著者
塩塚 潤二
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.263-274, 2012-04-01

かつて循環器内科医だった頃,術後の心房細動の相談を受けると,忙しかったこととまったくの不勉強だったこともあり,「なぜこんな命にかかわらないような些細なことでいちいち呼ばれなければいけないのだろう」とイライラしていた。当時から集中治療には興味があったが,術後心房細動に関する認識はこの程度であった。その後,集中治療に専従するようになってこの分野の奥の深さに驚かされた。
著者
水谷 光 穴田 夏樹 内藤 祐介 堀 耕太郎 堀江 里奈 山崎 広之 山田 有季
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
LiSA (ISSN:13408836)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.75-85, 2020-01-01

関西地方の麻酔科医たちが「症例カンファレンス」を実際に集まってやってみた。 通常の「症例カンファレンス」は,提示症例に対して各施設が周術期管理計画を原稿で示し,相互のやりとりはない。別の施設で働く麻酔科医が顔を合わせて,提示症例に対して思うことを述べることによって,互いのプランに取り入れられること,足りないことなどがその場で発見できるのではないか。それは読者にとっても新しい発見につながるのではないか。そんな思いで今回の「リアル症例カンファレンスin Osaka」は開催された。
著者
内藤 祐介 穴田 夏樹 桐山 有紀 豊田 浩作 堀江 里奈 水谷 光
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1233-1242, 2020-12-01

関西地方の麻酔科医たちが「症例カンファレンス」を実際に集まってやってみた。第3弾となる今回は,新たなメンバーも加わり,「抜管」をテーマに語っていただいた。
著者
奥田 泰久
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.302-306, 2016-04-01

●Summary・星状神経節ブロックの合併症である頸部・縦隔血腫の発生はきわめてまれであるが,対応を間違えば最悪の場合は窒息死という結果に至る可能性がある。その確固たる予防法がない現状では,十分なインフォームドコンセントを行った後に,常に本合併症の対応を準備した状況で星状神経節ブロックを施行すべきである。・現在,一部であるが医療鑑定にカンファレンス方式(複数の専門家による討論)を採用し,より医療の現状に沿った判決を下そうとの試みを司法が始めている。・本件では,日本外傷学会外傷初期診療ガイドラインと日本ペインクリニック学会治療指針が証拠として採用されている。今後も医療訴訟においてはガイドライン・指針の存在が重要視されるかもしれない。
著者
世戸 博之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.751-765, 2017-12-01

高齢者の転倒は単なる事故ではなく,複数の要因により生じる症候群である。また,転倒は高齢者における外傷やそれに起因する障害,死亡の主要な原因であり,転倒によりADLの低下,施設入所,抑うつなどの合併症が生じ得る。このように,転倒は高齢者の予後を大きく左右する重大な事象であるため,包括的な評価および予防が重要となる。 本稿では,まず前半で転倒の疫学,高齢者における転倒のリスク因子やリスク評価,予防について解説し,続く後半で,高齢入院患者の転倒に対してどのようにアプローチすればよいかを述べる。
著者
江川 裕人
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.457, 2020-07-01

臓器移植は,20世紀において人類が科学と愛を究めて到達した医療の最高傑作である。無償で他人へ自らの臓器を与えることは崇高な行為である。臓器提供者には最高の敬意を払わねばならない。そのために医療者にできることは,提供の意思に応えること,すなわち,臓器を良い状態で臓器不全の患者に届けることと,最高の技術で移植手術を実施し緻密な管理で1日でも長く健やかに生かすことである。その結果,臓器不全の患者が健康になり社会に貢献することで,他者への愛と感謝に満ちた社会が作られる。その理想を実現するために多くの課題がある。 平成29年度の臓器移植に関する世論調査で国民全体の42%が,50歳未満では約60%が,自身が脳死・心停止になったときに臓器提供をしてもよいと答えている。「臓器移植に関する法律」には提供の意思は尊重されなければならないと明言されている。しかし人口100万人当たり提供比率は世界最低ランクで,韓国や台湾の1割である。なぜか? すべての宗教の基本原理は許しと他者への愛であるし,上記の調査結果から宗教や死生観の問題ではないことは明らかである。
著者
島薗 進
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.484-485, 2020-07-01

■日本の脳死をめぐる議論—二元論批判広く東アジアにおける脳死臓器移植が進まない理由を考える前に,日本における1980〜2000年代にかけての脳死をめぐる議論について述べる。 日本では1980年代以降,脳死認定に基づく臓器移植について活発な論議が行われ,90年にいわゆる「脳死臨調」(臨時脳死及び臓器移植調査会)が設置され,国民的議論といってよいほどに関心を集めた。審議の結果は92年に「脳死及び臓器移植に関する重要事項について(答申)」にまとめられ,その答申に沿って97年に「臓器の移植に関する法律」が成立した。
著者
青山 和義 竹中 伊知郎
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.638-643, 2014-07-01

呼吸器手術では多くの場合,一側肺換気one-lung ventilation(OLV)の施行が必要となる。OLVにはダブルルーメンチューブdouble-lumen tube(DLT)の使用が一般的であるが,DLTは,太く,長く,独特の形状をもつため,通常のシングルルーメン気管チューブsingle-lumen tube(SLT)よりも挿管が困難である1~3)。マスク換気困難,気管挿管困難などの気道確保困難症例であれば,DLTの挿入はさらに困難となる。気道確保困難症例におけるOLVの施行は,呼吸器手術の麻酔の大きな問題点の一つである。
著者
宇都 飛鳥 宮下 和季
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.360-362, 2016-06-01

グルココルチコイドは血糖に影響を与えるステロイドの総称で,ヒトではコルチゾール(=ヒドロコルチゾン)が代表的である。1949年にグルココルチコイドが臨床応用されるようになって以来,その抗炎症作用,免疫抑制作用により,副腎不全をきたす内分泌疾患のみならず,自己免疫疾患や血液疾患など,これまで予後不良,致死的だった疾患を救命できるようになり,各分野に多大な恩恵をもたらしてきた。 一方で,グルココルチコイドの長期服用例では,視床下部-下垂体-副腎皮質系hypothalamic-pituitary-adrenal(HPA)axisで制御される,内因性のステロイド産生系への抑制効果を生じることが報告されている。また,HPA axisに影響を及ぼすような下垂体や副腎の手術では,ステロイド産生が不足して急性副腎不全をきたす可能性がある。 本稿では,周術期に副腎不全を発症し得る,ステロイド長期服用例に対して手術加療を行う際のステロイド補償(ステロイドカバー)や,HPA axisに影響を及ぼすような手術の周術期管理を示す。また,当院で行っている下垂体手術時のステロイド減量投与法の実際について述べる。
著者
北野 夕佳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.272-280, 2014-03-01

本稿は第3回である。ベッドサイド5分間ティーチングの目的やどのように行うかなどの総論は,第1回で詳しく述べたので繰り返さない。読んでいない読者は,本稿をより有効活用できるように,是非第1回も読まれることをすすめる。以下「5分間ティーチング」の具体例を,今回もページ数の許すかぎり紹介していきたい。
著者
池知 大輔 山下 進
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.11-17, 2020-01-01

脳卒中症例では,非感染性の発熱を伴うことが多く,神経原性発熱あるいは中枢性発熱と呼ばれる。これは視床下部に存在する体温調節中枢の障害によるものと考えられている。視床下部に障害がなくても,脳脊髄液腔に出血があるとプロスタグランジンE2が産生され,生理的な体温上昇が生じる。 脳卒中症例では,急激な心機能低下を伴うことも多い。これは自律神経を介するカテコールアミンサージによって心筋障害を生じるためと考えられている。特に,自律神経ネットワークの中心に位置する島皮質の障害があるとリスクが高くなる。 くも膜下出血に伴う血管攣縮の原因は,いまだに解明されていない。単純な脳主幹血管の攣縮だけでなく,微小循環障害なども遅発性に生じる虚血性障害の一因と考えられている。
著者
宮坂 勝之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.569, 2020-06-01

パルスオキシメータの発明者である青柳卓雄博士(日本光電工業 青柳研究室室長)が,2020年4月18日にご逝去されました。怜悧な84歳であり,数か月前にパルスオキシメータの理論の確立と実証,そして精度の向上への不撓の決意を伺ったばかりの私は惜別の念に堪えません。麻酔科での応用から,日常生活の安全にまで及ぶその発明の恩恵は,人類の歴史に残る偉大な業績です。 患者モニター機器の開発にかかわる医療者や科学者の国際団体であり,IEEE*1 Medal for Innovations in Healthcare Technologyの受賞(2015年)に大きな役割を果たしたIAMPOV*2の関係者から,一斉にノーベル賞目前であった青柳博士の逝去を残念がる声が寄せられ,博士が世界に与えた貢献の大きさが偲ばれます*3。
著者
松田 直之
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.71-75, 2020-04-10

麻酔,集中治療,救急医療のプロフェッショナルにおいて,患者の利益が高くなるように最善の医療を提供するための工夫は多様である。医の最善を工夫する際に,その立ち位置が変わると視野も変わる。正の方向,あるいは未来方向からとらえる視点と視野,一方で,負の方向,あるいは過去から現在をとらえる視点と視野がある。また,良いものを与えようとする工夫の一方で,悪いものを与えないように工夫しようとする姿勢もある。こうした姿勢が,私たちの潜在意識の中で癖となってしまっているとき,私たちは自由な拡大性や包容性をなくし,討議する機会を失い,恐れや憎しみが蔓延する。 自身が絶えず成長するためには,常に自身の癖を理性的に自省し,自身をその癖から開放しようとする心が大切である。プロフェッショナルとしては,未来方向から現在をみて,最高の利益を現在に与えられるようにプログラムする「成功予測のプロ」,過去方向から現在をみて,不利益を未然に防ぐようにプログラムする「失敗予測のプロ」,このどちらの考えも取り込めるとよいのかもしれない。そんな中,時にプロフェッショナルは,提供した最善の工夫により社会の中で弾圧されることがある。 今夜は,皆さんが仕事の過程で傷つけられたり,悩んだりしたときの自省について考える。私たちがプロフェッショナルとして必要と感じるものは,社会にも必要なことである。抵抗にあってもあきらめずに伝え続けることは,プロフェッショナルに必要なことである。発信する私たちは,一方で反応する私たちでもあり,生じた事象に対する洞察や思索を繰り返し,アサーティブ・コミュニケーションを通して自身や社会を成長させることが大切である。
著者
中川 聡
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.105-111, 2015-01-01

2013年の初めに,OSCILLATE*1 trial1)とOSCAR*2 study2)という2つの大規模多施設共同研究の結果がNew England Journal of Medicine誌に発表された。いずれの研究も,成人の急性呼吸窮迫症候群 acute respiratory distress syndrome(ARDS)において,高頻度振動換気法high-frequency oscillation(HFO)と通常の人工呼吸法を比較したものである。その結果は,HFOは,通常の人工呼吸以上の効果はないどころか,OSCILLATE trialではかえって死亡率を増加させる,と報告された。はたして,これらの臨床研究は,HFOを正当に評価する研究だったのだろうか。Summary●成人のARDS患者に対して,OSCILLATE trialとOSCAR studyの2つの大規模研究では,HFOは通常の人工呼吸以上の効果はないと発表された。しかし,これらの研究では,プロトコルと患者選択に問題があった可能性が指摘されている。●ARDSの肺病変は均一ではなく,異なる病態に合ったHFO戦略を構築すれば,HFOが有効に作用する可能性がある。●現在,日本呼吸療法医学会のワーキンググループが,日本版成人用HFOプロトコルを作成中である。
著者
官澤 洋平 石丸 直人
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1064-1071, 2018-12-01

1.Endovascular ultrasound renal denervation to treat hypertension(RADIANCE-HTN SOLO):a multicentre, international, single-blind, randomised, sham-controlled trial. Lancet 2018;391:2335-45. PMID:29803590[研究デザイン]多施設多国籍一重盲検無作為化sham対照試験[背景・目的]ラジオ波腎神経焼灼術は,中等症の高血圧患者への血圧降下作用が知られている。代替療法の血管内超音波腎神経焼灼術が,高血圧患者で降圧薬なしの場合に,外来血圧の降下作用があるかどうか検証する。[対象]米国の21施設,欧州の18施設を受診した,次の2つの定義を満たす18〜75歳の高血圧患者:①2剤までの降圧薬を中止してから4週間後の外来血圧が135/85mmHg以上,170/105mmHg未満,②腎血管に解剖学的異常なし[介入・方法]治療群〔Paradiseシステム(ReCor Medical)を用いた腎神経焼灼術を施行〕と腎血管造影のみのsham群へ1:1に無作為に割り付けた(隠蔽化あり,患者-研究者-アウトカム評価者盲検)。[プライマリアウトカム]ベースラインから2か月後における日中の外来収縮期血圧の平均変化(ITT解析)
著者
吉田 健史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.46-50, 2015-01-01

急性呼吸窮迫症候群acute respiratory distress syndrome(ARDS)に対する人工呼吸器管理は,ガス交換を改善し呼吸仕事量を軽減させる最も重要な治療手段である。人工呼吸器管理はARDSの治療において必要不可欠である一方,それ自体が,肺傷害を悪化させ,死亡率を増加させる一因になることが示されている〔人工呼吸器関連肺傷害ventilator-induced lung injury(VILI)〕1)。そのVILIを規定する因子は,stressとstrainである2)。stressとは肺実質にかかる圧のことであり,strainとは(機能的残気量から変化する)肺実質の歪みのことである。これらstressとstrainを制限するために,我々はプラトー圧と1回換気量を制限する肺保護換気戦略を行ってきた3)。 この肺保護換気をさらに促進させるため,人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存するかどうか長年議論されている。人工呼吸器管理中の自発呼吸の役割に関しては,酸素化能の改善,ICU滞在日数および挿管日数の減少など,自発呼吸の有用性を報告する研究4〜6)がある一方で,severe ARDS患者に対する早期の筋弛緩によるfull supportが予後を改善させる7〜9)という,従来の自発呼吸の研究結果に相反する臨床結果が近年示された。さらに,人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存すると,肺保護換気戦略に従ってプラトー圧と1回換気量を制限していたとしても,実はstressとstrainを制限できていない10〜12)ことが明らかになってきた。したがって,このコラムでは人工呼吸器管理中の自発呼吸を残すpartial ventilatory supportと筋弛緩によるfull supportの役割を論じる。Summary●人工呼吸器管理中に自発呼吸を温存した場合,プラトー圧と1回換気量はstressとstrainのよい指標にはならない。●人工呼吸器管理中の自発呼吸は,肺保護換気戦略に従ってプラトー圧を制限したとしても,経肺圧を増加させている危険性がある。●人工呼吸器管理中の自発呼吸は,肺保護換気戦略に従って1回換気量を制限したとしても,pendelluft現象のために肺局所の過伸展を引き起こしている危険性がある。●筋弛緩によるfull supportにより,経肺圧の厳格な管理が可能となり,pendelluft現象を防ぐことができる。●自発呼吸を残すpartial ventilatory supportと筋弛緩によるfull supportはARDSに対する人工呼吸器管理において相反するものではなく,ARDSの重症度と肺保護換気戦略を念頭において,むしろ一連の治療のなかで同時に行われる管理方法である。
著者
野地 善恵 小原 伸樹 山本 純偉 橋本 学 萩平 哲
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.245-261, 2020-03-01

患者に対して手術中の無記憶や不動を保証するのは,麻酔科医が日常的に行っていることである。しかし,同じことを手術室外の,普段とは異なる環境で実現しようとすると,さまざまな制約に直面する。 今回の症例カンファレンスでは,これまで全身麻酔を行った実績のないCT室におけるドレナージ手術において,術中覚醒の既往のある患者の無記憶を保証したい,という状況でどのような麻酔方法を選択するかについて検討した。 それぞれの施設における環境やルーチン,麻酔科医の経験などによって戦略も変わるだろう。読者自身の施設であればどうするか,よりよい管理方法について考える機会になれば幸いである。