著者
住田 健二
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.42, no.8, pp.691-748, 2000-08-30 (Released:2009-04-21)
参考文献数
5

JCO臨界事故の発生から早くも1年が経過しようとしているが,この事故が与えた衝撃は原子力界全体を揺るがす大きなものであった。日本原子力学会においても,愛媛大学での「2000年春の年会」では多くの専門分野から多角的かつ熱心な討議がなされ,「原子力安全」調査専門委員会や各部会においても学会員の所属を超えた協力関係により,事故の経緯,原因および今後の対応についての解明や模索が続けられた。本「特集」では,これらの努力に基づいた現状での取りまとめを示すとともに,法律,保険など原子力分野以外の方にもご執筆いただき,JCO事故を教訓とした安全性研究への今後の取組みの方向性を考える上での一助となればと願う次第である。
著者
小西 哲之
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.680-686, 2019 (Released:2020-04-02)
参考文献数
10

トリチウム研究の現状と今後の展開と課題について,炉内の工学研究のみならず,環境,生物影響,社会との関係まで視野を広げて概観する。核融合炉ではトリチウムは法規制を十分に守っていても一定量のトリチウムを定常放出するため,周辺環境モニターで濃度上昇が検出されるのは不可避であり,その影響の評価と社会による理解,合意まで含めて考える必要がある。工学のみならず環境,生物関連研究や社会との連携の進展は,核融合原型炉の実現に向けて,着実なトリチウム取り扱い技術と経験の蓄積に基づく展開を開始する段階を迎えている。
著者
澤田 哲生
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.56, no.12, pp.776-779, 2014 (Released:2020-02-19)
参考文献数
11

正力大臣車中談(案)という風変わりな標題の史料がある。昭和31年の原子力委員会で諮られている。正力は東京から選挙区富山に電車でお国入りする車中で,随行記者団にさまざまな真情を披瀝した。同年1月中旬のお国入りの際には,原子力委員会発足直後の声明書の内容に関して談じた。原子力委員の湯川は,新聞紙面に踊った正力の車中談に接し,困惑と憤りを露にした。そんな背景に湯川ら物理学者と正力ら政治家の思惑の違いが根強くあった。それが,結果的に原子力ムラと御用学者を生む発端になったのではないか。史料をもとに論考する。

13 0 0 0 OA 海の国のアトム

著者
工藤 君明
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.336-340, 2010 (Released:2019-09-06)
参考文献数
5

海洋の科学と科学技術について,いまどんな研究が行われているのか,原子力にかかわっている方々にわかりやすく紹介するという機会をいただいた。地球は水の惑星といわれるが,それは地球の表面の2/3が海水で覆われているばかりでなく,固体地球の内部にも水の循環があり,そして巨大な山脈もかつては海の底だったからである。研究の分野は広く,専門分野が異なれば,なかなか理解も難しい。しかし分野が異なっても共通するのは人の情熱と努力である。自然の不思議に魅せられて科学するのは人である。科学技術を研究開発するのも,機器を操作し,データを管理するのも,また必要な予算を獲得して業務を管理するのも人である。さらに成果を享受し,評価するのも人である。人は国により,時代により,状況によってさまざまに異なる。しかし人を抜きに科学技術を語ることも,理解することも,役に立てることもできはしない。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が進めている海洋の科学と科学技術を,研究開発にたずさわる人たち(ここではアトムと呼ぶ)の目線で解説していくことにしたい。

13 0 0 0 OA 海の国のアトム

著者
工藤 君明
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.409-413, 2010 (Released:2019-09-06)
参考文献数
5

現代の地球科学における重要なキーワードは地球内部の水循環である。水を含んだ海洋地殻が大陸地殻の下にもぐりこんでいくときに,水は絞りだされて循環する。熱水現象も,地殻内微生物の存在も,また地震発生のメカニズムも地殻内水循環が重要な役割を果たしている。今回は私たちの生活に極めて身近な存在である微生物の利用と生物の進化,そして海溝型の巨大地震の研究と防災について考える。
著者
平山 英夫 松村 宏 波戸 芳仁 佐波 俊哉
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会和文論文誌 (ISSN:13472879)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.1-11, 2015 (Released:2015-02-15)
参考文献数
13
被引用文献数
2 9

Time histories of the I-131 concentration in air at monitoring posts in Fukushima prefecture in March 2011 were estimated using the pulse height distribution of a NaI(Tl) detector, which was opened to the public. Several corrections to the pulse height distribution were necessary owing to high count rates. The contribution to the count rates from I-131 accumulated around the monitoring post was estimated on the basis of the time history of the peak count rate by the method proposed by the authors. The concentrations of I-131 in air were converted from the peak count rates using the calculated response of the NaI(Tl) detector with egs5 for a model of a plume containing I-131 uniformly. The obtained time histories of the I-131 concentration in air at a fixed point in March 2011 were the first ones for Fukushima prefecture. The results at 3 monitoring posts, Naraha Town Shoukan, Hirono Town Futatunuma and Fukushima City Momijiyama, which can be analyzed during almost all of March, show that a plume including I-131 arrived after March 15. The results at other monitoring posts near Fukushima Daiichi Nuclear Power Station are used to characterize plume diffusion at the early period of the accident before March 15. The I-131 time-integrated concentrations in air at several monitoring posts were compared with those given in UNSCEAR 2013 ANNEX A, which were obtained using estimated time-dependent rates of release to the atmosphere. The agreement between the two results varies depending on the places compared, owing to the large uncertainties in the estimated release rate used in UNSCEAR. The results obtained in this study can be used to increase the accuracy of the time-dependent release rate estimation.
著者
斯波 正誼 天野 文雄
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.23, no.10, pp.736-745, 1981-10-30 (Released:2009-04-21)
参考文献数
21

The report presents the summary of Stockholm Conference held on October 20-24, 1980 sponsored by IAEA, where current nuclear power plant safety issues were discussed.Some technical topics are reviewed that include (1) examining nuclear safety, (2) siting policy, (3) designing for safety, (4) operational safety, (5) emergency planning, and (6) risk assessment, small leak loss of coolant accidents.
著者
吉田 至孝 宮野 廣
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.15-19, 2018 (Released:2020-04-02)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

東京電力福島第一原子力発電所の津波対策が不十分であったことが指摘され,裁判でその責任の有無が争われている。本検討では,裁判の中での議論には関与せず,純学術的観点から主に4事故調(国会,政府,民間,東電)報告書の内容を精査し,わが国および東電の津波対応に関する事実関係をまとめ,考察した。加えて,話題となっている国土庁と気象協会が作成した津波浸水予測図,津波高さ15.7mの試算とその予防効果,地震本部の長期評価などについても検討するとともに,得られた知見を紹介する。
著者
木下 冨雄
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌ATOMOΣ (ISSN:18822606)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.465-472, 2011 (Released:2019-09-06)
参考文献数
20
被引用文献数
5 3

私は社会心理学の研究者である。原子力の世界とは長いお付き合いがあるが,その中味は所詮外野席からの聞きかじりであって,専門知識は乏しい。したがって以下の意見は,原子力の専門家からすれば的外れのことも多いだろう。それを覚悟しながら,社会心理学,ないしリスク学の立場から見た今回の事故の問題点を述べることにしたい。
著者
天野 治
出版者
一般社団法人 日本原子力学会
雑誌
日本原子力学会誌 (ISSN:00047120)
巻号頁・発行日
vol.48, no.10, pp.759-765, 2006 (Released:2019-04-05)
参考文献数
7
被引用文献数
2 2

石油は1次エネルギーの40%を占め, われわれの生活を豊かなものにしている。ところが, われわれ人類は, 石油をこの50年で半分使いつつある。それも取り出しやすい, 経済的なものから使っている。残っているものは, 取り出すためにエネルギーがかかるものである。得られるエネルギーを取り出すためのエネルギーで除したものがEPR (energy profit ratio, エネルギー収支比) である。EPR=1はエネルギーを得るのと, 取り出すためのエネルギーが同じことを意味する。これは, 益がない。取り出すためのエネルギーとして, そのためにかかるすべての項目を可能な限り算定する。燃料の採掘, 輸送, 発電所の建設, 運転, 補修, 廃炉, 廃棄物処理・処分までを含む。EPRが高いことは, 石油の代替として有力な候補となる。 ウラン濃縮に遠心分離法を用いた原子力発電はEPRが高い。従来のガス拡散法はウラン濃縮に莫大なエネルギーが必要となり, 人力エネルギーを大幅に増加させるため, EPRは低くなる。EPRを高めるには, 出力エネルギーを増加させることも有効な方法である。具体的には, 稼働率を向上させること, 定格出力を上げることである。 風力発電や太陽光発電のEPRは高くはない。これは, 風の強さ, すなわち出力エネルギーが定格の60%以下と低いことと稼働率が低いことによる (風力は風が吹いている間, 太陽光は日中のみ)。LNGは気体であり, 輸送のために液化するエネルギーを費やすので, 石油火力や石炭に比べてEPRは低い。