著者
湯川 進太郎 泊 真児
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.37, no.2, pp.15-28, 1999 (Released:2018-09-07)
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究は,性犯罪を促進する要因として,そうした行為を合理化する誤った信念・態度(性犯罪神話)に注目し,性犯罪神話を形成する要因として,性的メディア(ポルノグラフィ)との接触,友人・先輩との性的な情報交換,パーソナリティなどが一体どのように結びついているのかを,一般の大学生を対象に検討した.その際,性犯罪神話が実際の性犯罪行為の可能性(許容性)へどのようにつながるのかについても併せて検討した.そこで本研究ではまず,因果モデルとして, 個人内要因(性経験・交際相手・一般的性欲・パーソナリティ),性的メディア接触,友人・先輩との性的情報交換,性犯罪神話,性犯罪行為可能性という因果の流れを想定した.そして,男子大学生165名を対象に質問紙調査によって上記の変数群を測定し,重回帰分析を用いたパス解析を行った.その結果,性経験があることや一般的性欲が高いことが性的メディア(ポルノグラフィ)との接触を促し,それが身近で類似した他者である友人・先輩との性的な情報交換を介して,性犯罪を合理化する誤った信念・態度である性犯罪神話(暴力的性の女性側の容認,女性の性的欲求に関する誤認)の形成へとつながり,その結果として女性に対する犯罪的な性暴力の可能性(許容性)へと結びつくことが示された.
著者
星 あづさ 河野 荘子
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.47-59, 2018-08-27 (Released:2018-09-19)
参考文献数
42
被引用文献数
1

性犯罪者について,母親との愛着形成の失敗が愛着スタイルに悪影響を与え,性犯罪に結びついていることから(Marshall, Hudson, & Hodkinson, 1993),性犯罪者と母親との関係について注目する必要がある。そこで,本研究では,わが国の性犯罪者の愛着スタイルについて,「現在の母親」との関連から検討することを目的とした。調査対象者は,刑務所で受刑中の男性1,226名(性犯群n=262,非性犯群n=964)であった。分析の結果,以下のことが示された。①性犯群と非性犯群において,現在の母親との関係性に差はなく,性犯罪者がほかの罪名犯と比して特別悪い母子関係にあるわけではない。②罪名によらず,現在の母親との信頼関係がネガティブであるほど,愛着スタイルが不全となる。③性犯群の方が非性犯群よりも,愛着スタイルが不安定(「見捨てられ不安」が高い)である。④罪名によらず,現在の母子関係がネガティブなほど,愛着スタイルは不安定になりやすい。
著者
大上 渉
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.29-45, 2017-08-15 (Released:2017-09-14)
参考文献数
31

本研究は,1952年から2015年までの間に,日本においてロシア諜報機関(KGB-SVR, GRU)に獲得・運営された32名の情報提供者のタイプとその特徴を調査した。情報提供者に関する詳細情報の収集にはWeb上の新聞記事データベースを用いた。7つのカテゴリー,すなわち情報提供者の年齢,職業,提供した情報の内容,提供した諜報機関,情報の入手方法,情報提供者になった経緯及び動機について,クロス集計分析と多重対応分析が行われた。その結果,情報提供者は4つのタイプ,すなわち「自営業者型」,「自衛官型」,「国家公務員型」,「メーカー社員型」に分類された。情報提供者の特徴は各タイプで相違した。この相違は,情報提供者の職業に関連しているとみられる。この知見は日本におけるスパイ防止活動や機密情報の漏洩防止に貢献するだろう。
著者
大淵 憲一 石毛 博 山入端 津由 井上 和子
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.1-12, 1985 (Released:2019-03-30)
参考文献数
13
被引用文献数
2

レイプを合理化する誤った信念をレイプ神話と呼ぶが,本稿では特に,被害者である女性の側の条件を強調した4種類のレイプ神話を取り上げ,質問紙によってその測定を試みた。取り上げられたレイプ神話は,女性の暴力的性の容認,女性の潜在的被強姦願望,女性のスキ,それに女性による強姦のねつ造,である。まず研究1において,大学生男女の比較を行なったところ,レイプ神話が予想通り女性より男性によって強く支持され,これが女性の性行動に関する誤った見解に基づくことを示した。研究2では,性犯罪者にこの質問紙を施行して性犯罪とレイプ神話の関係を検討した。その結果,性犯罪者は,一般犯罪者や大学生に比べて,女性が被強姦願望を持っていると信ずる傾向が強かった。この結果の解釈としては次の3点が提起された。(1)レイプ神話がレイピストの女性に対する支配欲求を喚起して,レイプを動機づける;(2)多くの男性においては,女性への暴力に対しては内的抑制が働いているが,レイプ神話はその抑制を中和して,女性に対する暴力を実行させやすくする;(3)犯行時において,被害女性が性的強制を受け入れてくれるものと,レイピストに誤った知覚をさせる。
著者
小俣 謙二
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-27, 2013-10-31 (Released:2017-07-30)
参考文献数
56

本研究は,レイプ被害者の友人など周囲の人間の性役割観と被害者への過失帰属との関係について,以下の二つの仮説を立て,検証した。仮説1は,伝統的性役割観と被害者への過失帰属の関係は,周囲の者の「女性の暴力的性願望を肯定する態度」と「派手な若い女性が被害に遭うという被害者観」によって媒介され,これらの態度と認知が過失帰属を強めるというものである。仮説2は,上記の関係は,「見知らぬ変質者がレイプをおこなうという加害者観」によって媒介されるが,その加害者観は被害者への過失帰属を弱めるというものである。男女大学生370名(男子学生162名,女子学生208名)に質問紙調査を実施し,次の結果が得られた。1)仮説1の,女性の暴力的性願望を介するパスは男子学生,女子学生いずれの回答者でも支持された。2)しかし,被害者観の影響は女子学生でのみ確認できた。3)仮説2は,男子学生でのみ確認された。これらの性差について,Shaverの個人的類似性の概念による解釈の可能性が議論された。また,本研究では過失帰属と同時に被害の過小評価も従属変数に含めたが,分散が小さいことから分析の対象から外し,これについては今後の課題とした。
著者
財津 亘
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.77-88, 2018-08-27 (Released:2018-09-19)
参考文献数
21

本研究では,性犯罪者519名が敢行した性犯罪の罪種間における移行性やそれら性犯罪と各種窃盗犯罪との関連について検討することを目的とした。性犯罪者519名が敢行して検挙された各種性犯罪ならびに各種窃盗の犯罪経歴を基に,データセット(519名×15犯罪種別)を作成し,分析を行った。対応分析ならびに階層的クラスター分析の結果によると,「犯行場所」と「身体的接触の有無」の2次元が抽出され,性犯罪は,それら2つの次元に沿って①接触型(屋内強姦,屋外強姦,強制わいせつ,年少者わいせつ),②非接触型(露出,のぞき),③窃盗型(色情盗)に分類された。また,窃盗犯罪は,①侵入窃盗(空き巣,忍込み,出店荒し),②乗物盗(自動車盗,オートバイ盗,自転車盗),③非侵入窃盗(車上ねらい,万引き)に分類された。さらには,強制わいせつから屋外強姦,露出から年少者わいせつへの移行性が示唆された。そのほかにも,接触型性犯罪と乗物盗の間に相対的に関連性がみられたほか,屋内強姦は,侵入窃盗との関連がみられた。非接触型性犯罪は,窃盗犯罪との関連が低いことを示唆した。
著者
財津 亘
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.29-41, 2016-01-31 (Released:2017-03-23)
参考文献数
22

本研究は,最近10年間の放火事件を対象に,単一ならびに連続放火犯が述べた動機をテキストマイニングによって分類することを目的とした。研究1では,まず単一放火犯が供述した動機に関する文章(文字列)を対象に名詞を抽出し,放火犯ごとで名詞の出現度数を算出した。これにより作成されたデータセット(253名×67名詞)について,古典的多次元尺度法(重み付きユークリッド距離)による分析を行い,名詞を2次元上に布置した。つづいて,2次元上に布置された名詞の座標データを基に,階層的クラスター分析(Ward法,ユークリッド距離)を実施し,放火動機を分類した。その結果,単一放火に関する7類型が見出された(①怨恨型,②自殺型,③不満の発散型,④犯罪副次型,⑤保険金詐取型,⑥火遊び型,⑦人生悲観型)。続く研究2では,連続放火犯127名の供述における44の名詞を変数として,研究1と同様の分析を行ったところ,連続放火に関する5類型が抽出された(①不満の発散(雑多要因)型:ギャンブルの負けなど,②不満の発散(就業要因)型:仕事や就職活動の失敗など,③火事騒ぎ型,④逆恨み型,⑤犯罪副次型)。加えて,単一放火の中心となる動機が“怨恨”であり,連続放火の動機の中心は“不満の発散”であることを示唆した。
著者
渕上 康幸
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.21-34, 2010-08-25 (Released:2017-09-30)
参考文献数
42
被引用文献数
2

ADHDから反抗挑戦性障害(ODD),さらに素行障害(CD)へ至るDBDマーチの経路の途中に,家族との関係性や共感性といった要因を媒介させた逐次的モデルが成り立つか否かを検討するため,DSMの診断基準項目やDavis (1983)の多次元共感測定尺度等を用いて,少年鑑別所入所者を対象とした横断的,回顧的な自己記入方式の質問紙調査を実施した。有効な回答を得られた1,842名(うち女子250名)について,男女別に構造方程式モデリングを行った結果,①ADHD傾向→ODD傾向→CD傾向といった因果関係の流れは大筋において支持された。②総じてADHD傾向が強いほど,放任や虐待といったネガティブな家族との関係性が認められた。ただし,ADHDの亜類型の違いにより,ネガティブな家族との関係性の有様は異なっていた(多動衝動→虐待,不注意→放任)。③放任や虐待はCD傾向を高め,非行初発年齢を引き下げるリスク因であった。④共感性の「視点取得」は非行初発年齢を引き上げる保護因であった。⑤男子では放任は「視点取得」を低下させるリスク因であった。⑥男子では不注意傾向を強く自認するほど,共感性の「視点取得」は低く,逆に「個人的苦悩」は高かった。
著者
石原 慶子
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1.2, pp.11-24, 1984 (Released:2019-05-10)
参考文献数
14
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.33-45, 2020-01-30 (Released:2020-04-03)
参考文献数
42

It is well known that child abuse can cause posttraumatic stress disorder (PTSD) and deteriorate their psychometric intelligence. In previous researches, the PTSD and the lower intelligence were not independent. Rather, psychiatric symptoms may influence on their cognitive development. The purpose of the present study was to examine the psychological mechanism that child physical abuse cause traumatic symptoms followed by depressing their intellectual functioning. Data were collected from child guidance centers. Abused group composed of 100 children who had a history of physical abuse; comparison group composed of 102 children who did not have any type of maltreated experiences. Their intelligence quotient (IQ) and traumatic symptoms measured using the Wechsler Intelligence Scale for Children-Fourth edition and Trauma Symptom Checklist for Children-Alternative version, respectively. Mediation analyses in structural equation modeling showed that child physical abuse influences traumatic symptoms, which in turn influence their IQ, namely as the full mediation. Significant indirect effects were calculated using the bootstrap method (M=−0.73) and the Bayesian estimation (M=−0.74). Findings suggest that trauma assessment is indispensable for educational support of physically abused children.
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.29-40, 2021-08-31 (Released:2021-10-01)
参考文献数
24

After the Certified Public Psychologist Act came into effect, the “Forensic and Criminal Psychology (F & CP)” course in Japanese undergraduate study programs has been an urgent requirement. This study aimed to examine lecturers in charge of delivering this subject. The official homepages of all Japanese universities (N=783) in fiscal year (FY) 2019 were examined to collect information on syllabi for the “F & CP” courses being offered (if any). Overall, 137 lecturers were teaching students in 155 universities. Based on the scientist–practitioner model, criminal psychologists were defined according to three conditions: (1) membership of the Japanese Association of Criminal Psychology, (2) research articles accepted in the Japanese Journal of Criminal Psychology, and (3) practical experience in forensic and/or criminal fields. In FY 2019, 30 criminal psychologists, with 77 professionals in criminal psychology, and 30 nonprofessionals lectured undergraduates on “F & CP.” Their expertize were examined using cluster analysis and nonmetric principal component analysis. Results showed that “F & CP” was related to “Social, Group, and Family Psychology;” “Legal and Administrative Systems;” “Professionalism of Licensed Psychologists;” “Psychological Assessment;” “Psychology of Emotion and Personality;” and “other subjects.” Furthermore, requirements in relation to criminal psychologists concerning “F & CP” learners were discussed.
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.17-27, 2016-01-31 (Released:2017-03-23)
参考文献数
39

被害児に対する加害親の過剰期待が虐待の発生に関連するとの知見が報告されている。児童相談所で新版S-M社会生活能力検査(S-M)とWechsler Intelligence Scale for Children-fourth edition (WISC-IV)が実施されたケースから,①虐待被害児のS-Mを加害親が評定(n=35),②虐待被害児のS-Mを施設保育士が評定(n=20),③虐待されていない子どものS-Mを保護者が評定(n=59),④虐待されていない子どものS-Mを施設保育士が評定(n=18)しているデータを収集した。社会生活指数(SQ)からIntelligence Quotient (IQ)を減算した差分Δに評定者の過剰期待が反映されていると操作的に定義した。年齢と群の要因が交絡していたため,年齢要因をランダム効果に設定した線形混合モデルにより分析したところ,Δ(SQ-IQ)には群間差が認められ(F[3, 126.3]=4.54, p=0.005),③虐待されていない子どもの保護者評定より,①虐待被害児を加害親が評定した場合にΔ(SQ-IQ)は大きかった。過剰期待が生じる背景に認知バイアスが潜在している可能性を考察した。加害親の過剰期待に関する知見が得られたことから,児童相談所における保護者支援の手掛かりが示されたものと結論した。
著者
森 武夫
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.31-41, 2019-08-15 (Released:2019-08-28)
参考文献数
14

日本では古くから文学作品の中では心や魂のいろいろな面が書かれてきたが,心を科学的な目で見ることはなかった。明治維新以後,海外で心理学を学び帰国した教師たちによって心理学の研究や教育がなされるようになった。日本の大学で心理学を学んだ寺田精一は,刑務所にいる囚人の調査,研究により,多くの犯罪心理学の著書や論文を発表した。こうしたきっかけから内務省では多くの心理職員を嘱託として採用していたが,やがて正式の職員として採用するようになった。心理テストは精神科医による鑑定書に用いられた。
著者
笠原 洋子 越智 啓太
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.9-17, 2006 (Released:2018-06-29)
参考文献数
17
被引用文献数
1
著者
阿部 晋吾 高木 修
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯心研 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.35-42, 2018-08-07

<p>In this study, participants (623 students) were examined using two scenarios whether justifiability evaluation of anger expression would be affected by the differences in victim's position or perpetrator's position, the magnitude of damage, and perpetrator's responsibility. As a result, against the prediction, perpetrators tended to evaluate victim's anger expression as being more justifiable than victims. However, since the magnitude of damage and responsibility had significant influences on justifiability evaluation, and these influences were stronger in perpetrators than in victims, the other hypotheses were supported. Moreover, in the specific situation, it was suggested that expressing anger was evaluated as being more justifiable than suppressing anger.</p>
著者
宮田 千聖 湯川 進太郎
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.1-12, 2013-03-31 (Released:2017-07-30)
参考文献数
20

サイコパス臨床群には感情情報処理に問題があり,中性情報よりも感情情報が記憶されやすい感情バイアスが生じないことが報告されている。本研究では,このサイコパス臨床群と同様の記憶における感情バイアスの低下が,サイコパシー傾向の高い健常者でも生じるという仮説を検討した。一次性・二次性サイコパシー尺度に回答した45名の大学生を対象に,記憶における感情語の影響を測定する感情記憶課題を行った。その結果,先行研究と一致して,高サイコパシー群は低サイコパシー群より感情バイアスが低下していた。さらに,高サイコパシー群に見られた感情バイアスの低下は,ポジティブ感情に顕著に見られた。これらの結果より,サイコパシー特性を持つ健常者でも臨床群と同様に感情情報処理に問題があることが示されただけでなく,サイコパシー特性はポジティブ感情を伴う記憶に影響する可能性があることが示唆された。
著者
緒方 康介
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.37-45, 2009-07-31 (Released:2017-09-30)
参考文献数
22

本研究は,被虐待児のP–Fスタディへの反応を分析することで,虐待の被害児童における攻撃性に関する知見を得ることを目的に実施された。調査対象として,児童相談所のケース記録の中から,P–Fスタディが実施されていた215名分(虐待群65名,比較群150名)の児童のデータが回顧的に抽出された。分析に際しては,まず初めに虐待群の平均値を標準化データにおける理論値(ノルム)と比較し,続いて比較群との群間における差異を検証した。ノルムおよび比較群との差異が両方有意であったものを虐待群の特徴ととらえ,多変量分散分析とボンフェローニの修正を施したt検定の結果から,虐待群ではI-AとGCRが高くE-Aが低いという知見が得られた。この分析結果に対して,自責傾向(I-A)の高さは他責傾向(E-A)を抑制した結果との解釈がなされ,GCRの高さは過剰適応のためであると考えられた。本研究知見と先行研究で得られている知見とを重ね合わせることで,被虐待児は虐待されるかもしれない環境下では攻撃性を抑制しており,虐待の恐怖が取り除かれると攻撃性を爆発させるという心理的な傾向を持つことが示唆された。
著者
鈴木 拓朗
出版者
日本犯罪心理学会
雑誌
犯罪心理学研究 (ISSN:00177547)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.19-33, 2021-01-31 (Released:2021-03-23)
参考文献数
33

The aim of this study was to test the association between Stalking-Related Behavior (SRB), urami and communication skills. As variables related to SRB, three factors were investigated: the frequency of SRB, the persistency of SRB and the variation of types of SRB exhibited. As a variable of motivation for SRB, urami was investigated. As variables of communication skills, six factors were investigated: expressivity, assertiveness, decipherer ability, other acceptance, self-control, and regulation of interpersonal relationships. A web-survey was conducted using 191 male and 197 female participants who have been rejected by someone they have loved (hereby referred to as “the target”) within the last five years. The results of a multiple-group analysis revealed a model that was common in both men and women which showed that poor self-control and other acceptance increased urami in the experience of rejection, and urami increased both the frequency and variation of types of SRB exhibited. Furthermore, the results found that as the level of assertiveness decreased, persistency of SRB increased. Finally, the limitations of this study and future prospects about the research of stalking in Japan was discussed.