著者
松本 雅則
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.3-6, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は,溶血性貧血と血小板減少に中枢神経や腎臓などの臓器障害を認める疾患群である.TMAに含まれる疾患で最も症例数が多いのが,志賀毒素産生性大腸菌(Shiga toxin producing E. coli: STEC)による溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome: HUS)である.それ以外で,診断基準が明らかな血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)は,ADAMTS13活性10%未満で診断される.この2つの疾患以外は,鑑別が困難な場合が多いが,その中で近年疾患概念が明らかになったのが非典型(atypical)HUS(aHUS)であり,補体系の異常によって発症する.また,自己免疫疾患,妊娠,造血幹細胞移植後などの明らかな基礎疾患や状態が存在すれば二次性TMAと診断される.最近,それぞれの疾患に特異的な治療薬が開発されているので,病因による分類が重要な時代となっている.
著者
一瀬 白帝
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.251-261, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
13
被引用文献数
8 4

要約:わが国では,自己免疫性凝固因子欠乏症の診断症例数が増加する傾向にある.自己抗体は,中和抗体(いわゆるインヒビター)か非中和抗体(主に除去亢進)あるいは両者の混合型であり,凝固活性阻害や凝固因子著減の結果,出血に至る.自己抗体が生じる原因は不明であるが,自己免疫疾患,悪性腫瘍などの基礎疾患を伴う症例が半数であり,免疫寛容/制御機構の破綻が推定される.残りの半数は特発性であり,高齢者に多いので加齢も危険因子であろう.出血重症度は,標的の凝固因子,症例によって,無症状から出血死までと大きく異なる.各凝固因子を補充するのが止血療法の原則であるが,バイパス製剤が有効な疾患もある.抗体根絶療法として免疫抑制薬を投与するが,慢性化,寛解後再燃する症例も多く,最適の方法は未確立である.厚労省研究班による調査活動の結果,4 種類の自己免疫性凝固因子欠乏症が指定難病288 として公的医療費助成の対象疾患となっている.

1 0 0 0 OA 心不全と血栓

著者
山本 啓二
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.6, pp.614-620, 2005 (Released:2007-07-03)
参考文献数
26
被引用文献数
1
著者
久冨木原 健二 中原 仁
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.603-609, 2019 (Released:2019-08-09)
参考文献数
34

要約:自己免疫疾患において,血液中のリンパ球が血管内皮に接触・接着し組織内に侵入することで炎症が引き起こされるが,接着分子阻害薬はこの接着の機序であるリンパ球表面のインテグリンと血管内皮細胞のインテグリンリガンドの相互作用を阻害することで効果を発揮する.多発性硬化症には抗α4 インテグリン抗体のnatalizumab が高い治療効果を有し,また消化管特異的に発現しているインテグリンリガンドを標的とした抗α4β7 インテグリン抗体のvedolizumab は炎症性腸疾患に対して有用である.免疫系細胞や炎症性サイトカインの作用自体を抑制するのではなく,リンパ球の組織移行を阻害するというユニークな機序のインテグリン阻害剤について,本稿ではこれまでの知見を概説する.

1 0 0 0 OA 赤血球の凍結

著者
三浦 健
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
血液と脈管 (ISSN:03869717)
巻号頁・発行日
vol.1, no.9, pp.1181-1193, 1970-11-25 (Released:2010-08-05)
参考文献数
14
著者
井上 克枝
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.259-264, 2012-06-01 (Released:2012-07-04)
参考文献数
42
著者
桑名 正隆
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.243-250, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
28

要約:自己免疫疾患の多くでは,病原性を有する自己抗体が病態を直接誘導する.私たちはこれまでGPIIb/IIIa,β2 グリコプロテインI を認識するCD4+T細胞の詳細な解析を行い,これら自己反応性T 細胞は通常のプロセッシングで生成されない自己抗原由来の潜在性ペプチドを認識することを明らかにした.また,患者のみならず健常人の多くのT 細胞レパトワに自己反応性T細胞が存在するが,活性化フェノタイプは患者でのみ検出された.この事実は自己抗体産生が自己反応性CD4+T 細胞の存在により規定されるのではなく,その活性化を誘導する自己抗体由来の潜在性ペプチドの提示により規定されることを示す.したがって,何らかの環境要因により自己抗原の潜在性ペプチドが抗原提示細胞により提示され,さらに遺伝的素因,制御性T 細胞など免疫調節機構の破綻が加わることで自己免疫応答が誘導される.
著者
松尾 一彦 中山 隆志
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.610-618, 2019 (Released:2019-08-09)
参考文献数
8

要約:様々な機能的サブセットから構成されているリンパ球は,特定のケモカインとケモカイン受容体によって,それぞれの生体内における移動と特定組織微小環境へのホーミングが制御され,生体における免疫システムの形成および恒常性維持に関与している.また,生理的あるいは様々な病的状況下において異なるケモカインの発現誘導が見られ,それによって起こるリンパ球などの遊走が病態形成に密接に関わっている.本稿では,それぞれのケモカイン受容体と白血球,特にリンパ球サブセットの関係について最近の知見を交えて概説する.
著者
須田 将吉 清水 逸平 南野 徹
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.521-528, 2019

<p><b>要約:</b>老化は様々な疾患のリスク因子である.動脈硬化巣に老化細胞が蓄積していることがわかり,血管細胞の老化がこれらの疾患に関与していることが示された.血管内皮細胞特異的に老化を抑制すると血管機能が保たれ,反対に老化を促進すると血管機能が悪化することも報告されている.さらに血管内皮細胞の老化抑制は,脳血管・心血管疾患だけでなく,肥満や糖尿病も改善させることが明らかとなり,血管内皮細胞の老化抑制は加齢関連疾患の包括的治療につながる可能性が示唆されている.さらに近年では,老化細胞除去(senolytic)治療という新しいストラテジーに注目が集まっている.老化した血管内皮細胞を選択的に除去する薬剤を投与したマウスでは,認知症や加齢による筋力低下などの老化の表現型が改善し,さらには寿命が延長するという結果も出てきている.血管内皮細胞老化は,血管疾患だけでなく様々な疾患の発症や個体老化にも重要であり,新しい治療標的となりつつある.</p>
著者
鈴木 伸明
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.273-280, 2018 (Released:2018-06-15)
参考文献数
21
被引用文献数
4 1

要約:von Willebrand Factor (VWF)インヒビターによるAcquired von Willebrand Syndrome(AvWS)は1968 年にSLE に合併した患者が初めて報告された.その後,ちょうど50年が経過するが,基礎疾患が非常に幅広く存在する一方で,臨床的にVWF インヒビターの存在が疑われるものの,リストセチンコファクター活性(RCo)ベースのベセスダ法やELISA などの手法でインヒビターが検出されない症例が多く存在し,診断基準も十分に整備されておらず,病態理解も十分に進んでいない.そのため,診断においては鼻出血や紫斑などの後天的な出血症状を呈する症例に対して,VWF 関連検査を行いながら,基礎疾患や家族歴を考慮し,総合的に臨床診断されているというのが実情である.治療法に関しては必ずしも基礎疾患の治療が,AvWS の改善につながるとは限らず,軽症例に対してはトラネキサム酸(トランサミン®)を使用しつつ,一定以上の出血イベントにはVWF 含有血液凝固第VIII 因子製剤(コンファクト®)やデスモプレシン酢酸塩水和物(デスモプレシン注®)を短縮した半減期に注意しながら使用する必要があり,デリケートかつ継続的な止血管理が必要となる.
著者
金地 泰典
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.485-490, 2020 (Released:2020-10-20)
参考文献数
22

血小板は止血機構や血栓形成だけでなく,炎症や免疫応答においても重要な役割を果たしている.血小板は骨髄巨核球から産生され,寿命を終えた血小板や活性化を受けた血小板は脾臓や肝臓で処理される.我々は抗GPIbα抗体による血小板減少マウスモデルを用いて,血小板処理機構や肝でのTPO産生に及ぼす影響等の解析を行ってきた.また同様のマウスモデルを用いて,幹細胞のマーカーであるSca-1と単球系のマーカーであるF4/80を発現するユニークな巨核球が誘導されることを見いだした.このようなマーカーを持つ巨核球はCMP→MEPを介する従来の分化機序をバイパスし,巨核球を直接産生する造血幹細胞(MK-biased HSC)によるものと考えられた.またその後の研究で,同様の機序がウィルス感染など様々な炎症性ストレスでも誘導されることが分かった.この総説では,ストレス下における造血幹細胞からの血小板産生機構に関する最近の知見及び我々の研究結果を紹介するとともに,今後期待される研究の展望について述べたい.