著者
Saito Naosuke
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.99-117, 1976
被引用文献数
3

i)二次元非圧縮仮定の海陸風数値シミュレーションモデルを作り,陸地の温度日変化が一様な場合の海陸風循環が,海岸線に沿った都市の熱的特性によっていかに変化するかを調べた。ここでは都市は郊外より日平均気温が高く,日変化の振幅は郊外より小さいとしてある。計算は水平間隔が6km,高さ1.8kmまでを15のレベルに分解した大きさ(35×15)の格子を用いた。前記の条件下では都市の存在は海風の内陸部への侵入をおくらせ,夜間の陸風を強化する。海岸線の近くと,都市と郊外の境界に収束場ができて,都市のない場合の単一の鉛直循環は二つの循環細胞に分れる。日中は都市の上空200m付近に発散場,夜間は都市の海岸寄りの部分の上空に収束,都市の郊外寄りの上空に発散が出来る。<BR>ii)二次元モデルを三次元に拡張し,関東地方を大きさ35×35×15の格子(水平間隔は同じく6km)でおおい,海岸線を近似して三次元の海陸風循環の数値シミュレーションを試みた。ここでは陸地の温度の日変化の振幅は一様とし,山脈や川河はなく陸地は一様と仮定した。積分は2日分行なった。海陸風の交替,海岸線の曲率に対応した陸風,又は海風の収束,発散,特に房総半島の海風の収束による渦の形成, 海風前線,陸風前線の形成,海風前線の内陸侵入に伴う内部重力波の発生等の結果を得た。本文では陸地の温位の日変化の振幅を6°Kとした場合の結果を示す。この場合,海岸線での海風の極大は1.5m/s,厚さは400mに達し,その上に極大0.5m/s,厚さ725mの反流がみられた。夜間は海岸線上で陸風の最大は0.5m/s,厚さ125m,陸風の極大は沖合20km前後にみられた。
著者
田村 昌進 Tsuda N.
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.155-162, 1961

この重量式自記積雪量計については1958年の本誌(Vol.9 No.2)に報告したがその後一部を改良して二基を試作し長野県上高地と高田に設置して実地試験を行つたのでその改良型の構造の概略と実地試験の結果を報告し,同様の原理を用いた自記雨雪量計についてもその構造ものべた。<BR>自記積雪量計の主な改良点は歪計の変位量を拡大し自記部に伝達する為に「ナイフエッヂ」を支点とした二重積桿を用いたことである。次に実地試験地としての高田は風弱く気温はあまり下らず積雪は平均に積り非常に条件のよい場所であつたが上高地は低地で水の溜り易い場所であり気温が低くなる為にこれが凍つて積雪の最下層は殆んど氷盤となり厚い所は5cmにもなつた。また風が強く雪は平均に積らず傾斜して積り非常に条件の悪い場所であつた。しかし自記記録の結果は第5図に示すように「サンプリング」の値と殆んどよく一致して居り第6図の高田の結果と比較して遜色がない。<BR>次に自記雨雪量計は上記の自記積雪量計の性能を更に拡張補捉したものであり,積雪量のみならず融雪量も測定でき夏期にはそのまま雨量計として用うることができるようにしたもので,その構造は受雪部の床の中央部を低くし融雪水や雨水を集め之を自記部の下にある地下室に導いて転倒桝で測りその回数を積雪量と同一の自記紙に記録させるようにしてある。これは地面に落ちた雨や雪をそのまま測るのであるから普通の雨量計や雪量計のように捕捉率等を問題にする必要がないことを特長とする.
著者
荒川 正一 山田 一茂 戸矢 時義
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.149-163, 1982 (Released:2007-03-09)
参考文献数
9
被引用文献数
3 10 3

AMeDAS データを用いて北陸地方のフェーンのメソ解析を行った。解析の対象領域として日本中央部全域 (中部、東海、関東、北陸の各地方) をとり、フェーン時の風や気温、降水量などの空間分布の時間変化を調べた。 太平洋側から日本海側へ向う風は中央山塊の中をほぼ南北に走る谷間を通る。その主たるコースは3本あって、強い風は一般にこれらのコースの風下に位置する。フェーンは日変化して、昼間弱く、夜強い傾向にある。これは南よりの一般流と海陸風 (または山谷風) との重ね合せの結果と考えられる。 フェーンの時、中央山塊の風上側で雨を伴う場合とそうでない場合とがある。これについては下部対流圏の成層状態とりわけスコーラー・パラメータが重要である事を示唆した。
著者
南日 俊夫
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.196-205, 1962
被引用文献数
1

日本附近の太平洋の表層水温の月平均値とその年変化を求めた。この年変化の輻は北に行く程大きくなる。この水温と黒潮流軸の位置との間には相関はみられなかつた。ただ暑い季節(7月)にはどの点の表面水温もお互いに高い相関をもつようになる。黒潮の流れに沿つて下流の方へ,水温は年を通じて300~500Km程度まで相関がみられる。又各観測点での水温の平均持続日数は90日程度である。室戸岬の気温.と黒潮表面水温には相関がみられる。
著者
Miyake Y. Saruhashi K.
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.241-244, 1957

1957年3月に開催された国連の第3回科学委員会に,各国から提出されたSr-90の資料に基いて,1951年のはじめから1955年の秋までの5年間に,地表面に蓄積したSr-90含量の世界的分布を求めた.主なる汚染源としては,第1図から明らかなように,太平洋のビキニ環礁,ソ連のカザツク地方(黒海とバルハシ湖の間)およびアメリカ合衆国のネバダの三点がある.前二者では,水爆実験も行われているので,原爆実験のみを行っているネバダにくらべれば,汚染度は高い.第1図によると,ソ連の実験とネバダの実験では,汚染地域は偏西風にのって西から東にのび,ビキニでは逆に偏東風で西にひろがっている.これは地球上の風系と全く一致しているところである.<BR>1955年秋までに地表面に蓄積したSr-90の総量は地球全体で0.7メガキユリーとなる.北半球には地球全体の80%,その中,東半には,地球全体の約57%が集まっている.緯度による分布をみると,第2図(A)に示すように,北緯20°と50°附近の2ヵ所にピークがみられる.前者はビキニ実験によるものであり,後者はソ連の実験によるものである.第2図(B)には北半球を東半,西半にわけての分布を示した.東半の分布は第2図(A)と同じような形であるが,西半は40°附近に一つのピークがみられる.これはネバダの実験によるものであり,前者に比べれば,その汚染度は低い.
著者
木沢 綏
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.136-147, 1972-09-25 (Released:2012-12-11)
参考文献数
11

秋田駒ヶ岳の噴火活動(Sept.1970-Feb.1971)は,熔岩の流出,爆発等に近年稀な諸現象を含む点で興味深い。筆者は,この爆発機講の特性をS/Mという量で現わした。駒ケ岳に於けるTide generatingforcesの理論値と調和させつつ活動性質の探究を行ない,その特性の解明,爆発源の深さとその推移等について説明した。これは諸火山活動や,松代群発地震にも現われた興味深い地下活動機構である。噴火活動中に本邦初の“煙環現象”が出現した。筆者は幸いにも全生成過程を火口から8ミリとテープコーダーとによって並行観測することが出来たので Spectrum 分析,爆発エネルギーの消長と地震波動との関係等の研究を行い,世界火山史上稀有なこの現象の原因を科学的に記述する事が出来た。
著者
北畠 尚子
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.59-73, 2002 (Released:2006-06-13)
参考文献数
16

北西太平洋の台風には気象庁 (1990) がSH型としている特異な性質を持つものがある。この一例として、盛夏期に東シナ海で不規則な動きをした台風0006号 (アジア名Bolaven) の解析を行った。この台風はtyphoonの強度には達しなかったもので、背の高い対流雲を南側のみに持ち、北側は中上層に乾燥した空気を伴っていた。そしてこの乾燥空気側の方が湿潤空気側よりも高温のため、この台風は中層で傾圧性を持っていた。しかし地上では典型的な台風に類似した風分布を持っていた。 台風0006号の構造と環境の関連について、気象庁の客観解析データを用いて解析を行った。ライフサイクルの前半には、台風は強いチベット高気圧の南東側に位置し、対流圏上層でチベット高気圧東縁の強い北風が台風の北側で収束し、また台風の南側では西向きの流れにより発散が生じていた。これはチベット高気圧と台風によるジオポテンシャル高度場の曲率と、それに伴う慣性安定度の地域分布によると思われる。また対流圏中層では、大陸上の高温空気により、北西太平洋上空では東西方向の温度傾度が生じていて、それと台風の循環により温度移流が生じていた。これらにより鉛直運動の非対称分布が生じ、また台風の移動も不規則になったと考えられる。 その後、対流圏上層の大規模場は大きく変化したが、台風は中層では南北が逆転した傾圧性擾乱の構造を維持していた。このことは、特定の環境下で組織化した非対称な台風の構造が、中層におけるtiltingによる前線強化によりある程度は維持されうることを示唆している。
著者
新堀 敏基 相川 百合 福井 敬一 橋本 明弘 清野 直子 山里 平
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.13-29, 2010 (Released:2010-12-28)
参考文献数
60
被引用文献数
6 10 1

気象庁では、火山現象予報の一つとして、2008年3月31日から降灰予報の業務を開始した。この論文では、降灰予報を高度化するために気象庁・気象研究所で開発している降灰予測システムを用いて、降灰量の量的予測を行う方法について論じる。降灰予測の方法は、まず初期値となる噴煙柱モデルを、仮想質量をもつ火山灰トレーサーで構成する。次に、トレーサーの時間発展を移流拡散モデルにより計算する。火山灰移流拡散モデルは、気象場に気象庁メソ数値予報モデル(MSM)を用いたラグランジュ記述のモデルであり、移流・拡散・降下・沈着の各過程を考慮している。そして沈着したトレーサーの仮想質量から、単位面積あたりの重量(面密度)として降灰量を算出する。噴煙柱モデルに気象レーダーで観測された噴煙エコー頂高度を用い、降灰量の算出にMSMより細かい水平格子間隔を用いて、本方法を2009年2月2日浅間山噴火の事例に適用した。観測値と比較して、降灰域の定性的な特徴は概ね予測でき、分布主軸上の降灰量も同じオーダーで予測可能であることが示された。
著者
里村 雄彦 木村 富士男 佐々木 秀孝 吉川 友章 村治 能孝
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.51-63, 1994 (Released:2006-10-20)
参考文献数
17
被引用文献数
2 3

チェルノブイリ原子力発電所事故の際に放出された放射性汚染物質の、ヨーロッパにおける空気中濃度と沈着量について、気象研究所の長距離輸送モデルを用いて計算した。このモデルは、気象庁の旧ルーチンモデルで気象要素の予報を行い、ラグランジュ移流拡散モデルで汚染物質の濃度を計算する。発電所からの汚染物質の放出量として、ATMESプロジェクトで配布された発生源データを用いた。 計算の結果、モデルのCs-137とI-131の空気中濃度は観測とよく合うことが示された。しかし、沈着量は観測と合わないこともわかった。気象予測モデルの降水予報の精度の悪さと、観測値とモデルとがそれぞれ代表するスケールの違いが、沈着量の差の原因と考えられる。
著者
三宅 泰雄 猿橋 勝子 葛城 幸雄 金沢 照子
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.180-181, 1961-11-25 (Released:2012-12-11)

東京におけるCs-137及びSr-90の蓄積量はCs-137については,1960年7月までに69,4mC/km2,Sr-90については,同年12月までに24.8mC/km2となり,Cs-137対Sr-90の比の平均は2.9であった。両者の成層圏における平均滞留時間は,1.3乃至2.6年と計算され,また,今後,核実験が行なわれないと仮定した場合の将来の蓄積量が計算された。
著者
足立 恭将 行本 誠史 出牛 真 小畑 淳 中野 英之 田中 泰宙 保坂 征宏 坂見 智法 吉村 裕正 平原 幹俊 新藤 永樹 辻野 博之 水田 亮 藪 将吉 神代 剛 尾瀬 智昭 鬼頭 昭雄
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.1-19, 2013 (Released:2013-12-27)
参考文献数
57
被引用文献数
6 67

気象研究所(MRI)の新しい地球システムモデルMRI-ESM1を用いて、1850年から2100年までの大気化学、及び炭素循環を含む統合的な気候シミュレーションを行った。MRI-ESM1は、大気海洋結合モデルMRI-CGCM3の拡張版として開発されたモデルであり、拡張部分の化学的・生物地球化学的過程以外の力学的・熱力学的過程は、両モデルで同設定とした。計算負荷の大きい化学過程を扱う大気化学モデルを低解像度(280km)に設定して、MRI-ESM1の大気モデル部分はMRI-CGCM3と同じ120kmとした。基準実験において、地上気温、放射収支、及び微量気体(二酸化炭素(CO2)とオゾン)濃度の気候ドリフトは十分に小さいことを確認した。MRI-CGCM3による基準実験と比較して、全球平均地上気温が若干高いが、これは対流圏のオゾン濃度がやや高いためであった。次に、歴史実験を行いモデル性能を検証した。このモデルは地上気温と微量気体濃度の観測された歴史的変化を概ね再現出来ていた。ただし、地上気温の昇温とCO2濃度の増加はともに過少評価であり、これらの過少評価は土壌呼吸を通した正のフィードバックが関係していた。大気CO2濃度増加が過少に評価されたことにより昇温量が抑えられ、昇温過少が土壌呼吸を不活発にして陸域での正味のCO2吸収が過剰となり大気CO2濃度増加の過少を招いた。モデルで再現された地上気温、放射フラックス、降水量、及び微量気体濃度の現在気候場は、観測値とよく合っていた。ただし、特に南半球熱帯域では、放射、降水量、及びオゾン濃度に観測値との差異が存在していた。これらは過剰な対流活動によるものと判断され、太平洋低緯度域では所謂ダブルITCZ状態となっていた。MRI-ESM1とMRI-CGCM3を比べると、両者の現在気候場は非常によく似ており、現在気候再現性能は同程度であった。MRI-ESM1によるRCP8.5の将来予測実験では、全球平均地上気温は産業革命前から21世紀末までに3.4℃上昇した。一方、MRI-CGCM3による同昇温予測は4.0℃であった。排出シナリオRCP8.5を用いてMRI-ESM1により予測された21世紀末の大気CO2濃度は800ppmであり、MRI-CGCM3による実験で使用したCO2濃度より130ppmほど低い。これは上述の昇温差と整合的である。全球平均のオゾン全量は2000年から2100年までに約25DU程の増加が予測され、MRI-CGCM3による実験で与えたオゾン変化と同程度であった。最後に、ESMとCGCMとの比較から、オゾンモデルとエーロゾルモデルを結合したことによって20世紀後半のエーロゾル量の変化に差が生じ、この差が両モデルの昇温量の違いに影響していることを確認した。
著者
出牛 真 柴田 清孝
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.1-46, 2011 (Released:2011-05-31)
参考文献数
113
被引用文献数
11 70

本論文では、気象研究所で新たに開発した全球化学気候モデル(気象研究所化学気候モデル バージョン2)について記述する。バージョン2(MRI-CCM2)は、バージョン1(MRI-CCM1)と同様のフレームワークをもち、地上から成層圏までのオゾンおよび他の大気微量成分の時空間濃度分布を計算するために必要な化学・物理プロセスをその相互作用とともに考慮している。詳細な対流圏化学過程を新たに組み込んだことで、対流圏と成層圏におけるオゾン化学過程をバージョン2では統一的に取り扱っている。バージョン2の化学モジュールにおいては、90の化学種・172の気相反応・59の光解離反応・16の不均一反応に加えて、改良されたセミ・ラグランジュスキームをもちいた格子スケールの輸送計算、サブ格子スケールの積雲鉛直輸送・乱流鉛直輸送、乾性・湿性沈着、さまざまな起源からの微量成分のエミッション、の各プロセスを取り扱っている。このバージョン2を用いて数値積分を11年間行い、1990年代の微量成分濃度分布の再現実験を行った。数値積分は、大気場の同化を行った場合と行わない場合の2通りについて行った。この数値積分結果においては、南半球極域の下部対流圏におけるオゾン濃度の過小評価および上部対流圏・下部成層圏の中高緯度における過大評価がみられるものの、中・下部対流圏におけるオゾン濃度の地理的な分布や季節変動はオゾンゾンデの観測とおおむね良く一致した。また、一酸化炭素(CO)・一酸化窒素(NO)・ヒドロキシルラジカル(OH)などの濃度分布の特徴もバージョン2は現実的に再現した。南半球高緯度においてCO濃度を約15ppbv過大評価したものの、バージョン2は観測されたCO濃度の季節変動をおおむね良く再現し、観測されたNO濃度の鉛直分布の特徴を捉え、またOHラジカルの濃度分布は最近の他の化学気候モデルが再現した濃度分布と同様の特徴を示した。
著者
斉藤 和雄 Lecong Thanh 武田 喬男
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.65-90, 1994 (Released:2006-10-20)
参考文献数
25
被引用文献数
7 7

紀伊半島、尾鷲付近での降雨の集中に対する地形効果をみるため、3次元山岳地形を越える流れの場を非静水圧ドライモデルを用いて調べ、観測された降雨量分布との比較を行った。 北東~南西方向に長軸を持つ楕円で単純化した地形に対する数値実験では、南東の一般風が弱い場合、山岳風上側下層の上昇流域は、斜面上と海上に2つのピークが見られた。海上のピークは、ブロッキングによる2次的な上昇流で、山岳前面最下層の逆風を伴っていた。それぞれのピークは一般風が小さいほど風上側に生ずるが、一般風が強く (あるいは安定度が小さく) ブロッキングが生じない場合は、海上の2次的な上昇流は見られない。紀伊半島地形の特徴的な湾曲は、南東風時のブロッキングの効果を高める働きを持つ。 1985年の紀伊半島での降水事例を解析し、尾鷲では潮岬に比べ雨量が多い事と大雨は東南東~南の下層風向時に生じている事を確かめた。紀伊半島の現実地形を用いた数値実験では、東~南のいずれの風向時にも尾鷲付近と紀伊半島南部に下層の上昇流域が見られ、榊原・武田 (1973) で示された紀伊半島の年平均降水量分布の極大地点と良い一致が見られた。ブロッキングにともなう海上の2次的な上昇流は南西~西の風向時には生じなかった。 大雨時に観測された一般場を用いた数値実験でも同様な傾向が見られ、シミュレーションで得られた下層の上昇流域は観測された降水分布に概ね良く対応していた。また、いくつかのケースでは、尾鷲の北東で観測された地上の降水域に対応する場所に山岳波による風下側中層の上昇流域がシミュレートされた。 実験結果は、実際の降雨分布と一般風の大きさの関係-弱風時の海岸域と強風時の内陸域-に対応している。また、弱風時にしばしば見られる紀伊半島風上側海上での対流性降雨バンドの発達に、紀伊半島の地形のブロッキングによる下層の水平収束が影響している事を示唆している。
著者
猪川 元興
出版者
気象庁気象研究所
雑誌
Papers in Meteorology and Geophysics (ISSN:0031126X)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.81-102, 1984 (Released:2007-03-09)
参考文献数
18
被引用文献数
5 5

多変量最適内挿法を一般化した、統計的客観解析法が示される。一般化は二点で行なわれる。第一点は、斉次線形束縛条件が、その定式化の中に陽に組み込まれていること、第二点は、一般化された方法は、気候値及びその分散、予報値及びその予報誤差分散の両方を統一的に用いるが、従来の多変量最適内挿法は、それらの一方をファーストゲスとして用いるだけである。 線形束縛条件と合致する共分散行列は、ちょうど変分客観解析における束縛条件と同様に、その線形束縛条件で束縛された空間への射影演算子として機能することが、Phillips (1982) とは異なる方法で示される。 又、ここで示される方法は変分客観解析を次の二点において改良したものとみなせる。第一点は、この方法は統計的に最適な値を与えるが、変分客観解析は、その統計的意味があいまいであること、第二点は、この方法は、不規則に分布した観測点データから直接格子点上の解析値を与えるが、変分客観解析は変分法による修正を行なう前にあらかじめ観測値を格子点上に内挿する必要がある。 この方法のいくつかの応用例が示される。例の中で、変分客観解析の弱い束縛の統計的意味が示される。又、高度場、風の場の多変量客観解析に適用できる、発散共分散モデルも議論される。 この方法は、多変量最適内挿法と、線形束縛条件を課した場合の変分客観解析の両方をその特別な場合として含む。この方法を介して、多変量最適内挿法と、変分客観解析の間の関係が基本的に理解される。