著者
清水 新二
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10-1, pp.31-83,154, 1998-03-25 (Released:2010-02-04)
参考文献数
6
被引用文献数
6 5

Research on family problems in Japan during the last 25 years is thoroughly reviewed in this paper. Each decade has been characterised as follows : in the 1970s as the golden age of family pathology research, in the 1980s as the age of Maxist family problem research, and in the first half decade of the 1990s as a transitional age of family problem research.Several topics discussed in this paper include internationalization of research, the family crisis debate, problem-solving orientation, and family policy. Finally, it is concluded that the transition of research trends during the last 25 years can be phrased as from pathological and Marxist prespectives to the normalization perspective of family problem research.
著者
高見 具広
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.50-57, 2022-04-30 (Released:2022-04-30)
参考文献数
17

在宅勤務(テレワーク)は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受けて急速に拡大したが,その実施有無には,学歴,業種,職種,企業規模,所得など,仕事特性や社会経済的地位による格差が見られた.コロナ禍で在宅勤務を行った者においては,生活時間の変化があり,男性も含め家事・育児時間が増加する傾向が確認された.在宅勤務は,その面でワークライフバランスに寄与した部分があるが,今後は,「働きすぎ」をいかに防ぐかが課題となる.場所を問わない柔軟な働き方は,コロナ禍以前から,情報通信技術(ICT)の利用可能性拡大に伴う論点であり,勤務先以外でも仕事を行えることでアウトプットを高められる反面,「いつでもどこでも仕事」という状況に陥り,生活領域(生活時間)が侵食されるリスクも存在する.今後の在宅勤務においては,ワークライフバランス上の課題に向き合うことが求められる.
著者
岡村 利恵
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.7-18, 2017-04-30 (Released:2018-06-18)
参考文献数
34

子育てにスマートフォンやタブレットなどのIT機器を利用することが,母親自身にどのような影響を与えるのかを検討する研究は数少ない.本研究の目的は未就学児を持つ母親のスマートフォンやタブレットなどのIT機器利用が母親自身の役割適応や生活充実感にどのような影響を与えるかを明らかにすることである.調査対象者は首都圏に在住し未就学児を持つ母親1194名である.分析の結果,育児が困難と思う母親ほどIT機器を子育てに利用し,それにより母親役割適応が高まり,生活充実感も上昇することがわかった.また配偶者との子育てに関するコミュニケーション頻度が高いほど母親の子育てにおけるIT機器利用が高まることがわかった.IT機器を子育てへ「活用」することに父親の関わりが影響を与えている可能性が示唆された.
著者
笹谷 春美
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.36-46, 2005-02-28 (Released:2009-08-04)
参考文献数
17
被引用文献数
3 2

本稿は, 高齢者介護における「社会化」のプロセスとその問題点を, 家族介護者の視点から明らかにするものである。介護の「社会化」とは, 家族介護者が家庭内で行うアンペイド・ワークを外部の社会的労働に転化する道とその労働を「社会的に評価」する道がある。先進福祉国家では, 福祉国家のリストラにより, 公的サービス供給によってカバーされず, 介護システムの外部に押し出される高齢者の割合が増える傾向にある。北欧では, このような背景から家族介護が再発見され, 家族を介護する人々のニーズに応え, その市民的権利を保障する「家族介護者サポート政策」の制定の新たな動きがある。介護保険制度の施行にもかかわらず, 「社会化」の進展も抑制され, 仕事をやめてでも介護を強制される孤独な中高年女性が多数存在する日本においてこそ, 家族介護者サポートの議論はジェンダーやケア・バランスの視点から深められなければならない。
著者
岩井 紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.155-164, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
22

EASSは,アメリカで1972年に開始されたGeneral Social Surveyを範として,それぞれの社会で日本版総合的社会調査(JGSS),Korean General Social Survey (KGSS),中国総合社会調査(CGSS),台湾社会変遷調査(TSCS)に取り組んでいる日韓中台の4つの研究チームが,東アジアに共通する問題を掘り下げてデータを収集し,比較分析を行い,データを公開するという目的で,2003年にスタートしたプロジェクトである.最初に取り組んだテーマが「東アジアの家族」であり,議論とプリテストを重ねて「EASS 2006家族モジュール」を作成し,それぞれの全国調査に組み込んでデータを収集し,国際統合データを作成した.4チームは「EASS 2006家族モジュール」と比較できる形で「EASS 2016家族モジュール」を作成し,日韓中台の家族の現状をとらえて,この10年間に生じた変化を明らかにする.本稿では,4つの社会における経済発展の過程と家族の変化を概観し,EASS 2006家族モジュールを振り返り,EASS 2016で検討すべき課題を示した.
著者
徐 堯
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.32-44, 2019-04-30 (Released:2020-04-30)
参考文献数
57

福祉国家建設の途上にある中国は公的介護保険制度の在り方を模索している.政策導入の初期に人々はいかなる介護意識を持つのか.この問題意識のもとで,本稿は中国農村部に注目して高齢者ケアをめぐる選好の構造を考察する.ケアの脱家族化論を援用してケアサービスとケア費用についての仮説を提起し,中国中部に位置するF県とQ県で実施した調査データを用いた多変量解析により,介護意識の規定要因を分析した.分析の結果,1)脱家族的なケアサービス志向に対するコミュニティケア,女性,若年世代,都市部居住,非農業就労などの効果が正の値,三世代以上世帯,娘同一世帯などの効果が負の値で有意であること,2)脱家族的なケア費用志向に対する不平等縮小感と皆保険・皆年金評価の効果が正の値で有意であることが明らかになった.高齢者ケアについて,農村部住民は「支援された家族主義」志向および「脱家族主義」志向を持つことが示唆される.
著者
梁 凌詩ナンシー
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.200-212, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
26

本研究の目的は香港の教育改革と教育コストの関係を明らかにし,教育制度の変化がどのようにスタートラインで勝つ心理を形成したのかを考察する.少子化の要因は多様であり,子どもにかける教育コストの上昇はその一つである.香港はイギリス植民地になった後,英語重視社会となり,英語能力が進学および社会的評価の高い職業に就くカギである.中学校の使用言語を広東語にする方針で1988年に行われた教育改革により英語を使用言語とする中学校が同年には全体の2割弱となった.また,高校に進学する資格を判断する統一試験をなくし,学生が統一試験の成績によってより良い高校に転学する機会がなくなるようになった.そのうえ,教育改革により小中高一貫校に変更するエリート校が続出し,学生にとって転校する機会が基本的にはなくなった.このように,子どもをエリート校に進学させるため,スタートラインが大事であるという意識が香港社会に形成され,入学競争が幼稚園まで前倒しされた.
著者
李 雯雯 筒井 淳也
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.157-170, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
36

本研究は,中国全体をカバーする中国家族パネル研究(CFPS)の2016年の調査データを用いて,都市部における成人子とその親との世代間関係におけるジェンダー差を分析するものである.従来の同分野の研究が異なった世帯に属する男女の比較を行うものであったのに対して,本研究では世帯単位の調査であるCFPSを用いることで,直接に同一世帯に属する夫婦間の差を用いて検証することができる.分析の結果,夫方の親との同居割合は,妻方の同居割合の5倍以上であることがわかった.さらに,世代間関係のジェンダー差は関係の内容に応じて異なることがわかった.家事援助やケアは夫方に,接触頻度は妻方に偏っている.夫婦の学歴差は世代間関係に独特な影響を持つことが示された.すなわち,妻の相対的な高学歴は世代間関係のジェンダー差をより平等にしており,妻の資源へのアクセスが夫婦間の均等な世代間関係に寄与していることが示唆された.
著者
夏 天
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.91-103, 2021-10-31 (Released:2021-11-17)
参考文献数
31

本研究は,家族における親の長期不在の形態の一つとして,中国における親の「外出労働」を取り上げ,(1)親の「外出労働」による不在は子どもの大学進学希望と関連するのか,(2)その関連はペアレンティング仮説によって説明されるのかを検討する.中国の全国調査データ「China Family Panel Studies(CFPS)2010」を分析した結果から,以下の知見が得られた.第1に,男子においてのみ,両親ともに不在の場合に本人の大学進学希望が顕著に低くなる傾向が示された.その傾向は主養育者が祖父母であること,男女で向社会的な規範の内面化度に差があることなどに起因すると考えられる.第2に,主養育者の教育的関与は,親の不在状況と独立に子どもの大学進学希望と正の関連を示したが,親の不在の負の効果を説明するペアレンティング仮説としての媒介効果は支持されなかった.
著者
杉浦 郁子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.148-160, 2013-10-31 (Released:2015-09-05)
参考文献数
15
被引用文献数
1 2

本稿では,性別違和感のある人々の経験の多様性が顕在化したことを背景に,「性同一性障害であること」の基準として「周囲の理解」が参照されるようになった可能性を指摘する.また「性同一性障害」がそのように理解されるようになったとき,性別違和感のある子とその親にどんな経験をもたらしうるのかを考察する.まず,1980年代後半から90年代前半に生まれた若者へのインタビュー・データを用いて,「周囲の理解」という診断基準が出現したプロセスについて分析する.次いで,「性同一性障害」の治療を進めようとする20代の事例を取り上げ,医師も患者も「親の理解」を重視していることを示す.そのうえで,親との関係調整の努力を要請する「性同一性障害」という概念が,親子にどのような経験を呼び込むのかを論じる.
著者
宮崎 貴久子 斎藤 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.54-65, 2003-01-31 (Released:2010-02-04)
参考文献数
30

死によって大切な人を失うことは大きな喪失体験である。世界保健機関によると, 緩和ケアの目標は, 患者とその家族にとってできる限り良好なクオリティ・オブ・ライフを実現させることであり, 患者の療養中も, 患者と死別後も家族への援助を継続する。本研究の目的は, 一般病棟の緩和ケアにおける, 患者の死が家族にどのように影響するのかを明らかにすることである。16名の家族の自由意志による研究参加協力を得て, 死別6か月以降にライフライン・インタビュー・メソッドによる面接調査を行った。描かれたライフラインの分岐点とイベントの分析結果より, 家族が死別体験をどのようにとらえて, 将来をどのように描いているのかその傾向を探った。家族の悲嘆反応は死別した家族との生前の関係, ジェンダー, 年齢などの多くの要因によって異なる。家族ケアの今後の課題と方向性を提示する。