著者
多賀 太
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.93, 2000-07-31 (Released:2010-01-22)

本書は、「女性兵士問題」「国家と『性暴力』問題」「女性性器手術問題」という、フェミニズムにおいて近年クローズアップされてきた問題を論じた、9人の執筆陣からなる論文集である。第I部から第III部のそれぞれに男性の執筆者が1人ずつ含まれることで、議論により一層の広がりが与えられているように思える。まず第I部で、軍隊内で男女にまったく対等な処遇を行うかどうかという「女性兵士問題」を題材として、フェミニズムが「暴力」とどのような関わりをもつべきかが議論される。続いて第II部では、「従軍慰安婦問題」と「夫婦間強姦」を題材として、近代国民国家においては十分保障されてこなかった「性暴力を受けない権利」をめぐる議論が展開される。さらに第III部で、「女性性器手術問題」を題材として、「第一世界」のフェミニストたちが「第三世界」の女性の経験を「性暴力」の被害として規定すること自体の「暴力」性についての議論が行われる。最後に第IV部で、編者による議論の総括が行われる。一見しただけでは無関係にも思えるこれらの問題の背後には、共通するより大きな問いが存在している。すなわち、グローバル化が進行しつつある現代において、フェミニズムは、「性」の違いによって「暴力」に関する異なる経験を強いてきた近代国民国家 (=「ネーション」) とどう関わっていくべきかという問いである。しかし、これに答えるのはそうたやすいことではない。もし、フェミニズムが国民国家の枠を越えて「性」と「暴力」の問題に取り組むべきであるとするならば、他国に暴力を行使する軍隊の存在を前提としてそこでの男女の機会均等を主張することは慎まねばならないし、たとえ国家によって合法化・正当化された営みであっても女性の人権侵害と見なされるならば「国家批判」や異文化への「介入」も必要となってくる。しかし他方で、国家を越えた問題設定は国内での性差別を不可視化させる危険性を伴うし、女性の人権のうち国民国家の枠によってこそ保障されうる側面や、異文化への「介入」にともなう「暴力」性をどう考えるのかという問題も起こってくる。本書には、この問いに対する明確な回答は記されていない。編者がわれわれ読者に求めているのは、本書から唯一の正答を見つけだすことではなく、むしろ本書が提供してくれる議論を足がかりとして、女性あるいは男性として今後国家とどのように関わっていくべきなのかを1人1人が考えていくことなのであろう。
著者
田渕 六郎
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.111-120, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿は主として全国家族調査(NFRJ)データの分析にもとづき,世代間の居住関係の変化に焦点を当てて2000年代における現代日本家族の動態を明らかにした.有配偶子の親との同居は,夫親との同居率がやや低下したものの大きな変化は生じておらず,親との同居に関連する要因には,持続的なパターンと変化の両方がみられた.未婚子の親との同居については,親同居率が顕著に上昇しており,同居の関連要因について,未婚子の低い経済的地位と同居との関連が継続的に観察された.2000年代の世代間居住関係は,未婚子の親との同居が拡大するなかで,親と有配偶子との間の「直系家族制」的な同居が減少し,その構造も変化の兆しをみせている.こうした今日の世代間居住関係の変化を的確に解釈するためには,従来のような有配偶子とその親との関係に限定されないような研究枠組みからの接近が求められる.
著者
山根 真理
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.10, no.10-1, pp.5-29,154, 1998-03-25 (Released:2009-08-04)
参考文献数
7
被引用文献数
6 7

This paper aims to clarify how gender studies have developed theory and research in Japanese family sociology since second wave feminism in the 1970s.The goal of the theoretical contribution of gender studies is to overcome two modern family models, functionalist role defferentiation model and socialist egaritarian model, which have had great influence on Japanese family sociology.Major research themes developed in gender studies are gender roles, housework, dual career, motherhood/fatherhood, rethinking of “the family”, and rethinking of maritalinstitutions. Quantitative methods have been predominantly used in these research. It is necessary to expand research themes and to develop qualitative methods in order to understand gender reality today.

1 0 0 0 OA 書評

著者
野田 潤
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.74-75, 2007-04-30 (Released:2009-08-04)
被引用文献数
1 1
著者
柳下 実 不破 麻紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.7-18, 2019

<p>近年,日本社会でも有配偶離婚率が高まっている.離別が家事労働に与える影響を検討した欧米の先行研究では,離別は男性の家事を増やし,女性の家事を減らすことが示されている.しかし,日本では欧米諸国に比べ離別者の実親同居率が高いため,離別の効果の検証には親同居の影響を考慮する必要がある.本稿は働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査を用いて,離別が男女の家事にどのような影響を与えるのか,また離別者の家事は親と同居することによってどのように変化しているのかを固定効果モデルで検討した.結果から,離別によって男性は家事を増やし,女性は家事を減らすことが示された.また,親同居による家事の削減効果は既婚者より離別者の方が大きいことも示された.離別者は稼得役割と家事労働を一人で担わなければならず役割過重が生じやすいが,親と同居できるか否かで家事労働の負担には格差が生じていることが示唆された.</p>
著者
松岡 英子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.5, no.5, pp.101-112,142, 1993-07-25 (Released:2010-02-04)
参考文献数
26
被引用文献数
8 2

This paper discusses and estimates the various factors on stress which have been used with family caregivers for the impaired elderly, and explores the factors influencing the stress of family caregivers, using the conceptual components of stress : “Stressor”, “Perception of caregivers”, “Resources” and “Stress response”. The sample consists of 873 family caregivers for the impaired elderly living in Nagano prefecture, of which 712 (81.6%) were valid responses. A questionnaire was developed to investigate present stress symptoms of the caregivers. Principal component analysis, Cronbach's alpha, Multivariate analysis of variance and Multivariate analysis of convariance are used to look at the relationships between factors on the stress of caregivers. The findings show that, the conceptional components, “Stress response” is related to the other components “Stressor”, “Perception of caregivers” and “Resources”. As for “ Stress response”, there were nine significant factors influencing the stress level of family caregivers. They are the elderly person's mental status, the quality of service, traditional caregiving ideology, the caregiver's health, the caregiver's job status, the emotional attachments in family relations, the emotional support from relatives, the emotional support from friends and neighbors, and instrumental support in the case of emergency from relatives.
著者
鈴木 富美子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.58-70, 2007
被引用文献数
3

本稿は男女共同社会への過渡的状況を生きる夫婦関係の諸相を計量的に描き出す試みである。夫婦関係を多元的にとらえるため, 「夫婦類型」の特徴を夫婦ペアデータから分析した。夫婦類型は「夫からの情緒的サポートの有無」と「妻の苛立ちの有無」に対する妻回答をもとに, 「サポート有・平穏型」「サポート有・苛立ち型」「サポート無・苛立ち型」「サポート無・平穏型」の4タイプを作成, 夫と妻および両者を組み合わせた「夫婦属性」, 行動面・意識面の共同性, 夫婦関係満足度から分析を行った。分析の結果, 「サポート有・平穏型」を除き, 行動面の共同性や夫婦間の意識の連関が低く, 妻の夫婦関係満足度は夫より低かった。このように, 結婚生活のひずみを背負っているのは主に妻であり, 現状のまま男女共同社会が到来するとこうした状況を助長しかねないことが明らかとなった。夫婦間の「代替戦争」を避けるには, 夫婦双方ともに労働環境の改善が急務となる。
著者
玉水 俊哲
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.15-30, 1989-07-20 (Released:2010-05-07)
参考文献数
54

1. This article aims at finding the clue to prospective image of the family through a study on the relation between industrial/economic structural changes and the family changes in post-war Japan.2. On the basis of the socio-economic development in post-war Japan, Japanese family has drastically changed, i.e., the family composition has been simplified, the family ties have been loosened and the family consciousness based on these changes has become more individualistic.3. The way of life has been changed as a factor of changes in the family form. This trend involved changes proper to be termed 'Privatization' and/or 'Dispersed Privatization' of family.4. This privatizing family should not be termed 'Family Disorganization' since it contains possibilities to create a new solidarity and a new way of life for individuals who constitute the family.
著者
望月 嵩
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.23-31, 2003

結婚についての考え方が揺れ動いている。本論は, 結婚は (1) 社会的に承認された性関係, (2) 継続的関係, (3) 権利義務関係, (4) 全人格的関係という特性をもった男女の結合関係 (夫婦関係) を形成する社会制度であるという筆者の見解を説明する。そして, これらの特性とは異なった見解や現象 (たとえば, 同棲, 同性カップル, シングル志向など) を検討することによって, 結婚の意味を再確認する。<BR>結婚制度を否定するかのような現象がみられることは事実であるが, それらを検討してみると, 必ずしも結婚制度を否定しなければならない必然性は認められない。したがって, 今後の動向を考えてみると, 結婚制度とそれ以外の生き方が併存していくことになろう。
著者
松田 茂樹 鈴木 征男
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.73-84, 2001
被引用文献数
3

本稿では, 平成8年社会生活基本調査の個票データを用いて, 夫婦の家事時問の規定要因を探った。分析に使用したのは, 同調査のうち, 夫が60歳未満で就労している夫婦約1,200組の平日の個票データである。分析は, 夫と妻の家事時間が, 本人の労働時間と配偶者の労働時間, 家事時間にどのように規定されるかという点を中心に行った。多変量解析の結果, 次のことが明らかになった。 (1) 夫, 妻とも本人の労働時間が長くなるほど, 家事時間は短くなる。ただしその傾向は妻で顕著である。 (2) 配偶者の労働時間が長くなると, 本人の家事時間は増加する。ただし夫の家事時間は, 妻の労働時間が自分以上に長いときに増加する。 (3) 夫と妻の家事時間の間には, 一方が増加すれば他方が減少するというようなトレードオフ関係はない。これらの結果から, 妻が中心となって家事を行い, 妻がすべてできない場合に夫が支援するという現代夫婦の家事分担像が示唆された。

1 0 0 0 OA 家族の個人化

著者
目黒 依子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.3, no.3, pp.8-15,116, 1991-07-20 (Released:2009-08-04)
参考文献数
32
被引用文献数
4 3

The family has become a central issue of concern for policy makers in Japan due to demographic and socioeconomic changes. The resurgence of the family-crisis theme in the United States in the 1970s reflected the changing patterns of familial living as options among alternative life styles. The break-down of such assumptions as “the family as a group” and “two-parenthood”, and the increasing visibility of non-modal living styles over time has legitimated the emergence of new perspectives. Sex roles and gender research has accumulated a considerable amount of evidence to indicate that the wife's decreasing economic dependency on the husband, or woman's increasing autonomy, has shaken the modern family ideology. Life course studies and social network studies have shown the effectiveness of using the individual as the unit of analysis in studying the family. Through the review of the above research areas, this paper attempts to present a framework to explain a mechanism of family change, claiming that woman's independent access to economic resources brings the modern family system based on the “provider-housewife” role-pairing to an end. This process is the “individualization of the family” because the autonomy of each spouse is assumed. An application of such a framework is intended to interpret seemingly relevant scenes of contemporary Japanese families.
著者
柳下 実 不破 麻紀子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.142-154, 2017-10-31 (Released:2018-11-08)
参考文献数
46

日本では女性の就業が拡大する一方,非正規雇用の増加による雇用の不安定化や就業と家庭生活の両立の困難など,結婚を取り巻く厳しい環境は根強く残り,未婚・晩婚化の背景ともなっている.そこで本稿は「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2007」を用いて未婚女性の就業継続意向および雇用の不安定性と希望する結婚までの期間との関連を検討する.結果から,就業継続を予定している女性は希望する結婚までの期間が長いことが明らかになった.就業継続を目指す未婚女性が結婚後に就業と家庭生活の両立が困難になると予想し,結婚を先延ばししようとしている可能性が示唆された.また,非正規雇用の女性は希望する結婚までの期間が長いのに対し,大企業や専門職など比較的安定した就業環境で働く女性は短いことが示された.本稿の結果は女性の就業状況が希望する結婚までの期間の長短に影響を与えていることを示唆する.