著者
國廣 昇
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.42-55, 2011-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
30

Coppersmithによる1 変数法付き方程式の解法の提案以降,格子理論を暗号の解読や安全性評価に用いる研究が進展している.本論文では,法付き線形方程式の解法を軸に,最近の研究動向を解説する.最初に,小さい解を持つ法付き線形方程式を解くアルゴリズムを紹介し,このアルゴリズムの暗号解読及び安全性証明への応用を示す.更に,関連した話題として,RSA 暗号の秘密鍵が小さいときの安全性解析についても解説する.Herrmann, Mayは,unravelledlinearization という技術を用いて,RSA 暗号において,秘密鍵d がd ≦N0.292であれば解読できることの比較的簡単な証明を与えている.本論文では,この証明の解説を行う.最後に,この攻撃の拡張を紹介し,今後の研究課題を示す.
著者
坊農 真弓 吉川 雄一郎 石黒 浩 平田 オリザ
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.326-335, 2014-04-01 (Released:2014-04-01)
参考文献数
42

人間の「社会性」とは何か.この問いに対し,ロボット・アンドロイド演劇プロジェクトは一つの答えを示してくれる可能性がある.本解説記事では,まず本プロジェクトの経緯と背景を説明する(2.).次に,ロボット・アンドロイド演劇をエスノグラフィ及び会話分析することの意味を,演出場面に実際の起こったやりとりの事例分析に基づいて明らかにする(3.).続いて,ロボット・アンドロイド演劇のロボット工学・認知科学における意味を,制作の実態と世界公演に対する評価などから議論する(4.).最後に,ロボット・アンドロイド演劇の演劇としての意味を,社会におけるこの試みの位置付けを明らかにすることから考察する(5.).
著者
鷲野 翔一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.2_13-2_20, 2007-10-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
27
被引用文献数
4 3

日本のITSについて若干の歴史的概観をした後,第3開発分野である安全運転支援システムの普及が芳しくないことを示し,その原因の一つに安全運転支援システムのコンセプトに問題があることを示す. 従来のコンセプトはドライバの運転負荷を少なくする形式のコンセプトで,どちらかと言えば,自然科学者が作ったコンセプトであった.しかし,よく調べると,運転負荷が増える方が事故も少なくなり,燃費も良くなるというデータもあり,交通心理学者をはじめとする社会科学者がこの現象に注目している.交通事故は注意をすればなくなるという簡単なものではなく,統計的な現象としてとらえる方がよいという説明もなされつつある.こういった社会科学者の力とITSの技術者が結集して安全運転支援システムのコンセプトを早急に作り,システムの開発と今後普及を図るべきことを述べる.
著者
片山 正昭
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1_35-1_47, 2008-07-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
49
被引用文献数
2

高周波信号を電力線に重畳することで通信を行う電力線通信には,多種多様な用途や方式がある.本稿では,電力線通信の研究を振り返る.特に最も一般的な,商用電源の低圧配電線や屋内配線を用いる電力線通信を中心に電力線通信での信号チャネルの特異性について述べ,そのような環境での通信方式の幾つかを紹介する.更に低圧商用電源以外の電力線を用いるシステムの幾つかを紹介し,電力線通信が実用面における可能性だけでなく,学術的,技術的にも興味深いものであることを解説する.
著者
山田 昭彦
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.105-112, 2010-10-01 (Released:2010-12-01)
参考文献数
11

日本の最初の計算機は,1923年(大正12 年)に売り出されたタイガー計算器と長く考えられていた.森鷗外の「小倉日記」の記録により,1902年(明治35年)に矢頭良一が発明し製作した自働算盤が1960年代後半に再発見され,これが日本最古の計算機となった.自働算盤は歯車を用いた手動の機械式計算機で,独特のメカニズムにより加減乗除の計算を行う.数値の入力にそろばんの1の珠と5の珠による方法と同様の方法を採用し,乗除算の際のけた送りが自動的に行われること及び演算終了時に動作が自動的に終了するなど,当時の海外の計算機よりも優れた機能を実現している.
著者
鬼沢 直哉 松宮 一道 羽生 貴弘
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.28-39, 2017-07-01 (Released:2017-07-01)
参考文献数
70
被引用文献数
1

ストカスティック演算は,ソフトエラー耐性が高い演算方式として注目されているだけでなく,ある程度の誤りを許容可能なアプリケーション(画像処理,機械学習,ディープラーニング等)の増加に伴い,近年盛んに研究が行われている.本論文では,ストカスティック演算の基礎的な事項からハードウェア実現における利点・欠点について概説するとともに,ストカスティック演算の適用例として,脳の視覚情報処理を模倣した脳型LSIの実現例について幾つか紹介とともに,その省エネルギー性について議論する.
著者
古賀 久志
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.256-268, 2014-01-01 (Released:2014-01-01)
参考文献数
32

一般に,ハッシュ法と言えば指定されたクエリとキーが同一であるデータを高速探索するための技術であり,実用上,O(1) の時間計算量で動作する.しかし,近年,クエリと完全には一致しない類似したデータを探す類似検索向けのハッシュ法が開発され,画像やテキストに代表されるメディアデータに対するコンテンツベースパターン認識の分野で成功を収めている.本稿では,このようなハッシュを利用した類似検索技術を紹介する.更に,その応用として(1) 階層的クラスタリングの近似高速化,(2) 複数画像からのオブジェクト抽出の二つの事例を紹介する.
著者
村上 祐子
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.155-163, 2018-01-01 (Released:2018-01-01)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本稿では,人工知能の倫理に関して国内外のガイドライン検討状況をまとめた上で,背景となる倫理学の論点を概説する.
著者
池田 尚志 松本 忠博
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.282-292, 2011-04-01 (Released:2011-04-01)
参考文献数
35

点字は視覚障害者にとっての文字である.晴眼者が用いる墨字のテキストは点字に変換しなければ視覚障害者は読むことができない.一方,手話は聴覚障害者が使用する言語である.聴者の音声言語との間の対話には手話通訳が必要である.このような言語コミュニケーションのバリアを克服するために点訳ボランティアや手話通訳士などが携わっているが,対処できる量には限りがあり理想の状態からは程遠い.技術的な支援が期待されるゆえんである.本稿では,点字と手話を中心に言語バリアフリーへ向けて自然言語処理技術の側面から我々が行ってきた研究について解説する.
著者
伊丹 誠
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.2_35-2_43, 2007-10-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
17
被引用文献数
4 8

OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)は高速な伝送を実現する変調方式として広く注目されており,OFDM を用いた種々のシステムの実用化および開発が広く行われている.OFDM が用いられる大きな理由の一つは周波数利用効率が非常に優れているということであり,高速・広帯域伝送の実現が可能になる.しかし,システムを実現するためには,解決すべき種々の問題も存在しており,高速移動通信への要求が高まるにつれてその対策が更に重要になってくると考えられる.本稿ではOFDM の原理,システム実現のための問題点,応用分野について解説する.
著者
岩田 賢一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.175-198, 2013-01-01 (Released:2013-01-01)
参考文献数
39

情報理論は,与えられたシステムにおける符号化問題の理論的限界を数理的な情報量を用いて明確にすると共に,その理論限界を達成する符号化法を明確にすることを目的としている.近年,Arikanは,確率過程の分極操作に基づいたpolar符号と呼ばれる新しいクラスの符号を提案している.polar符号は,定常無記憶情報源及び対称通信路の理論的限界を低計算複雑度と低空間複雑度で達成できることを明らかにしている.polar符号は,多端子符号化問題を含め様々な符号化問題に対して,その理論的限界を低計算複雑度と低空間複雑度で達成する符号の構成法に関して一つの基本的な原理をもたらすことが期待される.本稿では,polar符号を情報源符号化と通信路符号化について紹介するとともに,polar符号のCプログラミングによる例を紹介する.
著者
五味 秀仁 大神 渉
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.115-125, 2018-10-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

本稿では,個人認証に関するグローバルな業界団体FIDO(Fast IDentityOnline,ファイドと読む)アライアンスが推進する技術仕様,及び,その標準化活動の動向を解説する.FIDOアライアンスは,パスワードなど記憶に頼る認証方法への依存を減らし,公開鍵暗号方式を用いたシンプルで堅ろうな認証方法の標準化を推進している.更に,プライバシー保護への適応やプラットホームをまたがる利用の促進を通じて,FIDOのエコシステムの拡大を目指している.
著者
有本 卓
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.4_37-4_47, 2009-04-01 (Released:2011-05-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2

人が類人猿と峻別でき,文明を開くに至った要因の一つに手先の器用さ,巧みさがある.それは拇指と他の指との拇指対向性(ngers-thumb opposition)の発達に伴って獲得された.本論文では,任意形状の物体を拇指対向性に基づいて物体把持するときのダイナミクスを導出し,その特徴付けをリーマン幾何学に基づいて与える.指先と物体との間に転がり拘束を許すとき,オイラー・ラグランジュの方程式は弧長パラメータを含むが,形状の第一基本量のみに依存する.しかし弧長パラメータの更新は第二基本量を含む1 回の非線形微分方程式に従わねばならない.非ホロノミック拘束と思われた転がり拘束は,弧長パラメータを含めてフロベニウスの意味で可積分になり,ホロノミック拘束とみなされる.また,システム全体を表すリーマン多様体上に定義されたモース・リヤプノフ関数の性質に基づき,安定把持がディリクレ・ラグランジュの安定定理の拡張版によって証明できることを示す.
著者
山岡 雅直
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.164-171, 2018-01-01 (Released:2018-01-01)
参考文献数
12
被引用文献数
1

組合せ最適化問題を効率良く解くアーキテクチャとしてイジングモデルを用いたアニーリングマシンが提案されている.アニーリングマシンでは組合せ最適化問題を磁性体のスピンの挙動を表すイジングモデルに写像しその収束動作により問題を解く.アニーリングマシンを半導体回路を用いて実装したCMOSアニーリングマシンでは,確定的な動作と確率的な動作の組合せで効率的に解を求める.試作チップにより,組合せ最適化問題の近似解が効率的に求められることを確認するとともに,従来のノイマン形計算機を用いた場合に比べて電力効率が向上することを確認した.また,実用化する際に必要となる技術レイヤについても紹介する.
著者
藤井 竜也 藤井 哲郎 小野 定康 白川 千洋 白井 大介
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.80-89, 2011-07-01 (Released:2011-07-01)
参考文献数
31
被引用文献数
1

筆者らは,高品質な画質を要求される分野での映像コンテンツの流通を目的として超高精細画像システムの研究開発と,その動画像アプリケーションとして4K ディジタルシネマの開発を進めてきた.本稿では, その4K ディジタルシネマのれい明期から検討を行ってきた劇場向けライブストリーミングの実現技術と, そのディジタルシネマ用プロジェクタとシネマ配信用の高速光ファイバネットワークによってコスト的にもそのビジネス性可能性を高めた新たな映像配信アプリケーションである劇場向けライブ配信(ODS サービス)について説明する.
著者
廣瀬 英雄
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.266-274, 2017-04-01 (Released:2017-04-01)
参考文献数
37

災害が拡大するとき最終的にその規模がどの程度までになるかを早期に予測する問題について考察する.そのため,災害の起こる時期をステージとして想定し,各ステージに適切な予測法について考える.災害が拡大する中,いつ峠を越すのかという問題は最も興味のある問題の一つであるがそれは峠を越えたら分かるというような場合もある.そのようなことを避けるような様々な早期の最終段階予測を行う方法について述べる.災害の中でもここでは特に感染症流行の予測について取り上げ,感染拡大の最中に早期に効果的に予測する方法と予測結果について解説する.
著者
越田 俊介 陶山 健仁
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.24-36, 2015-07-01 (Released:2015-07-01)
参考文献数
60
被引用文献数
4 5

ディジタルフィルタは,言うまでもなく信号処理の基礎を成す重要な技術である.それゆえに,高い性能を有する「良い」ディジタルフィルタを得るための手法は古くから数多く提案されており,現在もなお幅広い視点から研究が進められている.しかしながらその研究成果は,今日のアプリケーションにおいて必ずしも十分に普及してはいないようにも思われる.その理由として,ディジタルフィルタの研究テーマの多様化・複雑化に伴い,「『良い』ディジタルフィルタとは何か」及び「『良い』ディジタルフィルタを得るために何が必要なのか」についての理解が曖昧になっている可能性が考えられる.そこで本稿では,まずこの問題について,設計・実現・実装それぞれの観点から明確に述べる.そして,「良い」ディジタルフィルタを得るための最新の研究動向として,2014 年ソサイエティ大会にて実施されたシンポジウムでの発表内容を中心に紹介する.更に今後の課題として,「良い」ディジタルフィルタを広く普及させるために考えるべきことについて議論する.
著者
鎌倉 友男 酒井 新一
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.3_37-3_43, 2008-01-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

例えば,交通バリアフリー関連での音による注意喚起や的確な歩行誘導に,また展示会場における各ブースごとの個別案内に適用でき,その周囲の静音化が達成できる超指向性パラメトリックスピーカの開発に取り組んだ.このスピーカは超音波の非線形現象を積極的に応用するところにアイデアがあるが,これを実現するには,物理をはじめとして,音場解析を目的とした数学,ひずみの少ない可聴音を得るための最適な超音波変調方式や電子回路技術など,多方面からの検討が必要である.音環境の改善や整備を目的としたパラメトリックスピーカの開発過程の一端を紹介したい.