著者
市川 敏明
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.506-514, 1970-05

超音波ドップラー胎児診断装置による妊娠早期情報獲得の向上を目的とし, 装置への習熟と装置の改良の2点に着目した. 前者は, 偽陽性0%, 偽陰性0.3%の臨床成績から6ヵ月間, 約1000例を越えれば可能と考えられる. 後者については, 超音波による副作用の問題も考慮して, 妊娠家兎による基礎実験に基づき, 装置特にフィルターとトランスジューサーの改良をおこない, 次の如き結果を得た: I. 妊娠家兎の母体信号は D_7(着床期に相当)より最高周波数値の増加が認められ. 胎児死亡では低下が認められた. II. 家兎胎児信号はD_<14>より出現し, 母体信号とは異なる波形を呈した. III. 従来の装置 (Modd-101) による妊娠早期診断に関しては, 最短陽転例は排卵日から48日目であり, 60%の陽転率になるのは55日目であった. IV. 新装置(トランスジューサーとフィルター部分に改良を加えた Model-201) による最短陽転例は排卵日から38日目であり, 60%の陽転率になるのは51日目であった. 従来の成績との間に有意の差を認めた. なお, 従来の最終月経第1日をとらず, 基礎体温測定により排卵日を基点に検討し, バイブラライザー使用による周波数分析の結果, 新しい装置改良をなし得た.
著者
小林 浩 佐倉 東武 水谷 栄彦
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.p47-52, 1983-01

婦人科領域悪性腫瘍における血清フェリチン測定の診断的意義を検討する目的で,血清フュリチン濃度,正常組織および癌組織,さらに異所性絨毛癌培養細胞(SCH)内フェリチン濃度を比較検討し,以下の結果を得た. 1)血清フェリチン値は,成人男性120.4±80.3ng/mlに対し,成人女性70.3±29.8ng/mlと有意差を認めた(p<0.01). 2)良性疾患では,鉄欠乏性貧血14.3±2.8ng/ml,子宮筋腫16.0±3.8ng/m1と有意に低値を示し(p<0.01),急性肝炎280.O±25.3ng/mlは有意に高値を示した(p<0.01). 3)悪性腫瘍では,卵巣腺癌335.3±328.1ng/ml,胃癌原発Krukenberg腫瘍839.1±358.2ng/ml,子宮頚部扁平上皮癌725.4±310.4ng/ml,急性骨髄性白血病1090.0±485,1ng/mlおよび原発性肝癌416.2±93.3ng/mlにおいて有意に高値を示した(p<0.01). 4)同時に測定した腫瘍マーカー,α-fetoprotein(AFP),carcinoembryonic antigen(CEA)およびplacental-leucine aminopeptidase(P-LAP)との相関係数はそれぞれ,0.213,0.465および0.263であり,相関関係は認められなかった. 5)正常ヒト成人におけるフェリチンの臓器分布に関しては,脾および腎臓に高濃度含まれ,脳・膵や肝臓など多数の臓器にほぼ均等な濃度で存在し,最も低い臓器は胎盤と心臓であった. 6)7ヵ月胎児各臓器フェリチン濃度は,腎・肺や腸に高く,心臓・胃に低いが,すべてその濃度は胎盤の1/2以下の低濃度であった. 7)卵巣癌組織(原発性,転移性)フェリチン濃度は,正常卵巣組織の約1/3の濃度を示し,また培養細胞SCHではさらにその濃度は低く,癌組織フェリチン濃度の1/3~1/4の値を示した.卵巣癌組織と胎盤組織のフェリチン濃度はほぼ一致した.
著者
佐治 文隆 中室 嘉郎 小川 誠 若尾 豊一 根来 孝夫 都竹 理
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.28, no.3, pp.p227-235, 1976-03

胎児ならびに胎盤には父親由来の移植抗原(paternal histocompatibility antigen)が存在することからこれらは母体にとつては同種移植片ということが出来る.それにもかかわらず胎児は拒絶されることなく妊娠が維持されるように思われる.この問題について我々はマウスを用いて実験的に解明することを試みた.すなわちC3H/Heマウスに発生したmyelomaはC3H/Heの移植抗原を多量に含んでいることに着目し,このmyelomaをC57BL/6Jメスマウスに移植することによつて強力かつ効果的に免疫した後C3H/Heオスマウスと交尾させた.そして妊娠,分娩,流早産率を調べると共に妊娠の進行状態を観察し,流早産発症の時期を検討した.更に妊娠によつて母体の免疫能がどの程度変化するか測定を行ない,以下の結果を得た. (1) paternal histocompatibility antigenで前以つて強力に免疫されたメスマウスでは胎仔の一部が流早産を起したが残りの胎仔はまつたく正常の妊娠経過をとつた. (2) 流早産は着床以後の段階で起つた. (3) paternal histocompatibility antigenに対する母体の免疫能は妊娠中多少の低下を示した. (4) 妊娠中の母体免疫能の低下の原因について母体血清が大きく関与しており,母体血清の影響を中心とする母体免疫能の低下が妊娠維持に重要であることが判明した. (5) しかしpaternal antigenに対して強力に免疫された同一母体において流早産を起した胎仔もあれば,まつたく正常の妊娠経過をたどつた胎仔もあることから母体免疫能の低下のみならず個々の胎盤のimmunologic barrierとしての働きが妊娠維持に大きく貢献しているものと思われる.
著者
永山,祥代
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.54, no.9, 2002-09-01

The number of pregnant women with measles has increased in recent years because of the low rates of vaccination or vaccine failure. Between 1997 and 2001, 5 pregnant and 3 puerperal women with measles visited Yame General Hospital.2 patients had pharyngitis, laryngitis and otitis media. 4 had high levels of liver enzymes. 2 had preterm deliveries. One newborn was diagnosed with congenital measles. One puerperal woman with measles communicated the disease to her infant. This infant contracted measles encephalitis two months after delivery. In order to avoid the incidence of various complications, such patiens should be carefully observed.
著者
長内,國臣
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.1, no.6, 1949-12-01
著者
秦 利之 秦 幸吉 村尾 文規 北尾 学
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科學會雜誌
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.678-684, 1986

胎児心エコー図、胎児心電図、超音波パルスドップラー法を用い、先天性心疾患及び胎児不整脈の出生前診断を行い、その周産期管理及び予後について検討した。昭和55年4月より昭和60年3月までに、出生前診断が可能であつた症例は、上室性期外収縮(Premature atrial contraction;PAC)5例、PAC及びblockedPAC2例、PAC及び心室性期外収縮(Premature ventricular Contraction ; PVC)1例、PAC、blocked PAC及びPV01例洞性徐脈1例、完全房室ブ弓ツク1例、PAC及びPVCを伴つた心房中隔欠損1例、PAC及びPVCを伴つた胎児水腎症1例、大腸拡張症を伴つた複雑心奇形1例、食道閉鎖・鎖肛を伴つた単心房・単心室1例、単一膀帯動脈及びehcephaloceleを伴つた複雑心奇形1例、糖尿病妊婦に於けるAsymmetrical septalhypertrophy 1例であつた。15例の胎児不整脈のうち9例が生後1ヵ月以内に自然消失した。生後1ヵ月以上持続した胎児不整脈は、洞性徐脈、完全房室ブロック、PAC及びPVCを伴つた心房中隔欠損の3例であつた。完全房室ブロックの1例は、生後48日目にpacemakerを植え込み、順調に発育している。胎児不整脈の3例に於いてCoenzyme Q10による胎内治療を試み、抗不整脈作用を認めた。19例中、複雑心奇形を伴つた3例が生後死亡した。以上のように、胎児心奇形及び不整脈の出生前診断に、胎児心エコー図、胎児心電図、超音波パルスドップラー法を用いることによりその診断能力が向上し∫周産期管理を容易に行い得ることが示された。
著者
香山 浩二 伊熊 健一郎 窪田 耕三 鎌田 敏雄 礒島 晋三
出版者
日本産科婦人科学会
雑誌
日本産科婦人科学会雑誌 (ISSN:03009165)
巻号頁・発行日
vol.31, no.11, pp.p1906-1912, 1979-11

血中抗精子抗体の検出法として多数の方法が考案され臨床的にも応用されているが, 従来の方法は大部分が定性又は半定量の域を出るものではなかった. 我々が最初に報告した不妊症婦人血中に特異的に検出される補体依存性精子不動化抗体の検出法すなわち精子不動化試験法は抗体を保有しない対照血清中の精子運動率(C%)を被検血清中の精子運動率(T%)で除した値, すなわちC/Tを精子不動化値(SIV値)とし, これが2以上を示すものを陽性としたが, 大きい値を示す程精子不動化作用が強いと判定する半定量的測定法であり, 精子不動化作用の強い血清においては, SIV値の差は不正確になり, 又無限大(∞)も出現して抗体価の正確な測定ができなかった. そこで精子不動化試験の定量化を試みたが, 方法としては被検血清を倍数希釈し, 各希釈段階における精子不動化率 (C-T/C×100) を従来の精子不動化試験法によつて算定しこの精子不動化率を血清希釈倍数を横軸とした半対数表に図示し, ちょうど50%精子不動化率を示す血清希釈倍数値 (SI_<50>値) を求める方法である. 本法によると従来の精子不動化試験による不正確なSIV高値及至は∞を示す血清においてもSI_<50>値を求めることによつて定量が可能であり, 又標準精子不動化抗体含有血清を設定してこれを定量的測定には必ず標準血清として加え, そのSI_<50>値を求めることにより, 各測定毎の反応系の違いによる測定値変動を補正することが出来る. この定量的精子不動化試験を用いて血中精子不動化抗体保有不妊婦人の血中抗体価を長期間に亘り, 経過観察してみると従来考えられていたように血中精子不動化抗体の値はけつして一定ではなく, かなり強い波状曲線を示して動揺している新事実が観察された.