著者
山田 貴子 Takako Yamada
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.47, pp.129-142, 2019-02-28

高等教育のアウトカム重視傾向の高まりから、汎用的能力獲得における正課外の学習活動が果たす役割に注目が集まっている。そこで本研究では、ラーニングコモンズの活動に焦点をあて、学生スタッフの社会人基礎力1)への影響を検討することを目的とした。研究1では、学生スタッフの社会人基礎力に与える影響のうち、課外活動経験に注目し、学生スタッフ46名の社会人基礎力得点と、①アルバイト、②サークル活動(部活動を含む)、③教職課程履修、④SA経験、⑤一人暮らし経験の5つの課外活動経験の有無との関連を検討した結果、すべての項目に関して有意差は認められなかった。研究2では、学生スタッフ44名を対象にラーニングコモンズでの活動に関するアンケート調査を事前・事後の2回に分けて実施した。その結果、向上させたい力として【発信力】【働きかけ力】【主体性】を重要視する学生が多く、対人関係における社会的成長および人格的成長への志向性が確認できた。以上のことから、ラーニングコモンズにおける正課外活動実践は、社会人基礎力の発揮・向上の場となり得ることが示唆された。
著者
青木 順子 Junko Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.46, pp.31-50, 2018-02-20

2017年1月トランプ政権誕生後、「代替的事実」や「偽ニュース」の言葉で、政権側から公然と事実と異なることが事実として提示される、または、都合の悪い事実は信用ならないものとして貶められる、という驚愕するような言動が民主国家の代表とされてきた米国の政権でも通用することを世界は見せつけられることになる。多種多様なメディアの出現によって、虚構世界と現実世界の物語の境界が曖昧になっている今、他者のメディア表象に拘ることへの尊重が一層必要とされている。社会で優位にあるグループであれば「気にかけない」として済ませられるかもしれない出来事について、一つひとつに「拘る」ことで権利を主張する必要がある少数派が社会には存在する。「我が国・自国への愛国心」、「我々・自国中心」、「テロリストの彼ら」、「犯罪者の彼ら」と、「我々だけ」を尊重し、他者「彼ら」への敵対心や恐怖のみを煽り立てる乱暴なレトリックが民主国家の政治の権力側から公然と示され得る時、社会で少数派の拘りの行為が抑圧される可能性は高くなっているのである。ポピュラーカルチャーに見える「ホワイトウォッシュ」から大国の政権による「壁を作る」政策まで、全て関係し合い、相互に影響しないではいられないグローバル化した世界を私達は生きている。ジジェクの言う「人間の顔をもったグローバル資本主義」の実現のために、一人ひとりが拘り、今自分に出来ることを丁寧に問い、真摯な他者とのコミュニケーションを通して実現しようとする、そうした人々を育てることが異文化教育には要求されているのである。
著者
西原 明史 Akifumi Nishihara
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.50, pp.65-74, 2022-02-28

本研究は観光のもう一つの形を模索する試みである。その原点とも言える聖地巡礼や教養旅行に始まり、近代イギリスで誕生した団体ツアーから現代の様々なツーリズムに至るまで、観光は常に成長や再生を求めて行われてきた。一方、試練を経て成長するという通過儀礼の図式に沿って進むあらゆるジャンルの物語もまた、成長を疑似体験するために読まれている。つまり両者とも成長がよきものであるというイデオロギーを強固にすることに寄与しているのである。しかし過剰な経済成長は地球規模で環境破壊や格差の拡大をもたらしており、成長至上主義からの脱却を求める声はますます高まっている。そこで本稿では、例外的に脱成長の物語を生み出してきた三人の作家の成長観をその作品から読み取り、それを反映させた「脱成長」型の観光スタイルを提案した。
著者
宮岸 哲也 李 紹恩
出版者
安田女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

本研究では、チベット=ビルマ語派のゾゾ語について、民話の音声データと、基本動詞と授与補助動詞構文の用例データを収集した。これらのデータに基づき、ゾゾ語の格助詞、名詞句構造、連体修飾構造、体言化、授与補助動詞構文について詳細に記述した。特に、ゾゾ語の授与補助動詞構文については、与益・与害の用法のみならず、非意図的な事態を表わす非能動的用法があることを見つけた。更に、これらを同様の授与補助動詞構文を持つ他の諸言語と対照した結果、授与補助動詞構文における文法化の過程の類型的規則性を示すことができた。
著者
星田 剛 Takeshi Hoshida
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.227-236, 2021-02-28

チェーンストア型サービス業では、従来価値共創の実現が難しいと位置づけられてきた。しかしこの領域においても価値共創が実現し、かつ価値共創によりチェーンストア型サービス業の構造的な課題であるコモディティ化と従業員の疲弊や離職の増加を解決できる可能性があることを、QBハウスの事例研究を通して論じた。
著者
廿日出 里美 Satomi Hatsukade
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.50, pp.141-148, 2022-02-28

本研究の目的は、来るべきAI時代に備えてAIとは異なる生身の人間の「感覚力」に着目し、人とかかわる職に就く人々に向けた研修プログラムを開発することにある。これまでの研究においては、人称の身体感覚を手がかりに、パフォーミング・アーツのワークショップにおける長期的フィールドワークを通して、対人関係専門職に就く人々を想定した感覚力の拡張を目指すプログラムの開発及び検討を行った。本論では、人称の身体感覚を拡張するワークのなかでも、①自己の境界と溶解の身体感覚、②認識主体と認識対象との一体化、③自己や周囲との対話的なやりとりに着目し、対人援助職の専門家の養成や研修で重視すべき身体感覚について、関連する研究の動向や過去に行った実践的な取り組みに照らし、考察する。
著者
中島 正明 Masaaki Nakashima
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大學紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.47, pp.103-117, 2019

今日、ますますその度合いを深めていく高度情報通信ネットワーク社会の中で、学校教育におけるICT(情報活用能力)に大きな期待が寄せられている。それと同時に、スマホ依存症など青少年を取り巻く問題状況が指摘されている。一方、すでに教育界では30年以上にわたってNIEが実践されてきた。ところが、その取り組みは記事の読み比べにとどまり、今ひとつ利用の仕方に広がりを感じられない。さらに、今日的な教育課題としてESDという新たな国際的・地球規模での実践が指摘されている。生活全般に渡ってグローバル化が進みつつある現代および将来において喫緊の教育課題として、それを避けて通ることはできない。そこで、ESD、ICT、NIEという3つの要素をリンクさせた新しい教育実践を構想し、新学習指導要領の実施に向けてNIEの新しい在り方・教育方法としての有効性と可能性を検証した。 特に、全教科でNIEを活用できることを実証することによって、教員養成課程におけるICT教育の在り方を見直すことを提示したい。
著者
小倉 有子 庄林 愛 Ogura Yuko Shobayashi Megumi
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.297-304, 2021-02-28

グルテンは、小麦などの麦類に含まれる蛋白質の一種であり、米国ではグルテンを含まない食品を「グルテンフリー(以下、GF)」と表示している。GFと表示された食品(以下、GF食品)を用いた食生活は(以下GF食)、セリアック病などの治療に用いられている。近年、欧米においてGF食は健康に有用である、さらには痩身にも有用であるとの情報が拡散し、グルテンを避ける必要がない者がGF食を取り入れる傾向がある。これをうけて日本でも同様の情報が拡散しGF食品が増加してきた。本研究では、グルテンを避ける必要がない者がGFを選択した場合、非GFと比較して、摂取する栄養量にどのような差異が生じるかを明らかにすることを目的とした。本研究では、GF食/非GF食として最もポピュラーだと思われるパンを試料とした。 結果、グルテンを避ける必要がない者がGFパンを長期的かつ日常的に選択した場合、非GFパンを選択した場合と比較して、食物繊維や鉄の不足および脂質の過剰といった悪影響が出る可能性があることがわかった。
著者
山下 明博 Akihiro Yamashita
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.199-208, 2021-02-28

全日本空手道連盟四大流派の一つである和道流空手において、大塚博紀氏の著書である「空手術之研究」は極めて重要な文献である。 筆者は、和道流空手の修行時に留意すべき点を考察し、「和やかな気持ち」、「脱力による、タメのない敏捷性」、「身体の中心の感覚」の3つの極意を明らかにした「『空手術之研究』から読み解く和道流空手3つの極意」を2010年に執筆した。本稿は、それに続き、空手の形の一つである「ナイハンチ」に関し、新たな気付きを3つの極意に沿って考察し、大塚氏が本部朝基氏のナイハンチに創意を加えた点を明らかにすることで、難解とされる和道流空手の疑問点を解消し、和道流空手技術の継承と発展に寄与することを目的とするものである。
著者
青木 順子 Junko Aoki
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.48, pp.125-136, 2020-02-28

2018年後半から2019年前半にかけてのアカデミー賞作品賞を受賞した映画、米国NBC局のキャスターの「ブラックフェース」発言等、社会で論争を引き起こした例を基にして、「拘り」の表明、「拘り」に対する反応、反論、言い訳に見えてくるものを検証し、「拘り」の持つ性質と意義について考察をしている。自らの「拘り」への参加、他者の「拘り」の行為の受容、そして異なる意見の表明によって互いに真摯な応答の過程がなされていく社会を尊重し、「拘り」の表明によって、さらに異なる意見が自由に意見交換されるような空間――これは、カントのいう公共圏でもあり、アーレントが、レッシングの考えた真理の存在、「真理は、言語を通して人間化されるところのみ存在する」について述べたような、多様性を持つ人間が「真理だと思っているもの」を表明し語ることでのみ作り得る「唯一の人間的な空間」でもある。他者のメディア表象への「拘り」を尊重し、真摯に応答する行為を通して、「一人ひとりが・拘り・今・自分に・出来ることを、丁寧に問い・声をあげ、かつ、耳を傾け・異なる他者とのコミュニケーションを続け・それを通して得た真理を・実現しようとする」という異文化コミュニケーション教育の目標は達せられるのである。
著者
戸田 常一 Tsunekazu Toda
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.259-270, 2021-02-28

新型コロナウイルスの我が国に流入して半年が過ぎた。ウイルスの感染拡大はわが国における様々な社会経済活動に大きな影響を及ぼした。政府や自治体は人の移動やイベント開業などの自粛を要請し、これにより旅行業、航空業、鉄道業、イベント関連業、宿泊・飲食業などは大きな打撃を受けた。なかでも中小規模の事業所の多い観光関連業界は深刻な事態に至っている。本稿は、検査や医療体制の限界から感染が拡大するリスクを「感染リスク」、企業倒産や失業などにより生活困窮者が生まれるリスクを「経済リスク」として捉え、これらのリスク発生と制御の視点から半年間の国内での対応を振り返って整理し、これをもとに感染リスクと経済リスクをともに視野においた観光分野のリスクマネジメントのあり方を考察する。
著者
廿日出 里美 Satomi Hatsukade
出版者
安田女子大学
雑誌
安田女子大学紀要 = Journal of Yasuda Women's University (ISSN:02896494)
巻号頁・発行日
no.49, pp.125-136, 2021-02-28

本研究の目的は、来るべきAI化時代に備えてAIとは異なる生身の人間の「感覚力」に着目し、人とかかわる職に就く人々に向けた研修プログラムを開発することにある。大量の情報を瞬時に処理することに長けたAIは将来、職場でどのように活用され、人々の関係性にどのような変化をもたらすか、現時点での将来像を予測しておく必要がある。昼寝などの睡眠時の乳幼児の安全・見守りや送り迎え時の保護者対応、絵本の読みかたり等の業務にAIが登用された場合、そこで働く専門職の意味合いや養成、ならびに、研修内容にも大きな影響を及ぼすと考えられる。経済中心の原理や従来の仮説検証型の自然科学的方法とは異なる未来像を描く方途として、本論では人称の身体感覚を手がかりに、パフォーミング・アーツのワークショップにおける長期的フィールドワークを通して、対人関係専門職に就く人々を想定した感覚力の拡張を目指すプログラムの検討を試みる。