著者
林 朋恵 森下 英理子
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.48-54, 2014 (Released:2014-03-03)
参考文献数
41

要約:プロテインC(PC)凝固制御系は,血中に産生されたトロンビンが血管内皮細胞上のトロンボモジュリンと結合してはじめて発動される,いわばネガティブフィードバックの系であり,生体内における微妙な凝固反応に対応し得る非常に柔軟なしくみといえる.PC 凝固制御系因子の欠損あるいは異常は,生体内における向血栓性を高め,時に致死的な血栓症をもたらす.本稿では代表的なPC 凝固制御系因子であるPC, プロテインS(PS)両者の欠損症および活性化プロテインC(APC)レジスタンスの診断およびその臨床像について概説するとともに,APC の多面的な機能に注目した臨床試験の歴史についてもふれてみたい.
著者
坂本 憲治 掃本 誠治 橋本 洋一郎 榛沢 和彦 辻田 賢一
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.33, no.6, pp.648-654, 2022 (Released:2022-12-22)
参考文献数
13

2016年4月,2度の地震(震度7)が熊本地方を襲った.本震から2日後,車中泊の51歳女性が急性肺塞栓症(pulmonary thromboembolism: PTE)により死亡し,我々は避難所巡回での深部静脈血栓症スクリーニング検診を開始した.車中泊者を中心に要入院重症VTE患者が多数発生する中,のべ136会場で4,135名に下肢静脈エコー検診を行なった.急性期検診(発災後45日間)のDVT陽性率は9.5%.予後調査で健診による3名の要入院者を同定できたが,死亡例はなかった.慢性期検診の検討では,DVT陽性率の検診時期毎の低下傾向を認めなかったが,高齢者を除くと経時的な陽性率低下が確認できた.急性期に同定されたDVTの慢性期推移を検討した結果,56%に消失が確認できた.血栓消失群における消失時期について検討したところ,49%は2ヶ月以内,87%は6ヶ月以内の追跡で血栓の消失が確認できており,発災直後からの予防啓発活動の重要性が示唆された.
著者
門平 靖子 森下 英理子
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.20-27, 2018 (Released:2018-02-15)
参考文献数
17
被引用文献数
4

要約:近年,静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism: VTE)に直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant: DOAC)を使用する機会が増えていると推測される.VTE 診療において,DOAC 内服下にアンチトロンビン(AT),プロテインC(PC),プロテインS(PS)などの先天性血栓性素因の検索が行われる場合,これらの凝固阻止因子活性はDOAC の種類や測定原理の違いにより影響を受けることがあり,先天性血栓性素因の診断が困難となる危険性がある.当研究室における,リバーロキサバン,エドキサバン,アピキサバンが各凝固阻止因子活性に与える影響についての検討では,Xa 法によるAT 活性は薬剤血中濃度に依存して偽高値を示し,PC 活性,PS 活性は,凝固時間法による測定においてDOAC の影響を受け偽高値となる可能性が示唆された.このような過大評価による疾患の見逃しを防ぐためにも,DOAC がAT,PC,PS 活性に与える影響およびこれらの検査項目の測定原理を十分に把握しておくことは極めて重要であり,DOAC 内服下に検査を行う場合は,DOAC 血中濃度が低下したタイミングでの検体採取が望まれる.

1 0 0 0 OA 膠原病関連TMA

著者
菅原 恵理 渥美 達也
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.720-724, 2014 (Released:2014-12-17)
参考文献数
17
被引用文献数
1

要約 : 血栓性微小血管障害症(TMA)は,先天性と後天性に分けられ,後天性には特発性と,基礎疾患等に続発する二次性がある.二次性TMA の基礎疾患として最も多いのが膠原病である.膠原病患者で血小板減少,溶血性貧血を認めた場合には本症を疑うべきであり,末梢血塗抹標本での破砕赤血球の存在が診断に重要である.von Willebrand 因子の切断酵素であるADAMTS13の活性低下が診断の一助になるが,活性低下を認めない例も多い.定型的TTP では治療は血漿交換療法が第一選択であるが,膠原病関連TMA ではインヒビターの除去に加えて基礎疾患の疾患活動性の低下を目的としてステロイド治療や免疫抑制療法が必要なことも多い.膠原病関連TMA は特発性TMAと比較して,予後不良であり早期の診断と治療開始が極めて重要である.
著者
豊田 一則
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.3, pp.264-270, 2021 (Released:2021-06-22)
参考文献数
16

脳梗塞超急性期の静注血栓溶解療法は,病的血栓を遺伝子組み換え組織型プラスミノゲン・アクティベータの力で溶解して,血栓で詰まった脳動脈を再開通させ,脳の組織が決定的に傷む前に十分な脳への血流を戻す治療である.発症後4.5時間以内に治療開始可能な患者に適応があるが,最近の知見に基づき,発症時刻不明の患者でも頭部画像診断の異なる撮像法による虚血所見出現具合の差(DWI-FLAIRミスマッチ所見)やペナンブラ所見を確認できれば治療を行えるようになった.国内施行率は脳梗塞発症者の1割前後と推測されるが,治療対象となるべき患者はこれより遥かに多く,更なる治療の普及が必要である.アルテプラーゼが世界で承認された唯一の血栓溶解薬であるが,近年血栓への親和性が高いテネクテプラーゼを用いた臨床試験が海外で多く行われ,オフラベルで使用を始めた地域も増えた.国内でも同薬の早期導入が望まれる.
著者
熊倉 俊一
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.210-215, 2008 (Released:2008-05-01)
参考文献数
5
被引用文献数
3 2

Point(1)一次性(原発性)と基礎疾患に起因して発症する二次性(反応性)に分類され,二次性HPSの基礎疾患では,感染症,リンパ腫,自己免疫疾患が重要である.(2)発症機序として免疫制御異常が関与している.(3)発熱,汎血球減少,凝固異常,高LDH血症,高フェリチン血症等の所見と骨髄など網内系における組織球の血球貪食像によって診断される.(4)治療は,基礎病態自体の改善と逸脱した免疫制御機構の是正を基本とする.
著者
井上 修
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.21-28, 2015 (Released:2015-02-24)
参考文献数
50

要約:Immunoglobulin-superfamily(Ig-SF)は原始的な生物にも存在する膜蛋白である.生命の進化に合わせ機能が継ぎ足され,現在は数千種類の多様性を持つ一大ファミリーとなった.その一部は,血栓止血の中心的な役割を担う血小板でも,膜蛋白として利用されている.傷からの出血を早く止めることが生存競争の重要課題であった哺乳類では,血小板膜上にIg-SF を持つことが迅速な血栓止血に決定的なアドバンテージをもたらし,現在の繁栄の一因になったと想像される.本稿では血小板膜上のIg-SF に焦点をあて,その役割について紹介したい.
著者
矢田 憲孝 西尾 健治
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.7-16, 2020 (Released:2020-02-22)
参考文献数
41

血栓性微小血管症(thrombotic microangiopathy: TMA)は血小板減少・臓器障害・溶血性貧血を呈する比較的稀な病態であり,血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP),志賀毒素産生大腸菌による溶血性尿毒症症候群(Shiga toxin-producing Escherichia coli-hemolytic uremic syndrome: STEC-HUS),非典型溶血性尿毒症症候群(atypical HUS: aHUS),二次性TMAに分類される.類似の症状をきたす病態としては播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation: DIC)の頻度が高く,TMAもDICも早期治療が予後を左右するため,これらの早期鑑別が問題になることがある.血小板減少・臓器障害・溶血性貧血の診療においてはTMAを疑うことが大切であり,そのために最も重要な点は溶血性貧血に気付くことである.溶血性貧血に気付くことが出来れば,ADAMTS13活性など確定診断に必要な検査を提出し,その結果を得るまでにTMAおよびDICの早期鑑別診断を進める.PLASMIC score,腸炎症状,原因疾患,家族歴・既往歴,溶血所見・凝固異常の程度などを指標に可能性の高い疾患を選び出して早期治療を開始しつつ,確定診断が得られるまでは常に他のTMAやDICの可能性も念頭に置いて,治療経過の中で繰り返し判断することが重要である.
著者
白幡 聡
出版者
一般社団法人 日本血栓止血学会
雑誌
日本血栓止血学会誌 (ISSN:09157441)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.55-63, 2021 (Released:2021-02-20)
参考文献数
13

1カ月の請求額が1,000万円以上の高額レセプトの件数は2009年の155件から10年後の2018年には728件と5倍近く増加しているが,この間の最高額は2014年を除き,血友病とvon Willebrand病が占めている.凝固因子製剤を使用している血友病患者一人あたりの医療費は全国平均の80倍以上に達する.大規模自然災害の多発や新型コロナウイルス感染症の流行で益々日本経済が逼迫するなか,医療経済の視点から,定期補充療法について,その適応,必要なトラフ値,zero bleedingの必要性,スポーツ参加の許容範囲について再考するとともに,血液凝固因子製剤の価格と費用対効果について考察した.