著者
雨車 和憲 半谷 精一郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.186-192, 2018-01-01 (Released:2018-01-01)
参考文献数
44

白黒の画像や映像を自動または半自動でカラー化するカラリゼーションと呼ばれる技術が研究されている.近年,ディープラーニングを用いることにより,ユーザが一切の手を加えずに完全に自動でカラー化する手法が提案され注目を集めている技術である.本稿では,これまでに研究されてきた各種カラリゼーション手法を,ユーザによる色情報の指定型,ソース画像入力型,及び完全な自動型に分けてそれぞれの手法の特徴について述べる.また,カラリゼーション手法の発展とともに医用画像やアニメーション制作,画像符号化など様々な研究にカラリゼーションが応用されるようになっている.本稿ではこれら応用研究及び,今後の展望についても述べる.
著者
西 哲生
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.281-290, 2016-04-01 (Released:2016-04-01)
参考文献数
20

九州大学名誉教授の大野克郎先生が2015 IEEE Gustav Robert Kirchhoff Awardを受賞されました.本報告は,受賞理由の“古典”回路合成論の中での大野先生の業績の位置付け,特に等価回路の問題について簡単に述べる.
著者
稲垣 敏之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.2_20-2_30, 2008-10-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1 1

高い知能と自律性を持つ機械は,ヒューマンマシンシステムの安全性,効率性,快適性の向上に貢献しているが,人との間に不整合をもたらすこともある.本稿では,人と機械が「自然」な形で共生できるシステムを実現するための課題を,具体例に即して考察する.
著者
吉田 康太 藤野 毅
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.88-100, 2021-10-01 (Released:2021-10-01)
参考文献数
68

深層ニューラルネットワーク(DNNs)などの機械学習技術(以降AI技術と呼ぶ)は,画像認識をはじめとする様々なタスクにおいて非常に高い性能を発揮しており,本技術の社会実装が今後更に加速することが予想される.自動運転車や監視カメラなど,安全やセキュリティに関わる分野にAI技術を導入するためには,誤動作の誘発・プライバシー情報の窃取などを目的としたAIに対する攻撃手法に対するセキュリティ対策が重要になる.また,学習済みAIモデルは重要な知的財産であるため,これを保護する手法も実装しなければならない.一方で,監視カメラや自動運転システムのようなプライバシー保護・リアルタイム性が要求されるアプリケーションでは,推論処理を組み込み機器(以降エッジAIと呼ぶ)で実行する必要がある.このようなケースでは攻撃者がエッジAIへ物理的にアクセスできるシナリオも考慮したセキュリティの確保が求められ,エッジAIのハードウェアセキュリティという研究分野が2017年頃から注目されている.本稿では,AI特有のセキュリティ課題及びエッジAIのハードウェアセキュリティについて,脅威を整理し,更に近年の研究動向や対策技術を紹介する.
著者
泉 泰介
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.46-56, 2016-07-01 (Released:2016-07-02)
参考文献数
19

通信複雑性理論とは,複数のプレイヤ間に分散して保持されているデータに対して,何らかの大域的な関数計算を行いたいとき,プレイヤ間で交換しなければならないビット数の上下界を明らかにする理論である.本解説では,同理論の基礎について概説するとともに,強力かつ新たなアプローチとして近年注目を集める,情報理論的手法を用いた通信複雑性の限界解明手法について,その基本的なアイデアを紹介する.
著者
谷 誠一郎 高橋 康博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.15-27, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
62

量子コンピュータは現在のコンピュータにおける不可能を可能にする高速コンピュータとして大きな期待を集めている.この期待の実現には,新しいハードウェア技術とともに,ハードウェアの能力を引き出す新しいアルゴリズム技術が不可欠である.本稿では,このような高速量子アルゴリズムの開発に焦点を当て,量子コンピュータ単体による計算や通信が可能な複数の量子コンピュータを利用する計算のために開発されてきた高速量子アルゴリズムの歴史を振り返るとともに,我々の成果について,その原点となる発想を中心に紹介する.
著者
小林 欣吾
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.28-43, 2020-07-01 (Released:2020-07-01)
参考文献数
8

組合せ論的ゲーム理論の礎とも目されるE.R. Berlekamp, J.H. Conway, R.K. GuyによるWinning Ways for Mathematical Playsという今や古典的な名著の翻訳を昨年の秋に完了した.その機会に合わせてSITA2019霧島のワークショップにおいて講演したので,そのときの話題を中心に組合せ論的ゲームを解説する.組合せ論的ゲームというのは,2人のプレーヤが交互に着手し,ゲームの規則,勝敗の判定法など必要となる情報はお互いに完全に分かり合っており,偶然性は入らないゲームをいう.そのようなゲームは子供のお遊びのチック・タック・トウ(マルとバツ),点と箱などから,囲碁,将棋,チェスなどという高度の戦略を必要とするゲームまで広範囲にわたっている.ゲームの勝敗を知るためには,局面の値を決定することが重要である.そのような値は単に数だけでは表現できず,Conwayの発案になる実数を拡張した超限実数という概念も顔を見せてくる.
著者
安永 憲司
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.56-67, 2011-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
17

ランダムに構成すると望ましい性質を持つオブジェクトは,多くの場合ランダムなままでは扱えないため,「擬似ランダム」に構成する必要がある.擬似ランダムオブジェクトは様々に存在し,それぞれの目的や性質は異なるが,幾つもの擬似ランダムオブジェクトは,統一的な特徴付けが可能であることをVadhan が示した.そのオブジェクトとは,誤り訂正符号,エクスパンダグラフ,標本器,乱数抽出器,困難性増幅器,擬似乱数生成である.本稿では,誤り訂正符号を基本的な視点として,その他のオブジェクトについて統一的に理解することを目的とし,各オブジェクトの紹介と解説を行う.
著者
安藤 彰男
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.3, no.4, pp.4_33-4_46, 2010-04-01 (Released:2010-11-01)
参考文献数
25
被引用文献数
2

臨場感の高い音響を実現するため,様々な音場再生技術が研究開発されている.これらは,心理音響モデルに基づく方式と,物理音響モデルに基づく方式に大別できる.前者としては,5.1サラウンドから22.2マルチチャネル音響に至る様々な方式が提案されている.いずれも,2チャネルステレオの音像制御方式を基本としており,チャネル数を増やすことで,音場再生能力を向上させている.一方,後者は,音の物理量再現を目的とした方式であり,Wave Field Synthesisや境界音場制御法など,音の場の再現を目指す方式と,アンビソニックスに代表される,受音点での音の物理量を再現する方式に分けることができる.本稿では,これらの方式の基本技術を概観するとともに,その背景となる理論を紹介する.
著者
平澤 茂一 笠原 正雄
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.183-191, 2011-01-01 (Released:2011-01-01)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

誤り訂正符号の代数的復号法の一つであるユークリッド復号法について解説する.ユークリッド復号法はBCH符号やRS 符号の強力な復号法として知られ,数多くの適用例がある.まず,1950 年代に始まった誤り訂正符号の構成法の研究と,1960 年代から1970 年代にかけての復号法の研究の歴史をたどり,ユークリッド復号法の位置付けを行う.次に,ユークリッド復号法の概要を紹介する.最後に,この復号法発見に至る筆者らの当時の環境や様子を,研究者の立場から経験談に私見を交えながら述べる.
著者
石浦 菜岐佐
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.188-196, 2016-01-01 (Released:2016-01-01)
参考文献数
21

コンパイラはソフトウェア開発の基盤ツールであり,その信頼性確保は重要な課題である.コンパイラのテストは数千本から数十万本のテストプログラムから成るテストスイートを用いて行われるが,テストの数が有限である以上,どうしても不具合の見逃しは防げず,最新のGCC やLLVM/Clang などの比較的品質が高いとされるコンパイラにも多くの不具合が報告されている.近年,ランダムに生成したプログラムによりそのような不具合を検出するコンパイラ・ファジングのツールが幾つか開発され,成果を挙げている.本稿では,これまでに開発された手法やツールの狙いや課題について概観し,今後の方向性についての所感を述べる.
著者
今井 秀樹 萩原 学
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.4_9-4_15, 2009-04-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
53
被引用文献数
1

符号理論はディジタル情報の信頼性確保のために不可欠な理論であり,現在の情報化社会を支える基盤理論の一つである.この理論は約60 年前に米国で生まれたが,日本でもこの時期から符号理論の研究が行われていた.しかし,研究者が増え,国際的に認められる研究成果が出るようになったのは40~50 年前のことである.それには,この研究を米国で始めた方々の帰国とW. W. Peterson の著書の影響が大きい.このころ,日本において現在につながる符号理論研究の原点が形成されたといってよいだろう.その後,特に符号理論の応用の面で日本は世界を先導する役割も担ってきた.この間,符号理論は何度かの大きな変革を経ながら,その応用範囲を拡大しつつ発展を続けてきている.本稿では,このような符号理論の流れを日本の視点から俯瞰する.
著者
定延 利之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.276-291, 2005-04-01 (Released:2015-04-01)
参考文献数
44

本稿は,日常会話に代表される人間同士のコミュニケーションの原理を明らかにしようとするものである.伝統的なコミュニケーション観に多かれ少なかれ共通する原理として,次の四つを挙げることができる.(i)情報伝達を前提とする;(ii)意図を前提とする;(iii)共在を前提とする;(iv)行動を前提とする.だが,これらの原理が諸現象を見る研究者の目を曇らせ,不当な記述や説明を生み出してしまっていることも実は少なくない.本稿は日本語の話し言葉の観察を通して,このことを具体的に示す.最終的に,より有用なコミュニケーション観として導き出されるのは,「当事者たちの共在が当事者間で了解されている」と当事者たちが確信している状況と,そこでの行動,というものである.
著者
西 正博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.101-109, 2015-10-01 (Released:2015-10-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

VHF 帯及びUHF 帯の電波は,気象現象に伴うダクト伝搬により,非常に長い距離を伝搬することが知られており,無線システムにおいては,異常伝搬によるオーバリーチ干渉が問題となる.特に地上テレビ放送では,そのディジタル化により,干渉波の同定が困難になり,対策がより困難になってきている.本稿では,異常伝搬とディジタル放送時代の新しい異常伝搬対策技術について解説する.
著者
上田 睆亮
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.172-185, 2014-01-01 (Released:2014-01-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1

本稿は1961.12.16 に発表された非直線理論研究専門委員会資料を制作していた頃を回想しつつ同期現象の入門的な解説を行ったものである.
著者
高井 重昌
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.317-325, 2014-02-19 (Released:2014-04-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

スーパバイザ制御は,与えられた論理的な制御仕様が満足されるように,対象である離散事象システムの振舞いを制限する制御手法である.その特徴は,制御器であるスーパバイザによって禁止することができない不可制御事象を陽に考慮するところにある.本稿では,言語の可制御性に基づくスーパバイザの存在条件,最大許容スーパバイザの構成法といったスーパバイザ制御の基礎理論だけでなく,不可制御事象とその影響,対象システムと制御仕様のモデル化についても解説する.
著者
松野 浩嗣
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.293-300, 2011 (Released:2011-04-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1

ペトリネットは細胞内の反応経路や遺伝子・たん白質等の制御関係をモデル化するための形式的手法として活発に研究され,最近ではシステム生物学の道具の一つとして定着しつつある.最近のシステム生物学における形式的モデル化手法の研究動向についてペトリネットの特徴を踏まえながら紹介した後に,細胞内反応経路解析へのペトリネット理論の適用例について簡単に述べ,更に筆者が主に研究しているハイブリッドペトリネットによって生物時計モデルを作成しシミュレーション実行した応用例について述べる.