるようになってきている.本研究では,多様な価値観への気づきを与えるには何が必要か検討しながら,その仕組みのシステム化(AIR-VAS)を目指している.今回,気づきを与えるアプローチの一つとして,議論の場で自分達とは異なるグループの考え方や価値観を可視化させ,示すことで,新たな発想や考えを促すような仕組みを検討した.議論における単語の頻出度や共起度などをもとにして,議論をネットワーク構造で表現し,可視化させるプロトタイプシステムの実装を行い,実際に,ワークショップの中でシステムを運用した.本稿では,その結果を踏まえながら,議論の特徴とシステムの提示する情報の関係性やシステム活用の有効性について考察する.
著者
神崎 宣次
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.134-141, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)
参考文献数
18

本稿の目的は,ロボットや人工知能技術に関する日本国内での社会的議論の状況に関して,そうした議論に多少なりとも参加している倫理学者という筆者の立場からの見解を示すことにある.そうすることによって,今後の議論のあり方について示唆を行い,より生産的なものとすることに寄与したい.なお,ここでいう「社会的」議論とは,専門家や関係者だけでなく,より広い範囲のステークホルダーが参加した議論を指している.ロボットや人工知能についての議論では,しばしばこの意味での社会的議論が必要と主張されるが,現状では不十分なかたちでしか行われていない.具体的な論点としては,1)情報の過剰さ,2)これらの技術に特有の社会問題の有無,3)既存の議論との連続性,4)価値の問題の重要性という4つを挙げて論じる.
著者
江間 有沙
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.142-146, 2018-12-10 (Released:2020-02-10)

人工知能(AI)やロボットなどは,私たちの生活や職場に浸透しています. 人工知能やロボットで生活や働き方が良くなる,あるいは悪くなるという「技術決定論」的な捉え方ではなく,新しいものが入ってきたときにこそ,今までの生活,仕事の在り方や制度,人間関係などを見直す機会となるはずです. 現在,国内外で人工知能やロボット技術の開発原則や私たちの社会への影響や可能性の議論が行われています.しかし,私たちの生活や仕事に深く関係している技術だからこそ,専門家や有識者だけではなく,私たち一人一人が今後どのような社会を作っていきたいのか,あるいはどのような生活や仕事に価値を置いているかを共有する機会が必要です. 本イベントは簡単には答えの出ない,これからの人工知能/ロボットと人間・社会・環境について考え,発信するための対話型ワークショップです.