著者
橋本 和彦 倉持 智宏 木村 真人
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

合成ポリアミド(ナイロン)、特に単純な繰り返し単位をもつナイロンは、一般に自然環境下では分解しにくいと考えられている。機械的強度が強く人間生活に不可欠のナイロンに生分解性をもたせることができれば用途がさらに広がるはずである。本研究では、比較的構造の簡単な各種ナイロンの土壌中での分解性を検討した。まず、市販のα-ピロリドン(1)を高真空ライン中で精製し、そのアニオン重合により高分子量のナイロン4を得た。また双環ラクタム、8-オキサ-6-アザビシクロ[3.2.1]オクタン-7-オン(2)からも糖基幹構造を主鎖にもつポリアミド(3)を合成した。合成したポリアミドおよび市販ナイロンから調製した膜を、名古屋大学の農学部付属農場の各種連用土壌中に埋没した。その結果堆肥を含む土壌中でナイロン4膜のみが特異的に迅速に分解消失した。一方、ポリアミド3は酸性土壌中で加水分解することがわかった。ついでナイロン4膜とナイロン6とのブレンド膜を作成し、同様にして土中埋没試験を行ったところ、堆肥を含む土壌中でナイロン4膜のみが特異的に迅速に分解消失した。また他の土壌(堆肥を全く含まない土壌、化学肥料含有土壌、クロレラ含有土壌など)中ではナイロン4膜もほとんど分解しなかった。堆肥のみではナイロン4膜はほとんど分解せず、土壌中の堆肥含有量には最適値があること、また畝の中心から採取した土壌より、畝から1m離れた土壌中の方がナイロン4膜が迅速に分解することもわかった。現在までに培養法により、堆肥を含む土壌中に生息する分解菌の1つを単離することに成功した。この成果を基に生分解性ナイロン開発に弾みがつくものと確信する。
著者
曽根 悟 水間 毅 高野 奏
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

純電気ブレーキの第一段階としての,電動車の電気ブレーキを停止まで用いることについては,新京成電鉄に続いて小田急電鉄,東急,名鉄,JR東日本など,採用に踏み切る鉄道が急速に増えている。しかし,このことは本研究がねらっていることが既に不要になって実用化が進んでいる訳ではなく,現状は全て狭義の「純電気ブレーキ」である,通常の運転に摩擦ブレーキを使わないものではなく,広義の純電気ブレーキの一種である停止まで電動車の電気ブレーキを使う方式であって,今後の本格的な「純電気ブレーキ」化にむけて,本研究の重要性が一層増してきたことを意味している。最初の2年間の研究で過走に対する対策の確立に向けての議論がほぼできあがったので,最終年度である平成15年度には,回生ブレーキの能力を有効に発揮させるための対策としての,饋電システムのあり方や列車群の運転法などに議論の中心を移し,併せて車両が持つべき回生能力やMT比についての検討を進めた。純電気ブレーキが順調に普及している現時点では,これらのことを含めた総合的な報告にまとめることの必要性が高いと判断されるので,報告書には本研究期間の3年間以前からの分も含めて,現時点での純電気ブレーキ化に必要と思われる主要な技術情報を網羅する形で,以下のようにとりまとめることにし,多くの鉄道事業者やメーカに配布する予定である。1.「純電気ブレーキ」とその実用化のステップ2.停止までの電気ブレーキの実現3.回生モードの電気ブレーキの確実性・信頼性4.回生失効対策5.純電気ブレーキによる特性改善の可能性6.純電気ブレーキ能力の現実的制約7.滑走の発生とその対策8.速度・位置検知誤差の問題とその対策9.高速回生能力の制約と現実的活用法10.MT比と使用可能な減速度11.高速回生能力を格段に高める方法12.運転特性改善のための簡易自動運転の提唱13.運転特性改善のための手動運転の補助14.純電気ブレーキの将来構想
著者
長谷川 憲 山元 一 大津 浩 小澤 隆一 小泉 洋一 村田 尚紀
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

本研究は、冷戦終了後の国際関係が、急速な国際化現象と地域化現象の中で進展している状況の中で、国家および国際機関の役割が変化する開題について検討してきた。具体的には、国際化現象の下での憲法および公法理論の変容(政府権限の国際機関または地方機関への委譲、国際機関の民主主義的コントロールなどの問題)、国家機関と国際機関との関係の変容(国際機関、とりわけ押収人権裁判所・国際司法裁判所・国際刑事裁判所など超国家的裁判機関による政府権限のコントロールの問題、欧州委員会・欧州議会などの権限の正当性の問題)、市民生活の変容(欧州市民権・亡命権・庇護権・経済的諸権利・発展の権利・人格権など基本的人権諸領域の担手・保障手段の変化の問題)、などに関して研究を進めた。本年度の成果としては、2004年8月30日より9月4日の日程で、「公共空間における裁判権(Le pouvoir juridictionnel dans l' espace public)」をテーマとする国際シンポジウムを、工学院大学・関東学院大学・東北大学・東北学院大学で開催した。本研究グループからは、長谷川憲が「Contentieux educatifs en milieu scolaire et droits des etudiants」、大藤紀子が「Professionali-sation et《non professionnalisation》des organes juridictionnels au Japon」などの報告を行った。また、上記のシンポジウムに関して、「公共空間における裁判権」との表題で、2006年度刊行を有信堂からめざしている。また、関東学院大学でのシンポジウムは、ジュリスコンサルタス15号に掲載された。
著者
長嶋 祐二 市川 熹 神田 和幸 原 大介
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2002

本研究の目的は,手話の非手指信号の言語学的機能やコミュニケーションのための認知機能を解明し,その結果を手話画像の符号化,アニメーション生成などに適用することである.本研究では,下記の主な項目について成果を得た.1.認知的機構の解析では,事象関連電位N400計測に基づいた意味処理過程解析の検討を行った.その結果,手話・文字による意味的逸脱単語でN400が観察され電位は文字刺激で大きいことがわかり,呈示モダリティによって処理過程の違いを示した.対視線データの計測では,視線の停留と習熟度との相関を示し,理解度が上がれば顔への停留率が向上する結果を得た.2.解析支援システムでは,電子タグ付けならびに,磁気センサーからの3次元データを描画するシステムの構築を行った.この支援システムにより,映像と生理データを同期して解析することが可能となり,解析時間の効率化が図れた.3.記述・解析部では,手話の階層的形態素NVSモデルの非手指信号の記述機能の強化を行なった.4.対話モデルの解析では,抑制-非抑制手話を解析し,抑制部位の調動が表出可能な身体動作へ変形するメカニズムの存在が示唆された.また,手話の遅延検知限は100〜200msであることを明らかにした.音声会話と比較して,手話は遅延に関して寛容であることを示した.5.画像符号化では,さまざまなサイズの手話映像の評価から読み取りには,空間解像度より画像のフレームレートが重要であることがわかった.上記の成果を基に手話動画像符号化として新しいAdapSync符号化を提案した.本研究を通して得られた成果は,国際会議をはじめ電子情報通信学会論文誌・学会誌,ヒューマンインタフェース学会論文誌・学会誌などに掲載あるいは掲載予定である.尚,本研究の成果をうけ、手話の対話解析を通し脳科学的な認知科学的側面からの理解機構解明の作業を続行している。
著者
沢岡 清秀
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

1.<創造的再利用>の意義に対する設計者・建築家の基本的認識について:<創造的再利用>は古美術の博物館展示的作業や、既存建築の物理的骨格のみを利用して思いのまま変更する作業ではなく、既存建築を「対話」の相手と考えてアイデアを構想する、新しい創作の一領域であると捉えられている。それは、既存建築の中にそれを創り出した人々の考え方や価値観、感情の「表現」を見るという基本的視点に立っている。その結果生み出されたすぐれた事例は歴史的文化的価値を経済的社会的価値に転換し、長い間人々に忘れられていた空間に光を当て、パブリックのための価値を生み出している。2.<創造的再利用>のデザイン手法について:一方に内部と外部を切り離して考える「内外分離の原則」があり、これは特にニューヨーク市の保存行政において顕著に見られる。この原則は、外部の保存と引き換えに内部の自由な変更を保証し、内外デザインに強いコントラストを生む背景を形作っている。他方に外部ファサードのみを保存して内部のみを改変する手法には明確な批判もあり、これは特にチューリヒ市において顕著に見られた。そこでは内外を続合して考え、新旧の混在をより積極的に表現する方向性が模索されている。<創造的再利用>は既存作品の「解釈」から成り立つ点で演劇の演出や音楽の演奏にも通ずる「対話」に基づくアートであり、21世紀においてますます重要になる新たな創作の領域であると考えられる。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

生命倫理学が進展する一方、それに対する歴史的反省の試みも始まっている。本研究はかつて生命倫理学なるものがまだ形をなしていなかった時代の言説を振り返って、その中から忘れ去られたもの、失われたものを拾い上げることを目的とした。その結果、生命の手段化・資源化・商品化批判を軸にした生命倫理思想を見いだした。そして、それらをもとにしつつ、生命の偶然性、固有性、有限性、関係性を基礎とした新しい生命倫理のあり方が可能であることを示した
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

1970 年代におけるライフサイエンス創成期の日本の生命倫理思想には、生命科学技術の発展に伴って生じつつあった、生命操作の可能性の増大に対する批判的な見解が存在していたが、それは「生命」と「科学技術」のあいだの両立不可能性という考え方を基礎にしていたことを明らかにした。そして、そういった生命の概念を特徴付けるものを、偶然性、固有性、有限性、関係性としてまとめることができること、この生命の概念は近年の生命倫理論争においても、重要な役割を果たしてきたことを示した。
著者
林 真理
出版者
工学院大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

ゲノム研究に関する科学コミュニケーション活動への適用を視野に入れながら、scientific citizenshipの考え方に基づく新しい科学コミュニケーションのあり方を理論的に考察することを行った。scientific citizenship(科学的市民権)の考え方は、受け身であり、科学技術の受容者になるという、これまでの市民像に代わって、本来のあり方として科学技術を支援あるいは制御しうる(すべき)主体としての市民という新たな市民の見方を提供するものである。とりわけ、本年度はこういった見方の問題点についても検討して、多面的な理解を得た。また、こういった理論的考察に加えて、現在のゲノム研究に関係する科学コミュニケーションが置かれいる状況を把握するための実証的な研究を行った。それは、現在の「ゲノム概念」(遺伝子、DNA等の遺伝学上の概念をこのように呼ぶ。以下同様)の社会的な広がりを知るために、様々な社会的な場面におけるゲノム言説(遺伝子、DNA等の遺伝学上の言説をこのように呼ぶ。以下同様)を収集し分析する研究という形をとる新聞記事とインターネット上のブログを対象として収集を行い、その分析からゲノム言説の傾向を明らかにした。さらに、これらの研究ガゲノム研究をめぐる科学コミュニケーションに示唆することをまとめた。