著者
石倉 宏恭 丸山 隼一 入江 悠平 泉谷 義人 内藤 麻巳子 鯉江 めぐみ 星野 耕大 仲村 佳彦
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.398-408, 2020 (Released:2020-08-12)
参考文献数
31
被引用文献数
2 2

今回,重症新型コロナウィルス2019(Coronavirus disease 2019: COVID-19)患者の凝固線溶異常について,若干の知見を得たので報告する.症例は6症例で,ICU入室から8日間の経過で血小板数が10×104/mm3未満に低下したのは1例のみであった.prothrombin time-international normalized ratio(PT-INR)は経過を通じて概ね正常で,activated partial thromboplastin time(APTT)は経過中5例で正常上限を上回ったが,1例を除き大きく延長する事は無かった.一方,FDPとD-dimerは経過中,正常上限を超えて推移し,2例は第7病日以降に著明な再上昇を来した.以上より,重症COVID-19患者は感染症にも関わらず,凝固線溶異常は「線溶抑制型」でなく,あたかも「線溶亢進型」の様相を呈していた.6例中4例がJapanese Association for Acute Medicine criteria(JAAM)disseminated intravascular coagulation(DIC)診断基準でDICと診断され,遺伝子組換え型ヒト可溶性トロンモジュリン(rhsTM)が投与され,3例が投与終了時点でDICから離脱した.
著者
内藤 篤彦
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.297-301, 2015 (Released:2015-06-18)
参考文献数
22

要約:個体老化とは「加齢に伴い死亡率が増加する原因となる様々な臓器の機能低下」と定義される生命現象である.加齢に伴って免疫系が老化する結果,免疫系本来の非自己を排除する機構と炎症反応を制御する機構が低下し,高齢者で認められる易感染性や慢性炎症が引き起こされる.補体分子C1q は自然免疫系において重要な役割を果たす因子であり,免疫系の老化が引き起こす慢性炎症に伴って血中濃度が増加することが知られているが,われわれはC1q が補体経路非依存性に加齢に伴う骨格筋の再生能低下という老化現象の原因になっていることを報告している.本稿では前半に加齢に伴う免疫系の老化現象について概説し,後半では補体分子C1q による老化誘導のメカニズムについて述べる.
著者
飯島 毅彦
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.711-718, 2019 (Released:2019-10-15)
参考文献数
25
被引用文献数
1

要約:グリコカリックスは,血管内皮表面を覆う構造物であり,血管の密閉性を保つ役割を果たしている.血管内外の水の流れは臓器ごとに異なるが,基本的には血管内から血管外への漏出圧力がかかっている.これをグリコカリックスが抑制しているので,ひとたびこの構造物が崩壊すると血管内から血管外への水の漏出が一気に加速することになる.大きなタンパク分子も漏出するようになると間質の水の貯留は顕著になる.グリコカリックスは構造物としてだけではなく,様々な生物学的な機能を有している.血管の緊張度の調整も行っており,適切な緊張度が保たれなくなると血管透過性の亢進が起こる.また,内皮細胞表面の受容体に対する作用も調整しており,細胞内シグナリングを介して細胞間隙のtight junction による密閉性の調整に間接的に関与していると考えられる.血管透過性亢進は様々な重要病態の進展に大きく関与しており,グリコカリックスの機能の解明が求められている.

4 0 0 0 OA NETsと癌

著者
大坂 瑞子
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.665-671, 2021 (Released:2021-12-25)
参考文献数
34

近年,好中球はがんの進行において重要な役割を果たすと認識されている.好中球は環境や刺激によって多彩な表現型を持つように変化する.特に,好中球細胞外トラップ(neutrophil extracellular traps: NETs)という新しい好中球の形態が発見されてから,がんにおけるNETsの関与や役割について研究が進んでいる.転移に関する報告が多数あり,新しいバイオマーカー,治療標的の可能性が見出されている.この総説では,腫瘍の進展と転移におけるNETsの役割について最新の知見を含めて解説する.
著者
奥村 謙
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.577-583, 2020 (Released:2020-12-14)
参考文献数
22

心房細動(atrial fibrillation: AF)に対するカテーテルアブレーションは「薬物治療抵抗性の症候性発作性AF」に対してクラスI適応,「症候性持続性AF」に対してクラスIIa適応で,施行数は年々増加している.AFアブレーションは,AF自体に血栓塞栓リスクがあり,左房内に長時間カテーテルを留置,広範囲に焼灼または冷凍するため,血栓塞栓の発生リスクを伴う.また複数の電極カテーテルを心腔内まで進め,心房中隔穿刺や左房内で比較的複雑なカテーテル操作を必要とするため,心タンポナーデなどの出血リスクを伴う.すなわち高塞栓・高出血リスクの治療手技であり,周術期の適切な抗凝固管理が必要となる.抗凝固薬はワルファリンから直接経口抗凝固薬へとシフトし,その管理は容易となるとともにアブレーションの術直前,術後の投与法に関しても,最近多くのエビデンスが示されている.適切な抗凝固薬管理により,安全なアブレーション施術が可能となっている.
著者
柏倉 裕志 大森 司
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.17-25, 2021 (Released:2021-02-20)
参考文献数
12

血友病は,F8(血友病A)あるいはF9(血友病B)遺伝子変異が原因となる先天性出血性疾患である.出血に対して凝固因子製剤が用いられるが,凝固因子の半減期が短く頻回の投与が必要なことが患者QOLを阻害する.血友病は古くから遺伝子治療に適した疾患と考えられ,様々な研究がなされてきた.この10年間で飛躍的に遺伝子治療に対する基礎研究が進み,実際にアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターを用いたヒト臨床試験において,一回の投与で長期にわたって血中凝固因子が維持され,製剤投与の必要性がなくなる結果が得られている.現在の遺伝子治療の弱点として,中和抗体陽性患者に適応がないこと,小児に適応がないことなどが指摘されている.これらを克服するために,染色体DNAにアプローチするゲノム編集治療や,レンチウイルスベクターで治療遺伝子を導入した自己造血幹細胞移植治療も進行している.血友病に対する遺伝子治療が日常診療において利用できる日も近いが,長期的な有効性・安全性の観察に加え,高額な医療費に対する議論が必須である.
著者
岩本 禎彦
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.5, pp.541-548, 2015 (Released:2015-10-19)
参考文献数
15

要約:最近の遺伝子解析技術の爆発的進化は,臨床医学における遺伝子診断を,ますます身近なものにすると期待されている.遺伝子診断の中でも生殖細胞系列の遺伝子診断は,①将来の発症予見性,②生涯変化しないこと,③非発症保因者を診断できること,④血縁者,人種,地域共同体に共有されている可能性があること,という,他の医療情報にはない特徴を持つために,最も倫理的な配慮が必要である.とりわけ保因者診断,発症前診断,出生前診断には,遺伝カウンセリングが必須である.また,次世代シークエンサーを用いて全ゲノムやエクソーム解析を行った場合には,本当に診断したかった症候に関連した遺伝子異常だけではなく,予期せぬ遺伝子に配列異常が見出された場合にどう伝えるべきかが問題になっている.遺伝性疾患の根本的治療として,従来,ウイルスベクターを用いた治療が行われているが,受精卵や胚を治療の対象とすることは禁じられている.最近,中国で受精卵のゲノム編集が実施されたことが発表され,物議を醸している.ヒトの生殖細胞のゲノム編集についての議論を,日本でも開始するべきと考える.その際,人類遺伝学を正しく理解しておくことが重要なことである.
著者
湯浅 将人 Breanne H.Y. Gibson Jonathan G. Schoenecker
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.4, pp.373-380, 2020 (Released:2020-08-12)
参考文献数
42

骨格系の組織のうち,骨・筋肉組織は,人体の支持組織として不可欠な組織である.この筋骨格系の維持機能は非常に重要である.組織が損傷する,すなわち骨折,筋肉打撲といった筋骨格系の組織損傷は日常しばしば発生し,その組織損傷は直ちに正しく修復されなければならない.この修復機構は厳密に体内で制御されている.組織損傷の下では,凝固線溶系の活性化が不可欠である.組織内血管が,筋骨格系組織の損傷によって,破綻がおき,瞬く間に凝固線溶系カスケードが作用し修復機能が働く.フィブリンが形成され止血に働き,役割を終えたフィブリン網はプラスミンによって分解される.このプラスミンを中心とした線溶系は,実はフィブリンの溶解といった古典的作用だけでなく,多様な生理的および病態生理的作用を果たしている.本稿では,この凝固線溶機能と骨と筋肉組織修復の関与とその機序に関して,今までの知見とともに概説したい.
著者
川﨑 薫
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.544-550, 2022 (Released:2022-10-15)
参考文献数
22

産科DICの発症頻度は0.03~0.35%であり,発症した場合の母体死亡率は5~10%,児死亡率は30~50%と予後不良である.常位胎盤早期剝離,羊水塞栓症,分娩後異常出血,敗血症,妊娠高血圧症候群,急性妊娠性脂肪肝,HELLP症候群などの基礎疾患を契機に発症する.産科DICは急性かつ突発的に発症し,急激に進行することが多い.DICを引き起こしやすい疾患を認識し,早期診断を行い,迅速な治療介入を行うことが母体救命に繋がる.早期診断には,検査所見のみならず産科基礎疾患や臨床所見により評価する産科DICスコアが有用である.治療は,産科DICの契機となった基礎疾患の除去,輸血やフィブリノゲン製剤による補充療法,トラネキサム酸やアンチトロンビン製剤による抗DIC療法を行う.多職種連携による迅速な治療介入が母体救命のために肝要である.
著者
浅田 祐士郎
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.606-610, 2012-12-01 (Released:2012-12-27)
参考文献数
12
被引用文献数
2 2