著者
濱口 重人 朝野 和典
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.34-41, 2016 (Released:2016-02-26)
参考文献数
31

要約:好中球のneutrophil extracellular trap(s NETs)は,2004 年に,LPS やサイトカインなどの刺激に応じて,自己の核内のDNA を能動的に周辺に網目のように拡散し,細菌やウイルスなどの病原微生物をトラップすると同時に,DNA に付着する抗菌蛋白やヒストンで殺菌的に処理することで感染防御に働く自然免疫の新しい機構として発見された.その後の研究の進展によって,局所の感染症のみならず血栓形成やDIC との関連や,自己免疫疾患との関連など,当初の予想をはるかに超えた多彩な作用を持ち,種々の疾患の進展に関与していることが明らかになってきている.現在これまでの断片的な病態の理解をある程度集約化できる概念として登場してきており,NETs 研究の動向は新たなステージを迎えていると言える.
著者
平橋 淳一
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.679-686, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
50

新たな生体防御機構として2004年に発見された好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)は,自然免疫にとどまらずその制御不全が自己免疫疾患にも根本的に関わることが明らかとなってきた.NETsは自己免疫疾患の発症と進展へ少なくとも次の4つの点で寄与している.①病原性自己抗体産生における自己寛容(tolerance)の破綻②NETs成分の露出による自己抗原の供給③炎症の増幅④炎症に伴う血栓症(thromboinflammation)である.2007年,NETsが臓器損傷を誘発して宿主を傷つける可能性が初めて示唆されたのを契機に,NETosis阻害により様々な感染症における組織損傷を軽減できることが報告され,現在では,全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE),関節リウマチ(rheumatoid arthritis: RA),糖尿病,アテローム性動脈硬化症,全身性血管炎,血栓症,がんの転移,創傷治癒,外傷など様々な病態に関与していることが報告されている.しかし,NETsは本来生体防御機構の一つであり,感染防御のみならず何らかの有益な機能を果たしている可能性も忘れてはならず,NETsの制御法は重要な研究テーマの一つとなっている.
著者
加藤 克 山本 一博
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.571-576, 2020 (Released:2020-12-14)
参考文献数
15

高齢化に伴い心房細動(atrial fibrillation: AF)患者は増加し,2050年にはAF有病率が1.1%(103万人)を超えるとされている.AF患者の心原性脳塞栓発症率は年間約5%と高く,90%以上が左心耳由来である.心原性脳塞栓はアテローム血栓性脳梗塞に比べ,梗塞巣が広く重篤化しやすく死亡率や介護度も高くなる.したがってAF患者の治療に際しては抗凝固療法の適応の有無を評価することが推奨される.一方,脳卒中のリスクが高く長期的に抗凝固療法が推奨される患者のうち,出血リスクの高い患者への対応に苦慮することも少なくない.このような患者に対する長期的抗凝固療法の代替として,WATCHMAN左心耳閉鎖デバイス(left atrial appendage closure: LAAC)が2019年9月に日本でも保険適用となった.本稿ではLAACの適応,術前後の流れや併用薬,さらには今後の期待と課題について概説する.
著者
桐戸 敬太
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.4, pp.376-382, 2021 (Released:2021-08-31)
参考文献数
48

本態性血小板血症(essential thrombocythemia: ET)の予後を規定する因子は,血栓・出血の合併,骨髄線維症や急性骨髄性白血病への移行および他の固形腫瘍の合併であるが,現時点では,ETを治癒に導く治療は確立されていないため,治療の目標は血栓・出血の抑制が主体となる.血栓・出血のリスクを評価し,それに沿って治療の選択がなされる.従来は,年齢と血栓・出血の既往歴のみに基づいてリスク分類が行われてきたが,最近ではドライバー変異の種類と心臓血管リスク因子の有無なども取り入れられている.さらには,非ドライバー変異の存在の影響も検討されている.治療手段は,アスピリンを用いた抗血小板療法と細胞減少治療に大別される.細胞減少治療としては,ハイドロキシカルバミドとアナグレリドがともに第一選択薬として位置付けられている.新たな治療薬としては,JAK阻害剤ルキソリチニブおよびインターフェロン等があり臨床試験が進んでいる.
著者
須田 将吉 清水 逸平 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.521-528, 2019 (Released:2019-06-14)
参考文献数
19

要約:老化は様々な疾患のリスク因子である.動脈硬化巣に老化細胞が蓄積していることがわかり,血管細胞の老化がこれらの疾患に関与していることが示された.血管内皮細胞特異的に老化を抑制すると血管機能が保たれ,反対に老化を促進すると血管機能が悪化することも報告されている.さらに血管内皮細胞の老化抑制は,脳血管・心血管疾患だけでなく,肥満や糖尿病も改善させることが明らかとなり,血管内皮細胞の老化抑制は加齢関連疾患の包括的治療につながる可能性が示唆されている.さらに近年では,老化細胞除去(senolytic)治療という新しいストラテジーに注目が集まっている.老化した血管内皮細胞を選択的に除去する薬剤を投与したマウスでは,認知症や加齢による筋力低下などの老化の表現型が改善し,さらには寿命が延長するという結果も出てきている.血管内皮細胞老化は,血管疾患だけでなく様々な疾患の発症や個体老化にも重要であり,新しい治療標的となりつつある.
著者
蓮見 惠司
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.278-283, 2021 (Released:2021-06-22)
参考文献数
20

プラスミノゲン・フィブリン結合を促進する化合物の探索において,我々がクロカビから単離した小分子SMTPは,生理的血栓溶解を促進するとともに抗炎症作用,抗酸化作用を併せ持ち,血栓性および塞栓性脳梗塞モデルで再灌流促進,浮腫抑制,出血転換抑制活性を示す.SMTP同族体の一つは脳梗塞治療薬として開発中である(第2相試験の症例組入れを2020年11月に完了).本稿ではSMTPの発見,作用機序,薬理活性,医薬開発について紹介する.
著者
畠山 金太 浅田 祐士郎
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.265-273, 2012-06-01 (Released:2012-07-04)
参考文献数
33

粥状動脈硬化症の発生および進展の鍵を握っているのは血管壁における慢性炎症である.その原因は完全には解明されてないが,糖尿病,高血圧,脂質代謝異常などの危険因子の集積が重要であると考えられている.また慢性炎症反応の誘導に関して自然免疫系分子の関与も明らかとなってきた.このような炎症性刺激によるマクロファージの活性化はプラーク不安定化と破綻に深く関与する.さらにイベント発症を決定する重要なプロセスである血栓の形成・増大においても炎症性因子が関与する.動脈硬化の進展とその合併症である血栓症の予防および治療戦略を考える上で,基盤病態としての慢性炎症の制御機構の解明が重要である.
著者
中島 典子 鈴木 忠樹
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.708-714, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
31

COVID-19の死亡者の多くは,ウイルス性肺炎に急性呼吸速迫症候群を併発し,呼吸不全で亡くなっている.ウイルスの肺胞上皮細胞への感染に加え,血管内皮細胞への作用と血栓形成が重症化の一因となると考えられている.COVID-19関連死亡例の主たる肺病理像は,びまん性肺胞傷害(diffuse alveolar damage: DAD)であり,進行度の異なるDAD病変が混在している.免疫機能が正常の場合,SARS-CoV-2ゲノムは,肺組織から発症4週間頃まで検出され,ウイルス抗原は,肺組織の肺胞上皮細胞,単球/マクロファージに発症2週間頃まで検出されたが,血管内皮細胞には検出されなかった.肺内フィブリン血栓は動脈系の血管と毛細血管に多くみられ,国内の院外死亡例で33%,院内死亡例で10%に観察され,発症早期から形成されていた.COVID-19組織標本の分子病理学的解析によりSARS-CoV-2の血管内皮細胞への作用と血栓形成機序が明らかになり,重症化の予防ならびに治療の開発につながることが期待される.
著者
内場 光浩
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.28-34, 2018 (Released:2018-02-15)
参考文献数
8
被引用文献数
1

要約:血栓性疾患や出血性疾患の診断および治療には臨床検査が重要な役割を果たしている.多くはクエン酸Na を用いた血漿を用いた測定であるが,様々な要因によって検査結果は偽値を示す.影響を与える原因として,抗凝固剤など使用されている薬剤の影響があるとともに,採血法や検体処理など臨床現場や検査部門に起因する場合がある.さらに患者のヘマトクリットや免疫グロブリンなど,一見凝固系検査に関連がないように思われるものが影響を与える場合もある.検査部門のみならず臨床現場の医師なども検査に影響を与え得る因子について理解を深めることが,正確な診断および治療につながり,患者予後の改善に寄与するものと思われる.
著者
朝倉 英策
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.604-618, 2020 (Released:2020-12-14)
参考文献数
87
被引用文献数
1
著者
平野 照之
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.335-344, 2017 (Released:2017-06-16)
参考文献数
28

要約:脳梗塞の抗凝固療法には,急性期治療薬および再発予防薬としての位置付けがある.臨床現場では,脳梗塞急性期に未分画ヘパリンの持続静注を用いることが多いが,そのエビデンスは乏しい.一方,非弁膜症性心房細動を有する脳梗塞の再発予防における経口抗凝固療法の意義は確立している.直接阻害型経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant, DOAC)またはワルファリンから患者プロファイルに適したものを選んで使用する.
著者
山本 晃士
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.55-63, 2008 (Released:2008-03-25)
参考文献数
43
被引用文献数
1 1

2 0 0 0 OA 小児の突然死

著者
大国 真彦
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
血液と脈管 (ISSN:03869717)
巻号頁・発行日
vol.5, no.7, pp.557-562, 1974-07-25 (Released:2010-08-05)
参考文献数
4