著者
大山 耕輔
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.6-23, 2014-12-20 (Released:2019-06-08)
参考文献数
68
被引用文献数
2

本稿は,なぜ福島第一1-4号機が過酷事故に至ったのかについて,同じく津波が襲ったが過酷事故に至らなかった5-6号機や福島第二,東北電力の女川,日本原子力発電の東海第二における津波対策と比較しながら考察する。そして,東京電力は,3.11以前に10m超の津波を試算していたが,経営上の理由で有効な津波対策を打たなかったし,副次的要因として,原子力安全委員会や原子力安全・保安院も電力会社に捕虜にされ津波対策に有効な規制を打てなかったために過酷事故に至った,という仮説を,各種の事故調査委員会の報告書を検討しながら検証している。配電盤の水密化やかさ上げなど比較的安上がりで有効な津波対策を打っていれば福島第一1-4号機は過酷事故に至らなかった可能性があるし,規制当局が電力会社から独立性・専門性・透明性を確保していれば,津波対策に有効な規制を打てた可能性がある。
著者
塚原 康博
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.130-136, 2003-10-31 (Released:2022-01-18)
参考文献数
16

本研究では,景気浮揚のための代表的な政策である公共事業と高齢化社会において拡大が不可避である社会福祉支出の生産波及効果を拡大レオンチェフ乗数(通常のレオンチェフ乗数,すなわち中間投入を通じた生産波及効果,と消費活動を通じた生斥波及効果の2つの効果の結合効果)を推計することによって比較分析した。この推計に当たり,取り上げる消費の範囲に関しては,2つの考え方がある。すなわち,消費の範囲を広くとる総最終消費支出ベースによる推計と消費の範囲を狭くとる家計現実消費ベースによる推計である。本研究では,両方の推計を行った。いずれの推計でも,社会福祉と公共事業の牛産波及効果の差は1%以内におさまっており,社会福祉と公共事業の生産波及効果はほとんど同程度とみなせる。この結果は,短期的な景気浮揚のための公共支出の配分において,公共事業だけでなく,社会福祉も選択肢の1つになりうることを示唆している。
著者
南島 和久
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.83-95, 2017-11-30 (Released:2019-06-08)
参考文献数
25
被引用文献数
1

政策評価と行政管理はどのような関係にあるのか。そもそも政策評価は現実の行政活動を管理しうるツールたりえているのか。日本においては,評価制度の導入から20年の時間が経過した。しかし,上記の問いに対する公共政策学からの解答は不鮮明である。上記の問いは,「学」と「実務」の交錯を掲げる公共政策学にとっても,またその一分野を構成するはずの政策評価論にとっても拒否できるものではない。政策評価制度は,実務主導で設計・導入され,実務の現場で提起される諸課題に対処し,実務上の実用的道具として洗練されてきた。この間,公共政策学はどれほどの建設的な議論を提供してきたといえるのだろうか。本稿では,上記の論点について,「プログラム」の観念がその鍵であることおよび政策評価論においてこの観念が議論されてきたことを指摘する。本稿の結論においては公共政策学と実務とをつなぐ媒介項としての「プログラム」の観念と,これを重視してきたという意味において,政策評価論の意義を強調する。
著者
結城 康博
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.66-74, 2019-05-20 (Released:2021-10-02)

現在,自治体行政において福祉分野は,大きなウエイトを占めており,これらの裁量権はかなり都道府県や市町村に委ねられてきた。しかし,未だ国のルールに縛られている部分も事実である。その要因としては財源構成にもあるとも考えられ,全て自治体の自主財源で運営されているわけではないため,一定の「国」の関与は避けられない。昨今,「地方分権」が叫ばれる中,これらの一定の推進は進められるべきであるが,医療や介護等といった福祉政策においては中央集権的な国の関与は認められるべきと本稿では述べていきたい。なぜなら「普遍性」「公平性」といつた理念が重要視され,どこの地域においても一定のサービス水準が担保されなければならないからである。本稿では,自治体福祉施策における,地方分権のあり方の方向性を考察していくものである。
著者
増島 俊之
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.108-126, 2001-10-31 (Released:2022-01-18)
参考文献数
24

2001年1月6日,再編成された新しい省庁が発足した。省庁半減といわれた抜本的な中央省庁笠の改革は,かって橋本龍太郎内閣によって1996年10月の総選挙において公約された。この改革案は選挙後直ちに設置された内閣総理大臣自ら座長とする行政改革会議において検討され,1997年12月に最終報告が提出されたーこの最終報告の内容を実現するために中央省庁等改革基本法案が1998年に国会に提出され,成立を見た。この中央省庁等改革基本法を踏まえ,橋本政権を引き継いだ小渕恵三政権は,各省庁等設置法等に着手し,最終報店に盛り込まれた要法律改正事項の立法化に成功したした。これらの改革事項は,次々と21世紀初頭に施行される。本稿は,この中央省庁等改沖.(以下「橋本・小渕行革」と略称。)が,20世紀後半50年における行政改革の努力の中でどのような位骰付けを持つかを明らかにするとともに,それは21世紀におけるどのような行政改革の展望につながっていくかについて考察する。そこで,本稿は,21世紀後半50年間において,それぞれのときの政枠が取り組んだ行政改革の進展を辿り,行政改革の改革目標,改革事項,改革手法,改吊の成呆,その重点の変遷を述べることとする。特に,1981年に鈴木善幸内閣の下て発足した第2次臨時行政調査会の答申を土台とするいわゆる臨調行革は,国鉄・電電等三公社の民営化をはじめ多くの成果を挙げたものであるか,その臨調行革との対比で橋本・小渕行革はどのような特色を持つかを明らかにする。最後に,行政改革に関する国会審議などを参考にしつつ,戦後50年の時期をとらえても画期的内容をもつ橋本・小渕行革がどのような問題点を抱え,かつそれらが21世紀におけるどのような行政改革の課題あるいは展望につながっていくかについて述べることとする。
著者
増山 幹高
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.48-66, 2010-01-31 (Released:2019-06-08)
参考文献数
22

本稿では,議会における制度選択を理解する試みとして,議会運営の準拠法規である国会法の1950年代までの法改正について,委員会中心主義の修正,法案提出権限の制約,会期延長の制限といった制度変更が国会でどのように論じられてきたのかということに着目し,国会における立法過程の制度化を検証していく。とくに,会期制については1955年の国会法改正に至る過程でも懸案となっており,会期延長制限が実施された1958年の政治情勢として,衆参両院において多数を占める自民党が国会における議事運営権を掌握するとともに,国会に至る立法過程において与党審査が定着することも併せて理解する必要があることを示す。
著者
堀 真奈美
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.32-45, 2013-12-20 (Released:2019-06-08)
参考文献数
17

医療政策は,政治過程の産物である。他の政策と同等以上に,政治的アクターは多くかつその利害関係は非常に複雑であり,全てのアクターが満足するような医療政策を形成するのは容易ではない。政治情勢における利害調整にふりまわされ,誰のためか何のためか不明瞭なまま政策が局所的に形成されることもある。だが,我々の生命に少なからず影響を与える医療政策が利害調整を中心とした政治情勢によってすべてが決まってよいのであろうか。医療政策として何をすべきであるか(何をすべきでないのか),何を優先問題とすべきかなど,制度全体を貫く価値規範となるべき理念が必要ではないだろうか。以上を問題意識として,本稿では,1)医療政策における価値規範となるべき理念を論じる意義は何か,価値規範となる理念の論拠をどこに求めるか,2)価値規範から想定される医療政策のあり方について検討を行う。
著者
川口 貴久 土屋 大洋
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.40-48, 2019-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
19

公正な選挙の実現は民主主義の根幹である。しかし,2016年米大統領選挙に代表されるように,外国からの選挙介入・選挙干渉(election interference)によって,選挙の公正性・信頼性が疑われる事態が生じた。本稿は2016年米大統領選挙を事例に,デジタル時代の選挙介入がもたらす政治不信(political distrust)の構造を明らかにする。現時点で確認されたロシアによる2016年米大統領選挙への干渉の手法は,(1)サイバー攻撃による政党・候補者に関する機密情報の窃取と暴露,(2)政府系メディアやソーシャルネットワーク(SNS)等での偽情報流布や政治広告,(3)投開票等の選挙インフラに対するサイバー攻撃に大別される。2016年米大統領選挙への介入がもたらした不信について,次の点が指摘できる。第一に,外国政府による選挙介入は候補者や政策等の「特定対象」および選挙や民主主義そのものといった「政治制度」の双方に対して不信を拡大させるのであった。そして,「特定対象」への不信は「政治制度」への不信に転じる可能性があり,逆もまた然りである。第二に,選挙活動や投開票等の選挙プロセスがデジタルインフラに依存度を高めるにつれ,サイバー空間やSNSを通じた選挙介入は,(1)攻撃者の匿名性の問題,(2)介入の規模と有権者の曝露量,(3)個人データに基づくターゲティング等の観点で,介入の効果を向上させるものであった。
著者
楠山 大暁
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.128-140, 2012-12-17 (Released:2019-06-08)
参考文献数
13
被引用文献数
1

日本には,日米安全保障条約に基づいて米軍が駐留している。米軍の駐留に資するため,在日米軍基地では,駐留軍等労働者と呼ばれる民間人従業員が,米軍の指揮・監督下で労務に服している。本稿の目的は,駐留軍等労働者とはいかなる存在なのかを,根拠条約に基づき明らかにする。その上で,産業連関分析の手法を用いて,駐留軍等労働者が沖縄県経済にもたらしている経済効果を計算することにある。沖縄県における2006年度の軍雇用者所得524億円の総効果は,1,100億円92百万円となった。これは,中間投入を含む2005年の県内生産額5兆7,668億円の約1.9%にあたる。このように,失業率が全国平均を上回る沖縄県経済にとって,米軍基地は貴里な雇用の場になっている。その反面,普天間基地返還を含む米軍再編により大規模に返還される駐留軍用地跡地を活用することにより,現米軍基地を上回る経済効果がもたらされることも期待されている。そこで,本稿の後半では,米軍再編を概観し,基地返還により逸失される駐留軍等労働者の経済効果を計算する。その上で,跡地利用の先行事例や今後沖縄が発展させるべき新たな産業を検証することにより,基地が返還された後でも,駐留軍等労働者に新たな雇用の場を提供できる条件を議論する。本稿の貢献は,沖縄県の基地問題に係る議論に対し,駐留軍等労働者という側面から定量的な視点を提供できたことにある。
著者
荻野 徹
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.120-132, 2010-01-31 (Released:2019-06-08)
参考文献数
19

本稿は,国家公安委員会による警察庁の管理の実態を記述し,分析するものである。戦後改革の結果生まれた現行警察制度は,警察の民主的な管理と政治的な中立性の確保を2大目標とし,これを実現するため公安委員会による警察の管理を制度の根幹に据えている。すなわち,警察や検察の職歴のない者により構成された合議制機関が警察官僚機構を「管理」することにより,官僚の独善を防ぎ,政治の影響力を排除するという仕組みである。それでは,「管理」の名のもとに,公安委員会は何ができる,何をなすべきか。この点について,わかりにくさがあることは否めない。本稿では,戦後警察改革の経緯と現行制度の基本構造を概観し,公安委員会(警察行政の非専門家)による警察(専門官僚機構)の「管理」が,「大鋼方針による監督」として定式化されていることを示したうえで,国家公安委員会に焦点を当て,国家公安委員会の警察庁に対する「大綱方針による監督」なるものがどのように行われているかについて,国家公安委員会の議事録を読み解いていく。そして,大綱方針なるものは,国家公安委員会規則の制定や国家公安委員会決定などの文書の発出によるほか,委員会としての日常的な活動,すなわち警察庁幹部を交えた定例会議における議論を通じて,警察運営の基本的な方向または方針を示すことにより行われていることを明らかにする。
著者
竹中 佳彦
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.35-47, 2010

<p>本稿の目的は,東大・朝日政治家調査と東大・朝日世論調査を用いて,2000年代の日本の国会議員のイデオロギーと信念体系を,有権者と比較しながら,明らかにすることである。分析の結果,以下の結論が得られた。第1に,代議士のイデオロギーには,03年から05年にかけて保守化や脱保守化という傾向は見られない。第2に,自民党代議士のイデオロギーは中道化しており,自民党と民主党のイデオロギー対立はかなり縮まってきている。第3に,国会議員の政党間の政策対立は,自民党と共産党や社民党の間では大きいが,自民党と民主党の間では,有意な差は存在するものの,さほど大きくはない。第4に,国会議員の信念体系は,安全保障に関する争点や小さな政府を強く統合する保革イデオロギーと,日本型システムに関する次元の2次元から構成されている。これに対して有権者の信念体系は,安全保障に関する争点と小さな政府が独立した次元となっており,日本型システムに関する次元とあわせて3次元て構成されている。第5に,国会議員の信念体系も,有権者のそれも,07年になっても大きな変化を見せていないので,イデオロギーを中核とする態度構造は残存している。</p>
著者
砂原 庸介
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.132-144, 2008-01-25 (Released:2019-06-08)
参考文献数
13

本稿では,失敗に終わったと評価される地方分権改革推進会議の議論を参照しなから,三位一体改革を包含する地方財政制度改革の特徴を関係するアクターの「利益」の観点から明らかにする。小泉政権において行われた地方財政制度改革は,経済財政諮問会議においてマクロでの地方財政のスリム化を行う一方で,関係省庁の合意を元に地方税・交付税・補助金の三位一体の改革を行うことで,国・地方を通じた緊縮財政の実現を目指すものであった。しかし,地方財政制度改革が持つ「中央政府の財政再建」「地力分権改革」という側面を強調することは,関係者の合意に亀裂をもたらす可能性を秘めていた。交付税を縮減しつつ地方への一方的な負担転嫁を避けた改革の方策として,地方分権改革推進会議は補助事業の改革を含めた包括的な改革をふ志向したものの,関係するアクターの信認を獲得することがてぎず,同会議は改革への説得的な提案を行うことができなかった。その結果,2005年に一応の決着を見た三位一体改革は,補助事業の改革を伴わず,中央と地方の税財源の配分を変更する漸進的な改革であったと結論することができる。地方財政制度改革が漸進的なものに終わった原因は,分権会議が関係するアクターの信認を獲得できなかったことに加えて,改革に関係するアクターの信認を可能にする装置であるはずの経済財政諮問会議が一貫した意思決定を行うことができなかったことに起因すると考えられる。
著者
岩崎 正洋
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.87-97, 2020-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
34

2020年は,世界中がCOVID-19の感染拡大に直面した年として,後々まで語り継がれることになるであろう。我々の日常は大きく変化し,これまでの当り前が当たり前ではなくなり,以前とは明らかに異なる「新しい日常」が求められるようになった。まさに,社会のさまざまな側面が変化から逃れることはできなかった。COVID-19の登場により,人類が経験した新しい現象は,まさに公共的な問題であり,その問題解決のためには,公共政策による取り組みが必要になる。それゆえ,公共政策学の研究領域にCOVID-19が含まれることになり,新たな研究対象として位置づけられることとなった。そこで,本稿は,公共政策学の研究において,COⅥD-19を取り扱うには,どのような見方があるか,どのような見方が必要かという点について考えることを目的とする。本稿では,とりわけ,日本におけ,る2020年1月から5月までの感染拡大の「第一波」の時期に焦点を向け,政策過程論的アプローチと比較政治学的アプローチという二つの点から議論を進めていく。その意味で,本稿は,公共政策学における研究対象として,COVID-19を取り扱う際の論点抽出の役割を果たすものとして位置づけられる。
著者
木寺 冗
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.26-38, 2020-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
18

全国8つの高等裁判所は同格に位置付けられているか。こう問われれば,多くの方が位置付けられていると答えるであろう。たとえば札幌高等裁判所と東京高等裁判所で出された判決は同じ効果を持つ。しかし,人事政策上はどうか。日本の地方自治のガバナンスは司法権なきガバナンスである。高等裁判所の裁判官の人事に,定められた管轄内の地方自治体が関与することはできない。東京に所在する最高裁判所を頂点とする人事システムの中で,「優れている」と評価される裁判官が特定の地域を管轄する高裁に配属され,それより「劣る」裁判官が違う高裁に配属される傾向ははたしてあるのか。これまでの先行研究では、最高裁を頂点とする裁判官の人事システムを包括的に定量的に理解する分析は限定的であった。そこで,本稿では,ネットワーク分析と質的比較分析(QCA)を用いて,高等裁判所長官間の人事政策上の位置付けを明らかにする。その結果,平均して各期に1名前後が就任する最高裁判所裁判官を頂点とする人事システムにおいて,まず8つの高等裁判所間では確実な序列の違いが存在すること。そして,半数強の最高裁裁判官に該当する「確実に最高裁判所裁判官に到達するコース」が確認される一方で,半数弱の最高裁判所裁判官はこれに当てはまらないコースを歩んできたことも示された。この人事システムは,「遅い昇進」モデルと同様高等裁判所長官に対し最後までモチベーションを維持し,組織の選好に合致するような行動を取る誘因を与える構造となっていることを示唆する。
著者
佐野 亘
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.65-80, 2013

<p>公共政策を論じるうえで,価値や規範の問題について検討する必要があることは多くの論者が認めている。だが実際には,公共政策の規範的側面に関する研究は必ずしも充実しているわけではないし,具体的方法論も確立していない。本稿では,規範的政策分析がこれまでわが国でじゅうぶんになされてこなかった理由について考察したうえで,その意義を確認する。そして最後に,規範的政策分析がどのようなものであるべきかを論じ,具体的な方法論の確立に向けて,必要条件を提示し,そのあり方について,おおまかなイメージを描き出す。</p><p>以上の検討から明らかになったことは,以下のとおりである。第一に,価値や規範に関する議論がときに政治的に重要な役割を果たすとしても,規範的政策分析を実際の政策過程に有効なかたちで組み込むには相応のエ夫が必要である。第二に,規範的政策分析は,一般的な規範理論研究と異なり,真理の追求をおこなうこと自体が目的ではなく,合意形成や選択肢の提示にとって役立つものでなければならない。第三に,そのような役割を果たすためには,政策に関わるコミュニケーションにおいて利用される価値概念や規範概念の意味内容や関係性を明確化するとともに,ことばになりにくい感覚や感情を言語化することも必要である。第四に,以上の作業をおこなうための前提条件として,人々が実際に有している価値観やモラルを知っておく必要がある。なお,以上の議論は基本的にプラグマティズムの観点からなされており,政策過程におけるレトリックや解釈,コミュニケーションの重要性を踏まえたものである。</p>
著者
宇佐美 誠
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.7-19, 2013-12-20 (Released:2019-06-08)
参考文献数
23

わが国では,公共政策に内在する価値に関する規範的研究が,最近約20年間に一部の研究者によって精力的に推進されてきた。しかし,大半の政策研究者や政策実務家の間では,価値研究の重要性がいまだ広く認識されていないと思われる。こうした現状に一石を投じるべく,本稿は具体的な政策問題を取り上げた上で,現行政策や代替政策案の十全な評価のためには,これらの背後にある価値理論の検討が不可欠であると示すことを試みる。政策問題としては,政治哲学・道徳哲学で近時急速に研究が進展しつつある気候の正義という新たな研究主題群を取り上げ,なかでも地球規模での二酸化炭素排出権の分配問題に焦点を合わせる。初めに,本稿の主題を設定した上で,気候の正義の基本構図を概観する(1.)。次に,二酸化炭素排出削減の国際的政策の根幹をなす過去基準説(2.)と,主要な代替政策案である平等排出説(3.)について,その各々を正当化する価値理論に対して批判的検討を加える。この検討を通じて,両説がそれぞれ種々の難点を抱えることが明らかとなろう。こうした否定的知見を踏まえて,別の政策案である基底的ニーズ説の価値理論を発展させる(4.)。最後に,政策・政策案を評価するためには,これらの背後にある価値理論の検討が不可欠だと指摘する(5.)。
著者
大島 堅一 除本 理史
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.65-77, 2014

<p>電カシステム改革とは,小売り・発電の全面自由化(電力自由化)による競争的な電力市場形成,発送電分離と広域的な系統運用を進めることである。2016年以降,電カの小売りと発電は完全に自由化され,2018~20年をめどに規制料金が撤廃される。電力会社の経営を安定させてきた規制料金がなくなれば,原子力にかかわる事業リスクを,事業者たる電カ会社自身が引き受けるのは,ますます困難になるであろう。</p><p>そこで政府は,3つの柱からなる「事業環境整備論」を打ち出している。この目的は,電力システム改革が完全に実施された後も原子力を維持できるよう,事業者のリスクとコストを軽減し,同民・電力消費者(そして将来の事故被害者)にそれらを負担させるための政策的措置を構築することにある。木稿では,その全体像を素描するとともに,問題点を検討する。</p>
著者
小松 志朗
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.98-108, 2020-12-10 (Released:2021-10-02)
参考文献数
33

本稿の目的は,COVID-19の事例を通じて国際政治の視点から有効な感染症対策のあり方を探ることである。特に注目するのが,アメリカ,WHO,中国の関係である。アメリカとWHOは渡航制限をめぐって対立していた。対立が激化したのはそもそも渡航制限の効果に関して政治と科学が対立しているところに,WHOの指導力の弱さ,米中対立という要因が重なった結果である。米中対立に目を向ければ,それが民主主義と権威主義という異なる政治体制間の競争でもある点が,感染症対策との関連で重要になる。国内対策はしばしば個人の自由や権利を制限する「強い措置」を含むことから,民主主義国にとっては強い措置が果たして採用すべき有効な対策なのかどうかが難しい問題となる。しかし,いくつかの研究が示唆するように,「強い措置=有効な対策」の等式が常に成り立つわけではない。感染症対策の強制性と有効性は別物であり,概念上はいったん区別するべきだろう。以上の分析を踏まえると,国際政治の文脈で,有効な感染症対策を実現するために求められるのは,次の2点である。政治と科学の連携を促すためにWHOの機能・権限を強化すること,そして「強い措置=有効な対策」という等式を前提にせず科学の判断に耳を傾けることである。いま国際社会が必要としているのは,強い措置よりもまずは強いWHOである。
著者
牧原 出
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.17-31, 2006

<p>本稿は,戦後日本の最高裁判所の制度的定着過程を分析するため,田中耕太郎長官時代の政治裁判と司法行政の動向を検討する。とくに昭和32年に生じた3つの事件,すなわち裁判所法改正の国会審議,戦後初の裁判官再任と全国大の人事異動,最高裁判所10周年記念式典を取り上げることで,岸信介内閣の下で司法権の独立を守るため,最高裁判所がとった政策を戦後史の中に位置づけた。戦後の日本国憲法によって,司法省から裁判のみならず司法行政面での独立を遂げた最高裁判所は,発足当初,国会・内閣と比べて制度的に脆弱であった。しかし,田中耕太郎長官と彼を支える事務総局の戦略によって,国会での裁判所法改正案の議員立法を斥け,再任の際に全国の裁判官を異動させる人事システムを構築し,10周年記念式典に昭和天皇を迎えて法曹三者の結集を図ることで,国会・政党・社会勢力から裁判所機構の独立を守ろうとした。確かにそれは,一見岸信介内閣の保守的な政治姿勢に最高裁判所が迎合したかのように見える。確かに,田中耕太郎長官のメディアでの発言と彼の少数意見が表面上政府見解と軌を一にしている面はあるとしても,事務総局の構築しつつある司法行政はこれとは距離をおいており,また判決における多数意見はむしろ田中の読み方を遮断する方向で変化していく。最高裁判所は,長官の言説を通じて政権と接近しつつも,裁判と司法行政面での独立を保つことで,その基礎を構築したのである。</p>
著者
京 俊介
出版者
日本公共政策学会
雑誌
公共政策研究 (ISSN:21865868)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.19-32, 2016-12-20 (Released:2019-06-08)
参考文献数
38
被引用文献数
1

近年の日本における一連の厳罰化立法は,「法と秩序」の強化を求める市民感情に基づく民意が刑事政策に強く反映されすぎることを意味する「ポピュリズム厳罰化」現象と捉えられるのか。刑事政策に影響を与える政治的要因については,主に犯罪社会学の文脈で議論が蓄積されてきたものの,政治学的な分析が不足してきた。本稿は,政治学の観点から,近年の日本の厳罰化立法がいかなる政治的メカニズムで生じているかを明らかにすることを目的とする。本稿は,まず,イシュー・セイリアンスと政党間対立の2つの軸によって,刑事法学者が列挙した近年の厳罰化の立法事例を類型化することで,その全体的な傾向を把握する。そのうえで,分析対象期間内に複数の立法事例をもち,類型化の結果から詳細に検討すべき特徴をもつ2つの法律,すなわち,少年法と児童買春・児竜ポルノ禁止法について,その立法過程の追跡を行う。以上の作業を通じて,本稿は,日本の厳罰化の立法過程について「ポピュリズム厳罰化」論が説明するのは,一連の凶悪な少年事件を背景として成立した少年法の2000年改正など一部の「目立つ」事例に限られ,その他の多くは世論があまり関心をもたないなかで官僚制に実質的な政策形成が委任されている「ロー・セイリアンスの政策形成過程」の枠組みで捉えられる,「民意なき厳罰化」と特徴付けることのできる立法であることを示す。