著者
吉野 樹紀
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.48, no.8, pp.1-10, 1999-08-10 (Released:2017-08-01)

筒井康隆の『夢の検閲官』について、「反転」という視点から、その言葉のしくみについて論述した。反転とは、途中まである一つの読みに寄り添っていた読者の読みが、ある時を境に反転させられることをいう。それは、筋の展開や、構造としてあるのではなく、表層の構造を支えている言葉のしくみに織り込まれている。その言葉のしくみに着目して読むことが、文学を教室で読むことにとって重要な課題なのである。

1 0 0 0 OA 春本研究

著者
中嶋 隆
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.10, pp.78-79, 2012-10-10 (Released:2017-12-29)
著者
金井 景子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.42, no.11, pp.38-46, 1993-11-10 (Released:2017-08-01)

明治三十年代初頭に蒔かれた写生文の種は『ホトトギス』と共に成長して、大正・昭和と、綴り方運動など、人が文を書く原初の欲動と密接に繋がりながら多様な結実を見た。明治三八年一月号の『ホトトギス』は漱石の「吾輩は猫である」と子規の「仰臥漫録」が掲載された号である。本稿ではこれを一つの分水嶺と考え、ここにいたる同誌の写生文実践の内実を、日記というジャンルが果たした役割を焦点化しつつ辿る。
著者
柳瀬 喜代志
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.46, no.5, pp.25-34, 1997-05-10 (Released:2017-08-01)

覚一本系の『平家物語』巻第一「禿髪」に平清盛の専横政治の象徴として書かれていた「三百人」の「禿髪」の童子のことが、広本系の延慶本『平家物語』第一本「清盛繁昌之事」や古活字本『源平盛衰記』巻一では王莽の「童謡」の故事と重ねて語られている。この「禿髪」をめぐる物語の改変は、当時の注釈学の方法に倣って清盛の野心を解明して見せ、かつ「談義」と呼ばれる講義様式をそのままに語りの構成に取り込んだと見られる。そして清盛に皇位を簒奪する企望があったことを表して、新清盛像を提出している。
著者
関口 安義
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.1-11, 1982-06-10 (Released:2017-08-01)

1926 was a memorable year for Aono Suekichi. Having resolved to withdraw from political activity in order to devote himself to literary criticism, he found himself a man of the times. He produced a flurry of articles and was drawn into a number of debates, the most important being, of course, that concerning goal-consciousness. This argument was to linger on into 1927. Other than this much-publicized debate, Suekichi experienced two others in the course of 1926. One involved Hirotsu Kazuo, and the other, Masamune Hakucho. Both of these debates provide useful material for understanding the Aono Suekichi of 1926, the Aono Suekichi, that is, who proclaimed the theory of goal-consciousness. This essay attempts to trace the development of this theory by examining the two less-known debates.
著者
斎藤 英喜
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.2-11, 2008-05-10 (Released:2017-08-01)

宣長の「物のあはれ」説は、近代の<源氏的なもの>を作り出した重要な言説である。しかし、その源氏注釈は、『古事記伝』における「ムスヒ神学」と密接に繋がっていた。そのとき「物のあはれ」説は、中世以来の神道言説と源氏注釈の相関関係の系譜のなかに位置づけなおすことが必要となる。<源氏的なもの>に内在する<非源氏的なもの>の系譜を明らかにした。
著者
大澤 真幸
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.20-32, 2007

かつてジャック・デリダは、形而上学における「音声言語中心主義」を批判した。だが、この批判は、日本語による思考には直接にはあてはまらない。日本語の思考は、文字(エクリチュール)に深く規定されているからである。このことは、日本語が、独特の書字体系、つまり「漢字かな混じり文」をもっていることと深く関連している。デリダは、彼が「脱構築」と名づけた強靱な思索を通じて、音声言語に対する文字の優越を何とか回復しようとしたのだが、日本語においては、こうした条件は、最初から整っていたのだ。この発表では、こうした特徴を有する日本語に基づく思考の「強さ」と「弱さ」について論ずる。また、この特徴が、日本社会の歴史的構造と相関していることを示す。さらに、議論は、この特徴が、明治以降の西洋文化の導入にどのように反響したかという問いへと移るだろう。この問いへの探究は、日本の思想、とりわけ日本の近代思想において、文学が中心的な影響力をもったのはなぜなのかということを解き明かすことにもなる。「近代文学(小説)の終焉」は、日本語にとって流行の盛衰以上のものだ。それは、日本語に基づく思考そのものの危機かもしれないからだ。
著者
山根 由美恵
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.50, no.9, pp.40-49, 2001-09-10 (Released:2017-08-01)

「世界の終りとハードボイルド・ワンダーラント」は、『世界の終り』と『ハードボイルド・ワンダーランド』という二つの異なる世界が、パラレルの位置のまま並行して進み、結末において統合されていくと考えられてきた。しかし、二つの世界は展開するにつれ相対する世界の性質へと変化している。本稿では、この性質の変化を<ウロボロス>という円環構造で捉え、自我と外界が対立しない近代自我神話の終結という世界観を読みとった。
著者
山本 ひろ子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.19-30, 1985-05-10 (Released:2017-08-01)

天皇制イデオロギーの一思想源流とみなされる北畠親房の三種の神器観念の生成過程を、研究ノート的な『元々集』から歴史叙述の書『神皇正統記』への展開の内に考察する。出発は中世神話的世界にありながらも、神器の問題を天祖-天孫の伝受の絶対的関係に限定することで麹房は三種の神器を天皇支配の正当性と道徳性の根源として定立した。それは神器がコスモロジーを離脱して国家神話の圏内にとりこまれていく構造を示すものであった。
著者
島内 景二
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.41-50, 2006-01-10 (Released:2017-08-01)

『絹と明察』は、三島由紀夫の「小説の作り方」を解明する手がかりとなる。というのは、笛吹川芸術文庫に、三島が『絹と明察』を書くに当たって参照した種本が所蔵されているからである。種本と小説を比較すれば、三島が資料に依拠した部分と、そうではない三島文学の本質部分とが区別される。後者は少年時代の読書体験によって完成し、晩年まで一貫して影響を及ぼしている。三島だけでなく、文学者の旧蔵書の調査は、文学研究に新しい地平を切り開くものであろう。