著者
林 芙俊
出版者
北海道大学農学部農業経済学教室
雑誌
農経論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.73-86, 2009

わが国の総合農協は、設立当初から戦後自作農の維持装置という政策的な位置づけを与えられ、その後も各事業が国の政策と連動する形で発展を遂げてきた。このような性格は、「制度としての農協」として知られている。しかし、現在の農協に関する議論においては、農政の転換や組織基盤の変化にともない、こうした性格の弱体化が進みつつあるとみられており、組合員の主体的参加による自生性を重視する方向で農協の将来像が展望されている。こうした議論を進めるうえで注目に値するのが、愛媛県を中心とするミカン農業地帯において独自の発展をみせた専門農協である。戦前からの自生的な共販組織としての歴史を有し、「制度としての農協」とはまったく異質なものである。しかし、専門農協に関する従来の研究は、マーケティング能力に関するものに偏っており、こうした組織化のあり方を評価、分析したものは極めて少ない。そこで本論では、愛媛県の戦前期のミカン販売組織がどのような特質をもち、そのことが戦後の専門農協組織の展開過程に与えた影響を分析することを課題とする。
著者
朴 紅
出版者
北海道大学農学部農業経済学教室
雑誌
農経論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.66, pp.81-91, 2011

黒竜江省は中国最大のジャポニカ米産地として知られている.水稲の作付面積は245万haであり,籾の総生産量は1,500万トンに上るが,そのうち,国有農場(農墾)のそれは103万ha (42%),840万トン(56%) であり,この地域の大きな特徴となっている(2008年現在).国有農場は,その組織改革のなかで稲作を戦略部門として位置づけ,三江平原を中心に水田開発を進めてきたが,生産に関しでは職工農家への請負制を行うとともに,それを産地として再統合し,巨大な加工・流通企業として頭角を現している.その一環として,農墾総局は傘下の優良農場を選別・統合して「北大荒農業㈱」グループを設立しているが,2001年には米穀の加工と販売のために「北大荒米業」を設立している.この企業は,グループ参加農場の産地化を図るとともに,籾保管・精米加工を行い,輪出を含む販売を行う巨大流通資本に成長し,中国における米のトップ企業に位置づけられている.以下では,米の生産・加工・販売という一連の流れのなかで,北大荒米業が果たしている機能について明らかにしていく.
著者
朴 紅 青柳 斉 李 英花 郭 翔宇 張 錦女
出版者
北海道大学農学部農業経済学教室
雑誌
農経論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.101-115, 2010
被引用文献数
1

中国東北地方は、近年アジアにおける有数のジャポニカ米の産地として急速な成長を示し、注目されてきた。しかし、米生産量の拡大は物流体制の未整備もあり、2003年を頂点に深刻な過剰をもたらした。その結果、東北地方内部においても激しい産地間競争が行われ、米のブランド化をめぐって品種改良や栽培技術の向上、マーケティングなどに力が入れられるようになっている。本論では、古くから良質米産地として著名である黒竜江省五常市を対象として、現段階における高級ブランド米産地の形成要因を明らかにする。まず、五常市の稲作生産と産地形成の特徴を述べた上で、第1には産地の新たな市場対応とブランド形成について分析を行う。産地の担い手が糧食局から分化・独立した精米加工企業から近年設立された農民専業合作社へと急速にシフトしていることが示される。第2には産地基盤としての農業構造の特徴を明らかにする。まず、朝鮮族の割合が高く、韓国などへの海外出稼ぎなどにより農地の賃貸借が増加し、大規模経営が形成されている点、つぎに、品種改良による優良品種の普及と臨時雇用型の有機栽培経営が行われている点が明らかにされる。
著者
合崎 英男
出版者
北海道大学農学部農業経済学教室
雑誌
農経論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.71, pp.59-71, 2017

以下,BWSの適用手順を概観した上で,BWSの選択肢集合の設計から項目の相対評価の計算までの作業をRで行う手順を解説する。ただし,紙幅に限りがあることから,手法の詳細については既存のBWS関連文献を,Rでの実行方法の詳しい情報はsupport.BWSパッケージ(バージョン0.1-3)のヘルプやAizaki et al.(2014)の第4章を参照されたい。本稿の読者は,Rの基本操作とダミー変数を利用した線形回帰分析に関する知識は有していることを前提としている。Rや回帰分析の基礎については多くの資料が存在するので,必要に応じて自身に適したものを参照されたい。
著者
高畑 裕樹
出版者
北海道大学農学部農業経済学教室
雑誌
農経論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.77-85, 2014

従来,北海道では,農業における労働力として,出面組と言われる任意集団を利用して地域内から労働力を調達してきた経緯がある。しかしながら,従来過剰人口と言われた農村労働力は,分解・過疎化・高齢化といった状況に陥りもはや過少ともいえる状況と言える。このような状況下において,地域内から労働力を調達することは困難であり,都市部における人材派遣会社から労働者を調達せざるを得ないのが現状である。しかし,人材派遣会社が供給する労働力は以下の問題点を孕んでいる。第1に,作業に習熟することが困難な点である。農作業とは,どのような労働者でも個々の農家ごとに,作物・作業内容は異なるが長期にわたり作業に従事することで習熟することができる。しかし,人材派遣会社が供給する労働力は派遣形態の特性上,日ごとに派遣される人材が変わることが一般的であり,習熟することが困難になる。第2に,労働者派遣法改正(2012年10月施行)による日雇い派遣の禁止である。農業における雇用は,基本的に農繁期のみのスポット的な短期雇用が多数をしめる。そのため,30日以内の雇用を禁止する日雇い派遣の禁止は,農家に労働者を派遣すること自体困難にする。以上2点の問題により,現在,農家に労働者を派遣する人材派遣会社は,如何にして同一農家に労働者を「固定化」して派遣するか,また,31日以上の連続派遣を行うかその対応に迫られている。
著者
師 耀軒 桟敷 孝浩 澤内 大輔 中谷 朋昭 山本 康貴
出版者
北海道大学農学部農業経済学教室
雑誌
北海道大学農經論叢 (ISSN:03855961)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.97-104, 2009-03

日本政府は、2002年に、外国人旅行者の訪日を促進する「グローバル観光戦略」を策定し、「2010年に訪日客1,000万人を」との目標を掲げたキャンペーンの実施を表明した。2003年1月には、当時の首相による施政方針演説の中で「わが国の文化・観光の魅力を全世界に紹介し、訪日外国人旅行者の増加とこれを通じた地域の活性化を図る」旨の"観光立国への道"が表明された。観光を主目的として訪日する外国人の増加を促進していく意義は、経済や地域の活性化だけではなく、国際相互理解の促進などの面からも極めて大きい。このため、いくつかの機関は、外国人観光客による日本国内での観光動向についての基礎データを得るために、外国人観光客に対するアンケート調査を実施している。このような基礎データは、政府による観光政策の立案や旅行会社によるマーケティング戦略の構築などに有益な情報を提供している。本論文の課題は、北海道大学在学中の留学生を対象者としたアンケート調査分析を通じ、留学生の日本国内における観光動向を明らかにすることである。