著者
櫻井 浩子 坪井 彩香 中澤 祐介
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2021-018, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
12

薬学教育において新生児医療の概要,小児薬物療法を学ぶ機会は限られている.そこで本学では薬学部5年生を対象に「医療プロフェッショナリズム」のなかで「新生児医療と薬剤師」(3コマ)の授業を実施している.授業では,新生児集中治療室の紹介や新生児蘇生のビデオを視聴し,命の誕生の尊さや新生児医療の緊急性など具体的にイメージをもち理解できるよう工夫した.学生へのアンケート結果から,新生児集中治療室における薬剤師の役割理解についてほぼ全員の学生が理解できたとし,98%の学生が6年間の薬学教育のなかで新生児医療を学ぶことは意義があると回答した.約半数の学生が薬剤師として新生児分野へ貢献したいとし,子どもの命を「救う」「助ける」「守る」ことに対し自身の役割を見出していた.本授業は学生自身が新生児医療への具体的な目標設定をする機会となり,医療プロフェッショナリズム教育としての有効性が示唆された.
著者
エップ デニース
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-050, 2021 (Released:2021-03-03)
参考文献数
13

著者の所属する薬科大学を含む国内の多くの大学では,コロナ禍で急遽実施されたオンライン講義の準備不足によりコミュニケーションや教育上の問題が発生した。教員は教科書に基づいた内容を一方的に視聴させる形式をとりがちになり,その結果多くの学生がやる気を失い,学習成果の乖離と教育/学習バランスの不均衡につながった。この状況の解決策は,教員と学生が頻繁にコミュニケーションを取り情報を交換するための定期的なオンライン評価の実施だと考える。著者が担当した英語コミュニケーションクラスでは,教員が様々なオンラインのプラットフォームやアプリを介して課題やミニテストを実施した。学生は入力のみでなく音声でも課題を提出し,評価は得点のみでなく個別のコメントでも行った。これらの形成的および総括的な評価戦略は,教育/学習のバランスを維持しながら,オンライン講義への学生の参加率を改善した。
著者
上田 昌宏 恩田 光子
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2021-028, (Released:2022-01-26)
参考文献数
5

1次資料を含めた医薬品情報の評価と,患者情報を踏まえて最適な医療を提供し,EBMを実践できる薬剤師の養成が求められている.大阪薬科大学(現大阪医科薬科大学薬学部)では,実務実習でEBMを実践できるように4年次にチーム基盤型学習を用いたEBM演習を行っており,演習の中で患者問題を抽出し,医学論文の評価,適用へとつなげている.2020年度は,新型コロナウイルスの影響による制限で,2019年度に比べ演習内容を縮小しての実施となった.本シンポジウムレビューでは,演習前後で行った理解度確認試験を年度毎に検証することで,本演習の教育効果を報告する.また,EBM演習での学習内容を評価するために,臨床準備教育における概略評価表(例示)〈近畿地区版〉を用いた評価について述べる.
著者
角本 幹夫 近藤 雪絵 服部 尚樹
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-067, 2021 (Released:2021-11-12)
参考文献数
10

立命館大学薬学部では,低学年時の英語教育で身につけた英語力を現場で実践する機会と5年生時に行われる薬局・病院実務実習の発展学習の機会として,2週間の海外留学プログラム「薬学海外フィールドスタディ―Toronto Clinical Training Program―」を実施している.この留学プログラムは,カナダのトロント小児病院,トロント大学薬学部において行われる.留学プログラム実施後に行った参加学生へのアンケート結果から,プログラムの評価を行った.今回の調査では教育効果に対する評価を行うことはできなかったが,プログラムの改善点として,事前学習としてリスニング力の向上,小児疾患の病態・薬物治療に関する学習の必要性が挙げられた.また,専門領域の学びの理解度,教員同行による学習への影響についての調査が今後必要であると考えられた.現地研修の中で,日本とカナダの薬剤師比較を実感できる病棟研修については,学生の期待に十分に応えた内容であった.
著者
大熊 理恵子
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-030, 2021 (Released:2021-04-07)
参考文献数
19

手話を母語とする聴覚障害者(以下,ろう者)と医療者との間のコミュニケーションはほとんど成立していない.医療者は通じたと思っていても,実際は違うケースが多数存在する.そのため服薬アドヒアランスの低いろう者の患者さんは多い.彼らの多くは,医療者側への疑問や不安を抱えたままである.そして,ろう者の患者さん本人を置き去りにし家族や通訳者らとだけで話を進めてしまうケースも多い.障害者をどこか劣った者と見なし,本人との意思疎通は難しいと決めつけ放棄してしまうのではなく,障害者の「障害」は「社会的障壁」であることを踏まえて,どんな人とでも直接,意思疎通をもつことは可能と考え,実践してゆかねばならない.国連から提示された障害の「社会モデル」と合理的配慮を念頭に,その視点を持つ薬剤師を育成してゆく中で,障害当事者の話を聞き,かつ,ろう学生が共に学べる大学のバリアフリーを徹底させてゆくことが求められているだろう.
著者
阿登 大次郎 井上 知美 八代 哲也 小竹 武 小森 浩二 森山 博由 三田村 しのぶ 日高 眞理 水野 直子 廣瀬 隆 吉田 彰彦 鬼本 茜 清水 忠 東海 秀吉
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-064, 2021 (Released:2021-07-29)
参考文献数
5

COVID-19の拡大により,薬学実務実習中の症例解析報告会を集合形式からオンライン形式へと移行した.本報告では,オンライン形式の症例解析報告会の概要について紹介する.さらに,アンケート調査から明らかとなった報告会の有益性と問題点について議論する.オンライン報告会は,実習6週目と11週目に大阪鉄道病院から,実習生,評価担当者をZoom®で接続して実施した.83%の参加者は,参加の容易さ,時間的な利点などの理由でオンライン報告会を肯定していた.一方,一部の参加者は,集合研修での臨場感や参加者間のコミュニケーションが不十分な点から否定的であった.オンライン形式での開催は,病院-薬局-大学間で協働での教育ツールとして非常に有効な手段であると考えられる.しかし,参加者が如何に集合形式での雰囲気を作り出せるかなど課題解決が必要であることが示唆された.
著者
曽我 昭宏 矢野 育子
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2021-007, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
21

入院患者の栄養状態を改善することは,退院後の人生を含めて考えた場合,生活の質の向上や死亡率の減少へとつながる重要な要素である.高齢社会を迎え,栄養状態の評価やその効率的な改善方法の開発が不可欠である.平成25年度改訂版薬学教育モデル・コアカリキュラムでは,D衛生化学に「栄養」に関する到達目標が追加され,E医療薬学やF薬学臨床では実習前教育として基本的な到達目標が設定されている.しかしながら,薬学が得意とする薬理学・薬物動態学と栄養学との関連を体系的に学ぶ教育はほとんど行われていないのが現状である.ここでは,臨床現場での栄養サポートチームの活動や最近注目されている低栄養の新診断基準であるGLIM criteriaと,栄養状態が薬物動態や薬物反応性に与える影響について紹介し,病院薬剤師の立場から「栄養薬学」という新しい概念の必要性について述べる.
著者
小佐野 博史
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-079, 2021 (Released:2021-05-13)

本稿は,令和元年8月に行われた第4回日本薬学教育学会大会(大阪)のシンポジウム13で発表した「大学主体の実務実習の在り方を考える」という講演の内容をまとめたものである.内容は以下の3項目である.1)「6年制教育の目的と大学主導の実務実習の位置づけ」では,学校教育法に戻り,6年制薬学教育の目的について確認した.2)「全大学教員による実務実習,臨床教育への関与」では,平成25年度のカリキュラム改定により4年までの教育は「臨床準備教育」と位置付けられ,学年進行に応じて臨床能力,問題解決能力につながる構造的な体系を科目間で共有する授業体系を構築することが必須であることを述べた.3)「今後,大学が真剣に考えなければならないこと」では,参加・体験型実習でいかに充実した臨床教育を大学主導で構築するかについて提案を行った.
著者
藤原 正規 中澤 公揮 甲谷 繁 塚本 効司 小渕 修平 上田 寛樹 川島 祥 上田 昌宏 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-068, 2021 (Released:2021-03-30)
参考文献数
15

基礎薬学系実習の評価において,これまで汎用されていた実習レポートの評価だけでなく,技能と態度も含めた総合的な評価が求められている.本研究では,物理系薬学実習の受講生に対してアンケートを実施し,レポートルーブリックおよびピア評価の導入に対する意識を調査した.アンケートのCS分析の結果,レポートルーブリックに対して,重要維持項目となったのは,「目標の明確化」と「課題の具体化」であった.一方,要改善項目は「学習意欲の向上」と「目標達成意欲」であった.ピア評価において,重要維持項目となったのは,「実習実施における必要性」,「学習意欲の向上」と「自身の実習態度への影響」となり,要改善項目は示されなかった.以上の結果から,基礎系実習科目において,レポートルーブリックは,受講生に対して目標の明確化および課題の具体化という点で影響を与え,ピア評価は,受講生自身の実習態度に影響することが示された.このため,両評価を組み合わせた評価を行うことが必要であることが示された.
著者
西牧 可織 二瓶 裕之 井上 貴翔 鈴木 一郎 足利 俊彦 堀内 正隆 新岡 丈治 木村 治 青木 隆
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-042, 2021 (Released:2021-03-23)
参考文献数
8

大規模クラスであっても効果的な文章指導を行うために,クラウドを活用した協働学修を授業に組み込んだ.クラウドを活用した協働学修では,クラス規模の大きさを逆に利点とするために,ネットワーク上に仮想的な共同作業の場を提供することでディスカッションの活性化を図った.その結果,受講生が互いの意見を見ながら,全員がクラウド内で自身の意見を発するようになり,授業最終回には意見の記入回数も増加するなどディスカッションが活性化されたことを確認した.また,ディスカッションを経て提出したレポートは正答との一致率も高まった.さらに,学生へのアンケート結果からも,SBOに対する達成度が授業回を追うごとに高まり,文章指導における協働学修の必要性の認識も高まるなど,薬学教育における言語表現能力の必要性や重要性に対する気づきが多くの学生へ広がったとの知見を得た.
著者
安原 智久 串畑 太郎 上田 昌宏 栗尾 和佐子 曽根 知道
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2020-058, (Released:2021-01-29)
参考文献数
4

新入生は,単に学力的な教育をうけるだけではない.高校生から大学生への転換を自覚し,自律的な学習活動姿勢を身に着けていく過程である.ディスカッションやプレゼンテーションなどの能動型学習へ挑戦し,成功体験を得ることで積極的な学習習慣を育んでいく期間である.この期間の教育は,新入生の大学への印象を大きく左右する.自らの大学への帰属意識や満足感を持つかどうかは,この時期に提供される教育の質に大きな影響を受けると考えられる.入学直後に学生が持つ学部への印象は,学習への取り組みを高次学年に及ぶまで左右する要因になり得る.以上,新入生へ入学後に提供する教育は,単なる基礎学力の養成だけではなく,薬剤師を目指す学習意欲を育むうえで極めて重要となる.COVID-19の影響により,新入生が経験するはずであった学習面以外での大学からの支援が,基本的にすべてオンラインとなった環境でどのように展開していったかを記していく.
著者
前田 徹 平松 佑彩 佐伯 憲一 水谷 秀樹 吉川 昌江 青柳 裕 矢野 玲子 高橋 誠弥 原﨑 周平 日野 知証
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2018-028, 2018 (Released:2018-11-21)
参考文献数
10

薬学部卒業生の進路は多岐にわたるため,キャリア形成を促し,ライフプランを構築するためのキャリア教育は大学教育の重要な柱の一つである.本学は女子大学であるため,結婚・出産など女性特有のライフイベントを踏まえた上でキャリア形成を図る必要がある.在校生964名を対象とし,キャリア意識や将来のキャリアプランについてアンケート調査を行った.回収率は56.2%であり,回答者の87.6%が「キャリアプランを考えることは必要」と回答したが,実際に考えたことのある学生は57.2%であった.調査結果から,回答者の71.1%が結婚・出産を踏まえた上で「生涯働き続けたい」と就業継続の意識が非常に高く,また学年により必要な情報や問題点が異なることがわかった.今後,学生のニーズや薬剤師を取り巻く社会的背景の変化も踏まえた上で,結婚・出産など女性特有のライフイベントを考慮したキャリア教育に取り組む必要がある.
著者
松岡 一郎
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2018-032, 2018 (Released:2018-09-27)
参考文献数
8

薬剤師養成を主たる目的とする薬学教育が6年制に移行して,10年余が経過した.従来,日本の薬学部は基礎科学における発信力をもとに発展してきた.しかし,「患者本位の視点」,「臨床現場との連携重視」,「臨床現場における問題解決能力の養成」などの6年制教育の基本理念は,薬学教員に発想の転換を迫るものであり,人材養成の目標を重視したカリキュラム設計やこれに基づいた教員相互のFD活動が求められている.2012~2016年度に採択された文部科学省大学間連携共同教育推進事業「四国4薬学部連携事業」では,高度な実践能力を有する臨床薬剤師や臨床薬学分野の研究者を養成する枠組の構築を目指して様々な取り組みを実施してきた.本稿では,同連携事業の取り組みから「海外薬学教育調査」について紹介すると共に,この調査で得られたヒントをもとに日本の6年制薬学教育へのフィードバックについて論じたい.
著者
小田 康友 福森 則男 坂本 麻衣子
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.2019-021, 2019 (Released:2019-09-27)
参考文献数
11

佐賀大学ではアクティブ・ラーニングを中心とした教育改善に取り組んできた.2001年にハワイ大学と提携してPBL(Problem-based Learning:問題基盤型学習)を導入し,2008年にはPBLを半減させてDuke-NUS(Singapore)大学方式のTBL(Team-based Learning:チーム基盤型学習)を併用し,さらに2016年にはTBLを廃止してCBL(Case-based Lecture:症例基盤型講義)とPBLの併用へと転換した.それは,受動的学修から能動的学修への転換の壁,学生の網羅的な知識基盤の構築と問題解決能力養成のバランス,運営コストに対する学習効率の問題に対処するための取組であった.本論ではこれらの経緯を総括し,医学教育におけるアクティブ・ラーニングの課題と展望を述べる.