著者
綾屋 紗月
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理 (ISSN:04478053)
巻号頁・発行日
vol.56, no.6, pp.555-557, 2015-06

私たちは当事者研究会の活動を通じ,発達障害,特に自閉スペクトラム症の診断基準がもつ弊害を感じてきた.どこまでが社会問題として考えられるべきで,どこからが個人が持つ変えられない特徴なのかを公平に切り分けるには,少数派が自己を探究する当事者研究と多数派の社会を探究するソーシャル・マジョリティ研究の両方が必要であると考え,当事者が抱える困りごとに注目した質問項目を作成し,その問いに対応する一般人口を対象とした研究紹介を様々な分野の専門家に依頼した.研究会を通して,学術的な研究が当事者研究の進展に寄与するだけでなく,逆に当事者研究の視点が複数の研究領域をつなぐ学際的な役割を果たす可能性が示唆された.
著者
綾屋 紗月
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

目的1.テキスト・マイニング・自然言語処理分析と質問紙票調査テーマ分析の方法によって、ASD者におけるリカバリーの要素について分析を行った。分析結果はホームページを通じて公開するとともに、自然言語処理技術を用いたエピソード検索システム「エピソードバンク」(http://sociocom.jp/episode-bank/)に登録し、当事者研究のアーカイブ化やクラウドソーシングによる仮説生成への活用を目指している。また、そこから抽出された固体要(impairment)についての仮説のうち、触覚過敏に関して、刺激発生装置を用いて検証実験を行い、論文として発表した(Fukuyama et al., 2017)。目的2.ソーシャル・マジョリティ研究会の実施とテキスト作成ソーシャルストーリーにかわる多数派の社会デザインを明示的に説明する日本語でのテキストを、「ソーシャルマジョリティ研究」として、近日中に金子書房から出版する。また次年度4月に、アウトリーチ活動としてテレビ番組で研究内容を広く発信する予定。目的3.他障害との比較によるASD者に合ったコミュニケーション様式の検討2015年‐2016年に行った当事者研究のやり方研究会の結果は、書籍や学会発表の形で公表した。2016年に行った臨床研究の実践場面ををエスノメソドロジー・会話分析の手法を用いて分析し、ASD者にあったコミュニケーション様式に基づく当事者研究のファシリテーション用ビデオと教材を開発した。
著者
綾屋 紗月
出版者
日本認知科学会
雑誌
認知科学 (ISSN:13417924)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.312-321, 2022-06-01 (Released:2022-06-15)
参考文献数
10

Since childhood, I have been unable to share my experiences with those around me and lived in chaos. With a diagnosis of autism spectrum disorder, I recognized myself as a member of a minority group and gained connections to minority communities. On the other hand, I also experienced the unfairness of being overly blamed for miscommunication. Therefore, based on the social model of disability, I conducted tojisha-kenkyu in order to explore my characteristics and the conditions of the environment that suited those characteristics. As a result, I was able to gain knowledge about my characteristics behind communication difficulties and how to guarantee informational accommodation appropriate for these characteristics. Although this knowledge improved my current wellbeing, the traumatic memory of the past remained afterwards, and I was unable to integrate my present and past selves. However, the knowledge from others who knew the past gave meaning to such memories and enabled me to construct an integrated self-narrative. The above process of tojisha-kenkyu brought about knowledge that made it possible to connect with the body, the world, and the past, but this knowledge was at the individual level. It was only by acquiring historical knowledge that enabled me to situate my own tojisha-kenkyu in the genealogy of the knowledge of tojishas, which I received from my past peers, updated and transferred to my subsequent peers, that I was able to challenge the exclusive society.
著者
熊谷 晋一郎 綾屋 紗月 武長 龍樹 大沼 直紀 中邑 賢龍
出版者
日本聴覚医学会
雑誌
AUDIOLOGY JAPAN (ISSN:03038106)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.234-242, 2013-06-30 (Released:2013-12-05)
参考文献数
32
被引用文献数
1

要旨: 本研究では一般大学生を対象に, カルファの聴覚過敏尺度日本語版 (6件法) による質問紙票調査を行い, スコアの平均は16.9点, 標準偏差は11.6点で, 上位5%のカットオフ値はおよそ40点であること, さらに聴覚過敏尺度が 「選択的聴取の困難」 「騒音への過敏と回避」 「情動との交互作用」 の3因子構造を持つことがわかった。また, 聴力異常の既往, 抑うつ症状, 性別, 顔面神経麻痺などよりも, 「不安症状」, 「睡眠障害」, 「頭頸部手術の既往」 の3つの危険因子が有意に聴覚過敏と相関していることが明らかとなった。また重回帰分析の結果, 前2者は各々独立に聴覚過敏と相関していた。このことは, 聴覚過敏を主訴とする患者の診療において, 不安障害や睡眠障害の合併に目を向けることと, 頭頸部手術後のフォローアップにおいて聴覚過敏に目を向けることの重要性を示唆している。
著者
綾屋 紗月
出版者
公益財団法人 日本学術協力財団
雑誌
学術の動向 (ISSN:13423363)
巻号頁・発行日
vol.27, no.10, pp.10_40-10_45, 2022-10-01 (Released:2023-02-23)
参考文献数
15

当事者研究と先行研究に基づくと、教育や研究の場面において生じる自閉スペクトラム症者の困難は四つに大別できる。一つめは感覚過敏であり、ストレスや不安、過剰適応の影響を常に考慮する必要がある。二つめはコミュニケーションの齟齬であり、その原因を自閉スペクトラム症者に負わせるのではなく、参加しやすいコミュニケーション・デザインや情報保障を考慮に入れることが重要である。三つめは実験や実習、レポートなどの課題を計画的に遂行することの困難であり、課題の文脈と作業のディテールという、マクロ・ミクロ双方の情報保障が有益な可能性がある。四つめは不器用さであり、教育課程のうちから自分のペースで機器の取り扱い方を練習する機会を保障することが望ましい。自閉スペクトラム症を含む精神発達障害全般において、先行研究のみならず当事者の語りや当事者研究の報告が、合理的配慮や基礎的環境整備を具体化する上で必須の知識と言える。
著者
綾屋 紗月
出版者
科学技術社会論学会
雑誌
科学技術社会論研究 (ISSN:13475843)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.74-86, 2020-04-30 (Released:2021-04-30)
参考文献数
10

筆者は2011 年以降,自閉スペクトラム症をもつ仲間と共に当事者研究会を継続する中で,当事者研究の具体的な進め方だけでなく,歴史や理念を明示化する必要性に迫られた.筆者は文献資料やインタビューを通じて当事者研究誕生の歴史的経緯を調べた.その結果,周縁化された当事者のニーズから,難病患者・障害者運動と,依存症自助グループという2 つの当事者活動が合流して,当事者研究が誕生したことを示した.さらに現代社会において,当事者活動から周縁化されがちな自閉スペクトラム症に関する筆者の当事者研究を分析した.その結果,筆者の当事者研究も,社会モデルや,傷ついた記憶の語り直しというかたちで,二大当事者活動の影響を受けていたことが確認された.以上を踏まえ,当事者研究の方法論を開発した.本研究は,研究史,具体的研究事例,方法論という1つの研究領域を特徴づける3 つの側面から当事者研究の全体像をとらえた初めての研究と言える.