著者
猪木 慶治
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.390-395, 1965-06-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
19
著者
福田 育夫
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.11, pp.793-799, 2017-11-05 (Released:2018-08-06)
参考文献数
27
被引用文献数
1

分子シミュレーション法は,原子間の力をできるだけ正確にモデル化することで,原子からなる多体系(生体分子や材料など)の性質をミクロな立場から調べることのできる重要な計算手法である.ただし,この分子シミュレーション法で最も厄介なのが長距離相互作用の扱いである.というのも,古典系では基本的に自由度数の二乗に比例する計算コストがかかり,また境界条件についても悩ましい問題があるからである.さらに,クーロン静電相互作用は,長距離相互作用の中でも取り扱いが自明ではない.距離の関数としてのクーロン関数の減衰が遅いため,最も簡単な計算スキームである単純カットオフ(ある所まで距離が離れたら力をゼロとする)が許されないからである.但し,クーロン相互作用は,重力(万有引力)と同様な関数形を持ちながらも,正負の符号がある点が異なり,これが物理現象の本質を捉える上でも,また効率的な計算スキームを考える上でも非常に重要になる.我々は,この正負の符号によって生じる相互作用のキャンセルという物理的アイデアを,数学的に定式化することで,「零多重極子和法」(Zero-Multipole summation Method; ZMM)という静電相互作用計算法を作った.この計算法では,クーロン関数の原子ペア毎の和の代わりに,クーロン関数を変形して得られたある関数の原子ペア毎のカットオフ形式での和を採用する.この変形は,静電相互作用がキャンセルされるという「中性条件」を満たした配置からの寄与を効果的に取り入れるために導入される.カットオフ形式での原子ペア毎の和で相互作用エネルギーが定義されるため,大規模系では系のスケールに比例する計算コストで済む.また,周期境界条件は必須では無くなるため,本来非周期的な系への周期境界条件の適用による不自然な問題は生じない.さらに,波数空間部分の計算も不要なため,高速フーリエ変換を用いた際の通信等の問題も回避でき,並列計算時等における大幅な計算時間短縮につながる.これらの点は,従来のエバルト法に基づいた方法と異なる.また,運動方程式を考えた時のエネルギー及び全運動量の保存則を壊すことも無い.ZMMを完全な対称性を持つイオン結晶系,及びその対称性が熱揺らぎにより崩れた液体イオン系に適用して高精度なエネルギーを得た.その際に得られた精度の,ZMMの持つパラメタへの依存性は理論的に説明できるものであった.さらに,ZMMを水分子系に適用し,エネルギー及び諸物理量を測定して,高精度な結果を得た.個々の水分子は永久双極子のため双極子中性条件を満たさないにも拘らず,良好な結果が得られた解釈として,常温・常圧の水分子系ではランダムに永久双極子が配向して,相互作用のキャンセルが起こるためだと考えることができる.しかし,そのようなことが起こらないはずの強誘電性結晶に適用しても良い結果が得られた.その完全な理解には到達していないが,相互作用の相殺以外の概念から導かれた静電相互作用計算手法とZMMとの関連を考察することが有効であろう.
著者
岡本 拓司
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
大学の物理教育 (ISSN:1340993X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.93-96, 2021-07-15 (Released:2021-08-15)
参考文献数
16

1.社会と物理学の関わり社会の動向が科学に影響を及ぼすという事態は,科学史では好んで取り上げられる話題であるが,ここでは逆の場合,つまり物理学が社会に衝撃を与え,歴史の流れを変えた事例を取り上げ
著者
梶田 隆章
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.783-784, 1998-10-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

スーパーカミオカンデ共同実験グループは, 本来6月岐阜県高山市で開催された第18回ニュートリノ物理学と天体物理学国際会議("ニュートリノ98")において「ニュートリノ振動の証拠」を発表した. 本稿ではこの発表の要点を報告する. なお, 紙面の関係上物理的背景等について触れないので, そちらは参考文献を参照していただきたい.
著者
秋本 祐希 蓑輪 眞
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.25-29, 2010-01-05 (Released:2020-01-18)
参考文献数
38

強い相互作用のCP問題の解決に伴って存在を予言されている,電気的に中性の擬スカラー粒子アクシオンの探索実験について述べる.アクシオンが存在すれば,太陽の中心部でプリマコフ変換に発生することが予測されている.われわれの開発した東京アクシオンヘリオスコープは,強い磁場中でアクシオンをX線に変換することにより,この太陽アクシオンの探索実験を行っている.
著者
Tomio Petrosky 野場 賢一
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.2, pp.121-126, 2017-02-05 (Released:2018-02-05)
参考文献数
10

我々の太陽は数十万個以上の小惑星群によって帯状に囲まれている.火星と木星の間に数多く存在している小惑星の長半径方向の空間分布は縞構造をしており,バンド構造を持っている.また,その分布上の縞構造のギャップの位置が小惑星の振動数と木星の振動数が単純な整数比になるところに存在している事実から,このギャップが現れる定性的な根拠は木星の運動と小惑星の運動の間の共鳴効果によるものであることがわかる.しかし,古典力学では共鳴効果が系の運動の恒量を破壊してしまうために非可積分となり,軌跡を扱う力学の常套手段である正準変換によって系の定量的な振る舞いを解析的に論じることが原理的に不可能になっている.本稿では,その定量的な分析をするために,少数系の古典力学で伝統的に使われてきた軌跡力学とは全く別で,それとは相補的なリウビル力学の立場から,どのようにこのギャップの大きさが評価されるかを紹介する.筆者の一人(TP)は非平衡統計力学を長年研究テーマとしてきて,古典力学でも量子力学のハイゼンベルグ表示に対応する物理量の時間変化を記述する方法と,シュレディンガー表示に対応する状態関数の時間変化を記述する方法があることに深い関心を持っていた.古典力学ではハイゼンベルグ表示に対応する記述法の基本方程式はハミルトンの運動方程式であり,シュレディンガー表示に対応する記述法の基本方程式はリウビル方程式である.非平衡統計力学では自由度の数があまりにも多く,その系に対応するハミルトン方程式を全部書き下すことができない.そのことから,この分野では状態関数というたった一つの関数の時間変化を記述するリウビル方程式を追うことにして,リウビリアンやそれに類似したボルツマン方程式の発展の生成演算子である衝突演算子の固有値問題の解から,系の力学的性質を分析する.そして,これらの古典力学的演算子にも,量子力学のハミルトニアンと同じように連続スペクトルを持つ場合もあれば,典型的なガス系のように不連続スペクトルを持つ場合もあることはよく知られている.それなら,リウビリアンにも結晶中の電子のハミルトニアンのようにバンド構造を持つ場合があるのでないか.もしそうなら,リウビリアンの物理的次元が振動数であることから,Keplerの第3法則によって振動数スペクトルのバンド構造はそのまま小惑星の空間分布の長半径方向のギャップを与えるのではないか,という考えを筆者の一人(TP)は大分以前から暖めていた.最近になって,日本の物性物理学者の何人かの友人と議論することによって,摂動の影響で共鳴点上でのハミルトニアンの固有値の縮退が解け,準位反発によって電子のエネルギーギャップが起こるのと同様な数学的メカニズムで,小惑星の振動数スペクトルにも木星の摂動で準位反発が起こり,ギャップが現れることを見出した.この取り扱いでは,たとえ古典力学の非可積分系であっても,縮退のある場合のよく知られた摂動論を使って,そのギャップを定量的に論じられる可能性を与えてくれる.
著者
増山 雄太 中村 泰信 野口 篤史 布能 謙 村下 湧音 河野 信吾 田渕 豊 山崎 歴舟 上田 正仁 Pekola Jukka P.
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会講演概要集
巻号頁・発行日
vol.71, pp.2649, 2016

<p>本研究では,三次元マイクロ波共振器中に超伝導量子ビットを配置した系により,超伝導量子ビットに対して射影測定を行い,その結果を用いてコヒーレンス時間内にフィードバックし,再び超伝導量子ビットを射影測定した.この一連の測定結果から,絶対不可逆な過程の寄与も考慮に入れた一般化された積分形のゆらぎの定理を検証した.この結果は量子系におけるMaxwellの悪魔を初めて実装できたことを示している.</p>

2 0 0 0 OA 弦理論と数論

著者
黒川 信重
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.951-953, 1988-12-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
22

素粒子の弦理論の一つの特徴は, 数論の様々な性質が深く使われている点にある. 数論の大きなテーマは保型形式とゼータ関数である. ここでは弦理論で使われてきた数論の結果を保型形式を中心として概観し(§1), 弦理論から得られるゼータ関数の値に関する結果に触れる(§2). さらに, p進弦理論(Volovich)や類体論の非可換版も視野に含む一般の体上の弦理論(Wittcn)に言及する(§3). 数論を弦理論に応用することは自然であるが, 現在は既に弦理論を用いて数論を研究する段階に来ていると思われる.
著者
馬渡 峻輔
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.266-273, 1998-04-05 (Released:2008-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

生物の示す複雑性の一つ, 種多様性species diversityを研究し, 理解する学問が分類学である. この稿では分類学を説明することで, 種多様性を理解するとはどういうことか考えてみたい.
著者
津田 俊輔 横谷 尚睦 木須 孝幸 辛 埴
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.258-262, 2002

光電子分光のエネルギー分解能はここ20年で2桁向上し, 最近では1meVに迫る分解能も得られるようになった. その結果, 光電子分光測定からも固体物性を支配するフェルミ準位極近傍の数meVという微細なエネルギースケールを持った電子構造を直接的に観測できるようになった. 本稿では超高分解能化および測定試料温度の低温化により拓かれた微細な電子構造に関する光電子分光研究を, 最近発見されたMgB<SUB>2</SUB>超伝導体を例に紹介する.
著者
谷口 義明
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.69, no.11, pp.744-752, 2014

私たちは銀河系(天の川銀河)という銀河に住んでいる.銀河系には約2,000億個もの星があり,その大きさは10万光年にも及ぶ(1光年は光が1年間に進む距離で,約10兆km).宇宙には銀河系のような銀河が1,000億個程度あると考えられている.銀河には渦巻構造を持つ円盤銀河と回転楕円体構造を持つ楕円銀河(天球面に投影して観測すると見かけ上が楕円に見えるため楕円銀河と呼ばれる)がある.円盤銀河の円盤はもちろん回転運動をしている.楕円銀河の構造は星々のランダム運動(速度分散)でサポートされている場合が多いが,少なからず回転運動もしている.角運動量を持たない銀河はないということである.回転している銀河には中心があり,その場所は銀河中心核と呼ばれる.確かに銀河の写真を見てみると,銀河の中心部は明るい.そこには星の集団があるのだろうと考えられていたが,どうもそうではないケースがあることがわかった.1960年代のことである.銀河の中には,中心部が異様に明るく輝いているものがあり,それらは活動銀河中心核と呼ばれる.これらの中心核から放射されるエネルギー量は星の集団では説明できない.そのため,超大質量ブラックホールによる重力発電が有力なエネルギー源であると考えられるようになった.つまり,銀河中心核にある超大質量ブラックホールに星やガスが降着し(質量降着と呼ばれる),そのときに解放される重力エネルギーを電磁波に変換して明るく輝いているというアイデアである.では,活動銀河核を持つ銀河は特別で,普通の銀河の中心核には超大質量ブラックホールはないのだろうか?答えはノーである.最近の10数年の研究によって,ほとんどすべての銀河の中心には超大質量ブラックホールが存在することが明らかになってきたのである.その結果,驚くべきことがわかった.超大質量ブラックホールの質量は銀河の回転楕円体成分(スフェロイド:円盤銀河の場合はバルジと呼ばれる構造であり,楕円銀河の場合は銀河本体)の質量と非常に良い比例関係を示すことである.両者のサイズは約10桁も異なっているので,なぜこのような驚くべき関係があるのか大きな問題としてクローズアップされたのである.なぜなら,この事実は,ブラックホールが銀河と共に進化してきたことを意味するからだ.ブラックホールの重力圏は銀河のスケールに比べれば極端に小さいので,共進化はブラックホールと銀河とがお互いに何らかのフィードバックを与えつつ進化してきたことを意味する.さらに,最近では,宇宙の年齢がわずか8億歳の頃に,太陽質量の10億倍を超える超大質量ブラックホールが既に形成されていることが発見され,その起源も謎となっている.このような超大質量ブラックホールを短期間で作るには,種となるブラックホールの形成のみならず,どのような物理過程でブラックホールが大質量を獲得していくのかは不明のままである.銀河衝突などのトリガーの要素も取り入れた研究が行われている.本稿では,観測的な進展も合わせて,超大質量ブラックホールと銀河の共進化についての現状を解説し,今後の研究の展望について言及する.