著者
寺松 寛明 大和 浩 姜 英 賀好 宏明 久原 聡志 大宅 良輔 伊藤 英明 黒田 耕志 松嶋 康之 佐伯 覚
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.341-351, 2022-12-01 (Released:2022-12-05)
参考文献数
27

Little is known about the factors related to return to work (RTW) in patients with peri-operative lung cancer (LC). This study aimed to investigate whether pre-operative physical performance is associated with early RTW in patients with peri-operative LC. A total of 59 patients who wished to resume work after lung resection surgery were included and were divided into three groups: early RTW (within 14 days after discharge), delayed RTW (within 15–90 days), and non-RTW (failure of RTW within 90 days). The early RTW group had significantly lower scores on the modified Medical Research Council dyspnea scale (mMRC) and significantly higher scores on the Euro Quality of Life 5-Dimension 3-Level (EQ-5D-3L) than the non-RTW group. Multivariate logistic regression analysis showed that EQ-5D-3L scores were significantly associated with early RTW, and mMRC scores and knee extensor strength tended to be associated with early RTW. Better pre-operative quality of life, mild dyspnea, and greater lower limb muscle strength tended to be associated with early RTW in patients with peri-operative LC.
著者
大田 俊行
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.189-200, 2000-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
6 1

フェリチンは鉄貯蔵蛋白であり, 血清フェリチンは生体内の鉄貯蔵量を反映することから鉄欠乏や鉄の過剰状態の把握に使われてきた. つまり, 鉄欠乏性貧血では血清フェリチンは減少し, 鉄過剰状態になると増加する. しかし, 貯蔵鉄の増加を反映しない高フェリチン血症が種々の炎症性疾患および悪性腫瘍に見出されている. これらの疾患において, 血清フェリチン増加のメカニズムが解析され, いくつかの炎症性サイトカインおよび一酸化窒素の関与が指摘されてきている. さらに, フェリチンサブユニットの解析やCon-A結合フェリチンの割合が疾患によって異なるといった分子学的研究が進んでいる. このような血清フェリチン高値の臨床的意義の解明がなされつつあるが, 高フェリチン血症は単なる結果をみているのではなく, 種々の反応を通して積極的に病態形成に関与する可能性があり, さらなる研究が必要である.
著者
吉井 千春 加濃 正人 磯村 毅 国友 史雄 相沢 政明 原田 久 原田 正平 川波 由紀子 城戸 優光
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.45-55, 2006-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
33 24

喫煙習慣は心理的依存と身体的依存から成り立っている. 我々は心理的依存の一要素として社会的ニコチン依存という新しい概念を考え出し, それを評価する新しい調査票として「加濃式社会的ニコチン依存度調査票Version 2」(the Kano Test for Social Nicotine Dependence; KTSND)を作成した. KTSNDは10問30点満点からなるが, その有用性を検討するため製薬会社社員に配布し, 344名から有効な回答を得た. 喫煙者(105名), 元喫煙者(88名), 非喫煙者(151名)の各群で, 総合得点は18.4±5.2, 14.2±6.1, 12.1±5.6と3群間でいずれも有意差を認めた. 設問別の検討では10問すべてで喫煙歴による有意差を認めた. さらに喫煙者をニコチンの身体的依存の指標である「1日喫煙本数」および「朝の1本を起床何分後に吸うか」で亜分類し, 総合得点との関連を検討したが, ほとんど差は出なかった. これに対して禁煙のステージによる亜分類では, 全く禁煙の意志がないimmotives(無関心期)で22.4±6.3, precontemplators(前熟考期)が19.0±3.9, contemplators(熟考期)が16.1±3.8, preparers(準備期)が14.5±5.9と, 各群間で有意差を認めた. これらの結果から, KTSNDは喫煙習慣の有無や禁煙のステージをよく反映し, 喫煙の心理的依存を評価する手段として有用な方法と考えられた.
著者
世古口 真吾 池上 和範 安藤 肇 吉武 英隆 馬場 宏佳 石垣 陽 盛武 敬 明星 敏彦 大神 明
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.1-13, 2022-03-01 (Released:2022-03-07)
参考文献数
36

We manufactured a wearable particle monitor (WPM), which is a simple and low-cost dust monitor. We aimed to evaluate the usefulness of the device by using it and location information of a Global Navigation Satellite System (GNSS) to measure dust generation in outdoor workplaces. We used nine WPMs and a particle counter KC-52 to measure in parallel the dust concentration diffusing standard particles in a dust exposure apparatus to evaluate the measurability of the WPM, and visualized dust generation in outdoor workplaces to evaluate its usability. We obtained location information using a GNSS in parallel with measuring with the WPM. The measured values of the WPM followed the measured values of the KC-52, with a strong correlation of the values between the KC-52 and each WPM. The discrepancy among devices tended to increase, however, because the measured values of the WPMs increased. For outdoor measurements, we could create a heat map of the relative values of dust generation by combining two data of the WPM and the GNSS. The methods of using the WPM could overview the conditions needed to produce dust emissions in dust-generating workplaces.
著者
黒住 旭 岡田 洋右 西田 啓子 山本 直 森 博子 新生 忠司 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.353-361, 2012-12-01 (Released:2013-02-28)
参考文献数
20

症例は49歳男性.43歳時より動作時に動悸,冷汗,虚脱感が突然生じるようになり,低血糖発作(血糖50~60 mg/dl)を疑われ当科紹介.75 g経口糖負荷試験で5時間後に血糖56 mg/dlまで低下したが,無治療で血糖は回復.48時間絶食試験終了直前,排尿後の立位時に気分不良となり冷汗,頻呼吸を生じた.その際装着していたホルター心電図で140台の洞性頻脈を認めた.頻脈は日中活動時のみ出現し,起立時に再現性がありhead-up tilt試験を施行.起立時に血圧低下なしに心拍数上昇を認め,経過から体位性起立頻脈症候群の可能性が高いと判断した.β遮断薬開始後に発作は出現せず,1ヵ月後に再検したhead-up tilt試験では起立時の心拍数増加も消失を認めた.一般的に体位性起立頻脈症候群は洞性頻脈,不適切洞性頻脈,洞房結節リエントリー性頻拍といった頻脈性不整脈や神経調節性失神との鑑別が困難なことも多いが,本症例においては低血糖発作との鑑別として考慮すべき疾患と考えたため報告する.
著者
大森 政美 長神 康雄 橋木 里実 川西 美輝 神代 美里 力久 真梨子 加藤 達治
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.283-294, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
18
被引用文献数
1 3

高齢者はしばしば嚥下障害から誤嚥性肺炎を発症するため嚥下機能評価は重要である.もっとも信頼性の高い嚥下機能検査は嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査であるが,これらの検査は高齢者には施行できないことも多い.そのため我々は医療従事者なら誰でもできる高齢者肺炎患者に対する摂食嚥下機能評価法のAssessment of Swallowing Ability for Pneumonia(ASAP)を開発し,その有用性を検討した.この研究は2016年1月から2016年6月に戸畑共立病院内科に入院した肺炎患者130名(男58名・女72名,平均年齢82.2 ± 13.0歳)を対象にした.ASAPとthe Mann Assessment of Swallowing Abilityの相関係数は0.97と強い相関を認めた.ASAPと重症度ごとのthe area under the curvesはそれぞれ0.98,0.95,0.94であった.ASAPは高齢者肺炎患者の嚥下機能評価法として有用である.
著者
大和 浩 加藤 尊秋 姜 英 清水 大地 朝長 諒 藤本 俊樹 山本 希望
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.335-338, 2020-12-01 (Released:2020-12-01)
参考文献数
5
被引用文献数
3

Secondhand smoke (SHS) caused by smoking on apartment verandas is a severe social problem in Japan. If someone smokes on a veranda, SHS drifts into other residents’ rooms through their windows. Most non-smoking residents are annoyed by this, but they do not confront the person responsible. To study this situation, we burned cigarettes and measured the spread of SHS in terms of fine particle (PM2.5) concentrations. Cigarette smoke generated on a lower veranda spread to upper and horizontal neighboring verandas and into rooms through windows, reaching a maximum concentration of 139 μg/m3. The Health Promotion Act that was revised in 2018 and enacted in 2019–2020 requires all smokers to avoid producing SHS, even outdoors and at home. It is expected that combining the measurement of SHS from verandas to other verandas and rooms with the revised Health Promotion Act could create a national consensus on “no smoking on apartment verandas.”
著者
織茂 弘志 山元 修 小林 美和 安田 浩
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.69-75, 2001-03-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
2 2

平成12年6月, 当教室では強酸による化学熱傷を2例経験した. 症例1は44歳の男性. 化学工場勤務中, 防護マスクをしていたにもかかわらず, その隙間より硝酸が侵入し, 顔面に化学熱傷を受傷した. また, 作業衣を通して右上腕から肩甲部および両下腿から大腿前面にも被酸した. 症例2は26歳の男性. 化学工場勤務中, 濃硫酸を両前腕部に浴び, Ⅱ度の化学熱傷を受傷した. いずれの例も酸をホースにより充填している作業中に, 不慮の事故で酸に曝露している. 両者ともマニュアルどおり15分以上の洗浄をし, 重大な機能障害を残すことなく軽快したが, 一部深達性の損傷部位も認めた. さらなる安全対策のために, 産業医学的側面より検討を行った. 今回の曝露事故を教訓として, 作業に関して次の3つの改善点をあげた. 1)作業中の油断, 特にベテランに多い慣れに伴う強酸の危険性の軽視に対しては, 再教育あるいは啓蒙活動が必要である. 2)主な受傷部位以外にも, 被酸部位の見逃しの可能性があることに対しては, 保護衣を脱ぎ, 全身シャワーを浴びることを勧めた. 3)保護マスクをしていたにもかかわらず曝露したことに対しては, 保護マスクの改良を提案した. また, 強酸曝露時の黄色痂皮を診たときは, 過小評価することなく, 深達性潰瘍の存在を念頭におくべきであることを反省した. 事故防止のため, より質の高い安全対策が望まれる.
著者
松浦 祐介 川越 俊典 土岐 尚之 蜂須賀 徹 柏村 正道
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.181-193, 2009-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
3 3

細胞診による子宮頸がん検診はその有効性を証明する十分な証拠があるにもかかわらず. 日本のがん検診受診率は他の先進諸国と比較して格段に低い. 順調に低下してきた死亡率もここ数年上昇傾向にある. 子宮頸癌の発生にはヒトパピローマウイルス(HPV)が関与していることが明らかであり, 性意識の変革や性行動の多様化により若年層で子宮頸癌の発症率が特に増加していることは大きな社会的問題である. 細胞診による子宮がん検診には約10%の偽陰性率がありなかでも頸部腺癌症例に偽陰性が多い. 細胞診のみによるがん検診には限界があるため, わが国でもがん検診の精度を上げる目的で液状検体(liquid-based cytology: LBC)を使用したり, 細胞診検査にHPV検査を導入する動きがある. 細胞診によるがん検診は様々な問題を抱えているが, 子宮頸癌による死亡率を減らすためには国・地方自治体・医療機関・企業・教育の現場などが現状を正確に理解し, それぞれが課題に対して積極的に取り組む姿勢が必要である.
著者
澤田 雄宇 中村 元信
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.77-82, 2018-03-01 (Released:2018-03-19)
参考文献数
26

皮膚は生体の最外層に存在する生体外と生体内を区分する重要な臓器であり,外的刺激からのバリア機能を主とした生体防御機構として働いている.食事や運動,睡眠などをはじめとした日々の生活習慣は,人が生きる上で欠くことのできない行動であるが,近年の報告では,この生活習慣が皮膚疾患と密に関連していることが報告されている.生活習慣と皮膚疾患とのかかわりについては,疫学的な調査を皮切りに,さまざまなアプローチでその病態に及ぼす影響が検討されてきた.皮膚科領域において,炎症性皮膚疾患の代表的なものとして乾癬があげられる.乾癬は特に生活習慣と密に関連しており,食事,睡眠,喫煙,飲酒などさまざまな因子から影響を受けている.乾癬の病態としてinterleukin (IL)-23/IL-17 axisを代表としたカスケードが重要であるが,日々の生活習慣はその病態に影響を与える可能性が考えられている.本総説では,日々の生活習慣がいかに乾癬の病態に関与しているかについて,疫学調査から具体的にメカニズム解析を行った研究を交えて報告する.
著者
橋口 克頼 永田 智久 森 晃爾 永田 昌子 藤野 善久 伊藤 正人
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.271-282, 2019-09-01 (Released:2019-09-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1 5

WHOは「各国・地域において,人々が経済的困難を伴わず保健医療サービスを享受すること」を目標としており,その指標としてEffective Coverage(EC)という概念を提唱している.ECとは“その国または地域における健康システムを通して,実際に人々に健康増進をもたらすことができる割合”と定義されており,産業保健の場面では治療が必要,もしくは治療を受けているうち,適切に疾病管理されている率に該当すると考えられる.本研究では産業保健サービスの効果を評価することを目的とし,「常勤の産業保健スタッフ(産業医または産業看護職)による労働者への産業保健サービスの提供は,高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目について,ECを向上させる」という仮説をたてて検証した.2011年度の一般健康診断,人事情報,及びレセプトからの個々のデータを分析した横断的研究である.特定の大規模企業グループの91,351人の男性労働者を対象とした.常勤の産業保健スタッフがいる事業場に所属する労働者(OH群)とそれ以外の事業場に所属する労働者(non-OH群)において高血圧,糖尿病,脂質異常症の各項目別にECを算出し,比較した.OH群はnon-OH群に比べて,高血圧・糖尿病において有意にECが高率であったが,脂質異常症については有意な差を認めなかった(高血圧aOR 1.41: 95%CI 1.20-1.66,糖尿病aOR 1.53: 95%CI 1.17-2.00,脂質異常症aOR 1.11: 95%CI 0.92-1.34).常勤の産業保健スタッフによる産業保健サービスの提供は,健康診断後の適切な管理に大きく影響する.
著者
阿南 あゆみ 山口 雅子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.73-85, 2007-03-01 (Released:2017-04-11)

親が子供の障害を受容して行く過程に関する文献的検討を行った結果, 障害の診断を受けてから, 親の心の軌跡に焦点を当てた段階説と慢性的悲哀説の2説が報告されている. 段階説の概略は, 親が子供の障害を受容して行く過程は長期に渡り紆余曲折があるが, いずれは必ず障害のある我が子を受容するに至るとする説である. 一方慢性的悲哀説は, 親の悲しみは子供が生きている限り永遠に続き, 子供の成長に伴う転換期において繰り返し経験され続け, 悲しみに終わりはないとする説である. さらにわが国においては, 2説を包括する形の障害受容モデルもあり, 研究者による分析方法や解釈の仕方に違いが見られる. 障害を持つ子供の支援に携わる医療者は, 主たる養育者である親が子供の障害を受容して行く過程を理解し, さらに2説の枠組みだけではなく親の養育体験全体を捉えることが必要であり, 今後さらなる体系的研究が望まれる.
著者
藤野 善久
出版者
The University of Occupational and Environmental Health, Japan
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.225-230, 2018-09-01 (Released:2018-09-14)
参考文献数
31
被引用文献数
2

近年,日本において,プレゼンティーズムへの関心が産業保健分野のみならず,経営分野においても急速に広がりつつある.しかしながら,プレゼンティーズムという用語が国内に紹介されたのは比較的最近であり,日本におけるプレゼンティーズムに関する知見の蓄積も限られている.本稿では,プレゼンティーズムに関する知見を整理するとともに,日本の産業保健におけるプレゼンティーズムへの取り組みに関する意義について考察する.プレゼンティーズムとは,健康上の問題を抱えたまま出社している状態というのが共通した定義であり,労働生産性の低下を追加するものもあった.医療経済的な観点からプレゼンティーズムによる労働生産性低下を貨幣換算する方法について複数の方法が提案されているが,統一した方法はない.労働者の健康状態を,プレゼンティーズムの観点から評価し,支援するための新しい方法が必要である.
著者
藤野 善久 久保 達彦 村松 圭司 渡瀬 真梨子 松田 晋哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.291-297, 2013-12-01 (Released:2013-12-14)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

英国では,健康問題を抱える労働者の就業を支援する制度として,2010年からThe Statement of Fitness for Work(通称,Fit Note)と呼ばれる文書を医師が発行する仕組みが導入された.Fit Noteは,病気や外傷などの健康問題を抱える労働者が,就業に適しているか,もしくは就業配慮が必要かに関する意見を医師が記載したものである.通常,Fit Noteは,労働者が雇用主に提出し,就業配慮を求めるために利用されたり,もしくは就業できない場合には,休業補償(Statutory Sick Pay)の申請書類として用いられる.今回,英国におけるFit Note導入の背景と運用状況に関する調査を,General Practitioner,産業医,理学療法士のインタビューを通じて行ったので報告する.
著者
光本 いづみ 松下 年子 大浦 ゆう子
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.185-196, 2008-06-01 (Released:2017-04-11)
被引用文献数
7 5

訪問看護師の仕事負担感や就業継続意思と訪問看護の業務特性を明らかにした. 対象は福岡県内の訪問看護ステーションに勤務する看護師で, 自記式質問紙調査を実施した. その結果, 下記の事柄が明らかになった. 「就職前に考えていた仕事内容と実際との相違」「訪問以外の仕事の多さ」「判断を必要とする場面の多さ」「複雑な看護技術の多さ」を感じている人ほど仕事の負担感を大きいと考え, 「ステーションの将来性」「看護師の人数」「賃金」について肯定感を持つ人ほど仕事の継続意思を持っていること. また, 訪問看護師の就業意欲向上のために, 管理者が労務管理の意識を高めることやリアリティショックへの対策として体系的・系統的継続教育の実現を図る環境を整えることも継続意思を持つことの一助となることが示唆された.
著者
木下 良正 原田 篤邦 大成 宣弘 横田 晃
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.111-117, 2004-03-01 (Released:2017-04-11)

症例は71歳女性. 2ケ月前より左眼窩部痛と軽度の複視を主訴に来院した. 左眼の外転と外下方のわずかな眼球運動障害を認めるのみで眼球結膜充血や眼球突出, 眼圧の上昇もなかった. 血管撮影にて両側内頸動脈と外頸動脈から左上眼静脈へ多くのシャント血流が認められたが, 流出路がよく発達しているため塞栓術を施行しなかった. 退院3週間後, 左眼の完全眼球運動障害が出現し再入院となった. 神経学的には左眼痛の増悪および全方向性の複視, 左眼の全外眼筋麻痺を認めたが, 眼球結膜の充血はなく眼圧の上昇もなかった. 血管撮影にてシャント量はむしろ減少し流出路の顔面静脈の造影は不良となっていた. 下錐体静脈洞経由で海綿静脈洞の塞栓術を施行し症状の改善を得た. 軽微な複視と眼痛で発症し, 結膜充血を伴わず急速に症状が悪化した特発性頸動脈海綿静脈洞瘻症例を経験したので報告した.
著者
杉野 仁美 澤田 雄宇
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.379-383, 2022-12-01 (Released:2022-12-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

60歳女性.検診で実施した超音波検査で左乳房B領域に充実性腫瘤を指摘された.精査目的に前医クリニックを受診し,左乳房に存在する腫瘍に対する穿刺吸引細胞診でclassⅣと診断された.更なる精査ならびに加療を目的に当院外科へ紹介され,両側乳腺および腋窩リンパ節に対する超音波検査が実施された.検査翌日より左乳房,左腋窩,胸部に紅斑,丘疹が認められ,皮疹の加療目的に当院皮膚科を受診した.皮疹は超音波検査でゼリーが接触した部位に一致していたが,乳房の悪性腫瘍を念頭に精査が行われていたことから悪性腫瘍の皮膚転移を除外するために皮膚生検を行った.紅斑より採取した皮膚生検の病理組織学的検討では,真皮上層血管周囲にリンパ球ならびに好酸球主体の炎症細胞が浸潤し,表皮は海綿状態ならびに液状変性が認められた.超音波検査用ゼリーas is(そのまま貼付)のパッチテストで陽性を示し,ゼリーによる接触皮膚炎と診断した.皮疹の治療としてベタメタゾン酪酸プロピオン酸エステル軟膏の外用を開始し,皮疹は速やかに消退した.後日,再度超音波検査が施行された際には,ゼリーは検査後に速やかに取り除いたため皮疹の再燃はみられなかった.繰り返す超音波検査用ゼリーの使用は皮膚障害部位からの感作により接触皮膚炎を起こしうる.しかし本症例では,超音波検査を実施した後に皮膚に付着したゼリーを拭き取る際に配慮することで接触皮膚炎の発症を防ぐことは可能であった.
著者
古屋 義人 新宅 貴久栄 北 敏郎
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.49-52, 1979-03-01 (Released:2017-04-11)

Y, Z両血液型とも日本で発見された血液型である。日本人ではY型は22.37%,Z型は29.51%である。Y, Z両抗原ともMNSs血液型と密接な関係があるらしい。Y抗原, Z抗原はいずれも単純優性形質で, 家族調査の成績もこの考えに大体よく合う。