著者
稲葉 昭英
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.33, no.2, pp.144-156, 2021

<p>貧困・低所得の定位家族で育つことが子どもの内面に与える影響を検討するために,等価世帯所得によって定義される「世帯の貧困」と子ども(中学3年生)のメンタルヘルス(心理的ディストレス)との関連を計量的に検討する.内閣府「親と子の生活意識に関する調査」(2011年)を用いて,対象を有配偶世帯に限定して分析を行った結果,(1)男子では貧困層にディストレスが高い傾向は示されなかったが,女子では貧困層で最も高いディストレスが示された.(2)女子に見られるそうした貧困とディストレスの関連は親子関係の悪さや,親や金のことでの悩み,といった家族問題の存在によって大きく媒介されていた.この結果は貧困世帯において女子に差別的な取り扱いがあること,および女子は男子よりも家族の問題を敏感に問題化する,という二つの側面から解釈がなされた.</p>
著者
宍戸 邦章
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.121-134, 2018-04-30 (Released:2019-04-30)
参考文献数
37
被引用文献数
1 2

「圧縮された近代化」が生じた東アジアでは,晩婚化・未婚化が進行し,出生率が急低下している.20世紀末以降,東アジアは極低出生率の状態を示し始めた.東アジアでは,未婚化・晩婚化だけでなく,世帯規模の縮小,単独世帯の増加,高齢者の子との同居率の低下,離婚率の上昇も生じている.これらの現象は,個人化として捉えることができる.本稿では,個人化の議論や東アジアの家族文化的背景を踏まえ,東アジア社会調査(EASS)に基づいて,日韓中台の比較分析を行った.分析の結果から,東アジアにおける「家父長制の型」は,2000年代後半における東アジアの家族やジェンダーのあり方に影響を与えていること,東アジアにおいてもジェンダー間不衡平論の状態が成り立つことを指摘し,東アジアの晩婚化・未婚化が生じるメカニズムを考察した.
著者
松木 洋人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.52-63, 2013-04-30 (Released:2014-11-07)
参考文献数
38
被引用文献数
4

1980年代後半以降,主観的家族論と構築主義的家族研究は人々が使用する日常的な家族概念に注目することの重要性を論じてきた.しかし,これらの研究に対しては,専門的な家族定義の意義や可能性を否定するものであるとの批判もなされている.本稿では,主観的家族論と構築主義的家族研究およびその批判のいずれにおいても看過されてきた日常的な家族概念の家族社会学研究にとっての含意を明らかにする.まず,主観的家族論と構築主義的家族研究およびその批判において論点となっていたのが,専門的な家族概念と日常的な家族概念との関係であることが確認される.そのうえで,この論点を社会科学における記述の適切性についての議論と関連づけることによって,日常的な家族概念は,家族定義の間の齟齬をめぐる問題を脱問題化するものとして,そして,個別の経験的研究においては専門的な家族定義の適切性の条件となるものとして理解できることを主張する.
著者
和泉 広恵 野沢 慎司
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.34-37, 2017-04-30 (Released:2018-06-18)
参考文献数
5

近年,家族社会学においては,「家族」の多様化と意味変容に関する研究が蓄積されている.一方で,様々な領域において「家族」がその外側からの介入/支援を受け入れ,それによって維持・再編されるようになってきた.そこで,本シンポジウムでは,「家族」に対する専門家という第三者の介入が,精神保健・司法・福祉の各領域においてどのように実践されているのかを検討し,家族社会学の新たな展開の可能性を論じることをねらいとした.本シンポジウムでは,中村伸一氏(家族療法家),原田綾子氏(法社会学),中根成寿氏(福祉社会学)の3名の報告に対し,天田城介氏,松木洋人氏からのコメントが行われた.オーガナイザーおよび司会は,和泉広恵・野沢慎司が務めた.
著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.44-56, 2018

<p>本稿では,「就業構造基本調査」の匿名データ(1992・2007年)を用いて,1990年代から2000年代にかけてのひとり親世帯内部の所得格差とその変容について時点間比較を行った.</p><p>分析の結果,以下の知見が得られた.第1に,有子世帯の所得格差は,過去15年間で拡大傾向にあり,とくに独立母子/父子世帯内部で所得格差が大きい.第2に,高学歴化によりひとり親の教育水準が急速に向上したものの,ひとり親世帯の低学歴層への偏りは安定的に維持されている.第3に,要因分解法の推定結果より,世帯所得の学歴間格差が独立ひとり親世帯の所得格差の拡大に寄与しているが,他の成人親族との同居はひとり親世帯の階層差を緩衝させる役割を持っていた.</p><p>以上より,ひとり親世帯内部の所得格差は階層差を伴って緩やかに拡大しており,家族・世帯の「自助努力」を強調する福祉政策は,低学歴層のひとり親世帯の経済状況を悪化させる可能性が示唆された.</p>
著者
斉藤 知洋
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.20-32, 2020
被引用文献数
1

<p>本稿の目的は,「就業構造基本調査」匿名データ(2007年)を用いて,シングルマザーの正規雇用就労と世帯の経済水準の関連について検討することである.傾向スコア・マッチング法を用いた統計分析より,得られた主要な知見は次の3点である.第1に,正規雇用への就労はシングルマザーの時間あたり賃金を32.0%上昇させ,相対的貧困率と就労貧困率をそれぞれ36.5%, 39.5%低減させる効果を持つ.第2に,正規雇用就労の効果には階層差が存在し,賃金と就労貧困率については低学歴層ほどその就労効果が小さい.第3に,正規雇用就労を達成したとしても,非大卒のシングルマザーはその半数以上が自身の就労所得のみでは貧困状態を脱していない.以上の結果は,シングルマザーを対象とした就労支援施策に加えて,女性が結婚や出産を通じて直面する労働市場上の不利を解消することが母子世帯の経済的地位を高めるうえで重要であることを示唆する.</p>
著者
諸田 裕子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.69-80, 2000-07-31 (Released:2010-05-07)
参考文献数
19

「少子化問題」をめぐる政策において、近年、「不妊問題」への言及が行われ始めている。本稿では、こうした現象を「不妊問題」の社会的構成の一つの局面としてとらえ、その局面を特徴づける論理を政策レベルの言及やマス・メディア空間に流通する「不妊問題」言説を手がかりに描き出すことを目的としている。少子化への政策レベルの対応における「主体的な選択」「自己決定」というレトリックの採用は、個人が尊重されながらも問題解決の責任が個人へと帰責されてしまうという両義的な帰結を予見させる。それは、 “経験の告白” による問題の克服が問題の個人化をもたらし、結果、社会の側の変革への志向が閉ざされるという、マス・メディア空間に流通する「不妊問題」言説の特徴によっても強化されてしまう。私たちは、「主体的な選択」を根拠にした「不妊問題」への社会的対応の行方について今後も議論を展開していく必要がある。
著者
前田 正子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.26-36, 2012-04-30 (Released:2013-07-09)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

家族のない人や地域とのつながりを持たない人が増えている中で,人々は困難に直面したとき,最後に役所にくる.しかし,年金や介護などの既存の社会保障制度や福祉制度だけでは,人々の複合的な問題は解決しない.人々の安心感を保障するためには既存の制度に加え,これまで家族が担ってきた対人サービスを社会的に供給することが必要になる.実際に子育て支援の現場では,親を孤立させないために行政と市民やNPOとの連携によってきめ細やかな支援が行われている.だが,家族的ケアを社会的に供給すべきかどうかという点にも議論があるだろう.また,その供給に同意が得られたとしても,何を誰がどう供給するか,それは誰が担い,財源はどう確保するのか,自助・共助・公助の役割分担をどうすべきかといった議論が必要になるだろう.
著者
中村 雅子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.9, pp.39-56,136, 1997-07-25 (Released:2010-02-04)
参考文献数
16
被引用文献数
1

To what extent do the Japanese recognize the transmission of value consciousness which occurs within the family? Do they recognize the influence of parents' to a greater extent than Americans do? This issue is explored through survey data from a sample of 1764 Japanese and 1500 Americans chosen by a random sampling method in both countries. Factor analysis was used to identify four commonly shared dimensions of value consciousness. The structure of transmission from parents was resulted in one dimension in both countries.Results suggest that the Japanese respondents have a low level of transmission of value consciousness, if any at all, with the main route of transmission being covert (acquired through observation) rather than overt (verbally taught). The American respondents tended to put higher importance on parental influence than did their Japanese counterparts, and showed a higher inclination to influence their children during their educational years.Japanese respondents felt less responsible for transmitting social values to younger generations than did the American respondents. This low level of transmission of value consciousness among the Japanese may have allowed for the difference in the perception of value consciousness between generations, and could also have widened it.
著者
有地 亨
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.54-66, 1989-07-20 (Released:2009-09-03)
参考文献数
15

After World War II, Japan's society has been faced with the bustling world and economic trend. And consciousness for families has also changed remarkably. In accordance with that, most of urban office workers have become to form nuclear families. In other side, one parent families, unmarried mothers with children and singles are increasing gradually. That is to say various forms of families have come out. Before, we made efforts to maintain the legal models of “modern small families”. However, today we have held a lot of special acts and family policies in regard of various forms of families. For the shaking families at the mercy of these policies, we must reflect how to control the society for families and how should be the families.
著者
善積 京子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.43-53, 2003-01-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
13

近年欧米諸国では, 恋愛結婚, 婚外の性交・出産の排除, 法律婚主義, 性別役割分業という特徴をもつ〈近代結婚〉が, フェミニズム・性解放・子どもや同性愛者の人権の視点から批判される。個人単位化されているスウェーデンでは, 性別役割分業体制否定, 婚姻の有無を基準にしない性モラル, 異性間の同棲関係の制度化, 同性間カップル関係の制度化, 婚外子差別の撤廃, 婚姻外の親子関係の確定および養育責任追及の制度化という, 新しい婚姻制度に変容する。婚姻登録の個人的意義は, 経済面における法的権利の保証, 情緒的きずなの確認・強化にあり, さらにパートナー登録では, 「結婚」としての意味, パートナーの配偶者としての公表, 相手の姓使用の意義が加わる。未来社会では, 婚姻制度が遂行してきた父親確定の機能は, DNA鑑定技術の普及により父親確定制度で代替可能となり, また性愛関係の特権化の機能も親密な関係性の変容により不要になるかもしれない。
著者
森岡 正博
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.21-29, 2001
被引用文献数
1

代理母や精子バンクのような最新の生殖技術は, われわれの生命観や人間観家族観に大きなインパクトを与えるであろう。子どもをもちたいというわれわれの欲望は, 具体的な下位欲望へと分節化されてきた。そして, 近代家族規範はそれらの分節化された欲望によって揺るがされる。それら分節化した欲望とは, たとえば, (1) どんな方法でもいいから子どもがほしい, (2) 血のつながった子どもをもちたい, (3) 自分の身体で妊娠出産をしたい, (4) こんな子どもならほしいが, こんな子どもならほしくない, (5) だれかと同一の遺伝子をもった子どもがほしい, などである。これらのうちいくつかは近代家族にとって既知のものであるが, 他のいくつかはまったく新しいものである。借り卵, 借り子宮, クローンなどは近代家族規範を新しいものへと変容させるかもしれない。
著者
西村 純子
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.12, no.12-2, pp.223-235, 2001-03-31 (Released:2009-08-04)
参考文献数
29

主婦とは、家事・育児などの家庭責任を負う女性を指す実態的カテゴリーであると同時に、女性を家事・育児の責任者とするような意味・モノ・行為の体系から成る制度である。中年女性のライフ・ストーリーの分析を通して明らかになったのは、主婦という制度は女性たちの違和感を内包しながら維持されており、彼女たちの違和感とは、主婦であり続けることの選択不可能性、「専業」主婦という立場の不安定性、身体化された家事の拘束力に対するものであること、そこには高度成長期以降の女性の就労をめぐる意味内容の変化や性別分業規範の流動化といった歴史的社会的状況がかかわっているということである。今日的な状況における主婦という制度をめぐる社会学的研究は、主婦をめぐる選択がどのような条件のもとで、どのように引き受けられているかに注目することによって、主婦という制度がいかに生成・変容しているかを記述していくことが必要である。
著者
神谷 悠介
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.135-147, 2013-10-31 (Released:2015-09-05)
参考文献数
25
被引用文献数
1

本稿は,インタビュー調査に基づき,ゲイカップルにおける家計組織とパートナー関係を分析することによって,(1)レズビアンカップルと比較した際のゲイカップルの家計組織の特徴, (2)家計組織パターンと平等なパートナーシップとの関係,(3)同性愛者に対する差別が,ゲイカップルにおける家計組織や生活状況に与える影響について解明することを目的とする.分析の結果,(1)レズビアンカップルは共同管理型が典型的な家計組織パターンの一つであるのに対して,ゲイカップルは独立型が典型的な家計組織パターンであること,(2)家計組織の独立性は,平等なパートナーシップを保障するとは限らないこと,(3)同性愛者に対する差別がゲイカップルにおける生活の個別性の一因であることが解明された.