著者
天童 睦子 高橋 均
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.65-76, 2011-04-30 (Released:2012-05-31)
参考文献数
20
被引用文献数
3 4 2

本稿では,2000年代半ば以降に登場した父親向け育児・教育情報誌に注目し,その言説分析を行う.父親の育児参加研究には注目が集まっているが,育児メディアにおける父親の子育て関与や主体化を言説分析の観点から行った研究は未だ少ない.本稿では,言説と主体化の理論的考察,および教育言説の視点による言説分析の枠組みの検討を行い,戦後から現代までの育児メディアの変容を概観したうえで,近年の代表的なビジネス系父親向け育児・教育情報誌にみられる育児・教育言説分析を行う.とくに『プレジデントFamily』等の雑誌言説に立ち現れる家族の育児戦略の考察を通して,子育てする父親の「主体化」,子どもに濃密な教育的まなざしを注ぐ教育家族の強化,家族の再ジェンダー化を示唆する.
著者
瀬地山 角
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.9, pp.11-21,135, 1997-07-25 (Released:2010-02-04)
参考文献数
13

This paper discusses connections between traditional family systems and institutional organizations in three East Asian societies. As many “ie-soiety” theorists have noted, the family unit in Japan served as a structural model for various institutions, most notably business corporations, during the early period of modernization in Japan. The ie (stem family) system, which emphasized continuity and seniority, but allowed for a flexible system of adoption, provided businesses with a structure that maintained a high level of integrity among its employees based on a system of seniority.Similar trends can be observed in both China and Korea. The preponderance of small businesses typical to Taiwan and Chinese diaspora stem from the traditional Chinese family system, which placed less emphasis on seniority among brothers. Likewise, Korean chaebolscan be traced to the Korean family system, which placed a higher priority on blood relationships than the Japanese family system, and a greater emphasis on seniority than the Chinese family system.
著者
山田 昌弘
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.13-22, 2005-02-28 (Released:2010-02-04)
参考文献数
36
被引用文献数
1 1

家族は必要かという問いかけには, 多様な意味が含まれている。そこで, 個人にとっての必要性のレベルとして, 「意味」と「機能」の二つに分けて考える。特に, 現代社会においては, 機能上の欲求に還元できない, 家族に関わる意味上の欲求 (アイデンティティ欲求) を考察しなければならない。第一の近代・家族においては, 機能上の欲求とアイデンティティ欲求が結合されていた。それは, 「家族の機能的な欲求を充足することが, アイデンティティ欲求を充足させることになる」という形をしたイデオロギー (家族神話) によって, 維持されていた。しかし, 第二の近代の進行とともに, 個人化が進展し, あらゆる家族に関する規範や神話が批判にさらされる。家族神話が失われれば, 家族に関する不満が一気に噴出し, 家族に関わる欲求充足が「市場競争」にさらされることになる。その結果, 家族によるアイデンティティ欲求が満たせない人々, 機能的欲求が満たせない人々が出現する。
著者
野田 潤
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.17-26, 2006-07-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
10
被引用文献数
4 1

本稿は, 近代以降の夫婦関係と親子関係の接続についての人々の了解の形式の変容を明らかにし, 近代家族の情緒的関係の分節化を試みる。読売新聞の悩み相談欄「人生案内」 (1914~2003) の語りを分析した結果, 以下の知見が導かれた。 (1) 夫婦関係と子どもの幸福は1930年代までは無関係とされており, すべての語り手が子どものために頻繁に両親の夫婦仲を重視し始めるのは1970年代以降のことである。 (2) 夫婦関係と親子関係も1960年代までは別個に成立するものとされていたが, 1970年代後半以降, 人々は二つの間に因果関係を想定するようになっている。これらの知見からは, 近代家族の情緒的関係と現在ひとくくりに言われているものが, 近代以降でも変化していたことが明らかになった。なかでもとりわけ現在は, 家族内部の複数の異なる関係を, 容易に影響し合い連動し合うものだとみなし始めている点で, 特殊な時代だと言える。
著者
施 利平
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.2_20-2_33, 2008-10-31 (Released:2009-11-20)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

本稿の目的は,親子関係の出生コーホート間比較を行うことにより,戦後行われてきた二つの双系化仮説—仮説1「直系家族制の解体により,長男との同居パターンが消失すると同時に,親子間の援助における長男と他の子との差異,息子と娘との差異がなくなる」と仮説2「直系家族制の解体により,同居における長男優先のパターンが消失するとともに,抑制されていた娘や妻方親類との援助がより活発に行われるようになる」—を検証し,戦後の親子・親族関係の基本構造と変化のトレンドを明らかにすることである。「戦後日本の家族の歩み」調査(NFRJ-S01)のデータを用いて分析を行ったところ,夫方同居率の低下がみられるものの,長男同居のパターンの存続とともに,妻方援助の存在と顕在化の傾向があることが確認された。今日においても直系家族制と双系的な親類関係が共存していることは,仮説1の反証であるとともに仮説2の修正を要請するものである。
著者
元森 絵里子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.1, pp.28-40, 2021-04-30 (Released:2021-05-26)
参考文献数
42
被引用文献数
1

家族の多様化は,ライフコースの選択性の増大という観点から肯定的に捉えられがちだが,子どもというアクターを考えると問題は複雑になる.近年,子どものケアを視野に入れると家族の脱制度化は難しく,標準的家族の理想や制度的制約が入り込んで複雑な現実が生じていると指摘されてきている.だが,子どもの能動的権利やウェルビーイングという論点までは,日本の社会学は組み込みきれていないのではないか.80年代に盛り上がった学際的子ども研究の潮流も,この点の考察に失敗している.他方で欧州子ども社会学では,近代/脱近代,抑圧/尊重,既存の子ども観/新しい子ども観という二項対立的理解を反省し,ANTや統治性論などの社会学理論と接合しながら子ども観の歴史と現在を記述する提案がなされている.このような流れに棹さし,家族・教育・子ども家庭福祉領域の子ども観・子ども期のエスノグラフィーや系譜学的記述を積み重ねていく必要がある.
著者
中村 伸一
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.38-48, 2017-04-30 (Released:2018-06-18)
参考文献数
2

家族療法家である著者が,家族をどのようにとらえているかを述べ,家族療法の発生の歴史と基本的な特徴を紹介した.さらに適応疾患や問題行動を列挙した.さらに代表的な3つのモデルであるシステム論に基づいたコミュニケーションモデル,家族構造を把握し変化させる家族構造モデル,ジェノグラムを用いて家族の歴史を紐解くことで治療を行う多世代家族療法モデルについて実例をまじえながら述べた.
著者
孫 詩彧
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.109-122, 2019-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
8

本稿は未就学の第一子を持つ共働き家庭を対象に,その家事育児の分担と調整がなされるプロセスにおける夫と妻の権力経験を検討した.各家庭の役割分担は,子どもが生まれることで平等に向けて進む傾向が確認される一方,平等にたどり着くことが難しい.そこに潜む権力を捉えるため,本稿はKomter(1989)による「三つの権力(顕在的・潜在的・不可視的)」の枠組で分析した.その結果,顕在的権力が次第に潜在的・不可視的へと移行する傾向を確認し,その移行過程に加担する夫妻以外からの権力の影響が存在していることが明らかになった.本稿において妻が家事育児の主な担い手である状態を維持する権力作用を,不可視的権力に着目して考察したところ,平等な役割分担を実現するには夫妻の協力だけではなく,過去の権力経験や夫妻以外の第三者による影響も含めて議論する必要があると分かった.
著者
劉 語霏
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.213-226, 2020-10-31 (Released:2021-05-25)
参考文献数
26

台湾では,出生率の急速な低下により,21世紀に入ってから,少子化問題への世論の関心はますます高まっている.台湾政府も,多くの研究者も,その背景要因の解明と対策に取り組んできたが,少子化の深刻な状況は依然として変わっていない.本稿では,教育制度・政策の側面から,台湾における少子化の進行状況とその背景要因を分析し,教育と少子化が相互に与える影響を明らかにすることによって,少子化対策と課題を検討することを目的とする.分析の結果,台湾の少子化の主な特徴は,女性の高学歴化という要因にあり,それは高等教育の拡大政策と分岐型学校体系に大きく起因していたと言える.台湾の現状をふまえると,政府の少子化対策は,一時的な現金給付策よりも,家庭と仕事の両立ができる職場環境の整備と充実など,長期的に女性の社会進出を支援することに重点的に取り組む必要がある.
著者
五十嵐 彰
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.185-196, 2018

<p>配偶者とのみ性的関係をもつ,いわゆる「不倫」の禁止は現代の結婚制度の根幹を支える要素のひとつといえる.しかしながら,では誰が「不倫」をするのかを明らかにした日本の研究はほぼ見当たらない.本稿では日本における「不倫」行動の規定要因を機会および夫婦間関係のフレームワークを用いて検討した.分析結果から,労働時間や夫婦間関係の親密さ(会話頻度,セックスの頻度),子どもの数は「不倫」行動の発生に効果を与えないことが示された.男女ともに効果のある変数は学歴であり,高学歴になればより「不倫」しなくなるといえる.男性のみに効果のある変数は収入および妻との収入差であった.男性は収入が上がれば,また妻の方が収入が高ければ「不倫」するようになるといえる.</p>
著者
南山 浩二
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.25-36, 2007-02-28 (Released:2009-08-04)
参考文献数
55

社会学における障がい者と家族に関わる議論を, 社会的排除という概念を用いながら改めて整理しなおすならば, 大別して, (1) 障がい者が社会的に排除される機制に「家族」がどのように関わっているかを問う議論, (2) 家族成員が障がい者であることで家族が社会的に排除される機制を問う議論, の二つに集約される。ここ二, 三十年の間に, 精神障がい者と家族によって経験される社会的排除に関して多くの研究がなされてきたが, この二つの機制の関連性について議論する研究はあまり行われてこなかった。そこで, この二つの機制双方に留意しながら社会的排除のプロセスについて議論したい。このことに加え, 近年の障害者施策の転換や家族の変化が二つの機制にどのように影響を与えうるのかについても議論する。
著者
千田 有紀
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.190-200, 2010-10-30 (Released:2011-10-30)
参考文献数
21
被引用文献数
1 1

本論文では,フェミニズム論と家族研究の関係について明らかにする。その際まず,近代家族論が切り拓いた地平について,そしてこの近代家族論がどのような時代的背景のなかであらわれたかについて明らかにする。次に,近代家族論が家族研究においてもった意味について考察する。近代家族論は,家族を「歴史化」「相対化」し,近代社会と家族の連関を問い,構築主義的な視角によって権力を分析することも可能にした。さらにフェミニズムの視点と近代家族論の視点の親近性について問い,近代社会において公私がどのように編成されてきたのか,そのことによってジェンダーの編成がどのように明らかにされたのかを考察した。さらに家族研究からフェミニズム論にどのような課題が投げかけられるかを検討した後,近代家族を問う意味について,近代家族の変動の具体的な事象をあげながら分析した。
著者
利谷 信義
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.4, pp.11-18,123, 1992-07-25 (Released:2009-08-04)
参考文献数
31

In this paper, I would like to show indirectly my expectation of family sociology by reviewing the history of family studies in the field of sociology of law. From the pre-war period, sociology of law in Japan has been stressing the importance of family (“ie” before the war) in the legal system. Post-war reform of the civil code and reorganization of the family register system gave ground for creation of “a Japanese style modern family” which is characterized as a nuclear family based on fixed sex-role differentation and as a basic unit of the industrial socienty. After the oil crisis of the 1970s, however, this Japanese-style modern family which could successfully produce efficient workers with family support seems to have been threatened as the result of such drastic changes as increases in the labor-force participation of women, growing equality between sexes, “individualization”, and destruction of family farming. This trend is quite common all over the world.For the purpose of finding a new paradigm suitable for this global change, we should accurately grasp the tangible aspects of social change while paying much attention to the structural relations of social phenomena.In order to attain this goal, we should at first clarify the discipline of each field and then promote cooperation between sociology of law and family sociology.
著者
清水 新二 吉原 千賀
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.92-102, 2007-02-28 (Released:2010-02-04)
参考文献数
33

本論では全国無作為抽出代表サンプル調査によって得られた調査研究結果の分析を通じて, 家族社会学的研究からDV議論になにがフィードバックできるかを論ずる。問題解決志向性という観点からは一種の臨床家族社会学的研究ともみなせるが, より一般的には運動論や政策論と学術研究の関連性を問う性質をあわせもつ。暴力被害・加害経験の分析結果は非対称性仮説を支持せず, 世代間連鎖仮説をほぼ支持するものであった。これらの結果について, 暴力の深刻性, DV定義の外延的拡大パラドクス, 対称サンプルの差異などの観点から考察が加えられ, 学術研究および対策・政策論の双方において「市民的暴力」と「家父長支配的暴力」の類型区分の重要性が指摘された。
著者
千田 有紀
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.94, 2000

ジェンダーの意味にまつわる現代のフェミニズムの議論は、たいていの場合、何らかのトラブルの感覚に行きついてしまうと、著者はいう。しかしジェンダーの意味をひとつに決定できないことは、フェミニズムの失敗ではない。トラブルは、「女」という謎めいた事柄に関連させられたことであり、大切なのはトラブルを避けることではなく、トラブルに隠された秘密を暴き、うまくトラブルを起こすことである。このような意味が、本の題名には込められている。副題は、「フェミニズムとアイデンティティの撹乱」。セックス、ジェンダー、性的欲望と実践からなる一貫したアイデンティティや「女」という主体の存在に疑問を投げかけ、これらがいかに権力の法システムによって生産されるかを解き明かした、フーコー流社会構成主義の本である。<BR>構成は、第一章が「〈セックス/ジェンダー/欲望〉の主体」である。この章は『思想』にかつて翻訳された章で、本書の章のなかでもっとも有名な部分であり、基本的な分析の枠組みが述べられている。ここでは、生物学的なセックス、文化的に構築されるジェンダー、セックスとジェンダーとの双方の「表出」、つまり「結果」として表出される性的欲望のあいだに、因果関係を打ちたてようとする法システムに疑問が投げかけられる。その結果、法システムこそが、ジェンダー、そしてセクシュアリティ、さらにはセックスを生みだすのであって、セックスが、ジェンダーやセクシュアリティを生みだすのではないことがあきらかにされる。本書の主張は、この章に還元されるものではないが、やはりこの本の白眉であることは間違いない。<BR>第二章は、「禁止、精神分析、異性愛のマトリクスの生産」である。レヴィ=ストロースの構造主義にはじまって、フロイト、ラカンの主張が分析の俎上にのせられる。近親姦のタブーは、禁止することによって欲望を生み出す装置である。精神分析に関する分析がなされているぶん、家族社会学者には興味深い章だろう。<BR>最後に第三章、「攪乱的な身体行為」では、クリステヴァ、フーコー、ウィティッグまでもが、批判的に検討される。とくに男と女の対立を止揚するものとして「レズビアン」というカテゴリーをもちだすウィティッグに対する批判は、システムのなかで解放を語る難しさについて考えさせられる。