著者
新保 史生
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.199-209, 2013-01-01 (Released:2013-01-01)
参考文献数
48

法令遵守への対応にあたって,その基準が一般にわかりづらいと考えられがちな個人情報・プライバシー保護への対応について,両者の違いを明確にした上で,マネジメントシステムの活用のあり方をプライバシー・バイ・デザイン(PbD)やプライバシー影響評価(PIA)を通じて考察する.いわゆるビッグデータの取扱いへの対応については,自主規制による取り組みとしてライフログ活用サービスにおける配慮原則及びスマートフォン・プライバシー・イニシアティブを取り上げ,今後の我が国の個人情報保護制度のあり方を提示する.
著者
野崎 隆之
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.7-19, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)
参考文献数
22

誤り訂正符号はディジタル情報に生じる誤りを訂正する基礎技術であり,信頼性が高い情報システムを実現する.消失訂正符号は誤り訂正符号の一種であり,ディジタル情報の消失を訂正する技術である.噴水符号は消失訂正符号の一つであり,ネットワークにおける一対多同報通信であるマルチキャストの信頼性を向上させることができる.本稿では,消失訂正符号と既存の噴水符号を概説した後に,筆者が提案したシフト演算を利用した噴水符号について説明し,その性能を比較する.
著者
北村 正晴
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.84-95, 2014-10-01 (Released:2014-10-01)
参考文献数
26
被引用文献数
3 4

本稿では,レジリエンスエンジニアリングという新しい方法論の原則と実装の指針を紹介する.レジリエンスは,弾力性,復元力,回復力の優れた状態を指す概念である.レジリエンスエンジニアリングが目標とするのは,社会・技術システムのレジリエント性を大幅に向上させることである.この方法論を構成する鍵は,四つの主要な能力と補完的な要件である.この方法論で探求される安全はSafety-IIと呼ばれ,これまで慣用的に用いられてきた「望ましくないことが起こらないこと」に類する静的な安全Safety-Iとは異なっている.レジリエンスエンジニアリングはSafety-IIの意味での安全性を向上させるための方法論である.レジリエンスエンジニアリングの実装と応用についても,若干の事例を通じて説明を試みた.
著者
近藤 淳
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.166-174, 2013-01-01 (Released:2013-01-01)
参考文献数
39
被引用文献数
2

圧電結晶表面を伝搬する弾性表面波(SAW)は,伝搬面と接する媒質の物理的・化学的変化によりその波の速度と減衰が変わる.信号処理用SAW素子では,この変化をいかに小さくするかが重要になる.逆にセンサ応用では,この変化を積極的に利用する.SAWセンサは,気相系,液相系センサに応用可能である.また,センサ感度は用いる圧電結晶によっても異なる.そこで,本稿では弾性波センサ一般について述べた後,SAWセンサの原理について,その考え方と摂動法により導出された摂動解を示した.次に,代表的な計測方法について説明し,実際の測定例として,ガスセンサ,液体計測,免疫反応計測などについて紹介した.
著者
岡田 実 高畑 裕美
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.37-44, 2014-07-01 (Released:2014-07-01)
参考文献数
38

本稿では,無線通信の一つであるRFID (Radio Frequency Identification) タグ技術を用いて,生体内非触知領域へのマーキングを行う新しいマーキング技術を紹介する.画像診断技術の進展に伴い数mm 以下の微小な病変部位を発見することが可能になってきている.手術などの処置を行うときには,この病変部位の位置を特定する必要があるが,生体形状の変化や病変部位が組織内部にあるために位置を再度特定することは容易ではなかった.ここで示す生体マーキングシステムは,可視及び触知が困難である生体内部の病変領域の位置情報を,RFID 通信技術を用いて手術時に提供するものである.RFID マーキングシステムを試作し,その効果を実験的に評価した.このことから,この新しいマーキングシステムの効果を明らかにする.
著者
三宅 洋一 中口 俊哉
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.3_29-3_37, 2009-01-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
18
被引用文献数
1

画像評価は銀塩写真,印刷,CRTテレビを中心に長い歴史を通して地道な研究が行われ,今日の高い画質を持つ多様なディジタル画像システムへと発展してきた.画質評価の研究は,主観評価と対応の良い物理評価パラメータを見いだす研究として行われてきたが,いまだに完全なる解明はなされていない.本稿では,銀塩写真,印刷,CRTに代表されるアナログ画像から最近のフラットパネルディスプレイやインクジェットプリンタに至る画質の問題を概観する.まず主観評価と客観評価の基礎から解説し,視覚特性と画質,更に高次な表現パラメータである質感について述べる.また画質と深く関連している疲労についての研究成果など,筆者の研究室で行っている研究を中心に概説する.
著者
小野 順貴 Kien LE TRUNG 宮部 滋樹 牧野 昭二
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.336-347, 2014-04-01 (Released:2014-04-01)
参考文献数
69

マイクロホンアレー信号処理は,複数のマイクロホンで取得した多チャネル信号を処理し,単一マイクロホンでは困難な,音源定位,音源強調,音源分離などを,音源の空間情報を用いることによって行う枠組みである.マイクロホンアレー信号処理においては,チャネル間の微小な時間差が空間情報の大きな手がかりであり,各チャネルを正確に同期させるために,従来は多チャネルA-D 変換器を備えた装置が必要であった.これに対し,我々の身の回りにある,ラップトップPC,ボイスレコーダ,スマートフォンなどの,同期していない録音機器によりマイクロホンアレー信号処理が可能になれば,その利便性は大きく,適用範囲を格段に広げることができる.本稿では、非同期録音機器を用いたマイクロホンアレー信号処理の新しい展開について,関連研究を概観しつつ,筆者らの取組みを紹介する.
著者
阪田 省二郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.3_44-3_57, 2008-01-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
66
被引用文献数
1

代数的な誤り訂正符号の基本的な考え方,方法について,最近の進展も含めて概説する.線形代数にプラスアルファの代数を加えたもの,代数的な構成が符号の効率的な利用(符号化,復号,ハードウェア化)に直結しているものを,狭義の「代数的符号」と呼び,そのような符号の構成と利用, 特に復号法について述べる.代数的な方法の基礎となるのは,有限体上の(1変数,または,多変数)多項式, あるいは,(一次元, または, 多次元)配列による符号の表現である.復号において,線形再帰関係とグレブナー基底の概念が重要な働きをする.
著者
中尾 充宏
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.3_19-3_28, 2009-01-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
28
被引用文献数
1

本稿では, 偏微分方程式の解を計算機によって数値的に存在検証する方法について, 筆者自身がどうしてそのような研究に進むようになったのか, そして今日までどのような進展を見ているのかを筆者が行ってきた研究を中心に述べる. 始めに筆者自身の研究者としての背景とこのような研究を開始するに至った経緯, そして研究の端緒を開く鍵となった着想を顧みる. 続いて個別研究の展開の状況について概観し, 最後に今後の展望について簡単に触れる.
著者
落合 秀樹
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.126-135, 2023-10-01 (Released:2023-10-01)
参考文献数
24

持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け,今後の高速無線通信システムにおいても,周波数効率と電力効率の双方の観点から優れたディジタル伝送方式の創出が求められる.一般に周波数効率の高いディジタル変調信号は,その瞬時電力が大きく変動する.しかし高いピーク電力をもつ信号を線形増幅する場合,増幅器の電力効率は著しく劣化する.よってこれらの間にはトレードオフの関係が存在する.本稿では,現在広く使用されている周波数効率の高いディジタル変調信号を対象に,その瞬時電力の解析手法について取り上げる.特に高次モーメントをその指標とすることで,瞬時電力変動が簡易に評価できることを示す.更にダウンリンク非直交マルチアクセス(NOMA)のように複数の変調信号が重畳される場合について,それらがガウス分布に近づく様子についても高次モーメントの観点から解析する.
著者
内川 浩典
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.217-228, 2021-01-01 (Released:2021-01-01)
参考文献数
27

2020年の日本国際賞をマサチューセッツ工科大学名誉教授であるRobert G. Gallagerが受賞した.受賞の対象となった低密度パリティ検査符号(LDPC符号)は,Gallagerが1960年に彼の博士論文で提案した誤り訂正符号である.30年以上という長い歳月を経て評価されたLDPC符号は,またたく間に我々に身近な情報機器にも搭載されるようになり,現在では我々の生活に欠かせない技術となっている.本稿ではこのLDPC符号について解説する.特に確率推論の観点から最適な復号アルゴリズムがLDPC符号により実行可能な形で導かれることを紹介する.更に実用的なLDPC符号をどのようにして構成するのか,その構成方法を紹介する.
著者
三橋 明城男 吉川 隆英
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.272-288, 2023-04-01 (Released:2023-04-01)
参考文献数
51

半導体のチップあたりのトランジスタ数は過去50年間,一貫して指数関数的に増加しており,搭載可能な論理的な機能の大規模化,複雑化をもたらしている.この動きに対応するため,論理設計手法も回路図ベースから言語ベースへと進化し,更に設計資産の再利用や標準バスインタフェースの採用などにより設計生産性を上げてきた.同様に,論理機能検証においても主に多様化する機能の検証網羅性と検証作業の生産性の課題が顕在化し,従来の手法では立ち行かなくなってきている.そこで,本稿ではこのような検証の課題を解決するための検証技術や検証メソドロジ(検証の方法論,手順,やり方),標準化の歴史などについて解説する.更に機能やその組み合わせの検証の範囲を越えて,近年重要性が増している非同期回路設計や低消費電力回路設計に伴って発生する新たな論理・回路検証項目や,セキュリティ対応や機能安全標準への準拠など,検証を更に複雑化する検証対象と,その対策についても解説する.また,これまでハードウェアの開発技術がソフトウェア開発技術の進化に追従する形で発展してきた歴史を振り返り,今後の検証技術の発展可能性についても展望する.