著者
高山 博之 黒木 英州 前田 憲二
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.127-134, 2007 (Released:2007-11-01)
参考文献数
15

すべり速度・状態依存摩擦構成則を平面および3次元の形状をしたプレート境界面に適用し,東南海および南海地震の発生順序に関するシミュレーションを行った。平面のプレート境界では,プレートの形状の影響がないので,東南海・南海地震のそれぞれのアスペリティの大きさおよび摩擦係数(a-b)の大きさの影響を調べた。アスペリティの大きさおよびa-bの絶対値が同じ場合(基本モデル)は,どちらかが先に起こる傾向は見られないことがわかった。アスペリティの大きさまたはa-bの絶対値が異なる場合は,いずれも小さい方が先に起きた。前者は応力の集中の早さの違いに起因し,後者は応力降下量の大きさの違いに起因する。プレート境界を3次元の形状にした場合についてもシミュレーションを行った。東南海と南海のアスペリティの大きさとa-bの大きさを同じにし,両アスペリティのa-bの絶対値を基本モデルと同じにした場合は東南海から先に起き,10%小さくすると南海から先に起こるようになった。これは東南海の東端からの応力の集中の早さと紀伊半島沖の安定すべりによる南海側での応力集中の早さの関係がa-bの値の大小で入れ替わるためと考えられる。
著者
T. Kizawa
出版者
Japan Meteorological Agency / Meteorological Research Institute
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.150-169, 1957-11-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
33
被引用文献数
3 3

Showa-Shinzan, one of th e Belonite-Volcanoes, born (1943-1945)in the eastern part of the Volcano Usu (in the South-western part of Hokkaido, Japan) is famous in the history of volcanoes in the world.This volcano erupted in a farm-land and further developed a lava dome (Spine) in the central part. It is a Pelée-type one, and its developing process was clearly observed for the whole period.Some remarkable earthquake swarms occurred during the volcanic activity, and the major ones among them were recorded by seismographs even at a station about 800 km apart from the volcano.The author investigated the relations betwee n the occurrence of earthquakes and the formation of Showa-Shinzan and tried to find some clues to the volcanic mechanism. In this first paper, after an investigation of the characteristics of earthquake swarms recorded on the seismographs in Muroran, Mori and Sapporo (epicentral distance: 25-69 km) and the relation of the volcanic activity therewith, some interesting results were obtained:1) Daily earthquake frequency diagram for the whole period of twenty three months were prepared for the first time.2) These earthquakes were clearly divided into the following three stages:( i ) Pre-volcanic stage: In this stage there was no eruption, and remarkable earthquakes occurred around Volcano Usu frequently. The relation between the maximum amplitude (A) in these earthquake swarms and their frequency (N) was expressed byNAm = const.where m is about 1.8, similar to that of the tectonic earthquake. Moreover, the migration of the hypocentres of these earthquakes showed an intimate connection with the course of the magma intrusion.(ii) Stage of eruptive activity: A violent eruption occurred in the central part of the rising area. The extremely shallow earthquakes during the period of six months including just before and through the eruptive activity were proved to have been originated at the area adjacent to the newly formed crater.(iii) Birth and developmen t of lava dome (spine): The lava dome grew and developed without eruption, accompanied with numerous earthquakes. The earthquakes, which differed greatly from those at the former two stages, began to occur almost simultaneously with the end of the eruption and the frequencies of the earthquakes during the following twelve months corresponded closely to the speed of the development of the lava dome. The value of m in this case was 3.5.3) Process of magma intrusion, increase of magma viscosity a n d their relationship with the feature change of earthquake swarms were investigated. The possibility of predicting volcanic activity Volcano Usu by seismograph at stations up to approximately sixty or seventy kilometers from the volcano is suggested.
著者
森 俊雄
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.149-155, 1985 (Released:2007-03-09)
参考文献数
7
被引用文献数
6 6

日本電信電話公社の通信ケーブル施設を使って長基線の地電位試験観測を行った。現在、日本では陸上での地電位観測で数km以上の基線で観測されているものは、他にはない。関東北部の笠間、下館および小山の各電話中継所のアースおよびその間の通信ケーブルを用いて、笠間—下館間 (26.8km) および小山—下館間 (15.7km) の地電位変化を観測した。1Hz等の短周期ノイズが大きいため、カットオフ周期が6分のローパスフイルターを通したところ笠間—下館間では非常によい記録が得られた。ここでの地磁気変化による誘導電位変化は、柿岡地磁気観測所の地電位EW成分と類似している。小山—下館間では、直流電車からと思われる電気的ノイズが非常に大きく、良い記録は得られなかった。しかし、そこでは地電位変化が、笠間—下館間に比較して非常に小さいことも確かである。このような地電位変化の相違は、主にこの付近の堆積層の厚さに関係していると考えられる。今回の試験観測の結果、電々公社のケーブル施設を使って、長基線地電位変化を観測できることがわかった。このような観測は、地下構造の解析や地下電気抵抗の時間的変化の検出に利用できると考えられる。
著者
広野 卓蔵 佐藤 馨
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3-4, pp.177-193, 1971 (Released:2012-12-11)
参考文献数
5

MSK震度階が我が国に適した震度階であるかどうかを試験するために,106の気象官署で, MSK震度とJMA震度の同時観測を1967年から1970年まで行った.このために作った調査表に地震時に観測した現象の項目をチェックして気象研究所に送り,著者等はそれによってMSK震度の決定を行った.地震を大地震と小地震に分けて,JMA震度と比較しながら統計を取った.その結果JMA震度は低震度に適し, MSK震度は高震度に適していることが分った.JMA震度3までの低震度をMSK震度になおす式はM=1.5J+1.5で,ここにMはMSK, JはJMA震度である.また大地震のときの両者の関係はM=1.5J+0.75と求められた.両者にはそれぞれ長所と短所があり,気象庁は両者を併用することが望ましい,すなわち,JMAは緊急報告用に,MSKは大地震の現地調査などに用いられる.
著者
青木 孝
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.61-118, 1985 (Released:2007-03-09)
参考文献数
75
被引用文献数
13 14

北太平洋西部における台風の発生および日本への台風の襲来について、地域分布や年変化、経年変化などの気候学的特徴を明らかにした。台風の発生については1953-1982年の30年間を解析の対象とした。日本への台風の襲来は、さらに長い期間の資料を収集して、1913-1982年の70年間について解析した。台風が多く発生したときと少ないときの両者について、発生場所や500mb高度場、雲量、海面水温を比較した。また台風が日本へ多く襲来した年と少ない年における台風の襲来数の分布の違いを調べた。日本各地の台風襲来数の年変化型の地域差を主成分分析で明らかにし、得られた固有ベクトルに対応する振幅係数を使って日本の地域区分を行った。 次に、東部赤道太平洋における海面水温の異常現象であるエル・ニーニョと台風の発生数との関係を見いだすとともに、北太平洋の海面水温と1953-1982年の30年間における台風の発生数および日本への台風の襲来数との相関関係を解析した。大きな相関係数が得られた海面水温、すなわち台風が発生する前年と2年前の北太平洋の海面水温を予測因子として重回帰分析を行ったところ、北太平洋の海面水温が、台風の発生数や日本への台風の襲来数を長期予報するための資料として役立つことがわかった。
著者
中村 雅基
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3+4, pp.81-94, 2002 (Released:2006-07-25)
参考文献数
14

自動的に、P波の初動極性を取得し、発震機構解を決定し、十分な精度で発震機構解が決定できているか否かを判別する手法を提案した。P波の初動極性を取得する際には、まず、ベッセルバンドパスフィルタを適用し、次に、ARモデルを用いてP波の初動到達時を得、ARフィルタを適用した。発震機構解の決定には、グリッドサーチによる手法を用いた。十分な精度で発震機構解が決定できているか否かを判別するために、解の安定性、過去に発生した地震の発震機構解等から総合的に判断し、発震機構解の決定精度の評価を行った。気象庁によって読みとられた初動極性の70%が、本手法を適用することによって得られた。また、両者でくい違った験測を行っているのは全体の3.5%以下であり、十分な精度で初動極性の自動験測が行われた。さらに、本手法を適用することにより、気象庁で発震機構解が得られた地震の2.8倍以上の地震について、決定精度の良い解を得ることができた。M<2の内陸浅発地震やMが決定されていないような小さな深い地震でも、十分な精度で発震機構解が決定できることもある。本手法を適用することにより、十分な精度で効率的に発震機構解を決定することができる。
著者
勝又 護 徳永 規一
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3+4, pp.191-204, 1980 (Released:2007-03-09)
参考文献数
24

海洋の低速層 (SOFAR channel) を伝わる地震波“T”は、かなり古くから知られているが、我が国でこの波が大きく明瞭に観測された例は少なかった。1975年南大東島に地震計が設置されて以来、短周期の振動からなる極めて顕著なT波群がよく記録されるようになった。これらは、主として琉球―台湾―フィリピン地域の地震に伴うもので、他の地域の地震ではまれである。 地震計に記録されるTは、海底に入射した地震波により水中疎密波がゼネレートされ、これが海洋を伝わり、沿岸で再び地盤を伝わる地震波に変換されたものである。水中疎密波が大きなエネルギーで遠方にまで伝わるためには、地震波―水中疎密波―地震波の変換が効率よく行なわれること; 海洋をchannel waveとして少い減衰で伝播すること等が必要である。従って、Tの発生と伝播の機構には、地震波が入射する地域、伝播径路および観測点付近の海底地形が大きく関与することになる。南大東島はこれらに関し好条件が揃っているため、Tを大きく記録するものと思われる。特に、ルソン島近海の地震に伴うTは優勢で、人体感覚を生じる程度の強さとなることもある。 Tの発生源および伝播径路は多様であるが、その主力波群のフィリピン海における平均伝播速度は1.48 km/secで、同海域におけるSOFAR channelの音速の極小値とほぼ一致する。 東シナ海の地震 (震源のやや深いものをふくむ) によるTもよく観測されるが、これらは琉球列島の東側の海底に入射した地震波 (S波の可能性がある) によってゼネレートされたものと推定される。
著者
小長 俊二 西山 勝暢
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.151-156, 1978-09-15 (Released:2012-12-11)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

1977年7月上旬に神戸海洋気象台春風丸により,切離冷水塊の中で2つの非常に興味ある現象が観測された(上平悦朗ほか(1978)).(1)は切離冷水塊の周辺部に環状に表面塩分の低い海域が存在していることおよび(2).冷水塊の中心のすぐそばに,周囲に比して異常に高温な観測点が存在していることである.前者は梅雨前線による降水が海山と渦の相互作用で環状に収束したものであり,後者は異常高温の大部分がXBTプローブの不良に帰せられるにしても,場所的に見て,テーラー柱の発生の可能性がある.また黒潮と切離冷水塊の挙動を第2紀南海山の位置から見て,切離冷水塊の発生から消滅まで第2紀南海山の影響を強く受げていたことが予想される.将来観測により確認する必要がある.
著者
Kobayashi J. Toyama Y.
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-22, 1960

高層大気の温度測定においては 日射誤差と遅れによる誤差が 系統的な誤差の主なものである 日本のラジオゾンデの日射誤差に対する補正は気圧400mb以下の高層資料に対しては既になされているが遅れに基く誤差は考量されていない<BR>この報告の目的は 日射誤差が 補正された改良型のバイメタル温度計が 気温の真値を得たい要求に充分答えうるものかどうかを明にすることである<BR>改良型温度計は 二つのバイメタル片からなり立って 一つには銀鍍金され 他は黒化されたものを用い これらを用いて日射に基く誤差を補正し 気温の真値を指示するように工夫されている<BR>通風筒で遮蔽されたラジオゾンデ用温度計の日射誤差及び遅れによる誤差を見積るために 一連の比較飛揚試験及び実験室におていて 多くの試験が行われた これらの結果によると 太陽高慶角30° において 理在使用されている補正表による日射誤差の差の補正量は少な目で 実際の日射誤差の半分程度しか補正されておらず又遅れの時定数は大凡100mbで14秒 200mbで40秒 50mbで120秒 20mbで280秒程度のものであることを示した<BR>1956年2月に行われた昼と夜の観測から観測された気温差が若干認められ測定器の測定誤差が±0.50℃であるとすると 気温の日変化の量は100mbで 0.15℃, 50mbで 0.3℃ の値を持つことが推定された<BR>この報告は1955年4月から1956年2月に互って実験された結果を集約したものである
著者
小林 昭夫
出版者
Japan Meteorological Agency / Meteorological Research Institute
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.1-14, 2021 (Released:2021-01-21)
参考文献数
31

Kobayashi(2017)は、GNSSデータの共通ノイズを低減し、1年間の傾斜期間を持つランプ関数との相関を取ることにより、南海トラフ沿い長期的スロースリップの客観検出を行った。ここではこの手法を応用し、南海トラフ沿い短期的スロースリップの客観的な検出を行った。GNSS日値および6時間値について長期トレンドを除き、1週間の傾斜期間を持つランプ関数との相関を取った。本手法により検出された時空間分布は、深部低周波地震の活発化とよく一致していた。また、Kobayashi(2017)は長期的スロースリップに伴う変位を検出したが、ここではその手法を応用して検出された長期的スロースリップの規模推定を行い、先行研究とほぼ一致した結果が得られた。
著者
葛城 幸雄
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.277-305, 1983 (Released:2007-03-09)
参考文献数
26
被引用文献数
42 56

北緯24°から45°の範囲の、日本の12地点における90Sr月間降下量の時間変化について報告する。 90Sr積算降下量は、秋田で最も高く、大阪で最も低い。核実験開始以来の東京における積算降下量は現在までに78mCi/km2に達した。 1963年に、アメリカ、ソ連が大気圏核実験を停止したのち、90Sr降下量は減少をしめしたが、1968年以後中国核実験による放射性物質の降下が顕著にあらわれている。 中国水爆実験による降下物中の89Sr/90Sr比は、数ヶ月間増加をしめしたのち、e-(λ89-λ90)tの勾配にそって減少をしめす。又原爆実験 (数 100KT級以下) による降下物では前記の勾配より早く、その影響があらわれる期間は数ヶ月乃至6ヶ月位である。 対流圏および成層圏に放出された放射性物質の滞留時間は、それぞれ30~50日および1.0~1.2年である。 日本における90Sr降下量の季節変化は、核実験の行われた季節および規模により異なることを明らかにした。 東京における90Sr降下量と北半球全体のそれとの間には良い比例関係がみられることから、東京における90Sr降下量から、それぞれの中国水爆実験による核分裂量の推定を行った。
著者
吉田 明夫
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.15-32, 1990 (Released:2006-10-20)
参考文献数
35
被引用文献数
2 5

日本列島とその周辺に発生した浅い大地震 (M≥5, 深さ≤30km) の前震活動の特徴を調べた。1961年から1988年までの期間に発生した110個の本震の中、41個、すなわち37%が前震を伴っていた。ここで定義した前震とは、本震の前30日以内に、本震の震央を中心として20′×20′の領域内に発生した地震をいう。前震がみられた地震の割合は、期間を40日とし、また範囲を30′×30′に拡げてもほとんど変わらない。前震時系列の中の最後の前震は、本震発生前1日以内に、その本震の震央のすぐ近くで発生する場合がほとんどである。1981年以後の期間をとると、前震は55%の地震について観測された。これに対して、1961-1970年の期間では前震を伴った本震の割合は27%、また1971-1980年の期間ではそれは37%である。このことは、近年、気象庁の地震検知力が格段に増大したことを示している。前震活動には著しい地域性が存在する。その注目すべき特徴の一つは、伊豆地域と九州中部に発生する地震には前震が伴いやすいことである。特に、伊豆地域では67%の地震に前震がみられた。他の地域では、この割合は26%である。更に、伊豆地域と九州に発生する地震には、しばしば群発的な前震活動が観測される。他の地域では前震を伴ったとしても、通常は1個ないし2~3個の地震が発生するのみである。なお、伊豆地域にみられる群発的な前震活動では、本震発生の2~3時間前に静穏化が生じることが多い。この現象は、大地震の発生直前に破壊の核が生成されて、震源域における応力が緩和することを示しているものと考えられる。この研究で明らかにされた前震活動の地域的な特徴は、1926年から1961年までの期間に日本とその周辺海域に発生した大・中地震の前震を調査したMogi (1963) の結果と調和的である。この事実は、Mogi (1963) も指摘しているように、これらの特徴が一時的なものではなく、その地域地域毎の地殻構造や応力の集中過程を反映した固有の性質であることを示している。前震の時系列は4つのタイプに分類することができる。タイプ1は、1個ないし2~3個の地震が本震の数日から数10日前に発生するものである。このタイプの前震中には本震の発生と直接関係しないものも含まれている可能性がある。タイプ2もタイプ1と同じように1個ないし2~3個の前震がみられる場合であるが、しかし、これらの前震は本震の直前 (通常数分以内) に発生する。このタイプの前震の発生は、本震発生に引き続く破壊の開始を表わしているのかもしれない。タイプ3の典型的な場合は、M4程度の中規模の地震が本震の数時間から1日ほど前に発生してその地震に伴う余震、時には、前震もみられるものである。この中規模の地震に伴う地震活動は、通常、本震発生の2~3時間前には静かになる。タイプ4は群発的な前震活動に対応する。タイプ3とタイプ4の前震活動の発生は、伊豆地域、フォッサ・マグナ地域、九州の中央部にほとんど限られる。これらのタイプの前震活動で、特に伊豆地域においてしばしば見られる本震発生の2~3時間前に生じる静穏化は、大きな地震の直前の予知に有効な前兆現象と考えられる。
著者
広野 卓蔵 末広 重二 古田 美佐夫 小出 馨
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.323-339, 1968-10-25 (Released:2012-12-11)
参考文献数
4
被引用文献数
1 2

本研究は本邦の地震予知に関する研究の一環として,高感度地震計の市街地における地震観測方法の改善を最終目的としている。このため,気象庁が現用している電磁式地震計と同一性能の地中地震計を開発し,これを主として地盤の雑微動の実態を解明する目的で観測井(深さ200m)の掘削過程における各種深度面(10,20,50,100,150,200m)に設置して,それぞれ地上との同時比較観測を行った。本論文は観測資料の解析結果,また,地質調査資料について述べる。おもな帰結;(1) 高周波ノイズほど深さと共に減衰し,特に50mまでは著るしい。(2)0.5cps以下の低周波ノイズはほとんど減衰しない。(3) 周期1secの地震計による近地地震の観測を目的とする場合,50m程度の深さで著るしいSN比の改善が期待される。(4) 重錘落下や自動車の通過によるノイズは50mより深くなると問題にならない。
著者
角村 悟 西橋 政秀 楠 研一
出版者
Japan Meteorological Agency / Meteorological Research Institute
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.25-37, 2016 (Released:2016-07-04)
参考文献数
34
被引用文献数
2

落雷に係る電荷について、東北地方庄内地域での地上電場観測に基づき調査した。最初、理論値を観測値に最小二乗法であわせるため要求される細かさについて議論した。高度0.1 km毎の電荷による理論的な電場を与え、適切な解を得るため必要となる水平方向の分解能を提案した。提案された空間分解能により2012年の暖・寒候期に庄内で発生した19の落雷に係る地上の電場により電荷の位置と量を推定した。推定された負極性落雷の電荷の推定位置の2事例を大気温度、ドップラーレーダーおよびVHF帯雷標定システムで検知された電磁波放射源の分布と比較した。1つの事例では、推定された電荷は落雷を引き起こす負電荷の性質を表していた。他方では、電荷が低高度に求まり、通常の負極性落雷モデルでは説明できなかった。本研究で記された数値的電荷推定の議論は、少ない地上電場観測を元にした落雷に関係する電荷の今後の研究にとって有効な情報になると考えられる。
著者
H. Arakawa
出版者
Japan Meteorological Agency / Meteorological Research Institute
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.114-123, 1954-11-05 (Released:2012-12-11)
参考文献数
5
被引用文献数
3 11

Pyramidal waves in the “ eye ” of typhoons are described in many meteorological texts. Numerous exmples are given indicating that the most dangerous, pyramidal, mountainous and confused seas are those found in the right or dangerous semi-circle of typhoons and not those found in the calm center.
著者
Hirono Takuzo Sato Kaoru
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.177-193, 1971

MSK震度階が我が国に適した震度階であるかどうかを試験するために,106の気象官署で, MSK震度とJMA震度の同時観測を1967年から1970年まで行った.このために作った調査表に地震時に観測した現象の項目をチェックして気象研究所に送り,著者等はそれによってMSK震度の決定を行った.地震を大地震と小地震に分けて,JMA震度と比較しながら統計を取った.その結果JMA震度は低震度に適し, MSK震度は高震度に適していることが分った.JMA震度3までの低震度をMSK震度になおす式は<I>M</I>=1.5<I>J</I>+1.5で,ここにMはMSK, JはJMA震度である.また大地震のときの両者の関係は<I>M</I>=1.5<I>J</I>+0.75と求められた.<BR>両者にはそれぞれ長所と短所があり,気象庁は両者を併用することが望ましい,すなわち,JMAは緊急報告用に,MSKは大地震の現地調査などに用いられる.
著者
Hatakeyama H.
出版者
Japan Meteorological Agency
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics
巻号頁・発行日
vol.8, no.4, pp.302-316, 1958
被引用文献数
12

浅間火山の噴煙雲による大気電場のじよう乱を,軽井沢観測所構内(火口からの距離約 9km),前橋測候所構内(火口からの距離約 50km)及び前橋附近の数か所の臨時観測所で観測した.軽井沢観測所では電場のじよう乱は初め小さい正.後に大いき負である.しかし前橋附近ではじよう乱は負だけが多く,正のじよう乱を伴うものはごく少ない.<BR>噴煙雲の中では重力と空気の抵抗力との作用で,高さによる火山灰の粒の大いさのふるい分けが出来ている.小さい灰粒は正電荷をもって雲の上部にあり,大きい灰粒は負電荷をもって雲の下部にある.実際の火山灰を使って大小の灰粒同志が摩擦した時の帯電の実験をやって,大きい灰粒が負の電荷を得,小さい灰粒が正電荷を得ることを確かめた.<BR>火口に近い所では正負両方の電荷の影響が大気電場に現われるが,火口から遠い所では負電荷の影響だけしか現われないことを説明するために2つの仮説を提出した.<BR>この論文は最初" 気象集誌" 第21巻及び" 中央気象台附属気象技術官養成所研究報告" 第1巻に4篇の論文として発表したものであるが,それが邦文であったため外国人学者の注意をひくことが少なかったので,今回それを1つにまとめ,やや簡約にして印欄した次第である.
著者
Kitagawa-Kitade Toshie Maruyama Haruhisa
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.133-139, 1979
被引用文献数
2

混合型の自動氷晶核測定装置を用いて,1967年9月から1970年12月まで,気象研究所の構内で連続的に大気中の氷晶核濃度を測定した。得られた資料のうち最も測定の連続している1968年4月から1970年3月までの二年間を選んで,濃度の変化について検討した。<BR>その結果,10分間隔で測定された-20℃核の平均氷晶核濃度の季節変化は,冬季には66.2個/<I>l</I>と最も高く,夏季には7.6個/lと低く,春季と秋季は20数個/<I>l</I>で似たような価であった。また梅雨入りから梅雨あけまでと9月から10月にかけての秋霖期の平均濃度には顕著な差はみられなかった。<BR>月別の氷晶核濃度は,1月,2月,12月に高く,6月,7月,8月に低かった。特に8月は年間の最低値3.8個/<I>l</I>を示し,月によって大きく変化していることがわかった。季節別に濃度の日変化をみると,変化のカーブは,夏季に比較して冬季の方が変動が大きく,しかも,冬季には濃度は夜間に低く,昼間に高い傾向がはっきりしていた。<BR>氷晶核濃度のばらつきを季節別に調べてみると,濃度の分布の標準偏差植は夏に最も大きく,冬季に最も小さかった。すなわち,夏季のばらつきが年間を通して一番大きいことがわかった。<BR>以上の結果について気象学的な検討を加えた。この報告書は,氷晶核濃度が過去と現在でどのような変化を示しているのか,その年々の変化を知るための第一段階のものである。
著者
Fujiwara M. Toya K.
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.40-47, 1958

梅雨末期の豪雨をPPIレーダーの写真と雨量図について比較して局地的に降る豪雨の申で局地に集中して降る豪雨の一つの典型とみなされる例を示す.1957年7月上旬の脊振山のレーダーの観測(福岡管区気象台でレーダーを予報に応用する研究の一環として行われた)に基いて解析した結果 (1)低層の南西jet気流(2)暖域内の対流不安定の成熟が定着性レインバンドの発生,発達の主な原因であることがわかつた。また,自記雨量観測点ではこまかい等雨量線の模様が引けないので区内観測所の資料を用いて細かい日雨量パターンを引いてみたところ前線と定着性レインバンドの近くにその交点附近で狭いが非常に強い降雨域があることとわかつた。従つてこれら二つの結果は上述の二つの条件が前線の定常化は局地性の豪雨の予報にとつて非常に重要な要因であつたことを暗示している。
著者
佐藤 純次
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.39-49, 1989

エア・トレーサーを有限時間に放出した中規模大気拡散実験において、トレーサープルームが風下方向に引き伸ばされる現象が観測された。このような有限長プルームの引き伸ばされた部分は、トレーサーを瞬間的に放出したパフの拡散の場合と同じであると仮定することによって<i>x</i>方向の拡散パラメータ、σ<sub><i>x</i></sub>を求めることができる。有限長プルームから求めたσ<sub><i>x</i></sub>を 「安定」、「ほぼ中立」、「不安定」 の3階級の大気安定度に分類し、他の類似した規模の拡散実験結果と比較した。安定条件ではσ<sub><i>x</i></sub>の値が僅かではあるが小さい傾向が見受けられたが、σ<sub><i>x</i></sub>の風下方向への変化に対する安定度の影響は認められなかった。<br> さらに、連続条件を満足するようにトレーサーの放出時間、サンプリング時間、トレーサープルームの長さを考慮した時間平均濃度を適正に評価する方法を検討した。この方法はいかなるサンプリングモードにも適用できる。