著者
山田 千春
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.120, pp.179-198, 2014-06-30

全専各連は,専修学校が学校教育法第1 条に規定されていないために起こる取り扱いでの格差を改善しようと,専修学校の1 条校化運動を推進してきた。それに関する議論は,専門学校を中心に行われているので,本稿では,高等専修学校に焦点を当て,筆者が北海道の高等専修学校の管理職に行った聞き取り調査をもとに,1 条校化をめぐる論点の整理を試みた。調査の結果,小規模校では,資格のある教員の確保や施設面での充実を義務付けられる点から専修学校のままを望んでいた。一方,中規模校では,教員数の増加や教育施設のより一層の充実を期待し,1 条校化を望んでいた。それらを踏まえて,高等専修学校の1 条校化をめぐる論点として,1,全専各連の1 条校化の要望と現場との間に意見のギャップがある点,2,格差の改善を優先するのか,教育における自由度を優先するかという点,3,教員資格の基準について,4,学園内における他の学校との関係性の問題,以上4 つの論点を見出すことができた。
著者
平野 郁子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.45-57, 2018-08-30

昨今,自閉症スペクトラム者への自己理解支援が重視されているが,当事者にとっての自己理解の意義や支援方法が十分に整理されているとは言い難い。そこで本稿では文献検討により自己理解支援の課題を整理した。自己理解には多様な意味があるが,支援は障害特性に焦点化しやすく,問題の原因を脱文脈的に本人に帰属しやすい問題があり,トータルな個人としての自己を捉える必要があると考えられた。一方,当事者の語りを重視するナラティヴアプローチや当事者研究では,応答的な語りが当事者の自己の回復や生きにくさの軽減につながることが示唆されている。ここからは当事者性を広義に捉えれば立場の違う同士であっても対話を通じて自己理解が展開される可能性が考えられる。しかし,当事者にとっての自己理解の意義や立場の異なる者とのかかわりのなかでどのように自己理解が紡がれるのかは明らかではなく,さらなる質的検討が必要である。
著者
魚住 智広
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.133, pp.1-22, 2018-12-25

本稿は,運動部活動が対外試合に参加するための条件に関する社会学的分析である。先行研究は,大会方式の見直しが将来の運動部活動にとって重要であると論じてきた。しかし,各方式の現状を検証せずに大会の形式的な見直しを求める議論には慎重にならざるをえない。 そこで本稿は,6つの高校サッカー大会を対象として,それぞれの大会がどのような学校の生徒にどれほど試合出場機会を提供しているかについて整理した。その結果,先行研究で推奨されてきたリーグ戦方式の大会は参加率が非常に低いことが明らかになった。また,大会への参加障壁一つひとつをクリアしようとしても,複数の障壁が組み合わさることで生じる参加者への負担が非常に大きく,大会参加を断念せざるをえない場合があった。よって今後は大会方式や大会規定を形式的に変更するだけでなく,チーム状況に応じた配慮やチーム同士の非対称的な関係への移行が必要であることが明らかになった。
著者
佐藤 昭宏
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.112, pp.73-89, 2011-06-30

本研究では,職員室が一体如何なる環境であるのか,つまり職員室風土とは如何なるものであるのかを,8名の現役教員に対する聞き取り調査を行うことから検討した。その結果これまで指摘されてきた5つの機能の他に,「様々な問題に対応するための組織の柔軟性の提供」,「子ども達の駆け込み場所となる」,「教員の孤立を防ぐ」,「学校としての組織風土や雰囲気を醸成する場を提供する」という4つの機能が職員室にあることが新たに見出された。また個別の教員のインタビューを比較検討した結果,職員室という環境が,「教員集団」,「職員室の構造」,「学校の構造・教育内容」,その教員の「個人要素」という4つの要素が複雑に絡み合った結果成立しているものであることが示唆された。
著者
新岡 昌幸
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.130, pp.133-149, 2018

2003年,地方自治法が改正され,新たに指定管理者制度が導入された。これにより,民間企業を含めた「法人その他の団体」に,「公の施設」の管理運営を,使用許可権限をも含めて包括的に委託することが可能になった。「公の施設」には,公立図書館も含まれることから,この管理を指定管理者に委ねようとする地方公共団体が増えつつある。周知のように,公立図書館は,その利用が無料とされ,収益性を前提としない施設であることから,そもそも指定管理者制度はなじまない,との反対論が,図書館関係団体等から強力に展開されてきた。しかし,その主張のなかには,指定管理者制度固有の問題と言えるか疑問のあるものなどが含まれ,有効な反対論になっていないように思われる。そこで,本稿では,「公の施設」を含む公共財の提供は,国家ないし地方公共団体の主要な役割であることを確認し,その役割をアウトソースする際の法的限界の所在を探るとともに,公立図書館への指定管理者制度の導入が如何なる場合にその限界を超えるかを検討する。
著者
小島 千裕 小島 千裕
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.126, pp.19-41, 2016-06-30

This study clarifies the status of dialect correction in elementary school education and examines the formation of the “national language,” focusing on Iwate Prefecture in the Meiji 30’s. The educational magazine titled “Iwate Gakuji Iho” and writings produced by Iwate Prefecture Normal School were used to collect historical data for this analysis. Iwate Prefecture Normal School established a guideline for the use of standard language instead of dialect, and considered that the dialect should be corrected timely through the whole curriculum based upon Japanese language education. In fact, some of the elementary schools, under the guidance of an enthusiastic county school inspector, worked on the task of the dialect correction. They viewed the fact that the language spoken by children was quite different from the language used in readers as a point of controversy. And, in some cases, they worked on such correction as a part of teaching of manners. However, there were many difficult issues to be addressed such as their tendency to be eager to teach characters in Japanese language education, continuation of thorough correction, and methods to take steps on correction. Therefore, they made few approaches to the correction during this period. However, it may be concluded that the common practice of pursing the language capacity to be taught and acquired in school led to the dialect correction and the formation of the “national language.”
著者
寺田 龍男
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.127, pp.1-8, 2016-12-20

As Arthur T. Hatto showed in his voluminous edition EOS (The Hague 1961), the dawn song is a polygenetical phenomenon all over the world. The old Japanese version is called Kinuginu which today means that several layers are worn upon another: Under these layers a man and a woman spent the night together. The theme of these songs is, as everywhere else, the pain of and after departure. One of the features of Kinuginu is its historical character because this alba is not a social game but part of ritualized customs. Evidences from many medieval documents reveal that these songs were thoroughly related to reality, so that it is sometimes possible to reconstruct the process of who sent a poem to whom and when and how in court society. The sense that not only men but also women - virgins or not - do not hesitate to engage in a sexual relationship seems to have spread all over medieval Japan. Moreover, it is well known that this art of‘freedom’lingered until several decades ago in many regions of Japan. In this seminar, students from various backgrounds select a subject they are interested in, compare it with the Japanese equivalent and formulate a hypothesis that could add insight to both research fields.
著者
松田 康子
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.132, pp.149-165, 2018-08-30

This paper attempts to consider current issues and future visions of a qualitative study on the lived experience of people with mental health consumers/survivors/ex-patients. Note that no difference exists between the collection of data regarding their lived experience and exploitation or plunder. Though model stories based on their lived experience, they were confined to acceptable stories in society. If lived experience explains model stories, I fear that social environment may not take diversity into account, causing not inclusion but exclusion. In future visions, I suggested that researchers should be cognizant of recognizing diversity, asking a primary research question.“what is it”in order to discover and give a name again. Another important point is that researchers attempt to adopt a caring perspective in their studies.
著者
野屋敷 結 川田 学
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.134, pp.91-116, 2019-06-27

本研究は,複数の転機を持つ若手から中堅の保育者が,なぜ保育という仕事を続けているのか,そこにどのような価値を見出していることが継続と関わっているのかに焦点を当て,社会的・時間的文脈の中でどのように成長してきたのかを,保育者自身の主観的な語りから明らかにすることを目的とした。4名の保育者にライフライン・インタビュー・メソッドを用いたインタビューを実施し,複線径路・等至性モデル(TEM)による分析を行った。結果,協力者の保育者という生き方を続ける理由には個別性があるが,同時に保育者の継続を支えている共通の契機として,「保育に対する正の感情」「保育者周囲の社会的状況」の2点が見出された。また,協力者には保育者を継続する個別的な理由から繋がったそれぞれ異なるキャリア形成が見出され,働く者としての保育者自身の主観次元に基づいた保育者の成長研究の必要性が示唆された。
著者
山口 晴敬
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.134, pp.63-80, 2019-06-27

本研究の目的は,インタビューによって得られたナラティヴを分析することを通して,高等学校の新任教員が,日々何に悩み,何によって支えられているのかを明らかにすることにある。 新任教員が入職してからどのような経験を踏まえてどのような思いや気づきがあったのか時系列で知るため,2名の新任教員に複数回インタビューを実施した。質問項目は,それぞれのインタビュー時期において,つらいことや苦しいこと,あるいは困難であると感じた出来事は何か,また喜びややりがいは何かである。 新任教員は,教員になって初めて,生徒との関係構築よりも先輩との関係構築が一番困難なことであることに気づき,同僚との関係構築を一番の気がかりとしていた。そして,関係性を築くことができなければ,教職遂行がスムーズにいかないとも考えていた。 また,新任教員から先輩への関係構築の働きかけをしても,先輩からの理不尽な言葉や行動で,教員という職業に対してまで,否定的な気持ちにもなっている。すなわち,同僚(先輩)が,新任教員が教職を遂行する上でのプラスの作用になってはいないということであり,新任教員にとっては同僚との関係構築が,避けて通ることのできない大きな課題となっている。 しかし,「同僚」は,一方で,新任教員を支える存在になることもこの研究によって明らかとなった。多くの場面で新任教員を気遣い,良き気付きを与えている存在として「同僚」や「管理職」がいた。そのような「同僚」や「管理職」の存在が、新任教員の教職遂行を支えていた。 同僚の支援が得られにくい高等学校においても,「同僚」や「管理職」が,新任教員の支えとなっていることは,「新任教員への支援」を考えるときの良き示唆となる。
著者
亀野 淳
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.134, pp.131-143, 2019-06-27

インターンシップやアルバイトが学生の能力把握や企業の実情把握に結びつくという効果に着目し,就職が内定している大学生に対するアンケート調査を実施した結果,以下の点が明らかになった。①多くの大学生がインターンシップやアルバイトを経験しているものの,インターンシップ先に就職を予定している学生は,インターンシップ経験学生の約3割であるが,そのインターンシップの約半数はいわゆるワンデイインターンシップであり,また,アルバイト先に就職を予定している学生はアルバイト経験学生のわずか5%となっていること,②インターンシップ先に就職が内定している学生の特徴として,大学所在地別が地方圏であることや,大企業に就職が内定している学生が多くなっていること,③アルバイト先に就職が内定している学生の特徴として,男性や「卸売業,小売業」に就職が内定している学生が多くなっていること,などが明らかになった。
著者
亘理 陽一
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
no.102, pp.55-89, 2007

従来の比較表現の指導上の問題点を解決するために,同じ命題的意味を表すいくつかの比較表現の使い分けについて授業プラン「比較表現の比較・検討」を作成し,2007年1月に大学の授業で実践してもらった。本論は,この実験授業の分析に基づいて英語の比較表現の指導過程について評価を行い,明示的文法指導の方法とその有効性を示すことを目的とする。分析からは、授業プランの積極的意義と共に,改訂に向けたいくつかの示唆が得られた。特に,「語彙によって示される尺度上の相互的な関係」という中心的な比較表現の特徴の理解を学習者が十分には持っていないこと,'as…as'の命題的意味とそれを用いる語用論的動機づけの理解に分析的な扱いが必要であること,それが'not as…as'の意味・用法について体系的な理解を与えるためにも必要であることなどが明らかになった。
著者
松浦 和代
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.109, pp.93-107, 2009-12-21

新人看護師の職業性ストレス反応が,自己決定型学習の準備性によって受ける影響度を,他変数との比較から明らかにすることを目的とした。対象は新人看護師233名,調査方法は無記名自記式質問紙法であった。調査内容は,個人要因,職業性ストレス,および自己決定型学習の準備性を測定する尺度(日本語版SDLRS)から構成した。その結果,心理的ストレス反応要チェック群は24.5%,身体的ストレス反応要チェック群は18.0%であった。両ストレス反応要チェック群は全体の9.9%を占めており,これは新人看護職員の入職後1年以内の離職率9.3%に近似する値であった。また,自己決定型学習の準備性の高さは,(1)心理的ストレス反応の抑制要因であり,(2)心理的ストレス反応要チェック群を判別するうえで指標となる5要因のひとつであった。さらに,先行研究との比較から,新人看護師は看護学生よりも自己決定型学習の準備性を低下させており,入職後1~2年間はこの能力が上昇に転ずることはなく,特に学習への愛着・エネルギッシュな自己イメージ・将来に対する前向きな姿勢の3因子が低いことが特性であった。これらの点を根拠とした新人看護師の入職後早期離職防止対策が重要である。