著者
志賀 淑之 杉本 真樹 安部 光洋 錦見 礼央 米岡 祐輔 井上 泰 吉松 正 日下部 将史 亀山 周二
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.138-144, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
15

【目的】複合現実 (MR), 拡張現実 (AR), 仮想現実 (VR) 技術は, 医療画像解析における不可欠な技術として空間認識を改善させる有用なツールである. この技術を応用して術前患者画像を3Dホログラム化して, 泌尿器科手術におけるナビゲーション手術と手術教育の可能性を検討した. 【対象と方法】ロボット腎部分切除術を対象とした. HMD方式のHoloLens (Microsoft社) を使用した. 【結果】これまでの手術に比べて, VRならびにMRは腎部分切除術における腫瘍切除時間の短縮と出血量の低減に寄与した. 術者は腫瘍や血管周囲を含めた臓器解剖の距離感を直感的に体感でき, 周辺臓器の空間認識が改善された. HoloLensは術者目線の録画もできるため, 手術教育にも役立った. 【結論】VRならびにMRは手術ナビゲーションだけでなく, シミュレーションや教育にも有用なツールである.
著者
小路 直 大瀧 達也 宮嶋 哲
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.34-39, 2020 (Released:2020-07-01)
参考文献数
16

前立腺肥大症 (Benign Prostatic Hyperplasia, 以下BPH) に対するツリウムレーザー手術は, 2015年にわが国に導入され, 2017年には男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドラインでは, 治療の効果と安全性においてエビデンスレベル2, 治療は推奨グレードBとして示されている. ツリウムレーザーは, 出血の少ない切開, 出力エネルギーに応じた蒸散が可能であるため, 経尿道的前立腺核出術, および蒸散術のモダリティーとして世界的に使用されている. ツリウムレーザーの波長は 1,940-2,013 nmであり, 水分子に吸収されやすく, 前立腺組織への深達長は, 0.2 mmと浅い. また, 連続波モードでの照射が可能であるため, 連続照射による高い蒸散, 凝固能力と切開能を併せ持つレーザーとして, BPHに対する治療として普及している. ツリウムレーザーを用いたBPHの治療として, 高い凝固能と切開能を活かしたツリウムレーザー前立腺核出術 (Thulium laser enucleation of the prostate, 以下ThuLEP), 安定したレーザー深達長による安全性の高い蒸散能を活かしたツリウムレーザー前立腺蒸散術 (Thulium laser vaporization of the prostate, 以下ThuVAP) が行われている. 特にThuLEPは, 無作為化比較試験において他術式と比較して出血量が少なく, 短いカテーテル留置期間が得られる治療であることが示されている. また, ツリウムレーザーは出血のリスクの高い他科領域での手術における有用性も報告されていることから, 複数診療科でのニーズがあるレーザーとして今後の普及が期待される.
著者
林 建二郎 宍戸 俊英 菅田 明子 中村 雄 板谷 直 原 秀彦 多武保 光宏 桶川 隆嗣 東原 英二 奴田原 紀久
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.137-141, 2015 (Released:2015-05-27)
参考文献数
10

【目的】高齢者におけるホルミウムレーザー前立腺核出術(holmium laser enucleation of the prostate:HoLEP)の治療成績を若年者の成績と比較検討した. 【対象と方法】2005年12月から2010年5月の期間にHoLEPを施行した患者168例を後期高齢者とされる75歳以上51例の群と74歳以下117例の群にわけ,自覚症状の変化や尿流動態および合併症を比較検討した. 【結果】両群でともに有意な自覚症状の改善,尿流動態の改善が認められた(p<0.001).合併症は74歳以下の群で一過性尿閉5例(4.3%),精巣上体炎5例(4.3%),後出血4例(3.4%)を認め75歳以上の群より多かった.両群間で術後のヘモグロビン減少や輸血率,尿失禁の合併に有意差はなかった. 【結語】HoLEPは高齢者の前立腺肥大症に対し,比較的侵襲の少ない有用な術式と考えられた.
著者
高田 剛 湊 のり子 山口 唯一郎 古賀 実 菅尾 英木
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.356-361, 2012 (Released:2014-02-07)
参考文献数
21

尿管癌に対する外科的治療は一般的に腎尿管全摘が標準術式とされる.その中でlow stage・low gradeの尿管癌に限り内視鏡的切除が推奨され,EAUガイドライン2012 ver.1における推奨グレードはBである.今回われわれは硬性鏡を用いた経尿道的尿管腫瘍切除および尿管ステント留置術後ピラルビシン膀胱内注入併用療法を実施した低異型度非浸潤性尿管癌3例について報告する.ピラルビシン40 mg/回を週1回で6-8回注入した.3例のうち1例がelective caseであり2例がimperative caseであった.経尿道的尿管腫瘍切除における病理結果はいずれもNon-invasive papillary urothelial carcinoma, low grade(G1>G2),pTa-1であった.結果1例(症例3)において治療後23ヶ月目に膀胱再発を認めたが,全例治療後それぞれ43,32,28ヶ月を経過した現在患側尿管再発なく生存している.本治療法は比較的侵襲が低く,癌再発を予防し,さらには腎機能障害を有する患者に対する血液透析導入を回避可能とする治療法かもしれない.
著者
絹笠 祐介
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.11-15, 2012 (Released:2014-02-07)
参考文献数
9

直腸癌の手術において根治性と機能温存の両立をはかるためには,温存すべき自律神経と直腸周囲の膜構造の理解が必要不可欠である.手術で損傷しやすい神経は下腹神経および骨盤内臓神経,骨盤神経叢とその臓側枝である.神経温存のメルクマールとなる筋膜は下腹神経前筋膜およびDenonvilliers筋膜である.筆者らはこれらの筋膜を温存する術式を取り入れている.また,近年の肛門温存術式の進歩により,より詳細な肛門周囲,特に肛門直腸移行部の解剖の理解も,これらを扱う外科医にとって必要不可欠となった.
著者
遠藤 文康 大脇 和浩 新保 正貴 松下 一仁 大山 雄大 新村 智己 京野 陽子 阿南 剛 小松 健司 服部 一紀
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.212-215, 2017

<p> モーセレーションで吸引困難な硬結 (beach balls, BB) の出現予測因子を検討. 対象 : 聖路加病院で2014/1-2016/6実施されたHoLEP症例でバーサカットによりモーセレーションされた248例. 方法 : 目的変数をBBの有無, 説明変数を年齢, BMI, PSA, 尿閉既往, 膿尿, Dutasteride内服, 前立腺推定容積, MRIでのnoduleの有無, 中葉の存在として統計学的検討を施行. 期間中に3種類のモーセレータチューブを使用しており, その影響も検討. 結果 : BB発生は20.6% (51/248). BB出現時モーセレーションは27分延長. 単変量解析ではPSA中央値 (BB無vs有=4.69 vs 6.84 p=0.016), 前立腺容積 (53.1 vs 81.9, p<.0001) が有意だったが, 多変量解析では容積のみ有意であった (OR 1.031, p<.0001). チューブは1世代に対し, 2世代でBBの出現が増加 (OR3.69, p=0.005). 前立腺容積のROC解析ではAUC0.743, カットオフ値は61ml (感度61.2%, 特異度78.45%) と算出された.</p>
著者
中島 和江
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.54-60, 2017 (Released:2017-06-02)
参考文献数
13

外科手術・治療の進歩は目覚ましく,患者への侵襲度の低減,生命予後やQOLの向上等に寄与している一方で,治療手技の高難度化,高齢で併存疾患を有する患者の増加等は,医療安全上の脅威となっている.これまでの医療安全は,有害事象を減らすことを目的として,「失敗事例」を学習の対象とし,特定された原因に対して個別の安全対策を講じてきた.近年,新しい医療安全へのアプローチとして注目されているレジリエンス・エンジニアリングは,複雑適応系である医療システムが,変動し続ける環境において,限られたリソースのもとで柔軟に対応できているメカニズムを解明し,またそのレジリエンス特性(柔軟性や適応力)を利用し,「うまくいくこと」を増やそうとするものである. 本理論では,失敗事例ではなく,普段の仕事がどのように行われているのかについて理解することを中心的課題として扱う.また業務プロセスについては,タスクを時間軸でシーケンシャルに説明するのではなく,ノンリニアな視点でさまざまな機能が相互作用を通じて変動していると捉える.さらに,システムを広く見て,システムを構成する人々の行動(ミクロの視点)とシステム全体(チームや組織等)の挙動(マクロの視点)を分析する.手術チームや病院組織がどのようにパフォーマンスしているのか,レジリエントなシステムはどのような能力を発揮しているのか等を明らかにすることができれば,動的で複雑なシステムを安定的かつ柔軟に制御することが可能になると期待される.
著者
青木 雅信 平野 恭弘 阿曾 佳郎
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.152-157, 2011 (Released:2014-02-07)
参考文献数
10

ESWL施行後に発生した腎被膜下血腫および腎周囲血腫症例について臨床的に検討した.  対象は2005年1月から2009年5月までに当院でESWLを施行した腎結石123例で,腎被膜下または腎周囲血腫を合併した28例と合併しなかった95例について臨床的に比較し,血腫形成についての危険因子を検討した.腎周囲血腫を4例認め,そのうち3例に高血圧の既往があり降圧剤を内服していた.血腫形成群は血腫非形成群と比較してbody mass index(BMI)25kg/m2以上の割合が有意に高かった.また,全ESWL180回における検討では血腫形成群においてESWL施行中の血圧が有意に上昇していた.さらにBMI 25kg/m2以上であること,ESWL施行中に収縮期血圧が30mmHg以上上昇することが血腫形成の危険因子であった.  ESWLを施行する際には,既往歴,内服薬,肥満度を念頭において,施行中の血圧変化に十分な注意を払うべきであると考えられた.
著者
波多野 孝史
出版者
日本泌尿器内視鏡学会
雑誌
Japanese Journal of Endourology (ISSN:21861889)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.309-315, 2014 (Released:2014-11-07)
参考文献数
26

腫瘍径4cm以下の小径腎癌に対する治療としては,腎部分切除術が推奨されている.しかし多種多様な合併症等により手術が困難な症例も少なからず存在する.このような症例に対しより低侵襲の治療法として,凍結治療やラジオ波焼灼治療などのenergy ablative therapyが行われている. 【凍結治療と腎部分切除術の比較】現在小径腎癌に対する凍結治療は,その有効性,安全性が確認されているものの,腎部分切除術との前向きな比較試験のデータはなく,長期予後や合併症に対する詳細な検討はできていない.後方視的検討では,制癌性に関して凍結群は部切群に比較して局所再発の相対危険度は5.24と有意に高値であった.また遠隔転移の相対危険度は1.86であった. 一方凍結治療術後3~5年の癌特異的生存率は98~100%であり,凍結治療の制癌性はきわめて高いことが確認されている.凍結治療は腎部分切除術と比較し,低侵襲の手術で合併症の頻度も低い傾向であった.単腎症例における検討において,凍結治療は腎部分切除術より腎機能に及ぼす影響は軽微であった.これらより高齢者や単腎,合併症を有する小径腎癌症例において,凍結治療はその適応が拡大される可能性が十分にあると考える. 【今後の展望】脳神経外科や整形外科領域においては,既にインターベンションにおける穿刺ナビゲーションシステムが導入され,モニター画像の撮像時間の短縮や穿刺針の正確な刺入において有用性が報告されている.現在国内において画像ガイド下経皮的凍結治療は腎癌のみならず肺癌,乳癌,肝癌,骨腫瘍等に対して施行されている.今後ナビゲーションシステムが広く普及することにより,画像ガイド下経皮的凍結治療がより一層安全で低侵襲な治療法として幅広い領域で応用されるものと考える.