著者
宋 美蘭
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.114, pp.77-99, 2011-12-27

【要旨】今日の韓国における学力問題の一つは,教師による,生徒への教育的働きかけが画一的になりやすく,生徒一人ひとりの可能性を引き出すための工夫が必ずしも十分ではない,という結果と,もう一方では,学校組織において主に教師によって行われる教育実践と,親などが意識的・無意識的に行う子どもへの働きかけとが相殺し合って,「負の効果」をもたらしていることにある,と考えられる。 本研究の結果から,一般校,とりわけC校やF校で水準別教育が生徒の学力向上に一定の効果をあげていることは,必ずしも「水準別教育」によるものではなく,その学校・生徒の実情にあう授業改革・工夫,とくに「共同体型授業」によることが明らかになった。平準化政策がもたらした学校内学力格差の縮小には,生徒一人ひとりの諸状況・実態を踏まえた,共同体型授業の推進が有効であり,それが韓国の教育・学力問題の一つを解決する,ひとつの手がかりになると考えられる。
著者
渡邉 仁
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.1-30, 2020-12-23

本研究では,国内外の高校における学校適応研究の研究動向を掴み,今後の研究課題を指摘することを目的とした。具体的には,学校適応の実態把握,関連要因,学校適応が他の問題に及ぼす影響を検討した研究を概観した。その結果,学校タイプや学年によって生徒の学校適応の様相が異なり,学校適応の関連要因は多岐にわたっていることが示唆されていた。また,在学中の学校適応が卒業後にまで影響していることが指摘されていた。社会的背景に困難を抱える生徒が多い非進学校では,生徒は入学してすぐに学校適応問題に直面し,教師の働きかけによって適応することもあれば,留年や中退することもある。しかし,これまでの学校適応研究では教師側の視点や生徒の社会的背景,留年や中退等は検討されていない。したがって,今後は高校の多様性や学年差を考慮し,留年や中退も視野に入れ,教師側の視点や生徒の社会的背景をみる観点から検討する必要性が示唆された。
著者
藤川 奈月
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.329-357, 2021-06-25

現在,「生きづらさ」という言葉が包括的で多義性を持つ言葉として様々な人の間で使われている。にもかかわらず,専門家による「生きづらさ」の定義付けや理論構築などといった「生きづらさ」探究活動には,多種多様な「生きづらさ」のうちの一部しか反映されていない。本論文は,この現象の構造とそれを乗り越える方途の検討においてA. W. グールドナーの理論を援用することの意義と限界を探るものである。グールドナーの理論を再読し整理した結果,先述の現象の構造は,グールドナーの下部構造論の援用,すなわち,専門家とそれを取り巻く社会や人々との間の相互作用の検討によって説明可能となることが明らかになった。先述の現象を乗り越えるための方途については,グールドナーのRational Discourse論,特に,「知的対話」「限界の自覚」「非権威的理性」「明識としての知」がその一助となるものの,グールドナーの理論だけでは限界もあるということが明らかになった。
著者
小山 誠南
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.275-291, 2021-06-25

本稿はSébastien Castellion, De l'art de douter et de croire, d'ignorer et de savoir(traduit du latin par Charles Baudouin, éd. Jeheber, Genève-Paris, 1953)の改訂版(réédition Carrière-sous-Poissy, Éditions La Cause, 1996)の125頁から144頁を翻訳したものである。なお翻訳にあたっては,E. F. ヒルシュによる本書のラテン語原文の校訂版,Castellio, S., De arte dubitandi et confidendi, ignorandi et sciendi(Leiden, E. J. Brill, 1981)も参照し,鍵となる語彙についてはラテン語を付記した。 今回訳出したのは第2巻の冒頭,第1章から第6章である。ここではカステリヨンの持つ三位一体論と信仰論が展開されており,彼の思想を知る上で非常に興味深い議論がなされている。なお【翻訳】における注記は全て原注に従っている。
著者
新藤 こずえ
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.138, pp.119-136, 2021-06-25

近年,児童養護施設で暮らす障害のある子どもが増加している。本稿では,その背景を概観したうえで,従来,児童養護施設で取り組まれてきた自立支援のあり方を問い直すものとして,施設における障害のある子どもの進路支援に焦点をあてる。施設職員を対象としたインタビュー調査の結果,進路支援の前提として,学齢期を通して子ども自身の障害受容を促す支援が行われているが,高校進学の段階では,普通高校よりも特別支援学校高等部への進学を後押しする働きかけが行われていることが明らかになった。しかし,障害のある子どもに対するこうした進路支援を含む自立支援は,子どもたちが望む「ふつう」の生活をあきらめさせることにもつながっている。他方で,障害のある子どもに対する進路支援は,ライフコースを通じてケアやサポートを利用しながら生きる,つまり依存しながら自立する可能性を広げる契機にもなっていると考えられる。
著者
孫 詩彧
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.171-191, 2020-12-23

共働き夫妻の家事育児は遂行の時間や頻度から見て分担が進んでいるものの,妻に偏っている点で夫片働き家庭と共通している。これを受けて役割分担の研究は共働き夫妻に限定して規定要因の再検討を行った。一方,子どもの誕生と成長につれて夫妻間の役割分担が硬直化し,調整可能性が制限されることの議論がほぼなされていない。本研究は夫妻双方から集めたペアデータを用い,育休の取得と利用を手がかりに分析した。その結果,調整可能性の内実として「互換可能性」と「代替可能性」を明らかにした。妻のみ育休を取る場合,夫妻間の交渉が抑えられて役割の互換をしなくなり,夫の家事育児遂行が限られた結果,夫妻間の代替も難しくなる。役割分担の調整可能性に寄与する観点から,男性の育休取得率を上げるよりも,取得と利用における夫妻間の差に注目する必要がある。夫妻が共に育休を取る,もしくは取らなくても子育てができる環境が重要である。
著者
亀野 淳
出版者
北海道大学大学院教育学研究院
雑誌
北海道大学大学院教育学研究院紀要 (ISSN:18821669)
巻号頁・発行日
vol.137, pp.259-270, 2020-12-23

本稿においては,インターンシップやアルバイトを就職希望者(学生)の能力把握(企業側の視点)や企業・業種の実情把握(学生側の視点)などに利用するという直接的効果に着目し,企業に対するアンケート調査を実施した。その結果,①新規学卒者の採用にあたっては,能力把握の方法として「面接」が最も重要視されており,インターンシップやアルバイトは少ないが,これらの方法の評価としては,面接よりもインターンシップ経験の方がその有効性を企業が認識していること,②こうした有効性の認識もあり,多くの企業が採用目的でインターンシップを実施しているが,当初の目的を十分に達成しているとは必ずしもいえないこと,③平均すると,企業は新卒採用の2.4倍程度の学生をインターンシップ学生として受け入れ,そのうち,6.4%程度を実際に採用している。新卒採用者全体でみると,約7人に1人をインターンシップ経由で採用していることなどが明らかになった。