著者
砂川 博
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.12, pp.39-48, 1987-12-10 (Released:2017-08-01)

戒律振興・殺生禁断を主張する中世律僧が、旺盛な勧進活動を基礎として、非人救済・作道・架橋・造寺造塔・顕密寺院の再建に当ったことは周知の事実である。彼ら中世律僧は、聖霊回向・追善を事とする僧衆と、遺骸の埋葬に従う三昧聖としての八斎戒衆の二つの階層に分かれていた。一方、八斎戒衆は中世律宗寺院の勧進活動の担い手でもあった。勧進聖でもあった八斎戒衆が、一紙半銭の喜捨を衆庶に仰ぐ際、勧進にまつわる或る種の語りを行ったであろうことは容易く想像される。本稿は、『太平記』の成立基盤の一郭に、大和西大寺流の律僧、具体的には般若寺の八斎戒衆の語りの存したことを摘出するものである
著者
平野 美樹
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.1-10, 1994

『蜻蛉日記』の上巻に見られる物語的な発想や表現方法は、道綱母の「日記」を書くという行為そのものに内在する物語の問題として再評価されるべきものであることを論じた。物語は道綱母の表現方法に深く関わっていたものであり、書く行為は物語的発想から出発している。『蜻蛉日記』の表現からは、経験を物語の枠によって再構成し、そのうえで現実と物語世界との落差を追認していく、過程としての書く行為を読み取ることが可能である。
著者
青木 三郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.60-73, 1982-02-10 (Released:2017-08-01)

The theme of this chronicle, as stated in the preface, is a comparison of the workings of Buddha's Law in the family history of the Minamoto's with that in the Jokyu Rebellion. The unfolding of the Law seems dubious in the case of the former, As the third generation approaches its end; how should it be assessed in the case of the latter, constituting a matchless page in the history of imperial insurrection? In the Jokyu Rebellion itself, ex-Emperor Gotoba, as a result of having neglected not only Buddha's Law but the gods and heaven as well, is defeated by his subjects and sent to exile. In other words, the law of cause and effect, Buddhism's most fundamental principle, is fulfilled. That this text recounts the history of this rebellion in this fashion shows that it viewed this outcome favorably. In contrast to other texts of this work, the Jiko-ji text demonstrates a sure grasp of history.
著者
塩崎 文雄
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.1-12, 1989-12-10 (Released:2017-08-01)

泉鏡花の『春昼』『春昼後刻』には、不可解なメッセージ○△□が二度にわたって出現するばかりでなく、両者ともきわめて重要な挿話を形成している。それだけに、従来からその読みをめぐって、さまざまな解釈が試みられている。本稿は、○△□は鏡花の謡曲体験から生まれたものではないか。しかもそれは、母の遺愛の、<付帳>と呼ばれる大鼓の楽譜の図像体験に媒介され、培われたものではないか、といった仮説を提起したものである。
著者
松本 真輔
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.1-10, 2002-02-10 (Released:2017-08-01)

『日本書紀』『聖徳太子伝暦』には、太子存命中に数度の新羅侵攻が企てられたという記述がある。一度は侵攻に成功するが、最終的に派遣された将軍が筑紫で病没し、派兵は失敗に終わったとされている。ところが、中世太子伝において、これが大きく変容を遂げ、聖徳太子の実弟、来目皇子が、新羅侵攻成功の立て役者として大復活をとげる。本稿では、中世の物語的太子伝のうち、増補系太子伝を中心にして、その内容を紹介するとともに、新羅の脅威が喧伝され、日本の安全を守るため、侵攻がなされたとされている点、戦闘の様子が、神国思想を背景にした護国説話として描かれている点などを、その特徴として指摘した。
著者
原 道生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.54, no.10, pp.34-46, 2005-10-10 (Released:2017-08-01)

近松最晩年の時代浄瑠璃『井筒業平河内通』には、さまざまなミステリー的要素が認められる。本稿では、同作の分析を通して、惟高親王の皇位纂奪をめぐる筋立てには怪奇的な色彩の濃いホラー的特色が、また、親王の二条后への横恋慕をめぐるそれには緻密な構成に基づく謎解き本位のミステリーとしての特色が、それぞれ顕著であるということを考察した。
著者
吉田 幹生
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.12-19, 2009

本論では、七・八世紀の異類婚姻譚が様々な展開の可能性を孕んでいたことを確認した上で、異類との別れに注目するところから、離別する二人の未練や葛藤の情が次第に描き出されてくる様を論じた。この流れは、異類という側面を希薄化させ、愛し合う二人の悲恋という点を強調していくようになるが、それがやがて王朝物語の領域に引き取られつつ一つの命脈を保っていくことについても見通しを述べた。
著者
槙林 滉二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.66-67, 2014-03-10 (Released:2019-03-20)

1 0 0 0 OA 『名人伝』論

著者
山下 真史
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.11-19, 1994-12-10 (Released:2017-08-01)

中島敦の『名人伝』は、名人を純粋さの体現者とする通念に対して、名人を突き詰めれば木偶に至るということ、そしてその名人を偶像化することの滑稽さを描いた作品である。川端康成の『名人』などと比較しながら、同時代の文学状況にこの作品を置いてみると、中島が太平洋戦争下の日本の<純粋さ>を徒に崇める風潮への批判、陶酔を拒否して醒めた認識を持ち続けることをモチーフとしてこの作品を書いたことが分かる。
著者
兵藤 裕己
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.9-24, 1986

相反する二つの論理が、位相を異にしながら平家物語で重層する。それはまず、序章に仕組まれた王権因果論と、無常感の印象である。作品の次元でいえば、歴史と物語、日常と非日常、中央と辺境であり、成立論的にいえば、モノの鎮めと鎮まらざるモノの語り、寺院権門とそれに隷属する語り手、すなわち文字と語りの問題に位相的に重なり合う(平家物語が語りと文字の出会いの文学であるとは、じつはその危うい<歴史>モノ語りの構造と不可分の問題であった)。そしてにもかかわらず、平家物語が(最終的には)語り手の側に属する以上、語り手の側の論理は深層から作品をささえている。物語の<歴史>書的な外皮が内側から相対化され、史実と虚構日常と非日常という二元的境界が反転する。それは平家物語の作品構造であるし、文字テキストを不断に変形・相対化するモノ語りの論理であった。