著者
松岡 朱理 立石 清一郎 五十嵐 侑 井手 宏 宮本 俊明 原 達彦 小橋 正樹 井上 愛 川島 恵美 岡田 岳大 森 晃爾
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.263-271, 2015-12-01 (Released:2015-12-13)
参考文献数
5
被引用文献数
1 2

自然災害や工場事故などの危機事象が発生した企業においては,労働者はさまざまな対応を余儀なくされ,直接的に傷病を負う労働者だけでなく,緊急対応や復旧作業に従事する労働者も多様な健康障害リスクに曝される.そのような健康障害リスクに対して,産業保健専門職の予防的介入に役立つ危機対応マニュアルの開発を行った.危機対応マニュアルの開発は,先行研究において8つの危機事象を分析して作成した危機事象における産業保健ニーズリストを用い,危機事象後の時間軸(フェーズ)ごとに発生しうるニーズについて,具体的な解説を施すことを基本とした上で,各ニーズの発生の可能性を表現するため,8事象での発生頻度で記述方法を変えるなどの工夫を施した.作成過程においては,危機対応マニュアルβ版を実際の危機事象で利用に供するとともに,危機管理分野の専門家の意見聴取を行って妥当性の検討を行い,危機対応マニュアルβ版に一部改善を施した上で完成版とした.完成した危機対応マニュアルには,全フェーズ合計で99のニーズに対して解説が加えられており,網羅性は高く,多くの危機事象において利用可能と考えられる.新たな危機事象において,異なるニーズが発生する可能性があるため,汎用性を高めるために今後も継続的に情報を収集して,改善を施していく必要があると考えられる.また,危機事象が発生した際に危機対応マニュアルを入手できるように,ウェブ上でダウンロード可能とするとともに,危機対応マニュアルの存在を広く周知していくことが今後の課題である.
著者
松浦 志保 冨岡 慎一 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.367-376, 2021-09-01 (Released:2021-09-06)
参考文献数
25

近年,医師の地域偏在対策として様々な取り組みがなされているが,その中で地域の教育水準が医師の地理的分布に与える影響に着目したものはない.本研究では,地域の教育水準と医師の地域偏在との関連を検証するために,政府等の公開データを用いて分析を行った.分析方法として多重線形回帰を用い,二次医療圏毎の人口10万人あたり医師数を被説明変数,偏差値60以上高等学校(以下 高校と省略)数,人口10万人あたり診療所数,人口10万人あたり病床数,高齢化率,外来受療率,人口密度,医学部の有無を説明変数とした.その結果,各二次医療圏において偏差値60以上の高校が1校でもあれば人口10万人あたりの医師数を有意に増加させ,さらに2校以上になると医師数はより増加することがわかった(P<0.05).加えて,私立高校を除き国公立高校のみを用いて分析した場合も,また二次医療圏における偏差値60以上の高校数ではなく,偏差値65以上の高校数を用いた場合も同様の結果が得られており,地域における入試偏差値の高い高校の存在が医師の分布に及ぼす影響は十分に確かであると考えられる.このことから,医師の地域偏在対策として,地域の教育環境を充実させることも検討すべきである.
著者
森 博子 岡田 洋右 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.323-329, 2012-12-01 (Released:2013-02-28)
参考文献数
25

ビタミンD欠乏症は骨粗鬆症,骨折の原因のみならず,近年では2型糖尿病や心血管疾患,高血圧,癌,感染,自己免疫疾患などの発症リスクを上昇させると報告されている.日光曝露不足や食事からのビタミンD摂取不足が,ビタミンD欠乏症に繋がっており,特に女性においてビタミンD欠乏症は,よくみられる病態と考えられる.女性が長く健康で働きつづけるためには,様々な疾患との関連が報告されているそれらの病態の上流に位置するビタミンDは極めて重要な因子である.
著者
堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.481-505, 2004-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
5 5

日本の産業保健制度では, 事業者に法定健康診断結果の保存義務を課し, 労働者の健康状態を把握した上で職場や作業を改善するよう求めていることから, 実際には人事担当者が労働者の健康情報を直接取り扱っている. 一方, プライバシーは19世紀後半からその概念が発展し, 近年は個人情報の自己コントロールが重要とされ, 中でも健康情報は特に機微な情報として本人の承諾なしに取扱うべきではないとされている. したがって, 日本の産業保健活動においてはプライバシーが侵害されるリスクは高い. 健康増進法と個人情報保護法も相次いで公布され, 訴訟に発展した事例もある. しかし, 職場の実態調査によれば, 現行制度への問題意識は高くなく, 健康情報の種類によってプライバシー保護の要求度に相違もある. 産業保健専門職は, 学会の倫理指針などを参考に労働者の健康情報の活用と保護の両立に努めることが求められている.
著者
上野 晋
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.Special_Issue, pp.91-96, 2013-10-01 (Released:2013-10-10)
参考文献数
17

わが国でもかつては金属や有機溶剤による産業中毒の事例が多発していた時代があり,このことが機縁の一つとなって1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が制定された.現在,化学物質はその危険有害性の程度に応じていくつかの規則によって管理されているが,その対象物質は産業現場で使用される化学物質の一部に過ぎず,毒性が明らかでないまま使用されている化学物質も少なくないのが現状である.労働安全衛生法が改正され,全業種の事業者に化学物質に係るリスクアセスメントが求められるようになっている中で,産業医は毒性が明らかでない化学物質を含めてこれからどのように対応していくべきであろうか.本稿では化学物質の中でも金属と有機溶剤の毒性学に焦点を当てて考察する.
著者
池田 正春 南里 宏樹 姫野 悦郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.227-236, 1993-09-01 (Released:2017-04-11)

成人病予防に必要なことは今や早期発見, 早期治療(二次予防)でなく, さらに一歩進めて発病の原因を絶つことや体力づくりをすることにより発病を予防する(一次予防)ことにある. 厚生省, 労働省より健康増進政策が相次いで出され, 栄養, 運動, 休養のバランスのとれた健康的なライフスタイルの確立を目指しているが, この中でも運動を重視し, 健康づくりの大きな柱として位置づけている. この背景には運動不足, 相対的なエネルギー摂取過剰, 労働時間の短縮による余暇活用の問題また一般の人々の健康への関心の高まりなどがあげられ, 一方運動生理学の発展も大きく寄与している. しかし我が国では運動と健康や成人病の予防効果に関する科学的な報告などは乏しい状況にあり, 今後はこれらに関する研究を推進していく必要性がある. 本論では運動の健康に及ぼす効果を運動生理化学の面より述べ, 次いで高血圧の運動療法, 運動の降圧のメカニズムに言及し, 運動の生理的効果や成人病予防に対する効果について考察する.
著者
川波 祥子 井上 仁郎 高橋 公子 堀江 正知
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.237-245, 2011-09-01 (Released:2017-04-11)

電話交換手がヘッドホンから曝露される音圧を, 人工耳および音響測定用マネキンを用いた2段階の方法で測定した. スクリーニングとして実施した人工耳による測定では, 非通話時間を含む8時間の等価音圧レベル(Leq)が81.5dB, 通話時間のみのLeqが89.3dBと高かった. そこで, より作業者のヘッドホン着用に近い状態で測定でき, 鼓膜付近での測定値を外耳道入口での音圧に換算可能なマネキンによる測定(ISO11904-2)を行ったところ, A特性による日本産業衛生学会の等価騒音レベル(LAeq)の許容基準と比較すると得られた修正LAeqは非通話時間を含む8時間で68.3dB, 通話時間だけでは76.6dBであり許容基準を下回った. 今回のような静かな作業場(51.3dBA)での通信業務では, 80dB未満の音声でも良好な信号雑音(S/N)比が得られ, 聴力への影響は小さいことが確かめられた. また, 通話相手の性別, 電話機の種類による曝露音圧の有意差はなかった.
著者
北條 暉幸
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.159-162, 1980-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

解剖学用語(PNA)では, 弓状線は腹直筋鞘後葉と腸骨にあるが, 本研究は腹直筋鞘後葉にある弓状線の位置とその形状について, 行われたものである. 研究対象は男性23体, 女性3体, 合計26体である. 弓状線の位置と形状には, かなりの変異が認められた. すなわち, その最も高い位置は臍から下方へ1.7cmで, 後葉が恥骨結合に直接結合する場合が1例観察された. 最も多く出現するのは, 臍から下方へ7cmから12cmまでの距離の間にあり, 88%に出現する. また, 上下2本の弓状線を左右両側にもった重複弓状線が2例認められた.
著者
村松 圭司 久保 達彦 藤野 善久 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.305-311, 2013-12-01 (Released:2013-12-14)
参考文献数
11

英国の雇用関連給付には,我が国の傷病給付金や雇用保険に対応するものとしてStatutory Sick Pay, Jobseekerʼs Allowance, Employment and Support Allowanceがある.英国では「福祉から労働へ」(Welfare to Work)のスローガンのもと,つねに労働のインセンティブが働くよう福祉制度改革が行われており,貧困と福祉への依存を解消するために,非拠出制給付を一本化したUniversal Creditという新たな給付方式が2013年から開始となった.また,これまでのフレキシブル・ニューディール政策は廃止され,「福祉から労働へ」施策はすべて「ワークプログラム」にまとめられ,就労を継続することにインセンティブが働くよう労働施策も改革が行われている.
著者
宋 裕姫 西野 精治
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.329-352, 2008-09-01 (Released:2017-04-11)

睡眠障害や睡眠不足は, 肥満, 糖尿病, 高血圧などの生活習慣病, 労働者のヒューマンエラー, 交通事故, 産業事故などを引き起こし, 社会全体の経済損失は甚大なものになる. これらの問題を解決するために, 米国政府は1993年に睡眠に関連した事故による経済損失総額は年間5兆円あまりとした睡眠障害調査国家諮問委員会による報告書を発表した. その後, 様々な国家的対策により睡眠センターの数や睡眠研究に対する研究費が増加するなどにより睡眠医学が発展した. 日本においても睡眠障害に対する国家的対策が必要であるとして, 日本学術会議が2002年に"睡眠学の創設と研究推進の提言"を報告した. このような状況の中で, 米国における国家諮問委員会報告書をもとにした国家的な取り組みは, 睡眠学を創設したばかりの日本にとって参考になる可能性がある. 今回, この取り組みを総説としてまとめ考察を加え報告する.

1 0 0 0 OA 占い師の特徴

著者
種田 博之
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.263-276, 2001-09-01 (Released:2017-04-11)

今日の日本社会において, 占いは日常生活のいたるところで見ることができるほど, ひとつの「社会的事実」となっている. このような状況ではあるが, 占いは社会学的にはいまだに未知の現象のままである. 占いに関しての分析を行っていく上で, 占い師は占いの技法を管理する職能者であるということから, 重要な要素の一つをなしている. したがって, 占いについての十分な考察を進めていく上で, なによりもまず占い師の特徴を明確にする必要がある. この論文の目的は, 占いに正当性を付与する「根拠」と占い師を占いへと方向づけた「契機」を明確にすることで, 占い師の特徴を示すことにある. 「根拠」としては, 「直感=インスピレーション」か, もしくは経験を通して形作られた「体系的知識」かのどちらかをとられる. 「契機」は, 「自発」か, もしくは「強制」かのどちらかがとられる. こうした類型を用いて今日の占い師を捉えるならば, 「知識」と「自発」の両方の特徴をもつ占い師が顕著であることがわかる. では, なぜ, この類型の占い師が、今日, 顕著なのであろうか. この問題を, 本稿では社会構造の関係で分析する.
著者
北條 暉幸 中島 民治
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.7, no.3, pp.265-268, 1985-09-01 (Released:2017-04-11)

北九州市とその郊外に住む23人の女子学生の足型の計測学的研究である. 彼等の両親は福岡県人である. 約20年前に計測された北部九州の非都会的環境(農村など)に在住した2つの異なった集団とこれらの女子学生の間に, 足長(足型の長さ)に関して有意の差は存在しなかったが, 女子学生の身長は最も高く, また足指数(足型の長さに対する足型の幅)は小さく足型は細長い形であった. これらの足型の特徴は, 都会的な生活と世代間の相違によるものと考えられる.
著者
平川 晴久 林田 嘉朗
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.117-129, 2002-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
3 2

低酸素によって引き起こされる自律神経系と循環系の反応、および暴露直後にみられる心拍の反跳現象について解析を行った. 血圧測定用カテーテル, 心電図そして腎交感神経活動記録用電極を慢性に植え込んだWistar ratを用い, hypocapnic (Hypo), isocapnic (Iso), hypercapnic (Hyper) hypoxiaの暴露を行った. Isoでは, 血圧及び心拍数は変化しなかったが, Hypoでは, 血圧は低下し心拍数は増加, Hyperでは, 血圧は上昇し心拍数は低下した. 腎交感神経活動はいずれにおいても増加した. IsoとHyperの終了直後, 心拍数は一過性に増加した. この心拍反応は, 腎交感神経活動の反応とは相関しなかった. このことより, この心拍の反跳現象は, 交感神経よりもむしろ副交感神経系のメカニズムによるものと考えられた. 低酸素時の循環反応は動物により異なると考えられているが, 類似した条件において行われた実験においては種差に関わらず, その結果は, ほぼ一致するものであった.
著者
田中 敏子 佐藤 寛晃 笠井 謙多郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.217-223, 2019-06-01 (Released:2019-07-09)
参考文献数
13
被引用文献数
1

被解剖者は高度肥満で猪首の20代女性である.ダウン症による精神発達遅滞,難聴,先天性白内障および緑内障による弱視などの障害を有していた.他院において緑内障の眼圧検査に際し,チオペンタール(TP) 350 mgを5分間で点滴静注した深鎮静が施された.静注後10分で検査は終了したが,医師がその場を離れた隙に呼吸が急速に悪化した.直ちに人工呼吸が施されたものの約20時間後に死亡し,医療過誤の疑いで司法解剖に付された.剖検上,特記すべき損傷や疾病を認めず,血清中のTP濃度は0.80 µg/mlであった.TPは超短時間作用型の静脈注射麻酔剤で,患者とコンタクトを取りつつ,少量を頻回に投与して最少量のTP投与にとどめるのが一般的である.この事例は,障害のためにコンタクトの取りづらさが予想されたものの,安易なTPの単回投与によって呼吸停止が生じ,医師不在のために蘇生が遅れたことが死因と判断された.
著者
土肥 良秋 工藤 秀明 西野 朋子 藤本 淳
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.409-417, 2003-12-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1

新生血管形成(広義の血管新生)機序は血管発生(vasculogenesis)と血管新生(angiogenesis, 狭義の血管新生)に大別される. 前者は未分化間葉細胞が既存血管周囲に索状に集積し, 血管内皮前駆細胞に分化しながら血管に編入する血管形成機序を指し, 後者は既存血管内皮細胞が増殖・遊走して血管発芽(vascular sprouts or endothelial buds)を示す血管形成機序を指す. 血管発生は胎生期の初期の新生血管形成に限られ, その後は血管新生のみが行われていると考える研究者が多かった. しかし, 近年, 成体の末梢血中に血管内皮前駆細胞が存在することから, 成体でも血管発生が行われることが証明され, 目下, 新生血管形成機序の見直しが行われている.
著者
藤野 昭宏 Tar Ching Aw 大久保利晃 加地 浩
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.37-44, 1998-03-01 (Released:2017-04-11)

英国における産業医学教育の現状を日本と比較しながら紹介した後, 英国と日本における卒後産業医学教育システムについて比較検討を行った. 産業医学専門医制度(英国王立内科医協会産業医学部門専門医制度と日本産業衛生学会専門医制度)における, 全研修期間, 臨床研修期間, 産業医学研修期間, 専門医試験方法および合格率に関して比較したところ, 前者の方がより多くの産業医の専門的訓練が要求される研修システムであり, また産業医学的臨床実施能力の訓練を重視していることが示唆された. また, 英国の産業医デイプロマ制度とこれに相当する日本の医師会認定産業医制度との比較では, 前者の資格取得のためには, 講習会の受講・基礎的実習のみならず, 試験に合格することが義務付けられていた. 日本の認定産業医制度においても, 試験制度の導入は今後の検討すべき課題あると考えられる.
著者
浦本 秀隆
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.215-219, 2008-06-01 (Released:2017-04-11)

企業の安全管理において通勤方法は重要な管理要素の一つである. 当事業所は特有の立地条件のため, 従業員の大半が自動車通勤であり, 高速道路を利用している人もいる. 本研究では高速道路通勤による健康への影響を調査した. 高速道路通勤を利用する群(highway: HW)は高速道路通勤を利用しない群(non-highway: NHW)に比べ男性に多く, 年齢が若かった. NHW群は5年間の観察期間にて(body mass index: BMI), 収縮期血圧, 拡張期血圧, 総コレステロールは有意に悪化したが, HW群は収縮期血圧を除いて増悪を認めなかった. さらに中性脂肪は有意に改善した. また運動する習慣や栄養バランスへの配慮が低く, ストレス解消法も無いと答えた人が多かったにもかかわらず, ストレスを感じない人が多く, 高速道路運転によるストレス解消が推測された. 高速道路通勤はむしろ健康に好影響を与える可能性がある.
著者
郡山 一明 保利 一 山田 紀子 井上 尚英 河野 慶三
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.25-28, 1991-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
1 1

メタノール - トルエン系と酢酸エチル-トルエン系の混合有機溶剤の気液平衡関係について, それぞれの溶剤の気相濃度の実測値と, 溶液を理想溶液と仮定した場合の理論値とを比較検討した. 酢酸エチル-トルエン系の混合溶剤では, 酢酸エチルの気相濃度は実測値と理論値が, 比較的良く一致していた. メタノール-トルエン系の混合溶液では, メタノールの気相濃度は, 特にメタノールの含有率が5%以下の領域において, 理論値よりも著しく高濃度になることが分かった. 混合有機溶剤曝露の健康影響評価については, 液相成分の組成のみならず, 気相濃度の測定が重要であると考えられた.
著者
山本 直 岡田 洋右 新生 忠司 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.55-60, 2015-03-01 (Released:2015-03-14)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

症例は56歳女性.外傷を契機に全身倦怠感や悪心・嘔吐が出現し近医入院.高カルシウム血症を伴う意識障害や全身の皮疹が出現したため当科転院となった.臨床症候(意識障害,食欲不振,悪心・嘔吐,血圧低下,発熱)および検査所見(血中cortisol 1.2 μg/dl と低値,高カルシウム血症11.0 mg/dl,末梢血好酸球増多1,600 /μl )より副腎皮質機能低下症と診断.皮膚生検で好酸球浸潤を認め,最終的にprednisolone 30 mg/day内服により上記症状は改善した.同症で認められる一般検査所見として高カルシウム血症および末梢血好酸球増多が知られているが,本例のように著明な症状を呈することは稀であるので報告する.
著者
ホー ヨン キム サンフン イ スッキ キム ヒョンア
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.249-258, 2017-12-01 (Released:2017-12-16)
参考文献数
31
被引用文献数
8

多発再発性症状を伴う後天性の病態である,多種化学物質過敏症(MCS)はその多様な環境要因との関連性について研究が行われている.本研究は韓国の公共施設の勤労者と一般人の多種化学物質過敏症の自己申告有症率に関係する要因について調べた.公共施設の勤労者(530名)と一般人(500名)を対象にQuick Environmental Exposure Sensitivity Inventory(QEESI)質問票を用いてMCSの有症率とその危険度を調べた.被験者の人口統計的情報,シックビルディング症やシックハウス症ないしアレルギー(SBS/SHS/Allergy)についての被験者の理解,および家庭ないし職場での出来事についての情報も得た.QEESI質問票の評価点について公共施設の勤労者と一般人の間で,統計的有意差はなかった.MCSの全有症率は14.4%で,二群間で統計的有意差はなかった.全MCS危険度については,被験者の21.8%が “very suggestive”と分類されたが,これも二群間で統計的有意差はなかった.性別と被験者のSBS/SHS/ Allergyの認識がMCSの有症率と危険度の選別基準に影響する.韓国ではMCSの鑑別基準や処置法がないことを考慮すると,本研究結果はMCSの今後の対処法を確立するために活用できる.