著者
野本 聡
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.51, no.9, pp.47-56, 2002

一九二七年四月、『新青年』に掲載された萩原朔太郎「死なない蛸」は、その後、散文詩集『宿命』(一九三九年)等に再録される。「死」が共同体によって意味付けられる戦場の思考のなかにあって、このテクストは"死ねない"という死の不可能性を提示する。本稿は、「死なない蛸」に同時代のテクストとの関連の中で、表象不可能な死ねない"なにか"たちによる明かしえぬ友愛の、不可能性としての生起を見出していきたい。
著者
吉田 稔
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.38, no.12, pp.55-67, 1989-12-10

生徒が書いた詩を教室で読み合うことは、生徒相互の対話を活性化するばかりでなく、詩のもつすぐれた<表現>に眼を向けさせることで、「もう一人の自己」との対話を成立させる契機になり得る。生徒に詩の「批評」とその「感想文」や「作者の言葉」を書かせて読み合うことは、そのような対話を成立させるための有効な手段である。なお、生徒作品であるがゆえにもつ詩教材としての限界性を考慮して、須貝氏の言う通時的発見につらなるような教材を発掘することが今後の私の課題となろう。
著者
山崎 誠
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.1-11, 1988-06-10 (Released:2017-08-01)

守覚法親王の「真俗交談記」は、建久二年重陽宴の後宴として、真衆と俗士が仁和寺御所で世俗の故実と真言の秘事口伝について、学術の交換を行った言談の記録という体裁をとる。しかし、この言談は非在の時に仕掛けられた仮構であり、守覚の法親王という身分に備わる聖俗両界への興味から、秘説の結集を意図したものである。本書の姉妹篇として 「真俗擲金記」「左記」「右記」という言談の形式によらない真俗記のあることをも論証した。
著者
米田 利昭
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.100-102, 1990
著者
足立 悦男
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.36, no.7, pp.32-39, 1987

これまで書かれてきた多くの短歌教材論は、現実ありのままの情景や心情をそのままに表現したものが短歌である、という考え方にもとづいていたようである。わたしはそこに、かねてから考えていた虚構論(表現行為は現実をこえるという立場からの……)を導入してみた。そのことで短歌教材に対する考え方がだいぶ変わっていくのではないか、という展望のもとに。一つの問題提起として書かせていただいた。
著者
三角 洋一
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.13-22, 1984-04-10 (Released:2017-08-01)

There are two texts for Hashihime Monogatari: one is thought to have been formed before Genji Monogatari and is called the "scattered old text", and the other is "emaki" revised in the middle ages. When we stndy the work, it's necessary to restore the old text as well as analyzing the revised one. At the time the old text was formed, the original legend was almost entirely forgotten in the aristocratic society. But in the medieval period, they constructed the new text, gathering every remaining memory of the original legend. The story also seems to have appeared in the world of literature in that period as Tofutan and Hitobashira Legend.
著者
柴田 勝二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.8, pp.100-101, 2013-08-10 (Released:2018-08-06)
著者
藤森 清
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.20-27, 1993

明治40年代の「平面描写」論における「平面的」というメタファーは、十九世紀フランス印象派の絵画にみられる選択的描写としての遠近法の影響をうけた田花袋によってプラスの価値を付与されたものとして使われた。このメタファーが同時代の文学の言説空間のなかで力をもったのは、明治20年代から30年代前半にかけて優勢だったパノラマの俯瞰的視覚が新しい視覚の様態としての魅力を失い、前提化されていくコンテクストにおいてである。
著者
深津 謙一郎
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.46-54, 1999

『重右衛門の最後』は、典型的な<近代批判>の言説のひとつであり、<西洋(近代)>に覆い尽くされたかに見える深層に、再発見されるべき起源の場所を提示することで、そこを核とする集団の同一性を制作する。しかしこうした語り口は、<近代>の進化論的時間と、それを包含するかたちで可視化された<西洋>中心の「地図」に基づくものであり、起源の場所が転倒した遠近法により遡行的に想像されたものであることを隠蔽する。
著者
牛山 恵
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.35, no.7, pp.37-47, 1986-07-10 (Released:2017-08-01)

中学校一年生を対象に「鹿踊りのはじまり」を実践した。方言のふんだんに出てくる作品だが、それがかえって作品世界に生徒をさそい込んでいった。そして生徒は、主人公の嘉十が鹿と同化し、その言葉を理解することができたものの、結局自然からは拒絶される存在であったという「読み」を展開した。鹿の視点に立って日常生活から失われてしまった感覚を体験するとともに、嘉十の疎外感に共感していったのである。この実践は「イメージの世界に遊ぶ」という虚構の体験の成立をめざしたものである。
著者
伊藤 忠
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.22-32, 1992

『五勺の酒』の語り手である「僕」は、一九四五年八月十五日<終戦の日>の一日を「かずかずの犯した罪が洗われて行く気がして泣けた」と手紙に記述したが、同僚の国語教師「梅本」の復員は今におき戦中の「犯した罪」が洗われていないことを物語っていた。「僕」の「君」宛の手紙はそうした「犯した罪」、自ら埋めようのない「訴えようのない」<空白>を「五勺のクダ」として<語る>ものであった。いわば「僕」の「犯した罪」の視座から『五勺の酒』を考えてみたのである。