著者
岡田 敬司
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.69, pp.81-96, 1993-03-30

私達が日頃何気なく目にする風景も,注意して見れば,そこには<もう一つの世界>が隠されていることが感得できる苦である。それは無限の広がりを持った想像の世界であり,目に見える世界の裏側に潜む精神的風景である。私達の目に映ずる世界は,世界の現象的一側面であろに過ぎず,もしかすると,その背後に潜む世界こそ真の世界であるのかも知れない.可視的現象世界は,様々な寓意を信号として私達に送り続けている。これら無数のと言うべき信号を感受できるか否かは,私達の感受性の問題である。意識的に注意を向けてみれば,隠蔽された意味が有意義なものとして浮上して来るかも知れない。それこそ私達が求めて止まない<真実(の風景)>であるのかも知れない。この<もう一つの世界>の実在を検証する為に,ここに「詩的」という意味を篭めて,風景に内在された<もう一つの世界>の探索を試み,世界認識の拡大を試みてみようとするものである。
著者
朝山 奈津子 森田 学 山田 高誌
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.114, pp.59-73, 2015-10

20世紀初頭にイタリアで興隆したピアノ伴奏付独唱歌曲は従来、事典項目や音楽通史においていささか表面的に「ドイツ・リートの影響下で」確立したジャンルとされてきた。しかしその影響関係は、実際の響きや音楽形式からも、このジャンルに取り組んだ作曲家たちや詩人たちの創作活動からも、けっして自明ではない。そこで本論文は、両者の関係性を問い直した上で、このジャンルに対するドイツの影響を指摘しようと試みる。
著者
安達 奈緒子 安達 知郎
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
vol.118, pp.159-168, 2017-10-13

「居場所」という言葉は,それぞれの人がそれぞれに意味を見出しうる重層的な言葉である。居場所の多義性は心理臨床において重要であると考えられる。本研究では,その多義性を保持して実証的研究を行うねらいから,「居場所がある」「居場所がない」という意識(居場所意識)に注目し,居場所意識の基本的性質(性差・時期差,精神的健康・心理的居場所感との関連,時間的安定性)を明らかにすることを目的とした。居場所意識,精神的健康,心理的居場所感を測定する質問紙調査を3回,実施した(協力者は大学生計497名であった)。その結果,第一に,居場所あり意識と居場所なし意識は対極に位置するものではないこと,第二に,居場所あり意識は必ずしも精神的健康と関連するものではなく,女性では精神的な不健康と関連していること,第三に,女性は男性に比べて居場所なし意識が時期を越えて維持されやすいことが明らかにされた。一方で,居場所意識測定項目の時間的安定性については評価基準が明確でなく,この点についてさらに検討が必要と考えられた。 This study investigated the consciousness of‘ I have IBASHO’ or‘ I don't have IBASHO’ and aimed to clarify theproperty of these‘ IBASHO’ consciousness. University student( total n=497) completed questionnaires about‘ IBASHO’consciousness, mental health, and psychological‘ IBASHO’ in three surveys. The results were followings;( a) Theconsciousness of‘ I have IBASHO’ and‘ I don't have IBASHO’ were not opposition.( b) The consciousness of‘ I haveIBASHO’ was not related to mental health in males, and it was related to mental ill health in females.( c) Females kept theconsciousness of‘ I don't have IBASHO’ across time more than males. In addition, the time stability of measurement items about‘ IBASHO’ consciousness didn't become clear.
著者
増田 貴人 石坂 千雪
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.110, pp.117-122, 2013-10

東北地方の中規模都市において、保育所の保育者を対象に、「気になる子」への意識及びその対応に関する質問紙調査を実施した。その結果、以下の点が明らかにされた。第一に、保育者は、クラス内の集団生活を直接的に乱すことにつながる行動をとる子どもを「気になる子」と認識しがちな傾向にあった。その背景にはクラス単位の保育を志向する保育者の集団主義が影響していると示唆された。第二に、コンジョイント分析の結果、「気になる子」への対応の戸惑いを解消するための相談において重視されたのは「相談頻度」であった。保育者同士が気軽に相談し合えるような保育カンファレンス環境を、園内でどのようにつくっていくかが管理職に求められた。
著者
吉中 淳
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.108, pp.153-161, 2012-10

rediger(1982)による、Holland の職業興味の六角形モデルに座標軸を導入するという理論の検証を試みた。大学生248名に職業レディネステスト簡易版として作成されたVRT カード所収の54の職業名を提示し、それぞれ5件法でやりかたの決まった職業かアイデアを出す仕事か(Data-Ideas)についてと、同じく5件法で人を扱う職業かそれとも物・動植物・機械を扱う職業(People-Things)かについて尋ねた。各類型の平均値について散布図をとってみると概ね六角形構造は支持されたが、社会型と企業型の職業についてはData-Ideas 軸について予想と逆の有意差がみられたことにより位置の逆転がみられた。
著者
武内 裕明
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.113, pp.105-114, 2015-03

保育者へのインタビューを通じて,保育者が保育の場でなぜかわいいものを使用するのかを検討した結果,実際の壁面製作等の選択に際してかわいい見本が掲載された保育雑誌や製作参考書を参照することによって,保育者はかわいいものを選択していることが明らかになった。選択に際しては,保育者の好み,子どもの製作,簡単さの3点が基準となっていた。また,保育の場にかわいいものがあるというイメージや,個々の子どもの好みの差を認識しつつも,子どもは平均的にかわいいものが好きだというイメージがかわいいものを使用する背景に存在していた。保育者たちは子どもの個々の好みや教育的観点からかわいいものの使用にためらいを感じることもあるものの,保育の場でかわいいものが用いられているという認識をベースにしているため,その使用自体に疑問をもたない限りは,望ましいものとしてかわいいものを選択していた。
著者
武内 裕明
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.113, pp.105-114, 2015-03

保育者へのインタビューを通じて,保育者が保育の場でなぜかわいいものを使用するのかを検討した結果,実際の壁面製作等の選択に際してかわいい見本が掲載された保育雑誌や製作参考書を参照することによって,保育者はかわいいものを選択していることが明らかになった。選択に際しては,保育者の好み,子どもの製作,簡単さの3点が基準となっていた。また,保育の場にかわいいものがあるというイメージや,個々の子どもの好みの差を認識しつつも,子どもは平均的にかわいいものが好きだというイメージがかわいいものを使用する背景に存在していた。保育者たちは子どもの個々の好みや教育的観点からかわいいものの使用にためらいを感じることもあるものの,保育の場でかわいいものが用いられているという認識をベースにしているため,その使用自体に疑問をもたない限りは,望ましいものとしてかわいいものを選択していた。
著者
荒井 一成 古川 香 堤 司 蝦名 敦子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.108, pp.99-106, 2012-10

木材はイメージを豊かにする個性的な素材であり,図画工作科の材料としてダイナミックに利用することで,表現方法やあそびを広げる材料となりうるが,小学校で木工作を取り上げるには特に安全な環境を整えることが大切である。安全な環境整備には「よく見通せる広い場所」「木工具の整理整頓」「作業台と固定具」「治具の準備」「複数の援助者」が必要である。また安全な表現活動には「基礎技能の習得」が大切であると考えられる。ところが「基礎技能の習得」が前にですぎると知性が優先され,図画工作科の中で大切な色と形で表現意欲を十分に高められないことも考えられる。そこで本論文では,4つの鑑賞を通して意欲を高める「基礎技能の習得」方法を考案し,小学校4年生を対象にした「わたしたちのめざすかたちに~小さな大工さん~」の実践で検討した。その結果,鑑賞を取り入れた本題材が,小学生の表現意欲を高め,充実した内容になることが実証された。また教師が事前に理解し克服すべき小学校図画工作科における木工作の基礎技能の課題が示された。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.110, pp.1-8, 2013-10

山形県立博物館の分館である教育資料館には、近世江戸時代の文献資料が多数保存されている。継続的に行ってきた北東北地域の文献資料の研究調査を背景にして、本稿では『改正絵入南都名所記』について紹介する。現在の奈良、古くは大和や南都とも呼ばれた地域を紹介した地誌資料には、この『改正絵入南都名所記』のほかにも多種多様の資料が存在しているが、それらにも触れつつ、当該資料の価値について検討考察を行った。山形県立博物館教育資料館所蔵の『改正絵入南都名所記』については、『国書総目録』『古典籍文献目録』にも記載がなく、従来まで未見未詳のものであり、紹介することに意義があるだけでなく、東北文化圏における関西文化受容という意味においても、注目すべきものであることを指摘した。加えて、東京都立中央図書館特別文庫所蔵(加賀文庫)の『南都名所記』との比較検討を行い、それぞれの資料の特質について提示した。
著者
伊藤 聖子 岡山 純子 加藤 陽治
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.110, pp.89-92, 2013-10

バクテリアセルロースであるナタデココの微細な網目構造に着目し、その網目構造への分子の浸透性について植物セルロースと比較した。セルロースとナタデココの各試料を、0.1%グルコース溶液およびデキストランT-500(平均分子量50万)溶液100ml に浸し、20分ごとに120分経過するまでの外液の糖量をフェノール硫酸法にて測定し浸透性を調べた。微細な網目構造を有するナタデココへ低分子のグルコースは浸透するが、デキストランT-500(平均分子量50万)のような高分子の物質は浸透しにくいことがわかった。結果を基に、ナタデココの機能性と調理特性などについて考察を加えた。
著者
沼田 天 矢野 慎 長南 幸安
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.104, pp.45-51, 2010-10

近年,環境問題やエネルギー問題などの地球規模の問題が課題となっている。それに伴い環境教育の重要性にも目を向けられてきている。持続可能な発展のため,科学技術の重要性と必要性への認識が高まってきた。新学習指導要領では,環境教育のより一層の充実が求められている。中学校第3学年「自然と人間」の分野は,中学校理科の中で最も環境教育と深く関わっている分野であり,環境教育のより一層の充実のためには,この分野の教材研究が必要不可欠である。本研究では,中学校理科で取り扱われやすい環境問題の中でも地球温暖化のメカニズムと温室効果ガスに焦点をあて,二酸化炭素,メタン,一酸化二窒素,ブタンの温室効果の検証実験を行い,その結果とそれぞれの温暖化係数(二酸化炭素:1,メタン:21,一酸化二窒素:310)との関係の考察を行った。また,それらの実験方法を授業に取り入れ生徒に考察,話し合いさせるような授業計画を開発することにより,環境教育の充実を図る。
著者
石山 裕慈
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.108, pp.9-17, 2012-10

本稿は、室町時代に書写された複数の『論語』古写本に着目し、それぞれの資料に記入された漢字音の清濁について考察したものである。 『論語』古写本においては、韻書全濁字への濁点加点例のような、清濁の原則に必ずしも忠実ではない場合が多々見られる。さらに、同じ漢字の清濁が資料によって食い違っている場合が存するほか、同じ資料の中でも両様の形が出現する例も散見される。また、「漢語」単位で分析した場合も、やはり清濁の揺れが少なくないことが分かる。 一連の考察から、それぞれの字の清濁とはある程度の流動性を帯びたものであって、韻学的知識などをもとに、絶えず「整備」される性質のものであったことが窺える。
著者
安田 寛 北原 かな子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.83, pp.77-85, 2000-03-31

学制発布後も遅々として進まなかった公立の唱歌教育に対し,キリスト教の宣教師達は,各地で日本人に讃美歌を教え続けた。したがって,日本人と洋楽受容の問題を考察する際,音楽取調掛と文部省が中心となった音楽教育のみではなく,日本各地で行われたキリスト宣教師達による讃美歌教育の影響を無視することはできないのである。筆者等は以上のような問題意識によって,早くからキリスト教布教が盛んに行われた津軽地方を対象として,洋楽受容に関する研究を重ねてきた。本稿は,津軽地方での讃美歌の受容,特に実際に歌った人々がどの様に受け止めたのか,という意識を窺わせる資料を紹介し,明治期の地方における洋楽受容の一端を明らかにしようとするものである。
著者
安田 寛 北原 かな子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.85, pp.91-98, 2001-03-30

明治40年前後になると,津軽の地方紙にも音楽会や唱歌教育の具体的な内容などが掲載されるようになり,津軽地方にも西洋音楽が根づいてきていた様子を知ることができる。本稿では,最初に明治40年前後の唱歌教育や音楽会の様子を明らかにし,次いでこうした洋楽普及の際に唱法に関して, トニックソルフア唱法によるドレミ唱法と数字譜によるヒフミ唱法の二種があったと思われる点について指摘する。最後に,これまで筆者等が行ってきた一連の明治期津軽地方における洋楽普及に関する研究の意義を明らかにするため,明治期の地方での洋楽受容研究について総括しつつ,近年の洋楽受容史研究に位置づける。
著者
宮本 利行 北原 かな子 肥田野 豊 北原 晴男
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.87, pp.89-98, 2002-03-28

明治初年,廃藩置県とそれに続く秩禄処分によって職を失った士族は,深刻な経済的危機に直面することになった。こうした士族救済のため,政府は士族授産事業を遂行し,青森県でも旧藩士族らによりそれぞれ様々な試みがなされた。本稿では,最初に明治初年の青森県内に展開した士族授産事業の様子を述べるとともに,特に旧弘前藩士族の動向を取り上げ,当時,東奥義塾に招碑されていた外国人教師が地域産業開発に関わったことや,弘前で行われていた藍の産業化-の試みについて明らかにするものである。
著者
郡 千寿子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.107, pp.1-6, 2012-03

山形県酒田市立の光丘文庫に所蔵されている文献資料について調査を行い、特に近世期江戸時代に作成された往来物資料の所蔵状況について検討考察した。その結果、かなりの所蔵―総数 本―が確認でき、全容解明には時間を要することが判明した。本稿では、その所蔵状況について目的別の9種類に分類整理の上、報告し、加えて版本の出版地域に着目した調査結果を提示した。継続的に行ってきた、北東北地域-弘前市立図書館所蔵・八戸市立図書館・岩手県立図書館・秋田県立図書館-所蔵の往来物資料と比較すると、多数多種の資料を有することや特に関西文化圏―京都・大坂―からの文献資料の流入が明らかとなった。地域における資料の偏在状況と、資料の分類整理を通してみえてきた諸特徴についての一面を提示し、それぞれの地域における教育環境や文化的背景の共通点や相違性など、新たな視点からの研究の可能性を示唆したものである。
著者
石山 裕慈
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.107, pp.7-14, 2012-03

本稿は、高山寺に蔵される『荘子』古写本7巻(甲巻5巻、乙巻2巻)に記入された字音点を対象として、国語学的見地から考察したものである。先行研究ですでに気づかれているとおり、本資料に散見される反切・同音字注などは、基本的に『経典釈文』によっており、場合によっては原初形と思われる記述も見られる。また、直接引用していない場合であっても、声点や仮名音注などに『経典釈文』の内容が間接的に反映されていると考えられる場合も存する。特に反切注から理論的に導き出された「人為的漢音」も存することは、漢字音学習のあり方を考える上で、また『論語』との違いを考える上で見逃せない事柄である。このほか、仮名音注や字音声点の特徴も、同年代の漢籍訓読資料とおおよそ共通しており、大学寮での講読が行われなかった資料であるとはいえ、その位置づけは『論語』などと大差はなかったものと思われる。
著者
山本 逸郎 古川 由美子
出版者
弘前大学教育学部
雑誌
弘前大学教育学部紀要 (ISSN:04391713)
巻号頁・発行日
no.96, pp.27-40, 2006-09
被引用文献数
1

高校物理において等加速度直線運動を調べる実験の一つとして,斜面を転がる球の加速度を導出する実験が設定されている。また,斜面を転がる球の運動を利用した実験は,小学校および中学校における≡哩科実験にも現れる。本研究では,アルミレールとプラスチックレール,鉄球とプラスチック球を組み合わせて,料面を転がる球の加速度の角度依存性を測定した。球は始めすべらずに転がるが,ある角度を境に転がりながらすべりだす。得られた実験結果を詳しく解析し,斜面を転がる球の運動を考察した。