著者
鈴木 秀鷹 江川 悟史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.763-775, 2019-12-01

[要点]●てんかん重積状態はできるかぎり早く停止させる。●第1段階治療薬はベンゾジアゼピン系薬物を使用する。●第2段階治療薬はホスフェニトイン以外にも,近年,レベチラセタムの有用性が報告されている。●発作の臨床徴候が改善しない場合や意識が改善しない場合は,持続脳波モニタリングを検討する。●発作の停止もさることながら,迅速な原因精査が重要である。
著者
山本 晃士
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1158-1159, 2020-11-01

術中の出血量増加時には凝固障害の程度を評価するため,一般的にプロトロンビン時間(PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)検査が行われる。しかしPT,APTT値は,必ずしも患者の凝固能を反映しているとはいえない。そもそもPT,APTT検査は,凝固障害の原因がどこにあるか(内因系凝固経路か外因系凝固経路か両方か)を知るために有用な質的検査であり,定量的な意味合いで用いられるのは,ワルファリンやヘパリン投与時の効果判定および投与量の調節の際くらいである。端的にいえば,「PT,APTT値30%」がすなわち「凝固因子量30%」ということではなく,いったいどの程度の凝固能が維持されているのか,PT,APTT値から見当をつけることは難しい1,2)。治療に際しても,「新鮮凍結血漿(FFP)をどのくらい投与すればどの程度PT,APTT値がよくなるか」がわからないのである3)。つまりPT,APTT値には,「治療による達成目標値を決められない」という致命的な欠点がある。また,PT,APTT検査は凝固反応(=トロンビン生成反応)の初期相のわずか5%程度の良し悪しを反映する検査であり4),トータルとしての凝固能を表す指標とはなり得ない。そして最も重要なのは,高度な低フィブリノゲン血症(<100mg/dL)に陥ってもPT,APTT値はそれほど延長せず,大量出血をまねく危機的状況を察知できないことである(表1)。したがって,FFP投与のトリガー値をPT,APTT値とするのは不適切であると言える5,6)。 最近,ベッドサイドで全血を用いて迅速に検査できる「point-of-care(POC)テスト」が注目されている7)。中でもさまざまな観点から血液粘弾性を評価できるトロンボエラストメトリーrotation thromboelastometry(ROTEM)およびトロンボエラストグラフィthromboelastography(TEG)の有用性が期待されている。しかし,大量出血の主要因となる凝固障害の本態は「高度な低フィブリノゲン血症」であることがわかってきており8),リアルタイムに評価すべきなのは患者の血中フィブリノゲン値である。そして「高度な低フィブリノゲン血症」の改善のためには,乾燥人フィブリノゲンもしくはクリオプレシピテートなどの濃縮フィブリノゲン製剤の投与が必須である9,10)。こう考えると,術中大量出血時にPOCテストを使っていち早く知るべきはフィブリノゲン濃度であり,そのためには血液凝固分析装置Fib Careなど,フィブリノゲンに特化した検査機器で十分である。なぜなら,フィブリノゲン値から他の凝固因子の低下度もおよそ把握できるからである。仮にPT,APTT値がすぐにわかったとしても,その値に応じた治療(すでにFFPは十分投与しているはず)を選択できるわけではない。つまり,「治療につながらない検査をPOCテストで行う必要はない」ということであり,標的を絞った迅速検査と,その検査結果に応じた実効性のある治療が最も重要なのである(表2)。
著者
中江 文
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.725-732, 2021-07-01

はじめに筆者が麻酔の臨床を学んだ当時,プロポフォールは眠らせる薬,つまり鎮静のための薬,フェンタニルは痛みをとる薬,つまり鎮痛のための薬と教わった。だから,麻酔中は鎮静度が足りないのか鎮痛が足りないのかを,血圧や心拍数といった限られたモニター上の数値から想像し,それぞれの薬の投与量を調節してきた。今思えば,そこに確固たる根拠があったわけではなく,その時一緒に仕事をするベテラン麻酔科医の嗜好に左右されていた。ある医師は「もっと寝かせないとだめだろう!」と言い,ある医師は「これは,侵害刺激がブロックできていない状態なので痛み止めだ!」と,それぞれの持論を展開していた。ここで不思議なのは,どちらのやり方を選択しても,それなりのゴールに到達できたということである。 なぜだろう?
著者
水谷 光 藤井 倫太郎 内田 恵 明智 龍男 山本 英一郎 松岡 豊
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.657-669, 2021-07-01

今月は,手術室でどう麻酔するかではなく,外来での術前診察について考えてみたい。麻酔科診療における術前診察の重要性は,改めて述べるまでもない。身体面だけではなく,精神的もしくは心理的な困難をもつ患者も少なからずいる。そもそも,手術前の患者は誰もが不安を抱えている。われわれ麻酔科医の言動次第で患者の不安をさらに膨らませてしまうかもしれないし,うまく対応すれば患者の不安を和らげることだってできるかもしれない。今日の術前診察にこのような患者が来たら,読者はどのように診察を進めるだろうか? 一緒に考えていただきたい。
著者
土井 健司
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.470-472, 2021-05-01

時間がない?!TEEで何を評価するかみなさん,こんにちは。TEEしてますか。今回は,Stanford A型大動脈解離の術中TEE評価のお話です。「A型大動脈解離の緊急手術が入ります」と外科医から連絡がくると,われわれ麻酔科医は「上行置換術でサクッと終わればいいな…」などと淡い期待を抱いて臨むものです。 しかし,患者の病態だけでなく,施設の状況や術者の好みによる違いなどで,大動脈解離の術式は多彩であり,注意すべきことも満載です。
著者
上農 喜朗
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.533-542, 2021-05-01

はじめに1997年,私は創刊されて間もない本誌に「熱力学と麻酔」というタイトルで,熱力学的な視点からみた麻酔作用機序を紹介しました1)。それから約四半世紀がたちましたが,最近も同じような検討を行った論文が発表されています2,3)。熱力学に例外はなく,当然なこととはいえ,昔の研究が再検討され支持されたことは嬉しいことです。 ところで,私は当時からリン脂質膜の相転移温度を低下させたり,酵素の反応を抑制したり,膜の活動電位を抑えるというような分子レベルでの麻酔薬の作用と,生体で見られる麻酔現象の間に乖離があることが気になっていました。そこで,両者をつなぐ神経ネットワークに重要な役割があるのではないかと考えていました。 その頃漠然とイメージしていたのが,本稿のサブタイトル「意識は記憶の時間微分である」という言葉です。全身麻酔の重要な要素である意識消失を数学的に表現したものです。本稿では麻酔薬の分子レベルでの効果と臨床の麻酔作用をつなぐものとして神経ネットワークをモデル化し,麻酔薬が作用したときの伝達遮断を数学的に考察します。
著者
George Zhou 長坂 安子
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.500-502, 2021-05-01

ポストコロナの時代が到来しても,外国人患者の数はこれまでと変わらずに増えていくことが予想されます。そこで,Zhou先生に,回復室でよく使う基本的な英語のフレーズを教えていただきます。(長坂 安子)
著者
山田 高成 橋本 雄一 浅井 隆 滑川 元希 中川 雅史 古谷 健太
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.447-461, 2021-05-01

「全身状態が悪いので局所麻酔で手術してみたのですが,結局うまくいかなかったので,麻酔科管理でお願いします!」外科医からこう依頼されると気持ちは複雑だ。麻酔科医冥利に尽きる機会に間違いないと思う反面,よほど状態の悪い患者に違いない。聞けばこれまでに術後抜管困難で気管切開したことがあるとか。しかも腎移植後で,血管閉塞の手術をしたいとのことである。今回は気管切開せずに済むかな…,大事な腎臓も守り切れるか…。あれ,頸から何か入っている! ミニトラックだ! 抜いていいのか? こんな時は…そうだ,LiSAの症例カンファレンスで全国の麻酔科医に相談しよう! というわけで,先生方,お力をお貸しください!
著者
清水 淳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.438-445, 2017-05-01

オフポンプ冠動脈バイパス術(OPCAB)の術中管理では,グラフト採取中に輸液により前負荷を維持し,吻合開始後は血管収縮薬を使用して血圧を維持するといった方法が一般的であろう。榊原記念病院(以下,当院)でも2005年当時は,収縮期圧80mmHgを目標にし,吻合開始までに3000mL程度の輸液を行い,吻合開始後はノルアドレナリンの持続投与で管理を行っていた。その後,ノルアドレナリンからフェニレフリンへの変更(ノルアドレナリンによるβ刺激作用が吻合の妨げとなる症例があるため),吻合開始までの輸液量の低減(メモ1)などを行うとともに,目標血圧を徐々に低下させ,現在の収縮期圧60mmHgを目標とする管理に至った。 近年OPCABでは,グラフト吻合のクオリティが低くなる可能性が指摘されている1)。この問題に対して,吻合のクオリティ維持を目指した管理が当院の現在のスタイルといえるかもしれない。一般的とはいい難い部分もあるが,筆者らが現在のやり方に至った経緯と管理上のtipsを紹介する。
著者
衛藤 由佳
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.125-129, 2021-04-15

本別冊の中心読者である後期研修医は,ある程度の経験を積み,自分の手技に少し自信がついてきた頃だろう。過去の『シェヘラザードたち』を読めばわかるとおり,一人でなんでもできるような気になって患者を危険にさらしてしまった,と反省している先輩は多い。筆者は,どちらかというと臆病者で,さらに慎重派の先輩に囲まれていたため,少しでも不安があれば「一人でやらない」「人を呼ぶ」を徹底していた。気道確保に関していえば,後期研修医であっても手術室外での挿管はさせてもらえないこともあった。しかし,そのおかげもあってか,輪状甲状膜切開などの緊急外科的気道確保に至ったことはなく,困難症例から先輩たちのテクニックを学んだり,さまざまな考え方を知ることもできた。 麻酔科の専門性といえば,気道管理にある。当直中に「麻酔科の先生! 挿管助けてください!」と呼ばれたことのある読者もいるだろう。今夜お話しするように,手術室外での気道確保は手術室内と異なる点が多く,一人で対応しようとすると危ない落とし穴がいくつもある。そこで,きたる麻酔科コールに備えて,気をつけるべき点を挙げていく。
著者
樋口 秀行
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.121-125, 2019-04-19

丁度この原稿を書き始めたころ,嬉しいニュースが飛び込んできた。京都大学高等研究院特別教授の本庶佑先生がノーベル生理学・医学賞を受賞したのであった。日本人として誇らしく思うのは当然であるが,筆者が特に共感したのは本庶先生の「教科書を信じるな」という言葉であった。もちろん,本庶先生と同列に語るのは誠におこがましいことと重々承知はしているが,“我が意を得たり”という気持ちになったのである。筆者がここ最近行ってきた研究は妊娠子宮の左方転位についてであるが,この左方転位は産科麻酔領域の教科書において古くから,お作法,ドグマのごとく遵守しなければならない手技であるかのように記載されてきた。左方転位を施行していなくても教義違反で罰せられることはないものの,軽蔑の目を向けられるか,または不勉強の謗りを免れないのであった。今回,筆者がこのドグマにどのような経緯で挑戦したかを述べたい。
著者
上山 博史
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.7-12, 2019-04-19

最近,術中の医療安全に貢献する重大な発見をした。“昼食後に眠くならない食事法”である。これを日本麻酔科学会関西支部で発行している「近畿麻酔科医界」という新聞に“麻酔科医にとってきわめて重要な発見”というタイトルで投稿したところ,配布直後に行われた関西支部学術集会で多くの先生方(本当に何十人も)から「面白かった」,「ためになった」,「山村賞に値する大発見」(本当にそう言われた)とのお褒めの言葉をいただいたほどである。私はかねがねこの大発見を関西だけにとどめておくのはもったいないと考えており,全国的に発表する機会を虎視眈々とねらっていた。今回,ここにご披露する。
著者
毎日がSonntag
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.423, 2021-04-01

「知的」アプローチを「血的」かつ「痴的」観点から紹介する屠蘇をコンビニの安酒で済ませたせいか,あるいは「密」を避けるため初詣に行かなかった罰が当たったのかわからないが,新年早々に難題を抱えることとなった。何を血迷ったか,さほど親しくもないLiSA編集長に時候の挨拶メールを送ったのがそもそもの間違いである。昨年末に出版されたばかりの本の批評文を書かされることになった。 麻酔科医なら知らぬ者の無い(もしあなたがその名を知らないとしたら,それはそれでおめでたいことである)稲田英一先生の『麻酔への知的アプローチ』である。初版から30年,第11版を数えるベストセラー,麻酔科医のマストアイテムといえる書物に,今更批評などがいるのだろうか? 著者の薫陶を受けた教授が全国に星の数ほどいるだろうに,場末の一麻酔科医に過ぎない評者に依頼するとは,編集部の思惑が窺われる。それでなくともコロナ感染爆発で気の休まらない時に,北陸の家々に降り積もる雪のような重荷を背負ったわけである。長時間作用型筋弛緩薬を投与して,Macintosh型喉頭鏡を口の中に突っ込んだら Cormack 分類 grade 4 だった時に匹敵する後悔であるが,スガマデクスがあるのが当たり前の環境で育った過保護な麻酔科医には想像もつかないだろう。
著者
渡部 達範
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.374-377, 2021-04-01

血管穿刺は薬物の投与,輸液・輸血による循環血液量の補正や貧血の改善,高カロリー製剤の投与,動脈圧や中心静脈圧などの測定を行うために必須の手技である。特に全身管理を行う麻酔科領域では基本中の基本手技である。穿刺法に関しては解剖学的な知識をもとにしたブラインド穿刺が広く行われている。しかし近年,特に中心静脈穿刺においてはブラインド手技に代わって超音波断層像を用いる超音波ガイド下手技が推奨されている。
著者
長野 仁
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1062-1068, 2019-11-01

うちばり(打鍼)・くだばり(管鍼)・けいはり(経鍼)中国では元代に「子午八穴鍼法」*12が登場するなど,四肢(手足)の要穴を多用するのに対して,日本では五大思想(五輪発生説・諸虫病因論)のバイアスによって体幹(背腹)の要穴を重視するよう変容を遂げた。 日本でいつから「打鍼」(図6)が行われるようになったのかは詳らかでない。正親町天皇・後陽成天皇に仕えた鍼博士・御薗意斎(1557〜1616)の遠祖で,花園天皇(1297〜1348)に仕えた多田次郎為貞を創始者とする説は時代が早すぎて首肯しかねるが,遅くとも戦国期に実施されていた状況証拠がある〔煙蘿子針灸法青樵齋道丹自序;1530〕。「蓋し,牡丹根は甜(甘)うして,螙蟲*13これを損ず。その旁ら,常に小穴あり。すなわち蟲の所為の処なり。花工,硫黄を点して其の樹に鍼し,艾炷を以て其の根に灸す。これ花を医するの法と謂う」は,諸虫の退治を目的とした「打鍼」の隠喩と考えられるが,宋代の園芸書を典拠としている点は興味深い〔洛陽牡丹記三・風土記;1072迄〕。なぜなら,打鍼のアイデアの源泉が法具や神器の延長線上ではなく,園芸からの技術転用という新たな可能性が開けるからである*14。
著者
吉矢 生人 山西 昭夫
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.258-261, 2021-03-01

パルスオキシメータは,今や世界中で血圧計や心電図などと同等の必要欠くべからざる医療機器となっている。その基本原理を発明し,世界で初めて脈波を利用した非侵襲的な血液酸素飽和度測定機器を開発したのが青柳卓雄博士である。 2020年4月に青柳博士のご逝去を知り,基本原理の発明にとどまることなく直近まで偽アラームの起きない真のパルスオキシメータ開発に情熱を注ぎ続けた博士を想い,寂しいかぎりである。謹んでご冥福をお祈りいたします。 筆者らとそれぞれの共同研究者らは,博士と同様の原理にもとづく光ファイバー指先型パルスオキシメータOXIMET MET-1471(ミノルタカメラ社,以下OXIMET)の開発にかかわった。当時の光ファイバー式OXIMETは現在の医療現場には影も形もないが,青柳型パルスオキシメータと現在世界中で使われているパルスオキシメータとの橋渡しの役割を担ったと考えられる。 本稿では,ミノルタカメラ社(以下,ミノルタ社)でのパルスオキシメータ開発の経緯とその臨床応用への試みについて述べる。当時の資料が散逸しており,記憶が定かでない部分もあるがご寛容いただきたい。
著者
福島 東浩 内野 滋彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.285-289, 2014-04-01

ICUにおいては,一般的に面会制限が行われている。その理由は,主に感染,業務の負担増加,適切な医療環境が乱されることなどへの懸念が考えられる。しかし,実際にどの程度の根拠があって面会制限が行われているのか,この点について検討された研究は驚くほど少ない。 そこで本稿では,これらの懸念と面会との関連性や,面会時の対応についてガイドラインなどのわずかな情報を参照しながら,考察してみたい。 Summary ●多くの国々のICUでは面会の際に時刻や時間,年齢などを制限している。 ●面会に制限を設ける理由は,感染や業務の負担増加,適切な医療環境の維持が乱されることへの懸念が挙げられるが,それらを示す報告はほとんどない。 ●患者だけでなく家族の立場にも考慮し,面会制限の緩和・解除を広げるべきである。
著者
宮部 雅幸
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1180-1182, 2013-12-01

三重大学麻酔科医の大量退職に伴い, 2004年に麻酔管理と臨床実習に業務を特化した臨床麻酔部が作られた。その後, 2009年秋に大学の講座となり,筆者が新教授として選出された。赴任時は,外科医や外勤麻酔科医が麻酔を担当していたが,4年が経過し,全身麻酔および,区域麻酔のすべてを臨床麻酔部が担当している。2012年度の手術件数は5743件で,麻酔部管理は4200件程度であった。これを,筆者を含め8人の麻酔科医(後期研修医も含む),3~4人の初期研修医,2人の専属麻酔支援看護師で担当している。 このマンパワーで,臨床麻酔部は臨床実習に関しても,学生から高い評価を得ている。2012年度の5年生からは,調査項目すべてにわたって高得点が得られ(図1),診療科別総合評価で麻酔科が第1位であった。 本稿では,筆者がどのように学生教育に携わっているかを述べる。
著者
樋口 秀行 稲垣 友紀子 平手 博之 高須 宏江 大越 有一 大日方 洋文 太尾田 正彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.1-20, 2021-01-01

定例の手術もかなりはけて,少しまったりした雰囲気になっていた夕方の麻酔科控え室。そこに,緊急手術申し込みの連絡が入った。SARS-CoV-2肺炎による呼吸不全により人工呼吸管理を行っていたが,1日前に抜管した。本日,不穏状態になり,ベッド柵を乗り越え,落下し上腕骨を骨折した。開放創があるため緊急手術をしたいという内容であった。2日前のPCR検査ではいまだ陽性が持続しているとのことである。 日本麻酔科学会の指針では,区域麻酔で施行できる症例は極力,全身麻酔を避けるとあるが,最近,腕神経叢ブロックのみで外科手術を施行した経験もないし,斜角筋間アプローチによる横隔神経麻痺は困る。当院には陰圧手術室が存在しないし,個人防護具(PPE)の着脱を完璧にこなせる自信もない。どうしよう? あれこれ考えるが答えが出ない。 手術部位や施設,手術室の環境により,麻酔管理のアプローチは複数あると思われるが,おのおのが置かれた状況下で最善の麻酔管理方法について誌上で議論してみたい。