著者
吉川 和幸
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.23-43, 2014-06-30

本研究では,私立幼稚園において,特別な支援を要する幼児に対して作成される個別の指導計画の分析を通して,特別な支援を要する幼児に対して,保育者はどのような目標を立てているのか,その傾向を明らかにすることを目的とした。分析対象資料として,76 園,248名分の個別の指導計画を用いた。分析対象資料から長期目標,短期目標,領域別ねらいの3 つの目標を抽出した。そして,幼稚園教育要領に記載されている5 領域のねらい及び内容を参考にし,抽出した3 つの目標ごとに,記述内容が5 領域のいずれに該当するか分類を行った。分類後,それぞれの領域ごとに,KJ 法を用いて,記述内容のカテゴリー分類を行った。5 領域への分類の結果,長期・短期目標,領域別ねらいともに,領域「人間関係」,「健康」,「言葉」に該当する目標の割合が高く,領域「表現」,「環境」に該当する目標の割合は低いことが示された。また,KJ 法によるカテゴリー分類では,長期・短期目標,領域別ねらいともに,特定のカテゴリーに関する記述内容の割合が高い結果が示された。考察では,目標が特定の領域やカテゴリーに偏る背景には,保育者が,特別な支援を要する幼児の,幼稚園における集団への適応を重視する傾向があることを指摘した。また,記述された目標の学年間の差異について,領域ごとに考察するとともに,今後の課題について論じた。
著者
山田 千春
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.207-223, 2013-06-30

高等学校以外に中学生の進学先として,高等専修学校がある。高等学校の量的な充足により,規模は減少しているものの,ある一定数の生徒を確保していることから,高等専修学校の教育に独自の特徴があると考え,後期中等教育における役割を検討する必要がある。関連する専修学校の先行研究の整理を行った結果,専門学校を青年の職業教育機関として捉え,国がその教育をどこまで保障するのかという公教育の議論が十分になされていない点,専門学校の教育の多様性を踏まえながら,それを類型化し,教育の特徴を整理していくことが十分に行われていない点,そこで学ぶ学生・生徒に焦点を当てた研究が少なすぎる点,以上3 点が指摘できる。今後の高等専修学校における研究課題は,明確な目的意識を持たずに入学してくる生徒たちが,高等専修学校の教育により,どのように自らの職業観を形成しているのかを検討し,高等専修学校における公的な支援の在り方を議論することである。
著者
後藤 千佐子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.135-150, 2013-06-30

本研究は,発達障害のある子どもを診察している医師が,子どもへの診断名説明を実際にどのように説明しているのか,その際に何を伝えようとしているのかを明らかにすることを目的とし,4 名の児童精神科医に対して半構造化面接を行うことにより検討した。その結果,診断名説明の実施に対する考え方は医師により異なり,その差は発達障害観の違いによって生じることがわかった。診断名説明を行うことへの躊躇は全ての医師が感じていた。その理由として発達障害の診断名が社会的な意味を持ち,ラベリングやスティグマの問題を含むためということが示唆された。診断名を説明するとき,医師は単に名称を伝えるだけではなく,その子どもの良いところが伝わるように留意し,マイナスのものをプラスに転換するように説明を行っていた。
著者
宋 美英
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.51-80, 2009-12-21

本研究の目的は,地域社会のニーズに応える「ボランティア組織」が活動を継続的に行う際に必要になる,会の「ミッション」,会員の「リクルート」,活動経費,活動をすすめるための「学習」についてメンバーがどのように考えているのかを検討することである。札幌市の「Fボランティア」のメンバーを対象にした配布調査の分析に基づき,メンバーを4類型(コアメンバー,周辺I,周辺II,外延)に区分したうえで,詳細な面接調査を行った。その結果,ボランティア組織の「ミッション」や会員の「リクルート」など組織の継続・発展に関わる重要な問題について意見の不一致や対立がみられ,それは,とくにコアメンバーの内部において意見の違いがより顕著であることが明らかになった。組織の核であるコアメンバーは,意見の不一致や違いに気づき,意思疎通する機会を設け,会の課題について会全体で意見を交換する場を持つことが求められる。
著者
河口 明人
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.111, pp.163-196, 2010-12-25

ポリスの存続という至上命題の中で,古代ギリシャ人が人間の身体に抱いていた観念は,精神と乖離した二元論的な理解ではなく,彼らの生存の内的欲求を意義づけるエートス(ethos)と一体のものであった。貴族文化の余韻をとどめながらも,人間の内面は身体に表現されることを確信し,その身体を創造せんとする卓越性(アレテー)の概念と結びつき,戦士共同体における生命のアイデンティティを構成することにって,ギリシャ文化や文明をもたらした主要な源泉となった。死すべき運命を悼みながら,その反映としての不滅の栄光を保障する卓越した勇気の顕現を,ポリス間の絶えざる戦闘という不幸の中で具現しようとしたギリシャ人は,英雄精神によって不死の神に至らんとする飽くなき憧憬を抱き続け,鍛錬された身体的能力と,限りない自己啓発を希求する精神的能力の渾然一体化した「カロカガティア」という,人間のありうべき理想像に関する概念的遺産を今日に伝える。
著者
菅原 健太
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.107, pp.227-247, 2009-06-22

札幌市の高校三年生を対象として行った調査結果をもとに,自己意識と就業意識の関連について分析した。自己意識における因子である,自己の確立性に関する「自己確立因子」と自己の未決定性に関する「自己未定因子」とが共存しうることから,両者を兼ね備えたケースを「自己多元型」,それ以外を「非・自己多元型」とし,両者の特徴を比較したところ,両者は就業意識における「自分らしさ」の位置付けという点で異なっていることが分かった。そこから,近年注目される「多元的自己」と同様の構造をもつ自己多元型は,これまでの発達観やキャリア観とは齟齬をきたすような特徴をもつものなのではないか,という仮説を提示する。
著者
佐々木 佳子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.131-145, 2012-12-26

これまでの教師の思考に関する研究では,主に授業場面の教師の思考活動に焦点が当てられ,実践的知識や熟達化との関係が明らかにされてきた。だが,教師の思考そのものについては暗黙とされることが多く,実践場面での教師の思考がどのような内容で,どのような構造なのかは実際のところよくわかっていない。本稿では,教育実践における教師の思考に関する国内の研究をその内容と構造の視点から概観し,教育実践における教師の思考について論じた。教育実践における教師の思考を,授業場面,学級をめぐる実践場面,実践記録に分類,整理したところ,授業構想とのズレや予想外応答への気づき,意図的視点による問題状況への気づきがあることがわかった。教師の気づきは実践の中だけでなく,実践についての省察の過程においても再構成されることがわかった。また,気づきの機序については,暗黙知(ポラニー.M)との関連が示唆された。
著者
佐藤 公治
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.117, pp.171-203, 2012-12-26

本論では,城戸幡太郎の心理学研究と心理学思想について,彼の心理学史研究の集大成である『心理学問題史』といくつかの著作の内容的検討から明らかにする。城戸は心理学の研究として自然科学的方法だけに依拠するのではなく,文化とその歴史的文脈の中に人間精神を 位置づけていくことの必要性を論じている。そして,文化の中で人間発達は実現すると同時に,人間には文化的創造者としての役割があることを「文化的個性化」の概念として定式化する。城戸は「文化的個性化」を実現していくためのものとして教育を位置づける。城戸の心理学研究の背景には哲学的人間学,特にカントの実用的人間学の思想がある。
著者
美馬 正和
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.137-152, 2012-06-29

本研究では,保育者の語りから〈気になる子〉に対する捉えや視点がどのようなものであるかを検討するため,私立幼稚園の保育者12名から聞き取り調査を行った。その際,①現在テクニカルタームのように使用されている「気になる子」についての認識,②日頃保育の中で感じる「気になる」という視点の2項目を設定して調査を行った。 結果として「気になる子」という言葉は,保育者が学習をしていく中で獲得したものであり,発達障害と一直線上にあるような受け止め方をしていた。そのため普段の保育では使用しない言葉であった。次に,日頃保育者が「気になる」と思う子どもは,生活の中にある困り感を持つ子どもや,保育者が違和感を覚える子どもであった。 この結果から,保育者は子どもとの関係の中で「気になる」感覚を持つ。そのため,「気になる子」という言葉は保育者にとって日常的な言葉ではないことが示唆された。
著者
宮盛 邦友
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.153-163, 2012-06-29

本論文は,「子どもの生存・成長・学習を支える新しい社会的共同」の課題・方法・概念をめぐっての個人研究である。「子どもの生存・成長・学習を支える新しい社会的共同」という現代人間学を通して,現代学校論はどう構想できるのか,そして,現代教育学はいかに可能なのか,ということを探求するものである。
著者
和田 義哉 室橋 春光
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.115, pp.165-179, 2012-06-29

本研究では,算数の文章題において絵図を導入することで,問題解決にどのように効果があるのか検討する。調査では健常児と学習困難児それぞれに同じ算数の文章題を行った。文章題には,文章を理解する,絵図を作成する,式を作る,計算する問題があり,対象児間で絵図なし群,絵提示作成群,図提示作成群の3群を設定した。その結果,健常児では3つの対象物の比較問題において図の使用による効果 が現れ,学習困難児では文章の理解が不十分な問題において,絵が提示されることで理解が促進された。すなわち,絵は文章理解の助けとなるが,式を立てることに効果はなかった。一方,図は理論的に構成要素が配置されていても,その読み方や描き方を学習しないと有効に活用できないと考えられる。また,絵図の効果に差が出た問題については,事実関係が複雑で,文章内から書かれていない事実を抜き出 すことを要求するような文章題には,絵図の効果があると考えられる。