著者
浅野 正道
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.57, no.12, pp.24-36, 2008-12-10 (Released:2017-08-01)

坪内逍遙の『一読三歎 当世書生気質』には夫婦の情動の空間として閉ざされていく直前の家庭の姿が、その過剰なる外部としての<朋友たち>の絆とともに描かれている。そうしたホモソーシャルな絆は、『小説神髄』で定義されているような、所与として主体の内側にあり、異性愛において<自然>に発動するという「人情」の様態を超歴史化すると見えなくなってしまう、それが編制されるまでの不安定で重層的な過程を指し示していたといえよう。
著者
池上 洵一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.64-72, 1986-02-10 (Released:2017-08-01)

既成の話型を用いて成立している説話は、事実をそのまま語っているわけではないが、決して自由な虚構ではないから、虚構の文学としては限界がある。しかしまた、説話は独特の人間追求の方法を備えている。説話形成者の認識はまず語型の選択を通して示され、伝承者の認識は個々の表現として顕在化されて、両者の相乗効果によって人間の追求が深められる。『世継物語』の藤原高藤説話はその典型的な例である。
著者
池上 洵一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.64-72, 1986

既成の話型を用いて成立している説話は、事実をそのまま語っているわけではないが、決して自由な虚構ではないから、虚構の文学としては限界がある。しかしまた、説話は独特の人間追求の方法を備えている。説話形成者の認識はまず語型の選択を通して示され、伝承者の認識は個々の表現として顕在化されて、両者の相乗効果によって人間の追求が深められる。『世継物語』の藤原高藤説話はその典型的な例である。
著者
瀬崎 圭二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.11, pp.1-10, 2001

ホップソング等において現在でも反復され続ける夏の海における出会いの物語は、明治期の海水浴の誕生とほぼ時を同じくして語られるようになる。江見水蔭『海水浴』等のテクストに如実にあらわれているように、その場で男性の欲望に晒され続ける女性の身体は、男性を海水浴に誘う装置として機能し、さらに浜辺で<待つ>女性を男性が<さらう>といったようなジェンダー・ロールが、男性の欲望のもとに形象されることになるのである。
著者
林原 純生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.10, pp.45-55, 2007-10-10 (Released:2017-08-01)

西南戦争とその直後の言論界は、後の近代文学を考察する上で重要な対象である。この期に、政府の言論統制の方向が決定したからである。本論のその期における、特に「かなよみ」と「有喜世新聞」という二つの小新聞のめぐる対立と、当時の政府の戦後処理策を考察しながら、西南戦争を契機とした幕末から明治への言論界の問題を考察する。
著者
鈴木 醇爾
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.40, no.8, pp.44-56, 1991-08-10 (Released:2017-08-01)

この文章では、益田勝実さんが、高校国語教科書の編集者としてすごした三〇年の歩みをたどっている。総合国語時代から、現代国語時代、その前後一〇年ずつと、三時期にわけて、益田さんが発掘したすぐれた教材を紹介すると共に、その教材群がどのような国語科教育を生みだすかにも言及した。戦後の文学教育の中で、最もすぐれた達成であると論者は考えている。
著者
広田 収
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.54-63, 1982

The recitation of waka by the mononoke(possessing spirits)in the Genji Monogatari is a highly unusual phenomenon to judge from other records of the day. The poems recited by Lady Rokujo in "Aoi" and "Wakana, Part Two" are not simply compositions by the author. The first is based on magical chants or magical poems, thought to have been orally recited, and the latter resembles a poem transmitted as Komachi's Composition. In these waka it is possible to distinguish between a surface, prose-like, expository aspect and an underlying oral dimension.
著者
勝田 和學
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.1-15, 1987-04-10 (Released:2017-08-01)

白秋・露風の二派対立と神秘主義をめぐって展開されていた詩壇論争の渦中で発表された『月に吠える』自序は、その詩の神秘性についての見解に絡んで、福士幸次郎や白鳥省吾らの意外な反応と批判を招いた。そこには誤解もあったが、朔太郎の内部矛盾を鋭く衝いてもいた。複雑な様相を呈する朔太郎の<神秘思想>の内実を特にウイリアム・ブレークとドストエフスキイ受容との関連において解明しながら、その意義について考察する。
著者
芳賀 繁子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.39, no.5, pp.14-23, 1990-05-10 (Released:2017-08-01)

『竹取物語』の最終段にかかわる羽衣説話の話型の超克について考察した。具体的には作品内における、《不死の薬》とくかぐや姫の昇天》という二つの素材の表現のされ方を検討した。またその一方で、物語に関わりがあるとされる白楽天の詩句を、『竹取』周辺の作品にも手を拡げて検討することによってその受容を想定し、物語において最終的に嫦娥伝説の話型とその白詩が、どのように投影し、関係し合ったのかということを考察してみたのである。
著者
中村 龍一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.50-51, 2014-03-10 (Released:2019-03-20)
著者
鈴木 健
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.2-9, 2014-04-10 (Released:2019-05-03)

ベルリンの壁などの国境に代表される、社会における膜の存在理由を検討するときに、生命システムの起源である細胞から考えていく必要がある。生命の理論であるオートポイエーシスから膜による資源の取り込みを検討すると、細胞の進化プロセスの中でネットワーク(網)から膜や核が幾度となく生成されることをみてとることができる。人工物としての文学の意義は、多数の個体がもつコンフリクトを解消するための文脈を提供することであるが、情報技術によって異なる現実を生きる「パラレルワールド化した世界」の登場によって、文学の新たな可能性が試されることになるだろう。
著者
吉田 修作
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.1-10, 2011

天岩戸と天孫降臨神話に記述されたアメノウズメの所作である<神がかり>、<わざをき>に焦点を当てると、天岩戸でのウズメの所作は書紀の<神がかり>の表記やアマテラスとの問答などから、ことばによる<神がかり>が内包されており、天孫降臨のウズメの所作はサルタヒコの「神名顕し」を促し、天岩戸でのアマテラスの「神顕し」と対応する。ウズメの所作は天岩戸では一方で<わざをき>とも記されているが、<わざをき>は本質的には制度化されない混沌性を抱え込んでおり、それが<神がかり>と通じる点である。