著者
洪 繁
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.125-139, 2017-04-25 (Released:2017-05-02)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

ヒトは,自身で栄養を作ることができない.生命を維持するためには,植物や他の動物を摂取し,消化管から体内に吸収できるレベルまで消化する必要がある.膵疾患では,消化酵素分泌機能が多かれ少なかれ障害されているため,補充療法が必要であることが多い.消化酵素製剤は,ブタ膵臓抽出酵素であるパンクレアチンと様々な微生物消化酵素の複合である.パンクレアチンは,アルカリ域でのみ活性を示すが,微生物由来酵素は酸性から中性,アルカリまで至適pH域が広く胃でも消化が期待できる.製剤に配合される酵素の種類により製剤間で消化活性に違いがあるが,これまで消化活性の違いに着目した報告は殆どない.そこで本稿では,日本と海外の消化力測定法の違いと,これまで殆ど顧みられることのなかった各々の医療用消化酵素製剤の特長,およびそれに応じた使い分けについて紹介する.
著者
蘆田 玲子 田中 幸子 井岡 達也 片山 和宏
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.30-37, 2017-02-25 (Released:2017-03-17)
参考文献数
19
被引用文献数
2

膵臓癌における死亡者数は年々増加傾向にある.血液マーカーなどの有効なスクリーニング方法がない現状では無症状の被検者に対する超音波検診が早期膵癌発見のために非常に重要である.しかし検診領域における膵癌発見率はいまだ十分とは言えない.現在消化器がん検診学会を中心に腹部超音波検診判定マニュアルが作成され,超音波検診の精度向上にむけて普及が行われている.また早期膵癌の拾い上げには地域中核病院と連携病院間での膵癌危険群の啓蒙と腹部超音波検査を用いた積極的なスクリーニングが有用である.そして嚢胞や膵管拡張といった高危険群を囲い込み,膵精密超音波検査を中心とした膵検診システムを用いて経過観察を行うことにより早期膵癌を発見できる可能性がある.今回腹部超音波検査での膵臓描出の工夫と共に,腹部超音波検査による膵癌早期診断の現状を報告する.
著者
中泉 明彦 田中 幸子
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.24, no.5, pp.594-602, 2009 (Released:2009-11-02)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1 1

大阪府立成人病センターで行っている膵がん検診の概要について述べた.膵嚢胞や膵管拡張を伴う膵がん検診経過観察例は一般市民に比べ約9.2倍膵癌発症のリスクが高いことが判明した.さらに膵癌発症のリスクは膵嚢胞を伴う膵管拡張群が最も高く,ついで膵嚢胞のみ群で高いことが判明した.経過観察中に発症した通常型膵癌は早期診断困難で,腹部超音波検査で腫瘤が検出できなかったか,膵液細胞診で確定診断ができなかったことに原因があった.2007年から開始した新膵がん検診ではMRCPやEUS-FNA,米国製セクレチンを導入し,早期診断を目指している.
著者
関本 美穂 今中 雄一
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.479-483, 2006 (Released:2007-02-08)
参考文献数
19

EBM(Evidence-based medicine)とは,「良心的・分別的・系統的に,現在用いうる最良のエビデンスを用いて,個々の患者ケアに関する意思決定を行う」ことであり,「エビデンス」とは患者集団を対象に行った研究から導き出された,疾病の頻度やリスク・治療の有効性に関する情報である.一方診療ガイドラインは,「特定の臨床状況のもとで,適切な判断や決断を下せるよう支援する目的で体系的に作成された文書」であり,医師の診療行為を改善させる手段として最もよく利用されている.最近のガイドラインは,患者アウトカムの改善を第一の目的として,エビデンスを重視して開発されている.忙しい臨床医にとってガイドラインは,最新の医学知識を手早く仕入れ自分の診療に役立てるための貴重な情報源である.ガイドラインの推奨は必ずしもすべての患者に適応できるわけではなく,個々の患者にとって最良の診療を提供するための臨床決断は,依然として医師の役割である.
著者
堀野 敬 高森 啓史 馬場 秀夫
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.132-138, 2012 (Released:2012-05-15)
参考文献数
44

喫煙は膵癌発症の危険因子であるばかりではなく周術期合併症の危険因子でもある.しかしながら,膵癌手術の周術期に喫煙が及ぼす影響はほとんど報告されていない.膵癌手術症例96例を対象に喫煙の周術期に及ぼす影響をretrospectiveに解析した.本解析では,喫煙は手術部位感染(創部)の有意な危険因子であったが,循環器・脳血管・呼吸器術後合併症,入院期間および予後には影響を及ぼさなかった.この結果をもとに喫煙が膵癌手術周術期に与える影響を消化器外科領域における喫煙と周術期合併症の観点から概説した.
著者
神澤 輝実
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.462-469, 2007 (Released:2007-09-04)
参考文献数
38
被引用文献数
11 8

膵臓は,背側膵原基と腹側膵原基が癒合して形成される.背側膵原基の主導管の腹側膵管との癒合部の近位側は,発生過程において退行する例が多く,副膵管(Santorini管)と呼ばれる.我々の検討では,副膵管は形態的にlong typeとshort typeに二分され,これらは機能的にも発生学的にも異なる所見を呈した.主膵管内色素注入法による十二指腸副膵管の開存率は,43%であり,副膵管の口径,走行形態および末端像と関連性を認めた.急性膵炎例の副膵管開存率は低値であり,副膵管の開存は,第2の膵液ドレナージシステムとして,急性膵炎の発症を防止する安全弁として機能する可能性が示唆された.膵管癒合不全例では,先天性の副乳頭の閉塞性因子に,後天性の負荷因子が加わり,その相互関係で膵炎が発症することが推察され,再発性急性膵炎合併例は内視鏡的治療の良い適応と考えられた.
著者
中村 祐介 吉富 秀幸 清水 宏明 大塚 将之 加藤 厚 古川 勝規 高屋敷 吏 久保木 知 高野 重紹 岡村 大樹 鈴木 大亮 酒井 望 賀川 真吾 宮崎 勝
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.258-264, 2015-04-20 (Released:2015-05-08)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

【目的】膵腺房細胞癌(以下ACC)は稀な膵腫瘍であり,その発生頻度は全膵腫瘍の約0.4%とされる.本疾患の臨床病理学的特徴には未だ不明な点も多く,自験例での検討を行った.【対象】2004年から2011年までに当教室で経験し,組織学的に確認し得たACC 4症例.【結果】平均年齢は68.2歳,全例男性で,CT検査画像では境界明瞭で内部不均一な低濃度腫瘤影を呈し,血液検査では血清エラスターゼ1,AFP値の上昇を認めた.治療は3例に根治的切除が施行され,切除不能例には5-FU+放射線照射併用療法が施行された.切除例全例に肝転移再発を認め,追加切除または全身化学療法を施行した.治療成績では追加切除例で68.4ヶ月,切除不能例で70.0ヶ月の長期生存例を経験した.【結論】今後も症例の集積により,再発・転移例に対する積極的な制癌治療を含む治療戦略の検討が必要と考えられた.
著者
真口 宏介 潟沼 朗生 高橋 邦幸
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.101-110, 2018-04-25 (Released:2018-05-26)
参考文献数
50
被引用文献数
2 1

IPMNには腺腫,腺癌,浸潤癌があり,治療方針が重要である.2017年にIPMN国際診療ガイドラインが改訂され,分枝型のhigh-risk stigmataとworrisome featuresの因子について変更がみられているほか,精査としてのEUSの「結節(mural nodule:MN)の大きさ5mm以上」が明記された.初回診断時にはUS,CT,MRCPを行い,他疾患との鑑別を行う必要がある.EUSはMNの正確な評価と併存膵癌を見逃さないことから行うべきと考える.手術適応例に対しては,膵管内進展範囲の評価にERCP,IDUSが必要であり,POPSが適応となる場合もある.経過観察にはIPMNの進展の評価と併存膵癌の出現に留意する必要がある.現状では,併存膵癌の監視の観点から嚢胞径に関わらずCT,MRCP,EUSを組み合わせた6カ月毎のfollow-upが妥当と考える.
著者
南出 竜典 和田 将弥 谷口 洋平 福島 政司 森田 周子 占野 尚人 井上 聡子 鄭 浩柄 杉之下 与志樹 今井 幸弘 猪熊 哲朗
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.150-157, 2016-04-25 (Released:2016-04-29)
参考文献数
13

症例は19歳女性.発汗過多,高血圧を主訴に当院を受診し,精査の結果両側副腎褐色細胞腫だけでなく多発する膵神経内分泌腫瘍(pancreatic neuroendocrine tumor;PNET)を認めた.多臓器腫瘍,家族歴を踏まえてvon Hippel-Lindau病(VHL病)の診断に至った.膵病変に対しては,膵機能温存の観点から膵全摘を回避し,膵体尾部切除術,膵頭部腫瘍核出術を施行した.病理組織学的検討では,切除標本内に術前に指摘しえたPNETに加えて複数のPNETが認められたが,これらは病変サイズが小さいことからも診断困難であったと考えられる.VHL病においては,膵病変を含めて同時性・異時性に腫瘍が多発しうることに留意し,慎重な術式選択,経過観察が重要である.
著者
芦澤 信雄
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.303-317, 2023-10-31 (Released:2023-11-09)
参考文献数
19

ラット膵組織連続切片を光学顕微鏡と透過電子顕微鏡で観察し,膵上皮細胞の配列について検討した.介在部導管細胞列に1個から数個の大型の腺房細胞が分泌細管とともに内腔に達するまで差し込まれていて,それに連結する腺房細胞群は介在部導管基底面に向かい基底膜を介さずに接着し,介在部導管腔へと繋がる分泌細管を接着面に形成しながら導管周囲をとり囲んでいた.ほとんどのランゲルハンス島(ラ氏島)周囲基底膜は複数箇所で欠損し,そこでは腺房細胞または介在部導管細胞がラ氏島外側面に接着して接着面に分泌細管または介在部導管腔を形成していた.以上から,発生の過程で未熟な膵導管末梢部に内分泌細胞,続いて腺房細胞が分化・出現し,それぞれ外側に向かって増生するが,隣接する内分泌細胞群同士は融合してラ氏島を形成し,その後に腺房細胞が導管とラ氏島の外側面に向かって分泌細管を形成しながら基底膜を介さずに接着して増生すると推察された.
著者
岡田 哲弘 水上 裕輔 林 明宏 河端 秀賢 佐藤 裕基 河本 徹 後藤 拓磨 谷上 賢瑞 小野 裕介 唐崎 秀則 奥村 利勝
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.302-312, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
58
被引用文献数
3 2

膵癌のゲノム解析では,4つの遺伝子異常(KRAS,CDKN2A,TP53,SMAD4変異)を高率に認める.最近の研究により,ゲノム,遺伝子発現,タンパク,代謝などの様々なレベルでの異常が明らかとなり,これらのプロファイリングによる個々の患者の発癌や進行パターン,治療効果予測に応用されることが期待される.2019年に適切な薬物治療の提供を目的とした遺伝子パネル検査が保険収載され,本格的なゲノム医療の時代を迎えた.このような新しい診断技術を早期膵癌の発見や遺伝素因など高い発癌リスクを有する人々の発病予防を目指した医療へと拡大するには,多様な分子異常の検出方法の確立が求められる.これら膵癌の分子診断には,膵内の多発病変の存在と腫瘍内の不均一性,癌のクローン進化の理解が重要となる.本稿では,膵癌の発生過程でみられる分子異常を概説し,診療への活用が期待される最新の技術革新について紹介する.
著者
伊佐地 秀司 種村 彰洋 安積 良紀
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.202-209, 2014 (Released:2014-05-21)
参考文献数
21
被引用文献数
3 4

感染性膵壊死に対する経皮的・内視鏡的ドレナージなどの進歩に加えて,経時的な造影CT所見の蓄積から,急性膵炎の形態分類の再検討が行われ,2012年に改訂アトランタ分類が発刊された.1992年のアトランタ分類の膵膿瘍という用語は廃止され,新たな概念としてwalled-off necrosis(WON:被包化壊死)が定義された.WONとは,「膵壊死巣は早期は固体状であるが,時間の経過につれて壊死巣が液状化し,液状化した周囲が肉芽性・線維性の皮膜で覆われるようになったものであり,発症後4週以降にみられる合併症で,時期により固体状と液体状のものの比率は異なる.」とされている.新分類の特徴は,膵・膵周囲の貯留を,液体貯留と壊死性貯留に区別したところにあり,さらに壊死性貯留を,発症後4週以内の急性壊死性貯留(ANC)と4週以降のWONに分類している.なお,感染性(膵)壊死とは,ANCあるいはWONに細菌・真菌の感染が加わったものを指す.
著者
野呂瀬 朋子 大池 信之 佐々木 恵子 杉野 隆
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.258-265, 2020-08-31 (Released:2020-08-31)
参考文献数
14
被引用文献数
2

漿液性嚢胞腫瘍(serous cystic neoplasm:SCN),粘液性嚢胞腫瘍(mucinous cystic neoplasm:MCN),充実性偽乳頭状腫瘍(solid pseudopapillary neoplasm:SPN)の典型例の臨床病理像は確立しているが,実臨床の診断や治療に関わるいくつかの病理学的課題がある.SCNは大多数が良性の経過を示すが,切除材料を詳細に観察すると,局所進展所見がみられることに留意したい.MCNでは,卵巣様間質が不明瞭な場合の対応の仕方,また,経過観察の基準や手術適応の病態の検討が望まれる.SPNでは転移例や高度悪性転化例の検討が望まれる.
著者
祖父尼 淳 森安 史典 佐野 隆友 藤田 充 糸川 文英 土屋 貴愛 辻 修二郎 石井 健太郎 池内 信人 鎌田 健太郎 田中 麗奈 梅田 純子 殿塚 亮祐 本定 三季 向井 俊太郎 糸井 隆夫
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.199-209, 2015-04-20 (Released:2015-05-08)
参考文献数
18

High intensity focused ultrasound(HIFU)治療は,その超音波発信源を多数取り付けた発信源から超音波を腫瘍の目的部位の1点に集束させ,体外から組織の焼灼を行う治療法である.焦点領域のみを80~100度に加熱し,熱エネルギーおよびキャビテーションの作用により組織を凝固壊死させ,焦点領域以外の介在組織にはほとんど影響を与えないという治療法である.われわれは切除不能膵癌に対するHIFU治療の安全性と有効性を検証するため,Yuande Bio-Medical Engineering社のFEP-BY02 HIFU Systemを用いて臨床試験を2008年12月より行った.膵癌に対するHIFU治療は問題点もあり,さらなる検討や症例の蓄積が必要であるが,われわれの検討では切除不能膵癌に対し安全にHIFU治療を行うことが可能であり,今後,予後不良な膵癌への低侵襲治療のひとつとなりうる可能性が示唆された.
著者
古川 徹
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.944-948, 2018-12-25 (Released:2019-01-21)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

BRCA1,BRCA2,PALB2はBRCA経路遺伝子と呼ばれ,その産物はDNA二重鎖切断の相同組換え修復に関与する.BRCA経路遺伝子の生殖系列変異は膵癌発症のリスクを高め,また,BRCA経路遺伝子異常を持つ癌腫は白金系薬剤やPARP阻害剤に特異的に感受性が高く,臨床的に劇的な効果を見ることがある.我々は孤発性膵管癌,家族性膵癌,膵腺房細胞癌においてBRCA経路遺伝子変異を検索し,それぞれ2.4%,9.3%,43%に明らかな病原性変異を認めた.孤発性膵管癌例においては病原性あるいは効果不明のBRCA経路遺伝子変異を持つ患者群が有意に予後良好であった.また,BRCA経路遺伝子変異を持つ膵腺房細胞癌の多発肝転移がcisplatin投与で完全寛解した例を経験した.BRCA経路遺伝子変異を持つ膵腫瘍を見出すことは今後展開されるゲノム医療上極めて意義深いと考えられる.
著者
伊藤 鉄英 李 倫學 河邉 顕
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.6, pp.773-776, 2015-12-25 (Released:2016-02-18)
参考文献数
23

慢性膵炎診療ガイドラインが2015年に改訂され,新規糖尿病治療薬であるインクレチン関連薬の慢性膵炎に伴う膵性糖尿病の使用についてのClinical Questionが追加された.現在のところ,慢性膵炎の糖尿病に対するインクレチン関連薬の有効性を示すエビデンスの報告はなく,診療の上でベネフィットがリスクを上回ると判断した場合に限って使用することが提案された.さらに,sodium glucose co-transporter 2(SGLT2)阻害薬も新たに登場してきたが,現在のところインクレチン関連薬と同様に慢性膵炎に合併する糖尿病に関しての有効性を示すエビデンスはない.
著者
高松 徹 大竹 はるか 上原 健志 新藤 雄司 池谷 敬 東海 浩一 池田 正俊 牛丸 信也 浅野 岳春 松本 吏弘 岩城 孝明 福西 昌徳 鷺原 規喜 浅部 伸一 宮谷 博幸 吉田 行雄
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.695-700, 2012 (Released:2012-11-28)
参考文献数
26
被引用文献数
1

症例は50歳の女性.繰り返す膵炎と心窩部痛の精査目的に当院紹介.造影CT,USで腫瘍や膵管・胆管拡張は認めなかったが,胆道シンチグラフィにて十二指腸への胆汁排泄遅延を認めた.入院時血液検査所見(無症状時)では肝胆道系,膵酵素,IgG4値の異常は認めなかった.ERCP所見は胆管挿管困難にてprecut施行後に胆管造影・IDUS実施したが器質的閉塞は認めなかった.主乳頭からは膵管像得られず,副乳頭からの膵管造影で背側膵管のみ造影された.膵炎の原因は膵管癒合不全と診断し,副膵管口切開術を施行した.また,biliary typeの十二指腸乳頭括約筋機能不全(SOD)も合併していると診断し,乳頭括約筋切開術も同時に施行した.その後,内視鏡的乳頭バルーン拡張術の追加を要したが,以後は膵炎の再燃も認めず自覚症状も改善している.膵管癒合不全を伴ったSODの報告は稀であり若干の文献的考察を加えて報告する.
著者
谷内田 真一 髙井 英里奈
出版者
一般社団法人 日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.10-16, 2016-02-25 (Released:2016-03-15)
参考文献数
27

膵臓がんは「がんの王様」に君臨している.膵臓がんは他のがん種と比較し特異的ながん腫で,4つの遺伝子異常のみ(KRAS,CDKN2A/p16,TP53,SMAD4/DPC4)が高頻度に認められる.その一方で,他のがん種と同様に低頻度ながらも治療標的となりうる遺伝子異常も有している.例えば,DNA損傷・修復パスウェイの遺伝子変異(BRCA1,BRCA2,PALB2,ATMなど)である.これらの遺伝子異常を捉えるために,手術や生検検体を用いたClinical sequencingが行なわれている.しかし,がんにはHeterogeneityがあり,一ヶ所だけの生検材料だけでは,がんの全体像を把握できない.さらに,がんが生検困難な部位に存在する患者や全身状態の悪い患者には生検は躊躇われる.低侵襲かつ複数回の検査が可能で,その時々にドミナントながんクローンを検出する技術が開発されつつある.“Liquid clinical sequencing”である.血漿から遊離DNAを抽出して,治療標的となる遺伝子異常を探索する.未だ発展途上の技術ではあるが,今後の“Precision Medicine”には必要不可欠な検査法といえる.