著者
松浦 祐介 岡 ハル子 山縣 数弘 菊池 譲治 井上 功 大久保 信之 土岐 尚之 川越 俊典 蜂須賀 徹 柏村 正道
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.205-215, 2014-09-01 (Released:2014-09-12)
参考文献数
32

子宮頸癌は日本においてもっとも頻度の高い婦人科悪性腫瘍である.細胞診による子宮頸がん検診はその有効性を証明する十分な証拠があるにもかかわらず,日本の子宮頸がん検診受診率は約20%であり,他の先進諸国と比較して格段に低い.2001年度の北九州市の子宮頸がん検診受診者数は15,501人(受診率は6.8%)と全国平均の半分以下であった.厚生労働省は女性特有のがん検診事業の一環として2009年度から20,25,30,35,40歳の女性に対して「がん検診無料クーポン」を配布した.すると2012年度には北九州市の検診受診者数は31,970人(受診率は22.3%)と倍増し,ほぼ全国レベルまで到達してきた.子宮頸癌の発生にはハイリスク型のヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることが明らかであり,HPVはおもに性行為によって感染する.近年,若年者を中心に子宮頸部初期病変・子宮頸癌が増加しており,2008年には異常細胞診症例(要精検者)を2.3%に認めた.子宮頸がん検診受診率向上のためには,費用対効果を考慮した効果的な検診システムの確立も重要である.子宮頸癌による死亡率を減らすためには国・地方自治体・医療機関・企業・教育の現場などが現状を正確に把握し,積極的に子宮頸がん検診受診率向上の課題に対して取り組むことが必要である.
著者
中野 信子
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.93-108, 1984-03-01 (Released:2017-04-11)

ロバート・グレイブスは, 英国やアメリカでは著名な神話学者であり詩人である. しかし, わが国に於ては, その厖大な, しかも多岐にわたる作品の量にもかかわらず, なぜかあまり知られていない. さらに, アメリカや英国に於てさえ, ある人々は, 彼を白い女神にとり憑かれた多芸なる偶像崇拝者として, 敬遠しているきらいさえある. 実際, キリストの生涯を描いたフィクション「キング・ジーザス」が世に出た時, その白い女神信仰を基盤としてひき出された, 彼の並はずれた神話的キリスト学は, 当時の人々に強い衝撃を与えたであろうことは, 想像するに難くない. キリストの中に, 彼はユダヤ教のアポロ的教義とは対称的な, 女性原理の断片を発見したが, しかし, 彼の目には, それは甚だ不完全で, 人生の根本的な要素, つまり, 愛と憎しみの理念を欠いているように見えたのである. これは, グレイブスが, 彼の博学を駆使して, いかに自分のキリスト理解をおしすすめているか, その背景と発展の過程を追求した一考察である.
著者
池見 酉次郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.425-429, 1987-12-01 (Released:2017-04-11)

東洋医学では, 昔から, 病気の原因は, そのエコロジカルな側面を含めて, 人の心身をコントロールする自然良能としての生命力「気」の障害であるとされている. 一方, 「気」という言葉は, 内外で俗語的な日常語としてよく用いられている. また, テレパシー, サイコキネシス, 気功師が発する「気」による病気の治療といった超心理的な現象も, 「気」によって起こるとされている. 昨年11月にワシントンで催された第15回科学の統一に関する国際会議の「気の分科会」で, 私は『従来の俗語的な「気」の表現, 科学的な裏づけに乏しい不可思議な現象については, 今後の課題として残しておくこと, 各人に宿る生命力としての「気」を賦活し, それと自然の生命力との交流を促すことによって, 万人の健康な自己実現を助けるような理論と方法の研究に, 焦点を絞るべきこと』を提案し, 大方の賛同を得た.
著者
園本 格士朗 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-146, 2014-06-01 (Released:2014-06-14)
参考文献数
33
被引用文献数
2 6

関節リウマチ(RA)は関節炎と関節の構造的障害を特徴とする疾患で,進行すると身体機能障害を引き起こし,就労率の低下や介護といった社会資源の損失をもたらす.元来RAは進行性の疾患と考えられていたが,近年の治療の進歩により関節破壊の完全な進展抑制が現実的となった.しかし,罹病期間が長く新治療の恩恵を受けられなかった,または新治療によっても疾患活動性が制御できないなどの理由で進行した関節破壊を呈する患者は稀でなく,破壊関節を再生しうる治療法の開発が待たれている.我々は,骨・軟骨に分化可能で抗炎症作用を持つ間葉系幹細胞(MSC)による治療をRAの新規治療法として位置づけ,これまでにMSCが破骨細胞分化抑制作用を持つこと,炎症がMSCの骨芽細胞分化を促進し,軟骨細胞分化を抑制することを報告した.さらに現在,足場によるMSC移植システムを構築中であり,RA患者への臨床応用は着実に近づきつつあると考えられる.
著者
広重 欣也 國藤 恭正 高杉 昌幸 黒岩 昭夫
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.211-218, 1992-09-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1 1

HPLC-UV法でプリン, ピリミジン代謝産物, アロプリノールとオキシプリノールの血中, 尿中濃度測定法について検討した. 溶媒には1%メタノール含有リン酸緩衝液(10mmol/ℓ, pH5.0), μBondapakC18カラムを用い, 13物質の同時分離が可能と考えられた. 再現性は連続測定にて1.56μmol/ℓ, allopurinol; 変動係数(CV)2.76%から50.0μmol/ℓ, pseudouridine; 変動係数(CV)0.38%と良好であった. 除蛋白法として限外濾過法を用いた血漿濃度測定では, 回収率はuric acid: 101.7-107.5%, hypoxanthine: 90.4-102.8%, xanthine: 95.9-99.5%, oxipurinol: 104.4-107.1%, allopurinol: 97.4-103.4%と良好であった. 各物質の同定は, retention time, 吸光度比, 純物質添加法と酵素反応法にて行った. また同条件下で, pseudouridine, uridine, adenine, inosineも血漿において測定が可能と考えられた.
著者
岡井(東) 紀代香 石河 暁子 安友 小百合 岡井 康二
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.311-324, 2009-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
4 10

中国や日本では古来より乾燥した温州みかんの皮を「陳皮」と称して循環器系疾患や呼吸器系疾患の予防や改善の目的で漢方薬・生薬・薬膳料理などに利用してきた. 本研究ではこれらの陳皮の薬理効果の作用メカニズムのひとつとして抗酸化・ラジカル消去活性に注目して分析した結果, 陳皮の冷水・熱水抽出液にきわめて強い抗酸化・ラジカル消去活性が認められた. そこで水抽出液をエタノール可溶性画分と沈澱画分に分けたところ, 主要な活性はエタノール可溶性画分に認められた. そこでその活性本体に対応する水溶性・低分子性物質としてアスコルビン酸とクエン酸を仮定してそれらの陳皮水抽出液中の濃度を測定し, その濃度に対応する両者の抗酸化・ラジカル消去活性を分析したところアスコルビン酸は強い1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)ラジカル消去活性を示したが, リノール酸の過酸化脂質の生成に対する作用は弱かった. ところが, クエン酸は逆にDPPHラジカル消去活性は弱かったが, リノール酸の過酸化脂質の生成に対して強い抑制作用を示した. さらにクエン酸は微量金属とアスコルビン酸によるリノール酸の過酸化脂質の生成の促進を消去・抑制することを見出した. 以上の実験結果により陳皮の水抽出液の示す強い抗酸化・ラジカル消去活性はアスコルビン酸とクエン酸がお互いにそれぞれの作用を補完するとともに一方の物質の酸化促進作用を他の物質が消去・抑制するためであることが示唆された.
著者
阿部 和彦
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.3, pp.369-375, 1979-09-01 (Released:2017-04-11)

ベンザミド系のsulpirideは, 他の向精神薬物に比べて広い治療スペクトルを有し, 抗幻覚・抗妄想作用の他, 抗うつ作用を持っている。したがって, 急性分裂病の他, 或種のうつ状態にも効果が期待出来るが, 効果の確率が最も高いのは分裂病とうつ病の中間位に位置すると考えられる非定型の精神病である。また神経性不食症や, 思春期や前思春期のうつ状態で, 関係念慮が著明な場合もしばしば効果が認められる。この薬物の長所としては, 短期間の使用の場合, 重篤な副作用がまれであること, 効果の発現が早いことと上述の広い治療スペクトルである。
著者
吉木 竜太郎 中村 元信 戸倉 新樹
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.77-83, 2012-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
5

皮膚は外界と体内を隔離する巨大な臓器である. 外部からの様々な異物の侵入を防ぐバリアーそのものであり, さらには効果的に異物を排除する免疫システムも兼ね備えている. 外部からの刺激の中でも「光」, 特に「紫外線」に焦点を当ててみると, 皮膚におけるメラニン合成が高まり, 過度の紫外線曝露から回避するシステムなどが一般的に知られているが, 皮膚における免疫の抑制が生じることも皮膚科領域では広く認知されており, この現象を利用して様々な皮膚疾患の治療が行われている. この紫外線による皮膚の免疫抑制には調節性 T 細胞の誘導が重要で, その詳細な機序を我々のグループなどが解明した. この紫外線による皮膚における免疫抑制は, 外部から曝露される様々な物質に対する過度の反応を抑えることで, 皮膚の炎症による自己崩壊を阻止していると考える.
著者
塚本 貞次 岡元 孝二 稲永 順二 唐崎 裕治
出版者
産業医科大学、産業医科大学学会
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.147-157, 2008-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
7

我々はニンニク鱗茎より糖質を精製した. この化合物は10個のフルクトースとβ1-2で1個のグルコースに結合する分子量1800のオリゴ糖であり, 植物イヌリンと類似した構造を持つものであった. このオリゴ糖はヒトのリンパ球性ガン細胞U937および大腸ガン細胞WiDrの増殖を抑制した. さらにマウスに経口的投与をした場合において, マウスに移植したColon26ガン細胞の増殖を抑制することがわかった. またヒト末梢血リンパ球に対してインターフェロンγ の産生を増大させることから, ニンニクオリゴ糖はガン細胞に直接結合してガン細胞の増殖を阻害する働きがあると同時に, in vivoの系において免疫的活性を増大させてガン細胞の増殖を抑制する可能性があることが示唆された.
著者
吉川 博道 田村 廣人 市来 弥生 長 普子 嵐谷 奎一
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.295-305, 2003-09-01 (Released:2017-04-11)

ヌクレオシドを構成する糖が, アキラルで安定な非環状糖からリボースやデオキシリボースヘ進化したとするJoyceなどの仮説をもとに, ペンタエリトリトールを糖残基として持つ新規な擬似ヌクレオチドのデザインと合成を行い, その生物活性を検討した. 合成した化合物は真核生物に対して毒性を示さなかったが, 原核生物であるスピルリナに対しては, アデニン, ベンズイミダゾールあるいは6-クロロプリンをヌクレオチドの塩基としてもつ化合物が100ppmで増殖阻害活性を示した. Vero細胞を用いたプラーク形成試験において, Herpes simplex virus (HSV) には塩基として6-クロロプリンを持つ化合物が, Parainfluenza virus (PIFV) には, 6-クロロプリン, 2-メチルメルカプトベンズイミダゾールあるいはグアニンを持つ化合物がプラーク形成阻害活性を示した.
著者
Ejeatuluchukwu OBI Orish Ebere ORISAKWE Charles OKAFOR Anthony IGWEBE Joy EBENEBE Onyenmechi Johnson AFONNE Francis IFEDIATA Basu NILS Jerome NRIAGU
出版者
産業医科大学学会
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.159-170, 2014
被引用文献数
15

この研究は,ナイジェリアにおいて,母体および臍帯血の血中鉛濃度(BLL)を測定し,他の地域と比較することを目的とする.我々は,母親の血液および臍帯血のBLLと,新生児の人類学的計測値との関連性の調査を行った.ナイジェリア南東部ンネウィの別の3病院で出産した119人の女性から採取した,臍帯血および母親の血液サンプルを用いてBLLを測定した(誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)を使用).新生児の人類学的計測(頭囲・腹囲・出生体重・出生身長・頭臀長)を行った.母親の血液サンプルの10.9%,臍帯血サンプルの3.4%から,10 μg/<i>l</i>より多い鉛が検出された.母体のBLLは6.19±2.77 μg/d<i>l</i> (平均±標準偏差),臍帯血BLLは4.75±2.59 μg/d<i>l</i> (平均±標準偏差)であった.臍帯血BLLと頭臀長の明確な関連性(R = 0.204,<i>P</i> = 0.026)を除けば,子どもたちの人類学的計測値と,母親の血液および臍帯血BLLには有意な関連性は見られなかった.