著者
小澤 正直
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.945-951, 1988-12-05

現代論理学とも, 数理論理学とも呼ばれる数学基礎論は, 19世紀末に現れた数学の危機を救うために生まれた数学理論であり, 計算機科学がこの数学基礎論から派生したことはよく知られているが, 近年になって, 科学のもっとも基本的な問題にいくつかの応用が発見されるようになった. ノンスタンダード・アナリシスは, 数学基礎論のモデル論の応用として生まれ, 無限小概念の合理化というライプニッツ以来の問題を解決することに成功した. 無限小の合理化は, 単に微分積分学の書き直しにとどまらない, 奥行きの深いものであって, 新しい自然記述の方法を我々に解放したように思われる. 論理学と物理学の間に生まれつつある, この新しい接点を探ってみたい.
著者
美宅 成樹
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.333-337, 1993-05-05

この小特集では生物の設計図であるゲノムについての最近の研究について紹介する.1990年代に入って,ヒトゲノム計画を始めとして多くのゲノム解析計画が始まり,生物についての理解が飛躍的に進むことが期待されている.この新しい生物科学の流れの中では情報学や物理学も無縁ではなく,むしろ非常に重要な役割を果たすのではないかと思われている.しかし,物理学会誌の読者の中には,生物について詳しい人はあまり多くないと思われるので,まずここでは生物やゲノムの基礎事項,その物理的側面および解決すべき問題点などをまとめておきたい.あとで参照しやすいようにできるだけ箇条書きにすることにした.
著者
梶村 皓二
出版者
一般社団法人日本物理学会
雑誌
日本物理學會誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.288-293, 1991-04-05

低温STM/STSが開発されたことによって, Giaever以来行われてきた超伝導体のトンネル分光法が原子スケールの空間的分解能という新機能を得た. この手法により, 超伝導体に侵入した磁束量子の渦糸(Vortex)内の素励起と酸化物超伝導体の異方的な局所状態密度が初めて明らかにされた. 一方, STMはその原理から絶縁性有機物質に適用するのは難しいと思われているにもかかわらず, 導電性基板表面に吸着・固定させて原子・分子配列の構造観察が行われ, DNAの塩基配列解読への挑戦にまで及んでいる. STM像が得られる機構についても考察する.