著者
由井 正敏 工藤 琢磨 藤岡 浩 柳谷 新一
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.1-9, 2001-07
被引用文献数
4

わが国のイヌワシの繁殖成功率は近年低下しており、その原因としてうっぺいした森林の増加が推測される。イヌワシは疎開地や森林内のギャップで狩りを行うため、うっぺいした森林は不適である。このため、秋田県田沢湖町のイヌワシ営巣地を囲む二次林地帯に1-2haの小規模疎開地6ヵ所を伐採造成し、非営巣期のイヌワシの採餌行動の変化を調査した。その結果、造成疎開地における採餌行動頻度は対照区に比べ有意に増加し、その有効性が確かめられた。
著者
ウヴェ リヒタ 大沢 久人 岩手県立大学総合政策学部 Policy Studies Association Iwate Prefectural University
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.251-256, 2000-12-31

1999年の秋、ドイツ社会民主党・経の党の赤緑連合は、トルコによる「レオパルト2」戦車1000台の輸入計画によって崩壊寸前であった。緑の党は、トルコ国内における人権侵害の故に戦車輸出に反対し、社会民主党は、軍需産業における労働者の雇用の確保、および北大西洋条約機構(NATO)加盟国トルコに対する責任を主張した。結局、危機は妥協によって回避された。トルコに試用目的の戦車を1台供与し、西暦2001年に最終的な決断を下すことになったのである。しかし、1992年にドイツ国防省が連邦議会の意に反して15台の戦車をトルコに提供したことで、当時の国防相は辞職に追いやられている。トルコヘの武器輸出は、30年来変わらぬドイツ政治の厄介な課題である。ドイツの武器輸出政策の実態と法的根拠、およびその内政上、外交上の目的についで、トルコを事例として述べる。This article is about the principles and policy of German weapon exports, the crisis inside the red-green coalition in autumn 1999 because of conflicting views concerning weapon exports, patterns of German Near-East-policy and recent changes in German foreign and security policy.
著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.241-260, 2016-03

本件は、事業者が、クロレラを含有するいわゆる健康食品の販売のため配布するチラシに、薬効を有するかのように示す表示をしていることにつき、適格消費者団体が景品表示法10条1号(平成28年4月1日以降は30条1項1号)に基づく差止請求を提起した初めての訴訟であり、団体(京都消費者契約ネットワーク)が勝訴している(平成27年1月23日、事業者側が控訴、11月現在大阪高裁に係属中である)。本件判決は、健康食品の広告表示に関して、医薬品でないにもかかわらず薬効を示すものにつき、旧薬事法によって形成された一般消費者の医薬品への信頼をもって、実際より著しく優良であるとの誤認をもたらすと判断している点に意義を有する。この判断が維持されれば、健康食品の効能効果に付き科学的な証明が不要となり、事業者に対して合理的根拠の提出を強制する術をもたない、適格消費者団体による差止請求の可能性を広げうるものと期待されるからである。本稿では、本判決の論理を分析し、その射程を検討した。今後、保健機能を標榜する健康食品に関しては、特定保健用食品等に加え、平成27年4月1日から始まった機能性表示食品制度はその利用が容易であることに鑑みると、同制度を利用しない健康食品に関しては、本判決の論理が及ぶ可能性(機能性があるとの誤認の推認)がありうる。
著者
窪 幸治 Kohji Kubo 岩手県立大学総合政策学部
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.201-212, 2014-03-01

本件は、東日本大震災発生時のマンション内の水漏れ事故につき、居住者が区分所有者の加入する個人財産総合保険保険に付された個人賠償責任総合補償特約に基づき保険金支払を求めたところ、保険会社が地震免責条項の適用を主張したという事案である。第1 審(東京地判H23・10・20)は、他の免責条項との均衡等から、同条項にいう「地震」を通常予見しえない「巨大かつ異常な地震」に限定し、保険会社の免責を認めなかった。本判決(東京高判H24・3・19)は「地震」につき、(1)文理解釈、(2)地震保険法との均衡、(3)他の免責事由との関係、(4)保険実務への考慮等から「自然現象としての地震と相当因果関係のある損害はすべて地震免責条項の対象となるのが相当」と判示した。客観的解釈を強く要請される約款解釈からすれば、当該判示は正当である。しかし、本件は、通常の耐震性を欠くこと(「瑕疵」)を責任原因とする、保険事故たる土地工作物責任発生及び、地震免責条項適用に係る相当因果関係の検討が不十分な点で問題がある。確かに、当事者は因果関係を争っていないが、地震と瑕疵の原因競合及び割合的な処理の可能性を検討すべき事案であったといえよう。
著者
米地 文夫 木村 清且 Fumio YONECHI Kiyokatsu KIMURA ハーナムキヤ景観研究所 岩手県立大学大学院総合政策研究科
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.29-44, 2006-12-01

賢治寓話「黒ぶだう」は,仔牛が赤狐に誘われ,ベチュラ公爵別荘にわき玄関から入り,二階で黒ブドウを食べる。狐はブドウの汁を吸って他は吐き出し,仔牛は種まで噛む。公爵たちが帰ってきて,狐は逃げ,残された仔牛はリボンを貰う。この話の公爵別荘のモデルは花巻市街に現存する菊池捍(きくちまもる)邸であることが明らかとなった。菊池邸は1926年に建てられ,外見は洋館,中が畳敷きの和室で,花巻出身で北海道清水町の明治製糖工場長であった捍氏が建主である。北海道の洋館建築の様式をとり入れつつも,武家住宅の伝統を受け継ぎ,洋館には無いはずの本玄関と脇玄関を付けた。賢治が仔牛たちは「わき玄関」から入ったと書いているのが菊池邸をモデルとした証拠である。この建物は他にも「黒ぶだう」の別荘と合う点が多い。菊池捍邸が賢治作品の創作の秘密を解く鍵として極めて重要なことがわかったが,建物自体も大正期の洋風建築として価値の高いものであり,保存保全が望ましい。In Kenji Miyazawa's fairy tale "Black Grapes, " a calf, entitled by a red fox from a pasture, entered the villa of Duke Betula through the side entrance and ate black grapes on the second floor. The fox sucked the juice of the grapes and spit out the residue, while the calf chewed the grapes and the seeds as well. When the duke and his entourage returned home, the fox ran away. The calf was left there, but was given a ribbon by the duke. It was revealed that the model of the duke's villa is the residence of Mamoru Kikuchi, that still exists in the city of Hanamaki today. Built in 1926 by Mamoru Kikuchi, from Hanamaki and manager of Meiji Seito's sugar-making factory in Shimizu town, Hokkaido, the Kikuchi Residence has a Western appearance and tatami-matted rooms inside. Although the building was designed after the style of Hokkaido Western architecture, it followed the tradition of the samurai house and has both a main entrance and a side entrance, which don't exist in an ordinary Western-style house. The evidence that this is the model is that, as Kenji wrote, the calf and the red fox entered the villa through the "side entrance." There are many elements this building has that agree with the descriptions of the Black Grapes villa. Although the Kikuchi Residence is extremely important as a key to unravel the secrets of Kenji's creation in his works, the building itself is of high value as an example of Taisho Era western architecture, which is why its total preservation is desired.
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.25-42, 2001-07

磐梯山1888(明治21)年噴火は,水蒸気爆発とそれに伴う岩屑なだれによる大災害であったが,噴火地点に近い磐梯温泉,中の湯の滞在客鶴巻良尊は奇跡的に助かり,詳細な手記を書簡として残した。この鶴巻の証言には噴火直後の噴石による被災の状況と,その後の避難行動が記されており,岩屑なだれを起こしたと思われる"破裂"が3度にわたり発生したことなども記載されていて,きわめて重要なものである。にもかかわらず,この噴火の学術的報告として研究者に引用されている関谷・菊池両氏の論文等は,この書簡を掲載した点は評価できるものの,証言の内容自体は黙殺したり改変したりして十分に活かしているとは言い難い。この論文では鶴巻証言から,噴石による災害は喧伝されたほど劇甚ではなかったこと,岩屑なだれ発生は山体の多段階崩壊によるものと推定できること,などを読み取り,同種災害時の避難行動に役立てようとしたものである。
著者
山谷 清志
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.155-172, 1999-07-31

地方分権が進む中、理論的には自治体政策の形成と立案、そして決定において地方議会の役割が非常に期待されている。しかし、現実には地方議会不要論、それをトーンダウンした形の「議員定数削減」論、あるいは直接民主主義的な住民投票条例制定を求める運動が、各地に出てきている。それは地域における代議制デモクラシーの機能不全に失望したからである。しかし、地域から代議制デモクラシーを無くすることは不可能であり、また望ましくもない。ここに求められるのは、地方議会の改革である。そして、それは地方議会が実現すべき三つの価値、すなわち議会のアカウンタビリティ、レスポンシビリティ、レスポンシヴネスの価値を実現する方向の改革になるはずである。In Japan, municipal and prefecturel assemblies have been weak (since 1947),while governors and mayors have been strong. First, assemblies are not able tomake and evaluate policy, because of poor knowledge of skills and the policies themselves. Second, most assemblymen/women believe that their elections is only an advertisement of their personal character, not policy. As a result, the elections of local assemblies become noisy shows or 'popularity votes'. Citizens can't chose the policy programs that they need. Maybe decentralization in Japan means that local governments should make, implement and evaluate policies and programs. The key to decentralization is how assemblies get the abilities and possibilities for policy making and evaluation capabilities.
著者
米地 文夫
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.109-125, 2010-05

宮沢賢治の未完の作品「銀河鉄道の夜」の多くの登場人物のうち、燈台守は最も印象的なキャラクターの一人である。この燈台守はヘルクレス座の近くで銀河鉄道の客室内に現れる。彼は黄金のリンゴを持ってくるヘラクレスであるとともに、賢治と同郷の花巻出身の農業技術者・島善鄰博士でもあり、なおかつ北上河畔に一人立つ賢治自身でもあった。ヘルクレス座には燈台のような変光星もあり、島博士はゴールデンデリシャスを北国から日本に初めて導入している。この燈台守挿話は賢治作品における重層的世界の典型例の一つなのである。
著者
根本 理 本田 智明 高橋 誠 竹内 正人 杉山 喜則
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.35-47, 2007-12

巣外育雛期初期(巣立ち後1ヶ月間)のイヌワシAquila chrysaetosの幼鳥の生存にとって重要な親鳥からの餌の受渡状況を解明するため、2000年と2002年に福島県の同じ営巣地から巣立った幼鳥各1羽を対象に目視調査による巣外育雛期初期の餌受渡状況調査結果とビデオ撮影による巣内育雛期後期(巣立ち前10日間)の餌搬入状況調査結果との比較を行った。その結果、餌受渡回数で評価した場合、幼鳥は巣内育雛期後期と同様に巣外育雛期初期もその生存に必要な餌を親鳥からの受渡に依存していることが明らかになった。餌受渡および同じ幼鳥を対象に分析した幼鳥の飛翔能力の発達状況のそれぞれの解析結果から総合的に考察すると、ハンティング能力が未発達な巣外育雛期初期の幼鳥の生存を確保するためには、親子関係が維持できるように、この時期に幼鳥の中心的利用エリア(営巣地から半径1.2kmの範囲)で工事などを行う場合には、巣内育雛期の親鳥に対する保護対策に準じた保護対策を講じることが必要であると考えられた。
著者
窪 幸治
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.223-236, 2015-03-01

本稿は、拡大を続ける電子商取引のプラットフォームである、インターネットショッピングモールサイトの運営者が、同サイトに出店するショップの顧客に対していかなる義務を負うかについて、若干の検討を加えることを目的とする。すなわち、従来、モール運営者はショップと顧客の取引がなされる「場」を提供する者であると理解され、あまり認識されてこなかった顧客との利用契約上の義務について検討する。結論としては、ショップ-顧客の取引がモール運営者の構築・提供するシステム利用を前提とすること、非対面であるインターネット取引の特性の考慮から、モール運営者には顧客とのシステム利用契約上の義務として、一定の技術水準確保及びショップへの監督を通じ、安全な取引環境を整備する義務を観念しうると考える。具体的には、契約の相手方選択の自由を損なわないよう契約過程を管理し、情報の正確性等に疑義が生じている場合に、ショップに対して監督する義務などが指摘できる。
著者
伊東 栄志郎 Eishiro Ito Liberal Arts Center Education and Research Iwate Prefectural University
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.147-159, 2014-03-01

本稿は、アイリッシュ・オリエンタリズムがどのようにジェイムズ・ジョイスと彼の同時代人達に影響を与えたかを探求する。M. マンスーアは『アイリッシュ・オリエンタリズム物語』で、アイルランドのオリエンタリストたちは「大英帝国の統治と意地に大いに貢献してきた」と語る(13 頁)。ジョイスは、英語とは異なりアイルランド語は東方起源で、多くの言語学者たちから古代フェニキア人の言葉と同一視されてきたと主張した(CW 156)。彼は、多くのアイルランド人たちが東方の傑作を翻訳し、紹介することで、英国芸術と思想に大きく貢献してきたと記した(CW 171)。なぜ多くのアイルランド人がオリエント学に興味を抱いてきたのであろうか?若きジョイスは、ジェイムズ・クラレンス・マンガン、ジョージ・ラッセル、W. B.イェイツといったアイリッシュ・オリエンタリストに影響を受け、神智学やオリエント学をダブリンで学んだ。ジョイスの時代のアイリッシュ・オリエンタリストは、しばしばアイルランド文化を英国文化から区別する必要があった愛国者たちであった。アイルランドのオリエンタリズムは大英帝国に対するナショナリズムと強い関係をもって発展してきた。例外は、ギリシャ系アイルランド人ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)で、日本人妻を娶り、日本について多くの論考を書いた。ジョイスを中心としてオリエント学を考察すると、東洋と西洋の文化交流が双方向に行われてきたことを証明することが出来るのである。This paper aims to explore how Irish Orientalism influenced James Joyce and his contemporaries. M. Mansoor mentions in The Story of Irish Orientalism that Irish Orientalists "contributed so much to the administration and maintenance of the Commonwealth" (13). Joyce claimed that the Irish language, unlike English, "is oriental in origin, and has been identified by many philologists with the ancient language of the Phoenicians"(CW 156). He also noted that many Irish men have greatly contributed to English art and thought by translating and introducing some Oriental masterpieces(CW 171). Why have many Irish people been interested in Oriental studies? Young Joyce was known to have been influenced by Irish Orientalists like James Clarence Mangan, George Russell and W. B. Yeats and learned Theosophy and Oriental studies in Dublin. Irish Orientalists in Joyce's time were often the nationalists who needed to differentiate Irish culture from Anglicized culture. Orientalism in Ireland had developed with a strong connection with their nationalism against the British Empire. One exception is Lafcadio Hearn, a Greek-Irish, who married a Japanese wife and wrote many articles about Japan. Oriental studies focusing on Joyce can prove that the cultural exchanges between East and West have been carried out interactively.
著者
金子 与止男 Yoshio Kaneko 岩手県立大学総合政策学部
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.127-132, 2015-11-01

イソヒヨドリは、日本ではもともと海岸沿いに生息していたが、近年、海から離れた内陸部にも進出し、繁殖するようになってきた。内陸部ではとくに、鉄道の駅やマンションなど高層建築物のある都市でよく目撃されている。筆者は岩手県の内陸部でイソヒヨドリを複数回にわたり観察することができた。盛岡市、遠野市、花巻市、北上市、一関市である。海からもっとも遠い地点は盛岡駅の71km であった。イソヒヨドリの行動から、これら内陸の都市部で繁殖していると結論づけられた。The blue rock thrush Monticola solitarius originally inhabits the coastline in Japan, but the species has recently been observed far inland. In particular, blue rock thrushes are often found in large cities with high buildings including railway stations. I observed blue rock thrushes several times in the interior of Iwate Prefecture, i.e.,Morioka, Tohno, Hanamaki, Kitakami, and Ichinoseki. The farthest inland site was Morioka, which is 71 km from the coast. Based on the birds' behavior, I concluded that blue rock thrushes breed in these inland cities.
著者
渋谷 晃太郎 小野寺 智也
出版者
岩手県立大学総合政策学会
雑誌
総合政策 = Journal of policy studies (ISSN:13446347)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.29-38, 2016-11

岩手県内の市町村環境担当部局にアンケート調査を実施し、県内に侵入した特定外来生物の分布状況、駆除及び広報の実施状況を把握した。ウシガエル、オオクチバス、ブルーギル、アレチウリ、オオキンケイギク、オオハンゴンソウの6種について分布を確認した。また7種については駆除の実績があり、6種について市民への広報が行われていたことが明らかとなった。