著者
村井 史香 岡本 祐子 太田 正義 加藤 弘通
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.31-39, 2021-03-25

本研究の目的は、自認するキャラを対象に、キャラを介したコミュニケーションとセルフ・モニタリングとの関連を検討することであった。中学生と大学生を対象に質問紙調査を行った結果、以下2点が示された。第1に、学校段階に関わらず、セルフ・モニタリングはキャラあり群の方がキャラなし群よりも高かった。第2に、キャラ行動および受け止め方とセルフ・モニタリングとの関連について、自己呈示変容能力はキャラ行動を促進し、キャラの積極的受容につながることが示された。また、自己呈示変容能力は、キャラへの拒否に負の関連を示した。一方、他者の表出行動への感受性は、キャラ行動および受け止め方とは関連がなかった。なお、この過程は学校段階に関わらず、成り立つことが示された。以上の結果から、キャラの利用は、対人場面での自己呈示に対する不安よりも、状況に応じて自身の言動を適切に調整できるという自信に基づいている可能性が示唆された。
著者
村井 史香 加藤 弘通
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.17-21, 2020-03-25

多元的アイデンティティとは、場面ごとに出てくる複数の自分のどれもが、本当の自分であると感じられる自己意識のことであり、現代青年のアイデンティティの在り様の一つとして注目されている。本研究では、高校生を対象に、社会学領域で作成された多元的アイデンティティ尺度を使用し、尺度の信頼性および構造を確認することを目的とした。その結果、想定された3因子構造とは異なる、2因子構造となり、尺度の信頼性も不十分であることが明らかとなった。また、“自己複数性”、“自己拡散”、“自己一貫思考”のそれぞれに設定された項目が同因子内に混在しており、因子の解釈が困難であった。よって、今後、多元的アイデンティティを捉える上では、新たな尺度の作成が必要となる可能性が示唆された。
著者
日高 茂暢 眞鍋 優志 小泉 雅彦 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.35-48, 2019-03-25

野外での療育活動の実践研究は、特定のスキル獲得が中心であり、子ども・青年の関係性に焦点をあてた検討は少ない。本研究の目的は、神経発達症のある子どもと青年の異年齢期交流が発達にもたらす影響を明らかにすることである。本研究では、親の会が企画する登山キャンプに参与観察し、キャンプ内で生じる参加者の異年齢期交流を調査した。登山キャンプでは、子どもと青年の間にナナメの関係性が生じやすいことが分かった。その結果、子どもにとっては近未来像として取り入れるロールモデルになること、青年にとっては支援者の行動を模倣し子どもに実践する養育性形成の場になることが考えられた。また登山キャンプは居場所として、集団精神療法のような心理的安定を促す要素があることが考えられた。神経発達症のある子どもや青年にとって、同年齢集団と比べ、異年齢集団の方が能力の差異を肯定的に承認されやすいと考えられた。
著者
伊藤 詩菜 松田 康子 加藤 弘通
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.5-12, 2015-03-25

本研究では、援助要請行動生起における利益とコストの関係性を検証するため、中岡・兒玉(2011)の援助要請期待尺度の信頼性・妥当性の検討を行うとともに、援助要請不安尺度を元に援助要請行動生起における心理的コスト尺度を作成し、その信頼性・妥当性の検討を行った。そのため、大学生、大学院生208名を対象とし、既存の援助要請期待尺度(中岡・兒玉,2011)と、本研究で作成した心理的コスト尺度を合わせた計46項目を「カウンセリングに対する印象」として質問紙を用いて調査した。その結果、心理的コスト尺度は「スティグマへの懸念」因子、「カウンセラーの対応への懸念」因子、「強要への懸念」因子の3因子となり、中岡・兒玉(2011)と同様の結果となった。一方、援助要請期待尺度については、「内面の安定への期待」因子、「カウンセラーの対応への期待」因子、「知識習得への期待」因子の3因子となり、中岡・兒玉(2011)と異なる結果となった。また、Cronbachのα係数と2つの尺度の下位尺度との相関により、本研究で作成された心理的コスト尺度は十分な信頼性と妥当性が示された。援助要請期待尺度(中岡・兒玉,2011)についても再検討され、因子構造は中岡・兒玉(2011)とは異なる結果となったものの、より多くの項目数からなる、より信頼性・妥当性を有した尺度が作成されたと考えられる。
著者
富永 大悟 日高 茂暢 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-39, 2017-03-15

発達障害のある青年は、自尊感情の低下が自己喪失感へと結びつき、学校や会社などのコミュニティから居場所を失ってしまう。本研究は、社会参加が難しくひきこもりがちな青年に対し、社会につながるための支援を検討することを目的とした。本研究では、青年とその保護者がもつ問題意識について実 態調査を行った。実態調査の中から、ひきこもりがちな青年とその保護者を対象とした訪問支援とICTを活用したSNS 型居場所支援を平行して実施した。その結果、就労や将来に関する不安や引きこもり状態では達成されにくい対人交流欲求が認められた。またSNS 型居場所支援は、在宅であっても支援につながり得ることへの高い期待をもたらした。本研究により、訪問支援とは異なるコミュニケーションの場として、支援者とのつながりを感じられる補助的な拠点として、SNS による居場所支援の可能性が示唆された。
著者
久蔵 孝幸 一條 美香 土田 佳織 山岸 紀
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究
巻号頁・発行日
vol.3, pp.29-34, 2009-03-25

久蔵ら(2008)においては、背景要因としてHFPDDが疑われ、かつ家庭内暴力や非行他の複合的な問題により家庭内養育が困難に至った男児10名について、WISC-IIIに見られる評価点のアンバランスが、その後の処遇との間に相関関係があることを示した。これは、認知的なアンバランスが大きいこと自体が養育環境の中での混乱要因の一つであるだろうという直感的な仮説を実証したものである。本論においてはサンプルとなる事例を増やし、その上で同様の傾向が見られることを示す。さらに子どもを家庭で養育するための困難要因が低減すると、この相関が減衰することを示す。
著者
渡辺 隼人 蒔苗 詩歌 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
no.9, pp.41-45, 2017

ごぶサタ倶楽部は北大土曜教室を前身とした集まりで、発達障害を持つ青年・成人と長期にわたる交流を継続している。およそ10年間の活動を通してごぶサタ倶楽部の活動形態は変化してきた。そこで本稿では、ごぶサタ倶楽部設立から現在までを3つの時期に区分し、それぞれの時期でどのような活動を行っていたのかを整理した。⑴北大土曜教室の一部としてのOB会が発足した時期、⑵北大土曜教室の外部組織として「ごぶサタ倶楽部」が設立した時期、⑶北大土曜教室終了後から現在までについて、それぞれの時期の活動内容とその時期のごぶサタ倶楽部の役割に関して検討した。ごぶサタ倶楽部には全時期を通して「ゆるさ」という特徴があり、この「ゆるさ」こそがごぶサタ倶楽部ではメンバーやボランティアとの長期にわたる交流を支え、彼らの居場所を構成することに寄与していると考えられる。
著者
及川 智博 川田 学
出版者
北海道大学大学院教育学研究院附属子ども発達臨床研究センター
雑誌
子ども発達臨床研究 (ISSN:18821707)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.37-47, 2015-03-25

本研究は、運動会活動初期における遊戯の練習場面の、幼児―教師間および幼児同士の相互作用の形態に着目し、従来の保育における研究では十分検討されてこなかった、保育実践における規範を幼児や教師が形成していく仕組みと過程を明らかにすることを目的とした。ある幼稚園の年長学年が毎年運動会で行なう遊戯 <よさこいソーラン> の練習場面を対象として参与観察を行った。結果、遊戯の練習場面における規範を形成・共有する以下の2つの仕組みを見出した。第1に、教師の特定の働きかけの継続により、判断基準やその到達点が曖昧な、踊りの上達に関する規範が学年内に形成されたこと、第2に、規範における行動の参照点を見出すために、幼児たちがクラス間の関係性を変容させることで、規範が共有・維持されていったこと、である。また、運動会当日へ向けて練習が継続していくなかで、これらの仕組み、および規範が変化していったことが示唆された。