著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.49-83,

1945年2月から3月にかけてのマニラ戦における日本軍の残虐行為はよく知られている。しかしその中で日本軍がマニラの中心にあるエルミタ地区の女性たち数百人をベイビューホテルとその近くのアパートメントに監禁し、数日にわたって日本兵たちが次々と強かんを繰り返した事件は有名であるにもかかわらずまったく研究がない。米軍は事件直後に100人以上の関係者から尋問調書をとり、膨大な捜査報告書を残しており、そこから事件の全体像を明らかにした。同時に日本軍の史料はほとんど残っていないが、関連する日本軍部隊について検討し、他の残虐行為との関連を検討したうえで組織的な犯罪であったことを示した。
著者
種村 剛 小林 泰名 種村 剛 小林 泰名 種村 剛 小林 泰名
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会
巻号頁・発行日
vol.53, pp.61-104, 2012-07

札幌のインディーズ・ミュージシャンがおこなった、USTREAMを用いたライブイベント、UST ROOM FESを事例として、ミュージシャンとライブ配信サービスの関係について考察した。本稿の中心となる問いとして「なぜ札幌のインディーズ・ミュージシャン達は、UST ROOM FESを企画し実践したのだろうか」を設定した。問いに対する仮説として、UST ROOM FESを、地方から全国へ音楽活動をプロモーションする手段と考えているのではないか(1)、UST ROOM FESのメリットを、楽曲のダウンロード販売につながる点にあると、考えているのではないか(2)、の二つを提示した。仮説の検証のために、フェスを企画した、札幌のミュージシャン3名にインタビューをおこなった。インタビューの結果、1) ライブ配信サービスを、全国の人びと、地域の人びと、地元のミュージシャンに対する音楽活動のプロモーションとして用いていること、2) 実際に観客にライブ会場に足をはこんでもらい、CDを販売したいと考えていること、を明らかにした。最後に、以上の考察をふまえ、地域レーベルの可能性について検討した。
著者
種村 剛 小林 泰名
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会
巻号頁・発行日
vol.55, pp.95-133, 2013-07

本稿は、音楽を演奏する場としての喫茶店(カフェ)が現れた理由と、その機能についての考察である。先に、喫茶店が音楽を演奏する場としても機能していたこと、近年では新しいライブハウスの一形式としてライブカフェがあらわれたことを確認する。そして、札幌にあるライブカフェ、ムジカホールカフェの店長と、店で演奏するミュージシャンにインタビューをおこない、ライブカフェを経営する理由、音楽に対する考え方、ミュージシャンがライブカフェで演奏する理由を明らかにした。その結果、ライブカフェが、地元のミュージシャンとファンをつなげるパブリック・スペースとして機能していたことを示す。
著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.51-77, 2004-07

本稿では連合国の戦争犯罪政策の形成過程について、連合国戦争犯罪委員会に焦点をあて、同時に連合国の中小国の動向、役割に注意し、かつイギリスとアメリカ政府の動向を合わせて分析する。枢軸国による残虐行為に対してどのように対処するのかという問題を扱うために連合国戦争犯罪委員会が設置された。委員会は従来の戦争犯罪概念を超える事態に対処すべく法的理論的に検討をすすめ、国際法廷によって犯罪者を処罰する方針を示した。だがそれはイギリスの反対で潰された。その一方、委員会の議論は米陸軍内で継承されアメリカのイニシアティブにより主要戦犯を国際法廷で裁く方式が取り入れられていった。委員会における議論はその後に定式化される「人道に対する罪」や「平和に対する罪」に繋がるものであり、理論的にも一定の役割を果たすことになった。だが当初の国際協調的な方向から米主導型に変化し、そのことが戦犯裁判のあり方に大きな問題を残すことになった。
著者
中村 桃子
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.45, pp.1-23, 2008-07

本稿では、メディアはことばによって想像の共同体をつくるという「テクスト共同体」(Talbot 1992)の考え方をスポーツ新聞に当てはめて、スポーツ新聞が事実の報道を超えて物語世界を構築していく手法を明らかにする。スポーツ新聞共同体の第一の特徴は、異性愛の男性が明確な階層構造を構成することで男同士の絆を深めている点である。選手と監督、勝者と敗者は極端に対比され、密着した上下関係に位置付けられている。命令形、断定形、男ことばの多用や戦争の比喩も共同体を男性化している。スポーツ新聞の第二の特徴は、その物語化とお笑い化である。出来事や人間関係は、過去から現在の歴史の中に位置づけられて、伝説や物語として描写される。一方で、くだらない語呂合わせやしゃれにあふれている。物語化とお笑い化は、どちらも読者を共同体から分離させることで、スポーツ新聞を、読者が自分のアイデンティティを介在させずに安心して消費できる媒体にしている。
著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部教養学会||カントウ ガクイン ダイガク ケイザイ ガクブ キョウヨウ ガッカイ||The Society of Liberal Arts Kanto Gakuin University
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.1-42, 2004-01

本稿では連合国の戦争犯罪政策の形成過程について、連合国戦争犯罪委員会に焦点をあて、同時に連合国の中小国の動向、役割に注意し、かつイギリスとアメリカ政府の動向を合わせて分析する。枢軸国による残虐行為に対してどのように対処するのかという問題を扱うために連合国戦争犯罪委員会が設置された。委員会は従来の戦争犯罪概念を超える事態に対処すべく法的理論的に検討をすすめ、国際法廷によって犯罪者を処罰する方針を示した。だがそれはイギリスの反対で潰された。その一方、委員会の議論は米陸軍内で継承されアメリカのイニシアティブにより主要戦犯を国際法廷で裁く方式が取り入れられていった。委員会における議論はその後に定式化される「人道に対する罪」や「平和に対する罪」に繋がるものであり、理論的にも一定の役割を果たすことになった。だが当初の国際協調的な方向から米主導型に変化し、そのことが戦犯裁判のあり方に大きな問題を残すことになった。
著者
伊藤 明己
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.47, pp.25-43, 2009-07

本稿(上・下)では、ブルデューの社会的再生産論における趣味に関する議論を検討することを通じて消費のもつ社会性のある側面を考察する。(上)では、かれの流行論を端緒としながら、再生産論の概要を紹介しその運命論と趣味との関係を検討した。さらに、中間芸術に関するメディア消費への論考から、ブルデューの社会観における宿命論の揺るぎなさと文化のゲームへの参加者たちの消費への意味づけを考察した。ブルデューにおける趣味論は、反『判断力批判』としての社会的判断力批判であり、その観点からすると趣味は人びとの社会内での位置づけを強く反映したものといえる。(下)では、(上)でのブルデュー理解から、集団的信仰にあたいする文化的ヒエラルキーへの投資に社会的存在を賭ける人びとの姿を導き、人間崇拝をめぐる社会の紐帯となるべき道徳的な義務との深い関わりとそこからの逸脱を含む意味を持つものとして消費が取り上げられていることを論じる。
著者
伊藤 明己
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.46, pp.81-108, 2009-01

本稿では、ブルデューの社会的再生産論における趣味に関する議論を検討することを通じて消費のもつ社会性のある側面を考察する。まず、かれの流行論を端緒としながら、再生産論の概要を紹介しその運命論と趣味との関係を検討する。さらに、中間芸術に関するメディア消費への論考から、ブルデューの社会観における宿命論の揺るぎなさと文化のゲームへの参加者たちの消費への意味づけを考察する。ブルデューにおける趣味論は、反『判断力批判』としての社会的判断力批判であり、その観点からすると趣味は人びとの社会内での位置づけを強く反映したものである(以上は上)。(下では)こうしたブルデュー理解から、集団的信仰にあたいする文化的ヒエラルキーへの投資に社会的存在を賭ける人びとの姿を導く。この点をさらに考察し、消費が人間崇拝をめぐる社会の紐帯となるべき道徳的な義務との深い関わりとそこからの逸脱を含む意味を持つものとして取り上げられていることを論じる。
著者
加藤 久子
出版者
関東学院大学経済学部・経営学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.69, pp.67-106,

本稿では上に挙げたキーワードのうち、下記の3点について関東学院大学「【経済・経営学部】秋学期オンライン授業の実施方法について(8月31日送付)」に基づき、以下のように定義する。LMS(学習管理システム)manaba:授業資料、授業資料の補足説明、学習方法についての説明、小テスト(またはリアクションペーパー)を掲示し、小テスト(またはリアクションペーパー)を提出させる。オンデマンド型:音声付動画(PPT+音声、授業録画等)をstream、YouTube、Teams等を利用して配信する。双方向型(リアルタイム):Zoom等を利用してライブ配信し、ライブ授業は録画。通信環境の問題でリアルタイムでの受講が難しかった学生用にオンデマンドの配信も授業実施日内に行う。
著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.48, pp.69-95, 2010-01

マニラ戦はフィリピンにおける日本軍のイメージを決定づける重要な事件である。しかし日本では戦闘経過についての研究はあるが、そこで日本軍が住民に対しておこなったことの研究はほとんどない。資料が散逸していることが大きな理由として挙げられる。そこで米軍に押収され英訳された資料や日本に残っている資料を丁寧に拾い出し、日本軍の住民観や住民対策を明らかにしようとしたのが本稿である。これによって日本軍の行為が偶発的なものではなく、組織的意図的なものであることが明確になり、マニラだけでなくフィリピン各地の日本軍に共通して見られることも明らかにした。
著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部・経営学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-28,

米国の第2 次世界大戦への参戦直前に締結された「米国への基地貸与に関する英米協定」によって、米国は英国に対して駆逐艦50 隻を引き渡す代わりに、英国がいくつかの自治領と植民地の土地を米軍基地のために99年間貸与することとなった。これに基づいて英国は、自治領だったニューファンドランドのほかに植民地であったバミューダ、バハマ、ジャマイカ、アンティグア、セントルシア、トリニダード、英領ギアナの土地を提供した。この協定では刑事裁判権について派遣国だけでなく受入国の裁判権も認め、競合裁判権の仕組みが採用された。しかしニューファンドランドでは一定の裁判権を行使したが、カリブ海植民地においてはほとんど裁判権を放棄した。その違いを生み出した最大の要因は英当局の人種主義であった。この米軍駐留地における刑事裁判権行使の差別の構造はNATO 地位協定締結後にも継続していく。
著者
林 博史
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.45, pp.51-67, 2008-07

アジア太平洋戦争において、アメリカは対日戦を進めていく上で、日本人の意識分析をおこない、それを心理戦に活用していった。そこでの分析は、戦闘を有利に進めるためだけでなく、戦後の対日占領政策とも密接に関連するものであった。そのために戦闘のなかで捕獲した捕虜の意識分析をおこなっていたが、サイパン戦の結果、米軍は初めて多数の日本民間人を収容し、民間人の意識分析をおこなうことができた。その調査報告書の全文を翻訳し紹介する。この報告書の内容は、まだ予備的な内容で十分に深められているとは言えないが、民間人が米軍への投降を拒む理由が、けっして愛国的な熱情や天皇への崇拝などではなく、米軍に捕まると殺されるか拷問されることへの恐怖であることがはっきりと示されている。
著者
伊藤 秀彦
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.50, pp.75-97, 2011-01

本稿は、生成文法理論に基づき受動化と繰り上げについて考察するものである。1章では受動化について考察する。その結果、能動文とそれに対応する受動文とでは意味が異なる場合があるということ、受動文は「併合」と「移動」という文法操作を経て派生されるということ、主要部と補部の「親密さ」が受動化の可否に影響を与えているということが理解できる。2章では繰り上げについて考察する。その結果、主語繰り上げ構文は格フィルターとθ役割の付与で説明できるということ、目的語繰り上げ構文では主文の動詞が補部の指定部に目的格を付与しているということ、受動化と繰り上げは「項の移動」という1つの操作にまとめられるということ、いくつかの文法操作により、ある種のThere構文と進行形の文の派生を統一的に説明できるということがわかる。
著者
伊藤 秀彦
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.50, pp.75-97, 2011-01

本稿は、生成文法理論に基づき受動化と繰り上げについて考察するものである。1章では受動化について考察する。その結果、能動文とそれに対応する受動文とでは意味が異なる場合があるということ、受動文は「併合」と「移動」という文法操作を経て派生されるということ、主要部と補部の「親密さ」が受動化の可否に影響を与えているということが理解できる。2章では繰り上げについて考察する。その結果、主語繰り上げ構文は格フィルターとθ役割の付与で説明できるということ、目的語繰り上げ構文では主文の動詞が補部の指定部に目的格を付与しているということ、受動化と繰り上げは「項の移動」という1つの操作にまとめられるということ、いくつかの文法操作により、ある種のThere構文と進行形の文の派生を統一的に説明できるということがわかる。
著者
安田 八十五 菊地 直人
出版者
関東学院大学経済学部教養学会
雑誌
自然・人間・社会 (ISSN:0918807X)
巻号頁・発行日
no.44, pp.21-36, 2008-01

日本ではゴミ(廃棄物)を衛生的に処理する手段として焼却処理が広く普及してきたが、近年焼却処理の際に発生するダイオキシンが問題となっている。ダイオキシンの発生源の約8割が一般廃棄物の焼却施設とされており、排出を削減することが緊急の課題となっている。厚生省(当時・現在は環境省)は小型の焼却施設を大型の焼却施設に集約するごみ処理広域化計画を進めているが、広域化には様々な問題点があり見直しを始めている。特に、まとまったゴミの集まらない人口低密度地域では広域化に伴う弊害が多い。本研究ではこれら人口低密度地域において環境や経済性の面からその地域特性に応じたごみ処理システムを明らかにすることを目的とする。ことに、廃棄物固形燃料(Refuse Derived Fuels:RDF)化政策を導入した政策代替案を提案し、その総合評価を行う。本研究では研究対象地域を茨城県北西部地域の15市町村とし一般廃棄物処理のうち、可燃ごみの収集から中間処理、最終処分までを分析範囲とした。まず、15市町村の現状分析を行いその結果をもとに可燃ごみの収集、中間処理、最終処分の各段階で政策代替案を設定した。政策代替案では全ての中間処理施設を厚生省の定める最も厳しいダイオキシン排出規制値を達成できるものとした。政策代替案ごとに財務分析、LCA分析、社会的費用便益分析を行った。茨城県北西部地域では財務分析の結果から広域化処理の方が自治体の費用負担が少なくなることがわかった。LCA分析によると可燃ごみの収集運搬時よりも中間処理段階の方が電力や燃料消費量が遙かに多くなるため、広域化処理で焼却場を1箇所に集約した方が環境負荷量は少なくなった。しかし社会的費用便益分析では広域化を行わず現在の焼却施設の改造、更新を行った方が社会全体として費用負担が少なくなることが明らかとなった。ごみ処理広域化を行う場合は、焼却施設を統合する市町村、広域処理事務組合間で現在の焼却施設の更新時期が重なれば社会的費用が少なくなる。しかしながら、焼却施設の更新時期が重ならない地域は減価償却が終わった焼却施設においてはガス化溶融炉に更新し、終わっていない焼却施設については排ガス処理施設を設置して対応するのが最も望ましいと言える。本研究ではプラスチック類の分別は想定しなかったが、ダイオキシンの発生源となる塩化ビニール系のプラスチック類を分別しマテリアルリサイクルすることでダイオキシンが抑制でき、ダイオキシンを抑制するために莫大なプラント建設費が不要となる上、無理な広域化をする必要もなくなることから将来の選択肢として検討の余地があるといえる。